契約者達と王の道への一歩
無駄に疲労した大捕物が終わり俺達が昼食を食べていると町が騒がしくなった。
「如何やらリグレス公爵達が到着するみたいですわ」
「早かったな。昼食が食べ終って暫くしてからだと思っていた」
「私が空から様子を見てきますわ」
フレイが窓から飛んで行き、俺が此れからの事を考え込んでいると、香織が躊躇しながら声を掛けてきた。
「ねえ、お兄ちゃん聞きたいんだけど生き延びた五大貴族が全員揃う以上お兄ちゃんの此れからも話すのよね」
俺を窺う香織の視線に俺は香織の聞きたい事を察した。
「ああそうなるだろうな。契約石の事や巨砲の事、色々な奴らが行っているおかしな研究とミネアが残した言葉にギルドの疑念もある。他にも色々あるが、どれも俺一人で解決出来る事じゃないから、如何しても組織としての力が必要になる。何より今この時も第二第三のアラインの様な存在が生み出されているのならこの手に剣を取ってでも止めさせるとアラインを斬って心底思ったよ。だから俺は皆が俺の考えを受け入れてくれるなら王になる」
俺が決意を込めた視線で香織を見ると、香織は一度下を向いて考え込んでから落ち着いた声を出した。
「お兄ちゃんの気持ちは分かったわ。私もミネアの事があったし、陰でコソコソしている奴らには言いたい事があるわ」
「・・・・良いのか・・俺は王になったら状況しだいでは人を殺す可能性が高いぞ」
「・・お兄ちゃん、私もすでにミネアを殺したわ。殺しに慣れる心算はないけど、此れから長い時をファーレノールで過ごす以上避けては通れないわ。私も覚悟を決めたから此れから行われる戦争でお兄ちゃんが何をしても驚かないわ」
香織にジッと見つめられて俺は自分の此れからの行動が既に察されている事に気づかされた。
「・・・・・すまない」
「お兄ちゃんは一人で無理をしなければ良いの。王になったお兄ちゃんには重責が圧し掛かるけど私が支えて癒やしてあげるから辛くなったらすぐに言ってね」
香織の何時になく大人っぽい慈愛の籠った笑みに見とれていると、横から白い視線が突き刺さった。
「ねえ二人とも僕が居ることを忘れていないよね・・・・」
「・・・勿論忘れていないぞシグルト」
「間があったのが怪しいんだけど不問にしてあげるんだ。その代わりに一つ言わせて貰うんだ。王になるのは構わないけどなるべく自分で人を殺すのは止めるんだ。如何しても人を殺す必要があるのなら僕達がやるんだ」
シグルトの重圧のある視線に気圧されながらも俺は首を横に振って告げた。
「自分の手を汚さないでシグルト達や他人に押し付ける心算は絶対にない」
「家に帰る間は僕の言う事を聞いて欲しいんだ。此れは二人の親に会う僕達の心の負担の為でもあるんだ。其れに二人が人を殺すのと龍である僕が人を殺すのでは心理的負担が違うんだ。酷い言い方だけど龍にとっては人間も数多くいる動物の一つで馬、豚、鳥を殺すのよりは話せる分だけ殺し難いけど大して変わらないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
シグルトのあまりの言葉に俺も香織も絶句して冷や汗が流れるのが止められ無かった。
「・・・・・シグルト・・・一応確かめておくが俺を見て美味しそうだとか思ったりしないよな」
「初めに会った時に僕は人間を食べたりしないと言ったはずなんだ」
ムッとした感じのシグルトが睨んだ後で拗ねた様にプイッと顔を背けた。
「全く酷い人ですわねと言いたい所ですが、五幻種の間では人間は不味い上に食中りを起こして更に呪われるので餓死しても食べるなと言われていますわ。まあ本当か如何かは知りませんが・・・」
「・・・・・・・なんかヤバい話になって来たので話を変えるわよ。そうねフレイ如何だった」
「軍勢が見えただけで実際に町に到着するのは、まだ半クーラ以上かかりますわ。それと王になる話は魔法で聞いていましたが、私は此れからの事を考えると良い選択だと思いますわ。前から私は二人はファーレノールで確固とした居場所を作るべきだと思っていましたの。でも誰かの下に付くと力を利用されてしまいますから言わなかったのですわ」
「うん、確かに居場所を作るのは賛成なんだ。二人は特殊だから身分もあやふやだし、本来あるはずの人とのつながりもないからフラフラしないで此れから確りした物を構築するべきなんだ」
シグルト達の言葉に頷いた俺は覚悟を決めて意識的に不敵な笑みを浮かべて告げた。
「此れからヤバくなりそうだし安全な強国を作る必要があるよな」
「そうだねお兄ちゃん。契約者が王の新しい国が生まれたらファーレノール中が驚くし、今まで陰でコソコソしていた奴らが慌てるわよ」
「うん、必ずチョッカイをかけてくるはずなんだ」
「ならその時に返り討ちにしてしまいましょう」
皆で頷き合って意思を確認した俺は皆と一緒なら此れからの苦難も乗り越えられそうだと思っていた。
今俺はリグレス公爵、バルトラント卿、メルクラント卿、ガルトラント卿、そしてミルベルト卿の代理のロベルトを前にして自分が要請を受け入れて王になる事を告げていた。
「・・・受け入れてくれた事を感謝しよう。正直戦いが終わるまで返事は貰え無いと思っていた。ただ一つ言って置くがロベールの言う事でも全てをすぐに行うのは難しいぞ」
「其処ら辺は理解しています。俺もまずは国力の立て直しから始める心算です。ただ俺達の行動は陰にいる奴らにとって目障りになるから確実に手を出してくるでしょう」
「うむ、だが其れは儂も望む所だ。此処までやられてやられっぱなしなどありえんわ」
「私は新しい国に仕える事は出来そうにないが、奴らと戦う事には賛成だ」
バルトラント卿とメルクラント卿が同意の声を上げる中、ガルトラント卿はジッと考え込んでいた。
「やはり俺が王になる事には反対ですか?」
「いや、そうではない。此の話し合いが始まる前にリグレス達と話したのだが、その時に短時間の間によくも此処まで酷い状態になった物だと思ってな。そして今新しい国の話をし始めて儂らが治め守ってきたはずの赤帝国は此処まで脆い物だったのかと考え、何とも言えない気分になってしまった」
「・・・建国から時が経ち、皇族も貴族も一枚岩とは言えなくなってしまったのが原因だろう」
「其れだけではあるまい。国教の神官共から五大神官が生まれて権力を行使し始めたのが致命的だったのだ。其れから権力闘争が激しくなったと親からため息と共に聞かされたぞ」
「メルクラントは魔狼の事があってから其方ばかりに目を向けてしまっていたな」
大貴族の皆がそれぞれ失われる赤帝国に思いを馳せている時、ロベルトが小声で話し掛けて来た。
「なあ、なんで俺は此処に居るんだ?親父さんの代理とは聞いているが場違いな気がしているんだが」
「いや場違いじゃないぞ。俺が王になる国にはサザトラントを治める者がいない。そして生きているかも知れない次男に継がせる心算は微塵もないから後は分かるだろう」
「おいおいマジかよ?親父さんが納得するか?」
「ハッキリ言うと二つの問題があって其れを何とか出来る家はミルベルト家しか俺は知らないんだ。一つは俺が信頼出来る家である事、もう一つはお金が有る事だ。情けない話だがサザトラントは荒廃しているから復興には時間とお金がかかるんだ」
「おい、いくら何でも無理だろ。お金があると言っても復興に使える程じゃないぞ」
「いや、俺がクリステアさんに頼んだ魔道具が完成したら売れると思うんだ。その売り上げを入れれば何とかなるはずだ」
「・・・親父さんの説得は?俺は嫌だぞ」
「クリステアさんやアリステアさんを先に説得してから押し切ろうと考えている。ミルベルト卿には悪いが信頼出来る者が上に立って協力して貰え無いと此れから先の未来はヤバそうなんだ。そう言う意味ではロベルトにも期待しているからな」
俺の言葉にロベルトは頭が痛いといった風に無言で頭を振っていたが、その表情は否定的な物ではなかった。
「ロベール、王になると言った時に明日の戦いの指揮を執ると言っていたが説明してくれるか」
何時の間にか過去の話から今の話に戻っていた皆に俺は覚悟を決めて話し始めた。
「まず許されるのなら俺が王になると言う話を夕飯の時に兵士達に話しておきたいのです」
「戦いの前に話すと言うのか?」
「きちんと話して皆が契約者の俺に命を預ける事が出来るのか確かめたいのと、俺が全てを背負って命令出来るのか確かめたいのです」
「気持ちは分からなくもないが儂としては戦いの前に皆を混乱させる可能性は無視出来ないな」
「私は良いと思う。何故なら此処で王になる者として指揮を執って商連合国と戦えば実績になるし、他国や他の貴族に向けた牽制にもなるだろう」
「成る程、言われてみればよい案かも知れないな。メイベル程ではないが皇族の血を継ぐ者達が他にもいるからその者達が後から出てくるかも知れないしな」
「そう言えば我がガルトラントにも一人いたな。もっとも居るのは此の国の危機に姿も見せず協力もしないロクデナシの男だがな」
「ああ、あの男か・・・父親は真面だったんだがな・・・」
「血を継いだ息子の方はその事を誇るばかりの無能と言われていたな」
男の事を知っている者達が苦笑いを浮かべて頷き合うと話を戻した。
「では結論として皆に話す事で良いかな」
「うむ、儂も皆の意見を聞いて話す方が良いと考え直した」
バルクラント卿が同意したので満場一致で今日の夕飯を食べる前に皆に話す事に決定した。俺は此れで一先ず解散になると思ったのだがガルトラント卿が次の話をし始めた。
「仮とは言え初めて皆に王になる事を話すのなら夕食は其れなりの物を出さないといけないな」
「ムッそれは確かに・・・」
「そうだな貧相な食糧だと祝えないぞ」
「其れはそうだがガルーンに来る途中で魚を食べたから余程の物でないと見劣りするだろ」
「なに・・・魚だと?」
ロベルトの言葉にガルトラント卿が驚きの声を上げた。
「カリーナ殿達が獲って来たのだ。ロベールが生で食べるのを見て、私も好奇心が抑えられずに真っ先に食べさせて貰ったよ」
「・・・・・生だと・・・正気かリグレス」
「初めての体験だったが美味しかったぞ。皆もそう思うだろう」
リグレス公爵は楽しそうに話しかけたが、皆は引きつった顔をして答え様としなかった。
「皆も食べたと言うのか・・・まあ良い今は夕飯の食材を如何するかだ」
「その事なのですがカリーナとフレイとルードルが出かけたので獲って来ると思います」
「何・・それは期待出来そうだな。今度は何が食べられるのか今から楽しみだ。出来れば生魚を超える驚きに溢れた物が良いな」
リグレス公爵が嬉しそうな顔をして告げた言葉に聞いていた皆は嫌そうな顔をして首を振っていた。そんな中で一人だけ生魚を食べた事の無いガルトラント卿が微妙な雰囲気を変える為に話を変えた。
「よし食材が問題無いなら儂は酒の手配をしよう。我がガルトラントの名酒を振る舞わせて貰おう」
「ほう、気前が良いな。ガルトラント卿の秘蔵の酒が飲めるとは思わなかった」
「おお、有名な秘蔵酒か・・・此れは期待出来るな」
「メイベルに贈られた物を飲んだ事があるが、あれは美味しかったな」
「待て待て、名酒であって秘蔵酒ではないぞ。全く勝手な事を言うな」
ガルトラント卿が慌てた様子で間違いを正すと、勝手に秘蔵酒を飲めると考えてぬか喜びをする事になった皆は不満を漏らしていた。
「全く景気付に一本くらいなら良いだろうに・・・・」
「確かに滅多に飲めない物だからな。期待してしまった」
「ロベールも飲んでみたくはないか?」
「お三方は諦めてください。其れとロベールは酒は飲めませんよ」
ロベルトの言葉にリグレス公爵達は意表を突かれた様子で俺に視線が集まった。
「俺の生まれた所では二十歳になるまで飲んではいけないと決まっているのです。だから俺もカリーナも酒は飲めません」
「何と・・そうなのか・・・其れではロベールは何を飲んでいたのだ?」
「お茶やジュースですね」
「お茶は分かるがジュースとはどんなものだ?」
「そうですね一度飲んでみますか」
俺がそう言って空間からコップとオレンジジュースを取り出して配ると、皆はマジマジと見つめてから恐る恐る飲み始めた。何時もの如く真っ先に飲んだリグレス公爵が驚きの声を出した。
「何と・・・此れは何かの果汁の様だが甘くてミーミルが喜びそうな味だな。ロベール今度ミーミルにも飲ませてやってはくれないか?」
「分かりました。戦いが終わってミーミルちゃんに会った時に新しいお菓子と共に振る舞いましょう」
「新しいお菓子か・・・それも楽しみだな。期待させて貰おう」
和やかに話す俺達の横でジュースを厳しい目で見つめる者達が口を開いた。
「・・・・前から思ってはいたのだが、話す心算は無いか。このジュースといい、お前は何所で生まれたのだ。儂が知る限りでは二十になるまで酒が飲めないなどと決まっている場所は無い」
「全てを話せとは言わないが、話せる所だけでも話しては貰え無いだろうか。私も自らの最後の仕事になるだろう、王にする人間の事はある程度知っておきたいのだ」
深刻な顔で話すバルクラント卿とメルクラント卿を前にして俺は如何答えるか考え込んでしまった。そんな俺にロベルトがぼかして話せば良いと思うと小声で囁いた。ロベルトに頷き返して俺は少しだけ話す事にした。
「シグルトの転移魔法は色々な場所に行く事が出来ます。そして行ける場所の中には皆が知らない遥か彼方の場所も存在します。俺の親達が住んでいるのは其処です。其処はシグルトの転移魔法以外では空を飛んでも行く事は出来ません」
俺の言葉に皆が緊張して押し黙る中、俺は慎重に話を続けた。
「其処は色々な食材がある場所で、そのジュースにしても子供が普通に毎日飲んでいる様な場所です。そして戦争なども無く、危険な動物なども排除されたかなり安全な場所でもあります」
「聞いていると現実にある場所の様には聞こえんな・・・」
リグレス公爵の呟きに俺は心の中で異世界だからな・・と思い、苦笑いを返してから話を続けた。
「俺が此処に居るのはシグルトが契約石の騒動で襲われて、俺の家に偶然転移してきて必要に迫られて契約したからです。向こうで此処の事を知っているのは俺の両親だけで、此れからも増やす心算は今の所ありません。そして両親が死んだら行き来する事も止める心算です。王になると決めた以上この地で生涯を終える覚悟をしています」
「其方と此方の交流はあり得ないのか?」
「する心算も、させる心算もありません。俺の生まれた所は安定していますから、此方のごたごたに巻き込みたくはありません」
俺が力を込めて言った言葉にバルクラント卿が気圧されると、今度はメルクラント卿が重々しい声を出した。
「ロベールが隠している事はこの国の民に問題があると思うか?」
「・・・今は家に帰る必要があるので絶対とは言えませんが、俺が家に帰る必要が無くなれば絶対に問題無いと言えると思います。其れと俺には個人的な目的がありますが、その事で問題が起きたらカリーナ達と共に即座に対処しますから安心してください」
「・・・・・その言葉を信じて、私はこれ以上聞かない事にしよう」
「ありがとうございます。今俺が話せるのは此れ位です。何か質問がありますか?」
「此処で話した事は他言無用と言う事で良いのかな」
「はい、見えない敵がどの程度の力を持っているのか分かりませんから、今の話の扱いは慎重にして下さい。でもメイベル様や次期当主には話しても構いません」
皆が俺の言葉に頷くのを見届けた俺は此の場を去る事にした。
ロベールが去るのを見届けた私達は緊張を解くと話を始めた。
「色々興味深い話しだったな」
「儂は個人的な目的とやらが気になったぞ」
「・・・・確かに興味はあるが周りに迷惑をかける様な事にはならないだろう」
「皆はロベールに目を向けている様だが儂は其処にいるロベルトが平然としている事の方が気になるな」
ガルトラント卿の言葉で皆の視線が集まったロベルトはギョッとして顔を強張らせていた。
「・・・そう言えば確かに質問もしなかったな。もしかしてロベルトは先に聞いていたのか?」
「・・・・・・・・・・」
「無言は肯定になるぞ」
ロベルトは皆の前でため息を吐くと話し始めた。
「前に家に帰る必要があるからその間に起きた事を報告してほしいと言われたんですよ。その時にある程度の事情を聞きました」
「何か話せる事は無いかね」
「喋らないと約束したのでありませんよ。俺は親父さんとの事で借りが有るので約束は破れません」
「ミルベルト卿か・・・・同じ娘を持つ親として話しを聞いておくのが良いかもな」
「セルフィーヌがベルスに好意を寄せていると聞いたな」
「ああ、そう言えばリグレス、ベルスが罪を犯したと言っていたのだが何か知らないか」
「知っている。話しておこう」
私が話をするとベルグスは顔を顰めた上に腕を組んで黙り込んでしまった。其のまま考え込みながら唸り声を上げるベルグスはかなり怖い物があり、私以外の皆は戦々恐々と見守っていた。
「ベルグス、事情が事情だし罪を犯したとはいえ悪い男ではないぞ。其れに騙されてから努力した所為で視野も広がり、物事を柔軟に考える事が出来ている様に感じている。使者にしたのもロベールの下にいるのと其れが理由だ。此れからは固定観念が強すぎると不味い時代になりそうだしな」
「言いたい事は理解出来るが感情が納得出来んわ。ミルベルト卿は目の前の男をどうやって認めたのだろうな・・・」
無自覚なのだろうがベルグスはロベルトの事を殺気混じりの視線で睨みつけていた。ベルグスの全身から黒い物が見える様に感じられた私が視線を逸らすと、ロベルトが勘弁してくれと言いたそうな表情でやっと親父さんが終わったと思ったのにまたかよと呟くのが聞こえてきた。
「話は終わりで良いよな?俺は行かせて貰うぞ」
ロベルトが逃げる様に去って行くのを見て私達もそっと席を立ちこの場を後にした。
「さてと敵の様子は如何かな?」
「主よ。動く様子は無いぞ。偵察をしている所を見ると向こうも如何やら此方の様子を探っているみたいだ」
ルードルの言うとおり敵は天幕を張ったままで動く様子は見られず、更に一部の兵士が不安そうにオドオドしているのも見えて私の目にもとても今日戦うとは思えなかった。
「まあ妥当な判断でしょうね。敵にして見れば先の攻撃で消し飛んでいるはずのガルーンが、被害も無く健在なのですから混乱と驚愕で今日は動けないのでしょう」
「・・・そうね。其れなら良いんだけど・・・・・あっ、おもしろい話が聞けたわ。如何やら敵は攻撃を手加減していたから通用しなかったと思っているみたいだわ」
「・・・・あらまあ・・・確かに次は本気で撃つから安心する様にと言っていますわ」
「如何やら敵が動くのは明日の朝が有力みたいね。知りたい事は知れたから見つからない内に帰りましょうか」
「其れが良いだろう。ロベールにも偵察するなどとは言ってこなかったしな」
「うん、お兄ちゃんに言った通り夕飯の食材を確り確保しないといけないわ。其れに今日はお兄ちゃんが皆に伝えるかも知れないもの」
「伝えてしまったら後戻りは出来ないぞ。主は本当にロベールが王になる事に後悔は無いのか?」
「・・・・無いと言ったら嘘になるわね・・・お兄ちゃんがまた重荷を背負う事になるもの。でもお兄ちゃんが決めたのなら支えるだけだわ。そして出来ればルードルにも手を貸して欲しいと思っているわ」
「そうか・・・・・主が其れで良いなら僕は協力しよう」
「ありがとうルードル」
私が頭を撫でるとルードルの尻尾が振られていた。無意識の行動みたいなので私は心の中で笑うに留めて移動を開始した。
今俺は騎士や兵士の前にリグレス公爵達と一緒に立っていた。リグレス公爵達を後ろに置いて前に出た俺に皆の視線が集まった。大勢の視線に気圧されそうになる自分を奮い立たせて大声を上げた。
「皆聞いて欲しい。敵は如何やら明日まで動かないみたいだ。俺達も今日此れから休んで行軍疲れをとり、明日の朝から決戦に挑む。敵の巨砲は俺達が対処するから安心して、皆は敵の本隊を潰す事だけに集中して欲しい」
「オオーーーー、目に物見せてやるぜーーー」
「そうだ、帝都の借りをかえしてやるぞーーーー」
皆が決意の籠った大声を上げるのを耳に入れながら、俺は今日一番の本題を話す為に緊張して強張った口を開いた。
「皆に聞いて欲しい重大な発表がある。明日の総指揮は俺が執る事になったが、此れは今までの様に委任を受けて作戦の指揮を執ると言う訳じゃ無い。俺はリグレス公爵達の王になって欲しいと言う要請を受け入れて、王になる者として全ての責任を背負って指揮を執る心算だ」
俺が言った王になると言う言葉に皆からどよめきが上がった。皆の顔には驚愕、疑念、不安、喜び、感嘆、興味など様々な反応が見え、其れを見た俺は否定的なものだけでは無かった事に一先ずの安堵を覚えていた。
「皆此処に居るロベールが皇帝では無く王になると言ったのを聞いて不安に思った者もいるだろう。だが良く考えて欲しい今の赤帝国を此のまま存続させる意味があるのかを・・・」
「リグレスの言う事の意味は皆も知っているはずだ。今の赤帝国は帝都を失った上に国教も地に落ちている」
「其れだけでも問題だが、なお悪いのは契約石の為に龍や魔狼を襲って恨みを買っている所だ」
「ガルトラントに居る皆は分かっていると思うが、我がガルトラント軍の主力は国境の砦と共に壊滅した。商連合国の力は強大で対抗手段は契約者の力しかないのが現実だ」
リグレス公爵達が代わる代わる話し掛ける言葉に皆は静かになっていき、真剣な顔をして話を聞いていた。
「今はまだ皆には話せないが他にも沢山の問題を抱えたこの国は、残念ながらもう私達の力だけでは支えられない状態で、もはや国が無くなるのは避けられない事だと悟らざるを得なかった。そこで我らは話し合い、国が無くなろうとも続く人々の生活の為にロベールに先の要請をする事にした」
「帝都の時の事を知っている皆なら分かっているだろうが、ロベールがいるおかげで龍の援助が得られている。だが其れだけでなく炎鳥も新たに手を貸し始めているそうだ」
「魔狼との争いも無くなる可能性がある」
「勿論良い事ばかりではないだろうが我らはロベールに此の国の人々の未来をかける事にした」
四人が俺を促したので今一歩前に出て皆に話しかけた。
「俺が皆と作ろうと思っている新国家は子供が親にあれ食べたい此れが欲しいと言ったら、親が仕方ないなと言いながらも子供に買ってやれるくらいの余裕があり、子供が病気や怪我をしたら普通に治療が受けられる国を目指す心算だ。だが其れを行うには一つだけ絶対に必要な物がある」
シーンと静まり返った空間に俺の声が響き渡っていた。俺は力を込めて次の言葉を声にした。
「それは皆の信頼だ。俺は契約者で寿命も違うし、持っている力の強さも違う。昔の契約者の事も聞いて知っている。俺は明日、敵に向かって今まで自分でも使った事の無い大きな力を使う心算だ。その力は皆を恐怖させるだろう。俺を化け物だと思うだろう。だから今此処で一つの事を誓おうと思う」
俺は香織に目配せをして炎を出して貰った。
「嘘の付けない此の炎に誓おう。俺は自分の味方に契約者としての強大な力を振るって傷つけたりはしない。王になる者としてどんな困難にあっても諦めず、先に言った様な国にする努力をし続けよう。だから明日の戦いでは俺を信じて命を預けて欲しい。其れが嫌な者は今立ち去って欲しい」
俺は六半クーラ程待ったが誰も立ち去らない事に驚いていた。正直言って一割では済まない人が立ち去るかも知れないと考えていて、此の結果に涙が零れそうになってしまった。
「・・・・良いのか?別に立ち去っても罪には問われないぞ」
今一度問うても立ち去る者がいない事を目にした俺は皆に一礼した後告げた。
「では今よりその命を預からせて貰う。皆で明日の戦いに勝利して新たな国の未来を己が手で作り出そう」
「おおおおおおおーーーーーーー」
「やってやるぜーーーーー」
「俺達の力を敵に見せてやるぞ」
「新しい国・・・・期待させて貰うからなーーーー」
皆の歓声や叫び声が耳に痛い程響きわたった。
「皆此のまま移動して夕食に移って貰う。今日の夕食の目玉は鳥のから揚げと大人は名酒で子供はジュースだ。後は果実が数種類ある。後今日は町の人達も一緒に食べる用意がされている。一応言っておくが子供が優先だから酒を飲んで酔っ払って子供と果実などを取り合ったりするなよ」
「ははは、そんな奴はしばき倒してやりますよ」
「任せてください。御手を煩わせる前に制圧します」
一部の顔見知りの兵士達が俺に笑顔で声を掛けてきたので任せる事にした俺は香織達と移動して共に夕食を食べ始めた。
「お兄ちゃん上手く行って良かったね」
「まあ、今の所は順調だな。だが明日俺が力を振るう時が真に試される時だから気は抜けないな」
「もう、お兄ちゃんは心配し過ぎだよ。明日の事は明日考えればいいんだよ」
「・・・そうだな。よし食べよう。おおお、此のから揚げ美味しいな。しかも七種類の味付けが有るんだな。此れはカレー味か?こっちは・・・・・・」
俺が気分転換に食事に集中していると、子供達が騒ぐ声が遠くから聞こえてきた。如何やら子供達に今日の夕食は大好評だったみたいだ。俺が笑みを浮かべているとシグルトが心配そうに話し掛けてきた。
「ねえ、ロベール聞く機会が無かったから其のままになっていたけど体は大丈夫なのかな?」
「ああ、もう問題ないぞ」
「なら上で何があったのか聞きたいんだ」
顔を歪めた俺は自分の中で考えを整理しながら答えた。
「宇宙に転移しようとしたんだが、殴られた様な衝撃を受けて、その所為で転移が止まったんだと思う。その後光球が爆発したんだけど、一定以上、上に行くと光が忽然と消えたのが見えたな。ハッキリ言って俺はその光景を見て、其処から先は何も存在が許されていない様に感じてとても嫌な気持ちになった。・・・・今言える確かな事は宇宙には出れないと言う事と月には何かあるかも知れないと言う事だな」
俺が頭上にある月を見上げて睨んでいると、香織も月を見て何とも言えない表情で俺だけに聞こえる声で語りかけて来た。
「ヤッパリ月の色が違う上に沢山有るのは違和感があるわね。ましてお兄ちゃんの話を聞いた後だと不気味にしか見えないわ」
「月には神がいるそうだが本当か如何か分からなくなってきたな」
「其れは如何言う意味だ。魔狼では儀式で月に向かって吠えたりするので一応神聖な物だと言われている」
「俺はシグルトに話を聞いた時に神はいないと考えていたんだ。居たとしても少なくとも戦ったする事になるとは考えていなかった。でも今回転移した事で神か如何かは知らないが何かあるとは感じた。其れも凄く嫌な感じを受けた」
「ロベールは戦いになると思っているんだね」
「・・・・分からない。抑々相手が何なのか分からないし、俺の感覚だけで言っているからな。ただ今考えてみて精神が傷つけられたのは自然現象ではないと感じただけだ。兎に角、今言えるのは上には絶対行くなとしか言えない」
俺が何時になく厳しい顔をして言ったので、皆は息を呑んで月を見つめていた。
「あの、お話し中すいませんが私の目の事でご相談したいのですが」
俺は突然話しかけてきたフェルミーに戸惑いながら返事をした。
「目ですか?まずは説明してください」
「私の目は魔力が見えます。今も貴男の魔力が見えていて其の魔力の色から貴男が困惑しているのが分かります」
「・・・・それは魔力の色で感情が分かると言う事ですか?」
「はい、今貴男が私を警戒しているのも分かります」
落ち込んだ顔を隠せていないフェルミーさんを見てハッとして頭を下げた。
「・・・・すいません。嫌な思いをさせた様です。折角勇気を出して話してくれたのに悪い事をしました」
「いえ、其れでお願いがあるんです。ミーミルちゃんの話を聞いて、私もこの目の力を制御出来ないかと思ったのです」
「成る程ちょっと見せてもらいますね」
俺が素早く魔法で調べて見ると、確かに普通の目と違って魔力を取り込んでいるのが分かった。俺は試しに魔力を取り込む部分に魔力を遮断するコンタクトの様な物を想像して魔法を使ってみた。
「如何です見えますか?」
「えええええ、嘘見えない。如何なっているの?」
フェルミーの叫びに皆が注目していたが中でもタマミズキの視線は怖い程に真剣だった。
「今は俺の魔法で見えない様に遮断しているだけです。魔力を見えなくするだけで良いのなら、俺がやった事と同じ機能を持った眼鏡を作るのが一番簡単だと思います」
「あの、眼鏡ってなんですか?」
「・・・・・・・・カリーナ」
「お兄ちゃん私は見た事無いよ」
「はあ、そうですね魔道具だと考えてください」
「魔道具・・・あの・・・その・・・」
「欲しいのなら今度リラクトンに居る知り合いに作って貰いますよ。ただし依頼するのは戦いが終わって落ち着いてからになりますし、料金も頂く事になります」
「はい、其れで良いです。お願い出来ますか?」
「確かに承りました」
長年の悩みが解決しそうな所為か、無邪気に笑いかけてくるフェルミーさんに苦笑していた俺はタマミズキが厳しい視線で睨んでいる事に気づけなかった。
土日の執筆時間が分からないので次話の投稿は27日頃になると思われます。申し訳ありませんがご了承ください。




