契約者達と日常にかかる影と異世界
「お兄ちゃん早く起きてよ、もう朝だよ」
香織の声で目覚めた俺は香織の態度が変わっていない事に安堵していた。
「先に下に行っててくれ。俺も着替えたらすぐに行くから」
「うん分かった。あまり時間が無いから早くしてね」
香織の言葉に時計を確かめて見ると確かに何時もより十五分以上遅い時間に起きたみたいだ。急がないといけないと思って素早く着替えをして下に降りるとくたびれて魂が抜けた様な父さんと何とも言えない表情をした母さんが座っていた。
「直哉ーーお前の所為でーーー・・・・」
俺を見た父さんが朝から呪われそうな声で話し掛けてきた。
「心に受けた被害は同じだ。諦めるんだな父さん」
俺と父さんの会話に母さんはますます微妙な表情になっていた。まあ母さんの気持ちも分からなくはない。本の間にあったのは結婚した時の母さんの写真だ。其れを見て綺麗だと言っていた父さんは痛い奴だが、別の人ではなく若い時とはいえ自分の写真だから怒る事も出来ずに如何して良いか分からないのだろう。
「お兄ちゃん、シグルト、フレイ、朝食だよ。今日は時間が無いから早く食べてね」
俺は香織に急かされながら朝食を食べ終えると微妙な雰囲気の両親を放って香織と学校に向かった。
学校ではテストの時の騒動も収まって穏やかな時が流れていた。力加減も慣れてきた俺と香織は問題を起こす事も無く学生として平穏な生活をおくっていた。
「おい直哉今日は此れから如何するんだ?」
「特に用事は無いから何かあるなら付き合ってもいいぞ」
「明美が季節限定のパフェを食べたいと言っている。でも何故か金は俺が払うらしい」
「おいおいまた何かしたのか?」
「して無い・・・と思う」
言葉の途中が不安を呼んだが俺まで巻き込まれる事はないだろうと思って了解する事にした。
「分かった。食べに行こう」
そう言って明人と共に廊下に出て香織と明美ちゃんの元に移動して合流した時だった。沙月さんが俺を見つけて小走りで近寄ってきた。
「直哉君生徒会室に一緒に来てくれないかしら」
「何を言っているんですか。私達はこれから皆でパフェを食べに行くんです」
「さあ如何かしら」
そう返事をした沙月さんは素早く近寄って俺だけに聞こえる様に話す内容を伝えて来た。内容を聞いた瞬間に拒否する選択が無くなった俺は表情を真面目なものに変えて返事をした。
「分かりました、沙月さん。皆悪いが少し時間をくれ」
「分かった、直哉。香織ちゃんの事は任せておけ」
香織が何か言おうとする前に明人が返事をしてくれた。こういう時に察しが良い明人に感謝して、フレイに視線で香織の事を頼んでから沙月さんと共に生徒会室に向かった。
生徒会室に入ってすぐに沙月さんが口調を改めて話しかけてきた。
「直哉様今日は生徒会の活動は無いので此処には誰も来ません。ですが此れから話す事は小声で話してください。私が武俊様から伝える様に言われた事は弘嗣が事件後も逮捕されなかった従兄弟達に接触したと言う事です。如何やらグループ企業を掌握する為に根回しをしているみたいで、資金の流れが不透明になっています」
俺は話を聞いた時に来るべき時が来たかと思っていた。あの事件が起きた後に毒から回復した香織の伯父の武俊さんが一度訪ねてきた事があった。その時に香織を引き取ろうと考えていたのに香織の状態を見て俺にアッサリと任せてくれたので一応信用する事にして色々話したのだ。話し合った結果直接会うのは止めて間接的に情報交換をする事になった。此処にいる沙月さんは父親が武俊さんと一緒に働いていて親の命令で俺達の傍にいるのだ。右腕とも言われる優秀な男の娘である沙月さんもやはり優秀で、伝言役だけでなく何かあった時の護衛も兼ねると聞いていた。
「やはり大人しくしていたのは擬態だったみたいだな。この行動を見ると一連の事件の背後にいたと言う疑惑は真実の可能性が高くなってきたな」
「はい、香織様にもまた手を出してくる可能性が高いでしょう。護衛を増やそうと思うのですがご了承いただけますか」
「いや、俺と香織には必要ない。それより武俊さん自身の護衛を確りして欲しい。武俊さんに何かあったら香織を表に出さないといけなくなる。其れは俺には認められない」
「ですが御二人は一度狙われています。私ともう一人だけでは守りきれないかも知れません」
「あのだな、言い難いんだが本当に護衛はいらないんだ。俺と香織が傷つけられる可能性はゼロだ」
俺と香織が契約者で戦車や戦闘機を持ってきても死なないなどとは想像も出来ない沙月さんは、納得出来ないと言いたそうな表情で不満と不審感を視線に込めて見つめてきた。そんな沙月さんに本当の事を説明出来ない俺はまいったなと思いながら誤魔化す事にした。
「俺が香織の事で楽観しない事は知っているだろう。納得出来ないかも知れないが大丈夫だから安心して欲しい」
憮然とした顔をして無言で見つめ続けてくる沙月さんを見て仕方ないと思って少し話す事にした。
「此処だけの話として武俊さんにも伝えないでいてくれると助かるんだが無理だよな」
頷く沙月さんにため息を吐くと告げた。
「俺は武俊さんの力だけで香織を守る心算はない。例えば今この時も香織には最強の護衛が付いているんだ。だから香織の安全は完璧に確保されている」
「な、私達以外の護衛がいるのですか。いるのなら何故教えて貰え無いのです。それにただの学生の直哉様に護衛を頼める様な人脈があるはずがありません」
「信じていない訳では無いが手の内を全て晒す訳にはいかない。今言えるのは俺に一人香織に一人最強の護衛が付いている事だけだ。武俊さんだって俺に全ての情報を教えている訳ではないだろう」
言葉に詰まる沙月さんに苦笑すると話を変えた。
「弘嗣の奴が動き出したのは分かったが彼奴がグループのトップになって経営が上手く行くと思うか?」
「いいえ不可能でしょう。グループの中には先の事件の事もあって香織様のお婆様の彩希様の血を継がない者が継ぐ事を認めない者が多数を占めています。抑々大企業ですらなく多額の借金を抱えて倒産寸前だった会社が一代でグループ企業になれたのは彩希様のご実家の資金援助が理由です。この対立の根幹は其れをおもしろく思わない者達と資金援助を受けて居ながらと思う者達の争いなのです」
「はあ、俺としては自分達だけで勝手に争っていろ。俺達を巻き込むなと言いたい所だな。しかし弘嗣はその事を分からない程馬鹿なのかな?武俊さんは如何言っている?」
「武俊様は今の所弘嗣は企業を手に入れる事を目的として行動していると考えられています」
「今の所か・・・。武俊さんも疑念には思っているみたいだな」
「疑念ですか?」
「ああ、企業を手に入れる為に毒を使うかな?俺達は直接襲われているし、遺産目的だとしてももっと穏便な手段があると思うんだが?」
「それは・・・・・」
「まあ良いさ。今あれこれ言っても始まらない。武俊さんに情報のお礼を言って置いてくれ。あまり長い間待たせて香織が我慢の限界を超えたら後が大変だからな」
沙月さんの返事を聞いてから生徒会室の外に出て香織達の元に向かった。弘嗣の奴が動き出したと聞いたのに心の動揺は驚く程少なかった。これは俺も香織も契約者になって向こうで色々と経験をつんだ事とシグルトとフレイと言う最強の契約相手がいる安心感からだろう。昔は何時香織が傷つけられるかと一人怯えていた俺が、このわずかな期間で変わったものだと思い苦笑が止められ無かった。そしてふと気になる事が思い浮かんだので小声でシグルトに尋ねてみた。
「シグルト一度の転移で何人連れて来られるか聞いて良いか」
「魔力を全部使っても十人が限度なんだ。でも回復するまで時間がかかるから七人ぐらいにして置くのが良いと思うんだ。じゃないと僕は戦力にならないだけじゃなく自分の身すら守れなくなるんだ」
「そうかならルードルとタマミズキを此方に連れて来る事は可能だな」
「うん、二匹だけなら大丈夫なんだ。でも二匹を連れて来て如何する心算なんだい?」
「交渉して両親の護衛を頼もうと思ってな。俺の親だから関係ないとは思うんだが万が一があって後悔する事になったら嫌だからな。あと香織には先程の話は内緒で頼む」
「分かったんだ。でも直哉の考えを詳しく知らないと僕は如何行動すれば良いのか分からないんだ」
「勿論シグルトには全て話すがまたの機会にさせてくれ。もう香織の姿が見える距離だからな」
「うわ本当だ。香織が僕達に気づいて此方を睨んでいるんだ」
シグルトの言葉にやれやれ如何言い訳するかなと心の中で考えていた。
「直哉さん、こんなに高い食べ物を注文してしまってすみません」
「いや、明美ちゃんは気にしないで良いよ。俺が香織の機嫌を損ねたのが原因だし、実際かなりの時間待たせてしまったからね。お詫びも兼ねているから遠慮なく食べてよ」
「フッ流石直哉だな。俺には言えない言葉だ。ありがたく頂かせて貰おう」
明美ちゃんの前だから何も言わなかったが此奴には今度は何をやりやがったと言いたかった。季節限定パフェは高かった。詳しい値段は言わないがファミレスの一食より上とだけ言っておこう。明美ちゃんが普段からこんな食べ物を要求するとは思えないから明人の奴が何かやったのは確定だ。巻き込まれる事はないと思っていたのにとんだ出費になったなと思った。
「気にする事は無いわよ。何も喋らないお兄ちゃんが悪いんだから」
「香織もいい加減に諦めてくれ。相談を受けたが内容は信頼して話してくれた事だから明かせないと言っただろ。それとも他人のそれも女性の相談事をペラペラと話す様な兄の妹が良いのか」
「ウッそれは嫌だけど・・・・・」
「だったらこの話は此処までだ。それにしても昨日贈り物をしたばかりなのに、そんなに疑われると悲しいな」
悲しんでいます傷ついていますという表情を顔に浮かべてから視線を向けると香織が落ち着かない様にソワソワし始めた。
「うう、分かったわよ。もう質問しないわよ」
香織の言葉に誤魔化せたと思って心の中で安堵していると明人が不思議そうな声を出した。
「なあ、直哉は何を贈ったんだ。話しからするとこの前買った服の事じゃないんだろ」
「昨日お兄ちゃんに贈って貰ったのはこのペンダントだよ」
そう言って香織は俺が止める間もなく嬉しそうにペンダントを取り出して見せていた。
「・・・・・・・・・・まじか?」
「うわ、凄いペンダント・・・・・・」
二人とも声を出して反応はしていたが明らかに顔を引きつらせて動揺していた。母さんが話していた通りこのペンダントはとても高価だ。学生の俺が軽い気持ちで渡せる金額を超えているのは明白だし、抑々金は如何したと言われるのが当然の物だ。
「直哉お前・・・・・・」
明人が俺の顔をマジマジと見る視線が痛かった。
「一応言っておくが何かがある訳じゃ無い。ただこのペンダントが驚くほど安く手に入ったから買って贈っただけだ」
「うん、私とお兄ちゃんの関係は今まで通りだよ」
香織のアッサリとした言葉に二人は何とか落ち着きを取り戻したみたいだった。
「香織ちゃんのお兄さんは凄いね。家の兄さんはこんな贈り物はくれないよ」
「いや明美無茶は言わないでくれ。妹に贈る物としてこのペンダントは普通じゃなさ過ぎる。大体俺が同じ物を贈ったとして受け取るか?」
「・・・・受け取るけど何かあるんじゃないかと不安で眠れなくなりそう」
憮然とする明人を見ていると店員がパフェを持って来た。俺達の前に置かれたパフェを見て値段に納得させられた。
「うわ、凄いねお兄ちゃん。私こんな大きさのパフェ初めて見たわ」
「確かに俺も初めてだな、母さんみたいな甘い物が好きな人なら見ただけで大喜びしそうだな」
話をする俺と香織の横で明人と明美ちゃんが早速美味しそうに食べていた。其れを見てシグルトとフレイが目を輝かせて食べたそうにしていた。流石にお持ち帰りは出来ないので空間から皿を出して見えない様にして俺の分を分けてやった。美味しそうに食べるシグルトとフレイを見て満足していると明人が声を掛けてきた。
「おい直哉、何時の間にパフェを食べたんだ?少し目を離しただけなのに六割近く減ってないか?」
「なあ明人、細かい事は気にするなよ」
目ざとい明人の言葉に冷や汗を掻きながら返事を返したが、疑惑の視線は強まるだけだった。如何誤魔化すかと考えていると香織が私に任せてと言った顔でスプーンを差し出してきた。
「はいお兄ちゃん口を開けて、私が食べさせてあげる」
初め俺は香織が言っている意味が理解出来なかった。しかし一瞬の間をおいて理解すると暑くも無いのに汗が噴き出してきた。明人と明美ちゃんは俺達を見て凍り付いた様に身動きを止めていた。
「香織、俺はやらないぞ。流石に其処まで羞恥心を捨てる事は俺には無理だ。大体、香織だってこうやって出されても恥ずかしくて食べられないだろう」
俺は出来ないと思って香織がやっているみたいにスプーンを出したのだが、何と香織は躊躇なく食べてしまった。俺は不覚にも動揺と混乱のあまりスプーンを取り落としてしまった。
「ななんあな、何をしている」
混乱のあまり変な声を出しながら問う俺に香織は顔色も変えずに当たり前の様に答えた。
「何って言ってもお兄ちゃんに食べさせて貰っただけでしょ。抑々私は慣れているから躊躇はないわよ。今更だしね」
「ええええ、慣れているって、香織ちゃん何時もしているの」
「マジかよ直哉・・・・」
驚愕している二人はパフェが減った不自然は忘れただろうが、俺にとってそんな事はもはや如何でもよかった。
「待ってくれ俺には香織の言っている意味が分からない」
「むむむ、まさかお兄ちゃん忘れているの?一時期私がご飯を食べようとしなかった時に毎日食べさせてくれたじゃない」
香織の言葉にハッと気づかされた。あれは香織の両親が死んだ時の事だ。香織は両親のいない食事が嫌でご飯を食べようとしなかったので、俺が食べさせてやるから食べようと言って確かに食べさせていた事があった。しかし後に起こった事件の所為で俺は今の今までスッカリ忘れていた。
「・・・・・・・・」
「如何やら思い出したみたいだねお兄ちゃん。私にとってはあれもお兄ちゃんとの大事な思い出何だからもう忘れないでね」
完全に忘れていた俺を軽く睨んでそう言い放った香織は事情が分からない二人に説明していた。そして香織と明美ちゃんはそのまま昔話を始めてしまった。偶に俺の名が出てキャーキャー言いながら話すのを聞いてげんなりする破目になった。会計を済ませて店を出た時には俺の精神は限界まで疲弊していて、今日此処で耳に入った言葉は聞かなかった事にする事に決定した。明人とシグルトの同情が心に沁みたひと時だった。
明人達と別れて家に帰って暫くすると俺と同じ様に疲れた表情の父さんが帰って来て共感しそうになってしまった。
「父さん少し込み入った話がある」
そんな父さんに話があると伝えて今度は絶対に話を聞かれない様に空間を隔離して確かめてから沙月さんに聞いた話を話し始めた。
「・・・・・・と言う訳で今週は護衛も居ないから早く帰って来て欲しいんだ」
「直哉は私達にも危険があると考えているのか?」
「正直なとこ分からない。弘嗣の目的が武俊さんの考えている通りで遺産や企業なら父さん達は狙われないと思うけど、弘嗣達が過去の事件の裏にいたのなら俺は邪魔をした敵だし、更に俺達は香織の家族だから其処に意味を見出すのなら何があってもおかしくないと思う」
「・・・直哉は別に目的があると考えているのだな。分かった沙耶にも話しておく。しかし武俊さんは何所まで信用出来るんだ」
厳しい顔で問う父さんに俺も真面目な顔で答えた。
「香織を狙っていないのは本当だと思う。しかし香織の今後には口を挟んでくる可能性が高いと思う。だから必要以上に借りを作りたくないのが本音だな。護衛は監視もかねていて現状の報告はされているはずだ。今は兎も角いずれ決別する時に如何行動するかは分からないから、もしかすると父さんや母さんに迷惑をかける事になるかも知れない」
「其方は気にしないで良い。私達は此れでも二人の親だからな」
「ありがとう父さん。まあ最悪の場合は一家で異世界に移住するのも良いかもな」
「いやいや止めてくれ。砂糖も満足に手に入らない世界で暮らすのはこの年では遠慮したいな。沙耶に何を言われるか分かったもんじゃない」
父さんが甘い物が好きな母さんの事を考えて心底嫌そうな顔をするのを見て俺は笑ってしまった。
「ははは、じゃあそうならない様に祈っていてくれ」
俺はその言葉を最後にして話を終えると後は普段と変わらない様に心掛けて食事をとって眠る事にした。
「父上罪人の一部の処刑が終わりました。其れを見て逃げようとした者達を捕らえた所、処刑した者達と同じ様な犯罪をしていた事が分かりました。しかもその中に武器を扱う大物の商人がいて如何やら武器をサザトラントに裏から流していたみたいです」
「ぬう、商連合国でないだけましだが、サザトラントなら何故普通に取引せんのだ」
「取引相手は死んだサザトラント卿の次男で如何やら事件の前から秘密裏に武器を集めていた様なのです」
「其れは事件が起こる事を知っていて準備をしていたと言う事か?」
「それは分かりませんが次男はどちらにしても反乱を起こす心算だったみたいです」
難しい顔をする父上を見ながら話を続けた。
「多少は良い報告もあります。今回商人から武器を押収したので集めなければいけなかった武器の大半が手に入りました。此れに依って七日以上かかるはずだった失った武器の問題が今日を入れて三日ほどで片付きます」
「そうかそれは良い報告だな。だが儂の方は良くない報告だ。やはり国境の方が騒がしくなっていて、敵兵が増えたのが確認されたそうだ。まだ多少だが今頃後方で大勢の兵士を急いで集めているのかも知れん」
「それは帝都の事を知られたと言う事でしょうか」
「それは分からん、しかしあれだけの光だから何かあったのは分かるだろうさ。帝都の住人の中にも諜報員がいたと聞いているから何らかの方法で伝えていてもおかしくはない。今リグレスと話してバルクラントの兵士から二千程援軍に出す事に決めた所だ」
「二千ですか?今バルクラントの国境が突破されたらお終いだと思うのですが。少なすぎませんか?」
「確かに少ないが此の二千は選抜した砦を死守する部隊だ。敵が攻めて来た場合、時間を稼ぐために戦い撤退はしない部隊なのだ」
「な、父上それは・・・・・」
「帝都の後を見て皆思う事があったのだろう。商連合国に行く者達も何が起こるのか分からないのに驚く程士気が高いのだ。原因は言わずとも分かるだろう」
「・・・・・・・・」
皆の重たい覚悟を思って何も言えずに立ち尽くす私に話を続ける父上の声が耳に響いた。
「それとガルトラントに偵察を出す事になった。ガルトラント卿は儂やメルクラント卿の事を敵だと認識しているはずだから今の現状を話す使者もかねて、ロベールの部下のベルスと言う男が行く事になった。しかし人数が少ないので初めにロベールに負けた隊長が行くと言ったので合流させた。今頃は準備を終えて既に出発しているだろう」
「あの隊長なら上手くやると思います。それはそれで良いとして頭が痛いのは帝都の消滅を知らない貴族達の対応を如何するか決める事です。如何しますか?」
「・・・・・・・黙っている訳にはいかんだろうが、正直言って話したくはない。大人しくしてしてくれれば良いのだが確実に保身もあって行動を始めるだろう。最悪儂らのいない間におかしな事をするかも知れない」
難しい顔の父上を見て貴族達も国境に行く者達みたいな覚悟を持ってくれれば良いのだがと考えたが、頭に浮かんだ者の大半が自己保身に奔走する姿が容易に想像出来た。
「ここはやはりリグレス公爵やメルクラント卿にも手伝って貰って威圧するしかないと私は考えます」
「出来れば強引な事はしたくないのだが、やはりそれしかないか・・・・。状況が状況だけに反感を抱かれても戦いが終わるまでの一時的な期間なら問題ないとするしかないか。まあ後は儂が責任をとって退けば良いだろう」
「お待ちください父上、それは・・・・・」
「良い、お前も分かっているはずだ。帝都の事は儂にも責任がある。儂は責任をとらずにのうのうと居座る心算はない。お前は儂の心配より自分の心配をしろ。まだ儂を倒してはいないのだぞ。戦いが終わったら機会を作るから見事儂を倒して見せるのだ。よいな」
決意の籠った厳しい視線を父上から向けられた私は姿勢を正してから覚悟を決めて返事をした。
「父上、貴方を必ず倒させていただきます」
「儂は手加減せんからその心算で挑んでこい」
父上との話を全て終えた私は部屋を出てやるべき事をやった後その時の為に訓練を始めた。
「メイベル様、サザトラントに偵察をしていた者が戻って来たのですが不味い事になりそうです」
「何が起きたのです。あそこは今兄弟で跡目を争っていると聞いていたのですが?」
「はいその通りです。問題は何故か帝都の消滅が伝わっていて、お互いが相手がやったと言って消耗戦を繰り広げているのです」
「待てミリステア、リラクトンですら儂が龍に乗って移動して来て知ったばかりの事を既に知っていたと言うのか?」
「はいお爺様その通りです。これは明らかに商連合国の者の仕業だと思われます。それも問題なのですが本当に不味いのは此処からです。互角の戦いになってしまっているのを変えようとした二人は過激な手段をとり始めたのです。その手段と言うのが確認出来ていない物もありますが、相手のかかわった村の焼き討ちから始まって井戸などの飲み水に毒を入れたり、食糧を相手に渡らない様に強引に奪ったり、更には兵士になる事を拒否した相手に敵の仲間だと言って殺したりしている様なのです」
「な・・・・馬鹿な・・・自分の生まれ育った故郷を・・・」
「・・・・正気とは思えませんね・・・・私はサザトラント卿から長男は大人しい文人だと聞いていたのですが・・こんな事をするとは・・・」
驚愕と嘆きと落胆の様な感情が部屋に広がった。
「サザトラントにいる他の貴族は何をしているのか知っているか?」
「貴族はどちらかの勢力に与して戦っている者が大半だそうです。しかもその中の一部は積極的に略奪しているみたいです。それとは別に少数ですが民を守ろうとした貴族もちゃんといて、元からの民と周りから逃げて来る民を保護している様です。そしてその中の一人が民達に対するあまりの被害に我慢できずに民達に対する攻撃を止めさせようと進言しに行ったのですが問答無用で殺されたとの事です。しかも協力もせずに文句を言いに来るなど敵に通じている裏切り者だと言って討伐隊を編成しているとのうわさです。そして其れを聞いた他の守ろうとしている北部の貴族達が民と共にリラクラントに逃げようとしているみたいなのです」
想像以上に酷い状態に部屋に重苦しい沈黙が訪れた。
「・・・兎に角逃げて来るのなら保護しないといけませんね。ミリステア此処はミルベルト卿がいて龍が食糧を運びに来ていますから問題ありません。即座にサザトラントの方に向かって保護してきてください」
「はい了解しました。ですが一つ問題があります。殺された貴族の住んでいた場所が南西部でうわさが本当なら討伐隊が編成されるはずです。此のままでは見殺しにする事になります」
「ぬ、だがそれは流石に助けられないぞ。其処に行くには主戦場の中央を突破して移動する必要があるし、突破しても民をかかえて移動など不可能だ。たとえメイベル様の命令だと言っても先程の話を聞いた感じでは二人は言う事を聞かないだろう」
「・・・帝都の消滅が伝わっているのならまず無理でしょう。もはや皇妹の肩書きに意味など無く最悪リラクラントにも攻撃してくるかも知れません。ですが私に一つ案があります。南西部なら炎鳥の森に逃げるのは如何でしょう」
メイベル様の言葉にハッとさせられた。
「そうかフレイは王女だと聞いた事があります。二人を通して炎鳥と話をすれば森に逃げる事が出来ます。しかしメイベル様、二人にどうやって連絡するのですか?」
「そこはミルベルト卿に任せましょう。龍との交渉はミルベルト卿がしていますからその時に話して二人に伝えて貰えば良いのです」
「分かりました。相手は龍なので絶対とは言えませんが伝える様に頼んでみます」
「ではすぐに行動しましょう。状況を考えると時間は多ければ多い程良いはずです」
メイベル様の言葉に私達は即座に行動を始めた。




