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契約者達と巨砲の攻撃

 「千人近くの兵士が全滅とは・・・・二人の人間を追って出た被害とは思えんな」

 「申し訳ありません。敵の罠に部下が掛かったのです。ですが言わせて貰えるならその部下は優秀な方だったと言えます」

 「・・・・・・敵が上手だったと言うのか?・・まあ良い其れで道の方は如何なっている」

 「今魔法兵に消火させていますが、樹液が可燃性の所為もあって時間がかかると思われます。しかも倒れた樹が道に転がっているので其れを退けるとなると・・・・」

 「つまりかなりの時間がかかると?」

 「はい、申し訳ありません」

 「分かった。だが敵の目的は時間稼ぎだと思われるから作業は出来る限り急がせてくれ。それとカルロン殿の元に事情を伝える伝令を送っておいてくれ」

 「はい、了解しました」

 報告に来た部下が去って行くのを見届けた私は一人ため息を吐いて呟いた。

 「命令とは言えガルトラントの娘一人を生け捕りにする為に出した損害は許容範囲を超えているな。これ以上の被害は総司令官として許容出来ないが、八商家の命令を拒否すると後の嫌がらせが凄いからな。自分の利益にしか興味のない馬鹿商人共が金を出すのを止めた所為で、補給が止まって負けた戦も過去に何度もあったし、如何するかな・・・」

 胃がキリキリ痛むのを感じながら私は敵が時間稼ぎをする行動から、砦の陥落を知ってもまだ諦めずにいられる何かの存在について考えていた。


 俺は今ガルーンに帰ってきた事を後悔していた。負傷の所為では無い脂汗を流しながらセルフィーヌを睨むとニッコリ笑って俺の隣にピットリと立った。

 「あらお父様、如何なさいましたの?」

 怒りを押し殺しているのが誰の目にも明らかなガルトラント卿が、俺達二人の間を見つめて眉をピクリと動かした。

 「如何したもこうしたも無いわ。今まで何所で何をしていた。其れと距離が近すぎないかね?」

 「あら、お手紙を読みませんでしたの?此処にいるベルス様と一緒に足止めをしてきたのですわ。其れと距離が近いのは当然ですわ。ベルス様は自らの手を犠牲にして私の命を救ってくださいました。だから私はこの手が治るまでずっと傍にいて手の代わりをすると誓いました。そんな私にベルス様も助かると言ってくれましたわ」

 ガルトラント卿の視線が俺の手に注がれて傷の状態を確かめているのが分かった。そしてハッと息を呑むと愕然とした表情で俺達に視線を彷徨わせていた。

 「待て・・・その怪我は治る様には見えないのだが?」

 「ええ、ですからずっと傍にいますわ」

 満面の笑みを浮かべるセルフィーヌと今にも斬りかかって来そうなガルトラント卿を前にして、俺はようやく認識の違いからくる言葉の意味の違いに気づかされた。セルフィーヌは治らないと思ってずっとと言葉にした以上、生涯を共にする覚悟で言ったのだろう。だが俺は治る事を知っていたので治るまでの事だと思って受け取っていたのだ。冷や汗が全身から流れるのが分かり、如何言えば丸く収まるのか必死に考えたが、焦る頭では妙案など出てこなかった。睨む視線の圧力に屈した俺は重たい口を開いて事実だけを口にした。

 「その・・・だな・・・この手は治るぞ・・」

 「な・・お父様に睨まれているからと言って都合の良い事を言う必要はありませんわ。誰がどう見てもその怪我は治りません」

 「俺との交渉の時にガルトラント卿が、リグレス公爵が致命傷を負っている様に見えたと言ったのを覚えていないか?」

 「其れなら覚えていますわ。確か契約者が治して・・・・・・・」

 自分の言葉の途中で理解したのか愕然とした表情で彫像の様に固まったセルフィーヌを見ていられなくて視線を逸らすと、そこには満面の笑みを浮かべたガルトラント卿が居た。

 「そうか、そうか、邪推してしまった様だな。治るのなら良いのだ、治るのなら」

 途端に機嫌が良くなったガルトラント卿を見て俺は引きつった表情になりそうになり、慌てて愛想笑いを浮かべてこの場を無難にやり過ごそうとしたのだが、そんな俺の耳にセルフィーヌの爆弾発言が飛び込んできた。

 「私はベルス様以外と結婚しません。大体、私の覚悟を決めた一世一代の告白を何だと思っているのです。勘違いでしたで済む物ではありませんわ」

 途端に機嫌の悪くなったガルトラント卿が俺を殺気の籠った視線で睨みつけてきた。冷や汗と脂汗を流しながら必死に現状を打破する方法を考えていた俺は、ロベール達が話していた一つの話を思い出した。

 「俺の主が雑談で言っていたのですが、戦いの前に結婚の話をするのは縁起が悪いそうです。何でも今度結婚するんだと言っているとアッサリ死ぬのだとか。此処は一つ、話しは戦いが終わった後にしませんか?」

 「・・・・・仕方ありませんわね。此処は私が引くとしましょう。ですがベルス様はその時までに私の事を真剣に考えてくださいね」

 ジッと見つめてくるセルフィーヌに俺が頷くと、ガルトラント卿にセルフィーヌが毅然と告げた。

 「私はお母様に此の事を話してきますわ」

 その言葉にどんな意味があるのか知らないが、明らかにガルトラント卿の顔色が変わった。

 「ベルス様、突然の事で戸惑っているのかも知れませんが、私が敵を深追いした時に見せた、バカ女と呼んで頬を叩いた時ぐらいの行動力を期待していました」

 セルフィーヌは拗ねた様な表情で足早に去っていき、残された俺とガルトラント卿の間に重い沈黙が訪れた。そして暫し時が流れてからガルトラント卿が重々しい声を出した。

 「・・・娘を助けてくれた事には礼を言おう。だが其れと此れは別問題だし、叩いた事については別の機会に確りと聞かせて貰うぞ」

 「・・・・・分かりました。其れより今は時間がありませんのでお互いの情報を交換したいのですが」

 「あの後で儂が知った重要な情報は一つだけだ。敵の巨砲がガルーンの北東三キーラの位置にある、丘の上にある事が確認された」

 「・・・・・三キーラですか?まさか其処までの射程があるとは考えていませんでした。だとすると巨砲に対しての攻撃は不可能ですね」

 「忌々しいがその通りだ。丘まで行こうとしたら東の森に居る敵の本隊を撃破しなければならない。一応ガルーンから丘まで直進して行く案も出たが途中にある湿地帯が魔獣多発地帯で危険過ぎると廃案になった」

 「・・・・・逃げては貰えませんか」

 「・・・・無理だ。儂は砦から逃げて来る兵士達がいると考えていた。しかし未だに一人も戻って来ない・・・・全滅したのならガルトラントの兵力は二割しか残っていない事になる。逃げる場所はバルグーンなのだろうが、此れでは移動中の安全が確保出来ないし、何より致命的なのは此処から西にある町にサザトラントの避難民を受け入れたばかりなのだ。避難民はサザトラントの貴族の行いの所為で他人に不信感を抱いている。そんな彼らをガルトラントの名を背負う者として見捨てる訳にもいくまい」

 「・・・それは・・・」

 「ベルスよ、お前達は使者としての役目を済ませたのだから帰るべきではないかね?」

 「・・・・主も向かって来ているはずですし、ギリギリまで居させて貰います。其れより一つ聞きたい事があります。戦った敵軍がセルフィーヌを生け捕りにする様に言われているみたいなのです。軍に命令出来る高位の者でセルフィーヌを付け狙いそうな人物に心当たりはありませんか?」

 ガルトラント卿が眉間に皺を作ると忌々しそうに吐き捨てた。

 「ある。前に八商家の一つのキルレーン家の次男とやらが娘を寄こせと言ってきた。儂が断るといくら払えば良いのかと言い始めたので殴り飛ばして叩き出してやったわ。二度と見たくない顔で次に顔を見せたら斬り殺すと固く心に決めている・・・・」

 どす黒い殺気が漂ってきて怯んでいると、そんな俺の様子を見てジロリと睨んできた。その顔は俺の品定めをしているとしか思えなかった。

 「あの男がまだ儂の娘を付け狙っているとは考えたくもないが、あの目つきと品性の無さを考えれば間違いなかろう。娘には護衛を付ける事にする」

 「其れが良いと思います」

 「自分が守るとは言わんのだな」

 「・・・・・俺の何所が良いのか分かりませんが、俺としては好意を向けられても応える事は出来ません。貴族で無い事だけならまだしも、罪を犯して主に仕えて償っている身としては結婚などあり得ません」

 俺の言葉に顔色を変えたガルトラント卿が厳しい声で詰問してきた。

 「罪だと・・・穏やかではないな。何をした」

 「それ・・・・・・」

 「申し上げます。敵の巨砲に動きが見られるとの事です」

 俺が答えを返す前に慌てた兵士が駆け込んできて声を上げ、その言葉の内容を理解した俺は一瞬で考えを纏めて、はじかれた様に声を上げていた。

 「ガルトラント卿はセルフィーヌ達の元に向かって逃げる様に言ってください。俺は状況を確かめてきます」

 言い捨てて部屋から出て走り出した俺は部下達が待機している場所に向かって合流した。

 「分かっている事を報告してくれ」

 「巨砲のある方角で光が確認されました。あと風魔法を使う者が音を拾ったそうです。結論は発射の前段階だと思われます」

 「・・・・そうか、逃げる時間はあると思うか?」

 「門の周辺は混乱した住人達で混雑しています。不可能と思われます」

 「ロベール達が到着していたりは・・・・」

 「いません」

 簡潔な返答に返す言葉が無く、無言で立ち尽くしているとセルフィーヌ達がやって来るのが見えた。

 「逃げられないのなら御一緒にと思いまして。此方がお母様ですわ」

 「セルフィーヌの母のミルフィと申します。よろしくお願いしますね婿殿」

 最後の言葉に俺とガルトラント卿が顔を引きつらせていると、北東の方角が強く光り輝いた。慌てて振り向いた俺の目に光が近づいてくるのが見えた。


 少し時を戻して龍殺巨砲の元に居たカルロンに伝令がたどり着いた時の話をしよう。

 「カルロン様、本隊は敵の妨害に会いました。予定を一日後らせたいとモルガン様から言われました」

 「・・・・・すでに此方の準備は整いつつあります。敵が時間稼ぎをしているのなら其れに付き合う必要も無いでしょう。今日の日没と同時に攻撃します。まだ半日以上あるのだから其れまでに何とかする様に伝えてください」

 「待ってください。本隊の準備が整わない中に攻撃したら目標を捕らえる事が出来ません」

 「その事なら気にしなくて良いでしょう。唯の我が儘ですから私の方からもとりなしますし、何より手加減しても消し飛ぶ可能性の方が高いのです」

 絶句して振るえる伝令に私は告げた。

 「兎に角、半日の猶予を与えたのだから其れで十分でしょう。其れに私の推測通り消し飛んだのなら何もする事は無いのです。さあ早くカルロン殿に伝えてください。でないと時間が無駄になりますよ」

 伝令がはじかれた様に走り去るのを見届けてから周りにいる者達に告げた。

 「攻撃は日没と同時に行いますが、威力は砦の時と同じにしてください」

 「よろしいのですか?其れでは確実に消滅しますが?」

 「構いません。大体、女一人の為に手加減するとかありえませんし、何より無駄玉を撃つほど余裕はありませんよ。撃つなら確実に倒せる威力を出すべきです。違いますか?」

 「・・・・了解しました。その予定で準備させます」

 周りに誰も居なくなった事を確かめた私はため息と共に呟いていた。

 「全く、何を考えているのでしょうね。此処で龍殺巨砲の力を見せ付けておけば後は恫喝するだけで皆降伏するはずです。誰だって町ごと消し飛びたくはないでしょうから交渉次第でこの国自体を契約石の供給源にする事も可能になるはず・・・そうすれば八商家とて怖くはありません」

 私は誰にも気づかれない様に笑みを浮かべると、自身の未来を思い描きながら攻撃が始まる時を今か今かと待ち続けた。


 「カルロン様、時間になりました。間もなく日没です」

 「では予定通り始めてください」

 「了解しました。発射準備にかかれ」

 砦の時と同じ様にブゥゥゥゥゥゥゥと重低音が鳴り響き、バチバチバチバチと音がして力が集まり始めた。力を集めている間に日が沈んでいき、辺りが暗くなるにつれて集まった光がより強くなった様に感じた。私の目には自身の未来を明るく照らす光に見え、前より眩しく輝いて見えていた。

 「充填の第一段階を突破しました。第二段階まであと二十・・・十・・・・五、四、三、二、一、撃てーーーー」

 轟音と共に砦の時と同じ光球が明滅しながら飛んで行った。その光景を見て私は全てが終わった様な達成感を感じて既に勝利した気分になっていた。


 「大分遅くなったな・・・もうすぐ日没だし無事だと良いんだが・・・」

 「見えてきた・・・・如何やらまだガルーンは無事の様なんだ」

 「そうか・・・間に合ったんだな。安心した・・・」

 「ロベール、如何やら安心するのは早いみたいですわ」

 「うん、お兄ちゃんあっちを見て」

 香織の指し示す方角を見ると何かが光っているのが分かり、その光が内包する力に驚愕させられた。

 「おい、冗談じゃないぞ。此処まで来て目の前でやられました何て受け入れられないぞ」

 走る速度を速めたが、とてもではないが間に合いそうになかった。

 「おい、何か方法は無いか?此のままじゃ間に合わない」

 「炎鳥の私が全速で飛んでも間に合いませんわ」

 「なら此処から迎撃は可能か?」

 「あの光は今撃ちだされたみたいで町に近づいてきているんだ。だから今から迎撃しても力の衝突の余波だけで壊滅するんだ」

 「なら余波を防ぐ事は出来ないのか?」

 「此処からじゃ遠すぎて・・・あの規模の力の余波を防ぐのは町に居ないと無理なんだ」

 「なら転移は如何だ?見えているなら可能では?」

 「普通なら可能だけどあの光の力が空の空間を歪めていて地中に出る可能性が高いから止めた方が良いんだ」

 「くそ、町に行く方法は無いのか・・・・・」

 俺が焦りと共にイライラしながら叫ぶと、香織が顔を歪めながら告げた。

 「一つだけあるよ・・・。お兄ちゃんが自分を強化して私、フレイ、シグルトの風の魔法で砲弾の様にお兄ちゃんを撃ち出すの。私達が全力でやれば確実にお兄ちゃんの方が早く町に着くけど、あの光の対処はお兄ちゃんが一人でやる事になるわ」

 香織が不安そうに見つめてきていて、その顔を見て俺は案をすぐに言わなかった訳を察したが、時間もなく他の手段も思いつかないのでその案を使う事にした。

 「・・・・・・皆やってくれ。ここまで来て町やベルス達を見捨てる訳にはいかない」

 「・・・分かったんだ。直哉、自分の命が危険な時は躊躇なく使って良いんだ」

 シグルトが俺の名を呼び、真剣な顔で見つめながら話した言葉に、俺も真剣な顔で頷いてから自身を全力で強化し、前方に障壁を展開して告げた。

 「出来る限り無理はしない様にするよ香織。それじゃあやってくれ」

 皆が頷いて風の魔法を使った。俺の体に風がうねりをあげて纏わりついて、背中に極限まで圧縮された大気が押し付けられた。そして背中の大気の圧縮が解け押し出される感じがしたと思った時には、今までに感じた事の無い速度で吹き飛ばされていた。気づいた時には光が目の前にあり、叫ぶ事も出来ずに激突していた。

 「・・・・・くそ、凄まじい力だな。強化した障壁ですら長くは持ちそうにないな」

 俺と明滅する光球がぶつかり一時的に拮抗したが、ろくに準備も出来なかった俺はジリジリと押され、ガルーンの町の上空まで来てしまっていた。

 「おいおい如何する?対処法を碌に考えていなかったな?兎に角、隔離して時間を稼ぐかな・・・」

 此のままでは不味いと思った俺は今にも壊れそうな障壁を消し、光球の周りを空間事隔離して圧縮しようと試みた。しかし隔離は出来たのだが圧縮は出来ず、更に光球の内包する力が強大なので徐々に空間が歪んで隔離が解けそうになっていた。

 「くそ・・・・此れも駄目か・・・・・しかも今にも爆発しそうな雰囲気だな」

 此のままガルーンの上空で爆発したら壊滅、俺の力を振るって消し飛ばしても壊滅、防ぐ事も隔離する事も圧縮して抑え込む事も不可能、俺は頭の中で数多くのガルーンを救う手段を考えたが碌な物が浮かばなかった。俺が考えている間にも時間が過ぎ、これ以上空間を維持できない事に気づいた俺は、一つだけ考え付いていたが危険度が分からないので没にしていた案を実行した。

 「龍の知識でもこの先が如何なっているのか分からないんだぞーーーー」

 叫びを上げた俺は上空を見上げ光球ごと宇宙を意識して転移した。通常の転移では気づいた時には転移が終わっているのだが、今回は殴られた様な衝撃と共に転移が途中で中断されたのが分かった。

 「グッ、どうなった・・・・」

 衝撃を受けて一瞬意識が飛びそうになった俺が、周りを見て月がかなり大きく見えるが落下している事から宇宙ではない事を認識した時だった。目に痛い程の光が爆発して俺に向かってきた。爆発した光球の力は凄まじく、咄嗟に障壁を張っても焼け石に水ですぐに壊されて俺の体は直接光に焼かれる事になった。

 「グゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 強化していなければ一瞬で消滅してしまいそうな力に晒され、必死に抗い痛みを我慢している俺の目に奇妙な光景が見えた。光が一定以上の高さより上に行くと忽然と消え、俺にはまるで其処から先は何も存在する事が許されていない様に感じられた。そして俺には普段より大きな月がやけに目についた。俺が先の転移の事と合わせて考えていると光が更に激しくなって、とうとう目まで焼かれて視力が失われてしまった。

 「・・・・目が・・・見えな・・・・」

 視力を失うのは初めての体験で俺は落下しながら混乱に陥っていた。


 お兄ちゃんを飛ばした私達は其のままガルーンに向かって走っていた。

 「大丈夫かな?お兄ちゃん」

 「・・・・・帝都の時ほどの威力はないから爆発に巻き込まれても強化していれば死ぬ事は無いんだ。でも皆を守る為に無茶をしそうで怖いんだ」

 「光球は既にガルーンの上空にありますし、空間を隔離しているみたいですが、その次は如何する心算な・・・・・」

 「・・・・・・お兄ちゃん?」

 いきなり光球と共にお兄ちゃんが消えた私は混乱しかかっていた。

 「・・・何て無茶をするんだ・・・・よりにも依って上に転移するなんて・・・」

 シグルトだけはすぐに何が起きたのか分かったみたいで顔色を蒼白にして呟いていた。そんなシグルトの様子に嫌な予感がして私は素早く尋ねた。

 「何?シグルト、上に転移するのに問題でもあるの?」

 「過去に一度月に転移しようとした龍がいたんだけど、今もってその龍はどうなったか分からないんだ。だから上に転移するのは龍にとって禁忌の行為なんだ」

 「そんな・・・・お兄ちゃん・・・」

 私が不安に思っていると遥か上空で光が爆発したのが分かった。

 「凄い力ですわね。私なら無防備に直撃を受ければ消滅していてもおかしくありませんわ」

 「・・・・香織急ごう。巻き込まれたら死ななくても無傷ではいられない力なんだ」

 「うん、速度を速めるわ。ついて来れなければおいて行くわよ」

 私は不安を抱えながらガルーンに向かい、町の入り口についた時にそれが目に入った。一目見た瞬間に落下している物体がお兄ちゃんだと気づいた私は風の魔法を使ってお兄ちゃんの元に跳躍していた。

 「お兄ちゃん、だいじょ・・・・・・・」

 私はお兄ちゃんを腕に抱えて声を掛けようとしたが、お兄ちゃんの姿を見て声を失っていた。

 「香織か?悪いが目をやられてしまって見えないんだ。無理はしない様に一応気を付けたんだがこの様だ。少し疲れたから後を任せても良いかな?」

 「う・・うん・・私が全てやって置くから大丈夫だよ。安心してお兄ちゃん」

 私が泣きそうになりながら返事をするとお兄ちゃんが微笑して声を出した。

 「泣く必要は無いぞ。ちゃんと治るから問題無い。大体、妹を泣かせる兄なんて兄失格だから・・な」

 それだけ言うとお兄ちゃんは私の腕の中で気を失ってしまった。私は腕に力を込めて抱きしめると気絶しているお兄ちゃんの耳元で告げた。

 「私を泣かせてお兄ちゃん失格ならとっくの昔に失格なんだから・・・。私を守る為に無理をして傷付いたお兄ちゃんを見て、私が陰で泣いた事が何回あると思っているのよ?」

 私がお兄ちゃんの焼けただれた顔を治療して、苦笑を浮かべながらその頬を撫でていると後ろから気まずそうな視線を感じた。慌てて振り向くとそこにはシグルトとフレイが気まずそうに飛んでいた。

 「・・・・・・・何時から居たの?」

 「泣く必要は無いぞと言っていた所からですわ」

 私が顔を真っ赤に染めていると同じく赤い顔をしたシグルトが視線を逸らして話題を変えてきた。

 「地面が近くなってきたから落下速度を緩めた方が良いんだ」

 「そうね・・でも何所に降りれば良いのかな?かなり下が騒がしいのよね」

 「うーんとあっ、あそこにベルスが居るのが見えるんだ。説明などの今後の事を考えるとベルスの傍が良いと思うんだ」

 シグルトの勧めに従って私達はベルスの傍に降り立った。


 「モルガン様、迂回してガルーンの様子を窺っていた者達が戻ってきました。ですが戻って来た者達は動転していておかしな事を言っています」

 「おかしな事だと?まあ良い、兎に角聞いた事を話せ」

 「カルロン殿は帰って来た伝令が言った通りに日没に攻撃した様なのですが、光球がガルーンに到達する直前で何かがぶつかって動きが遅くなり、その後一瞬で消えて気づいた時には空高くで爆発していたとの事です」

 「・・・・・・ガルーンはどうなったのだ?」

 「・・・・被害なしとの事です。ですが流石に信じ難いので今別の者に偵察を命じた所です」

 部下の報告に敵が時間を稼ごうとしていたのは此れかと思い、表情に出さない様に気を使いながら声を出した。

 「そうか・・・だがもし報告が本当なら敵はあの規模の攻撃を防ぐ手段を持っている事になるな」

 「はい、ですが其れが事実なら何故砦で使わなかったのかと言う疑念が浮かびます」

 「確かにそうだが今は正確な情報が欲しいから偵察が帰って来るまで焦らず待つとしよう。もう日も暮れているし、何より樹を退けた後に泥の道があった所為で兵士達の士気も落ちている。今晩は警戒しつつも明日に備えてゆっくり休むとしよう」

 「情報が本当だった場合カルロン殿への報告は如何しますか?」

 「夜の森は危険だから明日の朝一番に伝令を送れば良いだろう。私が一日待つように言ったのに無視して攻撃したのは彼だしな」

 「了解しました。偵察した者が戻って来たらご報告致します」

 「よろしく頼む」

 部下が去って行くのを見届けた私は気づかない間に出ていた冷や汗を拭うと此れからの事態の展開を考えていた。敵は手加減されているとはいえ砦を跡形もなく消し飛ばした攻撃を防いだ。防ぐだけと考えるのは楽観が過ぎるはずだ。なら同程度の攻撃を受ける可能性を考慮したらどうなる?無理だ・・・この規模の軍では対処出来ない・・・。

 「戦いもせずに撤退する事は出来ない以上、龍殺巨砲を最大の力で撃ったその結果で全てが決まるだろうな。勝てればよし、勝てなければ厳しい撤退戦になる・・・」

 気づかない中に途中から考えを口に出してしまっていた私は、我に返ると頭を振って無駄だと半ば理解していても、先の報告が間違っている可能性に一縷の望みをかけて部下の次の報告を待つ事にした。


 その頃某所で潜んでいる者達が静かに話し合っていた。

 「あれを防いだ以上、奴が捕獲対象だろう。今はまだ騒ぎが収まっていないから大人しく待機して置いて、遅くなってからガルーンに侵入して行動に移るぞ」

 「待てよ、俺達はランカーでお前達裏稼業の者とは違うんだ。簡単にガルーンに侵入とか言われても困るんだがな」

 「・・・・チィ、此れだから・・・・。分かったお前達は先にランカーとして町に入っていろ。侵入した後で俺達の方から連絡する」

 「・・・一応言って置くが抜け駆けはするなよ」

 「安心しろ我らだけで成功するとは考えていない。お前達こそばれるなよ」

 「分かっているよ。じゃあな」

 ランカー達がガルーンに向かうのを見届けてから声を出した。

 「何人かついて行って敵の警戒に引っかかった奴とそうでない奴を見分けて来い。引っかかった奴は囮に使う」

 俺の言葉に何人かがランカーの後を付けて行った。

 「此処に残った奴の中に分かっていない奴はいないと思うが一応言って置く。あんな攻撃を防いで生きている奴らは本物の化け物だ・・・真面に戦ったら俺達に勝ち目など無い。だから気づかれる前の一撃が全てを決める。その一撃で男か女のどちらかを拘束して人質に出来なければ失敗だ。失敗したら形振り構わず逃げろ」

 皆が無言で頷くのを見てから忍び込む機会が来るのを静かに待ち続けた。

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