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契約者達と帝都の最後

 「全員良く聞いて欲しい。今俺達は何時死んでもおかしくない場所にいるらしい」

 俺の突然の言葉に聞いていた人達は初めは、何言っているんだ此奴は?と言う顔をしていたが俺の強張った表情を見て真面目な顔で質問してきた。

 「おい如何言う事だ?詳しく説明しろ」

 「此処にいないリグレス公爵にも危険があるのですか?」

 ロベルトとクローズさんが真剣な声を出して尋ねてきたが俺はまずメルクラント卿に話しかけた。

 「メルクラント卿は降伏なさいましたが今後は俺達の言う事を聞いて貰えると考えてよろしいですか?」

 「敗北したのだからべサイル殿下と戦えと言われるのは困るが基本的に従う心算だ」

 俺は答えを聞いて安堵すると最初に皆に告げた。

 「今から説明するが最後まで冷静に聞いて欲しい。後でやるべき事も伝えるから基本的に質問も無しだ。時間が何時まであるか分からないんだ」

 皆が緊張して頷くのを見てから話し始めた。

 「俺は手に入れた契約石に精密探査魔法を掛けて調査した事がある。結論から言うと新型でないのなら契約石を超える物が出来る事はあり得ない。そして俺達が光を放つ契約石を見た事があるのはレクトンの町で暴走した契約石を止めた時だけだ。あの時は何とか止められたがその時の契約石は光ってはいたが点滅していただけで光り輝いてなどいなかった。だがもし爆発していたらレクトンの町を半分以上は確実に消し飛ばしていたと考えている」

 ハッとした香織達が俺の言葉に同意したのを見てロベルト達の顔色が変わった。特にメルクラント卿は蒼白になって凍り付いていた。

 「俺の考えが正しいなら帝都は消滅するだろう。五大神官が逃げた事にも説明が付くし、何より商連合国の此処までのやり方を考えれば今帝都が消し飛んで俺達全員が死ねば後は好き勝手に蹂躙出来ると考えていてもおかしくは無いと思う」

 俺の説明に今度はロベルト達が混乱しかかっていた。パンと手を叩いて注目を集めると話を続けた。

 「今からやるべき事を説明するぞ。まずメルクラント卿は戦いが終わった事を兵士達に徹底させてください。そして兵士達を指揮して広場に住民を集めてください。其れと食べ物も持てるだけで良いので住民に持たせてください。次にクローズさんは騎士団を率いてメルクラントの中にいるはずの裏切り者の監視とメルクラント卿に護衛をつけてください。ロベルトはリグレス公爵達にこの事を伝えて欲しい。伝えた後は皆で住人を広場に集める手伝いをしてほしい」

 厳しい顔で頷く二人を見ているとメルクラント卿が疑問を投げかけてきた。

 「広場に集めて如何するのだ?帝都から逃がすのではないのか?」

 「逃がしますよ。シグルトの転移魔法を使ってですが。やれるよなシグルト」

 「どれ位の人数か分からないのが不安だけどやるしかないんだ。まあ最悪でもロベールに手伝って貰えば如何にかなるんだ。ただあまり遠くに転移させるのは無理なんだ。だから肉を食べた場所にするんだ」

 肉を食べた場所と聞いて不思議そうな顔をしたメルクラント卿にロベルトが話すと何とか納得したみたいだ。

 「皆さんは行動を開始してください。俺達は此れから帝城に向かってべサイル殿下と契約石を如何にか出来ないか試してみます。あと注意するのは何時その時がくるのか分からないから確実に広場にいる事です。転移する時に広場にいない人達は見捨てる事になります。もし言う事を聞かない住民がいたらその時の判断は任せます」

 時間が無い俺達は焦りを感じながら急いでそれぞれのやるべき事をする為に行動を開始した。俺達はまず広場に行って探査杭を使ってから帝城に向かった。


 「お兄ちゃん大きなお城だね。でも門が閉じられているよ」

 「そうだな、今は非常事態だから派手に行くとしよう。皆も良いよな」

 「僕も時間が無いし目を瞑るんだ」

 「私は構いませんわ」

 「僕に意見はない。主が良いなら其れで良い」

 「よしじゃあ吹き飛ばすか」

 俺は大きな鉄の門に向かって圧縮した爆炎を放った。放たれた爆炎は門に激突すると轟音を響かせて爆発した。鉄の門は熔けて歪んで更に一部は吹き飛んでいった。

 「行くぞ皆、正面突破して最短距離でべサイル殿下の元に向かうぞ」

 中に入って暫くすると大勢の足音がして騎士達に囲まれた。

 「貴様等此処は帝城だぞ。死にたくなければ大人しく我ら近衛騎士の指示に従え」

 「俺も言わせて貰おう。死にたくなければ帝城にいる者達を連れて広場に行け。此の帝都は消し飛ぶ可能性がある」

 「貴様何を言っている?正気か?」

 「お兄ちゃんは嘘なんか言っていないわよ。今頃リグレス公爵とバルクラント卿そしてメルクラント卿達が必死に帝都の住人を広場に集めているわ。早くしないとべサイル殿下が持っている契約石の爆発に巻き込まれて死ぬわよ」

 明らかに全員が動揺していたが隊長と思われる騎士が告げた。

 「危険なら殿下が気づかないはずがない。何よりおかしな者達を連れて帝城に乗り込んで来た者達の言う事を簡単に信じる訳には行かない」

 「誰がおかしな者だと言うのだ。僕は主に従う魔狼だぞ。主の言葉を軽んじるとは身の程を知るが良い」

 声が聞こえて止める間もなくルードルが跳びかかっていった。小さな体になったがその戦闘能力は健在で俊敏さを発揮して一瞬で騎士に近づくと顔を殴っていた。殴られた騎士は顔に爪痕を刻まれて吹っ飛んで行って壁に激突して動かなくなった。

 「きき貴様、隊長を攻撃するとは正体を現したな。全員此の者達を捕らえるのだ。無理なら斬り捨てても構わん」

 次々と騎士達が剣を抜いて斬りかかって来た。香織に横から斬りかかる騎士を見た俺は咄嗟に剣を抜いて構えると訓練の成果が出たのか反射的に相手の剣を弾き飛ばすと返す剣で斬り倒していた。血が飛び散り騎士が血を流して倒れるのを見て初めて自分が人を斬った事に気づいた。理解すると体が震えてきた。

 「シグルト、お兄ちゃんをお願い。フレイ、ルードル、騎士達を速攻で倒すわよ」

 香織の声が聞こえていたが動揺していた俺は行動出来なかった。


 お兄ちゃんが私を守ろうとして騎士を斬ってしまって動揺しているのを見た私は即座に行動した。騎士達に魔法を放ちながらシグルトの方を見ると斬られた騎士を治療していたので死ぬ事は無い様だと思って一先ず安心した。

 「おのれ近寄る事が出来ないのなら此れで如何だ」

 風の砲弾を連続して放っている私に近寄れない騎士達が剣から魔法に攻撃手段を変えた。火の矢、水の矢、雷の矢と更には火炎球と爆裂球まで飛んで来た。しかし私は冷静に風を圧縮して回転させると前に放った。放たれた風の魔法は竜巻の様になって全ての魔法を巻き込んで壁を粉砕して更に突き進んで爆発した。通路で避ける事が出来ずに弾き飛ばされた者達が手足を折って呻くのが見えた。奇跡的に無事だった二人の騎士はただの一撃で壊滅した騎士団の仲間を見て武器を取り落としてへたり込んでいた。

 「主よ僕が巻き込まれそうになったのは偶然だよな」

 「あれ位なら問題無いでしょう?まあ私の事を思っての事とはいえお兄ちゃんが人を傷つける原因を作った事に対するお仕置きもかねていたけど」

 薄らと笑みを浮かべてルードルを見るとビクついていた。そんな私にフレイが耳元ささやいてきた。

 「あまり怖い顔をしていると直哉に見られて怯えられても知りませんわよ」

 フレイの声に表情を変えるとお兄ちゃんの元に歩いて行き手を握って大丈夫と尋ねた。後ろでフレイがルードルにもう少し考えて行動しないと駄目ですわと言って励ましている声が聞こえた。


 香織が震える手を握ってきたので俺は何とか重たい口を開いて声を出した。

 「ああ完全に大丈夫とは言えないが今は時間もないし、やるべき事をやる事ぐらいは出来る。シグルトが治療してくれたおかげで死んではいないしな。ありがとうシグルト」

 そう言いながらも俺は心の中で考えていた。かつて刺された事のある俺だから人を斬ると言う事の意味が詳細に想像出来て理解させられていた。斬った時の手の感触が刺された時の痛みと合わさって動揺と混乱をする原因になったのだ。俺の中で今も刺された時の痛みが克服出来ていない事に気づかされ苦い笑みが浮かぶのが止められ無かった。それでも何とか気を取り直して行動する事にした俺は倒れている騎士達を治療して無事だった二人の騎士に話しかけた。

 「治療はしたから起こしてべサイル殿下以外の全ての人達を広場まで避難させろ。先程言った言葉に嘘はない。お前達を殺す心算なら簡単に出来る事は分かっただろう。俺達がお前達に嘘を吐く意味が無いんだ。最後に言っておくが自分達だけで逃げて帝城にべサイル殿下以外の人が残されていたら広場に行っても助けないからその積りで動けよ」

 壊れた様に頷く二人を見て言い過ぎたかなと思わないでもないが時間が無いので移動しようとすると香織が止めてきた。

 「お兄ちゃんまだべサイル殿下が何所に居るか聞いていないよ。私達の情報はメルクラント卿の物で古いから間違っているかも知れないわ」

 香織の言葉に成る程と思って如何やら俺はまだ冷静では無い様だと思った。二人の騎士に聞くと部屋ではなく謁見の間の玉座にいる事が分かった。二人に礼を言ってから急いで謁見の間に向かった。


 入る前から嫌な感じの力が感じられる謁見の間に入ると暗い目をした男が玉座に座っていた。話し掛けようとすると突然笑い始めた。

 「くくくはははは、如何やら我が配下は無能しかいないらしいな。裏切り者のバルクラントも苛立つがいざと言う時に役に立たない五大神官もメルクラントも不愉快だな。おまけに誰が来るかと思えば何所の誰とも分からん小僧と小娘とは笑わせてくれる」

 言葉に怒りを浮かべる皆を宥めてから話し掛けた。

 「俺は一応今リグレス公爵からリラクラントの作戦を考えて指示する権限を持たされた者です。ついでに言うと契約者でもあります。今此処に来たのはべサイル殿下が持たれている契約石が光り輝いていると聞いて爆発する可能性が高いと思い対処する為です。如何かべサイル殿下が持たれている契約石を見せては貰えませんか」

 「ふん何を言うかと思えば訳の分からん事を言いおって。見るが良い此の光がこそが我に力を与えるのだ。爆発するなどと言って騙そうとするとは所詮は下郎の浅知恵よな」

 そう言って懐から出した光り輝く契約石を見た瞬間俺は全身から冷や汗が流れ落ちるのを止められ無かった。横にいる香織達も顔色が蒼白になって震えていた。前に見た点滅している物とは比べるのも馬鹿馬鹿しいくらいの力が契約石内で限界近くまで圧縮されていて今にも限界を超えて解放されそうになっているのだ。あまりの力に空間が歪んで軋んでいるのが龍人になって空間認識力が高い俺と龍であるシグルトには良く分かった。シグルトと視線を交わしてお互いの考えている事に違いがない事を確かめると香織達に小声で告げた。

 「駄目だ止められる限界を超えている。しかも確実に三クーラ以内に爆発しそうだ。おまけに考えていたより遥かに強い力が溜まっている上に強い力で空間が歪んでいて転移させる事も出来そうにない。帝都だけでなく周辺まで被害が出そうだ」

 「あと強い力は絶対に使わないで欲しいんだ。その所為で爆発する可能性があるんだ」

 皆でヒソヒソと話し合っているとべサイル殿下の声が響いた。

 「契約者だと言ったな。なら此の契約石の力を試す相手に丁度良いな。光栄に思うが良い我自ら相手をしてやろう」

 声を聞いて俺は心の中で、ふざけんな冗談言ってんじゃねえよと叫んでいた。皆も何時爆発してもおかしくない契約石を持ちながらも状況を理解していない発言に戦慄しているのが顔から分かった。

 「おい待て良いか良く聞けよ。本当に爆発するんだぞ。此のままでは帝都を巻き添えにして全てが消し飛んで死ぬ事になるんだ。早く其れを捨てて一緒に広場まで行こう。今皆で急いで帝都の住民を集めて避難する準備を整えている所なんだ」

 必死に説得しようとした俺を嘲笑うかの様に事態は進んで行った。

 「先程から世迷言を言いおって。強い力を持った絶対的な皇帝がいる以上帝都は何が起きても無事に決まっている。どうせ皇帝の力に恐れおののいているのだろうが此処まで来た以上許す心算はない。下郎は下郎らしく皇帝の手に掛かる栄誉を手にするが良い」

 契約石を掲げるとべサイル殿下は魔法を使い始めた。闇の矢や暗黒球が数百も放たれ止まることなく次々と雨の様に飛んで来た。

 「ひいーーーー」

 つい悲鳴を上げてしまった俺にべサイル殿下は愉快そうに笑っていた。

 「はははは、如何した契約者と言ってもこの程度なのか?まだ始まったばかりだぞ」

 笑う殿下には分かっていないだろうが俺が悲鳴を上げたのは断じて魔法が飛んで来たからではない。魔法を使う度に契約石に溜まった力が不安定になって何時爆発するか本当に分からなくなってきたからだ。俺の頭の中にはヤバい、ヤバい、ヤバいと警鐘が狂った様に響いていた。闇の魔法で障壁を作って魔法を防ぐのと同時にあちらから見えない様にすると小さな声を出した。

 「香織、フレイ、シグルトは今すぐ広場に行って転移を始めろ。シグルト強化するから近くに来てくれ。あと香織とフレイは先に転移して帝都の方向に障壁を構築してくれ。良いか普通のではなく絶対に壊れないと思える様なのを作ってくれ。最後に悪いがルードルは俺と共に残ってくれ。あの中に入っているのは魔狼だと聞いた事があるから、可能か分からないが助ける為にやっておきたい事がある」

 「お兄ちゃん・・・」

 不安そうな香織の頭を撫でて鋭く告げた。

 「俺は香織を残して死なない。だから行け。シグルト其方は任せたぞ。あと終わったら迎えに来てくれると助かる」

 「主よ僕が残って主の意思を代わりに果たそう」

 俺達の声に押される様に香織達が転移して去って行った。

 「さて僕はいい加減にやられっぱなしなのを如何にかしたいのだが?」

 「反撃は極力しないでくれ。ハッキリ言うと何時爆発してもおかしくない状況で何が切っ掛けになるか分からないんだ」

 渋い顔をしたルードルに俺は続けて話した。

 「魔狼を助ける方法だが強化した隔離空間を魔狼の外側に構築して隔離する心算だ。今までの契約石の作りからして入れる為の時空魔法に干渉する事は可能だと分かっている。問題はあの状態の契約石に干渉したらどうなるか分からない事で最悪爆発する可能性すらある。あと一瞬で良いから触らないと干渉出来ない上にその間が無防備になる事だな」

 「・・僕の役目はお前を守る事か?」

 「そうだ。色々思う事はあるだろうが魔狼を助ける為だから我慢してくれ」

 「・・分かった。主の為に守ってやる」

 俺はその言葉に笑みを浮かべると話していて程よく時間も経った様なので行動を開始する事にした。

 「突っ込むから守りは任せた」

 俺が障壁を解除して走って近寄ろうとしたのを見て動こうとしない俺達に退屈していたべサイル殿下は喜色を浮かべた。そして大きな声で楽しそうに詠唱を始めた。

 「闇よ我が前に集いて刃と化して敵を切り刻め、千の刃よ顕現せよ。闇よ腐敗の力と化し敵を包み込め、腐敗の毒よ現れたまえ」

 いきなり二つの古代魔法を使ってきた事に驚く間もなく契約石を見ていた俺は古代魔法の反動で力が溢れそうになったのを見て心臓が止まりそうな恐怖を感じていた。その一瞬は永遠にも感じられて棒立ちになった俺に刃が降り注いで傷だらけになる破目になった。痛みで我に返ってルードルは何をしているのかと思い視線を向けると腐敗の毒を同じ魔法で相殺するので精一杯の様だ。

 「良く生きていたな契約者とは頑丈さが取り柄の様だな。我の魔法の的としては優秀だな。しかし何時の間にか人数が減っているな。皇帝の力に怯えて逃げる気持ちは分からなくもないがお前達は逃がさんぞ」

 大きな力を振るって喜色満面のべサイル殿下に怒りを通り越して憐みと空しさを感じていた。そしてこの男を助ける事は出来ないと気づいていた。きっと此の男は最後まで契約石を手放さないだろうと確信していた。其れでは転移も行えず魔狼と違って外に居るので隔離空間で守っても空間ごと消し飛ばされるだけだ。もうこの男は詰んでいるのだが本人だけが気づいていないのだ。皇帝を名乗っているが俺には道化にしか見えなかった。

 「なあ契約石はそんなに良い物か?他の生物の力を無理やり使っているんだぞ」

 「ふん何を言うかと思えばくだらない事を言うな。興が冷めるではないか」

 答えを聞いて最後の感傷を捨てると不意をついて一瞬で距離を詰めて契約石に触れた。即座に魔法を使って干渉すると何とか目的を達成する事が出来た。

 「下郎が皇帝の持ち物に触れるな」

 怒りの声と共に腐敗の毒が迫って来るのが分かったが干渉していた俺には如何する事も出来なかった。必死にルードルが魔法で相殺したが契約石に触れていた手だけは守る事が出来なかった。痛みを感じて手を見ると壊死していた。安全な場所まで退避して治療を試みたが如何やら壊死した部分は普通の魔法では治らない様だ。ルードルに聞くと壊死した部分を排除した後に魔法をかけるのが正しい治療法らしい。流石にそれは嫌だったのでシグルトに詫びながら俺だけの治療法で治した。

 「なんとか成功したが嫌な事も分かった。思っていた以上に時間が無い様だ。シグルトが戻って来るのが早いか遅いかで全てが決まりそうだ」

 「僕はお前と死ぬ心算はない。しかし真面に攻撃出来ないのが此処まで苛立つ物だと初めて知ったぞ。しかも相手の笑い声が聞こえて更に不愉快だしな」

 治療や話の合間も絶え間なく降り注ぐ魔法攻撃にうんざりしながらも俺達はシグルトが戻って来るのを待っていた。

 「如何した真面に反撃も出来ないのか?皇帝を楽しませる事も出来ないのならもう終わりにしてやろう」

 今までにない大きな力を引き出そうとしているのを見て俺は不味いと思って素早く攻撃をして妨害した。

 「ほう、やれば出来るではないか。もっと早く抵抗すれば楽しめたものを下郎は気が利かないな」

 お前を楽しませる為に戦っている訳じゃ無いと叫びたかったが俺はそんな余裕もなく防御をルードルに任せて慎重に慎重を重ねて攻撃をしていた。ちょっとでも間違って契約石に当たったら破滅なのだ。経験した事の無い重圧を感じてまさに地獄の時間だった。何も分かっていない相手の笑い声が耳に煩かった。どれ位の時間が経ったのか分からないがシグルトはまだ戻って来なかった。

 「おい契約石の光が強くなっていないか?」

 「ああ強くなっている」

 防御をしていたルードルに言われるまでもなく俺にも分かっていた。残念ながら向こうの限界の方が早かった様だ。べサイル殿下が掲げていた契約石が突如、目を焼きそうな光を放った。更なる力を得られると思ったのかべサイル殿下が満面の笑みを浮かべていたのが最後になった。契約石を持っていた手から消し飛ばされて行くのが見えた。時間はかからなかったので本人は何が起こったのかも理解していないだろう。俺とルードルは話しながらも間に合わなかった時の為に用意していた防御手段を使用した。ルードルの闇に包まれる者が発動して光を取り込んで分解消滅させていた。しかし圧倒的な光の量に破られるのも時間の問題だった。俺の方は自分達がいる空間を隔離して光を別の空間に流し込んで防いでいたがやはり光の量に対応出来なくなってきていた。

 「おいルードル最後の手段を聞きたいか?」

 「聞きたくない。お前が自分で転移しようとしなかった時に嫌な予感がしていたからな」

 心底嫌そうな顔をするルードルに告げようとした時に此の空間にシグルトが転移して来た。

 「直哉、無事で良かったんだ。光を見て駄目かと思ったんだ」

 「俺は無事だ。其れより早く転移してくれ」

 俺の言葉に転移しようとしたシグルトが愕然としていた。

 「・・・・転移出来ない。此処は力で空間が歪み過ぎていて来る事は出来ても出れない」

 「待て待て俺は転移出来るみたいだぞ。シグルトが出来ないとは思えない」

 「多分直哉の方が出力が高いから力ずくで転移出来るんだと思うんだ。仕方ないから直哉の転移を僕が何とか制御して転移しよう」

 「分かった。悪いなルードル覚悟を決めてくれ」

 心底嫌そうなルードルを抱えて俺達は転移して退避した。


 転移した俺達は見事に下半身が地面に埋まっていた。俺の転移は力が安定していない所為で位置がずれる事があるのだ。今回はちょっと下にずれただけなのでましな方だったが、ルードルが顔以外全て埋まってプルプルと怒りを押し殺して震えている姿が見えて告げる事が出来なかった。

 「お兄ちゃん無事だったのね。爆発しても転移して来ないから心配したんだから」

 泣きそうな顔で此方を向いて話し掛けてきた香織がフレイと共に障壁を必死に維持して爆風と衝撃波から住民達を守っているのに気づいて俺達も慌てて手伝った。どれ位の時間が過ぎたのか分からないがようやく光が弱くなってきた時には疲労して倒れ込みそうになっていた。その後半クーラ程で光も無くなって障壁を解除すると同時に香織とフレイは疲労で本当に倒れてしまった。慌てて地面から抜け出し香織達の元に行って治療を施すとルードルに小声で話しかけた。

 「ルードル香織達の事を頼んでいいか」

 「了解した。任せておけ」

 シグルトと共に一度転移で帝都に戻ろうとした時に俺を探していたベルスに呼び止められて怪我人を治療をしてから質問して報告を聞いた。

 「何があった?怪我人を治療したがどの人も酷い怪我で俺でなかったら治せなかったぞ」

 「・・・帝都とは規模が違うがバルマーたちが逃げる時に契約石を爆発させたと考えている。周辺を探った所此れが残っていた。中に入っていたのは人間か魔獣だと思う」

 見せられた物を見て顔を歪めると平然と人間を犠牲に出来る五大神官やそれに付き従うバルマー達の事を考えた。五大神官達が逃げた状況から考えてこの事態を知っていて自分達だけ逃げ出す考え方に理解出来ない怪物を見た気になった。もし俺達が気づかなかったら帝都の住民は全員死んでいただろう。虐殺としか言えない事を計画して実行に移す者達が敵だと心に刻み込んでからベルスに後を任せて転移した。


 転移し終わって周りを見て初めは違う場所に来たと本気で思った。見渡す限りにつるつるした高い壁が一面にある場所だった。しかし少ししてから此れは壁では無くて地面が抉れて低くなった真ん中に俺達が転移しただけなのだと気づかされた。そして地面がいまだに高熱を発している事に気づいて、何があるか分からないと思って転移前に強化して置いて正解だったと心底思った。暫く茫然として眺めているとシグルトが大声を出した。

 「直哉、あっちに魔狼がいるんだ。まだ何とか生きているけど今にも死にそうなんだ」

 シグルトの声に我に返って見て見ると魔狼が半ば埋まっているのが見えた。慌てて近づいて治療をし始めたが絶句させられた。体の一部がミイラの様になっている上に魂の方も今にも消滅しそうになっていた。

 「・・・此れは治せるのか?・・・ハッキリ言って死んだ炎鳥を生き返らせる方が簡単かも知れない」

 動揺して口から本音が零れてしまったのに気づいて気を引き締めると治療を始めた。強化して治療をしたがやはり簡単にはいかない様で、魂の治療は慎重に何回にも分ける必要が有る上に更に体の方はミイラと化した部分は切り落として再生させるのが一番ましな方法だが今そんな事をすれば、それがとどめとなって死ぬだろう事が分かった。

 「なあシグルト如何すれば良いと思う」

 「・・・僕には魔法をかけて回復を待つのが良いと思うとしか言えないんだ。それに此処まで酷い状態ならどんな結果になっても誰も文句はいえないと思うんだ。まあ今は兎に角空間に入れて皆の所に運ぶべきなんだ」

 シグルトの言葉にやはりそれしかないかと思って慎重に治療を続けてから空間にしまった。魔狼がいなくなった地面に契約石の欠片を見つけて苛立ちと共に魔法を放って消滅させてからシグルトに頼んで被害の全体が見えそうな場所に転移してもらった。

 「・・・・・・・・・」

 言葉も無いと言うのを思い知らされた。此処から見た限り帝都だけでなく周辺一キーラは何も存在していなかった。森も水源も無くなっていて何も知らない人に此処に帝都があったと言っても冗談にしか聞こえないと思わせられた。先程俺達がいた爆発の中心は下に二キーラは抉れているのが分かった。避難しなかったら何人が死んでいたのかと考えて背筋に怖気が走った。地形が変わってしまう力が起こした被害を見て自然と言葉が零れ落ちた。

 「俺も何時かこれ以上の力を使う時が来るのか・・・・・・」

 俺の言葉にシグルトは肯定も否定もしなかった。ただ黙って俺を見つめてきた。その目を見て俺はシグルトの言いたい事が何となく分かった。全ては俺が決める事で意思を尊重してくれる事、そして使い方を間違ったのなら全力で止めてくれるのだと信じられた。信頼の重みを感じながら無言で帝都があった場所を見続けて、心の中で帝都では奴らの思惑を阻止できなかったが今後の対応で奴らの度肝を抜き巻き返して見せると決意した。それに奴らの方も予想外の事態に慌てて混乱しているだろうと考えて、何でも思い通りになると思うなよと呟いてからシグルトと共に転移して香織の元に帰った。

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