契約者達とバルグーン
ルードルに容赦なく叩き起こされて正体不明の敵がいると言う嫌な話を聞かされた俺は色々考えてしまって昨日はよく眠れなかった。しかし周りの皆の士気を落とす訳にもいかない俺は重いまぶたを擦りながら日が昇る前から行動し始めた兵士達と共に動き始めた。
「お兄ちゃんおはよう、まだ眠そうだね」
「おはよう、昨日は寝付けなくてな」
それだけ話して朝食を食べると休息もとらないで駆け足で移動し続けて昼過ぎに俺達はバルグーンにたどり着いた。此れは皆が尋常ではない速度で移動したから出来た事だ。その結果として俺と香織などを除いた普通の人達は皆倒れて動けない有り様だった。
「水を・・・水を・・くれ」
「・・・・・吐きそう・・・」
「・・・・・・・うう」
幽鬼の様な有様で未だに動けない兵士達をクローズさん達に任せて何とか回復したバルクラント卿達と入ったバルグーンは鍛冶の音と鍛錬をする人の声が聞こえてくる町だった。小さな子供が木剣を持って素振りしているのを見かけたのは微笑ましかったのだが、女性が酔っ払いに絡まれているのを見て助けようとしたら目の前で三連撃を急所に叩き込んで倒すのを見せられて今度は度肝を抜かれる事になった。
「な・・・・」
「うわ、凄いねお兄ちゃん。完璧に意識を失っているよ」
驚いて周りを歩いている町の人々を観察して見ると歩き方からもう今までの町の人々とは違っていて鍛えられているのが感じられた。暫く歩いてバルクラント卿の住んで居る館に入ると落ち着いた声が聞こえてきた。
「あなた、何を考えているのです。鬼気迫る表情の集団がバルグーンに迫ってきていると聞いて敵襲かと思ってしまいましたわ」
妻から怒りと呆れの混じった視線を向けられたバルクラント卿は小声で帝都消滅と今までの事を話して説明していた。
「・・・・・五大神官達は此の町で騒動を起こした後ガルトラントに向かった事を確認しています。こんな事ならあの時に捕らえて置くべきでしたね」
「騒動だと?奴らは何をした?」
「女性に絡んで倒されて文句を言う、酒を飲んで代金を払わない、馬車や武器や薬などを勝手に徴発して持って行くなど細かい事まで入れたら半日は掛かります。私も捕らえようとはしたのですがべサイル殿下の署名の入った書類を出されて手を出せませんでした」
「母上それは何時の事ですか今から追っ手を向ける事は出来ませんか」
「無駄でしょう。既にいなくなってから一日以上経っています」
俺は話を聞いて五大神官の厚顔無恥さに憮然としていた。いくらべサイルとはいえ奴らは騙して帝都と共に消滅させて死なせたのだ。その上すでに死んでいる事は分かっているだろうに、のうのうとべサイルの名を使って好き勝手するなどもう俺には何も言うべき事すらないと本気で思った。他の皆も顔を歪めている所を見ると俺と同じ様な事を考えているみたいだった。
「話は此処までにしておきましょう。強行軍だったみたいですからまずはゆっくり休んでください。あなたは必要な指示だけ先に出してください。ニルストは心配をかけていたのですからすぐに妻のメルティナに会って来なさい。それとカリーナさんは私に護身術と暗器術を習いたいそうですわね。私が持っている暗器を一通り見せますからついて来てください」
香織が返事をしてついて行こうとしたので反射的に俺もついて行こうとしたら駄目だしをされてしまった。何でも暗器を身に着けて自分に合う物を選ぶので男は見てはいけないそうだ。他の皆は疲れていて休むみたいだが契約者の俺は疲れてなどいないのでシグルトとついていけなかったルードルを連れて町の見物に出かけた。
騒動が起きるといけないので二匹に姿を隠して貰ってから移動して、何を見ようか迷ったが武器屋が沢山有るので武器を見る事にした。流石にバルクラント卿が自慢していただけあって種類も使われている素材も豊富だった。俺の世界では武器など売っていないので初めは珍しくて楽しめたのだが途中で何かを斬る事を考えてしまって人を斬った時の事を思い出してしまった。何となく興が冷めてしまって適当に見ていると人が全くいない店が目に入った。何となく気になって入ってみると其処には剣の刃が液状になっている剣が沢山置いてあるだけだった。何だこりゃと思って店員らしき女性に聞いてみる事にした。
「なあこの剣は何なんだ?」
「なんだヤッパリ冷やかしか・・・。はあ、まあ良いか暇だし説明してあげるよ。此の剣の刃は魔金と魔銀の合成された特殊な金属で魔金銀と呼んでいる。魔金銀の特徴は初めに登録した物だけしか斬れない代わりに登録した物は必ず斬れるのよ。其れに魔力を使って自己修復するから壊れないの」
「必ず斬れて壊れない剣なら売れそうだがやはり問題があるのか?」
俺の言葉にウッと言うと消そうな声で話し始めた。
「問題は二つある。魔金銀は使用者の魔力を使うから持っているだけで魔力が消費されてしまうのよ。それと一度登録したら変更が出来ないの。でも複数持てば問題無いと思わない」
話の途中で俺の顔を見て縋る様に最後に提案してきたので結果が見えていながらも一応質問してみた。
「複数持ったら魔力の消費量も二倍になるんじゃないか?抑々登録の時に全てを対象に出来ないのか?」
「全てを対象にしたら一瞬で魔力が尽きるの。其れを防ぐために斬る物を限定して魔力の消費量を減らしているの」
ブツブツと愚痴を言い始めた店員の声を聞きながらこの欠点は普通の人には致命的だが、俺には問題無い可能性が高いと考えていた。まず俺は契約者だから魔力の量が常人とは違うし強化も使えば如何にでもなると思った。次に人を斬る事が嫌な俺には登録した物だけ切れる剣は安心して使えると考えられるし、更に言えば空間に入れておけば問題無く複数持てるだろう。
「なあ一本の値段を聞かせてくれないか」
「買ってくれるの。一本金貨五枚よ」
目を輝かせている目の前の女性には悪いが客がいない訳が良く分かった。前にも言ったが金貨一枚で二人で二十五日過ごせるのだ。金貨五枚の使用が制限される剣など誰が買うと言うのか。まして複数買ってまで使うなどあり得ないと断言出来た。ジッと店員の顔を見つめると自分でも分かっているのか顔を背けていた。
「分かっていない訳では無いんだな。なら値下げの交渉は可能だろうな」
「無理なのよ。この魔金銀はお父さんが作った新しい合成金属でこれ以上値段は下げられないの」
「・・・親父さんは何所にいるんだ。直接話は出来ないのか」
「・・・・・・お父さんは食費と開発費を稼ぐ為に別の場所で普通の武器を作っているの」
「・・おい、設定は出来るんだろうな?」
「ええ勿論よ、お父さんの娘としてバッチリ教わっているから安心していいの。それにお父さんを倒すのももうすぐなんだから」
ニッコリと満面の笑顔を向けている女性の顔をマジマジと見たが今度は顔を背けないので大丈夫そうだと思い、金貨五枚を払って設定して貰う事にした。俺が金貨を出すと信じられない物を見たと言う表情をして凍りついた女性に店員の態度として其れは如何なんだと言いそうになってしまった。
「お買い上げくださり、ありがとうございます。私はリジェネと言うの覚えて置いてね、お客さん」
「俺はロベールだ。設定は命の無い物だけ斬れる様にしてくれ」
「・・私の話を聞いていた?そんな事をしたら魔力が尽きるわよ」
「大丈夫だ、問題無いから設定してくれ」
リジェネは自分の忠告を無視された形になったのでムッとしていたが素早く手を動かして設定をしてくれた。四半クーラで液状だった部分が固まって刃になった。
「出来たわよ。如何なっても知らないからね」
剣を受け取って魔力の消費量を確かめていると知らないと言いつつもリジェネが心配そうに見ているのに気づいて何度か振って問題無いと示した。
「おかしいわね?普通ならもう倒れているはず?ロベールだったわね。何をしたの?」
「何もしていない。ただ単純に俺の魔力量が多いから問題無いだけだ。其れより何か試し斬りが出来る物は無いか?設定がちゃんとしているか確かめたいんだ」
俺の言葉に自分の腕を疑われたと思ったのかブツブツと文句を言いながら鉄板と鉢植えの花を出してきた。リジェネに礼を言ってから、まずは鉄板を斬ってみた。手に持った魔金銀の剣は当たった感触すらなく鉄板を真っ二つにしていた。驚きながらも次は花を斬る事にして花と剣を接触させると剣の輪郭がぼやけて液状化してすり抜けてしまった。
「おお、本当に斬れないんだな。・・・いや待てよ一緒に斬ったらどうなるんだ?」
疑問が浮かんだので素早く一緒にして斬って見ると半液状化しても鉄だけは斬れる事が分かった。
「凄いなこの剣は。此れなら斬りたい物だけ斬る事が出来る」
俺が感嘆と共に剣を褒めたのでリジェネは親の作った物が認められたのが分かって満面の笑顔を浮かべて話し掛けてきた。
「ねえ、褒めてくれたって事はロベールはもしかして此の剣を使えるのかしら?」
「俺は魔力量が多いからこの程度なら問題無いし、たぶん俺の妹も使えるだろう。だが使って見て良く分かったが持っているだけでかなりの魔力が消費していくから普通の人が使う事は絶対に出来ないと思う」
俺だけでなく妹も使えると聞いてリジェネは顔を輝かせていたが次の言葉にガックリと肩を落としていた。
「はあーーー。剣が使える人に駄目だと言われると言葉が心に突き刺さって痛いわ。まあ、お父さんも私も今のままでは駄目な事は分かっているの。でも開発や改造をしたくても店にある商品が売れなくてお金がないから出来ないの。しかも材料の魔金と魔銀がとても高いから実験材料を確保するのも大変で真面な成果を出すだけの実験をするなら金貨百枚有っても足らないの」
どんよりとした近寄りがたい雰囲気をだしているリジェネを見て如何声を掛けようか考えたが中々良い案は思い浮かばなかった。どう話そうか困っていた俺にシグルトとルードルが小声で話し掛けてきた。
「直哉、魔金なら龍の里にかなりの量がおいてあるし、確か母様も持っていたと思うんだ。しかも武器を作らない龍にとってはあまり使い道がないから交渉すれば貰えると思うんだ」
「ふん、主の武器も此れで作る心算の様だから教えてやるが魔狼の里に魔銀があるぞ。魔狼の子供を治している対価としてならかなりの量の魔銀を手に入れる事が可能だ。魔狼は借りを作るのが嫌いだから帝都の魔狼の事もある今なら文句も言われないだろう」
「・・・・それは良いのか?俺は魔狼に報復を止めさせているから対価は払っている事になっているだろう」
「・・・帝都の魔狼の状態を見た時に分かった。・・あれを治療するのがどれ程の事なのかがな。忌々しいがお前の労力に対価が釣り合っていない事は明白だ」
「明日の朝に一度龍の里に戻ってそこから俺達は親が待っている家まで転移する心算だ。帰ってくるのは一日後だがその間に魔狼の里から魔銀を持ってこられるか?」
「俺様が本気をだせば可能に決まっている。主の為だから確実に持ってくる事を約束しよう」
「ありがとうルードル。シグルトは里に帰ったらシルフレーナさんに聞いてくれるか?」
「任せてくれて良いんだ。母様に言って直哉が家から帰ってくる時には用意出来ている様にして見せるんだ」
請け負ってくれたシグルトに礼を言って頭を撫でると喜んでいるのが分かった。俺としてはかなりシグルト達や龍達に頼っているので心苦しかったのだが喜ぶシグルトを見て心が少し軽くなった様に感じられた。その時にシグルト達が見えないリジェネが、何もない空間を撫でる俺に不審人物を見る様な視線を向けているのに気づいて心に傷を負いながら口を開いた。
「其れなりの量の魔金と魔銀が手に入るかも知れない。二日後くらいにもう一度妹達も連れて店に来るからその時に親父さんにも会えないかな?妹の武器を作って欲しいんだ」
「・・・・・簡単に魔金と魔銀が手に入ると言われると何とも言えない気分になるわね。剣を買ってくれて更に妹さんの武器を作って欲しいと言われてなかったら怒鳴っていたかも知れないわ。・・・まあ良いわ。お父さんに今日の事を話して二日後には店に居て貰う事にするから必ず来なさいよ」
「ああ、必ず来るよ。それじゃあ今日は此れで帰らせて貰う。またな」
別れの挨拶をした俺は店を出てバルグーンの町の見物に戻った。
その頃香織はフレイと一緒に目の前に並べられた百を超える暗器を見て唖然としていた。
「カリーナさんはどの様な暗器が良いですか。今の流行は魔法の糸ですがこの魔法のリボンなども可愛くておすすめです。他にこの扇子は魔力を込めると雷が発生して叩くと気絶させる事が出来て夫や恋人のお仕置き様に使い勝手が良いとご婦人方から評判ですし、此方の服は魔力を込めると熱を発して触った者にやけどをさせる事が出来ますから許可も無く触れて来る男の撃退に成果が出ていますわ。それ以外にも・・・・・・」
奥方の説明の声が聞こえているが私はあまりの種類の多さに圧倒されて半分くらいしか理解出来なかった。ただ魔獣用とはいえ毒関係は流石に使う気になれなかったし、身に着けて見て世界が違う故の考え方の違いの所為か違和感を感じるので自分専用の暗器を作った方が良いと言う結論になった。
「あの奥様、今は暗器よりも先にお兄ちゃんに依って来る女の排除をする方法を教えて欲しいのです。今近寄ってきている女が暗器術を習得しているみたいなので対処方法が知りたいのです」
「成る程暗器術の対処方法ですか・・・。お兄さんに近づけない様にしたいのなら罠系統が良いと思いますわ。まずはお兄さんにこのお守りを渡して寝る時に結界を張るのです。そしてこのイヤリングは結界内に登録されていない人間が入ったら音がなる様になっています。契約者の貴女なら使えると思いますが強い魔力を込めると結界内の音が聞こえる様になります。他には侵入を阻む結界もありますがこちらの結界は一度使うと使った人しか解除出来ないので相手に使う前に侵入されていると貴女が締め出される事になりかねないのでお勧めしません」
お守りとイヤリングを受け取って使えるとは思ったが不安な部分があるので質問してみた。
「眠っている時は此れで良いのですが起きている時は如何するのですか?」
「起きている時は動きますから結界を使う訳には行きません。ですからなるべく一緒にいるのが一番の防御手段でしょう。・・そうですね、あと言える事はそのお守りとイヤリングは人間が使う事を前提に作られているので契約者用に新しく作って貰うのが良いかも知れません。魔力を沢山使えるのなら色々と機能を増やせると聞いた事があります」
「本当ですか?どこで作って貰えるのですか?」
「暗器などの特殊な武器を作っている職人か、または魔道具を作っている魔法使いに頼むのが良いでしょう」
「魔法使いですか?ならクリステアさんに頼めば良いのかな?」
「クリステアさんですか?何処かで聞いた事がある名の様な気がしますね」
「クリステアさんはミルベルト卿の奥さんです」
「ああ成る程、あの馬鹿みたいに売れた水を入れると冷たくなる冷え冷えグーレントくんの製作者のことね」
「冷え冷えグーレントくんですか?」
「ええそうよ。当時は魔道具は魔石を使っているのが当たり前だったの。でも魔石を使わない冷え冷えグーレントくんは魔力を消費するけど値段が驚くほど安かったの。それで平民でも買えて飛ぶように売れていたわ。でも一番有名なのは売り文句だったわ。確か最近仕事が忙しくて結婚記念日も誕生日も帰ってこない上に贈り物も無い冷たいグーレントくんに水を冷たくして貰いましょう、冷え冷えグーレントくんただ今発売中だったかしら」
「・・・・・・・・」
私は何と答えて良いのか分からなかった。同じ女性としてはクリステアさんの気持ちも分からないではないが、そんな商品を売られて飛ぶように売れたらミルベルト卿は地獄だったのが容易に想像できる。顔が引きつっているのが自分で分かった。
「そんなに気にしなくても良いわよ。販売店が考えた、ただの売り文句で本当じゃないんだから。抑々ミルベルト卿の名はグーレントじゃないわ」
「・・・・ええええええ」
驚きの叫びを上げた私に奥様は苦笑を浮かべてから話を続けた。
「カリーナさんが考えたみたいに大抵の人が売り文句を聞くと本当の事だと思って、ミルベルト卿を睨んでしまうのが問題になって売り文句が訂正されたんだけどそっちは覚えてないわね。それに売り文句で酷い目にあったとはいえ売れに売れた事は事実で莫大な資産をミルベルト家は手に入れたわ。そのおかげでミルベルト家は五大貴族に迫る権勢を持っているのよ。酷い噂も半分はその成功を羨んでの事なのよ」
「あの、その販売店は大丈夫だったんですか・・」
「ミルベルト卿は怒っていたけど売れている事と途中で売り文句を変えた事、そして何より奥方が気に入って笑いながら庇った所為で結局文句は言えなかったそうよ。当時のミルベルト卿はガックリと肩を落として覇気が感じられなかったと夫が言っていたわ。さて雑談はここまでにして話を戻すけどあの魔法使いクリステアに頼めるなら問題無いと思うわ。きっと想像以上の機能をつけてくれるはずよ」
「分かりました頼んでみます」
「貴女にその扇子とお守りとイヤリングはあげるわ。さて次は場所をかえてまずは護身術の訓練をしましょう」
「はい、お願いします。あとありがとうございます」
「気にしなくていいのよ。あの人から話を聞いて私も色々思ったもの」
そう言ってから移動した訓練場で奥様の指導を受けて、急所への的確な攻撃方法や人体の脆い部分の知識や人の油断をさそう方法など沢山の今まで知らなかった方法を教わっていた。
「こうすれば良いのですね、次は私の・・・・ああ」
「何をやっているのです。この程度の攻撃に大きくかわしすぎです。この様に小さくかわして素早く相手の急所に的確に攻撃するのです」
かわした後の反撃をアッサリとかわされて鳩尾に掌打を叩き込まれた私は息が詰まって膝をついてしまったが素早く地面を転がりながら起き上った。私がいた場所に容赦のない追撃がが叩き込まれているのが見えた。
「攻撃を受けたのは駄目ですが、その後の対処はましになりましたね。では息も整ったところで訓練を続けますよ」
その後もお兄ちゃんが帰って来るまで厳しい訓練を必死に続けた私は少しはましになったと感じていた。見ていたフレイも動きが変わったと言ってくれたので指導された事の一部を習得出来ているのは本当だと思った。私を迎えに来たお兄ちゃんを見て、お兄ちゃんが私を守る為に人を斬った事を思い出して今習得した力とこれから指導を受けて習得する力で同じ事は起こさせないと心に誓った。
一通り簡単にバルグーンの町を見て回った俺は香織に何か土産を買おうと考えていた。
「なあ土産は何が良いかな」
「主に贈るのなら確りした物がいいだろう。あのペンダントを売っている店は如何だ」
ルードルが指した場所にはいかにも貴族御用達といった感じの高級店があった。
「いや待てただの土産にあんな高級品を買えるか」
「フッお前の主への思いは所詮その程度か。俺様なら臆さずにすぐに入るぞ。今主は天狐の存在に不安を感じているから此処で贈り物を贈って気持ちを示して不安をとるくらいは兄としても男としてもするべきだ」
ルードルに軽く嘲笑されてイラッとした俺は反射的に答えていた。
「臆してなどいないし、俺の思いを勝手に決めつけるな。確かに土産ではなく贈り物としてなら良いかもな。入ってみる事にしよう」
店の中に入るとすぐに凄まじい高級感に気圧されそうになった。中にいる客も明らかに貴族だと思われる服を着ていて入って来た俺を見て何だ此奴はと言いたそうだった。
「ご来店ありがとうございます。お客様はどの様な物をお求めですか?」
初老の存在感のある男の店員?が現れて尋ねてきた。
「俺より年下の女性に贈るペンダントが見たいのだが」
「承りましたこちらへどうぞ」
店員について行くとそこには数十個のペンダントが飾られていた。宝石に詳しい訳では無いので店員にお勧めを聞いて見ると白、緑、赤の三つのペンダントを進めて来た。値段は其々金貨五枚、十枚、五十枚だった。一見すると赤のペンダントは値段が高いだけあって宝石としての価値が高そうだったが俺は何故か白のペンダントが気になっていた。
「此の白のペンダントを手に取っても良いだろうか?」
「どうぞ手に取ってお確かめください」
手に取って見て何か強い違和感を感じるので気づかれない様に精密探査魔法を使って調べて見た。すると何と此のペンダントは身を守る魔法が発動する魔道具でもあるのが分かった。しかも発動する魔法は人が使える魔法としてはかなり高度な魔法で俺が強化すれば古代魔法以外なら全て防げそうだった。流石に宝石に詳しくない俺でもこのペンダントが金貨五枚な訳が無いと理解出来た。
「このペンダントの本当の値段を教えてもらえるかな」
「金貨五枚です」
「・・・理由を聞いても良いか」
「このペンダントは私の娘が初めて作ったペンダントなのです。ですが中々売れなくて困っています」
ジッと俺を見つめる視線に試す様な光が見えて納得した時に、一組の男女が近寄ってきて話し掛けてきた。
「店長またそのペンダントを客に勧めているのか?いくら店長が進めてもそこそこの石の安物は貴族ならだれも買わないぞ。まあ此奴は貴族ではなさそうだから買うかも知れないが」
「そうね、私も身に着けるなら此れ位の宝石じゃないと貴族として恥ずかしいわ」
そう言う女の身に着けている宝石は確かに大きくて高そうな物ばかりだった。しかしただの宝石と魔道具でもある宝石では価値が違うのだ。ハッキリ言うと女の宝石が金貨百枚くらいだとしても魔道具でもあるこのペンダントの真の価値には勝てないのだ。明らかに俺を見下している男と身に着けた宝石を自慢している女をチラリと見て物の価値を値段だけで決めつけて理解しないとこうなるんだなと考えていた。
「店長だったのですか。このペンダントを金貨十枚で買わせて貰います。多い五枚は価値を理解していると言う事の証と娘さんの職人としての実力に敬意を表してです。そして本来の値段で買わないのは店長の考えと気持ちを考慮してのことです。娘さんにこれからも良い作品を期待していますと伝えてください。このペンダントは妹に贈りますが、妹は俺から贈られた物を大切にしますから安心してください」
代金の金貨十枚を払うと店長は深く頭をさげて声をだした。
「お買い上げありがとうございます」
そのまま良い買い物をしたと気分よく店を後に出来ればよかったのだが、やはりと言うべきか貴族の男女が話し掛けてきた。
「おいちょっと待て。今の話は如何言う事だ?そのペンダントに何かあるのか?」
「私が勧められても買わなかったその貧相なペンダントがなんだって言うのよ」
説明するまで付きまといそうな二人を見て店長に視線を向けると頷いたので説明する事にした。
「このペンダントを宝石としてだけ見たなら貴女が付けている宝石の方が価値がある。だがこのペンダントには身を守る魔法が掛けられていて魔道具としての価値も持っている。その価値を加えると貴女の宝石より価値が高くなるんだ。金貨五枚で売っていたのは娘さんの初めての作品だったからで、いわば店の特別なお買い得商品だったんだよ」
俺の言葉に二人は愕然とするといきなりおかしな事を言い始めた。
「おい、見た事のある顔じゃないから貴族ではないのだろう。お前には過ぎた物だから俺達に譲れ」
「そうよ、価値ある物は相応しい者が身に着けるべきだわ。私に渡しなさい」
割って入ろうとした店長を視線で止めると俺は出来るだけ静かな落ち着いた声を努力して出した。
「俺は確かに貴族ではないが貴族に知り合いはいる。だが俺としてはこんな事で名を出したくは無いし、その方がお互いの為だと思うから此処で終わりにしないか」
「何を言うのかと思えばお前に助けて貰える様な貴族の知り合いがいるとは思えない。名も言えないのは嘘だからだろ」
女も同意するみたいに頷いているので忌々しく思いながら名を告げた。
「聞いて後悔しても知らないからな。リグレス公爵、ニービスさんとニルストさん、メルクラント卿、ミルベルト卿などが俺に貴族が絡んでいると聞いたら飛んできそうな人の名だな」
俺の言葉に二人だけでなく店にいた全員が凍り付いた様に動きを止めていた。
「・・・馬鹿な・・・お前の様な奴がバルクラント卿達と知り合いなはずが無い」
「いや今俺の妹はバルクラント卿の奥さんに護身術などを習っているはずだ。今日はバルクラント卿の館に泊めて貰う事になっていて此れから行くからついて来て確認するか?」
「ははははは、お前は平民だからまだ聞いていないのだろうが、今バルクラント卿の館に入れるのは今日の昼に着いた軍の関係者の貴族と一部の指揮官だけだぞ。お前はどちらにも見えないから嘘に決まっている」
「そうよ。お父様から聞いた話だとリグレス公爵達と共に、なんと契約者が泊まっていると聞いたわ。その所為で私達貴族も御挨拶に伺う事も出来ないのよ。そんな館にお前の様な身なりの平民が泊まれる訳がないわ」
女の言葉を聞いて店長が俺を見て驚いていた。察しの良い者は今の会話で気づいた様で店長以外にも俺を見る目が変わった人が何人かいた。
「店長、少々騒ぎになるみたいだ。後、騒ぎを起こすと言って置いてこんな事を言うのもあれだが、また客として店に来ても良いかな」
「当店は商品を買って行くお客様を拒む事はありません」
「ありがとう。そこの二人は目を見開いて良く見るんだな。シグルト姿を見せてくれるか?」
俺の隣に現れたシグルトを見て店の中が静寂に包まれた。目の前にいた二人は理解出来ない物を見た様にポカンと間抜けな顔をして立ち尽くしていた。
「此れで俺の立場は分かってくれたよな。此れでも分からないのなら本当にリグレス公爵達に伝えて対処して貰う事になるが、そうなるともう冗談では済まなくなるぞ」
「・・いや・・・待って・・くれ。良く分かったから許してくれ」
「わわ、私が悪かったわ。許して・・・」
ムッとしたシグルトに見つめられて冷や汗を流している姿を見て反省しているみたいだと感じたので此処までにする事にした。
「二人は今度から物を買う時は店長の話を良く聞くと良いと思う。店長、すぐとは言えないが今度は妹と一緒に来させて貰うよ」
「またのご来店をお待ちしています」
その言葉を背に店を出ると寄り道せずに帰る事にした。館に入ってすぐに香織に会いに行こうとしたが途中でニービスさんとニルストさんに会ったので一応あった事の報告しないといけないと思って話をすると苦笑されてしまった。そのまま立ち話をしていると一人の女性が現れて、ニルストさんから妻のメルティナさんだと紹介された。
「ロベールと言います。よろしくお願いします」
「ロベールですって・・・・・そう貴男が・・・」
ニルストさんより七歳程年下の美しい女性だったが、俺が名乗ると何故か睨まれて説教を受ける破目になった。なんとニルストさんは俺の作戦の事まで事細かく説明して自分がどんな目にあったのか全て語っていたのだ。おかげで香織を迎えに行った時は精神的にボロボロで贈り物をするのは次の機会になってしまうのだった。




