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契約者達と龍達と帝都の住人達

 「さてリグレス公爵話を聞かせて貰いましょうか」

 朝一番で俺達はリグレス公爵を問い詰めていた。俺に厳しい視線を向けられてリグレス公爵はまるで悪戯がばれた子供の様な顔で全てを話し始めた。そして話が進むにつれて俺は怒りを通り越して自分の馬鹿さ加減に憮然とする破目になった。特に徴税権を持っているのが皇帝だけで貴族ですら借り受けているだけだと聞いた時に昨日の人達の反応の意味に気づかされた。

 「つまり俺は知らない間に皇帝と同じ様な権限を持っていたと言う訳ですか・・・」

 「うわ、お兄ちゃん出世したね」

 からかう様な香織の声に苦笑いを浮かべながら質問した。

 「昨日の人達が泣きだしたのは何故ですか?」

 俺の質問に顔を歪めてから忌々しく思っている事を隠そうともしないで吐き捨てる様に話し始めた。

 「十三年前に皇帝に対する不敬罪で複数の平民が血族ごと処刑されたのだ。私はリラクトンに居たので詳しい事は知らないが、当時の帝都の住人は次は自分が殺されるのじゃないかと怯えていたそうだ」

 「儂が聞いた話では何をしたのか分からないのに、いきなり不敬罪で拘束されて問答無用で処刑されたと聞いたな」

 「うむ話を聞いた私が帝都に行った時には活気がなくなっていたな。その後一年かけて五大貴族全員で不敬罪を無くしたのだったな。抑々形骸化していたとはいえ不敬罪などが法として残っていたのが間違いだと後悔させられたな」

 「・・・・つまり俺はそんな事をする人間に見られたと言う事ですか」

 押し殺した声を出す俺にリグレス公爵達は引きつった顔をして、なだめる様に話し掛けてきた。

 「まあ帝都の住人にとって心の傷になっていて権限を聞いて驚いただけだから気にする事は無いぞ」

 「儂らが誤解は解いておいたからもうあんな態度をとられる事はない」

 深いため息を吐いてから次の質問に変えた。

 「五大貴族以外に法に関与する権限を持っているのは誰なのか教えて貰えますか」

 「法を作ったり変えたり出来るのは皇帝と直系の成人した皇子と五大貴族の当主だけだ。昨日の子供達の事の様に決められた法と違う裁きをする事が出来る者も同じだ。それ以外の者が同じ事をするのなら許可証を受け取らなければならない」

 自分が持つ権利が普通ではない事が次々と明らかになり、ふと気になった俺は自分が管理する場所で暮らしている人達の扱いについて聞いてみた。

 「・・・・俺が前に引き取った人達の扱いは法的に如何なっていますか?」

 「ロベール殿の民と私は考えているから如何するかはロベール殿が決める事だろう?」

 「あははは、民とか言われるとまるで国みたいだねお兄ちゃん」

 「何を言っているのだ?国みたいも何もロベールが全ての権利を持っていて儂らが干渉出来ない以上どんなに小さくとも其処は国と呼ぶのが正しいに決まっている」

 バルクラント卿の呆れた様な声に俺達は答える事が出来なかった。汗が噴き出て今にも倒れそうな重圧を感じてから俺達は始めて受け取った権利を本当の意味で理解していた。

 「ちょちょちょ、ちょっと待ってください。今帝都の住人を地下に移住させる計画なんですよ。移住した住人はどうなるのです」

 「ふむそう言えばそうだな。全てをロベール殿の管理する場所だけで受け入れる事は出来ないから半分は私も協力するが落ち着いた所で一人一人にどちらにするか決めて貰うのが良いだろうな。しかしもし全ての住人がロベールの統治を受け入れたら本当に新しい国が出来るかも知れないな。ははははは」

 愉快そうに笑うリグレス公爵を唖然と見続けてから他の二人の五大貴族に何とかして貰おうと話し掛けた。

 「バルクラント卿もメルクラント卿もこんな馬鹿げた計画は阻止してくださいますよね」

 「・・確かに馬鹿げているが儂には阻止する事は出来ない。何故なら帝都の住人を受け入れる場所はリラクトンの地下しかないからだ」

 「私も新しい国などを赤帝国の中に勝手に作られるのは反対だが抵抗する手段がない」

 二人の言葉に愕然としながらも何とか言葉を絞り出した。

 「俺が権利を放棄すると言ったらどうなりますか?」

 「その選択はロベール殿には取れないだろう。すでに貴方を頼って住んで居る人々を見捨てる事になる。それにロベール殿が此れからやろうとしている事には人々の信頼とそれなりの権限があった方が良いのは分かっていると思うのだが?」

 「リグレス様、儂はロベールの意思を無視しないと聞いていたのですが?」

 「それは私の考えの事だろう。実際に私は話はしたがまだ要請すらしていないぞ。今話している問題は私も話してから気づいたのだ。抑々私も地下にリラクトンの人口を超える人々が住むなどとは考えてもいなかったのだぞ。権利を与えたのも龍や花の事など色々な事を考えておかしな干渉をさせない為にした事で他意はないぞ」

 「ロベール、儂が思うに兎に角、帝都の住人は受け入れない訳には行かないだろう。お前も帝都の住人を見捨てたい訳では無いだろう」

 頷く俺を見てミルベルト卿は俺の肩を叩くと温かみを感じる静かな声で話し掛けてきた。

 「今は混乱しているだろうが、まずはやるべき事をやって後の事は後で考えれば良かろう。なに儂もロベルトも共に考えるから安心しろ。それにお前には妹達も一緒に居て決して一人ではないのだから一人で全てを背負う必要は無いのだぞ」

 「ありがとうございますミルベルト卿」

 「よし後の細かい話は儂が責任を持って代わりに話して置くからお前は気分転換でもしてくるが良い。何時も一緒にいるシグルトも居ない様だし会って来たら如何だ」

 ミルベルト卿の此方を気遣う言葉に感謝して俺達はシグルトの元に向かった。


 シグルトに会いに龍達がいる方に歩いて行くと一匹の龍が空間を隔離してから話し掛けて来た。

 「俺の名はメリクルクスと言ってメルボルクスの幼馴染だ。少しメルボルクスとシグルトの話をさせて貰え無いかな?」

 相手の真剣な雰囲気に態度を改めて話を聞いた。

 「昨日のメルボルクスの行動は明らかに暴走していたが理由を聞いて貰いたい。君はシグルトと契約した訳だがシグルトが百年も生きていない事は知っているか?」

 「ええ知っています」

 「では龍が子供を育てる時に千年かける事は知っているか?」

 「・・・いえ、少し待ってください・・・。今シグルトと契約した時に得た知識を聞かれてから確認しましたが千年かけて育てるとは想像していませんでした。・・・今始めて知りました」

 「やはりそうか。はあ、メルボルクスもシルフレーナも意地を張って絶対に話さないだろうから今からの話を良く聞いて欲しい。シグルトは本来まだ長い時間二匹の手元で大切に育てられているはずだった。其れが契約をした事で心の準備をする間もなく離れる事になったんだ。ハッキリ言って二匹は我慢に我慢を重ねているんだ」

 メリクルクスの言葉が俺の心に突き刺さった。配慮が足りなかったと考えて顔を歪めて詫びようとする俺に首を振っていたわる様な声で話し掛けてきた。

 「責めている訳では無いんだ。抑々シグルトから頼まれて契約した君に非が無い事は知っている。ただ俺はシグルトと共に生きる契約者の君には親の気持ちも知っていて欲しかったんだ。龍は子供が生まれにくくてシグルトの事をシルフレーナが妊娠した事を知った時、メルボルクスは大騒ぎして生まれる日までソワソワして落ち着きがなかったよ。まだかまだかと言い続けてシルフレーナを怒らせて家を追い出されて俺の家にきて落ち込んでいたのは良い思いでだよ」

 話を聞いてその場面を思い浮かべたのか香織とフレイがクスクスと微笑していた。

 「生まれたら生まれたで名前を如何するから始まってあれこれと楽しそうに騒いでいたのを良く覚えている。しかし常に傍に居ようとするメルボルクスに、成長したシグルトは一人になりたい時もあったみたいで森に一人で出かける様になって、其処を運悪く襲われた様なんだ。メルボルクスもその事を気にして近くにいたいのを必死に我慢していたんだよ。だが爆発に巻き込まれたかも知れないと聞かされたら我慢も吹き飛んだみたいで・・・。後は知っての通りだ」

 「分かりました。今後は同じ事が起きない様に注意しておきますが、態度は目に見えて変える心算はありません。態度を変えて今聞いた話を聞かれたとメルボルクスが知ったら恥ずかしさのあまり暴れそうですから」

 「はははは、確かに暴れるだろう」

 顔を真っ赤にして暴れるのを想像して皆で笑っていたが、暫くして俺は真面目な顔に戻してから告げた。

 「今すぐは無理ですが一緒に居られそうな方法を考えてみます。その時は協力してください」

 「ああ喜んで協力させて貰おう」

 「お兄ちゃん私も協力するからね」

 「私も協力しますわ」

 「助かるよ。だが其れならフレイの家族の事も如何にかしないといけないな」

 「私の事は気にする必要はありませんわ。家族は王族ですから」

 「そんな事言わないの。私も一度はフレイの契約者として挨拶に行かないといけないと思っていたのよ」

 「ふふふ、わかりましたわ。その時は家族を香織に紹介しますわ」

 和やかな雰囲気に色々あって疲弊していた精神が癒されるのが感じられた。すると今の状況を何とかする考えが色々思い浮かんできて行動したくなってきた。メリクルクスに挨拶をしてから俺はメルボルクスに会うために香織達を連れて移動を始めた。


 俺達が龍の間を通ってメルボルクスのいる所にたどり着くと話声が聞こえてきた。

 「父さんいい加減にして欲しいんだ。昨日戻らなかったから急いで直哉の元に戻らないといけないんだ」

 「我はシグルトが爆発に巻き込まれたと聞いて心配していたんだぞ。もう少し無事な姿を見せて安心させてくれても良いだろう」

 「昨日ここに留まったから其れで良いと思うんだ。それに父さんが突撃した所為で人間を怯えさせる事になったから直哉に昨日聞いた事と共に説明しないといけないんだ。今は時間を無駄に出来る状況じゃない事くらい僕の説明で五龍星の父さんなら分かると思うんだ」

 「それは・・・・でも・・・」

 厳しい視線をシグルトから向けられたメルボルクスは言葉に詰まっていた。やれやれと思ってから話に夢中で此方に気づかない二匹に声を掛けた。

 「シグルト説明なら此処で聞くからもう少し一緒にいてやると良い」

 俺の声に此方に気づいた二匹の反応は対照的だった。シグルトは喜んで飛んで来たが、メルボルクスは忌々しそうに睨んできた。そんなメルボルクスに仕方ないなと思って苦笑しながら生温かい視線を向けると訳の分からないメルボルクスは動揺していた。

 「直哉大変なんだ。父さん達は商連合国の中を足音を響かせながら歩いて移動したみたいなんだ」

 「・・・・・・歩いただと?ままま、まさか此処にいる龍全員でか?ははは、そんな馬鹿な事がある訳がないだろ」

 「いや歩いたぞ。攻撃はしていないのだから問題はないだろう」

 平然とそんな発言をするメルボルクスに正気を疑いそうになったが顔を見て本当に理解していない事に気づいて脱力してから平坦な声で説明した。説明を聞き終えたメルボルクスは顔色を変えて動揺して周りの龍達は顔を逸らしていた。

 「まあ今回はこちらも帝都を消滅させられたし、もう終わった事だから気にしない事にしよう。問題は昨日龍が突撃してきた所為で人間が恐慌しかかって龍を恐れている事なんだ。折角シグルトが帝都の住人を転移して龍に対する感情が良くなっていたのに台無しになったんだよ」

 ジッとメルボルクスを睨むとシグルトをチラリと見た後、落ち込んでしまった。

 「此のまま恐怖させたままにして龍を拒絶されると不味いから、ここで一仕事して人々の恐怖を取り除く心算は無いか」

 「我らに何をしろと言うのだ」

 「帝都が消滅した所為で住人は住む場所を失った。だからリラクトンに移住させようと考えているんだが病人や子供に歩いてリラクトンまで行かせるのは酷だ」

 「我らに人間を乗せて移動しろと言う訳か。仕方ない一応皆に聞いてみよう。少し待て」

 メルボルクスが仲間と話し合っていたが流石に了承を得るのは難しそうだった。しかしメリクルクスも説得に加わって何とか皆を説得してくれた様だ。

 「説得はしたぞ、他には何もないな」

 「いや出来ればもう一つ頼みたい。食糧を分けて貰え無いか?時の倉庫には要らないけど勿体無いからと言う理由で何でも入っているのは入って見て良くわかった。食料も沢山入っていて其のままになっていると思っているんだが?」

 「・・・確かに入っているが共有物以外は所有者以外には出せない様になっているから大変だぞ。そして食材は大抵個人の物として入っているんだ」

 「そこを何とかお願い出来ませんか」

 「・・・・ふん、これは貸しにして置くぞ」

 「父さんありがとう」

 シグルトに礼を言われたメルボルクスは顔を緩めてとても嬉しそうだった。しかし話が終わるのを待っていた香織の言葉でこの場の雰囲気が一変した。

 「全ての話が終わった様ね。なら此れから私とタマミズキさんの事についてお話しましょうか」

 「我は言われた通りに交渉相手として女王の姉を連れて来ただけだぞ?何か問題でもあると言うのか?」

 「問題?ふふふ、あるに決まっているわ。何故かあの天狐は私のお兄ちゃんに色目を使うの。天狐は言っていたわ、メルボルクスはそういう交渉を止めたりしなかったと・・」

 「交渉方法は話をする当事者同士の問題だろう?我はやるべき事はやったのだし、その後の交渉で起きる事は関係ないはずだ」

 メルボルクスから高みの見物の様な雰囲気が伝わってきて、其れを見た香織は目を細めると感情が全く感じられない声で告げた。

 「へえーー、そんな事を言うのね。お兄ちゃん、シグルト少し時間がかかりそうだから他の龍を連れて先に行ってもらえるかな」

 素晴らしい笑顔の下に見てはならない物が隠されている様に感じた俺は無言で頷くと落ち着かない様子の龍達を集めて足早にこの場を去った。シグルトは体を丸めて俺に抱えられて移動していた。途中でバキ、ドカ、ズン、バチンなどの音が聞こえる度にビクついていたりしなかったと思う事にしている。俺の耳には悲鳴や絶叫などは聞こえていないし、ついて来た龍達も皆がそう言っているのだからそれが此の時の唯一の真実になるのだ。


 「俺が皆と話してくるから悪いが龍達は此処で待っていてくれ。シグルト後を任せた」

 龍達を待機させて一人で皆が集まっている場所に向かった。其処では突然近づいてきた龍達に驚いた人々が俺を見て飛びつく様に質問してきた。初めに俺の指示で龍はあの場に待機している事を伝えて人々を落ち着けると話を始めた。

 「まず昨日は驚かせたみたいなので詫びさせて欲しい。すまなかった。だが俺は断じてそんな事はしないと言わせて貰いたい。さて話を変えて今皆が知りたい龍達の事を説明しよう。皆もずっと此処にいる訳にはいかない事は知っていると思う。そして昨日リラクトンの地下に行くと言った時に移動手段の説明をしなかったので今説明させて貰う」

 此処まで話した時に察しの良い者達は蒼い顔で動揺していた。

 「馬車も無いので子供、老人、女、病人さえも歩いて移動させる必要があったのだが運の良い事に乗り物がやってきてくれたので交渉して乗せて行ってもらえる事になった。此れでリラクトンまで安全に移動出来る上に全員が一日でたどり着けるから安心してくれ」

 俺の言葉に大人達は言いたい事があるのに言えない様な複雑な表情をした後そろって不安と諦めの表情を浮かべていた。まあ俺も言いたい事は分かるのだ。人間は魔法で浮く事は出来ても飛行する事は魔力の量から不可能なのだ。俺は飛行機が龍に変わっただけだと考える事が出来るが、人が空を飛ぶ手段自体がないのが普通の人々にしてみればまさに未知の体験になる。しかも乗るのは人間にとって畏怖の対象の最強の生物の龍なのだ。皆の反応を見て如何した物かと考えていると一人の子供が話しかけてきた。

 「なあ兄ちゃん龍に乗って空を飛べるの?」

 「ああ飛んでもらう心算だよ」

 「やったーー。僕一度で良いから空を飛んで見たかったんだ」

 「なに、そうなのか?」

 「うん、僕が好きだったお話に魔法を使って空を飛ぶお話があるんだ。でも人は空を飛べないと聞いて諦めていたんだ」

 良かったなと言って子供の頭を撫でていると他の子供達も話し始めた。話を聞いていると子供達は好奇心があって実は龍に触ってみたいと思っている事が分かった。そこで俺はメリクルクスを呼んで告げた。

 「悪いが早速協力してくれ。子供達が龍に興味を持っているので相手をしてやって欲しい」

 「・・・協力すると言った以上仕方ないな。でも子供限定だぞ」

 「聞いてくれ。此の龍はメリクルクスと言って危険はないから触りたい子供は触っても良いぞ」

 俺の言葉を聞いた瞬間子供達はメリクルクスに群がって行った。ペチペチと鱗を叩く子供、ツンツンと腹を突く子供、尻尾からよじ登ろうとする子供などが楽しそうに遊んでいた。もっとも親の方は楽しむどころではない様で子供の無邪気な行動を戦々恐々として眺めて顔色をころころと変えていた。

 「ロベール、此れは何事だ?」

 騒ぎを聞きつけてやって来たリグレス公爵達に俺は今までの事を話して聞かせた。

 「待て龍達が人をリラクトンまで運ぶと言うのか?」

 驚愕の声を出すメルクラント卿に子供達が群がっているメリクルクスを指しながら話した。

 「あれを見れば分かると思いますが、龍達の説得は問題無く終わりました。怪我人や病人の治療を終えたら順次移動して貰う心算です」

 「・・・・・・・・」

 無言になるメルクラント卿に代わってリグレス公爵が話し掛けてきた。

 「・・・しかしロベールよ、龍が集団で現れたらリラクトンが混乱しないか?」

 「確かに最悪襲撃に来たと思われて敵対的な行動をとるかも知れません。だから俺としてはミルベルト卿にも龍に乗ってリラクトンまで行って貰おうと思っています」

 「なななな何だと儂にまた飛べと言うのか?」

 冗談じゃないと首を振るミルベルト卿に申し訳ないと思いながらも退路を断つ様に告げた。

 「俺は商連合国の思惑を外す為に此のまま進軍しようと考えています。そうするとリグレス公爵はガルトラント卿と話さないといけないので帰るのは無理です。帝都の住人が移住する時のごたごたに責任を持ち、リラクトンに残っている人に説明して納得させ、更に食料を運んでくる龍との交渉とクリステアさんに頼んだ魔道具の作成を急がせる事まで全て出来る人材はミルベルト卿しかいません。ロベルトや他の人では経験などが足りないので上手くは出来ないでしょう」

 ミルベルト卿は反論しようとしたが結局代わりの人物の名が浮かばずに最後はロベルトが肩を叩いて首を振るのを見て諦めて肩を落としていた。

 「そう言えば兵士になる人は集まりましたか?」

 「ああ、帝都を消滅させた奴らと戦いたいと言う人が数千程集まった」

 「ならその数千をリラクラントの兵士と取りかえて元々の兵士をミルベルト卿の配下としてリラクトンに戻しましょう。帝都の住人の移住には人手も必要になるはずです」

 「そうだなリラクトンの移住に役立つ者を選別して送ろう」

 「では俺は病人の治療に向かいますのでこの場は任せても良いですか?」

 「細かい振り分けなどは此方でやっておこう。まず初めにミルベルト卿と女と子供を送るので良いかな」

 「はい問題ありません。俺が治療を終えて戻って来てそしてメルボルクスが来たら移動を開始する予定です。あとミルベルト卿は向こうに着いたらクーヤさんと話してから移住させてください」

 二人の返事を聞いてから俺は病人の治療に向かった。向かった先では苦しむ人々が大勢いたが殆どの病気は治せる物だった。魔法を使ってアッサリと治していくと患者やその家族から泣きながらお礼を言われた。

 「ありがとうございます。兄の病気は二年経っても良くならないので家族皆が諦めかけていたんです」

 「ありがとうお兄ちゃん。お父さんが元気になったの」

 数々の称賛の言葉を貰ったが俺の心は複雑だった。確かに中には俺でないと治せない物もあったが、大半の病気はちゃんとした薬を飲んで時間を掛ければ治るはずなのだ。其れに魔法治療なら簡単に治るはずなのに神官が高額の治療費を請求するので平民はまず治療を受けられないらしいのだ。俺が治療費として銀貨五十枚から金貨一枚を借金として請求する事を告げたら初めは詐欺だと思われたぐらいだ。また以外だったのは治療用の魔道具が存在しないと言う事だった。簡単な怪我を治す物ならあるのだが病気は原因がそれぞれ違うので原因を特定しないと治せないので魔道具は使えないと考えられているそうだ。魔法で治す時は魔法が自動で悪い部分を特定して治している所為で俺の世界で言うところの診察が存在しない事に驚愕させられて便利なのも考え物だと思った。考え事をしながらも魔法で治せる人を全て治すと俺は急いでミルベルト卿の元に向かった。急いで移動する俺の背中を見る人々の視線が変化していた事に俺は全然気づいていなかった。


 「おいロベール落ちたりしないだろうな。儂は前の時の様に落ちるのは嫌だぞ」

 「ミルベルト卿が今乗っているメルボルクスはシグルトの親で丁重に運ぶ様に言ってありますし、飛行中は魔法で落ちない様になるので心配しなくても大丈夫ですよ。それよりミルベルト卿は代表なのですから不安を口にするのは良くないですよ」

 「ええい、儂は皆の心の中を代弁しているだけだ」

 龍の背中で震えながら叫ぶ姿は追い詰められた小動物を想像させられた。

 「おいおい親父さん往生際が悪いぞ。周りを見て見ろよ。子供は楽しそうだぞ」

 ロベルトのからかう様な声にミルベルト卿が殺意の籠った視線で睨んできたが子供達のはしゃいだ声を聞いて苦笑いを浮かべて黙り込んでいた。子供達は楽しそうだが大人は皆蒼白な顔で震えていたり、祈りを捧げていたり、不安を吹き飛ばす為に喋り続けたりしているのが大半だった。龍に乗るまでにも色々あったが、特に何もしていないのに緊張のあまり気絶した人間を見た時は流石に龍達も苦い表情で自分達の存在が人に与える影響について色々考えていた様だった。

 「おい話はもう良いな。我はもう行くぞ」

 「ああよろしく頼む。乗せた人達を降ろしたらまた戻って来てくれ。次の人達を運んで貰う事になるからな」

 「言われんでも分かっている。では移動を開始する一クーラもかからないから大人しくしているのだぞ」

 メルボルクスは乗った人達に声をかけて悲鳴と歓声を響かせながら飛んで行った。


 儂は今龍の背に乗って空を飛んでいた。そして後ろに流れる景色を初めて見て驚いていた。しかし魔法で落ちない様になっているそうだが経験した事の無い速度と高さを体感出来てハッキリ言って恐怖のあまりに叫びそうになっていた。一部の子供達の楽しそうな笑い声が儂には信じられなかった。

 「早く着いてくれ・・・・」

 「急いでいるから後は四半クーラもかからない。我が安全を保障するから子供達の様に空からの景色を楽しむが良い」

 龍の言葉の通り遠くまで見渡せる景色は素晴らしいのだろうがそんな事より儂は地面に少しでも早く降りたかった。リラクトンが遠目に見えた時は心底安堵してしまった。しかし儂にとっては此処からが地獄だった。降下に入った龍の背中で地面が近づくのを見た儂は今まで我慢していた叫び声を知らないうちに出していた。

 「ひいいいいいいいーーーーー」

 「うおおおおおおおーーーーー」

 一緒に乗っている大人達も絶叫していて、皆で叫んでいる間に龍は着地した様だがすぐには気づく事も動く事も出来なかった。

 「町が我らを見て騒がしくなっている様だ。何とかしてくれないか」

 龍の言葉に我に返ると振るえる足で使命感を支えにしてリラクトンに向かった。運よくミリステアに会えた儂は事情を説明して座り込むとそこで気力が尽きて立ち上がれなくなった。手で地面に触れながら地面にいる事を実感して心の底から安堵していた。動けない儂に代わってミリステアが騎士団に指示して恐る恐る龍から帝都の住人を地面に降ろしていた。降りた住人達も子供以外はグッタリしているのが見えた。全ての人を降ろして戻って行く龍達とまた乗せてねなどと言って手を振る子供達を見ながら儂は二度と地面からは離れないと心に決めていた。

今週後半は執筆出来ないので一回休んで次話の投稿は24日にさせていただきます。申し訳ありませんがご了承ください。

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