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契約者と炎鳥の森

 光が消えると目の前は赤い葉の舞う森だった。葉が落ちる事も無く、空に向かって飛ぶ景色に、俺は呆けて見上げていた。異世界と地球では物理法則も違う事に気が付き、シグルトが声をかけるまで動けなかった。

 「如何かしたの?大丈夫かい直哉」

 「ああ大丈夫だ。シグルトこの森は如何なっているんだ。何故木の葉が落ちないんだ」

 「炎鳥の森はこれが普通としか言いようが無い。直哉から得た知識で、重力が如何とか説明しても無駄だよ。大前提が違うんだ。ファーレノールには魔法が有る。世界魔素が有って世界に大きく影響しているんだ。例えば赤き太陽と蒼き太陽は交互に昇るんだけど、出ている太陽に依って魔法の威力に影響が出るんだ。また六つの月も直哉の世界の月とは根本的に違うんだ。常に満月で、半月だとか三日月なんて見た事も無いんだ」

 「まいったな此れは・・・常識が通用しないのが、これ程厄介な物だなんて考えた事も無かった。ファーレノールの常識を知識として知っていても、使い熟せなければ意味が無いと言う事だな。此れは気を引き締め直す必要が有るな。早急に新しい常識を再構築しないと、とんでもないミスをしそうだ」

 俺は考えている内に、一つの事を確かめたくなってシグルトに尋ねた。

 「まさかとは思うが、神が実在している何て事は無いよな」

 「神の実在の証明は危険な話題で、聞く相手を選ばないと、最悪神敵認定されて処刑されるから注意するんだ。ファーレノールでは神は太陽と月に住んで居るとされている。理由は祈りを捧げると、体力や魔力の増加や強化をされる加護が貰えるんだ。加護持ちは基本神官に成るんだけど、神官は加護を持たない人を見下すから嫌われているんだ。でも神官は力と権力を持って王侯貴族の相手をする貴族神官と、清貧な暮らしをして庶民を相手にする神官に、八対二の割合で分かれていて、真面目に人々に救いの手を差し伸べる神官もいるから、全ての神官が嫌われている訳でもないんだ。それとは別に、加護は人の祈りが作用して魔法になり、人に加護として掛かっていると言って、神なんかいないと主張する人もいるんだ。この意見は教会に弾圧されているから、口にしない方が良いんだ」

 「簡単に言うと解らないと言う事だな。まあ良い、直接戦闘にならないのなら問題無い。一瞬神と殺し会いをする物語を思いだして焦ったぜ。よし炎鳥の里へ行こう」

 シグルトと先の事を話ながら移動して、里まであと少しの所まで来た時、近くで爆発音が聞こえた。

 「おいシグルト非常事態と思っていいな。日常的に爆発音がする森だったりするか?」

 「まさか、ドラドラの森なら兎も角、炎鳥の森は静かな森なんだ。其れにこの音は、火系統の爆裂魔法に似ているんだ。僕の時みたいに襲われている可能性が高いんだ。急いで向かおう」

 「そうだな、でもその前に時空魔法で姿を消そう。そして状況を確かめよう。そうしないと、また問答無用で襲われる破目になる」

 素早く魔法を使い、龍人としての全力移動を始めた。


 「なぜ人間の軍隊が森にいて襲ってくるの?兎に角父様に知らせないと・・・急ぐわよリオン」

 「姉様、このままでは捕まります。僕が囮に成ります。逃げてください」

 「なにを言ってるの。囮なら姉の私が成ります。リオンは次の炎鳥王になる、大事な跡取りなのだから立場を弁えなさい」

 「しかし姉様」

 言い合う姉弟が必死にお互いを逃がそうとしていたが、その逃走劇も終わりの時が来た様だ。

 「悪いがどちらも逃がす心算は無い。大人しくするんだな」

 「隊長、包囲は完了しました」

 「ご苦労。さてお前ら二羽には契約石に成って貰う。随分暴れた様だが抵抗は無意味だ、観念するんだな」

 姉弟は声を聞きながら周囲を見回し、必死に突破口を探した。しかし三百を超える兵士に、魔法兵が五百が何時でも魔法を放てる状態でいる以上、如何考えても突破は無理だ。唯一の突破口は空を飛ぶ事だが、下から魔法で狙い撃ちにされるだけだろう。だがどちらかが犠牲と成り、放たれる魔法を一手に引き受ければ、もう一方は助かる事に気づいた姉弟は、反射的に鋭い声を出して動いていた。

 「リオン、飛びなさい」

 「姉様、飛んでください」

 姉弟がお互いに声を掛け合い、必死に空を飛んだ。

 「逃がすな、魔法を放て」

 隊長の声で一斉に魔法が放たれた。それを見た姉弟は、お互いに相手を守ろうとした所為で逃げ道を無くし、放たれた爆裂魔法の直撃を受け地に落ちた。地面に叩きつけられた二羽の内一羽は重症で両の翼を折って虫の息だった。

 「姉様、ごめん・・助けられ・なくて・・・・」

 そのかすれる声を最後にリオンは動かなくなった。

 「ちょっと嘘でしょリオン。答えなさいリオン。リオンーーーー」

 姉の悲痛な叫びが森に響きわたる。

 「あーあ、一羽は死んだか。折角、契約石を二つ作れると思ったのに、抵抗するから無駄になったな。おい残った方を早く契約石にするぞ。せめて一個でも持って行かないと、上の怒りを買うからな」

 隊長の言葉に魔法兵が素早く儀式の準備を始めた。

 「お前は絶対に許さない。必ず殺してやる。炎鳥全てを敵にした事を覚えておきなさい」

 「無理だね。お前さんは契約石に成って意思を奪われ、俺達の道具として使われる運命だからな」

 そう言い捨てると隊長は、アッサリと踵を返して部隊の指揮に戻った。


 「さてシグルト、この状況であの炎鳥を助けるのは良いんだが。正直言って殺人はしたくないんだよな。何か良い方法はないかな」

 「そうだね・・・転移魔法で森の外に出すのが良いと思う」

 「いや、其れだけだと、また直ぐに戻って来るだろうから意味がないな。なあシグルト、転移する時に装備品を奪う事は出来ないかな」

 「普通は無理だけど直哉の強化が有れば出来るんだ。でも全て奪う事になると思うんだけど良いのかな?」

 俺はゲーム感覚で装備を奪うと考えていたので、一瞬意味が理解出来なかった。しかし理解すると自分が言った言葉に戦慄した。全てとは本当に全てなのだろう。兵士の中には女性もいる。そんな事をしたら香織は激怒し、俺を軽蔑して最悪殺しに来るだろう。そしてシグルトは当然、香織に包み隠さず報告するだろう。その想像にぞっとして身震いした俺は、素早く前言を翻した。

 「いや待て、男と女は分けよう。奪うのは男だけだ。これなら香織も目を瞑ってくれるだろうさ・・たぶん・・・」

 「わかった。二度に分ける事になるから、魔力が一気にかなり減るんだ。まだ直哉は魔力の消費に慣れて居ないんだから注意して使おう」

 そう言ったシグルトが転移魔法を使い、俺はすぐに魔法を強化した。急激に魔力が消費していく感覚に戸惑ったが、此れくらいなら問題無い様だった。光が消えた時には、もう兵士は一人もいなかった。転移した兵士は今頃地獄だろうが、余計な事はサッサと忘れる事にして、何が起きたか理解していない炎鳥の娘に声を掛けた。

 「俺はこっちに居るシグルトの契約者で直哉と言う。龍の里からの使者だ」

 そう言って俺は証明紋を手に取って見せた。

 「今すぐ手当するからじっとしていてくれ」

 「人間の助けなんていらない」

 炎鳥の娘は暗く濁った憎悪の瞳を向けて治療を拒絶した。攻撃してきそうな雰囲気に、俺は仕方ないなと思って後ろに下がった。

 「シグルト、治療は任せた」

 「分かった、僕に任せて」

 シグルトが近寄って魔法で治療するのを、俺はため息を吐きながら見つめていた。すると炎鳥の娘がぞっとする程暗い声でポツリと尋ねてきた。

 「あいつ等はどうなったの」

 「転移魔法で森の外に送った」

 「まだ生きているのね。なら殺さないと・・・」

 その言葉と共に、森の外に飛び出そうとする殺気だった娘を見て、俺は素早く手を出し遮った。

 「何所へ行く心算だ。あいつ等の所へ行っても犬死だぞ」

 「関係ない、一人でも多くの人間を道連れにしてやるわ。邪魔をするならお前も殺すわよ」

 深いため息を吐くと、俺は即座に強化した空間魔法で娘を隔離した。そしてシグルトに小声で相談した。

 「なああっちで死んでる炎鳥が原因だよな。だったら俺なら何とか出来るよな」

 「直哉の強化が聞いた通りなら出来ると思うけど、直哉が寿命を削ってまで助けるのは反対なんだ。今後もこんな場面は、悲しい事だけど一杯あるんだ。一々助けて居たら、寿命が幾ら有っても足りないんだ。香織も心配して帰りを待っているんだから自重するんだ」

 「シグルト、俺は香織の事を忘れた訳じゃ無い。寧ろ香織の為にこの状況を利用しようと思っているんだ。シグルトが許してくれるなら、この娘と取引をしようと思うんだ」

 「取引だって?いったい何を?まさか・・・・・・・」

 シグルトは初めは解らない様だったが、すぐに理解すると険しい視線を向けて来た。

 「俺も理解している。相手の足元を見る酷い行為だと・・・。元々寿命はシグルトの物だけど、この娘も生き返れば喜ぶだろうし、香織の問題も解決するし、俺も言い訳になるしさ・・・・・」

 「言い訳になるんだ・・・・・・」

 ジトーーーと見つめてくる視線から、さり気無く目を逸らす俺を見て、シグルトは厳しい声を出した。

 「今回はまだ直哉の寿命も有るから、あちらの同意が得られたなら目を瞑る。でも次からは僕の寿命だから、他人の為に使うのは認めない。直哉も覚悟を決めて欲しい」

 「了解。でも香織は見捨てられないから解って欲しい。あと、ありがとうシグルト」

 「香織の事は良いよ。やるなら急ごう」

 シグルトの顔は照れていて真っ赤だ。俺は頷くと炎鳥の娘に目を向けた。

 「何を何時までも話している。早く此処からだせ。人間達に味方するのか。そもそも如何して殺さなかったんだ。あいつ等は弟をリオンを殺したんだぞ」

 「あいつ等を殺すのと弟の命どちらが大切なんだ」

 「弟の命に決まっている」

 「なら俺の話を聞け」

 「聞いて如何なる。弟は殺されたんだぞ」

 「蘇生出来ると言ったら、少しは静かに話を聞くか」

 「ふざけるな、絵空事を言うな」

 「いや、直哉は蘇生出来る可能性が有るんだ」

 黙った娘に俺は自分の特殊能力と使った代償と自分の望みを話した。

 「本当に弟が生き返るのなら、妹だろうが何だろうが契約してやる。だからやれるものなら早くやって見せてくれ」

 俺は息絶えた炎鳥の前に立つと、緊張しながら魔法を使い、そしてすぐに強化を始めた。始めてすぐに俺は自らの中から魔力ではない、もっと根源的な何かが消費され消えて逝くのを感じていた。それは擬似的な死の感覚を体験させられ、圧倒的な恐怖を俺の心に刻み込んだ時間で、何度も途中で強化を止めようと思い、それを否定する事を繰り返す時間は、永遠にも思えたが現実には五分程度だった。蘇生を終えた俺はシグルトに声を掛けられ、我に返るまで終わった事に気づかなかった。かすれた声で俺はシグルトに問いかけた。

 「シグルトも感じたか?だとしたらすまない。今後この力を使う時は、必ず許可を取る事にするから許して欲しい」

 「まあ僕は龍だから大丈夫なんだ。直哉こそ人間の精神に耐えられるレベルじゃ無かったと思うんだけど、今も正気を保っているのかな?」

 「龍人になったからか、精神を無意識で強化したか、どちらかは知らないが何とか無事だ。シグルト、魔法は成功したんだよな」

 「うん生きている。いずれ目を覚ますんだ。ねえ直哉、あの娘閉じ込めたままなんだけど・・・」

 言われて見ればそこには、理解不能の事が起きた所為で混乱した娘がいた。

 「おい、今から出すが大人しくしろよ」

 声を聞いて体を震わせると娘は何度も頷いた。俺はすぐに魔法を解き、娘に約束を守る様に告げ、使者として里に行くので取次を頼んだ。

 「ええ分かったわ。名乗って無かったわね。フレイシャーと言うの覚えて置いて」

 フレイシャーは弟を背に乗せると、里に向かって移動し始めた。俺とシグルトは、かなりの速度で移動するフレイシャーを、慌てて追って行く破目になった。


 「はあ、大分待たされるな。もう二クーラ経ったぞ」

 「まあまあ落ち着いて、直哉は慣れてないだろうけど、使者をしていれば此れ位普通なんだ」

 「普通ねえ。非常事態にのろのろしてても、良い事は何も無いと思うんだけどな・・・」

 「他の場所でも戦闘があったみたいだし、その後始末があるみたいだから仕方ないんだ」

 「しかし魔狼、龍、炎鳥と次々に襲われて後手に回りすぎじゃないか?慢心があったんじゃないか?」

 「耳に痛い言葉だな。重く受け止める事にしよう」

 その言葉と共に大きな炎鳥とフレイシャーが部屋に入って来た。

 「私が炎鳥の王でリフレオンと言う。我が子を助けた事にまずは感謝しよう。だが取引は認める訳にはいかないな。此れでもフレイシャーは王女なのだから、人と契約して里から出て行く事は、断じて許す積りは無い」

 言葉と同時に、殺気混じりの威圧を受けて俺達は気圧された。これが王威なのだろう、入って来た時より真紅と金の羽を持つ体が一段と大きく見えた。そんな王を無視して俺はフレイシャーに話しかけた。

 「フレイシャー、この発言は君の意思と取っていいのかな?蘇生の時にした約束をアッサリと反故にすると・・・・・」

 「違うわ、私は約束は守ります」

 「フレイシャー、お前は黙っていなさい」

 「王よ、この約束は一切の妥協も譲歩もあり得ない物だ。俺は王子を蘇生するのに二百年の寿命を削った。八千五百年以上生きる炎鳥には、二百年など大した事では無いのかもしれないが、人間の一生は百年なんだぞ。つまりこの蘇生に俺は人生をかけて足らず、シグルトの寿命まで使った物である以上、約束は絶対に守ってもらう。俺が死んだら悲しむ家族がいるから、自分の人生は安売り出来る物じゃ無い」

 そう言った俺を見て王の顔が驚愕していた。シグルトも何故か動揺している様だ。不思議に思いながらも、俺は鋭く厳しい声で告げた。

 「如何しても破棄するのなら、蘇生を無かった事にして貰いたい」

 王は顔を歪めながら重たい声を出した。

 「フレイシャーに簡単に話を聞いただけなので明日まで時間が欲しい」

 「了解した。シグルト、使者としての話をしてくれ」

 「分かった。まずは魔狼と龍の現状からだけど・・・・」

 シグルトが王と話すのを聞きながら、明日の返答次第では一戦交える事になるかもと考えていた。里に連絡員を置く事、襲われた時の援護、襲う人間の調査、天狐へ使者を出す事、契約石の調査、捕らわれた者達の事が話し合われ一端話は終わった。俺とシグルトは客間に通され、食事をして眠り、明日に備えた。


 「リオン、無事と言って良いのか分からないが、こうして話が出来る事を嬉しく思うぞ」

 「父様ありがとう。でも正直死んだはずなのに生きているのが・・・何と言って良いのか分かりません。何より僕の所為で姉様が契約するなんて・・・」

 「リオン気にしなくて良いわ。私が勝手にした約束なんだから」

 「レオン、如何にか出来ないのかしら、私は嫌よフレイが契約するなんて」

 「話し合いで如何にかする事は無理だな。今日話して良く分かった。後は力ずく何だが・・・」

 「ちょっと待って、私は約束は守る心算よ。私は彼らに救って貰ったわ。その上でリオンを助けて貰ったのよ。恩を仇で返す積りは無いわよ」

 そう言うフレイの声を聞きながら、リフレオンは先程会った直哉の事を考えていた。話の途中で一瞬だが確かに直哉の魔力が桁外れに増大した。その力は、炎鳥の王である自分の魔力と比べても、天と地程の差が感じられたのだ。

 「レオン、何を悩んでいるのかしら」

 「ああ、ここだけの話として聞いてくれ。あの契約者の力は、炎鳥を全滅させる事が出来るかも知れない」

 「何を言っているのです。一人でそんな事をする事は龍でも不可能です。父様、冗談でも笑えないです」

 「レオン、本気なのね?本気で契約者とはいえ人間が其処までの力を持つと・・・」

 部屋の空気が重苦しくなり、しばらくは誰も口を開かなかった。嫌な静寂が続く中で、フレイが落ち着いた声を出した。

 「私が直哉の妹と契約すれば問題無いわ。私が死んだら妹も死ぬ事になる。直哉は妹が大事、私は弟が大事だから、お互いの大事な人に手は出さないわよ」

 「はあーー。王としてその考えは案の一つとして考えた。しかし政略結婚ならぬ政略契約だし、まさに前代未聞の事態になる。王女で人気もあり、結婚の申し込みが山の様に来るお前が、訳の分からん人間に連れて行かれて、契約するなんて言ったら暴動が起きる。とてもじゃないが鎮められない」

 「そうですよ、姉様が里から居なくなるなんて反対です。契約したら寿命半減なんですよ。僕は姉様が先に死ぬなんて嫌です」

 「私は姉なのだから、先に死ぬのは当たり前の事なのよ。蘇生の対価なのだから納得しているわ。何度戻っても私は蘇生を求めるわ」

 「フレイ、確かめたいのですが、本当に蘇生したのですね?死んではいないのに死んだ事にして、蘇生したと嘘を吐いている可能性はないのですか?」

 「信じられないのは分かるけど、蘇生は本当の事と確信しているわよ。共感能力を使ったもの」

 「使ったのか、使うなと言ったはずなのだがな。古代の炎鳥の能力で今使える者は三羽だけなんだぞ」

 「力を持っている姉様が次の王に相応しいと言われているのだから、里から出るようなまねはしないでください」

 「力の事は如何でも良いわ。話を戻しましょう。直哉は蘇生するだけの力を持っているのよ。約束は守るべきよ。母様だって、父様が炎鳥を滅ぼせると言った時、信じたでしょう。いい、そもそも蘇生なんて不可能だったのよ。それを可能にした人間がここにいる。蘇生を無かった事には出来ないわ、だから対価を払うのは当然の事で、踏み倒す事が間違いなのよ。私は契約すると言っているのだから問題無いの」

 正論を聞き場が沈黙した。皆理解はしているのだが、感情が納得しないだけなのだ。リフレオンは王として、結論を出さねばならない事を忌々しく思いつつ声を出した。

 「良かろう。契約を認めよう。だが娘を預ける事になるのだから、明日は擬戦を行う事にしよう。そこで預けるに相応しい力を見せて貰う」

 「父様、まさかとは思いますが、ご自分が出たりしませんよね」

 「安心しろ、その様な無様な真似はしない」

 「そうですか。リオン、しばらく会えなくなるのだから、今日は一緒に寝ましょう」

 言葉と共にリオンを連れフレイシャーは去って行った。

 「レオン、如何するのです。フレイは疑っていましたよ」

 「全ては明日直哉殿に話してからだ」

 二羽は騒がしくなる明日を思いながら眠りについた。


 「模擬戦に出ろと言うのならシグルトも一緒なら出ましょう」

 「いや、直哉殿だけで一対一で戦って貰いたい」

 先ほどから同じ問答の繰り返しだ。朝からニクーラも続けて限界だった俺は、苛立ちと共に口を開いた。

 「シグルトと一緒なら二対二じゃなくても良いですよ」

 「ほう、それは三羽以上で戦っても良いのだな」

 俺の言葉に王の声音が変わり、押し殺した怒りが感じられた。

 「ええ、構いません。かわりに一クーラ程時間をください」

 「そうか、では里の訓練広場で待っている」

 そう言い捨て王は素早く去って行った。

 「直哉は如何するつもりなんだい。王は怒っていたし十羽以上集めるかもしれないんだ」

 「何羽いたって殺すのなら簡単だろ。強化した転移魔法で心臓や頭だけ転移させれば良いんだ。問題は如何すれば殺さずに済むかだ」

 「炎鳥は火と風の魔法を使い、空を飛ぶ速度ではファーレノール最速で、直哉の世界の知識で言うと、音速で飛ぶ戦闘機を超えるんだ。風の魔法で補助をしているから、空の動きではまず勝てないんだ」

 「倒す作戦は何個か思いついたから、可能か不可能か教えてほしい」

 俺はシグルトに可能と言われた作戦に満足して広場に向かった。


 広場には見物人が二千羽と対戦者百羽が王と共に待っていた。俺とシグルトはさすがに唖然として立ち尽くした。

 「直哉殿、此処にいるのは王女を慕う者達だ。此度の事を聞いて名乗りを上げた者達で、少々多いかもしれんが気にしないでくれ」

 俺とシグルトの心はふざけるなという気持ちで一致した。こんな奴らに絶対に負けたくない。

 「王よ、時間が惜しい、早くこのくだらない試合を終わらせよう。ああそれと言っておくが、手加減は殺さないだけだぞ。大怪我をしても自己責任でたのむ」

 聞いていた炎鳥から怒りと罵声が飛んできたが、怒っているのはこちらだ。王が場を鎮め開始の合図の魔法を空に放った。其れと同時に炎鳥が空に舞った。俺はそれを一歩も動かず眺め、シグルトに声をかけた。

 「防御魔法の準備は終わっているな。強化を掛けた後、攻撃に使う空間の準備をするから魔法の維持を頼む」

 シグルトが頷くのと同時に、炎鳥の攻撃魔法が降ってきた。百羽の炎鳥が包囲して、一斉に火炎弾を放った様だ。次々に俺達に直撃するのを見て、見物人から歓声が上がった。

 「防御魔法が壊れる可能性はないな」

 「うん、無の空間に全て収納したよ。周りの地面に当たって出来た溶岩もついでに入れといたんだ。でも僕はこの魔法を防御魔法とは呼びたくない」

 「右側にいる観客の前に出口を作ってくれ。観客が攻撃している様に見えるから・・・・・」

 「直哉・・・・・」

 出口が開き、先程放たれた火炎弾が飛び出した。突然後ろから攻撃された一部の炎鳥が、直撃を受け吹き飛んで行く。俺の目論見の通り、観客から攻撃されたと思った炎鳥が、混乱して喧嘩になっていた。此れで三分の一は戦闘不能だろう。

 「予定通り次は上を飛んでいる炎鳥を潰す。既に音を増幅して音波攻撃を行う最適な空間は完成している。やってくれ」

 シグルトがブレスを放ったが、小さく威力もないブレスを見て、炎鳥は脅威と思わずバカにしている様だ。俺は音を遮断する空間を周囲に作りながら眺めていたが、とうとうブレスが爆発した。辺りに轟音が響き、すぐに見物人の悲鳴に変わった。

 「きゃああああああああーーーー」

 「ぐあああああああ」

 悲鳴の中に苦痛の叫びも混じって響き渡り、辺りは混乱に包まれた。意識を失う者や平衡感覚を無くした者が、地面に落ちて叩きつけられ、中には羽の骨を折る者もでたし、観客の中に落ちた者もいて大混乱だ。まさに悲惨としか言えない状況で、俺もシグルトも冷や汗を掻きながらやり過ぎたかなと思ったが、百羽で挑んで来たのだからしょうがないと思い、逃避する事にした。混乱が収束した時には、勝敗は誰の目にも明らかだった。無傷の俺達とぼろぼろの炎鳥がいて、対戦者でまだ戦えるのは五羽が良い処だろう。

 「王よ、まだ戦うのか?もう止めないか」

 「待て、まだ終わってはいない。この私を倒してからにして貰おう」

 五羽の内の一羽が凄まじい目つきで俺の前に立った。

 「やるとなると手加減は出来ないぞ」

 「要らん世話だな。こう見えて俺は若くとも戦士長の一羽だ。抵抗する姫様を連れて行かせる訳が無い」

 「待て、抵抗する姫だと?何を言っている?俺はフレイシャーと取引をして、妹と契約して貰う事は了承済みなんだぞ。王が納得しないで、この戦いで娘を預けるに相応しい力を見せろと言われ、今百羽と戦っているんだぞ」

 「了承済みだと?お前は姫を助けた事を恩に着せ、無理やり連れて行くと聞いたぞ」

 「おい、フレイシャー何とか言え。ふざけるのも大概にしろよ」

 皆の視線がフレイシャーに集まった。

 「直哉の言った事は本当です。私はある取引をして後は私が約束を守るだけです」

 炎鳥達は唖然として凍りついた。

 「此の茶番は俺の勝利で終わってフレイシャーは俺と共に行く、此れが決定事項だ。良いなフレイシャー」

 「はい問題ありません。父様には此度の事を確りと聞き、後日説明させていただきます」

 睨まれた王は動揺が隠せていない。やっと幕引きかと思ったが如何やらまだの様だ。

 「姫が了承済みなのは聞いたが、契約すれば寿命が減る。俺には認められん」

 声と同時に飛びかかってきて爪で攻撃された。反射的に横に跳んで爪をかわしたが、すぐに羽を叩きつけられ吹き飛んだ。更に小さな針状の火炎が俺に向かって飛んで来た。其れに気づいた俺は慌てて空間を歪めると、ギリギリでかわす事に成功した。

 「おやめなさい」

 「姫様の命令でも聞けません」

 その目は覚悟を決めた男の目だ。俺も目的があり引けない以上、この男の覚悟は受け止めるべきだろう。

 「良いぜやろう」

 そう言って俺は身体能力を強化した。俺は攻撃魔法が飛んで来たのを合図に、一瞬で距離を詰め掌打を腹に放った。その一撃は内臓まで衝撃を伝え、血を吐き意識を奪うものだったが、覚悟を決めた男は其れでも必死に羽で反撃してきた。その反撃を受け止めた俺は、ジッと男を見つめた後、立っている残りの四羽に告げた。

 「治療してやってくれ。俺がやったら侮辱になりそうだ」

 四羽が慌てて近寄って、立ったまま気絶している男の治療を開始した。

 「フレイシャー、この男は最後まで立派に戦った。どんな関係か知らないが今日の事は忘れないでやってくれ。俺は部屋に戻る。行くぞシグルト」

 頷くフレイシャーを見届けて、俺達はやっと終わったと思いながら部屋に戻った。

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