契約者達と天狐とバルグーンへの道
「さて最後の住人も無事に送り出したので俺達も移動をしましょうか」
「ああ、準備は整っている。まずはバルトラント卿が治めるバルグーンに向かうとしよう」
リグレス公爵の言葉で進軍を始めた俺達は移動しながらバルグーンについて聞く事にした。
「バルグーンはどんな町なのですか?」
「儂が説明してやろう。儂が治めるバルグーンは武術と鉱石の町と言われている。豊富な鉱石を使って数々の武器や兵器を開発していて、魔法砲も儂の死んだ父親が製作した物なのだ。父は他にも剣や槍などを数多く制作していて、どれも名剣や名槍と呼ばれて今も皆が大事に使っている。儂が今持っている剣も儂が成人した時に贈られた三本の剣の一つで儂の宝物だ」
誇らしそうに剣を見せて告げるバルクラント卿を見て亡き父親への思いがヒシヒシと伝わってきた。
「父上、確か私が成人した時に貰った剣もその内の一本ですよね」
「うむ、その通りだ。もっともお前は折角与えた剣を部屋にしまって使おうとしないので儂としては色々と思うがな」
「・・・私はまだ父上に剣では勝てませんからね。父上を打ち倒してから使おうと思っているのです」
「ほう、儂はまだまだ現役だぞ。倒して継承するのは時間がかかると思うのだがな」
いきなり視線を交わしてバチバチと火花を散らす親子に驚いているとメルクラント卿が小声で教えてくれた。何でもバルクラントでは伝統として親の跡を継ぐには親を打ち倒す必要があるらしい。大抵の親はそこそこの所で倒されて問題無く継承されるのだが偶にバルクラント卿みたいにまだ現役だと言って意地でも倒されるかと抵抗し続ける親がいるらしい。周りは微笑ましく見ているが倒せない子供はやはり色々と思うのだそうだ。
「ふふふふふ、二人共意地を張る子供みたいで可愛いよね」
「くす、まあ百年以上生きている炎鳥の私からすると二人共子供と言っても良い年齢ですわ」
香織とフレイが内心で皆が思っていた事を小声で聞こえない様に話していたが、如何やら皆にも聞こえた様で憮然とする二人に皆が笑いを堪えていた。仕方ないので俺は気を使って話を進める事にした。
「えっと、バルクラント卿は武器に詳しい様ですが、女性が持ちやすい武器を知りませんか?」
「あ、私の武器の事ね。お兄ちゃんは剣を持っているけど私は武器を持っていないから確かに何か欲しいわね。」
「くくくくく、父上に女性の持つ武器の事を聞く者がまだいるとは驚いたな」
俺を見て笑い声を出したニルストさんを見て何か不味い事を言ったかと思って周りを見るとリグレス公爵とメルクラント卿だけでなく何とロベルトまでが俺から目を逸らした。
「儂が戦う女性に進めるのはやはり暗器だな。儂の妻が護身術と暗器術を教えているから必要なら紹介してやるぞ」
「・・・・・暗器・・・暗器術ですか・・・」
かろうじて返事をしたが俺の頭の中は混乱していた。返答として護身術は理解出来るが暗器術など想像もしていなかった。そして暗器を使う香織を想像して、その想像で倒される相手が何故か俺に見えて体が震えてきた。
「うふふ、暗器術は私も習得していて使い勝手も良いですわ。女性として無骨な武器を持ったら美しさが損なわれてしまいますもの。その点、暗器なら隠れていますから美しいままですわ。もっとも其れを気にするのは大人の女で少女は気にする必要もないでしょうね」
チラリと香織を見て妖艶に笑うタマミズキに香織が顔色を変えていた。俺は内心でため息を吐きながら今まであえて考えない様にしていた事を考えていた。帝都の住人を送った時にタマミズキは俺達の元に残ったのだ。タマミズキとしては元々俺と話す為に来たので当然の行動なのだろうが、俺としては大人しく龍の里で待っていて欲しかったと思っていた。何故かと言えばタマミズキは事ある事に俺にチョッカイを出してきて、その所為で香織の機嫌が急降下して毎回苦労してなだめる破目になっているのだ。今日の夜の野営の時に話をする事になっているが今からどんな話し合いになるか不安で仕方なかった。
「バルクラント卿、バルグーンに着いたら奥様に会わせて貰えますか?護身術と暗器術を学ばせて貰らいたいのです」
「儂は構わんが。妻の教えは本格的でかなり厳しいぞ」
「大丈夫です。私には早急に排除しなければならない者がいますから」
「うふふふふ、誰のことかしら?でも経験の足りない少女には無理だと思いますわ」
「ふふふふ、経験を誇るのは年を取っている証拠だと思うわ」
香織とタマミズキは俺を挟んで火花を散らしていた。俺はシグルトと共に気づかれない様に移動してから小声で話を続けた。
「本格的との事ですがどんな事を教えるのか聞いても良いですか。兄として妹が暗器術を教わってその内容を知らないでは親に言い訳も出来ないですから」
「武器はフォークでもナイフでも日常にある物を何でも使うのだが、今の流行は裁縫に使う魔法の糸と言われている太さや長さそして強度を魔力に依って自在に変えられる糸だと聞いている。儂は妻が糸を鞭の様にして使うのを見た事がある」
「父上、鞭だけではないでしょう。糸を針の様にして刺されていたのを知っていますよ」
「な・・見ていたのか・・・なら言わせてもらうがな、お前だって自分の妻を怒らせて食事中にナイフが顔の横を飛んで行って顔を青ざめさせていただろうが」
言い合いをする二人の話を聞いているだけで暗器術のヤバさが理解出来てしまった。花瓶や皿で人を撲殺する方法から始まっていって少し聞いただけでも安全なはずの物が凶器に見え始めたのだ。そして部屋への侵入方法など忍者にでもなるのかと言いたくなる技の話になって、正直言って香織がこれを習得したら俺は家で休んでいても心が休まらない自信があると心底思った。話を聞いて親にこんな事は言えないと確信して頭が痛くなった俺は香織を説得する事にした。
「なあ流石に暗器術はヤバいと思うんだ。父さんと母さんにも説明出来ないだろ。俺は護身術だけで良いと思うんだが」
父さんと母さんの話で香織は一瞬怯んだがチラリとタマミズキを見た後強い意志を感じられる視線を向けて来てから冷静な声で話を始めた。
「お父さんとお母さんには私から説明するからお兄ちゃんは気にしないで良いわ。タマミズキが習得している以上対抗する為には私も習得するしかないの。お兄ちゃんは気づいていないけど初めは面白半分にチョッカイを出していたタマミズキだけど、今はチョッカイを出してもなびかないお兄ちゃんに本気で興味を持ち始めているわ。簡単に落ちない男を見て落としてみたいと思っているのが私には分かるの」
「まあ待て、要は俺が落ちなければ良いんだろ。なら俺が何時もの様に適当にあしらっておく。炎で俺の心は確かめたんだから安心して置けよ」
香織は一瞬俺の言葉に嬉しそうな顔になったがすぐに小さく笑うと首を振って告げてきた。
「お兄ちゃんを信用していない訳ではないけど、ああいう女は本気になったら手段を択ばないの。気づかない中に忍び寄っていて気づいた時には美味しく頂かれてしまいました、なんて事になったら後悔してもしきれないわ。まあ興味だけの今なら一度で興味を失う可能性が高いけどこの私がその一度を許す訳がないでしょう。お兄ちゃんも分かっているわよね」
視線だけで人を殺せそうな香織を見てブンブンと首を縦に振って頷いていると笑い声が横から聞こえた。
「うふふふふ、二人とも私のいる前でその様な話をすると言う事は挑戦と受け取っても良いですわよね」
「ええ如何受け取ろうと問題無いわ。ただ聞いていた通りお兄ちゃんは私の物で髪一本でも渡す心算はないわ」
「良いでしょう私も其処まで言われたらそれ相応の準備をして挑ませて貰いますわ。まあ全ては今日の夜の交渉が終わってからになるでしょうから、私は暫く一匹で考えさせて貰いますわ」
そう言って去っていくタマミズキにルードルが無言で付いて行った。それから暫くは取り留めのない雑談をしながら移動していた。しかしそれが見えてくると誰ともなしに皆が無言になっていった。其れとは帝都の在った場所の事で、俺とシグルトは既に見ていたのでまだ冷静だったが他の皆は目を見開いて絶句して震えていた。香織も不安になったのか手を握ってきた。
「・・・・・・・こん・・・・・確かに・・人が住める・・場所ではない・・」
「・・・・・国を・・・守るなど・・・・儂は・・・何をして・・いた・・」
「・・・・・・・・私は・・・如何・・すれば・・・・・・・・・・・」
ブツブツと呟く公爵達と今にも倒れそうな騎士や兵士を見て此のままでは不味いと思った俺は風の魔法で音が響く様にしてから手をパンパンと叩いて声を出した。
「良いか良く聞け。お前達が今しなくてはならない事は少しでも早くガルトラントに行く事だ。商連合国の奴らは帝都消滅の混乱を好機と見て侵攻してくるんだぞ。其れに帝都は消滅したが住人は全てではないが生きている。だが他の場所で同じ事をされたら如何なる。今度こそ大量の死者を出す事になるぞ」
我に返ってから聞いた俺の言葉に冷や水を掛けられたみたいな表情で立ち尽くす皆に更に言葉を掛けた。
「龍達の協力で俺達は其のまま進軍出来る様になった。此れは奴らも想像していないはずだし、魔法砲や投石機の様な物は帝都と共に消滅したので今の俺達は身軽だから進軍速度も速い。だが失った物はバルグーンで用意しなければならないから時間がかかるし、その後のバルグーンからの進軍は通常の速度に戻ってしまうから今だけが時間を更に縮める事の出来る機会なんだ。此の被害に色々思うのは分かるが立ち止まるのはバルグーンに着いてからにしよう。それに帝都消滅を知っていて逃げ出した裏切り者の五大神官の奴らの事も早く着けば何か分かるかも知れないぞ」
俺の言葉を聞いた騎士や兵士は何とか気持ちを持ち直して移動を初めてくれた。嬉しい誤算だったのは本当に進軍速度が上がった事だ。無言で黙々と移動し続けて日が落ちて移動出来なくなると素早く野営の準備をして食事を食べながら軽く話し、すぐに明日に向けて休む兵士達を見て皆の強い意思が伝わってきた。俺もササッと食事を食べて休む兵士達の邪魔にならない様にタマミズキと話す場所に静かに移動した。
「父上、ロベール達が何時の間にか、いませんが良いのでしょうか」
「ぬ、確かにいないな。何かあったのか?」
「ああ、気にしなくても大丈夫です。今頃は天狐と交渉しているはずです」
「ロベルト天狐との交渉の内容は知っているか?」
「詳しくは知りませんが契約石に入った天狐の扱いだと聞いています」
「そうか何か私にも手伝えれば良いのだがな」
「公爵には悪いですが二人に全て任せた方が上手く行くと思いますよ」
「・・・そうだな。だが二人に負担を掛け過ぎているだろう。先程の事も本来は私が言うべき事だったはずだ。だが私はあの時何も出来なかった」
「其れは儂も同じだ。儂は帝都の住人が生き延びていたので重く考えている心算でもまだ軽く考えていたらしい。儂は今自分の力でこの国を守ると言えなくなった。この赤帝国が危険な状態だとは考えていたがあれを見て気づいてしまった。リグレスはその可能性に早くから気づいていたのだな」
「父上それは如何言う事ですか?」
「それは実質赤帝国がすでに滅んでいると言う事だ」
メルクラント卿の確信の籠った言葉に重い沈黙が訪れた。
「帝都は消滅して真面な皇族で生きているのはメイベル様とミーミル様だけだ。他にも継承権を持つ者はいるが内乱は避けられないだろうし、傀儡にしかならないのは目に見えている。五大神官は赤帝国を裏切って帝都を消滅させ、更に自分達だけ逃げた所為で国教に対する信頼は地に落ちた。その上愚かな貴族は内乱で力を落としてしまった。なのに商連合国の力は未知数で契約石などに対処出来るのはあの二人だけだ。実際は二人がいるからまだ何とかなっているだけで赤帝国は半ば終わっている。その可能性に早くから気づいていたリグレス公爵は何とかして二人を強固な支えにしようと考えていたのだろう。たとえその結果が新しい国だったとしてもな・・・。そして私は本来なら戦う事すら出来ずに国を滅ぼす原因を作った愚か者の一人として歴史に残っていただろうな。正直気づいた時に死にたくなったがロベールに言葉はあれだったが死ぬなと先に言われていた事を思い出して今何とか踏みとどまっている」
重苦しい声で語るメルクラント卿にリグレス公爵が励ます様に告げた。
「今勝手に死なれたら困るぞ。私は何とかして少しでも傷つく人を減らしたいと思っていて、其れには此処にいる皆の力が必要なのだ。裁かれたいなら全てが終わった後で二人が裁いてくれる」
「公爵、二人が受け入れる事が決まっている様に聞こえるのですが・・」
「安心しろ。無理強いはしたくても出来ない。気持ちは分からなくもないがミルベルト卿もロベルトも心配し過ぎだ。さて兵士達も明日に備えて休んでいる事だし私達も休もう。私達が足を引っ張る訳には行かないしな」
「うむ、その通りだ。今はこれ以上酷い事にならない様に万全を尽くそう。それが儂らの償いの一つとなるだろう」
「そうですね、バルグーンに着いたら私と父上に休む暇はないでしょうから今の内に休みましょう」
「確かにこれ以上の失態は受け入れられない」
公爵の言葉にそれぞれが返事をして天幕で休んだが一人ロベルトだけは二人が戻って来るのを待っていた。
移動した先では天狐が静かに目を瞑って待っていた。纏っている雰囲気が今までとは違っていてピンと張りつめているのが感じられた。巫女が出す様な雰囲気と言えば理解して貰えるだろうか、俺は今までとの落差に驚いて気圧されている事に気づいていた。深呼吸して気を取り直すと静かに近づいて行ってからシグルトに空間を隔離して貰った。
「貴方様に呼ばれて此処まで来ました。お話をお聞かせください」
目を開いて清廉な感じに響く声に姿勢を正すと天狐の入った二つの契約石を取り出して前に置いてから話を始めた。
「此処にある契約石に入っている天狐を俺が治療します。代わりに人間への報復をやめていただきます。また今後も治療が必要な天狐は俺が治療するので人間への対処を全て任せていただきたいのです」
「大人しく天狐の入った契約石を渡していただければ治療は此方で致しますわ」
此方を窺う様な視線を向けるタマミズキに告げた。
「中に入っている生物は魂が傷ついていて俺にしか治せません」
「・・・成る程それが貴方様の切り札と言う訳ですか。確かにそれが確かなら天狐以外は取引に応じるかも知れませんわね。ですが私達天狐は応じる心算はございませんわ。何故なら私達天狐は魂に干渉する魔法を持っていて癒す事は可能だからですわ。抑々私達の祖先はこの力を使って魂を変質させて善狐と悪狐に分けたと聞いていますわ」
此の反論に動揺した俺は素早くシグルトに視線で問いかけたが驚いた顔で首を振っていたので如何やら知らなかった様だと考えて、此れからの交渉を頭の中で必死に組み立て直した。
「・・・それは初めて知りました。ですが命のかかった事ですからまずは実際に魔狼を治した俺の治療を見て貰えないでしょうか。既に治療した事のある俺の魔法を見て自分で出来ると言われるのなら大人しく契約石を渡しましょう」
ジッと考え込んでいたタマミズキは突然笑顔を浮かべると試す様な口調で話を始めた。
「同じ事が出来るか如何か調べる為に調査する魔法を使ってもよろしいかしら。貴方様の魔法を盗む事になるかも知れませんけれど・・・」
「どうぞ構いませんよ」
アッサリと許可を出した俺にタマミズキは一瞬顔を険しくさせたが取り繕う様に笑みを浮かべて魔法を使って準備をしていた。まあ調べた所で強化能力を使うので真似は絶対に出来ないから問題無いと考えて、この時俺は油断をしていた。その所為で香織やシグルト達に迷惑をかける事になるのだった。
「では治療を始めます」
俺が天狐を契約石から出すとタマミズキが息をのんだ。知り合いだったかと思って様子を見たが何も言わないので治療を続ける事にした。何時もの様に魔法を強化して体の傷と共に魂の傷も治していった。今回は帝都の魔狼に比べれば何も問題無いと言える程に簡単に治療出来てホッとしてからタマミズキの方を見ると、そこには蒼白な顔でガタガタ震えて呼吸困難にでもなったかの様に口をパクパクさせているタマミズキがいた。驚いてどうしたのかと尋ね様とした時香織が腕を掴んで話しかけてきた。
「お兄ちゃん此処は私に任せて貰うわ。タマミズキも此れで良く分かったと思うけどお兄ちゃんと同じ事が天狐に出来るの?」
力なく首を振るタマミズキに香織は優しい声を出した。
「なら先程の条件で交渉成立で良いわね。私もお兄ちゃんも別に悪い様にはしないわ」
「・・・分りました、其れでお願いしますわ。もう一匹も治療して貰えるかしら」
俺は急いで治療したがその様子をタマミズキは厳しい表情で睨んでいた。
「治療は終わったわね。ルードルは治療された二匹の天狐の事を任せるわ。シグルトとフレイは後を任せるわ。最後にお兄ちゃんは私と一緒にお話ししましょうね」
腕を掴まれて移動した先で俺は魔法を調べさせた事で香織からガミガミと説教を受けていた。自分が不味い事をしたのは理解出来たので一切反論出来なかったが、最後の方に美人だと思って油断したわねなどと私情が入った説教も受けたので、流石に其れには美人だった所為ではなく初めに気圧された所為と予想外の返答で冷静さを失っていたと言おうとしたがキッと睨まれた俺は結局反論出来なくてまさに地獄の時間だった。一人起きて待っていてくれたロベルトに感謝して決まった事を説明した俺は酷く疲れた顔をしていたらしく大丈夫かと心配されながら眠りに付いた。
シグルトが私とフレイを中に入れて空間を隔離したのを確認してから、すぐに私の口から悲鳴の様に疑問が飛び出した。
「あれは治療とは呼べないわ。あの天狐は契約石から出された時に魂の一部が欠けていたわ。明らかに手遅れだったはずよ。なのに直哉は・・・・」
「最初に言っておくんだ。此れから話す事は契約相手の身内しか知らない情報なんだ。だから妹の女王以外には他言無用なんだ」
「貴女が聞きたい事は直哉の力についてでしょうけど、見たままとしか言えませんわ」
「ふざけないで、一部とはいえ欠けて失った魂を取り戻せるのなら完全に失った魂も取り戻せる事になるわ。それは死者を生き返らせる事が出来ると言う事なのよ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
私は否定を欲していたのに無言で私を見つめる視線には否定の意思が全く感じられなかった。その所為で私の心に冷たい刃が突き刺さった様に感じていた。
「香織の炎の力は見ましたか?」
「ええ嘘が分かるのには驚いたけど、それがなんなの?」
「香織の炎は指定した条件で何かを燃やすものですわ。そして香織はまだ気づいていないみたいですけど私は状況しだいでは魂や精神も燃やせると考えていますの」
「・・・・・嘘でしょ・・・」
自分の口から勝手に声が出ていた。天狐は元々魂や精神に影響を与える魔法を得意としていて特に精神に作用する幻影魔法や幻覚魔法は天狐であれば誰でも使えると言っても過言ではないのだ。しかしそれらの魔法は一部の魂の魔法を除いて対抗魔力の事もあって一時的な物で時間が経てば解けて元に戻ってしまうし、洗脳などの相手の意思を無視する魔法は掛ける事すら出来ないのだ。天狐は五幻種で一番と言われる程の魔法の知識を持つので、言われた事の異常性が誰よりも理解出来てしまって常識が通じない未知の存在に対する恐怖が込み上げてきた。
「貴方達は二人の存在に何も思わないのですか?」
「別に恐れる必要は無いんだ。僕達は普通ではない理由も契約相手として知っているし、直哉も香織も自分から誰かを傷つけようとはしないと思うんだ。だから僕達は二人を利用しようとしたり危険だと言って排除しようとする周りの方に気を付けているんだ」
「私達は既に二人を守ると心に決めていますわ。だから何を言っても無駄ですわ」
ジッと此方を見定める様な視線を向けられて私は自分が二人にとって危険か如何かを確かめられている事に気づかされた。そして私が気づいた途端にフレイは力を解放していた。その力は龍に匹敵するくらい大きな物で私を驚愕させるのに十分だった。
「・・何で炎鳥の子供が此処までの力を・・・」
「驚く気持ちは分かるんだ。五幻種でも子供は人間でも数を集めれば倒せる程度の力しかないのが普通なんだ。実際僕もフレイも人間に襲われて痛い目にあったんだ」
「ええ、ですが私達は二人と契約したので力が増したのですわ。さてこんな事をして置いてなんですが返事を聞かせて貰えませんか?」
明らかな脅しに顔が引きつるのが止められ無かったが、今聞いた話を考えれば無理もないとも思った。私が知ってしまった秘密は常識が覆る物なのだ。
「分かったわ。天狐は二人とは敵対しないし、知った秘密も他言はしないわ。でも二人にも天狐には必要以上の干渉はしないで貰いたいわね」
「直哉達は天狐を如何にかする心算なんてないんだ。信用出来ないのなら暫く一緒にいて確かめれば良いんだ」
「ふふふ、シグルト今の発言は香織を怒らせるかも知れませんわよ」
フレイの言葉に顔を青くするシグルトを見た私はおかしくなって笑ってから二人に告げた。
「お言葉に甘えて暫くは傍で様子を見させてもらいましょうか」
「了解しましたわ。しかし上手く話がまとまってホッとしましたわ。本当に直哉の不注意には困ったものですわね」
「でも完璧だったら僕達のいる意味がないんだ。僕は役に立てて満足しているんだ。フレイだって本当は僕と同じ気持ちだと思うんだ」
「知りませんわ」
プイと顔を赤くして背けるフレイを見てクスッと笑うと緊張を解いて雰囲気を変えて声を出した。
「それじゃ、私は仲間の面倒を見ないといけないから行くわ」
「天狐の里に戻るならバルグーンに着いた後で僕達と共に龍の里に行ってから送る事も出来るから考えて置いて欲しいんだ」
「分かったわ。でもまずは二匹の様子を見てから決めますわ」
「其れで良いですわ。私達は二人の所に戻りますのでルードルにそう伝えておいてください」
空間隔離を解いて戻って行くシグルトとフレイを見送ってから私は魂が欠けた状態から本当に後遺症も無く回復するのかと、回復していたらタマシズクにどう説明するかと考えて心の中でうなっていた。その後目覚めた二匹に会って手遅れだったはずの二匹が何事も無かったかの様にピンピンしているのを見せ付けられて、私の中の常識が悲鳴を上げて頭が痛くなるのを止められ無かった。二匹に捕らえられた時の事を聞くと驚く事を聞かされた。
「捕らえられた時ですが私達は共にいましたの。其処に一人の人間がやって来て戦いになったの」
「初めは数の有利もあって勝てそうだったのですが途中からいきなり強さが変わったのです。髪の色が緑に変わって目が竜の目の様になって色も金に変わり薄らと光っていたと思います」
二匹の話に顔を顰めると二匹に契約石について聞いてみた。
「いえ私はその様な石は見ていませんの」
「もしかすると服などの下に持っていたのかも知れませんが私も見てはいません」
「どちらも契約石を見ていない上に敵の姿が変わった・・・・。しかもその正体不明の敵は天狐二匹と戦って勝利した・・・・。ルードルこの情報は貴重だわ。二人に伝えてきて」
明らかに今までと違う正体不明の敵に嫌な感じを受けて、一緒に聞いていたルードルに二人にすぐに伝える様に頼んだ。伝えに行くルードルの背を見ながら二人との付き合い方を真剣に考えて、結びつきを強くする為に本当に籠絡出来ないかなどと考えていた。




