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その頃の龍達

 直哉達が帝都に進軍し始めた頃メルボルクスは商連合国の国境まで龍を率いて飛んで移動していた。

 「おいメルボルクス、姿を見せて飛ぶだけだと聞いたが本当に其れだけで良いのか?俺達なら戦っても良いんだぞ」

 幼馴染のメリクルクスが気をきかせて話し掛けてきたが我は渋い顔をすると告げた。

 「我もそう言ったが攻撃するとガルトラントの方も混乱するかもしれないから不味いと言われた」

 「よしならこう言うのは如何だ。俺達は天狐に会いに行く訳だが飛んで行かないで歩いて天狐を連れて来ても良いんだろ。商連合国に入ったら歩いて移動しないか?」

 「成る程、確かにそれならギリギリだが言われた事には反しないかも知れないな。国境に着いたら歩く事にしよう」

 ずっと待機させられていて退屈していた龍達は速度を上げると国境に向かった。


 「なああの群れは何だ?鳥にしてはでかいと思うんだが」

 「・・・・・あれは・・・龍だ・・」

 「はははは、面白い冗談だな龍があんなに沢山いたら大事件だぞ」

 ガルトラントの国境の砦で警備していた兵士は同僚の言葉を冗談でも言っていると思って笑い飛ばそうとしたが、近づいて来た所為で自分の目にもそれが龍だと理解出来てしまった。しかも本当に一匹ではない事に気づいて気絶しそうになりながらも警鐘を鳴らしていた。途端に騒がしくなったが皆、百を超える龍を確認すると息を殺す様に静まりかえって祈りを捧げていた。もの凄い速度で上空を飛んで商連合国の方に向かう龍達を見送って龍がいなくなると皆が腰を抜かして自分の無事を確かめていた。

 「龍が集団で行動するなんて初めて見たぜ」

 「俺なんか龍を見る事自体が初めてだよ。でももう見たくないよ」

 「なあ何かヤバい事になっているんじゃないよな。この前貴族が沢山死んだだろ?」

 其処ら中で不穏な会話が始まって兵士達は不安そうな顔でお互いを見つめていた。この短時間で戦いを終えた後の様な疲労した状態になっていた。後に聞こえてきた咆哮に恐怖に駆られた兵士達が混乱して逃げようとして、ガルトラント卿自ら砦に赴く大事件になるのだった。


 「先程の建物がガルトラントの国境の砦みたいだからここら辺から商連合国になるみたいだぞ。ほら見ろあそこに人の集団がいるが、あれが多分話に聞いた問題になっている侵攻部隊なんだろ?」

 「その様だな、では地上に降りて歩くとしようか。ついでに咆哮と足音を響かせながら歩くとしよう。我が息子が襲われる原因を作った者達に少し仕返しさせて貰うとしようか」

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるとメルボルクス達は地上に急降下して衝撃と共に地面に降りた。その後自分達の存在を知らしめる様に咆哮を上げるとズシズシと地響きを上げながら移動を開始した。此の時メルボルクス達は自分達が龍であり小さい者でも四メーラを超えている事、何故直哉が飛んで行って姿を見せるだけで良いと言ったのか理解していなかった。


 天幕の中で食事を食べていた侵攻軍のモルガン総司令官は突然凄まじい音が響いて食事を喉に詰まらせる破目になった。

 「げほ、げほ、げほ、何があったんだ」

 飲み物を飲み一息つくと蒼白な顔の兵士が駆け込んで来た。

 「ももも、申し上げます。りゅりゅりゅ龍が現れました」

 「龍だと?何故龍がこんな所に現れるのだ?してその龍は今如何している。此方に向かって来ているのか?」

 その時だった。音が響き大気がビリビリと振動しているのが感じられた。

 「ぐわーー、こここ此れは咆哮か?いくら龍とはいえ一匹で此処までの音を出せるのか。此れではまるで攻撃ではないか」

 眩暈を起こして倒れ込みながら大声を出すと兵士が答えた。

 「違います。一匹ではなく数百匹です」

 兵士の言葉に愕然として咆哮が響く中をふらつきながら外に出ると龍が見えた。まさに見渡す限り龍、龍、龍と言う恐るべき光景だった。しかも龍達は此方を威嚇している様に見えた。

 「・・・馬鹿な・・・・何だ此れは・・・」

 腰を抜かしそうになるのを必死に堪えていると龍達が移動を始めた。龍達が一歩足を踏み出すとズシンと轟音が響いて大地が揺れた。まるで大地震の様な有り様だ。倒れる天幕や物が続出しているのが目に入ったが何も出来なかった。何故ならあまりの振動に立つ事すら出来ないからだ。ただ歩くだけで自然災害を起こす生物を見て自分の心の中の何かが壊れた気がした。地形を変える龍の話は聞いた事があったがあれは一匹の龍の話だったはずだ。あれだけの龍が集団で行動するなど聞いた事がなかった。

 「ひいいーーーー。助けてくれ。俺は何もしていない」

 「おお、俺は神を信仰しない代わりに龍を信仰しているんだ。だから見逃してくれ」

 「ああ・・・あああ・・・・・・あああああ」

 地響きと共に揺れる大地の上で人間は倒れ込み恐怖に震えて悲鳴を上げるだけで何一つ行動出来なかった。龍達が遠くに移動して揺れが小さくなっても茫然として誰一人立ち上がろうとはしなかった。この日は一日誰も真面に行動する事は出来ず、次の日の朝には一割近くの脱走兵を出す事になった。そして俺達の中に龍が集団で動く様な何かを隠している者がいると言う噂が流れ、皆が疑心暗鬼になって行動が出来なくなっていた。更に総司令官として色々な情報を持っていたモルガンは自分の進む道に不安を感じていた。龍を間近に見て人間が手を出してはいけない生物だと心底理解させられてしまい、心の中に生まれた恐怖心はどれ程振り払おうとしても消える事はなかった。それらの所為で数日後に帝都の情報が伝わってもすぐには動けなかった。


 「龍共の移動は如何なっているのだ」

 「忌々しいトカゲ共は今日も我が商連合国の中を我が物顔で練り歩いているわ」

 「困りましたね。この所、不穏な噂が飛び交っていますよ。何でも龍の怒りをかった者がいて此れは警告で次は攻撃されるそうです」

 「ふん、確か怒りをかった者を見つけ出して龍に引き渡そうと言って疑った者を襲う者までいるとか」

 「全く愚民はいもしない者を探して何をしているのでしょうか?理解できませんね」

 その男の発言に一瞬だが雰囲気が変わった。男は龍を襲ったのは赤帝国の者だから自分は関係ないと本気で考えている様だが他の者は其処まで楽観的ではなかった。契約石に関わっている以上自分達も龍にとって敵に含まれるに決まっているのだ。いざと言う時はこの男に罪をかぶせて言い逃れようと周りの者達は考えていた。隙を見せる方が悪いのだ。

 「明日には龍達がこの近くを通ると聞いていますわ。皆様は如何なさるお積りですの」

 「そうだな、皆で見物にでも行くかね。歩いているだけで襲ってはこないのだろう」

 「確かに襲ってこない見かけ倒しの龍を見物に行くのも一興かも知れんな。龍の所為で物流が止まって凄まじい混乱と損害が出ているからな」

 「そう言う事なら明日の朝は早くなりそうだ。今日は此処までにしましょう」

 話を終えて皆が去って行ったのを確認した二人はまた残って密談を始めた。

 「彼奴らは物見遊山の心算の様ですけど龍を既に見た私はとてもそんな気分にはなれないわ」

 「当然だな奴らは先程楽観的な奴を見て内心嘲笑っていたのだろうが、自分達も見たい物だけ見ている事に気づいていない。まあ明日あれを見れば嫌でも考えが変わるだろう」

 「変わらない様なら付き合いはお終いにしないといけなくなるわ。ねえそう言えば開発中の物は如何なっているのか知っているかしら」

 「龍が数百も来たので大慌てらしいな。龍が集団で動く理由は契約石の事しか考えられないから攻撃を受けるかも知れないと怯えていて鬼気迫る表情で必死に開発を急がせているそうだ。今日もその所為で此処に来れなかったらしい。聞いた所に依ると龍でも倒せる威力を出せる様にするそうだ」

 「はあーーー、まあ贔屓目に見て龍を何匹か倒せたとしましょうか。でもそれで残りの龍の怒りを買って滅ぼされるのが目に浮かぶ様ですわね」

 「確かに今までと違って龍が集団で動いているから十中八九そうなるだろうな。抑々龍は単体でも最強の生物と呼ばれるに相応しい力を持っていて、大概の事は一匹で行える所為で偶々単独行動をしていただけなのに、俺達人間は今まで龍は集団行動をしないと思っていたからな。数百の龍に対しての対策など考えた事も無い」

 「確か龍は子供を育てる時に家族でいるのは確認された事があるけれど、それ以上の集団が龍の森から出てきた記録は存在しないはずよね。これは契約石の存在が私達が考えているよりヤバい物なのかも知れないわね。集団の龍と敵対する訳にはいかないから考え直さないといけないわね」

 「ああ、兎に角今は帝都だけでも上手く行ってくれる事を祈るしかないな。それまで失敗したら本当に全てを捨てて逃げ出さなくてはいけなくなる」

 「そうね、さて私達も明日の茶番に付き合わないといけないからもう行くとしましょう」

 二人は頷くと人に見られない様に足早に去って行った。


 「予定ではもうすぐ龍が来る時間だな」

 「はは、どうせ攻撃してこない龍など大きいだけで大した事はないでしょう」

 次の日の朝街壁の上に立って軽口を叩いている者達の声を聞いていると地響きがし始めた。初めは小さかった揺れが激しくなって、すぐに町に住む住人が騒ぎ始めた。その頃には龍の姿が良く見える様になってその大きな体から生まれる迫力と見ているだけで感じられる強靭さ、そして集団で行動する龍が出す威圧感で見ていた者達も気づいた町の人達も緊張で声すら出せなくなっていた。龍達が最も近くに来た時にはもはや立つ事も出来ない程の揺れになり、家が何件か倒壊する音も聞こえてきた。人々の悲鳴や叫び声が煩い程に町中に溢れたが龍を見て目を離せなくなった人達には遠くの音の様に聞こえていた。その中には噂を信じて龍の怒りをかった者を呪う声などの不穏な声も聞こえたが気にする余裕もなかった。

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 軽口を叩いていた者達は倒れたまま顔を上げる事も出来ずに恐怖に震えているみたいだった。数百の龍の存在感はただ歩くだけで人の心を圧し折ってしまうものだった。ファーレノール最強の生物と言われるのは冗談ではないのだ。一匹ですら倒せるか分からない龍が数百匹も歩いているのを見て、大半の住人達は恐怖の顔を浮かべていたが中には此れからの生活への不安と何故こんな事になったと考えて顔を歪めて周りに疑いの視線を向ける者もいた。龍は普段こんな行動はせず里で大人しくしているのは広く知られていた。抑々今回の様な事が頻繁にあったら真面な生活は出来ない事は誰もが理解しているし、龍の森との間に赤帝国があるのにわざわざ此処まで集団で来た以上、商連合国の人間が何かやった事は誰でも推測がついた。そして商連合国の人間なら其処に利益があるのなら何でもやると子供でも理解していた。誰が何をしたのか分からない事が疑心を生んで何時爆発するか分からない不穏な雰囲気が漂っていた。

 「・・・・あの力だ。あの力の持ち主を契約石にすれば龍共でも倒せるはずだ」

 「くくくくく、そうだそれが良い。あれだけの力なら龍みたいな危険な生物を根絶やしに出来るはずだ」

 ずっと倒れたままで黙っていた者達が暗い狂気を感じさせる声を出していた。超えてはいけない一線を越えた者だけが持つ危ない輝きを目に宿して起き上がると話を始めた。

 「まずは金を使って集められるだけの者共を集めましょう。この際裏仕事をする者達を全て使いましょう」

 「そうだな腕の良いランカーにも声を掛けて見るか。一生遊べるだけの金を提示すれば普段は動かない奴らも動くかも知れない」

 「金をばら撒いて龍の情報を集めましょう。龍を皆殺しに出来る毒でもあれば簡単なのですが」

 不穏な話を平然と外で話している姿は正気を保っているとはとても思えなかった。遠くから咆哮が聞こえてきた時に、顔に恐怖の表情を浮かべながらも楽しそうな声を出し笑う姿は見ているだけで背筋が凍りつき、冷や汗が止まらなくなるものだった。

 「ははははは、では急いで行動しよう。こうしている間にもあの龍共がうろついているのだ」

 皆が何時になく協調して行動する中で昨日残っていた二人は他の者達の予想外の反応と行動に暫くの間、茫然と立ち尽くす破目になった。


 「メルボルクスもう少しで天狐の森だが全員で行くのは不味いだろう。俺達は森の入り口で待っているから一人で行って来てくれ」

 「分かった。確かに皆で行ったら攻め込んで来たと思われそうだな。我が五龍星として話して来るとしよう」

 メルボルクスは皆を待機させて後をメリクルクスに任せて一匹で森の中に入って行った。天狐の森は小動物が数多く住む森だと聞いていたがメルボルクスの前には現れなかった。当然と言えば当然だが龍を恐れて逃げたのだろうと思われた。仕方のない事だと理性的に考えていたが、少し残念に思って静かに歩いて行くと前に天狐の集団が現れた。

 「止まりなさい。そこな龍よ、どの様な用件で此の森に入った。外にいる龍の集団はなんの心算だ」

 「我の名はメルボルクスで五龍星の一匹だ。今回はある人物に頼まれて使者として天狐の里に向かっている。女王と話させて欲しい」

 「話をするだけなら外にいる数百の龍は必要ないはずだ」

 厳しい表情を浮かべて何時でも攻撃出来る様に構えている天狐の集団が緊張して震えている事に気づいた我は成る程と思った。三百匹の龍で攻めれば天狐の里に壊滅的な被害を与える事は可能だ。此処にいる天狐は決死の覚悟でこの場にいるのだ。

 「待機している龍達は別に受けた命令の為に必要だっただけで森に入って来る事はないと保証しよう」

 「・・・まて今お前は五龍星なのに命令を受けたと言ったのか?私の記憶が確かなら龍は五龍星の話し合いで意思を決定すると聞いていた。五龍星は対等であり命令出来る者はいないはずだ」

 「余計な事に気づく天狐だな。忌々しいが会合で彼奴の要請は里に被害が出ない限り聞く事に決まったのだ。まあ彼奴には我らに本当の意味で命令出来るとは告げていないがな」

 「彼奴とは・・・」

 質問しようとした天狐の声を遮って告げた。

 「此処に来た目的の内容は女王と限られた者達だけと話させて貰いたい。天狐の未来を決める話になるだろう」

 冗談では無いと視線に込めて天狐を見つめると一匹の天狐が里に戻って行った。暫く待つと戻って来た天孤が女王がお会いになると言われたと言って里まで案内されてついて行く事になった。


 里に着いて少し小さくなって木造の解放感のある平屋の建物の奥に通されると其処は水が流れる部屋になっていた。光が水面に当たって反射する事に依って幻想的に見える様に作られていた。部屋の奥には二匹の天狐が座って我が来るのを待っていた。静かに座ると物静かそうな天狐が話し掛けてきた。

 「さて此処にいるのは女王の私タマシズクと姉のタマミズキだけですわ。此処までしたのに相応しい話をして貰えるのでしょうね。メルボルクス殿」

 「勿論だ。我は回りくどいのは嫌いなので単刀直入に言わせて貰おう。今直哉の元に天狐の入った契約石が二つある。直哉とは我が息子と契約した契約者の事だが直哉に命じられて此の事について話が出来る天狐を連れてくる様に言われたのだ」

 「・・・天狐の入った契約石ですか・・何故此処に持って来てくださらなかったのですか」

 「持って来たとしても無駄だ。今は直哉以外に中に入れられた者達を助ける事が出来る者はいない」

 女王の敵意が感じられる視線を無視して反論すると笑い声が響いた。

 「くすくすくす、龍は何を企んでいるのですの。五龍星がわざわざやって来たのですから何か要求が有るのでしょう」

 「何か勘違いをしている様だが我はただの使いだ。交渉は直哉としてくれ」

 「本当に御冗談がお好きの様ですわね。私は妹で善狐のタマシズクと違って姉とはいえ悪狐なので気が短いのですわ。五龍星とも在ろう者が息子の契約者とはいえ一人の契約者の使いで此処まで来たなど信じる心算はありませんわ。仲間の対価に何を望むのですの」

 「・・・・・・・はあああああ」

 怒りを隠そうともしないタマミズキに憎悪を込めて睨まれて深いため息が出た。此の二匹は我が主導権を握っていると思っているのだ。確かに普通なら五龍星が主導権を持つのが当たり前なのだろうがあれの主導権を握るなど我にも出来ないのだ。握っていたらシグルトを里の外になど出すものかと心の中であれに向かって罵声を飛ばしていた。

 「話が変わるが少し前に強い力を感じたと思うのだが勿論気づいているな」

 突然変わった我の話に困惑しているはずだろうに、女王は隠すように笑顔を浮かべて此方の意図を窺う様に慎重に答えた。

 「ええ一時期、里が騒然として女王として治めるのに苦労しましたわ。明らかに天狐を遥かに超えた強大な力だったので調査しようと言う意見が出ましたが遠かったし、下手に関わったら痛い思いをする事になるかも知れないと思って関わらない事に決めました」

 「くくく、そうかそうか確かにあんな力の持ち主と関わると心労が絶えないからな。だが残念だが関わらないのは不可能だ。何故ならあの力の持ち主の名は直哉と言うのだ」

 初めは理解出来ずにポカンとした顔をしていたが一瞬で表情を変えると場の雰囲気が緊迫感に包まれた物に変わった。

 「今の発言は冗談では済まされない物ですわ」

 「ああ勿論冗談ではない。龍と炎鳥は戦わない事を決めて魔狼もそう遠くない内に結論が出るだろう」

 「・・・・・直哉とやらは天狐に何を求めているのかしら」

 「我には分からないな。分かるのは天狐が人間に報復する心算なら止められる事ぐらいだな。魔狼も止められていたから報復する心算なら諦めた方が良いだろうとしか言えない。後は直接話してくれ。我は話の出来る天狐を連れて来る様に言われただけだ」

 重い沈黙が場に広がってから暫くするとタマミズキが決意の籠った声を出した。

 「タマシズク私が会って来るから全権を預けて貰うわよ」

 「姉様それは・・・・」

 「今回の事に対応する者は私が適任だわ。女王自ら行って何かあったら不味いし、かと言って普通の天狐では一族の命運をかけた判断は出来ないわ」

 「・・・・仕方ありませんね。今回は姉様に任せますわ。でも無理はしないでくださいね」

 「ええ無理はしないわ。まあ男の様だし最悪でも最後の手段を使えば大丈夫ですわ。うふふふふ」

 悪狐らしい妖しい笑みを浮かべるタマミズキに我は忠告しようか迷ったが直哉が困る姿を眺めるのも一興かと思って放置する事にした。後にこの判断を死ぬほど後悔する事になるのを知っていれば絶対にタマミズキの考えを阻止したのにと何度も思い出す事になるのだった。


 タマミズキを背中に乗せて赤帝国の空を飛んで移動している時だった。突然北の方角から凄まじい光が放たれた。かなりの距離があるのに暴風が吹き荒れて飛行を維持する為にかなりの苦労を強いられた。背中でタマミズキの悲鳴が聞こえたが構う余裕もなかった。厳しい視線で光を見つめているとメリクルクスが心配そうな声で話し掛けてきた。

 「メルボルクスあの方角は帝都がある方角じゃないのか?先程の光はただ事じゃないぞ。俺達も向かうべきじゃないか」

 「・・・・・・気にはなるがタマミズキ殿がいる以上・・・・」

 「あら私の事なら気にする事はありませんわ。其れにあちらに直哉殿が居るのなら私もあの光については確かめたいですわ」

 「・・・・・・はあーーー。よし、非常事態と認めて確認の為に移動する事にする。予定にない行動だから皆注意するのを忘れるなよ」

 我の言葉に一斉に進路を北に変更すると速度を上げて移動を開始した。三クーラ程かけて光が放たれたと思われる場所にたどり着いたが、そこには巨大な力が振るわれて地形が変わった事が分かる大地が在るだけだった。龍の力なら不可能とは言わないが其れでも驚嘆に値する破壊の規模だった。この様な事を誰がしたのか考えた時に一瞬、直哉の事が頭に浮かんだが即座に否定した。我の見た所、直哉は異世界の考え方を持っているからなのか、自分の力が破壊の力になる事を拒否していた。しかしそれは力の一部を拒絶して受け入れない事にもなっていてその所為でも力が安定していないのだと我もザインも気づいていた。シグルト達は直哉は今のままで良いと考えている様だが我は力が安定しない事に不安を感じていた。

 「もう嫌になるわね、大きな力の残滓が残って邪魔をして詳しくは分からないじゃないの。分かったのは龍が巻き込まれた可能性が高いと考えられる事だけだわ」

 地面に降りて調査していたタマミズキ殿が声を出して、考えに耽っていた我はその言葉に全ての考えを放り投げて動揺しながら大声を出した。此処に龍が居たのならシグルトが巻き込まれたとしか思えないのだ。

 「どどどど、如何言う事だ。詳しく説明してくれ」

 「天狐が魔法の技術に長けているのは知っているでしょう。此の場所を調べたら緊急事態だったのか、かなり杜撰な転移魔法を使っているのが確認出来たわ。まさに力ずくとしか言えない魔法だけど力の規模を考えると龍としか思えないわ」

 「転移したのなら無事だと言う事だな。いや待てよ、この規模の力に巻き込まれてシグルトが無傷で済むのか?シグルトはまだ子供何だぞ。ああこんな事ならやはり外に行かせるべきではなかったんだ。それも此れも全てはあれがいけないんだ。そうだとも信頼されているからと言っても契約者だと言っても我からシグルトを引き離すのが元々間違っていたのだ。どちらに転移したのか分かるだろうか?親としてシグルトの元に行かなくてはならないのだ」

 我の言葉に何故か戸惑いの表情を浮かべながらタマミズキ殿が答えた。

 「此処から西の方角に転移したみたいですわね」

 即座に飛び立とうとした我にメリクルクスが話しかけてきた。

 「おい少し冷静になれ。タマミズキ殿をおいて行く心算か?お前は昔から暴走すると周りが見えなくなる所は変わらないな」

 呆れた視線が突き刺さって来たが気づかないふりをしてタマミズキ殿を乗せると西に向かって飛び立った。


 西に向かって飛んだ我は暫くすると人間の集団を発見した。人間達が我らを見つけて騒いでいる様だが今の我には聞こえていなかった。

 「シグルト、シグルト、何所にいる」

 必死に叫んでシグルトを探すとあれと共に驚いた顔をして視線を交わして視線で意思のやり取りをするのが見えた。其処に有る確かな信頼関係を見せ付けられて、親として心配していたのに何故隣にお前がいるのだと考えたら苛立ちと共に自然と咆哮が出ていた。そして少しでも早くシグルトの元に行こうと速度を上げて近づいて行くとあれが驚いた顔から厳しい顔に変えて魔法を放ってきた。顔の前で爆発が起こり衝撃を受けて急停止すると罵声と共にあれが跳んで来て我の顎に拳を叩き込んで来たのを最後に意識が途切れた。

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