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契約者達と闇部隊の襲撃

 私が皆と共に光る北東の空を見上げていると、強大な力を内包した光球が大気をビリビリ震わせて飛んできた。その力に此れで終りなのだと一瞬で理解させられ唖然としていると、突如何かがぶつかって其れを見たベルス様が遅いぞ冷や冷やさせるなと叫ぶ声が、私の耳に遠くの出来事の様に聞こえた。その後光球が消え、訳の分からない間に爆発が起こり、気を失っている男の人を抱えた女の人がベルス様の近くに降り立ったが、それでも私は唖然としたままだった。

 「ベルス、お兄ちゃんの治療をするから周りに誰も近づけないでくれるかな」

 「ああ了解した。お前達呆然としてないで円陣を組んで周囲から二人を隔離しろ。野次馬が来る前に動くんだ」

 「了解しました」

 ベルス様が女の人の言葉に従ってすぐに部下に大声で命じ、ハッと我に返った部下の人達はキビキビした動きで行動し、私もお父様も気づいた時には二人が見えなくなっていた。

 「ベルスよ、あの二人は何者だ?お前は知っているのか?」

 厳しい視線を向けて詰問するお父様にベルス様は肩を竦めるとアッサリと言い放った。

 「知っているも何も俺が連絡してわざわざ来てもらった主ですよ。何度も言っていたでしょう主は契約者でリラクラント、バルクラント、メルクラントの三軍を纏めている存在だと」

 其の声は周囲に集まっていた野次馬にも聞こえたみたいでざわめきが広がった。

 「ベルス様、契約者とはあの様な攻撃にも対処出来るのですか?」

 「俺達を守ろうとした所為で負傷した様だが、あの程度の力なら周りを気にしなければ普通に対処出来ると思うぞ。其れに先程の光球の力は帝都が消滅した時に感じた力に比べればかなり弱かったと言える。まあ俺達にはどちらも対処不可能な力だけどな」

 私は自分で尋ねていながら震えが止まらなかった。ベルス様は平然としているが横にいるお父様も蒼白な顔をしているのが見えた。

 「ベルスよ、儂はあの様な町が消し飛んでしまう力は危険過ぎるし、人には不要だと今感じている。お前はどう思っている?」

 「商連合国の巨砲はあの威力から考えて契約石を使っているのは明白だ。俺は何かを犠牲にして得た力を認める心算はないからガルトラント卿の言うとおり不要だと思う。だが一つ言って置く。もし不要と言う言葉の中に二人の事を含めているのなら撤回しないと不味い事になるぞ」

 ベルス様がお父様を睨んだのと同時にベルス様の部下の方達も此方を警戒する様に態度を変えていた。

 「・・・・・その態度は力で脅す様に受け取れるぞ」

 「何を言うのかと思えば・・・。俺達に脅す意思はないし、先程の言葉は唯の忠告ですよ。拒絶するのなら此処から去るだけだから言ってくれ。すぐに去ろう」

 「待ってくださいベルス様。忠告とは如何言う意味ですか?」

 「其のままの意味なんだが・・・良いか良く聞けよ。俺達は契約者の二人を中心に纏まっているから、二人に助けられていながら否定する勢力とは手を結べないんだ。そうなれば今ガルトラントに援軍に来ようとしている軍は行軍を止める事になるかも知れないし、何より致命的なのは敵の巨砲の攻撃だ。今助けられたのにもう忘れているのが信じられないが、二人を拒絶して次の攻撃をどうやって止めるんだ?」

 場に沈黙が広がり私は言われた事を理解して愕然となった。

 「待てリグレス公爵達の軍が行軍を止める可能性があると言うのか?三人の意思は如何なっている?」

 「ふふふ、それは私達が力で脅していて三人の意思を無視している状況だと考えているのですか?」

 突然女性の笑い声と共に言葉が掛けられ皆が注目していると円陣の中から私より年下に見える女性が現れた。

 「答えてはいただけないのですか?」

 「名乗りもしない者に答える事は出来んな」

 「此れは失礼しました。私は龍人ロベールの妹で鳥人カリーナです。一応付け足して置くと負傷したお兄ちゃんに後を任されたので、私が此方側の最高の決定権を持ちます」

 「鳥人・・・妹・・・。儂はベルグス・ガルトラントだ。答えは儂にはリグレス公爵達の意思が分からないと言う事だ。抑々何故契約者に権限を与えるのだ?」

 「・・・ベルスきちんと説明したの?」

 「したけど信じて貰え無いんだよ」

 「・・・そう分かったわ。まず此の金の炎の効果を説明します。良く聞いてくださいね」

 其れから聞いたカリーナと名乗った女性の言葉は、私の常識を壊す物ばかりで普通なら信じないで一笑に付すのだが、嘘を吐くと分かる炎の効果を実証して、その力を使って淡々と話すカリーナの言葉は否定する事が出来ず、私達は嫌でも信じるしかなかった。

 「・・・・・・今話した事が全て真実だと言うのですか・・・・」

 「馬鹿な・・・・・・リグレス公爵達は既に赤帝国が滅んでいると考えていると言うのか・・・・ありえん」

 聞いた話に動揺する私の耳に初めて聞く頼りないお父様の声が聞こえてきた。今にも倒れ込みそうなお父様をお母様が支えていたが、その事にも気づかないお父様の姿は私の目に魂のない人形を思い起こさせた。周りの野次馬達も顔を蒼白にして絶句しているみたいだった。

 「貴女達は此れからこの国を如何する心算なのですか?」

 「其れは私には答えられないわ。答えられるのは覚悟を決めたお兄ちゃんだけだよ。それでもあえて不安に思っている人の為に言うとしたら、お互いの自由は保障されていて対等と言う事だけだわ」

 「・・・・自由・・・・対等ですか?」

 「ええそうよ。例えば私達は人に何かをして貰う時に対価を払い、何かをする時に対価を貰うわ。そして誰かに強制する事も無ければ強制される事も無いわ。だから貴方たちが私達を拒絶するなら私達はガルーンを去るわ。自分達の意思で決めた事なら、結果が如何なっても自分の責任だから後悔はしないはずでしょう?」

 「・・・・先程の話だと貴女達が去った場合、私達は巨砲の攻撃を受けて滅びる事になるのですが・・・」

 「そうみたいだけどそれが何か?」

 「な・・・・貴女達は此処にいる全ての人達を見捨てるのですか?」

 「あのね、私達は今巨砲の攻撃から助けたでしょう。此方が差し伸べた手を恐怖なのか何なのかは知らないけど、跳ね除けるのなら私達は何も出来ないわ。出来る事は私達を拒絶しなかった人達に声をかけて、去る時に一緒に行きたいと言う人を保護して一緒に連れて行く事ぐらいだわ。言ったでしょう?私達は強制しないのよ」

 「・・・・・・・・・・」

 「私達は必要以上に恩に着せたりはしないけど、命を救ったのに大きな力を持っているだけで傷つけられるかもと疑って恐怖の視線を向けてくるのは如何かと思うわ。貴方達を傷つけるのなら初めから助けたりはしないわよ。自分が怪我までして貴方達を助けたお兄ちゃんを馬鹿にしてる様に感じるわ」

 カリーナがゆっくり周囲の人々に視線を向け、周囲の人々は居心地が悪そうに顔を背けていた。重たい雰囲気になって沈黙が続いた時、炎鳥がカリーナの横に飛んできて話し掛けた。

 「カリーナ、やはり明日の朝まで目覚めそうにありませんわ」

 「・・・・そう、分かったわフレイ。私達を受け入れてくれるのなら部屋を貸して貰え無いかしら。お兄ちゃんを休ませたいの」

 「・・・分かりました。ベルス様の隣の部屋が空室だったはずです。其処を使ってください」

 「ありがとう。ベルス、案内を頼めるかしら」

 「了解した。ついでに俺が抱えて運んでやるよ」

 「ありがとう、ベルス。お願いするわ。あれ?でもベルス怪我しているじゃない」

 「ああ、ちょっと不覚を取ってな」

 「治療するから手を見せなさい・・・・一応表面上は治ったけど神経が死んでいるから上手く動かないでしょう。それ以上は起きたお兄ちゃんに治して貰って」

 「分かった。でも大分楽になったよ」

 話しを終えたベルス様が男の人を抱えて去って行ったが、その背が見えなくなるまで私は一歩も動く事が出来なかった。


 「よっと、此処に寝かせて置くぞ」

 「ええ、ありがとうベルス。貴男にも状況を話しておくから確り聞いてね。シグルトお願い」

 「まず言って置くと、光球の爆発で受けた傷はすでに完治していて、何も問題無いから本来ならもう目覚めているんだ。だけどロベールは明日の朝まで目覚めないんだ」

 「如何言う事だ?何があった?」

 「・・・・・僕にも確証がある訳では無いけど原因は上に転移した事としか考えられないんだ。理由は分からないけどロベールは精神も負傷しているんだ」

 「お兄ちゃんは目覚めるのよね」

 「私の共感能力で確かめましたから安心して良いですわ。確実に明日の朝には目覚めますわ」

 私が安堵しているとベルスが難しい顔をして問いかけてきた。

 「通常の眠りと違うから今のロベールは無防備だと考えて良いのか?」

 「・・・・・僕達が居るから大丈夫だとは思うけど・・・確かに今のロベールは襲われても起きる事はないんだ」

 「・・・分かった。今日は警戒を強めておく」

 「待って、お兄ちゃんが起きない事を悟られるのは困るわ」

 「分かっている。ガルトラント卿の娘のセルフィーヌが八商家の一人に狙われているから表向きはその護衛の為としておく」

 「そう・・・悪いわね。今度このお礼は必ずするわ」

 「気にしなくて良い、此れも仕事だ。俺は説明を皆にしないといけないから此処で出て行くが、良いよな」

 「ええ、問題無いわ。ありがとうベルス」

 ベルスが部屋から出て行くのを見届けて、私は視線を厳しくしてシグルトに尋ねた。

 「シグルト、もし私がお兄ちゃんと同じ事をしたら如何なるか分かるかしら」

 「・・・・・精神に致命的な怪我をして再起不能だと思うんだ。ハッキリ言って強化していた直哉だから無事にすんだだけなんだ」

 「やっぱりそうなんだ・・・・。朝までかかるのはお兄ちゃん自身の治癒力で回復するまでの時間なんでしょう。つまり私達には打つ手がないと言う事ね・・・」

 私が無力感に苛まれていると、フレイが穏やかな声で告げてきた。

 「今は出来る事をしましょう。直哉が安心して眠っていられるのは香織が上手くやると信頼しているからでしょう。香織は後を任されたのだから直哉が起きて来た時に失望させる訳にはいきませんわよ」

 フレイの言葉にその通りだと思って気合を入れると此れからの行動を考えた。

 「まず巨砲の事だけどお兄ちゃんが寝ている間に動きがあったら、なりふり構わず私達全員で先制攻撃を行うわ。次に色々言いたい事はあるけれどお兄ちゃんが守った人達は基本的に守るわ。特に子供や重要人物に死なれたりしてたら、お兄ちゃんが気にするから注意しましょう。それと当然の事だけど一番重要なのはお兄ちゃんの安全よ。目覚めるまで私達で確り守るわよ」

 「了解なんだ」

 「分かりましたわ。でも香織も今日は走り続けて疲れているでしょう。隣のベットで休むと良いですわ」

 「・・・そうね、少し休ませて貰おうかしら。でもその前に結界を張っておかないと・・」

 私はお兄ちゃんに渡していたお守りを使って、結界を張ってからフレイの勧めに従って眠りについた。


 「眠った様ですわね」

 「うん、香織もミネアの事とか色々あったから精神が疲弊しているはずなんだ」

 「ええ、やはりと言うべきか、ついに人を殺してしまいましたわ」

 「うん、純粋な人とは言えないけど二人にとっては関係ないんだ。此れからの言動には注意が必要なんだ」

 「やはり変化は避けられないでしょうね・・・・。二人には変わって欲しくは無いのですが・・・・」

 「変わらない生き物はいないんだ。僕達は変化が良いものになる様に見守るべきなんだ」

 「・・・・・悪い変化をした・・・・・」

 私が言いかけた言葉を遮る様にシグルトが冷たい声を出した。

 「必要ない・・・・二人が生きている限りお互いが安全装置として機能する」

 「・・・そうですわね。私達は二人を悪意から守ればいいだけですわね」

 私の言葉にシグルトが無言で頷き、場に沈黙が訪れた。


 夜遅くなり闇の中で蠢く者達が動き始めた。

 「全員ガルーンの中に侵入出来たな?」

 「はい、予定通りです」

 「ランカー達の方は如何なっている?」

 「半数は疑われている様です。仕方ないので予定通り囮として町の各所で火をつけて貰う事にしました」

 「・・・よくごねなかったな」

 「我らの報酬の半額を渡すと言いました」

 「ふん、成る程な。さて残りの半数は如何している?」

 「気配を悟られると不味いので少し遠くに待機させて、我らが動いたのを合図に突撃する事になっています。そして捕獲した者の撤退の援護と陽動としてガルトラントの娘を襲わせます。ランカー達はあの娘も金になると言ってやる気を見せていますよ」

 「ふん、まあ良い。最新の情報だが目標の男が先の攻撃で負傷している可能性が高まった。館の内部にいる協力者からの情報だから信用出来るだろう。だから人質にする標的を男に絞る」

 「了解しました」

 返事を聞いていると館の扉が開くのが見えた。息を殺し気配を絶ち、何時でも動ける様にしていると中から協力者が手招きしていた。

 「行くぞ、全員予定の配置に着け。配置に着いたら火が付いて騒ぎが起こった六半クーラ後に仕掛けるぞ」

 「了解」

 全員が中に入り開いていた扉が閉められた。


 「騒がしいわね。まさか敵が動いたのかしら」

 「いえ如何やら違う様ですわ。声を拾った所では如何やら町の中で火が出て、この館からも人を出した見たいですわ」

 「な・・・・お兄ちゃんが眠っている時に・・・・。重傷者が出たら私が治療しないといけないわね」

 私が立ち上がろうとした時シグルトが声を出した。

 「待つんだ。僕達は要請があるまで下手に動かない方が良いんだ。リグレス公爵達と違ってガルトラント卿とは信頼関係を結ぶ所か、真面な交渉すらまだなんだ。僕達が勝手な行動をしたら不興を買うかも知れないんだ」

 「・・・・・分かったわ。まずはベルスと話しましょう」

 そう言って立ち上がり、部屋の扉に歩いて近づいた時だった。突然扉が吹き飛んで傍にいた私に向かって飛んできた。

 「ちょ、なんなの」

 私が驚きの声を出している間に今度は窓が破壊されて覆面をした男達が飛びこんできた。

 「男を確保しろ」

 男達が一斉にお兄ちゃんに向かって跳びかかって行った。

 「な・・・お兄ちゃん・・」

 私は飛んできた扉に風の砲弾を叩き込んで粉砕すると、急いで踵を返してお兄ちゃんの元に向かおうとした。

 「行かせん」

 踵を返した私の背中から男の声が聞こえると短刀が私に投げ付けられた。

 「邪魔よ、シグルト、フレイ、お兄ちゃんをお願い」

 私が短刀を弾き飛ばしてシグルト達に声をかけた時にはシグルトとフレイも敵と交戦していた。

 「貴方達・・・・私達を襲う以上死ぬ覚悟は出来ていますわよね」

 フレイは怒りの声を上げながら、ぞろぞろと入ってくる男達の集団に風の矢を放ち、その体を容赦なく貫いていった。

 「ぐあああーーーーーーー」

 「炎鳥の攻撃は無視しろ。目的を忘れるな」

 犠牲を出しながらフレイの攻撃を掻い潜った敵は鬼気迫る表情でお兄ちゃんに向かって近づいていった。だがお兄ちゃんの傍に移動したシグルトが、近寄ってくる者をブレスと爪で攻撃して奮闘し、それ以上は一人もお兄ちゃんに近づけなかった。

 「あっちは大丈夫そうね。なら私も此奴らの相手をするとしましょうか」

 私は鞭を取り出して音速を超える速度で敵に叩きつけた。しかし一人の男が捨て身になって鞭を自分の体で受け止めると、他の男達は扉の外に退避していた。鞭を受けた男が衝撃に体をビクつかせて倒れ、起き上がらない事を確認した私は倒れた男の服が館の警備をしている者と同じ事に気づいた。私は嫌な感じがして部屋の外に逃げた男達の事を確認する為に扉に向かって歩き始めた。

 「突撃しろ。暴れまくるのはいいが目標の確保と娘も忘れるなよ」

 「おう、任せろ」

 別の場所で大声が上がり、何かが破壊される音が響いた。一瞬だったが私達の意識が其方に逸れた時、部屋の天井が轟音を立てて破壊され、上から男達と共に降ってきた。

 「・・・・・・な、お兄ちゃん・・・・・」

 私が慌てて寝ているお兄ちゃんの方を見ると、その頭上に降る瓦礫をシグルトが破壊し弾き飛ばす事でお兄ちゃんを守っているところだった。慌ててお兄ちゃんの元に行こうと踵を返すとまたしても邪魔者が現れた。

 「行かせん」

 「邪魔はさせん」

 私に扉から出て行った者達が再び現れて捨て身で特攻をかけてきた。

 「邪魔をするな」

 私は鞭を縦横無尽に振り回して叩きつけたが、男達は倒しても倒してもすぐに増援が現れて執拗に攻撃を仕掛けてきた。敵の勢いに押し切られそうな私がついに殺す事も視野にいれて魔法を使おうとした時、致命的な光景が目に入った。シグルトは自身に飛んでくる瓦礫と攻撃を受け流しながら、動けないお兄ちゃんの上に降ってくる瓦礫と攻撃を弾き、更に敵を倒していてまさに獅子奮迅の活躍をしていたが、次々と飛び降りてくる捨て身の男達を全て倒す事は出来ず、お兄ちゃんの傍に敵の一人の侵入を許してしまいそうになっていた。

 「お兄ちゃん・・・・やらせない」

 私の風球弾が侵入した敵に向かって飛んでいったが、別の敵が自ら風球弾に当たり血を吐きながら吹っ飛んでいった。庇われた男がお兄ちゃんの元にたどり着いてしまい、寝ているお兄ちゃんの首に短刀が突き付けられた。

 「動くな、この男の命が惜しいなら動くんじゃない」

 一瞬で凍り付いた様に動きを止める私達を見て男が笑うのが分かった。


 「セルフィーヌ無事か?」

 「ええ、今の所は大丈夫ですわ。私よりお父様とお母様の方が心配ですわ」

 「要らぬ心配だ。儂はこの程度でやられたりしないわ」

 俺がセルフィーヌと話していると背後からガルトラント卿達が護衛を引きつれてやって来た。

 「お二人とも御無事で何よりです」

 「ふん、そんな事より一つ聞きたい。お前はセルフィーヌの護衛をしたいと言って来たが、もしかして此の襲撃の事を知っていたのか?」

 「・・・いえ、そんな訳ありません。知っていたらご報告いたします」

 セルフィーヌの護衛の話自体が建前で一瞬良心が痛み、俺は返事が遅れて睨まれてしまった。冷や汗を掻いているとミルフィさんが声を出した。

 「あなた、娘を守ってくださっている婿殿を疑うのは良くありませんわ」

 ガルトラント卿の眉がピクリと動き、突然剣を抜き斬りかかって来た。

 「ななな、何をする・・・・」

 俺が声を上げて横に飛び退くと何時の間にか俺の背後に近づいていた敵をその剣で斬り捨てていた。

 「無事な様で何よりだ」

 今にも舌打ちしそうな表情で話し掛けて来るガルトラント卿に流石に文句を言うべきか悩んでいると壁を破壊して男達が現れた。

 「居たぞ、あの女がそうだ。捕らえた後の金は山分けだぞ」

 「分かってますって。女一人捕らえるだけで大金が手に入る何てついてるぜ」

 「他は殺しちゃって良いんだよな」

 「好きにしろ」

 好き勝手な事を言って男達は俺達に襲い掛かってきた。

 「貴様等、儂の前で娘の事を好き勝手言った以上死にたいと思って問題無いな」

 怒りを押し殺した呟きが耳に入ったと思った時には、ガルトラント卿が襲って来た奴らを撫で斬りにしていた。

 「ぎゃああああああ」

 「おい、此奴強いぞ。包囲して慎重に戦え」

 ガルトラント卿が包囲されそうなのを見て護衛達が阻止しようと動き始めた。

 「ガルトラント卿達を守れ、敵を近づけさせるな」

 手が完全に治っていない俺は右後方で回り込んで襲ってくる奴らを返り討ちにしながらその光景を眺めていた。大半の敵が倒され此方の有利が見え始めた時、俺の目に護衛の一人がソロリソロリとセルフィーヌに後ろから近付いて行くのが見え、俺は咄嗟にその男の死角に移動した。ガルトラント卿達は味方だと信じているからか誰一人気にしていないみたいだった。

 「動くな剣を捨てろ」

 「きゃあ、何をするのです」

 「黙れ」

 パンとセルフィーヌの頬が叩かれた音を聞いてガルトラント卿達はようやく状況を理解した様だった。

 「貴様、裏切っていたのか・・・・。娘を離せ」

 「戦力の大半を失ったガルトラントに未来はない。契約者だか何だか知らないが訳の分からない奴らの下に付くのもごめんだ。それに大人しく下に付いた所でガルトラントの発言力は無いも同然だろうしな。しかしセルフィーヌを連れて商連合国に行けば八商家に取り入る事が出来て俺は栄達出来るだろうよ。ははははっはは」

 セルフィーヌに剣を突きつけて笑う男にガルトラント卿が激怒してミルフィさんが蒼い顔をしているのが見えた。俺が後ろから近付いているのに気づいた二人に視線で協力を求めると二人は自分達に注意を向けさせる為に声を出した。

 「貴様は人の上に立つ器じゃない。身の程を弁えたらどうだ」

 「そうです。娘を放しなさい。利用されているだけなのが分からないのですか?」

 「ふざけるな。俺は優秀なんだ・・・落ち目のガルトラントで終わる男じゃない。俺は利用などされていない・・・奴らを利用して上に行くんだ」

 怒りに震える声を耳に入れながら俺は気づかれない様にジリジリと背後から近づいていた。此奴がおかしな動きをしていた時にすでに此奴の死角に入っていた事とガルトラント卿達の協力のおかげで、此奴は五メーラの距離に近づいても未だに俺に気づかなかった。そして俺は此処から一気に距離を縮めると首に向かって剣を振るった。

 「寝言は寝てから言うんだな」

 首をはね飛ばした裏切り者の体が床に倒れて行くのを見ながら、俺は自然と冷たい声で吐き捨てていた。

 「ベルス様」

 セルフィーヌが満面の笑みを浮かべて近づいていた。

 「無事・・・・とは言えないな」

 俺が叩かれて赤くなった頬を見て顔を歪めるとセルフィーヌは笑いながら話し掛けてきた。

 「ふふふ、ベルス様に叩かれたのに比べれば大した事ありませんわ」

 「・・・・・そんなに強く叩いた記憶は無いんだがな?」

 「ふふふふふ」

 俺達が話しているのがお気に召さないのかガルトラント卿が苛立たしそうに見ていた。隣でミルフィさんが生暖かい目で微笑しているのが俺には恥ずかしかった。

 「おい、手前ら俺達を無視しているんじゃねえ。まだ戦いは終わっていないぞ」

 「・・・・まだ勝てる心算なのか?ロベールとカリーナがいる場所に襲撃した時点でお前達の勝利は無いんだぞ。分かって・・・・・・・」

 話の途中で重苦しく自らの意思で平伏しそうな力が辺りを包み込んだ。一瞬で場の雰囲気が変わり、事態を理解した俺は舌打ちしてから馬鹿共を睨みつけた。

 「・・・・・おい、お前ら負傷して眠っているロベールに何かしたな。馬鹿が・・・わざわざ逆鱗に触れるなんて自殺願望でもあるのか?」

 俺の言葉に返事を返す者はいなかった。皆武器を取り落として冷や汗を掻きながら彫像の様に固まっていた。


 少し時間を戻した部屋の中で男が勝者の笑みを浮かべて命令していた。

 「おい女、大人しく拘束されろ。貴様らの到着を心待ちにしている人がいるんだ」

 「お兄ちゃんを話しなさい。今なら殺さないであげるわ」

 私が理性を総動員して話し掛けているのに男は私の言葉を嘲笑うと恫喝してきた。

 「お前今の状況を分かっているのか?まさかとは思うが此奴を傷つけられないとでも思っているのか?だとしたら大きな間違いだぞ。生きてさえいれば問題無いんだ」

 男はニヤリと笑うと突き付けていた短刀を無雑作に動かして首を傷つけた。私の目の前でお兄ちゃんの首から赤い血が流れた。一瞬で目の前が真っ暗になり呼吸が乱れ、心がかき乱された。・・・・・私は後を任されていたのにお兄ちゃんを守れず、刃物で傷つけられた・・・・・。傷付いた、傷付いた、傷付いた、お兄ちゃんが傷ついた・・・過去にお兄ちゃんが刺された時の事が鮮明に思い出された。

 「おい、聞いているのか?まだわからないのか?」

 男が何かを叫んでいる。だが私の耳には聞こえなかった。私の心の中はグチャグチャだった。怒り、嘆き、憎悪、悲しみ、無力感、そして殺意・・・他にもある色々な感情が混じり合い私の中ではじけた。

 「私のお兄ちゃんを放せ・・・・・」

 男が突然雰囲気の変わった私に命令されて体をビクつかせて武器を取り落とした。

 「早くお兄ちゃんから離れろ」

 「ヒィィーーーーーーーー」

 私に殺気混じりの視線で睨まれた男はかすれた悲鳴を上げると白目を向いて気絶していた。お兄ちゃんの傍まで行き首元についた血を指で拭うと傷は既に治っていた。

 「ごめんなさい、お兄ちゃんに傷を負わせてしまったわ。でも後は上手くやるから許してね。シグルト空間を隔離してガルーンから逃げられない様にしなさい」

 ビクついたシグルトが蒼い顔で魔法を使うのを見届けてから、私は風の魔法で遠くまで声が届く様にして命じた。

 「ベルス、もう敵は町から逃げられないわ。一人残らず拘束して私の元に引きずってでも連れてきなさい。お兄ちゃんが目覚めたら自分を傷つけた馬鹿を裁いて貰うわ。其れとガルトラント卿は館の警備の事で話がありますからすぐに私の元に来るように・・・。後、重症者は私の元に連れてきなさい治療をするわ。・・・最後にこの襲撃に加担した愚か者に告げる。まだ戦うのなら裁くのはお兄ちゃんではなく今にも理性を失いそうな私になるわよ」

 殺気混じりの力で威圧してから風の魔法を使うのを止めた私は、鞭を縄として使って部屋にいる男達を拘束して回った。

 「さて、貴方達に聞きたい事があるわ。誰に頼まれたの?」

 「・・・・・・依頼主の事を喋ると思っているのか?」

 「貴方達に黙秘権も死ぬ権利もないのよ。毒を飲んだみたいだけど無駄よ。私が魔法で治すから」

 そう言って簡単に治してやると男達に動揺が走った。そんな男達を眺めて扇子を取り出し、雷を発生させて見せ付けながら告げた。

 「早く喋るのがお互いの為だと思うわよ」

 男達は脂汗を流し、歯をガタガタ震わせていた。私はそんな男達の姿を見てもお兄ちゃんを傷つけた当然の報いだと考えて冷たい視線と冷笑を浮かべていたのだが、シグルトとフレイが私を見て体を震わせながらお兄ちゃんの体にしがみついているのを見て、流石に今の行動をお兄ちゃんに見られたら不味いと考えて我に返った。もっとも冷静さを取り戻しても、依頼主を知らなければならない事に変わりはなかった・・・・。


 カリーナの言葉を聞き終えた俺達は暫くの間ピクリとも動けなかった。自分の名が呼ばれた時は流石に俺も背筋がゾクゾクして震えてしまった。

 「おい、まだ抵抗するか?」

 「・・・・・・・・・・・」

 俺の言葉に男達は無言で首を振った。

 「隊長、館の敵は一部を除いて全員拘束・・・・。な・・・ここにも居たのか?すぐに拘束しろ」

 俺に報告に来た部下達がこの場に敵がいる事に驚きつつも素早く拘束していった。

 「男達は一か所に集めて半数で見張っておけ。此処にいる護衛からも裏切り者が出たから俺達以外の者との接触はさせるな。残りの半数は外にいる敵を捕まえてこい。いや待て数人は此処に残ってくれ」

 「了解しました。炎の審判を受けた者以外に気を付ける様に通達します」

 数人を残して部下達が男達を連れて去っていった。

 「お前達はガルトラント卿とミルフィさんの護衛をしろ。セルフィーヌは俺の傍を離れるな。いいな」

 「待て、ベルグス様達を守るのは我らの役目だ」

 「裏切り者が出た以上、カリーナの元に行って炎の審判を受けるまで信用出来ない。裏切っていないのに疑われるのは不愉快だろうが、此のまますぐに向かうから少しの間だけ我慢してほしい」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 無言で睨み合う俺達の間に割って入ったガルトラント卿が告げた。

 「儂は護衛を疑う心算はない。だがセルフィーヌが護衛に傷つけられたのは事実だ。だからベルス達はセルフィーヌを守って欲しい」

 「・・・分かりました。ですがカリーナの炎で確かめるのは拒否させませんよ」

 「望む所だ。我らがベルグス様を傷つけたりはしない事を証明しよう」

 護衛の者達が胸を張って宣言するのを見てから皆でカリーナのいる部屋に向かった。

 活動報告に書いた通り次の投稿は18日か19日の予定です。申し訳ありませんがご了承ください。

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