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契約者達とガルーンへの行軍

 俺がガルーンの人を逃がす為の手順を考えていると、部下の呼ぶ声が聞こえた。

 「ベルス隊長、やはり次の連絡は来なかったみたいで砦は落ちていると考えて間違いありません。それと偵察に出した部下からの報告ですが、敵がガルーンを目指して進軍しているのが確認されました」

 「・・・そうか、残念だが砦の仲間は全滅していると考えて間違いないだろう。さて、それは其れとして敵がどれくらいで此処に来るか予想できるか?」

 「其れが発見された敵の軍の中に巨砲を確認出来ず、更に予想と違って進軍速度は通常の速度を維持しています」

 「・・・・・つまり向こうの方が早く着く可能性が高いと?」

 「報告が届いてロベール様がすぐに全力で移動しても、今のままでは五クーラ程敵の到着が早いと考えています。あと周辺からガルーンに避難してくる者達の所為で道が混雑して混乱も起きているそうです。そして此処の住人と避難して来た住人を合わせると全員を逃がすのは難しいと部下から報告を受けました」

 報告を聞いて舌打ちすると俺は根本的な考え方を変える事にした。

 「逃がす計画は破棄する。部隊に招集をかけてくれ。敵に攻撃をして進軍速度を遅くするぞ」

 「お待ちください。我らは交渉に来た事もあり、戦える者は千人にも満たないのですよ。とても戦いになるとは思えません」

 「正面から戦う心算はない、移動しながら道に罠を仕掛ける心算だ。幸い俺達は主が真面じゃないから色々と小細工をする道具には事欠かないだろ」

 ニヤリと笑いながら俺が告げると部下は明らかに嫌そうな顔をしていた。

 「今あるのは地面を凍らせる物と泥にする物、そして小さな球と中に入れる物が三種類しかありません」

 「其れだけあれば嫌がらせぐらいは出来るだろ。兎に角敵の進軍速度が遅くなればいいんだ」

 「敵が巨砲を使う可能性は無いですかね?」

 「ないない、俺達は少数だから其処までする価値がない。魔法砲の事から考えても弾が無限にあるはずが無いからな」

 「・・・・・了解しました。変更を皆に伝えてきます」

 「ああ、頼む。集合は半クーラ後で良いから縄を集めてくれないか」

 「了解しました」

 部下が踵を返して走り去るのを見送った俺は先程から気づいていた、隠れて立ち聞きしている女性に声を掛けた。

 「淑女が立ち聞きなどする物ではないと思いますよ、セルフィーヌ様」

 気づかれるとは思っていなかったのか驚き拗ねた表情を見せて睨み付けてきた。

 「何時から気づいていたのです」

 「初めからですよ。確かに中々優れた気配の消し方でしたが、残念ながら俺には通用しません」

 「・・・・・立ち聞きしたのは謝ります。ですが砦にいる者達が全滅しているなどと言われては無視出来ませんでした。お父様は逃げ延びて来る者達がいると考えていますわ。私もガルトラントの主戦力の優秀な方達が撤退すら出来ずに全滅するとは思えません」

 「・・・・・なあ、帝都と砦はどちらが大きいのかな?」

 「帝都に決まっていますわ」

 「その帝都が消滅したと報告したのに何で砦が今もあると思っているんだ?ハッキリ言うがな、帝都の住人が今生きているのは龍の転移魔法を使って脱出したからだ。さて質問だが砦の皆は転移して脱出する事が出来るのか?」

 俺の言いたい事が分かって蒼白な顔をして震える姿に、言い過ぎたと思って如何声を掛けるか迷っていると、突然キッと睨みつけられて話しかけられた。

 「貴男は先程戦いに行く様な事を話していましたね。私も連れて行きなさい」

 俺は一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、理解すると直ぐに口から言葉が飛び出した。

 「お断りします。足手纏いは連れて行けませ・・・・・うおお」

 いきなり俺に斬りつけてくるセルフィーヌ様に不覚にも叫びを上げて飛び退く破目になった。

 「私は足手纏いではありませんわ。自分の身は自分で守れますし、こう見えて実戦経験も豊富ですわ」

 剣を構える姿は様になっていて言葉に嘘は無いと思える姿だったが、俺の中の何かが警鐘をならしていた。

 「・・・・・言葉に嘘は無い様ですが、俺はガルトラント卿の娘を連れて行く心算はありません。そうですね、どうしてもついて来たいのならガルトラント卿を説得してからにしてください。もっとも出発までもう四半クーラもありませんが」

 俺の思惑を悟ったセルフィーヌ様はとても美しい笑みを浮かべると無言で踵を返した。去って行く背中を見送りながら俺はつい小声で愚痴をこぼしてしまった。

 「あれの何所が麗しい淑女なんだ?外見だけで中身は・・・・言わない方が良いか」

 俺は小声だったので聞こえていないと思っていたが、其れが間違いだと後に思い知らされる事になるのだった。


 「何か困った事はないか?」

 「今の所問題はないわ。あえて言えば私もルミーもアーヌも周りの反応が普通過ぎて戸惑っているぐらいね」

 「そうか、もう少ししたら日が落ちて野営の準備になる。夕食を食べながらリグレス公爵達に紹介して皆で話すからその心算でいてくれ」

 「・・・・・・貴族と話すのは気が乗らないけど何とか耐えてみるわ」

 まるで決死の覚悟を決めた様に話す姿に俺が何とも言えない気分になっていると、食材を獲りに行っていた香織達が帰って来た。

 「お兄ちゃん、今日も良いのが獲れたわよ。悔しいけどタマミズキの知識や経験が凄かったわ」

 「此の森は中々獲物が豊富で川もあって魚も獲れましたわ」

 「へえー、そう言えば魚は最近鯖しか食べていなかったな」

 「あの、その口ぶりからすると普段から魚を食べていたんですか?魚は獲るのに命懸けだから高級品ですよね」

 フェルミーが恐る恐る口にした言葉に俺は唖然としてしまって、反射的に良く考えないで答えてしまっていた。

 「はあ?魚ぐらい釣れば良いだろう?」

 「何だ釣るって?」

 ロベルトの疑問に俺が説明すると何故か周りの人達から狂人を見る目を向けられた。

 「・・・・・・貴男良く今まで生きていましたね。二百年以上生きている私も流石にそんな狂気の行動は初めて聞きましたわ。良いですか?普通の魚でも平均の大きさが三メーラなのは誰でも知っているでしょう。貴男の言う様に釣りなどしたら引きずられて水の中に飛び込む破目になって、自分が餌になるのが目に見えています」

 この時点で勘違いに気づいた俺は引きつった顔になるのが止められ無かった。内心でヤバいと焦っている俺の前で話は更に続いた。

 「更に言えば長時間水辺に居るなど自殺行為でしかなく、魔魚に目を付けられて得意な水の魔法で襲われるのが目に見えていますわ。水中で魔魚と戦うのは竜のアレーヌですら嫌がり、最悪魔魚の王と言われるギガーギョと戦いになったら不覚をとる事もありえるのですよ。貴男は何所でそんな釣りなどと言う狂気の行動をしていたのです?」

 疑いの視線が俺に向けられて返答に困っていると、ロベルトがやれやれと言った表情で話し始めた。

 「俺もスッカリ忘れていたがロベールの家の近くには小さな魚しかいない水辺があるんだ。だから魔魚なんていないし、釣りみたいな事も出来るんだ」

 「へえーーーー、そんな場所があるとは思わなかったわ。参考までにどこら辺か聞いても良いかしら」

 「悪いが話せないな。契約者なら分かると思うがロベールの家族の情報は機密情報に決まっている。何かあったら困るだろ」

 「そう言われれば追及出来ないわね。此処は引いておくわ」

 未だに疑っているのだろうが、ロベルトが言葉と共にジッと見つめると肩を竦めて引いてくれた。俺がホッとしていると移動を止めて野営の準備にかかれと言う指示の声が聞こえてきた。これ幸いと俺は素早く野営の準備を始めた。


 「今日の食事は何と魚だ。皆味わって食べてくれ」

 「すげえ、まさかこんな物が食べられるとは思わなかったぜ」

 「軍の行軍中の食事なんて保存食が当然のはずなのに・・・魚とは・・・」

 「うお、美味いな、俺が普段食べてる食事とは大違いだ」

 リグレス公爵の言葉に兵士達が驚きと歓声を上げて食べていた。

 「はい、お兄ちゃんにはご飯とお刺身にしてみたわ」

 「おおお、此れは美味しそうだな。いただきます」

 「待ちなさい、あなた正気ですか?私の目には生に見えるのだけれど?」

 喜びの声を上げて刺身を口に運ぼうとしたらフェルメルが待ったを掛けてきた。

 「何か問題でもあるのか?」

 「あるに決まっていますわ。生で食べたら食中りを起こすに決まっているではありませんか。貴男は本当に今までどんな生活を送って来たのです?そんな当たり前の事を知らないで何故生きて居られるのです?」

 「食中り何て起きるはずが無い。此れはカリーナが調理して俺に出したものだぞ」

 此方の世界の人が生魚を食べない事は理解出来たが、カリーナの出した料理にケチを付けられた様に感じてムッとしながら反論した俺は素早く刺身を口にして食べた。

 「おお、美味しいな。白身なのを気にしなければマグロに似た味だし、久しぶりのご飯が余計美味しく感じられるな」

 俺が生魚を美味しそうに食べるのを皆が唖然として見ていたが、ただ一人リグレス公爵だけは時間の経過と共に目をランランと輝かせ、自分も食べたそうにしていた。そんなリグレス公爵に香織も気づいたみたいで苦笑すると余っていた刺身を渡していた。

 「どうぞ、試食分ぐらいしかありませんが」

 香織が渡した刺身を躊躇なく口にするリグレス公爵の姿にフェルメル達がギョッとしているのが見えた。

 「如何した何を驚いているんだ?」

 「貴族に生魚なんか食べさせて何かあったら如何するの。どうなるか分かっているの」

 厳しい声で詰問してくるフェルメルに俺と香織が目を丸くしているとリグレス公爵の笑い声が響いた。

 「ははははは、フェルメル殿、この料理はカリーナが兄の為に作った物だから万が一もあり得ないよ。もし万が一があってもロベールが治してくれるから問題無いし、食べたのは私の意思で自己責任だと此れでも心得ている心算だ。普段から未知の体験を求めている私は初めての体験になる、生魚を食べる行為が出来たので満足しているよ」

 そう言って更に美味しそうに刺身を食べるリグレス公爵をフェルメルはマジマジと見つめていた。

 「さて一人で独占するのも悪いな。皆もこのたれの味が独特で美味しいから食べて見ると良い」

 一人刺身を味わったリグレス公爵が今度は楽しそうに刺身を皆に配って回り、皆断る事が出来ずに食べる事になって一応美味しいと言ってはいたが、半数の顔は引きつっていたので生魚に対する拒否感が大きい事が感じられた。


 食事が終わり俺は昨日あった事をリグレス公爵達に話して聞かせていた。

 「・・・・・・・と言う訳でゼロンとギルドに注意しないといけなくなりました。俺としてはギルドは危険過ぎるので潰すのが良いと思っています」

 「・・・・・・今度はギルドか・・・・・・」

 「しかしギルドか・・・儂は潰すのには反対だ。月初めの大討伐の時にランカーがいなかったら流石に困る」

 「確かにな・・・。軍だけでも討伐は不可能ではないが、その場合は消耗が激しくなるので国土の防衛力が落ちるのは避けられない」

 暗い顔をして話し合うリグレス公爵達を見ながら俺はロベルトに小声で質問していた。

 「なあ、大討伐について詳しく教えてくれないか?」

 「ああ、そうか。二人は知らないよな。良いか、月が変わると不確定領域が入れ替わるんだが、その時に新しい領域と共に魔獣達も大量に現れるんだ。大量にいる魔獣達は領域の外に出てくるので、其れを討伐する事を大討伐と言っているんだ」

 「俺達の力を使ってもギルドなしでは難しいのか?」

 「二人が強くても範囲が広いから全てを守るのは不可能だろ?被害はこの国全土で出るんだぞ」

 「・・・・・・なら領域に向かって大規模な魔法攻撃を行うのは如何だ?」

 「其れは絶対に止めろ。普段は領域から出てこない主が外に出て来て暴れ回った魔の一月の記録がある。主が暴れた魔の一月で国土の三割が蹂躙され、国民の六割が死んだそうだ。そして怒り狂った住人が王や貴族を皆殺しにして出来た国が商連合国なんだ」

 ロベルトの厳しい言葉に俺が動揺していると横から香織が真剣な声を出した。

 「主は五幻種より強いの?まさかとは思うけどお兄ちゃんより強かったりしないわよね?」

 「分からないな。記録では一方的に虐殺されたとしか書かれていない」

 「その事なら僕が知っているんだ。父さんと母様が一度主を殺した事があるとザインさんから聞いたんだ。ザインさんの話では主の強さは五千年を生きた龍と互角ぐらいだと聞いたんだ。だからロベールなら倒せるけど隕石の様な物を空から落とし続けたと聞いたから止めておくのが無難なんだ」

 「・・確かに戦わない方がよさそうだな。だとすると正攻法で出てきた魔獣を倒す事になるが・・・・・・なあシグルト、ギルドは契約石に関わっている可能性が高いから潰す為に龍達が協力してくれたりしないかな」

 「それは話してみないと分からないんだ。でも動いてくれる可能性はあるんだ」

 シグルトの言葉に一応の結論が出たので俺は、ああでもない、こうでもないと話し合っているリグレス公爵達に話しかけた。

 「リグレス公爵、龍達に話して協力が得られ、大討伐が如何にか出来るのなら一度潰して国主導で再建する事も可能でしょう?」

 「それはそうだが・・・・・良いのか?また負担をかける事になるが」

 「交渉だけなら里に戻って情報交換する時に簡単に出来ますから大した負担ではありません。其れより交渉が上手く行った時の受け入れ態勢は其方でとって欲しいのですが、良いですか?」

 「ああ、其れくらいは任せて貰おう。そうでないと流石に立場がない」

 俺達が軽く笑いながら対応を決めていくと、其れを横で聞いていたフェルメル達が真剣な顔をして俺達の様子を窺っていた。そして覚悟を決めたのか静かに話し始めた。

 「本当に貴族と契約者が話し合って決めているのね・・・・。私の時代にはそんな事はあり得なかったわ」

 「ふむ、貴女は二百年前の竜の契約者だったな。記録を見た事があるだけなので一概には言えないが、交渉をろくにした事が無いのではと思えたな。私とロベールは今でこそ信頼し合っているが、始めは利害が一致したから手を組んだと言うのが正しいだろうな。ロベルトは如何だ」

 「俺の場合は脅迫だったな。お互い家族が大事ならやられて嫌な事は分かるだろ?みたいな事を言われて、最近の子供はヤバいなと思わされたな。ククク」

 ロベルトのからかう様な笑い声が響いて、皆の驚愕の視線に晒された俺は慌てて言い訳した。

 「ちょっと待て。言って置くがロベルトは初め、俺を襲ってきたギルド長に雇われたランカーとして現れたんだぞ。信用度はマイナスだったし、むしろそんな男の願いを聞いた俺の慈悲深さに驚くべきだろう」

 香織の説明もあって皆の誤解が解けてホッとしていると俺の耳にリグレス公爵の声が聞こえてきた。

 「私がロベールに期待しているのは、その場その場で何とかしてしまう対処能力の高さだ。ギルド、帝都、リラクトン、五幻種と起きた事態に案を出して対処したのはロベールだ。しかも対処方法が普通ではないので其れを見て皆が良くも悪くも一目置く様になったのだよ。だが私が見た貴女の記録では脅迫になりそうな手段を用いた交渉や、恫喝になりそうな力を振るう事を必要以上に嫌って振るわなかった所為で、結果的に侮られてしまって真面に交渉する必要が無いと相手に思われたのだと考えている」

 「力を振るうべきだったと言うの・・・・でもそんな事をすれば契約者は恐れられ排斥されるだけでしょう」

 「其れは力の振るい方にも依るが、その時までに確りとした絆を結べているかで決まる事だろう?私は最初が如何であれロベール達と共に行動している間に確りとした絆が出来たと思っている。だから私は既にその時に如何行動するか既に決めている」

 リグレス公爵が真剣な顔で俺を一瞥してから話を続けた。

 「私はロベールとカリーナ殿をそれ以外の契約者と同じには見ていない。先の生魚でも分かる様に二人の考えや行動は独特で私は其れに期待しているし、ロベールは力の行使に躊躇していても必要なら最後の最後では苦しみながらもやるべき事をやる人間だと思っている」

 「だから王にするのですか?独特の何かを持っていても契約者の力を人々は恐れるのでは?」

 「知っていたのか・・・王にしたいのは現状で一番未来が良くなりそうだと思ったからだ。悪いが同じ契約者でも貴女に王を任せたいとは思わない。それとロベールなら絶対の対処法があるから恐れる必要はない。簡単に言うとカリーナ殿に告げ口して泣きつけばいいのだ。そうすれば朝の様になるからな。クククク」

 「おい、ちょっと待て。何を笑っている」

 俺は笑うリグレス公爵に流石に黙っていられずに声を出したが、フェルメルは聞こえなかった様に無視して真剣な声で尋ねた。

 「彼は傀儡ではないのですか?」

 「ふははははははは、ロベールを傀儡にするなど恐ろしくて出来ないよ。そんな事をしたらカリーナ殿が怒り狂って破滅する事になる。出発の時のカリーナ殿の行動を見れば分かるだろう?あんな目に遭いたい奴がいるか?」

 皆の顔が一瞬で引きつって香織が一人で憮然としていた。

 「あの、ロベールさん此れを受け取って貰えますか」

 皆が黙り込みフェルメルが考え込む中、突然声を上げたフェルミーが緊張した雰囲気で俺に契約石と紙を渡してきた。

 「良いのか?まだ信用されていないと思っていたんだが・・・・」

 「はい、でも貴男が話した事やタマミズキさんが話した王になる様に要請されたと言うのも本当みたいですから・・・」

 「そうか、ありがとう。しかしタマミズキには後で話したい事が出来たな」

 タマミズキをチロリと見てから紙に視線を向けて読むと、其処には色々な研究成果が書かれている様だった。

 「生魔力と無魔力の違い、光輝花の雫の効能、水聖花の効能、回復魔法の効き方、契約者と人の違い、生吸病の治療法、生命とは?、魂とは?・・・」

 色々書いてあるが俺にはどれが重要なのかも分からなかった。なので皆にも見て貰ったのだが一部の研究の結論に驚くだけで終わってしまった。

 「フェルミー、此れを契約石と共に渡してきたと言う事はゼロン達に関わっていると考えて良いんだよな」

 「はい、私もギルドで偶然手に入れた物なのですが、其れを手に入れてから敵の追跡が厳しくなった様に思えました」

 「・・・・・・・分からないな」

 「ザインさんなら長く生きているから何か分かるかも知れないんだ」

 「そうだな、兎に角しまって置こう」

 俺は空間にしまった後、自分以外に開けられない様に厳重に封印をかけて置いた。

 「さて、今日の話は此処までにしないか?明日も早くから行軍しないといけないだろう」

 「そうだな、遅くなってきたしそれが良いだろう。何か今すぐ話さないといけない話がある人はいますか?」

 誰も声を出さないので俺達はその場で解散した。


 翌日の早朝から俺達は素早く行軍を始め、何事も無く早朝から朝になって暫くした時だった。前方から騎兵の集団が近づいてくるのが見えた。一瞬敵かと思ったが集団の中に見知った顔が何人か居たのでベルスの部下だと分かった。皆と共に近づいて行くと俺の顔を見た部下が飛びつく様に近づいてきて声を出した。

 「ベルス隊長からの伝言です。内容は敵の巨砲に依って砦が陥落した、対抗手段は契約者しか存在しないと思われるので急いでガルーンに来て欲しいとの事です」

 「砦が陥落しただと・・・ベルグス達はどうなった」

 「ベルグス様はガルーンに居ます。ベルス隊長もギリギリまでいると思われます」

 「そうか無事なのだな。ロベール悪いが・・・・・」

 「分かっています。俺もベルス達を見捨てる心算はありません。・・・シグルト、カリーナ、フレイは俺と共にガルーンに向かう。ルードルとタマミズキは此処に残ってフェルメル達を守りながら皆と一緒に来てくれ。後悪いがフェルメル達も通常と違う敵が来た時は協力して貰いたい」

 「分かっていますわ。其処まで気にする必要はありません」

 「そうか、ではリグレス公爵、後を頼みます。カリーナ行くぞ」

 「了解、お兄ちゃん」

 俺は皆と共に全速力で移動を開始した。


 その頃ベルスは敵の進軍路に先回りして罠を仕掛けていた。

 「隊長終わりました。森の中に道がある此処なら奇襲も可能でしょう」

 「だな、しかし敵も警戒はしているはずだ。気を抜くなよ」

 「大丈夫ですわ。気は充実していますわ」

 「いや、セルフィーヌ様は充実して貰っても困るんですよ。むしろ後方で大人しくしていてくれませんかね。後本当に許可を貰ったんでしょうね」

 「勿論ですわ」

 自信満々に言うセルフィーヌだが同時刻にガルトラント卿が娘がいない事に気づいて絶叫しているのが全てを物語っていた。そんな事は知らないベルスはおかしいと思いながらも、ガルトラント卿に配慮して娘を手荒に扱う事も出来ないのでしぶしぶ同行を許す破目になっていた。

 「まあ良い。総員予定の配置につけ。手筈通り奇襲したら即座に反転して逃げるぞ。敵を倒す事は考えなくていい」

 「了解しました」

 俺の言葉に返事をした部下達が森の中に散って行くのを見届けて敵が来るのをこの場で待ち続けて、三クーラ程経った時に敵の足音が聞こえてきた。見えた敵兵の部隊は明らかに先行偵察の部隊で普通なら見過ごして本隊に奇襲を掛けるのだが、今回は足止めが目的だから敵に伏兵がいる事を教えて警戒させる方が良いと考えていた。

 「攻撃を開始する、半数討てれば十分だから深追いはするなよ」

 俺の声を聞いた瞬間にセルフィーヌ様が真っ先に飛び出して行った。

 「死になさい。私の故郷は荒らさせません」

 敵兵が状況を認識する間も無く近づき一撃で首をはね、更に返す剣で二人目の腕を切り落としていた。腕を落とされた敵兵の絶叫が森に響き渡って敵兵はようやく自分達が襲撃を受けた事に気づいた様だった。

 「悪いが死んで貰うぜ」

 俺の剣が警戒を呼び掛けようとした敵の喉を突き刺し絶命させると敵兵の動揺が伝わって来た。如何やらこの男が隊長だったみたいだ。統率の失った敵を部下達が包囲して次々と討ち取っていき、数名を生け捕りにした。

 「撤退しろ、本隊に知らせるぞ」

 一人の敵兵が叫んで後退を始めると雪崩を打った様に敵が逃げ始めた。

 「よし此処までだ引き・・・・・・」

 「待ちなさい、逃がさないわよ」

 俺の言葉を遮る様に声を上げたセルフィーヌ様が敵を追って行ってしまった。

 「な・・・、チィ・・あのバカ女が・・・・。お前達は予定通り行動しろ。あの女は俺が連れ戻してくる」

 部下の返事も聞かずに俺は焦りながら後を追って行った。


 必死に追いかけてバカ女を捕まえた時には敵の本隊が見える所まで近づいてしまっていた。

 「おい無事だろうな」

 「当たり前ですわ。私があの程度の相手に不覚を取るなどありえません」

 「・・・・・そうか、なら戻るぞ。俺の命令を聞かなかった理由は後で聞かせて貰うからな」

 「私は貴男の部下ではありませんわ。命令など聞くはずが無いでしょう」

 その言葉を聞いた瞬間俺の中の堪忍袋の緒が切れたのが分かり、気づいた時には頬を叩いて怒鳴りつけていた。

 「このバカ女が、貴様一人の勝手な振る舞いで作戦が台無しになったら如何するんだ」

 セルフィーヌが俺に叩かれた頬に手を当てて唖然としている時、俺達の横に土球の魔法が飛んできた。頭に血が上っていた俺は魔法攻撃を受けて初めて気づかされた。当たり前の話だが俺達から敵が見える以上敵からも俺達が見えるのだ。気づいた時には既に手遅れで厳しい攻撃に晒されてしまい、とても無傷では逃げられそうになかった。次々に魔法が飛んできて必死にかわして一息つくと今度は矢が飛んで来た。

 「くそ、逃げるぞ。なにボサット突っ立ってやがる」

 俺が手を引いて走り出すとセルフィーヌも走り始めた。此のまま何事も無く逃げられれば良かったのだが、現実は其処まで甘くはなかった。一本の矢がセルフィーヌの頭に直撃する軌道なのに気づいた俺は咄嗟に左手を出していた。

 「グッ・・・・無事か?足を止めるな逃げるぞ」

 俺が声を掛てもセルフィーヌは目の前で俺の手に刺さった矢と自らの顔に飛び散った血に目を見開いて茫然として立ち尽くしたままだった。

 「くそ、おいバカ女俺を死なせたいのか?」

 俺の言葉にビクついたセルフィーヌは我に返った様で走り始めた。

 「逃がすな追え」

 敵の指示の声と指示に従って追って来た敵兵の足音を背に俺達の必死の逃走が始まった。

 次話の投稿は3日の12時以降になります。8月の投稿などについて活動報告に書きましたので見て協力して頂ける方はよろしくお願いします。

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