表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/194

契約者達とそれぞれの行動

 その頃ロベール達と別れたリグレス公爵達は野営を行っていた。

 「この戦闘の痕跡はロベール達の物だから気にしなくて良いわ。天狐の私が安全を保障します」

 「そうか・・・なら夜も遅いし此のまま野営を続けよう」

 「自分で言うのもなんだけど人外の私の言葉をアッサリ信用して良いの?」

 「ははは、私達は嘘が分かるロベール達を介して繋がっている。だからお互いに何かをしたらすぐにばれるだろう」

 私の言葉にリグレス公爵が肩を竦めて楽しそうに笑っていた。憮然とした私が如何切り返そうかと考えていた時、メルフェリが神妙な面持ちで話しかけてきた。

 「此処にいた者達はギルドの手の者で多分私達を狙っていたのだと思います」

 「ふむ、何故そう思うのだ?破壊の痕跡だけで死体などの残された物は何も無いと聞いているぞ?」

 「ルミーは集合魔法を使えます。其の所為なのか分かりませんが、ある時から魔力の質や量などが見える様になったのです。そのルミーが言うには残留した魔力の中に人と魔獣の混ざった物が見えて、その残留した魔力と同じ者を前にギルドから差し向けられた追っ手の中に見たそうです」

 「・・・成る程言っている事は分かったが・・・・しかし魔力が見えるとは・・・」

 私の前でリグレス公爵が深く考え込み、其れを見たメルフェリが厳しい表情で身構えていた。

 「リグレス公爵、ルミーはその事で過去に色々あったのでおかしな事はしないで貰えませんか?」

 リグレス公爵はキョトンとした後、突然笑い始めた。

 「ははははは、貴族の私に対して警戒するのは分かるが考え過ぎだ。私はただ私の娘のミーミルの目の事を考えていただけで他意は無い。ミーミルの目は遠見の瞳で遠くを見る事が出来るんだけど、長らくその事に気づかないで見えないと思っていたんだ。今は気づいて必死に目の魔力の制御訓練をしている所だから、種類は違うがフェルミー殿も同じなのかと考えていたんだ」

 「待ってください。ミーミルさんは目の制御訓練をどの様にしているのです?抑々制御出来る物なのですか?」

 「出来ますわよ。私達天狐は魔法に長けていますから色々と方法を知っていますわ。ただ訓練は大変で月や年単位で訓練しないと成果は得られませんわ」

 「ほう、そうなのか?目の見えなかったミーミルをロベールは短時間ならすぐに見える様にしたし、カリーナ殿の指導で七日以内で目の前は普通に見える様になったぞ」

 「エエッ・・・何ですって・・・・・そんな事が・・・・・」

 私は不覚にも驚きの叫びを上げてしまった。私が知る過去の記録では見える様になるまで一月はかかるはずだ。もしリグレス公爵が嘘を言っていないのだとしたら天狐を超える魔法の知識が存在する事になってしまうのだ。此れは天狐にとって絶対に認められない事だった。

 「リグレス公爵、嘘ではないですよね」

 「ミーミルは実際に目が見える様になったのだから嘘ではないよ」

 リグレス公爵の顔は嘘をついている様には見えず、私は背中に嫌な汗をかく事になった。五幻種にはそれぞれ誇る力があり、天狐は魔法の知識と技術を誇っていた。其れが一番ではなく二番だとしたら誇りは地に落ちる事になる。想像しただけで今まで築き上げてきた物が、ガラガラと崩れ落ちる音が聞こえてくるみたいで震えが止まらなかった。

 「あの・・・ルミーの事なんですが。二人に教われば制御が出来る様になるのでしょうか」

 「その可能性はあるな。兎に角二人に聞いてみれば良いと思う」

 「分かりました。ルミーと話してから二人に聞いて見ようと思います」

 そう言ってルミーの元に行こうとするメルフェリに私は慌てて声をかけた。

 「チョッと待って貰える。尋ねる時と訓練の時、私も同席させて貰え無いかしら」

 「・・・・・ルミーが良いと言えば構いませんよ」

 メルフェリは私の必死さに戸惑いを浮かべながらも答えてくれた。

 「ええ、もし駄目だと言われたら私からも直接頼んでみるから教えてください。この通りお願いします」

 深く頭を下げて頼む私に二人は其処までする理由が分からず、戸惑いの表情を浮かべて動揺しかかっていた。物問たげな様子の二人に愛想笑いで誤魔化しながら、私は心の中で最悪の想像が正しかった場合、妹の女王タマシズクにどう説明すれば良いのか悩んでいた。


 私は今部屋に来たガルトラント卿達と話していた。

 「ガルトラント卿、この男に見覚えはありますか?」

 「・・・・ある。館の警備をしていた者だ」

 「やはりそうですか・・・何故かこの男は襲撃者達と共にお兄ちゃんを襲って来たんですよ。如何なっているのか分かりますか・・・・」

 私が怒気を押える事が出来ずに声に混じらせながら尋ねると、ガルトラント卿は口を噤んでしまい、代わりに護衛が口を挟んできた。

 「待ってくれ我らに其方に危害を加える意思はない。何より裏切り者は他にもいてセルフィーヌ様も襲われたのだ」

 「ああ、勘違いしていますね。私はガルトラント卿が敵対しているとは思っていませんし、必要以上に責める事も考えていません。既に誰の差し金かは聞きだしていますし、私は唯今後の交渉をする為にガルトラント卿が把握している事実を確認しているのです。怒気が声に混じってしまっているのはお兄ちゃんを傷つけられた怒りが収まっていないだけです」

 「・・・交渉と言ったか?何を交渉すると言うのだ?」

 「信頼関係が結べていない上にお兄ちゃんが負傷して眠っているので後回しにしていましたが、今回の事を踏まえて私は炎でガルーンの全ての人間に犯罪を犯したかと裏切ったかを問う心算です。リラクトンでも同じ事をしましたが大勢の犯罪者が出て捕縛などで大変な思いをしました。ガルトラント卿にはその許可を頂きたいのです。犯罪者の中には高位の者も存在すると思いますが例外なく捕らえて裁いて貰います」

 「・・・・拒否したら如何する?」

 「信用が置けないのでベルス達と共に仲間だけで集まって他の人達とは距離を置きます。一応言って置きますが権力者でも犯罪を犯せば犯罪者です。情状酌量の余地のない犯罪者を権力者と言うだけで正しく裁かないで見逃す様なら共に歩く事は出来ません。リグレス公爵はその点を理解して既に処置しています」

 「・・・・分かった。許可しよう」

 「ありがとうございます。ではお願いします。嘘を吐くと布が燃えると決めた」

 私が素早く金の炎と布を差し出すと護衛の者達が怒りの声を上げた。

 「貴様、ベルグス様を確かめると言うのか?無礼であろう。契約者と思って調子に乗っているのか」

 「そんな心算はありませんが・・・分かりました。まずは私が答えましょう。私はこの国やガルトラントを傷つける意思はありません。犯罪は犯していませんし、出来る限りの人を救いたいとも思っています。ただしお兄ちゃんを傷つけたり意思を無視しようとする者がいたら、国はおろか世界でも打ち倒す心算です」

 私が視線に断固とした意志を込めて見回すと、人々は気圧された様に後ずさった。そんな人達に金の炎を突き付けて確かめていくと、幸いにも此処に居る人達には問題が無い事が分かった。其の結果に安堵が広がり皆がホッと一息ついて雰囲気が温かい物になっていった時、其処に慌ただしく駆け込んでくる者が現れ、一瞬で場の雰囲気が厳しい物になった。

 「申し上げます、外に行った者達が数十人の重傷者を連れてきました。特に二人の子供とその親と思われる人の怪我が酷く今にも死にそうです」

 その報告に顔色を変えた私は報告に来た者に尋ねた。

 「今何所に居るの?子供を死なせたら叱責ものよ」

 「今にも死にそうな四人は此処に直接運んできています」

 「ならすぐに其処に寝かせなさい」

 「はい」

 四人の人間が寝かされて、その姿を見た私は息を呑むと急いで魔法を使って治療を始めた。

 「シグルト、フレイ手伝って・・・・。親の方は兎も角、子供は本当に不味いわ」

 「分かりましたわ。ですがこれは・・・・・」

 「僕は先に親の方を治療するんだ。カリーナ達は最悪でも死なない様に維持すればいいんだ」

 シグルトの声に従って死なない様に現状を維持しようとしたが其れすらも容易な事ではなかった。私が治療している男の子は右足が半ば焼失している上に八割以上の肌が焼けていた。更に治療を始めてから分かったのだが、この子は持病を持っていて体力も無く、とっくの昔に限界を超えているのだ。むしろ何故生きているのかと問いたいぐらいの酷い状態だった。

 「フレイ、この子は回復しないわ。そっちは如何?」

 「・・・・・こちらも回復しませんわ。もう手遅れで此のまま生かしておいても苦しめるだけだと普通なら言いますわ」

 「そんな・・・・子供を助けてください。何でもします・・・お願いします」

 突然知らない女の人の懇願が聞こえて振り向くと必死に体を起こして子供達の元に来ようとする女の人がいた。

 「まだ治療の途中だから動いたら駄目なんだ」

 シグルトが女性を宥めて落ち着かせてから治療を再開した。

 「カリーナこっちの二人は助かるんだ。二人の治療を終えたらすぐに手を貸すから其れまで維持し続けるんだ」

 「分かったわ。でもこの子は持病を持っていて魔法自体がかなりの負担になっているわ。魔法をかけるのを止めれば怪我で死んでしまうけど、此のまま魔法をかけ続けてもいずれ体が魔法に耐えられ無くて死しんでしまうわ。何か方法は無いの?」

 「・・・・・・カリーナが考えている通りなんだ」

 「そう・・・・」

 私は何か手段が無いかと微かな期待を込めて尋ねたがシグルトの答えは無常だった。私達は其々が己の種族を超える力を得ていたが、神の領域に片足突っ込んでいるお兄ちゃんとは違うのだ。

 「此方は一クーラが限界だと思う。其方は如何?」

 「一クーラ半が限界だと思いますわ」

 時間を意識して焦る私に男の人の声が聞こえた。

 「・・・何が契約者だ。子供一人救えない力に意味なんてない」

 「おい、ちょっと待てや、お前自分も助けられておいて、その言いぐさはないだろ」

 ベルスが男の人に食って掛かったが男は苛立たしげに怒鳴り始めた。

 「契約者なんてのはどうせ破壊しか出来ない危険人物なんだよ。居るだけで周りも巻き込むんだ。どうせ今回の事も契約者の所為なんだろ」

 「お前いい加減にしろよ」

 ベルスが男に掴みかかろうとしたのを見て私は制止の声を出した。

 「止めなさい、ベルス。この襲撃の目標がお兄ちゃんだったのは事実よ」

 それ見た事かと男が顔を歪めるのを見ながら私は告げた。

 「この子の父親だと思いますが、この子に少しでも長く生きていて欲しいならこれ以上騒がないでください。魔法を長時間維持し続けるのには集中が必要なんです。貴男に責められて心が乱れると魔法も乱れます。詳しい事は省きますが、貴男の言動でこの子の命を維持出来る時間が少し削られました」

 愕然とする男に視線を合わせてから静かな声で話を続けた。

 「文句が言いたいのなら全てが終わってからにしてください。それと私はこの子を助けたいと本気で思っています。シグルトそっちの二人の治療が終わったのなら手伝って」

 「うん分かったんだ。でも僕が協力しても・・・・・」

 「分かっているわ・・・・兎に角やれる事をやりましょう。まずは焼けた肌の治療をお願い」

 「・・・・・一割は治ったけど・・・これ以上は子供の体力が持たないんだ」

 「なら、持病を治すの事は出来ないの?・・・僕の力では一瞬で治す事は出来ないんだ。一応長い時間をかければ治せるけど死にそうなのを考えると・・・・」

 シグルトが悔しそうな顔で首を振った時フレイが大声を上げた。

 「カリーナ、此方の子供は煙と火の粉を吸ったらしく、肺が傷ついているみたいで呼吸が今にも止まりそうですわ」

 「な・・シグルト向こうに行って呼吸の確保をしてきて。死なせては駄目よ」

 シグルトが慌てて飛んで行って治療をして、何とか向こうの子供が安定したのを見届けた私は、自分の中にある医療知識で何か使える物は無いかと考えた。しかしどれだけ考えても使える知識は無く、矢張り体力や生命力が尽きる前に一瞬で治療するしかないと言う結論が出ただけだった。

 「・・・・・延命に切り替えるわ。少しでも長く生かすのよ。其れしか希望はないわ」

 「何を言っている?見捨てる心算か?治療を放棄して希望がある訳無いだろうが」

 「ベルス」

 私が名を呼んだだけで言いたい事が分かったのか、ベルスは男を押さえつけて黙らせてくれた。其れから私達が考え付いた色々な延命方法を試し、当初の予測の二倍以上の時間生かす事に成功していたが、最後の希望であるお兄ちゃんは未だに起きなかった。そしてついに思いつく方法も無くなり、ただ時間だけが冷酷に過ぎていった。

 「・・・死なせない・・・絶対に死なせる物か・・・お兄ちゃんが目覚めた時に子供を死なせた何て報告出来ないわよ」

 私の意思に反応して魔力の質が変わり更なる時間が稼げたが、それでも時間は刻一刻と過ぎていき段々と部屋の雰囲気が重苦しくなっていった。時間が経ってついに限界までの時間が六半クーラ以下になった時、私は心の中で悲鳴を上げていた。

 「・・・・・・・カリーナこれ以上は・・・・・」

 「・・・・・助かる可能性は一割も無いけど最後になったら僕が全力で賭けにでるんだ」

 フレイとシグルトの悲愴な声に追い詰められた私は、無意識に誰にも聞こえない程小さなかすれる声で呟いていた。

 「お兄ちゃん助けて・・・・・此のままじゃ・・・・」

 残り時間が更に半分になった時、唐突に私の頭が撫でられた。

 「よく頑張ったな。状況は分からないが後は俺に任せておけ」

 「お兄ちゃん」

 勢いよく振り向いて叫んだ私に微笑するとお兄ちゃんは魔法を使った。私達の目の前で子供の怪我がアッサリと癒されていき、特に焼失していた右足が再生するのを見た周りは息を呑んで絶句していた。一瞬と言っても良い程の時間で治療が終わった子供の姿は、少し前まで死にかけていたとは思えない物で、私の見た所では完全に健康な状態で持病も治っているみたいだった。

 「さて、子供はもう問題無いから誰か状況を説明してくれるか」

 「ああ、俺が説明する」

 ベルスがお兄ちゃんに説明する声を聞きながら、私はお兄ちゃんが目覚めた事に喜び、此れで大丈夫だと安堵してホッと一息ついた瞬間、全身から力が抜け床に座り込んでしまった。そして私はお兄ちゃんが目覚めて初めて自分が必要以上に気を張り詰めていた事に気づき、ちょっとお兄ちゃんに後を任されただけで此れなのだから、国を任され様としているお兄ちゃんの重責はどれ程の物かと考えて身が震える思いだった。


 儂は治った子供を見て現実感を失ってしまった。もっと軽い怪我をして死んでいく人間を大勢見た事のある儂には一目見てあの子供は助からないと分かっていた。契約者と龍と炎鳥が必死に魔法を使っても治らないのを見て契約者達と言えども当然だと心の中で思っていた。なのに眠っていた男が目覚めて魔法を使うと当たり前の様に時間もかけずに治療が終わってしまった。

 「・・・・馬鹿な・・・あれが魔法だと言うのか?・・・足を再生するなど出来るはずが・・・あれは奇跡と言うべきではないのか?」

 他人の声の様に聞こえる自分のかすれた独り言を耳に入れながら儂は子供から男に視線を移した。男を一目見た瞬間にその平然とした態度でベルスと話す姿から、今自分が行った奇跡と呼べる治療を何とも思っていない事がありありと感じさせられ、儂の心の中に言葉に出来ない焦燥が生まれていた。そしてその平然とした姿を見ていると同じ契約者のはずの者達が必死に魔法を使っていたのは何だったのかと言いたくなったが、儂の口は話し方を忘れた様に動かず、口から声が出る事は無かった。

 「そうか、大体分かった。其れならまずは怪我人の治療をする事にする」

 「ああ、そうしてくれ。それと悪いんだが俺の手も治してくれるか?ちょっと失敗してな・・・・」

 「怪我したのか見せてくれ。・・・神経がやられているな。すぐに治す」

 儂の見ている前で今度はベルスの手が治されていた。ベルスが当たり前の様に手を動かすのを目にして、あの手も本来なら治らないはずの傷なのだがと考えて、ついに全身から力が抜けて呆然と立ち尽くす事しか出来くなってしまった。そんな儂の横に居たセルフィーヌが我に返り、落胆と悲痛さのある叫び声をあげてベルスに詰め寄っていった。

 「あああああ、ベルス様・・・・治ってしまったのですね」

 「・・・・あの・・・・俺は不味い事をしましたか?」

 「おいおい、そんな訳無いだろ。大体なんでセルフィーヌに聞くんだよ」

 「いや、罪悪感の湧く声音だったからな・・・・。まあ良い、何か事情があるのかも知れないが後は二人で何とかしてくれ。俺は怪我人の治療に行ってくる。カリーナ達もついて来てくれ」

 契約者達が儂の前で一礼し、横切って部屋を出て行ってから儂は再び子供に視線を戻した。其れから怪我一つ無い子供の姿を見続けてかなりの時が経過しても、儂らの中の大半の者は説明の出来ない感情を抱えて未だに動く事が出来なかった。その後、子供達が目を覚まし、呆然としたままの親に代わってベルスと声を掛けられたセルフィーヌが相手をする姿を見て、何故普通にしていられるのかと考えた時、常識が違うと言う言葉が思い出された。そしてその事を実感した儂の中の何かが音をたてて壊れるのが分かった。


 治療を終え朝食を食べた俺はガルトラント卿と一対一で話をしていた。一方香織達は今ガルトラントの兵士達と共に炎を使って裏切り者と犯罪者を捕らえていた。遠くから偶に怒声が聞こえてきて、其れが此の部屋の雰囲気を重たいものにしていが、俺が見たガルトラント卿の顔は何かを吹っ切った者だけが出来る晴れ晴れとした顔だった。

 「色々あった事は聞きました。まず俺達との関係を如何するか答えて貰えませんか?」

 「受け入れよう。リグレス達が全員受け入れたのなら儂だけ反対しても無駄だろう?」

 「無駄とまでは言いませんが、今日の昼過ぎにはリグレス公爵達も到着するはずです。生きている五大貴族の当主が揃った時に皆で此れからのこの国の未来について話す事になるでしょう」

 「未来か・・・・。此れからの未来は波乱に満ちた物になるだろうな・・・儂としては御免なのだがな」

 「俺としても同感なのですが、商連合国だけでなくギルドが黒で危険な以上排除しない訳にはいきません」

 「うむ、その点は同感だ。まさかその様な人体実験をしているなどとは思っても見なかったが、人として許される事では無い」

 俺達は視線を合わせ頷き合ってから話を商連合国の軍の事に変えた。

 「まず儂が聞きたいのは商連合国の巨砲の攻撃を防げるのかと言う事だ」

 「俺達がガルーンにいるのなら被害はでません。敵が攻撃したら俺が迎撃してお互いの力がぶつかった余波はカリーナ達が防ぐ予定です。それよりサザトラントとの境が今どうなっているのかと、今残っている戦力について教えて貰えませんか?」

 「・・・・サザトラントと一番近い町に現在残っている戦力の半分が駐留している。防衛に徹すれば問題無いはずだ。儂の元にあるのは残された半分だが、ハッキリ言って護衛部隊を除くと殆ど新兵ばかりで真面な戦力とは言えない」

 「・・・・なら新兵はガルーンの防衛と治安維持に使い、新兵で無い者はリグレス公爵達の軍に合流して先導して貰うとしましょう」

 「うむ、それは良いが儂の戦う場所は用意して貰うぞ。ガルトラントを治める者が此処までやられて後方でのんびり見学している訳にはいかん」

 「分かりました。ならベルスの部隊と共にリグレス公爵の軍と行動してください」

 「うむ、よろしく頼む」

 頷き返事をするガルトラント卿を見ていると、また怒声が聞こえてきて其れを耳にした俺はふと気づいた。

 「ちょっと良いですか?先程今此処に居るのは殆ど新兵だと言いましたよね。まさかとは思いますが今カリーナと共にいる者達も新兵なのですか?」

 俺がちょっと視線を強めると途端にガルトラント卿は狼狽し始めた。

 「いや・・・・それは・・・だな・・・・」

 「そうなんですね・・・・はあ・・・後の話はリグレス公爵達が到着してから続けましょう。俺は妹の元に向かわせて貰います。良いですね」

 ため息を吐いた俺はガルトラント卿が頷いたのを見てすぐに踵を返した。先程から耳に痛い程の怒声が聞こえてくると思っていたのだが、その理由が香織の炎から逃げようとした者達を経験が足りない新兵が取り逃がしている所為だとは思ってもいなかった。一番近い怒声が聞こえてくる方向に走って行くと、そこには想像した通り町中で鬼ごっこでもしている様な光景が広がっていた。遊びと違う所は逃げる方も追う方も顔を真っ赤にして必死の形相で駆けずり回っている所で、俺は上空で新兵達を指揮しながら叱責の叫びを上げるフレイをチラリと見て、苦笑してから鬼ごっこに参加する事にした。


 勝利を確信して良い気分で眠っていた私は部下の叫ぶ声で叩き起こされた。

 「・・・・町がある・・・町があるぞーーー。攻撃は失敗だーーーーー」

 寝起きの頭ですぐに意味が理解出来なかった私が時間を費やしている間に次々と叫ぶ声と不安の声が増えていった。

 「嘘だろ・・・・・本当にありやがる」

 「ありえないだろーーーーー、・・・砦だって消滅したのに・・・・・」

 「・・・・・・敵が何かやったわけじゃないよな・・・・」

 寝起きの私の頭に皆の言葉の意味が浸透すると私は驚愕してはじかれた様に外に飛び出した。

 「・・・・馬鹿な・・・何で・・・昨日爆発は確認したはず・・・なのに何でそこに町があるーーーーーー」

 私の絶叫が空しく響き、その後動転した私は現実を受け入れられず、自然に溢れてくる笑い声を上げながら立ち尽くしていた。

 「はははっはは、如何言う事だ?何があったのだ?私は夢でも見ているのか?ははははっははははっは」

 そんな私に何時の間にか来ていた伝令が近づいてきた。

 「申し上げます。ガルーンへの攻撃は失敗に終わりました。ガルーンに目に見える被害はありません。モルガン様は次は一切手加減しないで全力で撃って欲しいと言っていました」

 淡々と話す伝令の声を耳に入れて、ようやく冷静さを取り戻した私は、背中に冷や汗が流れるのが止められ無かった。昨日撃った攻撃は砦を消滅させた物と同等の威力で手加減などしていないのだ。

 「敵が防いだと言うのか?遠かった所為で着弾点がずれたのではないのか?」

 「・・・ガルーンの上空まで光球が到達したのは確認されています。その後突然消えて空高くで爆発したと報告されています」

 「・・・・・・・そうか分かった。今度は全力で撃つが調整に時間がかかるから最悪明日になるとモルガン殿に伝えてくれ」

 「了解しました。ですがモルガン様は敵が攻撃を防げる以上、早くしないと最悪同規模の敵の攻撃があるかも知れないと考えている様です。如何かお急ぎください」

 伝令の言葉に冷や水を浴びせられた様な気分になって全身に震えが走ったが私は何とか虚勢を張ると告げた。

 「そうか急がせよう。しかし所詮今回の事は手加減した故の事だ。次は砦の時ですら使わなかった龍殺巨砲の全力を見せて、確実に消し飛ばす事を約束しよう。だから安心する様にモルガン殿に伝えてくれ」

 「了解しました。では失礼します」

 伝令が帰って行くのを見届けた私はすぐに指示を出す事にした。

 「全員今すぐ調整にかかりなさい。全力で撃ち龍殺巨砲に敵が無い事を示すのです」

 私の怒りの混じった声に部下達がはじかれた様に行動を始めた。その様子を見ながら私の心の中は荒れ狂っていた。昨日勝利したと確信して良い気分で眠ったのに、未だに存在するガルーンは私の輝かしい未来の前に立ち塞がって邪魔する忌々しい障害物だった。全力で撃つ龍殺巨砲が周辺事跡形も無く消し飛ばすのを頭の中に描いて、私は罵り声を上げるのを必死に我慢していた。


 その頃ゼロンは某所で話をしていた。

 「手酷くやられた様だのう。まさかお前が腕を切り落とされて帰って来るとはのう」

 「・・・・化け物みたいな龍が居やがった。契約しているみたいなんだが爺は本当に何も知らないのか?爺は契約者が生まれたらすぐに分かるんだったよな?なら何故僕に教えなかった・・・・」

 僕が怒りを込めて睨みつけると爺は不審そうな顔をして尋ねてきた。

 「竜の契約者の事なら二百年前に教えていたのだがのう?忘れていて出会い不覚を取っても儂の所為ではあるまい?」

 「・・・何を言っていやがる。僕が言っているのは飛べない竜では無く、空を飛ぶ龍の事だ」

 僕の発言に爺は一瞬眉を顰めてから一転して笑い始めた。

 「フォフォフォフォフォ、何を言うのかと思えば今のファーレノールに龍の契約者がいる訳がないのう。お前騙されているのう」

 爺の言葉に苛立った僕は大声で叫んだ。

 「龍だけじゃ無く炎鳥の契約者も居るのに僕が間違えるはずがないだろが。爺こそ呆けたんじゃないだろうな」

 「炎鳥の契約者・・・・・待て本当にいると言うのか?儂の魔道具には何の反応も無かったぞ。この魔道具は契約する時に発生する特殊な魔力に反応するから新しい契約者が生まれたらすぐ分かるし、魔力の発生場所も特定する優れものだぞ」

 「知るかよ。兎に角、契約者が二人存在するのは本当だ。しかも如何言う事か分からないが、僕が戦った龍は一匹で十匹以上の力を持っていやがった。しかもその龍は此れ位の力を持っていないと足手纏いになると自分の事を言っていたぞ」

 「・・・・・馬鹿な・・・十匹じゃと・・・其れに契約者はもっと強いと言うのか?」

 「嘘を言っている様には見えなかったぜ。爺もこんな所に引きこもっていないで一度自分で確認した方が良いんじゃないか?じゃないと爺でも不覚を取るかも知れないぜ」

 僕の軽口に爺の顔色が変わり、ギョロリと睨む目つきは暗い暗い闇を思い起こさせる程、深く淀んでいて対峙した龍より恐怖させられた。

 「笑えん話だのう。儂が後れを取るなどあり得んわ。しかし何時何所で契約したのか分からないのは問題だのう。その手を治してやるから調べて来て貰おうかのう」

 「・・・チィ、良いぜ。治ったら暫く監視してやるよ。だからサッサと治してくれ」

 「では部屋を移るとするかのう。此処は大事な研究をしている場所だからのう」

 話を終えた二人は足早にその場を去って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ