契約者達と帝都の住人達
帝都がどうなったかを確認した俺達は転移して戻って真っ先に倒れた香織の様子を確かめた。そして普通に動いて問題無い事を確認して安心するとすぐに皆を集めて情報を交換してから現状について話し合っていた。
「覚悟はしていたがやはり帝都は消滅したのか。さてロベール、帝都のあった場所にもう一度人が住めると思うかい」
縋る様なリグレス公爵の言葉に顔を歪めると首を振った。
「不可能だと思います。帝都だけでなく周辺一キーラも消滅していて森も水源も無くなっていました。帝都の住人が戻ったとしても飲み水すら確保出来ないでしょう」
「・・・・なら問題は帝都の住人を何所に連れて行くかだが何か意見のある者はいないか」
リグレス公爵の言葉に重苦しい雰囲気で皆は無言で視線を逸らしていた。少し考えれば分かる当たり前の事だが帝都は首都で人口も他の場所とは比べ物にならないのだ。他のどんな主要な町でも住人を受け入れたら食べ物の確保が出来ずに破綻する事は避けられないだろし、しかも移る町が決まっても其処までどうやって連れて行くかと言う問題もあるのだ。体の弱った老人や子供を長時間歩かせるのは不可能だと誰もが分かっていた。
「ここは商連合国の思惑を潰す為にも迅速にして完璧に事態を収拾して素早くガルトラントに向かって奴らを撃退するべきです。リグレス公爵は分かっていると思いますが一番余裕があるのはリラクトンです。俺が作った地下に人を住まわせるなら三分の一は問題無いと思います」
「待て儂には不可能に思えるぞ。水は水堀から飲めば何とかなるかも知れんが食べ物は如何するのだ。三分の一とはいえリラクトンの全人口を超えているのは分かっているだろう」
「勿論理解していますが、まず初めに言っておくと俺は半月分ぐらいの食べ物を空間の中に持っているのです。そして此処からは賭けになるのですがクリステアさんに強化魔石と交換である魔道具の作成を依頼しています。此れが完成すれば食糧を大量生産する事が出来ると考えています。元々は砂糖を大量生産する為に依頼した物ですが転用は可能です」
「・・・・強化魔石を持ってクリステアが浮かれていたのはその所為か」
自分の妻を思い浮かべたのかミルベルト卿が苦笑いを浮かべていた。其れを見ながら俺は言葉にはしなかったが心の中で龍の協力も含めて全ての使える手段を使おうと考えてから、帝都を消滅させた奴らのやり方が俺の中の考え方に変化を与えた事に気づかされた。香織も俺の変化に気づいている様で少し不安そうにしていた。
「確かに今の話を聞いてあの地下なら可能かもとは思うが残りは如何するのだ。残念ながら我がバルクラントは財政的にロベール殿が簡単に請け負った半月の食べ物の確保すら出来ない状態だ」
「父上そんな情けない事を平然と暴露しないでください。ロベール殿の事ですから、どうせ常識外の方法で解決するのでしょう」
堂々と無理だと言ったバルクラント卿と父親に苦言を述べつつも俺に棘のある言葉を向けるニルストさんに苦笑してから話を始めた。
「残念ながら今回は普通の提案しか出来ません。先程三分の一と言いましたが其れは今の総数での話です。まずは炎で選別して総数を減らそうと思います。帝都だから沢山いるでしょうしね」
ニヤリと笑う俺に言葉の意味を理解した者達は引きつった顔を並べていた。
「お兄ちゃんやるなら早くした方が良いと思うわ。だってまだメルクラント卿の騎士や兵士達の選別もしていないから裏切り者がいるままになっているでしょう。此のままだと安心出来ないのよね」
香織の言葉にハッとしてメルクラント卿に説明して移動しようとした時に突然騎士が駆け込んできた。
「申し上げます。避難した貴族達の一部が騒ぎを起こしています。何時までこの様な場所にいるのかと言う者や貴族に相応しい待遇を求めている者もいます。それと公爵様達に説明を求めています」
今は少しも時間を無駄に出来ないのにと思い苛立ちながらリグレス公爵達と共に問題の起こっている場所に向かった。
向かった先では騎士達が貴族を抑えようとして騒いでいる貴族達の私兵達と一触即発の状態になっていた。
「静まれ。何を騒いでいる。貴族なら今の状況で騒ぎを起こすのが如何言う事か分からないとは言わせないぞ」
普段温厚なリグレス公爵が大声を上げ苛烈な視線を向けると私兵が気圧された様に下がっていった。そして代わりに貴族達が前に出て来て話し掛けて来た。
「此れはリグレス公爵良い処へ来てくれました。我らはただこの様な所で天幕もなく野宿をさせようとする騎士達に自分達は貴族だと教えていたのです。なのに騎士達は話を聞こうとしないのです」
「リグレス公爵様私はベルスからロベール殿の命として天幕は女、子供、病人、老人を優先する様に指示を受けてその通りにしていただけです」
騎士の言葉を聞いてベルスが俺の指示を伝えた事に気づいて声を出した。
「その騎士の言っている事は本当です。俺が帝都の状況を調べる前にベルスに指示しました。天幕は限られていますから健康な男性は例外なく外で寝て貰う心算です」
俺の言葉を聞いた貴族の男が顔を赤くして怒鳴ってきた。
「おいお前が命じたのか。見た事のない顔だから貴族ではないのだろうが、平民を天幕の中で寝せて我ら貴族に外で眠れとは何を考えている」
大声で怒鳴っているので周りに沢山の人達が集まって遠巻きに見ていた。人々の視線を感じながら言葉を選んで反論した。
「今回の前代未聞の事態はもう皆さんも知っているでしょう。帝都は消滅したのです」
消滅と言ったとたんにざわめきが酷くなった。人々の声に消されない様に声を大きくして告げた。
「原因はべサイル殿下が持っていた契約石です。また五大神官は此の事態を知っていて逃げた可能性が高いだけでなく違法な人体実験をしていた可能性もあり今後は大罪人として見つけたら即座に拘束する事になります」
五大神官の話をしたら騒ぎが起きそうになったが騎士達が素早く抑えていた。静まるのを待ってから静かな声で話を続けた。
「さて今は時間が無いので簡単な説明ですませますが貴方達貴族は自分の立場を理解していますか?」
「何を言っている?」
「あの時帝都に残った貴族はべサイル殿下の元に残った者だけです。べサイル殿下に従わなかった貴族は殺されるか逃げ出すかしたので此の事実は絶対的な物だと言えます。さて其れを踏まえて言いますが貴方達には帝都消滅の責任はないのですかね。ご自分で言っていましたが貴方達は平民ではなく貴族なのでしょう。しかも消滅したのはただの町ではなく帝都なんですよ、帝都」
「そそ、それは殿下が勝手にした事で・・・・・」
俺の言いたい事が分かったのか蒼い顔をしながらも良い逃れようとしていた貴族に厳しい視線を向けて黙らせると話す相手をメルクラント卿に変えた。
「メルクラント卿は如何思っていますか?」
「・・・・私の処刑だけで何とかならないかとずっと考えていたが帝都消滅にはつり合いが取れない。やはりメルクラントの血族全ての処刑が妥当だと考えざるを得ない」
「失った物を考えると微妙ですがまあ自分で下せる判断としては妥当な処だと思います。処分の方法の一つとして考えて置きます。ですが今処刑などしたら北まで秩序が崩壊しますし、それは帝都を失った赤帝国にとって致命傷となるでしょう。だから今は大人しく此方の指示に従って貰う事で良しとしますからおかしな事は絶対にしないでしてください」
メルクラント卿は無言で頷いていたが五大貴族の一つが無くなる可能性を聞かされた他の貴族達は動揺のあまり言葉を失っていた。また周りで聞いていた住人もうやむやにして終わらせると思っていたらしく貴族でも変わらず裁く俺を見て雰囲気が変わっていた。
「さてメルクラント卿は周囲に与える影響が大きいので裁くのは後になりますが貴方達は如何なのでしょうね。優先された女や子供の中には貴方達の妻や娘も居るのに責任も考えずに貴族だと言って騒ぎを起こす者達は早く処分するべきかも知れませんね」
俺の言葉に後ずさる貴族達を此れから如何するか考えていた時だった周囲にいた一人が空を見て叫びを上げた。驚きながら空を見るとシグルトを呼ぶ龍が飛んでいて本気で自分の目を疑った。慌ててシグルトと視線を交わすとシグルトも動揺しているのが伝わってきた。動揺が収まるのを待ってシグルトに如何するかと視線で問いかけた時だった。
「がああああああーーー」
突然、咆哮を上げた龍が速度を上げて俺達の方に突撃してきた。あんな速度で降りてきたら周りにどれだけの被害が出るのか分かっているのか?と考えて表情を変えると魔法を放って止める事にした。そしてシグルトと視線を合わせて頷くシグルトを確認して行動した。
「何を考えている馬鹿龍が」
叫びながら跳んで振り上げた拳は顎にズドンと音をたてて突き刺さった。一撃で気絶させてから此のまま落ちたら不味いと気づいて横に蹴り飛ばした。此れで五百メーラは離れた所に落ちると思って安心していると突然美女が落ちてきた。動揺しつつも反射的に抱き留めてから地上に降りた。
「うふふふ、意外と逞しいのね直哉」
俺の腕の中で甘い声で囁く美女に香織の視線が凍てつくのが分かった。慌てて放り出してから冷静になって見て見ると今まで見た事が無い程の美女だと思った。そして頭に耳があり後ろに尻尾があるのを見てからメルボルクスといた事を考えて天狐だと気づいた。てっきり狐の姿だろうと思っていたので此の姿には不意を突かれてしまった。俺に笑顔を向けてくるのとピクピク動く耳に和んでつい耳に触ってみたいなと考えてしまったのは最大の失敗だった。
「ねえお兄ちゃん今何を考えているのか私に教えてくれるわよね」
ニコニコ笑う香織の顔が仮面の様だと感じた。ヤバいと思ってシグルトに視線を向けて援護を頼んだ。
「・・えっと僕は父さんの所に行っているんだ。何でこんな所に居るのか聞きたいんだ。それに龍達を如何にかしないといけないんだ」
シグルトは何と即座に逃げ出した。他を見るとフレイは首を振りルードルは何と嘲笑を浮かべていた。
「落ち着け俺が此の人に手を出すなんてありえないし、それに此の人に失礼だろ」
「あらあら此れからの話に依っては出しても良いのよ。メルボルクスもその事について何も言わなかったもの」
俺の必死の説得をぶち壊す発言に冷や汗を流して睨むと美女は流し目を返してきた。香織の視線がきつくなって俺は焦りながらも必死に考えていた。
「そうだ。此の女性の天狐を連れて来たのはメルボルクスだ。俺の意思じゃない。メルボルクスに話を聞くのが良いと思うぞ」
「でもお兄ちゃんが如何思うかも聞きたいわ」
「大丈夫だ。下心を持って近寄る女性の扱いはなれている。何時もと同じだ」
真面目な顔をして香織を見ると少しは安心したのか表情が和らいだ。
「うん分かったわ。今回は信じてあげる。今はシグルトが話しているだろうしメルボルクスにはあとでゆっくりと話す事にするわ」
「何だもう終わりなの。私としてはもう少し見たかったのだけど」
「これ以上お兄ちゃんにふざけた態度をとるのなら私が相手になりますよ」
香織の言葉にフレイとルードルも動いていた。流石に三対一では勝ち目がないと悟ったのか天狐の女性はアッサリと引いた。
「私の名はタマミズキよ。話をする時になったら呼んでちょうだい」
「主、僕が見張っていよう」
そう言って妖しい笑みを浮かべて去って行くタマミズキの後をルードルが追って行った。
「流石ロベールだな。この状況で痴話喧嘩を見せられるとは思はなかったぜ」
「煩いロベルト、見せたくて見せた訳じゃ無い」
「確かにそうだが、そのおかげでかなりマシな雰囲気になったぜ。龍の集団を見てからの周りの反応に気づいてなかっただろ。恐慌寸前だったんだぞ。俺も流石に存在感に圧倒されて冷や汗が出たからな。お前がいるから襲われたりしないと分かっている俺達でもそうだったんだから他は考えるまでもないだろ。だが一撃で龍を倒したお前が降りてくるなり痴話喧嘩を始めた所為で皆唖然としている間に冷静になれたみたいだな」
ロベルトの言葉に顔が引きつるのが止められ無かった。
「まあ良いんじゃないか?この所暗い話題が多いから偶には若さを見せても」
「へえ、そんな発言が出ると言う事はロベルトも若い時に行動していた時は見せていたのか?」
ロベルトがビクついてミルベルト卿が顔色を変えているのを恐々として見ていた。
「ふん忌々しい程見せていたぞ。アリステアの口から惚気話が出るわ出るわ。聞く度に暴れたくなって何時も訓練中にロベルトを斬る事を考えて剣を振っていたぞ」
「ははは、ミルベルト卿も程々にした方がよさそうだ。隣で娘婿が蒼い顔をしているぞ」
「その様な事はリグレス様の娘がまだ幼いから言えるのです。大きくなって男を連れて来たら儂の気持ちが無理やりにでも理解させられますぞ。まあ儂はいきなり子供が出来たわなどと言われましたがな」
殺気が漂う言葉にリグレス公爵の顔には苦笑いが浮かんでいたが表情を引き締めると告げた。
「さて雑談は此処までだ、騒動を起こした貴族も龍を見て大人しくなった様だし、そろそろ選別を始めよう。裏切り者がいたままで寝るのは危険だからな」
頷くと手慣れてきた準備を整えてから段取り良く選別を始めた。裏切り者は思ったより少なかったがその中の一人がメルクラント卿に最初に契約石の事を話した男だった事が判明した。メルクラント卿は蒼白な顔をながらも無言で真実を受け入れようとしていた。その後犯罪者の選別を始めたが何故か逃げる者はいなかった。普通の住人達も非常に協力的で予定の半分の時間で終わってしまった。しかし重犯罪者から空間にしまっていったがその数は信じたくない程多く、なんと犯罪者の総数は帝都の人口の二割に近かった。更にその中の三割が重犯罪者で情報を吐かせた後で処刑される事が決まった。ただ残った二割は大人がやった普通の犯罪だったのだが一番多い五割が子供の軽犯罪だったのには俺も考えさせられた。
「お兄ちゃん、この子供達は何とか出来ないかな。確かに犯罪を犯したけど大半は生きる為に仕方なく食べ物を盗んだりしただけなんだよ」
「・・・俺も何とかしたいが犯罪は犯罪なんだ。子供だと言うだけで安易に見逃したら被害者が不満に思って秩序が崩壊するかも知れない」
「確かにロベールの言う事が正論だな。でもお前の事だから妹のお願いは叶えるんだろ」
ニヤニヤと笑うロベルトを睨んでからため息を吐いて告げた。
「この場合は被害は金銭的な物だから被害者が納得すれば何とかなると思います。今なら話の仕方を工夫する事で何とか出来ると思います。特に今後の生活の保障は今皆が欲しがると思いますから其れを絡めて説得しようと考えています。リグレス公爵はこの様な交渉をお許しいただけますか」
「私は別にかまわない。だがロベールはその子供達を地下で引き取る心算なのだろう。それなら抑々私に許可を取らなくても好きにして良いのだぞ。自分が管理する場所は全ての権利を持っていると知っているだろう?」
リグレス公爵の発言に戸惑う俺達にミルベルト卿が話しかけてきた。
「説明は早い方が良いだろう。子供だから天幕の割り当てもあるのだ。ロベルト、二人について行って手伝って来ると良い」
そう言うミルベルト卿に押される様に俺達は説明の為にその場を去った。
「やはりあの二人は自分達の持つ権利の事を正しく理解していないのだな」
「父上それは仕方ないのではありませんか?あの様な権利を与えるリグレス公爵おかしいのです」
「ふふ、酷い言われ様だな。此処にはメルクラント卿も居る事だし今一度私の考えを説明しよう」
私は皆に前に話した考えと二人が作った現状を語って聞かせた。
「ニービス、まだ意見は変わらないか?正直言って国教を廃止するだけでも混乱は避けられないと思っていたのに、それがまさか帝都が消滅する事になるとは私も考えてもいなかった。今住人が大人しくして秩序が保たれているのは明らかに二人と龍がいるからだろう。此れは奇跡的な事だと思うのだがまだ二人の事を認める事は出来ないか?」
「共に行動して人格に問題は無い事は分かった。帝都の住人と我らの事も救った事は評価している心算だ。儂個人としては友好関係を結んでも良いと思っている。だが問題は人々が契約者を受け入れるのかと言う事だ」
「人は強い力を恐れているのが現状だ。特にメルクラントは魔狼を恐れながら過ごしてきたのだ。契約者の力も恐れる可能性が高く、とても受け入れないだろう。過去の契約者がどうなったか知らない訳ではあるまい」
厳しい顔をする二人に私は笑顔を浮かべながら告げた
「私はあの二人なら大丈夫だと考えている。何故なら私には二人が契約者だと言う前に普通の人間だったとは思えないからだ。一緒にいれば分かるが二人の思考は明らかに私達の常識とは違っているし、地下の作りを見れば私が持つ知識より高度な知識を持っているのは確実だ。先程の子供達の事だって被害者の不満を考えて配慮しただろう。今までの契約者の行動とは明らかに違うから過去の契約者と同じに考えるのは如何かと思うが?」
無言で考え込んだ二人が考え終わるのを待っているとニルスト殿が口を開いた。
「先程の話ではありませんが今なら契約者に対する認識を改めさせる事が出来るかも知れません。今回の騒動で帝都の住人は例外なくシグルト殿の転移に依って助けられていますし、その後の暴風などからもカリーナ殿とフレイ殿が倒れるまで力を使って守ったのは皆が見ています」
「成る程帝都の住人全てが認めてしまえば総人口が違うからメルクラントの全ての町の住人が如何言っても無駄だろう。だがそうなったら其の人望は凄まじい物になるがそれは良いのか?」
「私の目的は話しただろう。帝都まで消滅した今は絶対に強固な支えが必要だと考えている。其れにいい加減に後ろをを見ろ。私は龍に命令出来る事は話に聞いていたが実際に見た数百の龍は想像以上だったよ」
皆が私の指した方を見て顔を引きつらせていた。龍達の体は大きい上に数も居るので見たくなくても目に入るのだ。故に皆は無意識か意識してかは分からないが背を向けていたのだ。
「リグレス何故お前は嬉しそうなんだ。儂には理解が出来んぞ」
「分からないか?今まで龍の集団をこの様に見た人間はいなかったのだぞ。二人と関わる様になってから未知の体験が色々と体験出来て退屈などしなくなったぞ」
「リグレス様今は帝都が消滅したばかりなので自重してください」
私を諌めるミルベルト卿の言葉に顔を赤くして恥じ入ると表情を変えて尋ねた。
「二人がいる事に依って起きる変化は良い物だけではないだろうが、すでにかなりの恩恵を受けている上に今考えられる恩恵は魔狼との講和、その結果に依ってメルクラントの兵士をバルクラントに移動させる事が出来る事、強化魔石の事、食糧などの大量生産の可能性など少し例を挙げただけで二人にとっても悪い話ではないだろう」
「・・・魔狼との講和が出来るなら協力しよう。もっとも何時まで協力出来るかは分からないがな」
「はあ・・・分かった儂も協力しよう。二人がいなければ帝都の住人が押しかけてきて破滅するし、龍の事を考えればもはや選択すらないわ」
ちらりと龍を見て話すバルクラント卿を苦笑いを浮かべて見ているとミルベルト卿が視線を厳しくして尋ねてきた。
「お三方に言って置きますが二人の意思は確認して貰いますよ。儂はリグレス様に戦いが終わったら説明すると聞いています」
「安心してくれて良いぞ。無理やり何かさせようとしてあれが攻撃して来る可能性を考えたら誰も強要などする気が起きるとは思えない」
皆はもう一度龍達を見て盛大にため息を吐いて首を振っていた。私はため息と共に皆の今までの常識が吐き出されて無くなって行く様に見えて、未知の未来を思い浮かべていた。
ロベルトや兵士達が帝都の住人を集めてくれたので俺は説明を始めた。
「まずは俺が知っている現状を詳しく説明します。現状は・・・・・・・・」
現状を詳しく聞いた人々はガックリとうなだれてしまった。
「さて現状は理解されたみたいなので此れからの説明をします。俺達が提供出来る移住先はリラクトンの地下になります。既に住んでいる人達からは今の所不満は聞いていませんが、嫌だと言う人は自分で何とかするしかありません。別の町に知り合いがいる人達は其方に行くのも良いと思います。後は兵士になる方法があります。商連合国が攻めて来るので戦える人で戦っても良いと言う人は歓迎します」
俺の言葉に人々は顔を上げて質問してきた。
「地下にいけば生活は保障されるのかね。私は老後の資産を失ってしまったのだがね」
「後で言う条件を受け入れるのなら食料は半月の間は支給します。それ以降は働いて貰います」
「儂の娘は病を患っているのだが治療は如何なるのじゃろう」
「命に係わる病気は治療します。しかし治療費は利息なしの借金として後で働いて返して貰います」
「地下で暮らすみたいだが生活は真面な物なのかしら?」
「何を持って真面と言うのか分かりませんが俺は自分がそこで生活しても問題無いと思っています」
次々と来る質問に答えた俺は最後に子供達の事を説明した。説明を受けた人々は流石に複雑そうだった。
「神官達の事も合わせて聞いたから一概に悪いとは言えないが俺は商売をしていて被害にあった事もあるから正直言って心からの賛成は出来ない」
沢山の人が頷いているのを見て俺は反論をしようとしたが初めに話しかけてきた老人が声を出した。
「私は賛成させて貰おうかね。此れからはもう盗んだりしないのなら問題無いだろうしね」
「待てよあんただって被害にあった事があっただろ。良いのかよ」
「この年で老後の貯えを無くして思うのは他人の助けがなかったら犯罪を犯さずに生きて行けるのかねと言う事だ。あんたは如何かね」
「・・・・・分かったよ。悪かったな、確かに今の俺は子供を責める事が出来る状態じゃない」
「それが利口だよ。何と言っても此れから半月の食糧を支給してくれる相手に子供がやった程度の損害では金額的にも文句を言うのが恥ずかしいだろ」
「・・・・・・ななな何だと。リラクトンで備蓄された食糧を支給するんじゃないのか?」
「馬鹿かね?私達の人数を考えれば分かるだろうにリラクトンの総人口を超えているんだよ。そんな備蓄がある訳無いだろ。それにこの御方は先程支給すると言ったんだ支給されますではなくね」
「ああ私聞いてたわ。条件を受け入れるのならとも言っていたわ」
ガヤガヤと相談する声が響いたが暫くすると結論が出た様だ。
「子供達の事は受け入れるから俺達の食糧の事は頼んだぞ」
「ありがとうございます。食糧の事は任せてください」
俺達が話していると老人が男を後ろから叩いていた。
「いて、何をしやがる」
「其れは私の言葉だよ。良いかいちょっとこっちに来るんだよ」
老人が男を連れて行って小さな声でゴニョゴニョと言葉を交わすのが見えた。そして時間が経つにつれてだんだんと男の顔色が変わってガタガタと震えだした。周りで聞いていた人々も驚愕の顔を浮かべた後で周りの人にゴニョゴニョと話していた。不審に思いながらも暫く待っていると男が今にも死にそうな顔で戻ってきていきなり平伏した。
「ももも申し訳ありませんでした。如何か俺一人の首でご容赦ください」
意味が分からずに混乱したがシグルトが傍に居ない事に気づいて納得と共に残念に思いながら告げた。
「・・・・・・・ああもしかしてシグルトがいなかったから俺が契約者だと分かっていなかった所為ですか?ならやめてください。俺は契約者の力で人を如何にかする心算はありませんから」
「いえその事なら其方に炎鳥がいるので気づいていました」
その返答にますます訳が分からなくなった俺に老人が告げた。
「貴方様は子供の軽犯罪とはいえあのような交渉が出来る以上、法に関与する権限を持っているのではありませんか?また私はリラクトンに行った事があるのですが地下などなかったと記憶しているのですが?」
「ああ、地下は俺が魔法で人が住める様に最近作ったばかりなんですよ。だから知らなくても当然です」
「うんそうなんだよ。今皆に住む為に提供しようとしている場所はお兄ちゃんが作った場所でリグレス公爵から半分はお兄ちゃんに権利があると保障された場所なの。確か徴税権を含めて全ての権限があるとか言っていたわ」
香織の言葉に何故か人々が人生の終わりを見た様な顔をして凍り付いていた。おかしいと思って老人に話を聞こうとしたがなんと立ったまま気絶していた。
「うおおおおお、俺を死なせてくれ」
男がいきなり叫び声を上げて死のうとしたので反射的に一撃入れて気絶させたが、この場の雰囲気は重苦しい物になっていた。俺は誰かに説明して貰おうと思ったが誰も俺と目を合わせようとしなかった。ホトホト困り果てた時に何時の間にかいなくなっていたロベルトがリグレス公爵達を連れてきた。
「ロベールこの場は私が何とかするから皆と一緒に少し離れていてくれ」
俺達が離れるとリグレス公爵達が人々にゴニョゴニョと話をしていた。話を聞いた人々は安堵の表情を浮かべていて更には緊張が解けたあまりに泣き出す人まで出ていた。流石に泣く人を見ては俺も黙っていられなかった。
「リグレス公爵後で話があります」
「今日は色々あったしもう遅いから明日の朝一番に話そう」
俺の真剣な声にリグレス公爵は此方を見て声を出してから真面目な顔で頷いていた。その日の夜はシグルトが帰ってこなかったので一人で眠る事になった。シグルトが傍にいない事か明日の話への不安かそれとも今日起きた事の所為かは分からないがその夜は中々寝付けなかった。




