契約者達と逃走中の二人とアライン達の最後
「暫く此処に隠れるぞ。敵兵はまだ追って来ているか?」
「ええ、追って来ているみたいね」
「・・・・・仕方ないな・・・逃げつつ俺達が囮になって敵兵を罠まで誘導するぞ」
「それは良いけど貴男、手は大丈夫なの」
「・・・・大丈夫だと言いたい所だが・・・これを見て大丈夫だと思えるか?」
脂汗を流しながら感覚がなくなってきた手を見せるとセルフィーヌの息を呑む音が聞こえてきた。
「チョッと変色しているじゃない。すぐに手当てをするわ」
矢を抜き魔法で治療したのだろうが手は変色したままで一向に回復しなかった。此れは普通の治療では手遅れと言う事で感覚がなくなってきた時に覚悟していた事だった。だが俺はロベールなら治せる事も分かっていたので軽く考えていた。
「・・・・・・・・そんな私の所為で・・・・・・・・」
「気にするな。生きて戻れば手なんか如何とでもなる。其れより今は此処を如何切り抜けるかだ」
「・・・・分かったわ。でも此れだけは言わせて、貴男が手を犠牲にして助けてくれなければ死んでいたわ。ありがとう。貴男の手が治るまで私が傍にいて、ずっと貴男の手の代わりをするわ」
「あ、ああ、それは助かる。頼らせて貰う」
強い意志の籠った視線に気圧されながら俺が返事をするとセルフィーヌが満面の笑みを浮かべた。其の笑みに何か嫌な予感がして見落としている事が無いか考えようとした時だった。敵の気配を感じた俺は咄嗟に手を掴んでセルフィーヌを引き寄せると気配を殺した。
「おい、居たか」
「いや、まだ見つからない。だが抑々本当にガルトラントの娘があんな所に居たのか?」
「それは俺も疑問に感じているが、顔を知っている奴が見てそうだと言っているらしいぞ」
「なら生け捕りにすれば大金が手に入ると言うのも本当か」
「ああ、如何やら上の誰かがガルトラント卿に娘を寄こせと言ったらしいが素気無く断られたらしい。怒り狂ったそいつは戦争中のドサクサに紛れて手に入れる心算らしいぞ」
敵兵の言葉にセルフィーヌが体をビクつかせるのが伝わってきて、俺は手に力を込めて消える様な声で大丈夫だと言って落ち着かせた。
「おい、でもガルーンはあれで攻撃するんだろう?」
「ああ、だから初めの一撃は威力をある程度抑えるらしい。だが今此処で捕らえられればその必要もなくなるだろ。だから俺達が探す破目になっているんだ」
「面倒な事だな。しかし龍の集団が現れた時は焦ったが、あれから何もないしガルトラントの主力は既にいないんだからサッサと済ませたいものだな」
「帝都も消滅して援軍も来ないんだろ。襲ってきた奴らも無駄な抵抗は止めれば良いんだがな」
敵兵は如何やら此方には気づかなかったみたいで歩き去っていった。俺が安堵のため息を吐いていると腕の中にいたセルフィーヌが小声で話しかけてきた。
「私が狙われているのですね・・・」
「みたいだが俺もいるから安心しろ。其れよりこの森について知っている事はないか?」
「私が知っているのは魔獣が殆ど出ないので安全だと言う事と此処で多量に採れる罠に使った樹液ぐらいです」
「脇道や獣道の様なものは知らないか?」
「残念ながら・・・・」
「そうかなら最初言った通り罠の近くで暴れて敵を集めてから罠まで誘導するぞ。先程の敵の話が本当なら敵が殺到してくるはずだ。危険だが覚悟を決めてくれ」
「はい、私が貴男の手の分まで戦います」
意気込む姿に苦笑しながら俺達は慎重に移動を開始した。
慎重に慎重を重ねて俺達は罠がある場所の三百メーラ近くまで逃げ延びていた。此処に来るまでに二度ほど敵と出会ってしまったが、運よく一撃で殺す事が出来たので未だ俺達が此処に居る事は知られていないはずだった。しかし敵も馬鹿では無いらしく、死体の位置から俺達が逃げようとしている方角に気づいたのか先回りされていた。
「残念だが隠れて移動するのは此処までだな・・・」
「そうね、百を超える敵が待ち構えているのでは仕方ないわ」
「良いか此れは炸裂球と名付けた物で、強い衝撃を与えると割れて中の破片が飛び散る様になっている。とても危険だから取扱いに注意してくれ。此れを二度敵の集団に投げた後突っ込んで突破するぞ。・・今度は敵兵に構うなよ」
「分かっているわ。貴男を危険にさらす訳にはいかないもの」
言い方が気になったが今は言う事を大人しく聞いてくれるのを重視して放って置く事にした。
「三、二、一、投げろ」
俺の声に合わせて炸裂球が敵の中に放り込まれた。二つの炸裂球は敵兵に当たって割れて中の破片を飛び散らせた。
「ぎゃあああああああああ」
「いてぇ、いてぇよ・・・・・・」
「目が、俺の目があああああああ」
飛び散った破片は敵兵の顔や手足に突き刺さって悲鳴と絶叫が響き渡った。俺達はその姿を見ながら二つ目の炸裂球を投げ込んで、結果を確認せずに敵との距離を詰める為に走り始めた。半分ぐらい距離を詰めた時に敵の更なる叫びが響き渡った。
「敵が近づいているぞ」
叫び声を上げ、のた打ち回る敵兵の中で無事だった何人かが俺達の接近に気づいて声を上げていた。
「邪魔だ退け」
敵まで接近する事に成功した俺は進路上に居る邪魔な敵を怒鳴り声を上げて斬り倒していった。しかし何時もと違って片手しか使えない俺の剣は敵を斬り捨てるまで時間がかかり、俺達が突破するより早く混乱から立ち直りつつある敵に自分達が劣勢に立たされ様としているのが分かった。
「良いか落ち着いて対処しろ所詮敵は二人だ。包囲すれば問題無い。この騒動を聞いて周りに散っていた仲間も向かって来ているぞ」
敵の指揮官の指示に敵兵達が俺達を包囲する様に動くのが分かり、更に悪い事に敵の援軍が数百程近づいてくるのが見えた。あれに合流されたら終りだ。
「炸裂球を貸してください」
俺からセルフィーヌが炸裂球を受け取り、手に取ると正面の敵兵を剣で突き殺した。そして其のまま俺達の前に敵兵の体を盾の様に置いて、その向こうに炸裂球を投げた。至近距離で炸裂球が割れ破片が飛び散り、傍で敵の絶叫が耳に痛い程響いた。俺達は死んだ敵兵を盾にしたので無事だったが、敵兵はこの状況で炸裂球を使うとは思っていなかったみたいで甚大な被害を出していた。
「突破するわよ」
「ああ、行くぞ」
俺達は声を掛け合って走り始めると、奇跡的に無事だった進路上にいる邪魔な敵兵の手や腕をすれ違い様に斬り飛ばして走り抜けた。
「逃がすな追え、決して逃がすな」
「しつこいぞ、大人しく諦めろ」
後ろから追って来る敵に何度か炸裂球を投げ付けて足止めをして俺達は何とか罠のある道にたどり着いた。追ってくる敵はその間に合流した様で千に届きそうな数に膨れ上がっていた。
「はあ、はあ、体力はまだ残っているか」
「ふう、ふう、最後の一走りぐらいなら大丈夫よ」
「なら駆け抜けるぞ。後は部下たちが上手くやってくれる」
「期待させて貰うわよ。成功して貰わないと流石に体力的に不味いわ」
俺達は最後の力を振り絞り道を走り抜けた。
「好き勝手にされたまま逃がしたら大失態だぞ。何としても捕らえるのだ」
敵が逃げるのを追いながら道を移動していると突然火の矢の魔法が飛んできた。
「総員かわせ」
私の言葉に兵達がかわそうとしたが大半の魔法は周囲の樹に当たって燃やすだけに終わった。
「何所を狙っているのだ?ガルトラントの娘が追われていて焦っていたのか?」
首を捻りながらも次の指示を声に出した。
「先行偵察隊がやられた敵の伏兵に気を付けろ。魔法兵は敵の魔法に備えて障壁を展開しろ。展開が終わったら追撃するぞ」
障壁の展開が終わり移動を始めるとまたしても敵の魔法が降り注いだ。しかし障壁にはじかれて私達には何の被害も出なかった。何よりまたしても大半の魔法は周囲の樹に当たって燃やす結果に終わっていた。三度目の魔法攻撃も同じ結果に終わって不審に思っていると、突然背後から轟音が響いた。慌てて振り向くと燃えた樹が倒れて退路がふさがれていた。
「・・・・馬鹿な・・・・・あの樹の大きさなら多少燃えた所で自然に倒れるはずがない」
疑問が独り言として口から出ると、逃げていた二人の傍に敵兵が集まって行くのが遠目に見えた。あれが先程から私達を攻撃していた敵達だと気づいた私は敵兵が隊列を整えているのを見て声を上げた。
「・・・・・そうか敵の攻撃に備えろ奴らは退路を断って攻撃してくる心算だ」
私の指示に従って兵士達が防御陣形をとって敵を待ったが、敵兵は一向に近づいて来なかった。
「如何言う事だ。左右と後ろを火で囲って退路を断ち、正面に部隊を展開して攻撃するのではないのか?」
何かを見落としているのかと思い周囲を見回した時だった。倒れた樹と周囲の燃えている樹を見て何かが気に障った。そしてジックリ注視して見ると縄の様な物が見えた様な気がした。
「まさか・・・・総員全力で前進しろ。死にたくなければ前に走れ」
私の声に何かを感じたか兵士達が前に向かって走り始めた。しかしやはりと言うべきか私達が移動を始めると魔法攻撃が飛んで来た。其れでも必死に攻撃に耐えながら前進していたが、ついに破滅の時がやってきてしまった。私達の前方にある樹が道を塞ぐ様に倒れ込んできたのだ。
「ぎゃあああああああああ」
下敷きになった兵士の断末魔が響き渡った。
「左右に逃げ道がない・・・・・・・・」
私の指示の途中で更なる燃えた樹が倒れ込んできた。
「逃げろ潰されるぞ」
「ひいいいい、こっちに来るな」
悲鳴を上げながら必死にかわす私達を嘲笑う様に燃えた樹が次々と頭上に倒れ込んできた。しかも樹から流れる樹液が可燃性なのか、樹が倒れる度に樹液が飛び散り辺りは火の海になっていった。
「ゴホゴホ、おのれ・・・・・・」
そしてついに火と煙に咳き込む私の頭上にもかわせない樹が倒れ込んできた。
俺達を追ってきた敵兵が罠で全滅するのを見ながら、俺は心の中でホッとしていた。今の罠は樹に縄を結んで倒れない様にした後、縄が無いと倒れる所まで切って置いただけの簡単な物だ。此の樹は可燃性の樹液を纏っているので良く燃えるから火が簡単について縄を燃やす事が出来たのだ。
「予定を変更するぞ。道を泥にして歩きにくくするのはやるが、残りは取り止める」
本来はこの後泥の道になった場所で攻撃し、その後樹液を凍らせた罠を仕掛ける手筈だったのだが敵の話に依るとセルフィーヌがガルーンに居た方が敵の攻撃が弱くなるみたいなのだ。その事を部下達に説明すると何人かが意見を述べてきた。
「隊長それなら負傷した隊長とセルフィーヌ様だけが戻れば良いのではありませんか?」
「セルフィーヌだけを戻す案は考えたが破棄して全員で戻る事にしたんだ。理由は簡単でセルフィーヌを見た敵が予想を上回った規模で兵士を投入してきたからだ。残念ながら現有戦力では全滅する可能性が高いと判断した」
「しかし危険を冒しても敵兵の足止めをしないといけないのでは?」
「その事なんだがな・・・俺は今回偶然敵の本隊を見る事になったが本当に巨砲がなかったんだ。考えられるのは二つだ。一つは見えない様になっている。二つ目は別行動していて其処からガルーンを狙っている可能性だ。もし二つ目の推測が正しいなら此の敵達を足止めしても無駄だと言う事だ」
「待ってください。それならこの敵兵達は何の為に移動しているのです」
「考えられるのは囮と攻撃が終わった後の占領とセルフィーヌの拘束だ。特に拘束の為に軍が動くのだとしたら余程の大物がセルフィーヌを欲しているんだろうさ。何か心当たりはないのか?」
「知りませんわ。そう言う雑事はお父様が処理しているのですわ」
アッサリと言い放たれた言葉を聞いて俺がウンザリしてため息を吐いていると、何がお気に召さなかったのか分からないがセルフィーヌが頬を膨らませて憮然としていた。
「兎に角、皆分かったと思うが此処は一度戻って情報を集める所からするべきだ。問題の巨砲が何所に有るのかが分からないと動けない」
俺の言葉に反論が無い様なので俺達はガルーンまで全速で移動を開始した。
「お兄ちゃん、ミネアがいるよ」
「何だと・・・」
突然の香織の声に慌てて右の岩陰を見ると確かにミネアが佇んでいた。
「全員止まれ、敵の待ち伏せだ」
皆が俺の声に停止して背中合わせに円陣を組んで辺りを見回した。
「囲まれていますわね・・・・・・」
「でも襲ってくる気配が無いんだ」
「うん、それに表情が無機質で薄気味悪いわ」
「此奴らは研究所で改造済み何だろう・・・。前に見たのより更に人間味が無くなって不気味になっているな。時間は無いが見た以上後から来る者達の為にも戦うぞ」
「分かったんだ。でもミネアがいる以上アラインも居ると思って間違いないと思うんだ」
「そうですわ。カリーナはミネアをロベールはアラインをお願いしますわ。残りは私とシグルトに任せて貰って良いですわ」
「皆無理はするなよ。注意事項として言っておくが殺しても変身して復活するから油断はするなよ。其れじゃ、此処はシグルトとフレイに任せたぞ」
俺はそう告げて先程から強い殺気が漂って来ている場所に跳躍した。
直哉が移動して香織がミネアの元に向かったのを確認した僕は隠れて様子を窺っている人物に話しかけた。
「何時まで隠れているのかな。出てこないのなら此方から攻撃するんだ」
少しの間を開けて驚きの声が聞こえてきた。
「へえー、気づいていたんだ。だけど僕に気づいていたのなら二人を行かせたのは間違いだよ。僕に傷をつけた奴が何者なのか確かめようと思って丁度良い作戦に便乗して様子見していたけど、排除する機会が目の前にあるのなら見逃したりはしない主義なんだよ」
「君がゼロンで良いんだよね。僕の方こそロベールを狙う奴を排除出来る機会を逃す心算はないんだ。何より今君は負傷していると聞いているんだ」
「ククク、はははっはは、侮られた物だな。負傷したとは言え龍一匹に負ける程弱くは無いよ。其方の炎鳥が加勢した所でたかが知れている」
「侮っているのは貴男ですわ」
「全くなんだ」
僕とフレイが力を解放して睨みつけるとゼロンは愕然として後ずさっていた。
「馬鹿な・・・・炎鳥が龍に匹敵する力を持っているのも驚きだが・・・お前は一匹で十匹以上の力を持つと言うのか?ありえない・・・・」
「僕を誰の契約相手だと思っているのかな?此れ位の力を持っていないとただの足手纏いになってしまうんだ。じゃあ理解した所で死んで貰うんだ」
僕は手加減なしで飛びかかって爪で心臓を切り裂き殺そうとしたが、相手は一瞬で変化して腕を体の前で交差させて受け止めた。
「ぐああああああ・・・・・貴様俺の腕を・・・・・此奴らの足止めをしろ」
僕の攻撃はゼロンの片腕を切り落とすだけで終わり、ゼロンが腕を拾って逃亡しようとしていた。
「がああああああああ」
追おうとした僕の前に改造体が割り込んできて邪魔をしてきた。
「邪魔だよ、其処を退くんだ」
邪魔な改造体を爪の一撃で殺したがやはり変化して復活してきた。復活した複数の改造体に攻撃されて追えない僕に代わってフレイが厳しい声を上げて追って行った。
「逃がしませんわ。貴男は此処で死になさい」
「クッ邪魔をするな」
真紅の炎を纏って突っ込んで行くフレイにゼロンが口から光線を出した。フレイは光線を羽に掠らせながらもゼロンに火の粉を飛ばし、その背に火をつける事に成功していた。
「ぐああああああああああ」
先程よりも大きな悲鳴を上げながらも、ゼロンは足を止める事無く逃げて行った。
「フレイ、残念だけど此処までなんだ。深追いするのは得策じゃないんだ」
「そうですわね。忌々しいですが羽に傷を負いました。私の炎よりゼロンの光線の方が力が強いみたいですわ」
「・・・・戦って見て分かったんだ。負傷して此れだから万全の状態なら安全に倒せるのは僕とロベールだけなんだ。カリーナとフレイでも倒せると思うけど安全を考えるならフレイは常にカリーナと共にいるべきなんだ」
「そうした方がよさそうですわね。もしカリーナに何かあったらロベールが暴走しそうですもの」
フレイが香織の元に飛んで行くのを見届けた僕は直哉が激怒して暴れ回る姿を想像して身を震わせるとため息と共に、しつこく襲ってくる敵にブレス攻撃を加えた。
「ねえミネア、私の事が分かるかしら」
「・・・・・・・・・・・・・」
「私は貴女の事が嫌いだけどこうなると哀れとしか思えないわ」
「・・・・・・・・・・・・・」
私の声に全く反応しないミネアに薄ら寒い思いを抱いていると、無機質な冷たい笑みを浮かべて変身を始めた。背中から蝶の様な羽を出し、目が全て黒くなっていった。
「ころ・す・・・」
かすれる様な声を出したミネアは恐ろしい速度で飛びかかってきた。咄嗟に横に跳んでかわすと、鞭を出して叩きつけた。ミネアは地を蹴り鞭を避けると空に舞い上がり、空を飛び回りながら雷の魔法を使って雷球を次々と落としてきた。
「空を飛べるのが厄介ね・・でも・・」
そう呟きながら私は風球弾を使い反撃を始めた。雷球と風球弾が空でぶつかり合って風球弾が雷球を貫いてミネアに迫った。しかし雷球にぶつかった後の風球弾では速度も威力も足りず、ミネアの軽やかな飛行の前に空しく飛んで行くだけだった。
「いか・・ずちよ・・わが・・手に・集いて・雷光と・・なれ」
途切れ途切れだったが私の耳にミネアの声が聞こえてきた。まさかと思いながらも私は咄嗟に声を出した。
「雷光を燃やすと決めた」
私の手から金の炎が生まれて前面に広がったのと同時に、今までの雷球とは比べ物にならない強大な雷光が降り注いだ。雷光と金の炎がぶつかり合いバチバチ、ゴロゴロ、ビシビシと他の音が聞こえない程の音が鳴り響いた。
「・・・・・・まさか此処までの威力の魔法が使えるとは思わなかったわ」
自らの炎に魔力を注ぎながらどう対処するか必死に考えていた私は驚きを隠せなかった。何とミネアの魔法は私の炎に拮抗している様に見え・・・・いや信じられない事だが少しずつ私の炎が押されている様に見えた。
「そんな・・・・私の炎が押されるのなら雷光の威力は古代魔法でも上位になるわよ」
「カリーナ無事ですか?」
別の場所で戦っていたはずのフレイが真紅の炎を纏って雷光を呑みこみながら私の元にやってきた。
「フレイ如何して此処に?」
「あちらはもうシグルトだけで十分になったのでカリーナの元に来たのですわ。さて私も戦いますわ」
「待ってフレイ私がやるわ、それに試してみたい事が出来たの」
強い意志を視線に込めてフレイを止めた私は、フレイを見て気づいた炎の使い方を試す為に自身の周りに炎を集めた。金の炎を集めて体に纏う事が出来た私は自分の炎の使い方を理解していた。私の金の炎は私から距離が開く程弱くなるのだ。だから纏うのが本来の使い方で此の状態なら自らの意思で自在に操れる事が良く分かった。雷光とぶつけていた炎をしまうと、遮る炎が無くなり雷光が私に直撃したが、纏った炎に全て呑みこまれてしまった。
「悪いけど終わりにさせて貰うわミネア」
私は地を蹴り音速を超えた速度で跳躍し、ミネアに体当たりをして抱き着いた。私に触れられたミネアは体の一部と目と羽を燃やし絶叫を上げていた。そんなミネアを抱えて地に降り、地面に横たえた時にはすでに炎が収まっていた。
「ゴホ、ゴホ、・・・まさか・・・人間と・・して・・死ねる・・とは・思わな・かった・わ」
「・・意識があるの?」
「最後・・に・ゴホ、取り戻・・せた・み・・たいね」
「言い残したい事があるなら聞くわよ」
「・・・・この・・世・界・・は・狂って・いる・・どこ・・かに・・狂わせ・・ている・・・奴が・・い・・る・・・」
其れだけ言い残してミネアは息を引き取った。
「狂わせている奴・・・どう思うフレイ・・」
「嘘には聞こえませんでしたわ。本当にいるのなら白日の下に晒すべきだと思いますわ」
「・・・そうだね。此れはお兄ちゃんに報告するべきだね。・・ミネアの肉体だけを燃やすと決めた」
金の炎が一瞬でミネアを燃やしてその場から金の光の粒が舞い上がった。
「ミネア・・・嫌いだけど貴女がいた事は覚えて置くわ」
私は踵を返すとフレイと共にお兄ちゃんの元に向かった。
「よう、来ると思っていたぜ」
「・・・・お前は真面そうだなアライン」
「・・・まあな、俺を改造した忌々しい奴らは半成功だと言っていたぜ。ミネアは自我の大半を失ったが、俺は失わずに自分の意思で変化出来るかららしい。もっとも俺はミネアと違って融合した魔獣の力を半分くらいしか使えないがな」
「・・・・もう手遅れだと考えて良いか?」
「如何答えて欲しいのか知らないが俺は自分を人間だとは思っていないぜ」
アラインは自嘲を浮かべると一瞬で変化した。金色の目と金と黒の体毛が生えたその姿は虎を思わせるものだった。
「行くぜ」
アラインは剣を抜いて斬りかかってきた。その速度は魔狼に匹敵するのではと思わせられた。
「うお、思ったより早いな」
「忌々しい奴だな。この速度でもかわすのかよ」
驚きながらも余裕をもってかわす俺にアラインは獰猛な笑みを浮かべた。そして腕が一回り大きく見える程、力を込めて雄叫びと共に剣を上段から振り下ろした。振り下ろされた剣を後ろに跳んでかろうじてかわした俺は地面に足を付けたと同時に倒れ込んでしまった。素早く起き上がってアラインの姿を確認した俺は自分の顔が歪むのが分かった。一撃で地面を粉砕して地震の様な揺れを生んだアラインは両腕から血を流して金と黒の体毛を真っ赤に染めていた。
「・・・・・・お前それは・・・・・」
「全力で振るうと肉体が耐えきれずに筋断裂が起きるのさ。俺はもう人間じゃないからすぐに治るし問題無い」
アラインの言うとおり俺の目の前で傷が治って行くのが良く見えた。
「正気か?自分の体を傷つける攻撃を放つなど・・・・・」
「驚く必要はないぜ。俺達を改造した奴らは真っ先に上限を取っ払ったからな。ミネアなんぞは強い魔法を放つ時に生魔力を限界を超えて生むようにされていたはずだ。勿論そんな事をすれば長くは生きられないんだが、奴らにとっては強くなれば他は如何でも良いらしい」
話している内に腕が治ったアラインが一瞬で距離を詰めると何度も何度も斬りかかってきた。左から斬りつけられた剣をかわせば右から拳が飛んできて、腕を使って受け止めると突然跳躍し頭上に踵落としが放たれた。それを後ろに跳んでかわすと雷の矢が飛んできて、俺が魔法を障壁で防いでいる間に距離を詰め斬りかかってくるのだ。まさに嵐の様な連撃で切れ目が無く一撃一撃が必殺の威力を持っている事が窺えた。そしてついにSランカーに相応しい戦闘技術を見せたアラインの蹴りが俺の腹に突き刺さり、一瞬息が詰まって動きの止まった俺の耳にアラインの声が聞こえた。
「此れで終わりだ」
「悪いがこの程度じゃ死ねないんだ」
俺は素早く左腕を全力で強化して剣を受け止めた。
「な・・・・」
驚愕の声と共にアラインが後ろに飛び退いた。
「手前・・・本当に契約者と言うだけか?俺は元契約者とやらに会ったがこの剣で傷つけられない程ではなかったぞ」
「俺は強化能力を持っている。その力で自分の体を強化しただけだ」
「・・・・・・ふざけている・・・」
「強化した時の俺は龍を超える強度だと聞いたから自分でもそう思うよ。さて如何やら此処までの様だ」
俺の言葉が終わってすぐに香織とフレイ、そしてシグルトが飛んで来た。
「そっちは終わったんだな」
「うん、お兄ちゃん。・・・ミネアは私が殺したわ。そして死ぬ前に最後の言葉を預かったわ。この世界は狂っている何処かに狂わせている奴がいると言い残したわ」
「・・・・・そうか分かった」
「おい、ミネアに自我は無かったはずだ」
「私の炎で人間以外の部分を燃やしたわ。そうしたら最後に話が出来たの。ミネアは人として死んだわ」
「・・・・・・・・・・そうか・・・・・」
「あなたにも同じ事が出来るわよ」
「要らぬお節介だ。俺は意識を保っているしもう人間じゃないと自覚している。その証拠に恐怖を初めとした感情の一部が失われている」
そんなアラインを前に俺は覚悟を決めて渡されたばかりの剣を取り出した。
「アライン、終りにしよう。俺は死んでから復活した奴らを斬り、魔法で消し飛ばした事はあるが生きた人間を殺すのはお前が初めてになる」
「ふん、俺は人間じゃないと言っているだろう」
「いや、お前が自分をどう思っていても会話が成立するから俺の認識では人間だ。だから殺す事に躊躇が出てしまった。だが妹がやるべき事をやった以上、俺も兄として逃げる訳にはいかない。悪いが俺の手で人として死んでくれ」
アラインは無言で構えをとると俺の動きを窺っていた。俺は自分を強化して余計な事を考えない様に心を押し殺してただ剣を振るった。アラインの左肩に当たる寸前でアラインが剣を間に入れたが、俺の剣は何も無い様にアッサリと剣ごと左肩から右のわき腹までを斬り捨てていた。血をまき散らしながら倒れたアラインは既に絶命していた。その姿を目に焼き付けて人を殺した事を自覚して叫びそうになるのを堪えながら香織に話しかけた。
「悪いがすぐに燃やしてくれるか。復活されるのはごめんだ」
「うん、アラインの肉体だけを燃やすと決めた」
すぐに燃え尽き金の光の粒が舞い上がった。光が消えるまで見つめていると香織が俺の手を握ってきた。その手が震えている事に気づいた俺は強く握り返して震えが止まるのを待った。震えが止まって暫くして頷き合うと手を放してガルーンに向けて移動を開始した。そんな俺達の背をシグルトとフレイが不安そうに見ている事に余裕の無かった俺達は気づけなかった。




