契約者達と竜の契約者とその頃の人達
直哉達が眠っている頃気づかれない様にそっと外に出た二人は静かな声で話し合っていた。
「お師匠様、私はついて行こうと思っています。私が知る限りで一番安全だったのがお師匠様の所です。しかしゼロンがいる以上悔しいですが彼の言う事が正しい・・・私は契約石を守る所か自身を守るだけの力すらありません。バルグーンに行って本当に妹さんが契約者で炎鳥と魔狼がいるのなら話を信じて契約石とギルドで手に入れた機密文書を渡そうと考えています。お師匠様は此れから如何するのですか?此のまま此処に居るのは危険だと思うのですが・・・」
弟子の言葉に私は考え込んでしまった。契約融合した時のゼロンの力は同じ竜の契約者なのに自分の力の数倍以上あると感じていた。戦えば私に勝ち目が無い事は先の戦闘で良く分かっていたし、弟子のルミーの事を放っておけないのも分かっていた。しかし私の心には常に一つの恐怖が存在していて、其の所為で共に行く事に躊躇していた。
「弟子であるルミーには少し話した事がありましたね。・・・私の力の所為で内乱が起きたのです。そして二百年以上が経過した今では別の国になってしまいました。国境は今でも定まらず小競り合いが続き、この時も死者が出ているでしょう」
私は空を眺めて変わらぬ星を見て過去に思いをはせながら話を続けた。
「両親が流行病で死に飢え死に寸前で森に入って彷徨っていたらアーヌに出会い、アーヌと一緒にいる間に仲良くなって契約をしました。其のまま穏やかに森で暮らしていられるだけで良かったのに、貴族が私の元にやってきて私の名で王家に対して戦いを挑んだと告げ、協力しないとお前も破滅するぞと脅してきました。未だにどうやって私の事を知ったのか分かりませんが、私が驚いて確かめた時にはすでに手遅れの状態でした。戦いを止めようとして話しをしても、王も貴族も私の言う事を聞かずに自分の味方をしろと言うばかりで、挙句の果てに私を我が物にしようと兵士を使い始めたのです。こうなっては流石に私も説得を諦めるしかなく、他国である此処まで逃げてくる事になってしまいました」
ため息をついてから弟子を真っ直ぐに見つめて告げた。
「ルミーが迷い込んで来て弟子になって、二百年ぶりに人と触れ合ったわ。ルミーの事は大切だけど私は・・・・・・・」
「お師匠様、無理はしないで良いですよ。お師匠様の事情も分かっていますし、唯でさえ私が逃げ込んで来た所為で家を破壊されて居場所までばれて迷惑をかけたんですから、これ以上は・・・・」
私に最後まで言わせずに無理をして不安を押し殺しながら声を出すルミーを見て、如何声を掛けて良いか分からずに立ち尽くしていると辺りに私達以外の声が響いた。確りと警戒していたはずなのに聞こえてくる声に驚愕して振り向くとタマミズキが呆れた顔で私達を見つめていた。
「外に出て何をするのかと思えば・・・・。良いですか?フェルメルさんの心配は不要なのですわ。ロベールが自分と一緒にいれば大丈夫だと請け負ったでしょう」
突然出て来て口を挟んできたタマミズキの言葉に私は顔を歪めて反論した。
「確かに聞きましたが、そんなもの王族や貴族の様な権力者が動けば意味が無い事は嫌と言う程知っています」
「・・・・・まず認識を改めるべきね。貴女達はロベールを過小評価し過ぎているわ。単純な契約者としての力でもロベールと妹のカリーナの二人と貴女では格が違うわ。でも更に致命的に違うのは貴女は個人でロベールは代表を名乗った様に集団としての力も持っている事と交渉しないと不味いと思わせる手札を沢山持っている事よ。そして何より面白い事に色々行動した結果、ロベールは王にならないかと要請されているわ」
「・・・・・・・・・」
「えええええーーー」
絶句して動揺する私と驚愕の叫びを上げるルミーを見て薄く微笑むタマミズキが告げた。
「貴女達はロベールの言葉を軽んじ過ぎているわ。自分では気づいていないみたいだけど、ロベールの発言は日に日に重く受け取られる様になっていて、人間と五幻種を問わず、かなり周囲に影響を与えているわ。私だって少し一緒にいただけで軽んじる事が出来なくなってきているもの。さて私は何か問題でもあったのかと思って外に来ただけだから先に休ませてもらうわ」
そう言って踵を返したタマミズキの背に私は黙っている事が出来ずに尋ねた。
「契約者が王になるなど前代未聞です。上手く行くと思っているのですか?」
「さあ知らないわ。王になるか、ならないかを決めるのはロベールですし、上手く行くか行かないかも自分次第だと思いますわ。ただロベールの周りには協力してくれる人が何人もいますから必ず失敗するとは思いませんわね。まあ、私も天狐に不利益にならない程度に協力する心算になって来た所ですわ」
そう言ったタマミズキが家に入るのを私は無言で見送っていた。自分次第と言う言葉が心に突き刺さって消えなかった。王になる事を要請された契約者が、傀儡では無い周りが言う事を聞く本物の王になれるのなら、過去の行動の何がいけなかったのかが分かるかも知れないと唐突に思った。今まであった出来事が次々と頭に浮かんでは消え、最後に残ったのはルミーの事と何かが分かり何かが変わると思える期待感だった。権力に対する恐怖は今も私の心にあったが、恐怖を押し殺して前に進む事にした。
「・・・・・ルミー、私も行く事にしますわ。今聞いた事が本当なのか確かめて見たくなりました」
「本当ですか?ううう、良かった。本当は不安だったんです」
「仕方がありませんね。ルミーも魔法女王と呼ばれる程になったのだから毅然とした態度をとらないと駄目ですよ。其れに私はずっと此の森に居ましたから外の事に疎いのです。だから私の方がルミーに頼る事になると思います」
「ああ、お師匠様そう言う事なら任せてください。今までずっと私が頼るばかりだったから、この機会に一生懸命務めさせて貰います」
張り切るルミーに苦笑した私は部屋に戻った後アレーヌに一言行くとだけ告げた。長い時を一緒に過ごした契約相手は其れだけで理解したのか無言で頷いてきた。私は明日からの毎日が私達にとって良いものになる様に祈りながら眠りについた。
「悪いな急がせて。ガルトラントの援軍に行く為に今日の朝早くから仲間達が行軍を始めるんだよ。だから急がないと皆に迷惑をかけてしまうし、それに新しい剣を注文していて受け取る事にもなっているんだ」
「あの・・・私は契約者じゃないので、そんなに速く移動は出来ないのだけど如何すれば良いの?」
「ああ、そうか・・・・仕方ないな。フェルミーさんが嫌じゃ無ければ俺が抱えて移動しますけどどうしますか?」
「・・・・・・・・他の方法は・・・・無いですね。分かりましたお願いします」
顔を赤くしたフェルミーさんを腕に抱えて俺は走り出した。おかしな邪魔も無く、一度来た道を戻ると遠目にバルグーンが見えてきた。
「・・・・・・・・・・・シグルト俺の気のせいだよな・・・」
「・・・・・・・・・残念だけど僕にも同じものが見えるんだ」
「ロベルトはちゃんと役目を果たしたと思うか?」
「説明はしたけど納得はさせられなかったんだと思うんだ」
「途端に帰りたくなくなったんだけど・・・・・・」
「駄目なんだ。如何やら向こうも僕達に気づいたみたいなんだ」
「そうか・・・・・・・」
会話の間も移動していたのでバルグーンの様子が良く見える様になった。其処には既に兵士達が整列して出発の時を今か今かと待ち続けていた。だが問題は其処では無く、一か所だけポッカリと開いた空間がある事だった。其処には完成したばかりの鞭を持って地面に打ち付けている、誰の目にも激怒している事が分かる妹様が存在していた。まだ距離があるのに殺気の様なものが漂って来て身を震わせていると、香織の後ろの見えない所で手を合わせているロベルトが見えた。たどり着きたくないが、たどり着いてしまった俺は決死の覚悟で話し掛けた。
「ただいまカリーナ、心配をかけてしまったかな?一応ロベルトに説明を頼んだんだが」
「説明は聞いたよ、お兄ちゃん。でもお兄ちゃん、話をする前にする事があるんじゃないかな」
香織が目を細めて俺の腕を見ているのに気づいた俺は下を見て悲鳴を上げそうになってしまった。動転していた俺は腕にフェルミーさんを抱えているのにおろすのを忘れていたのだ。慌てておろそうとしたのだが、激怒している香織に見られてフェルミーさんは気絶していた。其れを見て更に動揺しつつも俺はフェルメルさんに声を掛けて素早く引き取ってもらった。ドクドクする心臓の鼓動を意識しながら俺は最後の命綱として逃げられない様に素早くシグルトを抱えると話を再開した。
「は、は、は、急いで帰って来る為にした事だから他意はないぞ。其れに遅くなったのは戦いがあったのと色々聞く事があって時間がかかっただけだし、二人について来て貰う必要があったから準備する為に一晩かかっただけなんだ。なあシグルト」
「ううう、うん、そうなんだ。ロベールがやましい事をしていないのは僕が証明するんだ」
俺とシグルトが必死に言葉を探して口にしているとタマミズキがニッコリ笑って爆弾を投下した。
「そうですわね。昨日、皆で同じ部屋で眠ったぐらいなら何もやましくは無いですわよね」
一瞬で香織が無表情になって俺とシグルトは冷や汗を掻きながら心の中でタマミズキに呪いの言葉を叫んでいた。そんな俺達の耳にタマミズキが近寄ってきて小声で告げた。
「昨日ロベールとシグルトが一緒に居ると言った私を冷たくあしらったお礼ですわ」
グッと言葉に詰まった俺達にタマミズキが満足して離れていくと、香織が無機質な声で告げた。
「お兄ちゃんにも色々言いたい事があると思うけど、まずは私の話を聞いてくれるかな」
この状況で否とは言えない俺達は無言で何度も頷いた。
「昨日お兄ちゃんと別れた私は訓練をしていました。するとロベルトさんだけが帰ってきてお兄ちゃんが出かけたと言いました。お兄ちゃんの移動速度を考えれば今日中に帰って来ると考えた私はずっと待っていました。しかしお兄ちゃんは帰って来ませんでした。フレイとルードルに言われて仕方なく眠った私は朝早くから起きてお兄ちゃんを待ち続けました」
ジトッと見続けて来る香織の視線に罪悪感が生まれて来て視線を逸らした俺に香織が話を続けた。
「朝帰りしたお兄ちゃんは何と腕に女性を抱えて更に他の女性まで連れて帰ってきました。しかも聞く所に依ると昨日は同じ部屋で眠ったそうです。お兄ちゃんは無罪ですか?有罪ですか?立場を変えて私が同じ事をしたと考えれば簡単ですよね?」
戦った上にゼロンに狙われる破目になった俺は無罪だと叫びたかったが、最後の言葉で全ての反論は封じられてしまった。俺は香織が朝帰りしたら嫌だと思ってしまったのだ。ガックリと肩を落とす俺に香織が告げた。
「じゃあ、お兄ちゃん二人でお話ししましょうね。私のお兄ちゃんに相応しい様に教育するから・・・ああ、勿論その後はシグルトとお話しするからね」
鞭を地面に打ち付ける姿に教育ではなく、調教ではないのか?と思ったがとても口には出せなかった。俺の腕の中で体をビクつかせるシグルトと共に覚悟を決めて香織について行った。その後の半クーラは人生について考えさせられた時間になった。あれは走馬灯ではないと思いたかったが、戻ってきた俺にルードルですら優しかったのには泣きそうになってしまった。
ダルトムから出来上がった剣を受け取った俺は小声で話し掛けた。
「ダルトム、この技術をギルドに知られるな。自分だけでなく家族の命も含めて何もかも全てを失う事になる可能性がある。出来れば暫くの間は研究だけにしておいて店も閉めておいた方が無難だ。契約者の俺がいるなら助けられるが、俺以外なら誰に頼んでも無駄になる」
「・・・・・・・・・・・」
俺の言葉に無言になるダルトムに視線で嘘でも冗談でもないと告げるとダルトムが話し掛けて来た。
「全ての町にあるギルドに知られない様にするのは実質商売するなと言う様なものだぞ」
「戦いが終わったら最悪この国のギルドを潰す可能性すら考えている。此れはそう言う話だ。それより店はバルグーンじゃないといけないのか?」
「・・・・・・チィ、店は大事だが家族の命より大事ではない」
「そうかなら戦いが終わってから時期を見て話をしよう」
「・・・分かった」
話しを終えて俺は此方を窺っていたリジェネに話しかけた。
「最後まで慌ただしくて悪いな。また今度時間がゆっくりとれる時に会いに行くから許してくれ」
「別に良いわよ。徹夜で作った武器を渡しに来ても居ない奴の約束はあてにならないもの」
「ウッ、今は色々あるんだよ」
「ロベール、僕達の出発の番が来たんだ」
シグルトの声に急かされた俺は了解の返事をするとリジェネに別れの挨拶をした。
「じゃあまたな。次の約束は守れるはずだ」
「期待しないで待ってるわ」
その声を背に俺はシグルト達と共にガルトラントに向かった。
その頃リラクラントとサザトラントの境では激しい戦闘が行われていた。
「民を守るのを最優先にしろ。騎士団の誇りにかけて犠牲者を出すな」
「しかしミリステア様、此のままではいずれ持ち堪えられなくなるのは目に見えています。此処はやはり敵の殲滅に切り替えるべきではないでしょうか」
仲間の騎士の言葉に私は顔を歪めたが、確かにその発言に一理がある事に気づいていた。今は個人の力量と騎士団の訓練で身に着けた連携で耐えているが、敵の総数の方が多いので、いずれ体力の限界が訪れるだろう事は分かり切っていた。そしてそうなってからでは反撃も出来ずに全滅もありえるのだ。だから今民を守るのを止めて殲滅に切り替えるのは犠牲は出るが敵を殲滅して全滅を防ぐ正しい判断だと冷静な部分では理解出来ていた。
「・・・・・私は・・・・・」
「お前が指揮官だな。その首貰った」
悩む私に前衛を突破した敵兵が斬りかかって来た。敵兵の剣は力こそ強いが粗い剣で私は癖を見ぬいて素早くかわすと一撃で首をはね飛ばした。敵兵の首から血が噴き出て体が倒れるのを視界に収めながら、私の元に敵兵が来たのはついに恐れていた事態が始まった所為だと気づいていた。とうとう一部の騎士達に疲れが見え始めたのだ。此処が最後の分岐点だと気づいている私は覚悟を決めて命令を声に出そうとした。
「護衛から殲滅に・・・・・・・」
其処まで言った時に突然空から炎が降って来た。敵兵の集団の一部が炎に焼かれ絶叫が辺りに響いた。敵も味方も動きを止めて空を見上げると、そこには百羽を超える炎鳥の集団が何時の間にか存在していた。
「娘よ、お前が此の集団の指揮官か?我は炎鳥の王でリフレオンと言う」
私は皆と共に呆然としていたが、掛けられた言葉にハッとして慌てて言葉を返す事にした。
「そうです、私はミリステアと言います。しかし炎鳥の王?其れはフレイの親と言う事でしょうか?」
「ムッ、娘を知っているのか?」
「ああ、か、カリーナと契約しているでしょう。私も何度か話した事があります」
動転していた私が名を言う時に詰まったのを見てリフレオンは理解した様だった。
「如何やらかなり親しい様だし、此れは助けて正解だったみたいだな。見捨てて居たらまたフレイの怒りを買う所だった・・・。ミリステア、部下を下がらせると良い。あいつらの相手は我がしよう」
「お待ちください王よ。その様な事を王自らしなくとも我らが行います」
「気づかいは嬉しいが此処は任せてくれ。自主的に行動しないとフレイが煩いし、また燃やされてはかなわん」
私の目にはリフレオンの発言に炎鳥達が怯んだ様に見えた。リフレオンが視線で私の行動を促してきたので大声を上げて指示をだした。
「総員、民の所まで後退しろ」
私の言葉に従って騎士達が後退するとリフレオンが一匹で前に出た。五メーラを超えるリフレオンの姿に敵が怯んで冷や汗を掻くのが見えた。
「我が娘の知り合いに攻撃し、その場に我が居合わせた己が不幸を嘆くが良い」
一瞬で真紅の炎を纏ったリフレオンは翼を羽ばたかせて敵の中心に突っ込んで行った。音速を超える速度で巨体が飛ぶ所為で暴風が吹き荒れ、真紅の火の粉が舞い散った。敵兵が木の葉の様に吹き飛び火の粉に触れた敵兵が火だるまになって絶叫をあげる光景に民達の中には気絶する者が現れ、騎士達ですら茫然自失に陥る者がでていた。私自身もただ一匹で敵兵を殲滅する炎鳥の王の力に冷や汗が止まらなかった。
「・・・・此れが五幻種の戦いなのか?・・・・力の規模が違い過ぎる・・・」
自然と出てしまった独り言に近くにいて暴風や炎から私達を守っている炎鳥から言葉が投げかけられた。
「貴女が言った様に力が違い過ぎるから我らと人間は長い間お互いに干渉をしなかったのだ。しかし今交流が生まれつつある。龍が食糧を運び、我らも今人間を運んだ帰りだ。王女の知り合いの人間よ、この力を見てもまだ交流出来るかね」
真剣な顔でジッと私を見つめる視線にハッとして態度を改めた。
「助けられておきながら失礼しました。その答えは此れからの行動で示させて貰います」
そう言って頭を下げた私は未だに茫然としている騎士達に鋭い声を掛けた。
「お前達何をしている。倒れた民の手当てと炎鳥達は味方だから怯える必要は無いと状況を説明して回れ」
私の声に我に返った騎士達が慌てて行動を始めるのが見えた。騎士達の説明に民達が落ち着くのが見え安心していると、私の元にリフレオンがやって来た。如何やらもう敵を全滅させたみたいだった。
「これから如何する心算だ?必要なら手を貸すぞ」
「私達はリラクトンに向かっているのですが、手を貸していただけるのですか?」
「関わった以上見捨てる訳にもいくまい。フレイに怒られそうだしな。もっとも我らが出来るのは女子供と老人を背に乗せて運ぶ事だけだがな。残念ながら全員は不可能だし、流石に荷車は論外だ」
途中ボソッと呟いて聞こえない所もあったが、リフレオンのありがたい申し出に安堵して微笑を浮かべて返事をした。
「いえ十分です。皆と話し合う時間をいただけますか」
「ああ、我らは此のまま待機しているから好きにすると良い」
リフレオンに礼を言って民達と話し合うと引きつった顔をして怯える者が続出した。私は必死に既に他の者を乗せているから安全だと言って回り、更に私も一緒に乗ると言って何とか説得する事に成功した。そして今リフレオンの背に乗って空を飛んでいる私は遠くの景色を見て感動していた。お爺様が飛ぶのを怖がっていたので最初は身構えていたのだが、私にとってはまた飛びたいと思える良い体験になったのだった。
その頃ガルトラントではガルトラント卿とベルスの交渉が長時間行われていた。
「・・・・・色々聞いたが抑々儂はリグレス公爵が本当に生きているのかと考えている」
「な、当然でしょう。私は公爵達の使者として此処にいるのです」
「・・・儂が最後に見た時の怪我は致命傷に近い物に見えた。生きていたとしても軍を率いて此処まで援軍に来れるとは思えないのだが?其れに儂にはリグレス公爵がメルクラント卿とバルクラント卿に勝てるとは思えないのだ」
「先程から何度も申し上げたと思いますが私は龍人ロベールの配下になります。公爵は我が主の力で治療されて完治していますし、主の指揮に依ってお二人を破ったのも事実です」
唸って動かなくなってしまったガルトラント卿に娘のセルフィーヌが話し掛けた。
「お父様、先程からお話しが平行線になっていますわ。契約者がいると言うのは信じがたいですが、疑り過ぎても良くありませんわ。抑々お三方が共同で動いているなら下手な小細工をしないでも正面からぶつかるだけで私達に勝てますし、逆にリグレス公爵が敗れたのならもう考えても無駄ですわ。まあこうして援軍の使者が来ているのですから私は嘘ではないと思いますけど・・・」
身も蓋もない意見に顔を引きつらせるガルトラント卿の元に一人の男が紙を持って走ってきた。
「ベルグス様、此れを見てください」
「今は来客中だぞ」
「それどころではありません。さあ早く」
ガルトラント卿が訝しげにしながら紙を見ると一瞬で顔色が変わった。
「今すぐ偵察を出せ。もし最悪の事態なら付近の住人をガルーンに避難させるのだ」
ガルトラント卿の指示に男が踵を返して走り去っていった。
「ガルトラント卿、何があったのか教えて貰っても良いでしょうか?」
「・・・五メーラを超える巨大な砲が確認されたそうだ。次の連絡が無ければ砦が陥落したと思って欲しいと書かれていた」
「ガルトラント卿、主達にも報告して良いですね」
俺が厳しい視線を向けて尋ねるとガルトラント卿は一瞬口ごもったが頷いて許可を与えてきた。俺は素早く部下を呼んで告げた。
「敵の巨砲に依って砦が陥落した、対抗手段は契約者しか存在しないと思われるので急いでガルーンに来て欲しいと俺が言っていたと伝えてくれ」
俺の言葉に部下が了解の返事をして飛ぶように去っていった。
「なな、何を言っている。まだ砦が陥落したとは確認されていないぞ」
「残念ながら帝都の消滅を見た私には、その報告が確かなら確認するまでも無く落ちていると確信出来ます。契約石が関係する敵の力には契約者しか対抗できません。此の事はもう我らには常識になっています。そしてその砲も今までの物と違う以上、確実に契約石を使った物でしょう。だから主の到着が間に合わない時はガルーンを一時放棄して撤退するべきです」
俺の言葉に怒気をあらわにしてガルトラント卿が怒鳴り声を出した。
「貴様、いい加減にしろよ。ガルーンを放棄だと?出来る訳が無いだろうが。そんな事をしたら死んだ両親と祖先に顔向けが出来んわ」
「・・・帝都の様に消滅するかも知れませんよ。戦いにすらならずに死んだら唯の犬死にでしょう。それに娘さんも死なせたいのですか。それが嫌なら逃げる準備はして置く事です」
「貴様・・・・・・・」
「お父様、落ち着いてください。まだ砦が落ちたと確定していないし、ガルーンに籠るのが良いのか、逃げるのが良いのかも情報が無ければ判断できませんわ。使者殿も口には気を付けて貰えませんか」
「申し訳ありませんが意見は変わりません。其方がやらないのなら私達の方で行っておきます。御二人は主が間に合う事を祈っていてください」
「貴様・・・・まだその様な・・・・・・・」
怒りに言葉を詰まらせるガルトラント卿に俺は静かな重々しい声で告げた。
「ガルトラント卿が怒るのは常識的に見て正しいと思います。ですが俺の判断も常識的に見て正しいのです。リグレス公爵もバルクラント卿もメルクラント卿も、契約者の力でしか対抗できない力があると理解していますから巨砲の事を聞けば即座に戦う選択を放棄するでしょう。此れは契約石の所為で消滅した帝都の跡地を見た人達の中では常識なのです」
俺の声音に何かを感じたのか黙り込んだガルトラント卿に告げた。
「契約者と共に行動して、帝都の消滅、龍の集団や五幻種、契約石の力など色々な常識外の物を見ました。其の所為で何時の間にか俺達の常識が変わってしまったのでしょう。基本的な常識が違ってしまった以上話し合ってもかみ合わないでしょうし、それに今はかみ合うまで話し合う時間も無いのでお互いが出来る最良の事をするべきだと思います。俺もガルーンを見捨てたい訳では無いので契約者の主が間に合う事を祈っておきます」
俺は二人に一礼してやるべき事をやる為の準備をしに足早に去っていった。
「儂は間違っているか?最後の方の言葉は嘘には感じられなかった」
「お父様、嘘であろうと無かろうと私達に此の地を放棄する選択はありませんわ」
決意に満ちた視線に儂は苦笑いを浮かべる破目になった。全く誰に似たのかと首を傾げていると娘から睨まれてしまった。
「何か言いたい事があるのなら言ってくださっても良いのですわよ」
「ミルフィに何時でも動ける様に用意をする様に伝えてくれ」
「お父様、何を・・・・・・・」
視線で言葉を遮ると私は反論を許さない重圧感のある声で告げた。
「セルフィーヌの役目は次々代のガルトラントを継ぐ者を生む事だ。子供もいないまま一人娘が死んだら我がガルトラント家はおしまいだ。儂に孫がいないのは結婚したくないと言ったお前の我が儘なのだ。今まで其れを許していたのだから今回は大人しくして貰うぞ」
ムッとして黙り込んだ娘に笑いかけると話しを続けた。
「ミルフィの事を頼んだぞ」
「・・・・・お母様の事は分かりましたが、私は・・・」
「駄目だ」
「・・・・・・分かりました」
明らかに納得していない顔をしている娘に一瞬不安になったが、今この状況でおかしな事はしないだろうと考えて一抹の不安を押し殺す事にした。娘がミルフィの部屋に向かうのを確認してから、儂はベルスの言葉が本当になった時の事を考えて、砦から落ち延びて来る者達の部隊の再編を考えていた。
次話の投稿は30日の12時ごろを予定しています。申し訳ありませんがご了承ください。




