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契約者達と国境と公爵達の要請

 俺達は今炎鳥の森の入り口と里の丁度中間の場所にいた。此処で炎鳥と合流する事になっているのだが、まだ炎鳥達が来ていないので俺がセイールから聞いた話を皆にしている所だった。

 「・・・・・そんな・・・・既にサザントが壊滅していて夫の友人だった長男も死んでいる・・・そして夫も本当に殺されているなんて・・・ううう・・・」

 話を聞いて静かに涙するラクリーヌさんに俺達は如何声を掛ければ良いか分からず、オロオロして立ち尽くしているとお婆さんがやってきて話しかけた。

 「わたしゃあんたの気持ちが分からなくもない。流石に殺されてはいないが夫はおろか息子にまで先立たれた身だからねえ。あんた達この人の事は任せておきな。こういうのは経験がものを言うんだよ」

 立ち尽くす俺達にお婆さんは真剣な顔で告げるとラクリーヌさんを連れて行った。

 「さて色々気になる情報ばかりですが私としてはやはり仲間の天狐の事が気になりますわ。魔法女王フェルミーとは何者なのです?」

 「悪いが俺達には分からない。後でロベルトに聞くから其れまで待ってくれ」

 「仕方ありませんわね。でも必ず仲間を取り戻すと約束して貰いますわよ」

 「ああ約束する。だが代わりに後で俺の頼みも聞いてもらうぞ」

 「・・・無茶な物でなければ聞きますわ」

 警戒した様な態度のタマミズキに苦笑すると俺は話を変えた。

 「今後の事だがサザトラントは当面、境に兵士を置いて閉鎖するのが良いと考えている。正直今はこの地に割けるだけの部隊はないし、何より俺は人間を連れて行った事と龍を殺せるものの開発と言う情報を聞いてからガルトラントへの援軍が間に合わずに落ちるのではないかと考え始めているんだ」

 「えっと、お兄ちゃん、私は国境に相応しい強固な砦があるから七日も持たずに落ちる事はないと聞いてるわよ」

 「ああ俺もそう聞いているが、如何も嫌な感じがするんだ。情報の伝達速度から考えても俺達には伝わっていないだけで今頃は戦いが始まっていると考えるのが当然だ。ベルスが使者をかねて先にガルトラントに行ったみたいだし、何も起きないと良いんだけどな」

 俺が不安と共にベルスを心配していると空からリフレオン達がやって来た。避難して来た人々が百を超える炎鳥を見て緊張と共にざわざわと騒ぐのが聞こえて来た。

 「此処にいる者達でリラクトンまで運ぶがもうすぐ日が落ちるから安全の為に明日の朝にしたいと思っている」

 「明日の朝だと?待ってくれ、此の人達は食料もろくに持っていないんだ。それは如何する心算だ」

 「安心しろ、遅れたのはその準備をしていたからだ。人数分の食糧と寝る為の羽毛布は持ってきている。幸いにも雨は降らない様だし、我らが此のままこの場に待機して護衛もするから獣に襲われる心配もいらない」

 「分かった避難して来た人達の代表と話すから少し待ってくれ」

 俺はお婆さんと話していたラクリーヌさんに事情を話すと二人をリフレオンの元に連れて行った。その後皆で話し合った結果ラクリーヌさん達は此処で一晩過ごす事になり、俺達はバルグーンに知った情報を報告する為に戻る事になった。

 「此処までありがとうございました」

 「いえ、俺達もリラクトンに着くまで一緒に居られれば良かったのですが・・・すいません。リラクトンに着いたら俺の名を出してメイベル様かミルベルト卿と話をしてください。後は多分地下で暮らす事になるので困った事があったら先に住んで居るクーヤさんに話を聞いてください。ああそれと悪いのですがサザトラントを閉鎖する様に伝えて貰えませんか?」

 「はい、確実に伝えておきます」

 俺がラクリーヌさんと別れの言葉を交わしていると香織も隣で話していた。

 「お婆さん病気も治ったんだし、色々やるべき事が終わったら会いに行くから其れまで健康に気を付けて元気でいてね」

 「そうだねえ、その時はまたお兄さんの自慢話でも聞かせて貰おうかねえ」

 からかう様な口調のお婆さんの言葉に顔を赤くした香織を連れて俺達はバルグーンに転移した。


 その頃のガルトラントと商連合国の国境ではちょうど三度目の戦いが終わった処だった。

 「モルガン殿まだ砦は落とせないのですか?初動の遅れも脱走兵を出した事も不問にしたのに此のままでは全て無駄になりますよ」

 「・・・・カルロン殿の言いたい事は分かるが、いかに帝都が消滅したとしても援軍が来なくなるだけで国境の兵がいなくなる訳ではないのだ。混乱も思っていた程の規模ではないみたいだし、此れでは鎧袖一触で潰せる訳が無いだろう。それに抑々脱走兵が出たのも、その所為で初動が遅れたのも龍が現れたからだ。龍が現れたのはカルロン殿の関わっている研究の所為では無いのか?」

 私の言葉に痛い所を突かれたのか黙り込んだカルロン殿に厳しい声で告げた。

 「其れに私としてはもうそろそろカルロン殿の研究成果を見せて貰いたいのだがな?私はカルロン殿の言葉を信じて砦の攻略に必要だと言って兵士達に協力させたのだ。カルロン殿も私達に協力させたのだから最低限の義務として現状が如何なっているのか報告するのが普通ではないかね」

 「・・・・・・・龍殺巨砲と名付けたが、これは集合魔法の理論を応用した集魔装置の開発に成功して作られた巨砲だ。開発された集魔装置は契約石から魔力を集めて光の魔法を放つ物なのだが集めた魔力を安定させるのが難しいのが欠点だ。しかしこの問題もすでに解決済みで、中心に置く契約石を加護持ちか制御能力の高い者にすればいい事が判明している」

 「・・・・まさか・・・・」

 「気づいた様だね。そうバルマーに連れられて最後の部品の五大神官がもうすぐ到着するはずだ。我が国には神を信じる者が少ないので加護持ちは貴重だ。要らなくなった資源でも有効活用しなければならないだろう」

 私はカルロン殿の顔を見て肌があわ立つのを止められ無かった。口から出る言葉は人を部品と言って物の様に言うのに、その顔は穏やかでお茶をして会話を楽しむ場所にあっても違和感のない物なのだ。正直言って狂気を顔に宿していてくれた方が安心出来そうだった。

 「申し上げます。偉そうな神官がカルロン殿に会わせろと言っています。しかも自分達は呼ばれてやって来てやったのに出迎えもないのかと騒ぎを起こしています」

 報告に来た兵士に私が返事をする前にカルロン殿が長らく会えなかった待ち人に会えた時の様な喜びの笑顔を浮かべて話し始めた。

 「おやおや噂をすれば影ですね。モルガン殿、食材は私の物を渡しますから歓迎の宴の準備をお願いします。ああ、料理やお酒の中にはこれを混ぜて置いてください」

 そう言って私に小瓶を渡して来た。

 「此れは何です?」

 「遅行性の痺れ薬ですよ。食べてから半クーラもすれば真面に動けなくなります。契約石にする時に抵抗されると面倒でしょう。では私は儀式の準備をするので此れで失礼させていただきます」

 私の返事も聞かずに去って行く姿を唖然と見送ってから手の中にある物をマジマジと見つめる破目になった。暫くして我に返ると報告に来た兵士が所在無げに立っている事に気づいた。

 「すまない、待たせてしまったな。今聞いた事は忘れてくれ。お前もこんな物を平然と渡す者に目を付けられたくはないだろう」

 私の手の中にある物を見て兵士の顔が引きつるのが分かった。そして兵士は一瞬の間をおいて私に向かって狂った様に頷いていた。

 「料理を作る者達に宴の準備をする様に言ってくれ」

 私の言葉に兵士は少しでも早くこの場を立ち去りたいのか脇目も振らずに走って行った。

 「はあーーー、上からの命令であの男と一緒に居るが、私も判断を誤ると何時の間にか毒を盛られていても不思議では無いな。敵よりも味方の方が信用出来ないとはうんざりするな・・・」

 この場に一人残った私の独り言が誰にも聞かれる事無く消えていった。


 「申し訳ありませんな。何分此処は戦場でして此れが限界なのです」

 「ふん、儂らが食べるには貧相だが我慢してやるのじゃ」

 「まあ、神の威光も分からん者達の出す物などこんな物じゃろう」

 「ふむ、この酒も安酒だのう。この様な安酒で我慢出来るのは神を信じない者だからかのう」

 「まあまあ、我らがこの国の愚民に神の偉大さを教えてやれば問題無いじゃろう」

 言いたい放題言う五大神官達に私は口では詫びながら見えない所で拳を握っていた。此奴らは安酒と言い放ったがこの酒は金貨数十枚はする物で飲める者は限られているのだ。

 「時にカルロンよ、神に仕える我らを呼びつけたのだから分かっているのでしょうね」

 「分かっているとは如何言う事ですか?」

 「これこれとぼけるでないわ。儂らの貴重な時間を使わせたのだから出す物が有るだろうに」

 「・・・・ああ成る程それは食事の後でお渡しします。ちゃんと用意していますからご安心ください」

 「うむうむ、良い心がけじゃ。神もお主を見守ってくれるだろう。今後もその気持ちを忘れる事の無い様につとめるのが良いのじゃ」

 笑顔を浮かべながらも貪欲な金銭欲が隠せていない五大神官達と素知らぬ顔で薬の効く時を今か今かと待っているカルロンを見て、私はこの場に同席しないといけない不幸を心の中で嘆いていた。その後も私の見ていない所でやってくれと言いたい様な会話が飛び交いうんざりしていると、とうとうその時がやってきたみたいだった。

 「がは・・・・なあ・・んだ・・・・」

 「・・・これ・・は・・・から・だ・・が動か・・・」

 「きさま・・・なに・・・を・・した・・・」

 皿やスプーンを落として倒れ込む五大神官達に私は嫌な気分だなと考えているとカルロンが冷徹に言い放った。

 「やっと効きましたか。くだらない話に付き合わされてうんざりしていたんですよ」

 「お前・・こんな事を・・してただで済むと・・・思っている・・のか」

 「どうなると言うのです?」

 「我らは・・・五大神官・・だぞ・・」

 「ええ、五大神官らしいですが其れが如何かしましたか?と言うかまだ自分達の今の立場を理解していないのですか?」

 カルロンの言葉を理解していない事が明らかな五大神官にカルロンは肩を竦めると話し始めた。

 「最後になりますから慈悲の心で話してあげましょう。良いですか貴方達はとっくに価値が無くなっているんですよ。帝都が消滅した以上もう役割は終わりなのです。それに先程自分達でも言っていましたが、この商連合国では神を信じる者は殆どいません。私達が信じる物はお金です。まあ先程の会話で神などと言っているのは口先だけで、貴方達も我らと同じだと言う事は嫌と言う程理解出来ましたが」

 カルロンに嘲笑を浮かべて見つめられた五大神官達は怒りの籠った視線で睨んでいた。

 「睨んでも無駄です。抑々赤帝国を裏切った時点で五大神官の肩書き何てゴミなんですよ。貴方達に価値があったのは赤帝国が国教として認めていたからですし、その所為で貴方達を軽んじる訳にはいかないから仕方なく立てていたんですよ。ところが勘違いした貴方達は自分達自身に価値があると思い込んで好き勝手した挙句自分で自分の価値を落としてしまった。聞きますが今の貴方達にどんな価値があるのです?私にはただの爺にしか見えませんよ。どう扱った所で誰からも文句など来ないし、むしろ貴方達が裏切った赤帝国の人間には喜ばれるのではないですかね?」

 カルロンの容赦の無い言葉に蒼い顔をして震える者、愕然とした者、理解を拒む者など色々な反応が見られたが一人だけまだ強い視線を向けて来る者がいた。

 「儂らを・・如何する・・心算だ・・。殺さない以上・・何かさせるのだろう?大人しく手を貸すから助けろ」

 「ふふふ、未だ交渉の余地が残っていると考えているのですね。無駄ですよ、私が認める貴方達の価値は加護を持っていると言う事です。加護持ちを契約石にすると普通の人より良い物が出来るのです」

 とても良い笑顔を浮かべて告げるカルロンに五大神官の表情が必死なものに変わった。

 「ままま待て、金も全て渡すから助けてくれ」

 「そうだ隠している物も全て渡そう。だから・・・・」

 「無駄です。私が欲しいのは加護持ちの契約石だけです。抑々貴方達は契約石に入ると至福の中で罪が許されると言っていたのでしょう。なら国や信仰を裏切った罪を契約石に入って許してもらえば良いでしょう」

 カルロンの嘲笑混じりの言葉に五大神官達は言葉も無くなったみたいで絶望の表情になって動かなくなった。

 「儀式を始めろ」

 カルロンの言葉に隠れて待機していた者達が出て来て儀式を始めた。沢山の魔法使いの声が響き持っていた赤魔宝石が光を強くしていった。そして目を開けているのが難しいくらい光が強くなると魔法使い達は赤魔宝石から手を放した。赤魔宝石は宙に浮くと五大神官の上に移動し、更に強く輝くと恐怖に歪んだ顔の五大神官を吸い込んでいった。暫く光を放って其のまま浮いていたが光が消えると落下が始まった。カチンと目の前で作られた契約石が地面に落ちる音が私の耳に寒々しく響いた。

 「ふう、問題無く終わった様ですね。モルガン殿此れで明日の朝には龍殺巨砲が使えますよ。明日は砦に攻め込まないで待機していてください。一撃で全てを終わらせて見せます」

 「期待させて貰おう」

 そう口にしながらも私の心は寒々しい思いで満たされていた。人間を契約石にする場面を見て何時か自分もああなるのではないかと考えてしまうのが止められ無かった。

 「では私は明日の朝までに調整しないといけないので先に戻らせて貰います。後始末はよろしくお願いします」

 カルロンはまた私の返事も聞かずに魔法使い達を引きつれて悠然と去って行った。


 バルグーンに転移した俺達は知った情報を説明した後、皆で話し合っていた。

 「・・・・・まさか長男が死んでいるとは思わなかった・・・」

 「リグレスかなり不味い状況ではないか?」

 「そうだな、まだ次男が生きているかも知れないが五大貴族としてのサザトラントは終わりだな」

 「・・・・とうとう赤帝国は五大貴族まで失う事になったか・・・。私が言うのも何だがガルトラント卿は無事だと良いのだが・・・」

 「其方も話を聞く限り怪しいとしか言えないな」

 「うむ、リグレスの言うとおりだ。儂にはどの様な物か想像もつかないが、帝都を消滅させた契約石の力を考えれば龍を殺すと言える兵器があってもおかしくはないと思える」

 「父上ならば急ぐべきではありませんか?明日の物資の調達は大型兵器の一部と兵糧のはずです」

 「・・・ニルスト大型兵器の方は良いが、兵糧は集めないで移動する訳にはいかない。ロベールも帝都の住人に食糧を渡したから今は持ってはいないだろう」

 「ええ、龍が協力してくれたのでリラクトンの兵士達が三日過ごすぐらいは持っていますが、今此処に集っている全軍なら一日すら持ちません。しかも今は帝都消滅の所為で手に入れようとしても不可能です」

 「その通りだな、兵糧を集めるのに時間がかかっているのもその所為だろう。今此の赤帝国は食料が不足しているからガルトラントに急いで行っても現地で集めるのは不可能だし、慌てても良い事はあるまい」

 バルクラント卿のズッシリと響く低い声に場が沈黙した。皆の心に生まれている焦る気持ちを其々が静めて視線を交わしているとリグレス公爵達が頷き合ってから真剣な顔で俺をジッと見つめてきた。そして重々しい声で俺に話し掛けてきた。

 「ロベール私達と共にこの国を支えてくれないか」

 「・・・・・それは今みたいな協力ではなくですか?」

 「そうだ。初めはこの国に居てくれるだけで良いと考えていた。契約者の二人が居てくれれば五幻種との関係と傾いた国を何とか出来ると思っていた。だが事態は私の想像を超えてしまった。帝都の消滅とサザトラントの現状そして商連合国の契約石を初めとした力、これからガルトラントもどうなるか分からないし、五幻種の対応も私達では無理だ。ハッキリ言ってもはや私達の力で如何にか出来る状況じゃない」

 「・・・・俺の立ち位置はどうなりますか?後俺は最後の最後ではカリーナを優先してしまいますよ。だから不適格では無いですか?」

 「その口ぶりなら薄々気づいているのだろう。私が求めているのは私達を纏める存在だ。呼び方は皇帝でも王でも良いが国の頂点に立って貰いたい」

 リグレス公爵の口から心の中でまさかありえないだろうと思って必死に否定していた言葉を聞く破目になった。ハッキリ言って何で俺がと叫びたかった。そして本気でどこで選択を間違えたんだと必死に考えてしまった。

 「俺は契約者だから人々が受け入れないのではないですか?」

 「その可能性は勿論あるが二人に助けられた者達は反対しないだろうし、他の者も戦いが終わった後に国を建てなおそうと真剣に考えたら、其れしか自分達の未来がない事に皆嫌でも気づかされるだろう」

 「うむ、残念な事だがサザトラントが其れを証明してしまった。たとえ商連合国の手の者があおったとしても貴族達が自制心を持っていればあそこまで酷い事にはならなかったはずだ。そして五大貴族が殺された事を考えれば儂らの誰が立っても内乱が起きる可能性が否定出来ない。実際バルクラントでも帝都消滅を知って不穏な動きをしそうな気配がある」

 「我がメルクラントもどうなるか分からないし、此のまま内乱が続いて全土に広がれば他国に付け込まれて国を滅ぼす事になるだろう。だが二人ならこれ以上の内乱が起きる事はないし、今起きている内乱も治まるだろう。誰も五幻種とは戦いたくないからな」

 「俺はやるべき事があって冒険をしないといけなかったり、七日に一度一日居られなかったりするからやはり無理でしょう」

 「いや上に立っていてくれれば問題無いぞ。年単位で居なくなるのは流石に困るが毎日の政治は私達がやって置くから何日か居なくなっても戻ってきてくれるのなら大丈夫だ。抑々皇帝や王が帝城などから出られると困るのは安全面から護衛が必要でその費用が馬鹿にならないからだ。でもロベール達は契約者だから問題無いだろう」

 何とか無理だと思わせようとしたがリグレス公爵達は予想していたのかアッサリと返事を返してきた。俺は一度仕切り直そうと思って声を出した。

 「・・・・・・・・・悪いのですが一度カリーナ達と話し合わせてくれませんか?」

 「ああ、良いとも。返事はガルトラントの戦いが終わった後で良いから良く話し合って考えてくれ」

 笑顔でアッサリと解放するリグレス公爵達に俺は不安を感じながら部屋を出て行った。


 「皆はあの場で意見を言わなかったが如何思っているんだ?」

 「うーん、お兄ちゃんが王様になりたいのならなれば良いと思うよ」

 自分の客室に戻って真っ先に尋ねた言葉にあっけらかんとした言葉が返ってきて俺が唖然としているとシグルト達も声を出して意見を言い始めた。

 「直哉の好きな様にすれば良いんだ。大体からして帝都の住人を地下に収容した時点で立場が怪しくなっていたんだ」

 「そうですわね。またサザトラントの人達が増えますし、直哉の事だから此れからも人数は増える事はあっても減る事は無いと確信していますわ」

 「フッ愚か者め、後先考えないで助けるからこんな事になるのだ。今更ガタガタ言っても無駄だろう?見捨てないのならとれる手段は限られているに決まっている」

 ルードルに愚か者と言われて笑われたのに顔を引きつらせていると、タマミズキが悪戯を思いついたと分かる顔でうふふと笑っているのが見えた。

 「ねえ直哉、王なら後宮を作るのよね。香織も王になっても良いと言ったし、直哉が王になったら私も入ってあげましょうか?」

 タマミズキの発言に場の雰囲気が一変した。香織から漂ってくる重圧感にまだ発言していなかったロベルトが声をだした。

 「おい直哉、俺は頼まれた事はやっておいたし、魔法女王の事を調べないといけないから今日は退散するぞ。王様になるかどうかはどちらでも俺は助けるから好きにすれば良い。他にも話したい事があったが日を改める」

 早口で言いたい事だけ言って逃げるロベルトを睨んでいると香織が静かな声を出した。

 「お兄ちゃん、私達はファーレノールの何所に居ても一夫一妻が当然だからね。側室なんて認めないし、まして後宮でハーレムとか許す心算はないから分かっているよね」

 「待て待て、俺はまだ王になる事すら決めて無いんだぞ。香織が言う様な事は考えた事すらないぞ」

 慌てふためく俺にタマミズキがニッコリ笑いながら告げた。

 「王の婚姻は外交面もありますから禁じられてでもいるなら兎も角、利益があれば反対出来ませんわ。そして私は天狐の女王の姉ですわ」

 タマミズキの言葉に目を細めた香織は薄らと人形の様に微笑んで無機質な声を出した。

 「お兄ちゃんちょっと話さないといけない事が出来たから出かけてくるわ」

 香織が部屋を出て行ったがフレイですらついて行く事が出来なかった。

 「ヤバかったんだ。タマミズキの所為で寿命が縮まる思いがしたんだ」

 「・・ああ、主の背中が誰も付いて来るなと言っている様に感じた」

 「タマミズキもあまり香織を刺激し過ぎると大変な事になりますわよ」

 「フレイ、私は今のは援護だと思っているわ。この問題は王になってからでは遅いもの」

 含み笑いをするタマミズキにため息を吐くと、くたびれた声で話し掛けた。

 「援護ならもう少し穏便なやり方でしてくれ」

 「嫌よ、面白くないもの」

 タマミズキに即答された俺は諦めて話を変える事にした。

 「フレイ、討伐隊の時に様子がおかしかったが何があった?」

 「・・・・・・・私が相手をした部隊は直哉達に会った時の部隊でした・・・」

 フレイの言葉に自分の顔が歪むのが分かった。シグルトも動揺しているのが感じられた。

 「・・・・そいつらは如何したんだ」

 「全員倒しましたわ」

 言葉を発してからジッとフレイの様子を窺った。フレイはアッサリとした返答と落ち着いた態度で何も問題無いと言う雰囲気を作っていたが、俺にはそれが余計に違和感を感じさせていた。

 「そうかフレイには嫌な思いをさせたな。俺がそっちの相手をするべきだったな」

 「いえルードルも居ましたし、私も気にしませんから直哉も気にしないでください」

 弟を殺された時の態度と部隊を見つけた時の態度を考えてから、如何して此処まで落ち着いて話せるのか考えて一つの可能性を考えたとたん背筋が冷たくなった。

 「・・・・あの部隊はフレイに倒された後もサザトラントで戦っているのかな」

 「・・・さあ私には分かりませんわ」

 その素っ気ない返答とその声音からもうあの部隊の事はフレイの中で過去の事になっているのだと感じた。其れが意味する事は一つだ。俺がフレイを問い質そうとするとルードルが横から声を出した。

 「直哉、敵の男が話していたからフレイの弟が殺された事は僕も聞いた。あまり愉快な戦いでは無かったからフレイも思い出したくはないだろう。此処までにしてくれないか?」

 俺の言葉を遮る様なルードルと視線を合わせているとタマミズキが動揺した震える声を出した。

 「・・フレイの弟が殺された?えええ・・・でも・・・だって・・・」

 「タマミズキが驚くのは分かるけど落ち着くんだ。抑々直哉の力を調査した時に知っていたはずなんだ」

 「話しに聞いたのと実際に見たのでは違うわ。成る程ね、確かに私を脅してまで口を封じる訳が理解出来たわ」

 俺がタマミズキの言葉にギョッとして顔を向けるとシグルトとフレイが顔を青くしているのが見えた。

 「脅されたとは穏やかじゃないな。如何言う事だ?」

 「ふーん、そう言う事なのね。まあ口止めされていなかったし良いかな。私が魔法を調べて知った秘密を口にしたら、ただでは済まさないと力を見せつけられて脅されたのよ。まあ二人の為にやった事だから怒らないであげてね。じゃないと私も喋った事を後悔する事になるから」

 タマミズキに頷いてから俺は考え込んでいた。秘密にかかわった者なら先程から話していた部隊も対象なのだ。確りと考えればフレイの行動が理解出来てしまった。

 「フレイ、俺も自分の力の所為で香織や周りに迷惑を掛けるのは嫌だ。だからその行動を否定する心算はないし、出来ない。だが今の俺には悪いとは思うが礼は言えない。まだそこまで割り切れないんだ」

 「礼など不要ですわ。私情が混じっていないとは言えませんから」

 「シグルトとフレイの事は信じているから、言いたくないなら詳しい事は聞かない。でも問題が起きた時はきちんと相談してくれ。父さんと話したから今はそう言う話でも聞く覚悟は出来ている」

 俺がジッと見つめるとシグルトとフレイは真剣な顔をして確りと頷いてくれた。俺は頷いてくれた事に安堵し、軽く笑い合って雰囲気を変えてから次の話を話し始めた。

 「ルードルとタマミズキは今度俺達が帰る時に一緒について来てほしい。そして問題が片付くまで両親の護衛をして貰いたい」

 「主の為になるのなら否はない」

 「・・・・護衛ね。報酬は貰えるのかしら?」

 「報酬は付いて来ないと出来ない珍しい体験と珍しい食べ物だな」

 そう言ってニヤリと笑う俺にタマミズキは困惑していたが気づかないふりをして皆に世界の事を除いて簡単に事情を話した。

 「所々分からない所があるけれどまあ良いでしょう。手を貸すわ」

 「主も色々問題を抱えているのだな。主の為に確りと役割を果たそう」

 「助かる。話すのは俺か父さんが時期を見て話すから香織にはまだ話さないでくれ」

 皆が頷いて了解したのを見届けた俺は香織がなかなか帰ってこない事に嫌な予感がしていた。

 「なあかなり時間が経っているのにまだ香織は話しているのかな?」

 「そうですわね私が見てきますわ」

 「僕も行こう」

 フレイとルードルが部屋から出て行った。俺はずっと待っていたのだが、皆が帰って来たのは三クーラも経った後だった。俺はすぐに何をしていたのか聞こうとしたが、満面の笑顔の香織と同情の視線を向けて来るフレイと憐みの視線を向けて来るルードルに気圧されて何も聞く事が出来なかった。その日俺は王になるか、ならないか悩みながら更に不安を抱えて寝る破目になった。

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