契約者達と新技術とギルドの疑惑
俺は約束を果たす為に朝食を食べてすぐに香織達を連れて武器屋に向かった。中に入ると其処には俺の顔を見た瞬間に不機嫌になるリジェネと其れを見て苦笑している男の人がいた。
「お早いご来店ありがとうございます」
顔はニッコリと笑っていたが目は冷たく輝いているのが良く分かった。
「リジェネ、遅れたのは謝るからそう怒らないでくれないか?魔金と魔銀も約束通り持って来たんだしさ」
「それはそれはお忙しい契約者様のお手を煩わせて申し訳ありませんね」
リジェネが怒っている理由が分かった俺は素早く振り向いて一緒について来たロベルトに鋭い視線を向けた。
「おい何故リジェネが知っている?」
「いや・・・武器の注文をしている時に魔力が消費するから無理だと言われたんだ。でだな、その時に知らないとは思わなかったから、何言っているんだ?ロベール達は契約者だから魔力が尽きる訳無いだろと言ってしまったんだよ」
「ふふふ、誰かさんが教えてくれなかったからいらない心配をしていたわ。私の心配を返してほしいわね」
リジェネの声に振り向くと俺は白い目にさらされた。
「・・・その事も謝るから許してくれないかな?シグルト隔離してから姿を見せてくれ」
俺の言葉にシグルトとフレイ達が姿を現すとリジェネ達は驚いて目を見開いていた。
「リジェネ、まずは謝るよ。言わないで悪かったごめん。でも簡単に言える事じゃないのは理解してほしい」
リジェネはシグルト達を見た驚きで怒りが薄れたのかまだ不満そうではあったが頷いてくれた。
「さて貴方が魔金銀を開発したリジェネの父親ですか?」
「おう、俺がリジェネの父親のダルトムだ。剣が売れたのと魔金と魔銀が手に入ると娘から聞いてどんな奴かと思って待っていた。聞いて初めに思ったのは娘の気を引きたい下心満載の男だと思っていた。うちの娘は外見は綺麗だからな」
「確かに綺麗だとは思いますが俺にそんな心算はありません」
「だろうな、お前さんの後ろにいる女性の今の反応を見たら嫌でも分かる」
ダルトムさんの言葉に苦笑いが浮かんでしまった。俺が綺麗と言った時に香織が出した威圧感は何所に逃げても必ず捕まると思わせられる物だった。正直言って好意を抱いていない香織以外の人から向けられたら重たすぎて恐怖しか感じられないと思えた。
「さて話を戻すが俺は今お前さんを目の前にして善意だけで魔金や魔銀をくれる男には見えないんだ。俺に何を要求する心算何だ?」
「やはり分かりますか・・・。この剣の力を見た時に俺は二つの事を考えました。一つは人を傷つけないで戦える武器を作れると考えて凄いと思いました。でもそれと同時に俺はこの剣に使われている新技術は危険すぎると思いました」
「危険か・・・。だが其れなら何故俺に手を貸すんだ?妨害した方が良いんじゃないか?」
「妨害は最後の手段です。俺は設定の制限と対抗手段を開発して貰おうと考えています。じゃないと此の魔金銀は秩序を崩壊させるかも知れません。例えば牢屋などは結界が張ってあるけどこの剣は設定さえすれば簡単に牢を斬って脱獄させる事が出来ます。更に家などの壁もアッサリと斬って穴をあけられるでしょうし、支柱を斬れば倒壊させる事も出来ますよね?そして此れは砦や城でも可能でしょう。金庫や封印も斬れるでしょうし、開発が進めば五幻種はおろか魂の様な実態の無い物まで斬れる可能性があります。何より一番の問題は魔力の消費量を抑える事に成功したら誰にでも使えると言う事です」
俺の言葉に店内は重苦しい沈黙に包まれた。リジェネはその可能性について全く考えていなかった様で蒼白な顔で震えていた。しかし開発者のダルトムさんは初めから気づいていたみたいで苦笑いを浮かべたが俺にキッパリと告げてきた。
「俺は今までにない新しい物を作りたいと思って生きてきた。だから魔金銀の開発は止めないし、制限は絶対に受け入れない」
「・・駄目ですか・・・そうなると手段の一つとして危険人物として拘束する事も視野に入れないといけなくなるのですが、考え直してくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
お互いに無言で睨み合っていると慌てた様子の涙目のリジェネが叫びを上げた。
「待って待って待って、なんでこんな話になっているの?今日は魔金と魔銀が手に入って喜ぶんじゃないの?」
「だそうですよ、大人しく引きませんか?リジェネが涙目ですよ」
「駄目だ。お前こそ諦めろ」
「はあーー、分かりました今は諦めます。でも問題が起こったら俺は問答無用で対処しますよ」
「・・・・・分かったそれは受け入れよう」
「じゃあ今から魔金と魔銀を渡します」
俺が魔銀を出そうとすると訳が分からないリジェネが怒りの声を上げた。
「何二人で勝手に話を進めているのよ?私にも分かる様に説明してよね」
「うん、お兄ちゃん私も説明してほしいな。結局どんな結論になったのかな?」
「結論は簡単に言うと対抗手段の開発をする事と問題が起きたら対処する事が決まった。俺としては制限も受け入れてほしかったけど娘が涙目になっても受け入れない外道さに敗北したところだ」
「何を言う。娘をダシにして譲歩を迫るお前の方がよっぽど外道だろうが」
「そんな訳無いでしょう。俺の言った対処の中には貴方達の安全も含まれるんですよ。まあ此れは後で詳細を話し合ってからになりますけど」
説明したくない部分を誤魔化す意図もあってワザと言い合う俺達の横でタマミズキが香織とリジェネに話す声が聞こえた。
「良く聞きなさい、まずはダルトムが提案を全ては受け入れないと言ったの。其れにロベールはそうなると拘束される危険があると告げたわ。でもダルトムは引かなかったのでロベールが今回は引いたの。そして引いた代わりに問題が起きたらロベールの指示に無条件で従うと言質をとったわ。其れが今回の交渉の簡単な説明ね。まあ他にも色々な意味が隠されているみたいだけど・・・。言葉は受け取り方で大分変るから交渉の時は何所に罠があるか分からないから気を付けなさい」
俺達が言外にしていた駆け引きの説明はしていないとはいえ、ああやって説明されると複雑な気分になった。タマミズキの説明が終わるのを見届けてから今度こそ魔銀を取り出す事にした。
「シグルトも魔金を出してくれ」
俺がシグルトと共に三割くらいの魔金と魔銀を出した時、突然俺達は後ろから頭を叩かれる事になった。驚いて振り返るとロベルトが厳しい視線で睨んでいた。
「お前らは相場を暴落させて混乱を生む心算か?魔金も魔銀も希少金属なんだぞ。其れを黙って見ていれば延々と出し続けやがって。見て見ろあそこの二人が凍り付いているだろが・・・」
ロベルトの言葉に従ってダルトムさんとリジェネを見ると其処には大量の魔金と魔銀を見せられて、目を見開き口元を引きつらせてピクリとも動かない姿があった。
「おい、大丈夫か・・・」
「えええーーーー、ななななな、何でこんなに大量の魔金と魔銀を持っているの?まさか契約者は此れが普通なの?じゃあ私の今までの苦労は何だったのよ?」
「・・・魔銀はまだ良いが、此処にある魔金は此れだけでバルグーンで使われる一月分以上あるんじゃないか?値段なんぞ考えたくもないな。一応確かめて置くが娘はやらんぞ」
「いらないに決まっている。質問するが此処の武器は魔金と魔銀の合成だと聞いたぞ?此処にある武器全ての金属の量を合わせれば出した分と比べても三割はあると思うんだが?」
「娘からどんな説明を受けたか知らないが金や銀を初めとして他の金属も使われている。剣一本に含まれる魔金の量は全体の一割未満だ。抑々魔金と魔銀だけで剣を作れるのなら設定を複数つけて切り替える事が可能だ。だが値段は十倍以上になるし、魔力の消費量は五十倍以上増えるはずだ」
「なあ、依頼した武器はもう出来ているのか?」
「完成しているのはお前さんの短剣と妹さんの短杖の二つだけだ。剣と銃と鞭にもなる紐は出来ていないし、暗器の方は数があるから全部作るには半月はかかる。後やはり銃は初めて作るから時間がかかりそうだ。完成まで四半月はほしい」
「それなら剣と紐を魔金と魔銀だけで作ってくれないかな。明日の朝ガルトラントに移動するからその時までにほしい。可能かな?」
顔を一瞬で顰めたダルトムさんは魔金と魔銀を見てからため息を吐くと覚悟を決めたのか威勢の良い声をだした。
「リジェネ今日は店じまいだ。徹夜仕事になるからリーシェに説明して来い」
「分かった、お母さんに説明と一緒に夜食も頼んでくる」
リジェネが明るい声で奥に入っていった。
「設定は如何するんだ?時間が無いから早く決めてくれよ」
「俺の剣は命の有るものと無いもの、そして魔法を斬れる様にして欲しい」
「私は命の有るものと無いもの、そして女だけを斬れる様にしてください」
香織の冷え冷えとした言葉に一瞬だが恐ろしい程の静寂が訪れて、俺がコッソリと香織を窺っているとフレイがやれやれと言った顔をして頭を振るのとタマミズキが薄らと微笑んでいるのが見えた。
「おお、おう任せておいてくれ。さあ武器は明日の朝に町の入り口で渡してやるから今日は此れを持って帰ってくれ」
動揺しているのが隠せていないダルトムさんに、出来上がっていた短剣と短杖を渡されて急き立てられて店を出る事になった。その後俺達は話し合って香織とフレイとルードルが護身術などを習いに向かって、俺とシグルトとロベルトとタマミズキがギルドに向かう事になった。分かれる時香織は何も言わずにニッコリ笑っていたのだが、その姿を見てお兄ちゃん分かっているよねと言う言葉が聞こえて来た様に感じてしまう俺の精神はかなり追い詰められているのではないかと考えさせられた。
ギルドに入ると一組の男女が話し掛けて来た。
「おやロベルト、生きていたんだね。ずっとこっちに顔を出さないからついに親父さんに斬られたかと思っていたんだ」
「フッ残念だったな。俺はついに親父さんに認められたぞ」
「ええーー、嘘でしょ。私が前に聞いた話だと屋敷に忍び込んで奥さんと会っていたら親父さんにばれて斬り殺される寸前で娘さんに助けられたと言う事になっていたわよ」
過去に醜態を語られてロベルトの顔が目に見えて引きつって、俺はおいおい何やっているんだと思ってしまった。心の声が聞こえたのか知らないがロベルトが俺に向かって弁解して来た。
「アリステアの誕生日だったけど緊急性のある仕事が入って待ち合わせた時間に行けなくて、終わった後で何時も使っていた知り合いがやっている待ち合わせの店に行ったら、ずっと待っていたけど来ないので激怒して帰って行ったと言われて焦って謝りに行ったんだ。贈り物を渡して遅れた理由を告げて機嫌を取る事に成功して良い雰囲気にすらなったんだが、そこに娘への贈り物を持ってきた親父さんが来ちまって・・・・・・・・後は分かるだろ」
「あはは、そんな事言っているけどあんたは似た様な事を何回したんだい。親父さんだって毎回そんな場面を見せられたら怒るに決まっているわよ」
「クッ・・・・・・」
俺がうわーー、何度も見つかるとは間が悪い奴だなと思っていると女性にからかわれているロベルトに気づかれない様に男の方が小声で話しかけてきた。
「俺の名はカルシンで昔ロベルトとチームを組んでいたんだ。此奴は色々あるが良い奴だからよろしく頼むな」
「俺の名はロベールです。頼みは引き受けましたけど、ミルベルト卿に認められたのは本当ですから大丈夫ですよ」
俺がそう言うとカルシンは驚いた顔をした後嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「おい、ロベルト如何やら本当に認められたみたいだな」
「ええ?本当なの?うわじゃあ今ロベルトは名実共に貴族なの?」
「まあそうだが態度を変える必要はないぞ。親父さんの後を正式に継ぐまでは今まで通りで何も変わらないからな」
三人は笑い合うと一瞬で顔を真面目なものに変えて話し始めた。
「魔法女王フェルミーの情報が欲しいんだ」
ロベルトがフェルミーの名を出すと二人の顔色が変わった。
「奥の部屋で話そう」
ギルドの受付の人と話して奥の部屋に皆で入るとカルシンが口を開いた。
「フェルミーは商連合国に居たが今はガルトラントにいると思われている。ただ問題は特一級の指名手配を受けている事だ」
指名手配と聞いてギョッとしているとロベルトが押し殺した声で尋ねた。
「特一級は発見したら問答無用で殺せと言う事だぞ。国家反逆罪に匹敵する事をやらないと使われないはずだ。ギルドはどんな説明をした」
「いや、ヤバいのは此処からだ。ギルドは通常行われるはずの説明をしていないんだ。しかも理由を調べようとした奴らの内の何人かと連絡がつかなくなったと聞いている」
「連絡がつく奴らは途中で諦めた奴らで、理由はギルドから忠告が来たからだと聞いているわ」
「・・・・ギルドが何かを隠していると・・・・」
「・・・それは分からない、兎に角今フェルミーの話題は禁句になっているんだ。ロベルトは何故知りたかったんだ?」
「フェルミーがオークションで契約石を手に入れたと聞いたんで会いたいと思ったんだよ」
「ああ、あの魔法の力を増幅すると言う最近噂の石の事よね。私も魔法を使うから手に入るなら欲しいわね」
「シスカ、俺は契約石を使う奴とは仲良く出来ないぞ」
ロベルトが重たい口調で二人に契約石の事を詳しく話して聞かせた。
「・・・・・悪かったわ。そんな物だとは知らなかったわ」
「しかし其処まで危険な物だとは思わなかったな。・・・・・仕方ないな。本当は言う心算はなかったんだが、フェルミーの居場所はガルトラント北西の不確定領域との境近くの森の中だとギルドは考えているみたいだ」
「不確定領域の境だと・・・・正気か?月がかわるまでまだ時間はあるが踏破するほどの時間は無いだろう?」
「ええ、今は山だから登って反対に行くのは不可能だわ。だから付近を閉鎖して探すみたいよ」
「誤情報や何らかの方法で騙されている可能性は無いのか?」
「多分ないと思うわ。何故ならギルドの粛清部隊が動いたと聞いているもの」
「・・・・冗談では無いよな」
「残念ながら俺が確認済みだ」
ロベルトが冷や汗を掻いているのを見た俺は肩を掴むと声を掛けた。
「俺にも分かる様に説明してくれないか」
「ああ、粛清部隊と言うのはギルド本部が抱えている暗殺者の部隊だ。この部隊が動いていると言う事は所在地すら分からない本部が動いていると言う事なんだ」
「ちょっと待ってくれ。本部の場所が分からないのか?」
「ああギルドは国に属さない中立の組織だから本部の場所はギルドの幹部しか知らないと言う事になっている。だが俺が聞いた話しの中には本部の場所は誰も知らないなどと言うものまでがある。分かっているのは一つだけで本部には直属の部隊があってその部隊に狙われたものは抵抗出来ずに処分されると言う事だ」
ロベルトの言葉に俺は顔を顰める事になった。話を聞いてギルドの存在が胡散臭く感じられた。そしてそんなギルドに追われているフェルミーの存在が気になった。明らかにギルドが都合の悪い事を知られたので口封じをしている様に見えるのだ。チラリとタマミズキを見て考えを纏めるとロベルトに話しかけた。
「ロベルトその場所までバルグーンからどれ位の距離があるんだ?」
「直線距離で二十キーラといった所だな。普通に移動するなら強力な魔獣などもいるから迂回して三十キーラ以上になるだろう。戦闘なども居れたら二日以上はかけるのが普通だな」
「ロベルト、嫌な役割になるが皆に出かけると伝えてくれ。遅くとも明日の朝までには戻る」
「・・・・八つ当たりされそうな嫌な役割だな。だが伝えておくから安心しろ」
「じゃあ行きますか・・・」
俺は部屋を出ると足早に町の入り口を目指した。
俺は町を出てから人が見てない事を確認してすぐに音速を超える速度で走り始めた。途中に現れた魔獣を蹴り飛ばし、邪魔な岩を拳で粉砕し、更に音速で移動している所為で木々を傾かせ、まさに力ずくで無理やり直線距離を進んでいた。そのかいあって俺達は既にガルトラントの中にたどり着いていた。
「此処からは慎重に行くとしよう。タマミズキ、まだ索敵魔法に反応はないのか?」
「今の所・・・いえあったわ。ここから南西に二キーラだと思うわ。でも西に移動しているみたいだわ」
「分かったすぐに向かおう」
一キーラ程移動した時だった。突然目の前に黒い服装の人間が五人立ちふさがった。
「お前らは・・・・」
俺は声を掛けようとしたが相手の反応は問答無用の攻撃だった。俺の目の前に苦無の様な物が次々と飛んできた。右へ左へと飛び跳ねてかわしていたのだが一撃だけかすってしまった。掠り傷ですぐ治ったので気にしないで敵に接近しようとして右足を出したとたん膝から力が抜けるのが分かった。地面に倒れ込んだ俺の耳に敵の声と仲間の声が聞こえた。
「接近していた奴は倒した。すぐに任務に戻るぞ」
「貴方、毒を使ったわね。そんな手段を使う敵には容赦しませんわ」
「今治療するんだ」
シグルトが動けない俺を治療している間にタマミズキが戦いを始めた。
「うふふふふ、まずは一人目ですわ」
声を出した瞬間に一番近くの男の首を小太刀で無造作に斬り、タマミズキは華麗な足さばきで残った四人の方に向かって行った。
「何所にいる?姿を現せ」
男の叫ぶ声を聞いて俺はタマミズキの姿が敵に見えていない事に気づかされた。
「うふふふふ、残念ですけど毒を使う様な者に見せる程私の姿は安くありませんわ」
声と同時にまた一人小太刀で首を斬られて絶命させられていた。その戦う姿は舞を舞うように華麗だったが、姿を見せずに一撃で一人また一人と手慣れた感じで命を絶つ姿は死神を連想させられた。
「く、おのれ」
最後に残された男が踵を返して逃げようとするとタマミズキはくすりと妖艶に微笑むと声を出した。
「私が逃がす訳が無いでしょう。悪あがきをしてはいけませんわ」
取り出した棒手裏剣を逃げる男に投げ付けるとアッサリと首に刺さるのが見えた。全員が死ぬまで数える程の時間しか経っていなかった。シグルトに治療の礼を言って立ち上がろうとした時だった。首を斬られて死んでいるはずの男の指が動いた様に見えて俺は咄嗟に叫んだ。
「避けろタマミズキ」
タマミズキが俺の声に反応して男の攻撃をかわすのが見えた。
「・・・・・確かに殺したはず・・・・其れに私の姿が見えているのですか?」
驚きながらも男の攻撃をかわすタマミズキの後ろで他の男達も起き上がっていた。場に嫌な雰囲気が漂ったので、俺は素早く立ち上がって緊張した声で話し掛けた。
「・・・・タマミズキは全員殺したんだよな」
「ええ、確実に殺しましたわ。・・・私は殺しを厭う訳ではありませんもの」
「シグルト、前に死体が動くと聞いたんだがこう言う事なのか?」
「いや、殺してすぐの死体が動くのはあり得ないんだ。動くのは腐敗が始まってからなんだ」
「がああああああああああああ」
話している時に響き渡った突然の咆哮にビクつく俺達の前で男達の体が変化し始めた。髪や体色が緑に変わり、手足に鱗が生えて更に目が竜の様になっていった。変化し終わった姿は人間とリザードマンを半端に融合したみたいだと言えば分って貰えるだろうか。
「おいおい、ファーレノールにはこんな生物もいるんだな・・・・」
「悪質な冗談はやめて欲しいんだ。こんな生物がいる訳無いんだ」
「・・・・ねえ私が聞かされた仲間を倒した者達に似ているのは気のせいかしら」
「うわ酷、俺が体色が変わるなんて報告は受けていないから違うだろうと必死に思い込もうとしていたのが台無しだ」
重苦しい雰囲気を吹き飛ばそうと軽い声音で言った俺の言葉は敵の素早い踏み込みで中断させられた。敵が踏み込んだと感じた瞬間に拳が目の前に跳んできていた。明らかに音速を超えた速度だ。かろうじて顔の前に腕を差し込んで防御したが凄まじい力で吹き飛ばされる事になった。砲弾の様に吹っ飛んで木に背中をぶつけるとせき込みながら声を出した。
「人間の力じゃないな。メルボルクスに殴られた時と同等の衝撃だったぞ。シグルト、タマミズキ一体ずつ任せるぞ。残りは俺がやる」
俺は手に入れたばかりの短剣を出すと反撃に移った。まず敵がやったみたいに素早く接近して、一瞬の躊躇いの後覚悟を決めて首に斬りつけた。敵は腕の鱗で短剣を防ごうとしたみたいだが、俺の短剣は凄まじい切れ味を見せて腕ごと首をはね飛ばした。短剣の切れ味が良い所為で手応えを感じないので、斬った敵の体が倒れるまで見届けて自分のやった事を心に刻むと次の敵に向かっていった。
「うおおおおおおおお」
自然と出てくる叫びを上げながら二体の敵に斬りつけていった。腕を斬り落とし、心臓を刺しても動きを止めない敵は時間が経つにつれて段々動きが良くなり、とうとう連携し始めてしまった。
「チィ、長引かせると不味い事になりそうだな。もう少し敵の情報が欲しかったが魔法で一気にけりをつけるとするか」
大きく後ろに跳んで間合いを開けた俺は周囲に気を付けながら軽く強化した火炎球を放った。敵は俺の動きの変化について来られなかったのかポカンと口を開けて立ち尽くしている様に見えた。
「よしこれで終わりだな」
自然と出た独り言に苦笑した時だった。微かに敵の口が光った様に見えた俺は反射的に右に跳んでいた。敵が口から光線を放って俺が放った火炎球は貫かれて爆発した。軽くとはいえ強化してあったので爆発はかなり大きなものになり、敵を傷付け地面に倒していた。だがそれは俺にとっては不幸な出来事になった。
「うおおおおおおおお」
俺がかわした方に光線が移動して来て叫びを上げて跳躍した俺は更なる危機に見舞われていた。光線が薙ぎ払った森の木々が切り倒されて頭上に倒れ込んで来たのだ。木が倒れ込んで来る位、契約者なら問題無いと思うかも知れないが其れは俺の世界の木を想像しているからだろう。此処はファーレノールで今周りにある木は高さが五百メーラはある木なのだ。
「ふざけるなよ、潰されてたまるか・・・・うおおおおおおおおお」
俺は剣を取り出して短剣と共に倒れて来る木に振って斬り飛ばし続けた。忌々しい事に敵は自分の身を庇う事をせずに俺に光線を放ってきていた。俺が光線を左右にかわして動くと光線も追ってきて、其の所為で切っても切っても新しい木が倒れて来るのだ。何時しか俺は怒りを込めて敵を睨んでいた。そして時間が経ちもはや周囲に倒れる木が無くなって安全が確保された俺は未だにしつこく光線を放ってくる敵に罵声と共に魔法を放った。
「そんなに光線が好きなら光線で死にやがれ」
怒りに我を忘れた俺は光の矢の魔法を限界まで強化して放っていた。放った瞬間我に返ってヤバッと思ったが後の祭りだった。放たれたのは直径五十メーラはある光の壁で、もはや矢と呼べる物ではなく全てを消滅させながら直進して行った。
「うわ、危ないんだ」
「こらーーー、私も殺す心算なのではないでしょうね」
シグルトとタマミズキの声が聞こえたが俺は動揺していて答えられなかった。目の前には道が出来てしまっていた。たとえ幅が五十メーラあろうとも道なのだ。そう思わないとやってられないと思った。
「・・・・・まあなんだ、方角的にちょうどいい道が出来たから移動しやすくなったよな?」
「そんな訳無いんだ。巻き込まれそうになって冷や汗を掻いたんだ」
シグルトの白い視線が突き刺さった。
「そうねえ、方角はあっているから移動時間は短縮出来そうだけど、私みたいに殺されそうになっていなければ良いわね」
タマミズキの言葉が心に突き刺さった。
「・・・・・・・・・・・・」
引きつった顔で無言になった俺にシグルトとタマミズキは満足したのか笑い合うと話し掛けて来た。
「まだ生きているから安心しなさい。それと私もシグルトもこの程度で死ぬ事はないわ」
「うん、僕達五幻種にとって今の魔法なら傷を負っても死ぬ事はないんだ。でもだからこそ分かるけど、先程の男達は天狐を襲った男とは別物だと思うんだ」
「そうね、関係はしていると思うけどあの程度では百人は集めないと脅威にすらならないわね」
「だが死んでいるのに襲い掛かってくるのは脅威だし、普通の人達は力の強い人達じゃないと真面に戦えないはずだ。何より厄介なのは殆どの町にあるギルドが黒になったと言う事だ。対処するとなると国にかなりの被害が出る大事だぞ」
「あらあら、国の心配とは王になる事に決めたのかしら?」
「いや、今はまだ覚悟が足らない。今初めて死体の元人間の首をはねたけど、まだ俺は動揺したままだ。王になった後に覚悟の無さから判断が遅れて沢山の人を死なせるのはごめんだ。周りは其処まで求めていないのかも知れないが俺自身が気にしないではいられない。幸いまだ時間があるから少しずつ覚悟を決めていって、時間までに確りとした覚悟を決められるか如何かで決めようと思っている」
「なら一緒にいる僕も覚悟を決めておくんだ」
「ありがとう、シグルト。さて遅れた分を取り戻す為に急いで移動しよう」
俺達は頷き合うと移動を始めた。移動中タマミズキが俺とシグルトをジッと見ていたが、話し掛けて来ないので今は気にしない事にして敵の気配を探る事に集中した。
日曜に執筆出来るか分からないので次話の投稿は23日の0時ごろか12時ごろにさせて頂きます。申し訳ありませんがご了承ください。




