契約者達と帝都攻略戦 二
馬で駆け続けていると突然横から大量の火の矢の魔法が飛んできたので、慌てて止まって避けるとぞろぞろと人間が現れた。その中に知った顔を見つけて如何やら逃げる人物に雇われたランカーだと分かり厳しい視線を向けた。
「おい此処は通行禁止だぜ」
「初めて聞いたな。俺達は東に用事が有るんだ。退いてくれないかなバルマー」
「退けと言われてはいそうですかと退く訳無いだろうが。特に裏切ったはずのお前が騎士団を率いている所を見せられたら退ける訳無いだろ」
「色々と事情が変わってな。復讐相手が変わったんだ」
言葉を交わしながらお互いに隙を窺っているとバルマーが告げた。
「ああ成る程ようやく真実に気づいて復讐の為に五大神官を追ってきたのか」
バルマーの言葉に逃げているのが五大神官だと分かって逃がす訳には行かないと思い、斬りかかって突破する為に馬を走らせた。しかしまたどこからか大量の火の矢の魔法が飛んできて接近を邪魔をされてしまった。
「おいおい焦らずに暫く俺達と遊んで行って貰おうか」
バルマーの言葉を無視して一部を迂回させて追おうとしたが三度大量の火の矢に阻まれた。この結果に俺の頭に警鐘が響いた。火の矢は確かに下級魔法だが此処までの数の魔法を使うには五百人の魔法兵が必要になるはずだ。だが二倍以上の戦力が敵にあるのなら俺達の足止めではなく殲滅をするはずだと思い探ってみる事にした。
「おいバルマーお前は指揮が下手だな。こんなに魔法を無計画に使っていたらすぐに魔力が無くなって勝てる勝負も勝てなくなるぞ」
嘲笑う様に告げた俺の言葉にバルマーは怒りもせずに笑いながら返答してきた。
「ふはははは、そう思うなら試してみれば良いだろう?」
怒らないバルマーの言葉に何かあると確信すると俺は突破を諦めて慎重に行動する事にした。
「弓を持っている者は其れで遠距離から攻撃しろ。魔法を使える者で障壁を張れる者は張ってくれ。障壁を張れない者は全力で攻撃しろ」
俺の声に反応した者達が一斉に行動を始めて、途端に弓や魔法が飛び交う戦場が生まれた。ドカンドカンと障壁に敵の魔法が当たる音を聞きながら静かに反撃の機会がくるのを窺っていた俺は其の変化にすぐに気が付いた。敵の魔法の数が段々少なくなっているのだ。此方にはまだ余裕がある事を考えるとやはり敵の総数は俺達以下しかいないのだろう。此処が攻め時だと考えた俺は新たな指示を出した。
「敵の勢いが減ってきた。全員突撃して決着をつけるぞ」
「その言葉を待ってました。なあ皆」
「おうその通りだぜ」
俺の言葉に騎士達が同意の声を上げ勇ましく答えた。返事を聞いた俺は先頭に立って馬を走らせ突撃した。魔法が飛んでくるが数の減ったそれはもはや障害にはならなかった。いっきに距離を縮めて真っ先にバルマーに斬りかかった。お互いの剣がぶつかり合い激しい音が響いた。馬上での剣技は俺の方が勝っている様で徐々に剣がバルマーの体に当たり始めた。そしてついに俺の剣はバルマーの右肩に突き刺さった。
「ギャーーーー。・・・・・・この野郎・・・・・よくも・・・・俺を傷つけやがったな」
叫び声と共に憎悪の視線を向けるバルマーに告げた。
「降参しろ今なら命までは取らないぞ」
「ふざけんな、此れで俺に勝った心算か?甘いんだよ。必要な時間は稼いだ全員撤退するぞ。予定通りに投げ捨てろ」
バルマーは無事な左手を使って光る物を投げ捨てると刺さっていた剣を無理やり抜いて一目散に逃げ出した。追おうとした俺は周りの敵も光る物を投げ捨てている事に危険を感じて踵を返しながら声を出した。
「全員退避しろ光る物から距離をとれ」
俺の言葉に大半の者は間に合ったが一部の者が間に合わずに爆発に巻き込まれた。障壁は張った様だが暴力的な光は障壁など存在しない様にアッサリと消し飛ばしてしまった。
「ギャアアアアーーーー」
巻き込まれた者の絶叫が響いた。光が消えた後を見て皆が絶句していた。地面がデコボコになって更に湯気が立っていた。巻き込まれた者達も悲惨な状態だった。吹き飛ばされて手足が折れた者、光に焼かれて大火傷を負った者、目をやられて視力を失った者、そして体の一部が炭化したり消滅した者が呻き声を上げて倒れていた。
「救出を急げ死なせるな」
声を上げながら近くの負傷者の元に向かい救出して治療をほどこしたが意識を取り戻す事も無く呻いているだけだった。
「ベルス隊長追撃は如何しますか?」
「・・・・・・中止する。負傷した者達を放って行けば捕まえられるかも知れないがそうすれば負傷者は全員死ぬ」
「ハッキリ言いますが経験から言って一部は助かる見込みはないと思いますよ。むしろ此のまま苦しめるよりは・・・・・・」
「お前の言う事も分かるが今は連れて帰れば助かる可能性があるだろ。其れに言われただろ戦力を低下させるなと、つまりは犠牲を出すなと言う事だ」
俺の言葉に二人の契約者の事を思い出した者達は目の色を変えるとキビキビと動き出した。
「絶対に死なせるな。生きて連れて帰れば希望はある」
部下の声を聞きながら俺は役目を果たせず五大神官を逃した影響について考えて不安を感じていた。しかしそれが目に入った瞬間に俺は考えていた事の全てが吹き飛んでいた。其れは干からびていた上に一部分だけだったので、まさかそんな事ありえないだろと考えて自分の考えを否定したかったが、其れが人間の成れの果てだと言う事が調べた結果分かってしまった。
「手の空いている者は周辺を調べろ」
低く重苦しい声を出して命令すると石の欠片の様な物と今度は魔獣の様な物が見つかった。バルマー共が大量の魔法を使って平然としていた理由が分かった。俺は奴に降伏を呼びかけた事を後悔していた。確実に殺しておくべきだったのだ。次に会ったら必ず殺すと心に決めて負傷者と見つけたものを持って帝都に戻った。
俺と親父さんは今も帝都大門を落とす為に戦っていた。敵は攻撃するのを止めて全員で守りを固めて明らかに時間稼ぎをしていた。
「ロベルトどう思う?」
「リグトンが指揮を執っている以上油断は出来ない。援軍が来る可能性が最も高いと思う」
「やはりそうか・・・。なら多少無理をしてでも攻略を急がねばならんな」
話し掛けてきた親父さんに答えると親父さんは結論を呟いてから兵士達の元に行き命令をしていた。親父さんの命令で攻撃が激しくなった。敵兵を休む間もなく攻め立てて半ばまで押し込む事に成功してあと少しで落とせそうだと俺も親父さんも思った。しかしその時リグトンの声が戦場に響いた。
「この程度の敵に敗れる様では魔狼と戦ったら何も守れずに終わるぞ」
その言葉を聞いた敵の兵士達の顔つきが変わった。全身から覚悟を滲ませる敵兵は負傷すると戦えなくなる前に此方の兵士を道ずれにしようと捨て身で斬りかかってくる様になった。その所為で此方の負傷者が加速度的に増えて行った。そして帝都大門を落とせないまま一クーラの時間が過ぎて俺は索敵をさせていた兵士から嫌な報告を聞く破目になった。
「申し上げます。広場の方から敵と思われる部隊が向かって来ています」
聞いた瞬間に顔を顰めると俺は親父さんに話しかけた。
「親父さん如何やら時間切れの様だ。軽傷の兵士を治療した後で待機させていたから其れと此処に居る兵士の二割を持って行くぞ」
「其れだけで何とか出来るのか?」
「無理でもやるしかないだろ。親父さんも焦って反撃されない様に気をつけろよ」
肩を竦めてから告げると俺は兵士を率いて迎撃地点に向かった。
迎撃地点に布陣して待ち構えていると前から敵が鬼気迫る表情を浮かべて迫って来た。しかも俺の予想より大分敵兵の数が多いみたいだ。
「まずは敵の足を止める為に火の矢の魔法を放つぞ」
了解の声を上げて魔法を使える兵士達から一斉に魔法が放たれた。敵に直撃したはずなのに敵の足は止まらなかった。何と火傷を負った者は絶叫していながらも味方の進行の邪魔にならない様に脇に移動してから倒れたのだ。
「進め進むのだ。後退は無いぞ。前に立つ者を排除して味方を助けるのだ」
敵の指揮官と思われる者の声に敵が雄叫びを上げて突撃して来た。敵の覚悟に怯む味方を前に俺は声を出した。
「まだ罠がある安心しろ。そして攻撃の手を緩めるな」
俺の言葉に落ち着きを取り戻したかに見えた兵士達はすぐに敵の行動を見て騒ぎ始めた。なんと敵は俺達が道を塞ぐように設置した罠を犠牲を出しながらも力ずくで破壊して前に進んで来た。此れには流石に俺も度肝を抜かれて考えを改めさせられた。敵は犠牲を無視してでも最速で帝都大門に向かう心算なのだ。俺には出来ない戦法だが帝都大門を奪われれば負ける状況を考えれば間違っているとも言えない行動だった。
「此方の状況を親父さんに伝えてくれ」
伝令が慌てて駆けだして行くのを見届けてから、負傷した仲間を置き去りにして接近して来た所為で目を血走らせた敵と向き合って斬り合いを始めた。
「まだ突破出来ないのか・・・」
「申し訳ありませんガルマスト様。ジリジリと押し込んではいるのですが、敵の指揮官の指揮が優秀な様で更に此処まで無理をしていた事もあり、これ以上無理をすると突破しても味方を救出する力が無くなるでしょう」
「・・指揮官は狙えないのか?」
「敵の指揮官も自分が倒される危険性を分かっているのか初めに剣を交わした後は後方に引いています」
「ふん成る程、敵にして見れば時間さえ稼げれば其れで良いから無理をする事は無いと言う訳だ」
私はジッと考え込むと一つの結論に達した。
「私が出て行けば敵の指揮官も動かない訳には行くまい」
「お待ちくださいそれは・・・・」
反論を厳しい視線を向けて止めた私は告げた。
「何か別の良い案があるのなら述べよ。しかし無いなら邪魔はしてくれるな。此処で時間を掛ければ負けてしまい今までの苦労や犠牲が水の泡になるのだ」
反論が無いのを確かめてから私は敵に良く見える場所に向かい大声を出した。
「我が名はガルマスト・メルクラントだ。敵指揮官に告げる。引きこもっていないで出て来るが良い」
私の声に戦場が響いて暫く経つと一人の男が現れた。
「今日二度目になるが名乗らせて貰おう。俺の名はロベルトだ。ミルベルト卿の娘婿と言えば貴族では知らない者はいないだろ。リグトンですら知っていたしな」
ロベルトの言葉を聞いて酷い噂を思い出してから目の前の男を見て噂はあてにならないと思った。
「確かに噂は聞いた事があるが私は自分の目で見て確かめた事しか信じない様にしているのだ。実際お前が噂の通りの男なら我らの前に障害として立ちふさがる事は出来まい」
「そう言ってくれるのは嬉しいが大人しく降伏してくれる訳でもないんだろ?」
「当然降伏などしない。お前を倒し帝都大門を守り抜く積りだ」
「話す機会を得たので一応言っておくが勝利しても無駄だぞ。そっちの進む先には破滅しかない事はバルクラント卿も認めたぞ。ハッキリ言うと早く負けた方がお互いの為になる」
破滅と聞いて降伏を呼びかけるにしても大げさ過ぎると思いロベルトの顔を凝視したが、ロベルトの目は嘘を言っている様には見えず、更に今まで心の中にしまっていた何故バルクラント卿が敵になったのかと言う疑問にも納得がいってしまった。だが此処は戦場で敵の言う事を鵜呑みにしていては駄目だと思い告げた。
「今この場で発言の証明になる物を提示出来るか?出来ないのなら私は今も必死に戦っているはずの仲間の為に行動するだけだ」
ロベルトは頭を振ると仕方ないなと言う様な顔をして話し掛けてきた。
「残念だが・・・本当に残念だが見せる事の出来る証明する物は別の奴が持っている。だから当初の予定通りに捕らえてから真実を話す事になるみたいだ」
ロベルトは視線を厳しくすると私を捕縛しようと近づいてきた。私は証明する事が出来ると聞いて動揺してした所為で咄嗟に動く事が出来なかった。傍に居た護衛達が割って入って私に後退する様に言う声を聞いて、ようやく動く事が出来た。後方に戻って指揮を執りながらロベルトがいる方を見ると敵の指揮官を倒すために隠していた兵士達が動いて包囲し始めていた。此れで如何にかなると思って安心した時だった。突如横の道から敵の援軍が現れたのだ。包囲に失敗するのを見ながら私の心にはロベルトの言葉が重く圧し掛かっていた。
「ニルスト様前方で味方が敵に包囲されかかっています」
「何だと?此処はまだ帝都大門ではないぞ。何所の部隊だ?」
「良くは分かりませんがロベルト様がいた様に見えました」
部下の言葉にギョッとして慌てて味方の援護をする為に部隊を突撃させた。敵は味方を包囲するのに気を取られていたので私達の突撃は不意打ちになった。しかも私の部隊はいまだ戦闘らしい戦闘をしないで移動していただけなので兵士達はやっと戦えると意気込んで敵に向かって行った。
「どけどけ邪魔だぞ」
「やっと戦えるぜ。苦戦する味方を救出しろ」
「死にたい奴からかかってこい。まあ腕の一本ぐらいで許してやるがな」
兵士達が叫びながら突撃すると簡単に敵陣を斬り裂いて味方の元まで進む事が出来た。来ないと思っていた援軍が横から現れた事と既に戦い続けて本来の力が出ていなかった事、そして包囲が完成しかかっていて勝ちを意識した時だった事が合わさっての事だが敵の一割は此の時の攻撃だけで倒せた様に見えた。敵を倒して進むと荒い息をして戦っているロベルトがいた。
「無事の様だな。何故此処にいる?帝都大門はどうなった?」
「親父さんがリグトンの率いる騎士や兵士と戦っている。俺は敵の援軍を此処で足止めしていた。あと敵の部隊の指揮官はメルクラント卿で説得しようとしたが戦っている仲間の為に行動すると言われた」
ロベルトの言葉に目を見開くと素早く考えて告げた。
「私は父上から五大神官が戦いが始まった時から逃げていた事をロベール殿に伝える様に言われている。此処に二割程兵士を置いて行くから後は任せても良いか?」
「其れは助かる親父さんの事を頼んだ」
残す兵士をロベルトに任せて移動を始めた時ロベルトの声が聞こえた。
「今まで戦っていた兵士は後方に行って休め、今来た兵士は前方で戦って貰うぞ。もう少しの辛抱だぞ。ニルスト殿の援軍が帝都大門にたどり着けば必ず帝都大門は落とせるに決まっている」
その言葉を背に聞きながら私は責任重大だと気を引き締めた。
「そうか・・・だがこちらもこれ以上兵士を出せないのだ。此方に後退しても良いから現状兵力で何とかする様に言って欲しい」
ロベルトからの伝令を苦渋の表情を浮かべながら返すと儂は戦いの指揮に戻った。ロベルトがいなくなってからの戦いは一進一退の攻防でまさに消耗戦に成り果てていた。どちらも決め手に欠きただ時間ばかりが経過していた。
「前の部隊と後ろの部隊を入れ替えろ。そして負傷者の治療を急げ」
儂の命令に従って部隊が変わって戦いが始まったが状況に変化は無かった。負傷者も増えに増えて治療する者の方が魔法の使い過ぎで倒れそうになっていた。暫く同じ事を続けていたが時間が経ち儂も犠牲を覚悟して戦うか迷い始めた時だった。後ろから大勢の足音が聞こえて来た。まさかロベルトが敗れたかと顔を青くして音の聞こえる方に緊張しながら顔を向けると其処には考えてもいなかった者がいて大声を響かせた。
「私の名はニルスト・バルクラントだ。ミルベルト卿の援護をロベルト殿に頼まれた。メルクラント兵士に告げる。メルクラント卿の率いる部隊は私のおいて来た兵士と共にロベルト殿が抑え込んでいる。此処に援軍として来る事は不可能だ」
声を聞いた者達から歓声と悲鳴が上がり周囲に響いた。
「馬鹿な・・・・ガルマスト様が敗れると言うのか?いやそんな事は無いはずだ。此の帝都大門が落ちない限りはまだ戦えるはずだ」
「貴方が指揮官だな大人しく降伏して貰いたい。我がバルクラントの家名に誓って悪い様にはしない。我がバルクラントがリラクラントと戦った後に味方になったのは此の赤帝国を滅ぼさないためだ。メルクラント卿が勝ったとしても此の赤帝国が滅ぶ事になるだけで未来はないのだ」
儂の見ている前で元は共に歩んでいたニルスト殿の言葉を聞いた敵の騎士や兵士が動揺してリグトンの顔色を窺っていた。
「・・・・・理由が如何であろうと裏切った者の言葉を聞くとお思いか?」
「では一つの情報を与えよう。私は今まで大神殿の制圧をしていて五大神官や神官達を捕らえる為に父上と共に行動していた。しかし五大神官は戦いの始まりと共に逃げ出している事が判明して捕らえる事が出来なかったのだ」
五大神官が逃げたと言う発言に敵兵が煩いと思う程の悲鳴をあげていた。儂の目には指揮官のリグトンすらも顔を青くしている様に見えた。
「五大神官が逃げたとしても我らには関係のない事だ。我らはガルマスト様に仕える者だ」
リグトンの重苦しい声に敵達が落ち着きを取り戻し始めた。しかしニルスト殿の次の言葉は致命的だった。
「我がバルクラントの恥を晒す事になるが、我らの中に裏切り者がいたのだ。多分貴方達の中にもいるだろうが我らの裏切り者の中にはニルメスもいて商連合国と繋がっていたのだ。そして五大神官にもその疑いが掛かっていた。更に契約石の製造技術は商連合国からもたらされた物の可能性が高く、此の内乱自体が奴らの思惑に依って起こされたと考えられている。何故なら商連合国は赤帝国に侵攻する準備を整えているのが分かっているからだ」
話を聞いて今にも倒れそうなリグトンは言葉が出ない様だ。他の騎士や兵士も武器を取り落としたりして戦う意思が折れ掛けているのが分かった。
「最後に言っておく。ロベルトがメルクラント卿を説得しようとしたそうだが戦っている仲間の為に行動すると言ったそうだ。今一度言う。我がバルクラントの家名に誓って悪い様にはしないから降伏してほしい。これ以上抵抗しても主の為にはならないのだ」
長い長い沈黙の後でかろうじて聞こえる声でリグトンが降伏する事を告げた。降伏が宣言され戦いが終わったのに歓声は上がらなかった。儂もやっと終わったと感じて脱力していた。
「ニルスト殿悪いが帝都大門を開けて来て貰えるか?それと出来れば魔法砲の事も頼みたい。儂は負傷した全ての者の治療をしようと思う」
「了解しました。此方の部隊から治療出来る者を置いていきますのであとはお任せします」
そう言って素早く去って行くのを見届けてから負傷者を治療していると帝都大門が開かれる音が聞こえてきた。
ずっと待機して今か今かと帝都大門が開かれるのを待っていた俺達はすぐに帝都大門が開かれたのに気づいて行動を開始した。真っ先に走り出した俺達は騎乗して疾風の様に移動する騎士団の団員が目の前で俺達がそれ以上の速度を出して爆走しているのを見てどう思うかと言う事を考えていなかった。その時の俺達はやっと来た出番に気を取られていて気づかなかったのだ。後に騎士団が無茶な訓練をして問題になった時に大いに反省する事になるのだった。
「ロベール殿此処の兵士は全員降伏しています。後はロベルト殿の援護をしてメルクラント卿を捕らえる事とべサイル殿下を捕らえれば終わりです。しかし五大神官達は戦いが始まった時に逃げ出していたみたいで捕らえられませんでした」
帝都の中に入るとニルストさんが素早く近寄ってきてから話しかけてきた。話を聞くために俺達は残り、騎士団にはロベルトの元に先行して助けに行って貰う事になった。
「五大神官が逃げたと言うのならフレイが見つけた東に移動していた何者かは五大神官かも知れません。一応追っていますから報告を待ちましょう」
そう言いながらも俺は五大神官があまりにもアッサリと逃げた事を不信に思っていた。此の時の俺はまだ奴らの事を甘く見ていたのだ。すぐ後にその事を嫌と言う程思い知らされる事になるのをまだ知らなかった。ニルストさんと色々話しながら周りを見回すと傷ついて倒れている兵士が其処ら中に転がっていた。香織が口元を抑えて絶句しているのをフレイが元気づけていた。
「ロベール、悪いが此方の者達を治療してくれないか」
ミルベルト卿に言われて移動すると手足を失ったりした重症者が並べられていた。今にも死にそうな者もいて慌てて治療すると治療を受けて治った者達と其れを見ていた者達の視線が変化した。嫌な感じはしなかったが居心地が悪くなって即座に移動する事にした。
「では俺達は戦っているロベルトの元に向かいます。皆さんは後から来るリグレス公爵と合流して待機していてください」
返事を聞いた俺達は急いでロベルトの元に走って行った。
かなりの速度で走ったのだがたどり着いた時には騎士団が無双していて殆ど戦いは終わりかけていた。
「おのれ此処は通さんぞ。私はガルマスト様をお守りする護衛部隊の指揮官なのだ」
傷を負って血を流しているボロボロの男が叫び声を上げると傷付いた護衛部隊に所属している者達が同意の叫びを上げた。
「我らを倒さずにガルマスト様の元に行けると思うなよ」
「此処を通るのなら俺達を倒してからにして貰おうか」
「はあ、はあ・・まだ俺は戦えるぞ・・・・かかってこい」
「我らは最後の一人となっても盾となって見せよう」
クローズさんは敵が声を上げている間に配下に包囲させると大声で命じた。
「此処で死なせるには惜しい者達の様です。確実に生け捕りにするのです」
クローズさんの言葉に従って騎士団が動き始めた。包囲を狭めて行って敵を逃さない様にしながら慎重に剣を交えていた。ガキンガキンと剣のぶつかる音が響き傷だらけの敵は一人また一人と叫びを上げながら倒れていった。
「後は貴方だけですよ。もう良いのではありませんか?」
「ふん、降参などしたら最後まで戦った部下に示しがつかない」
そう言ってクローズさんに斬りかかる斬撃はとても速いとは言えず、そして力も満足に籠っていなかった。しかし俺は気持ちは感じ取れる程に沢山籠っていると思った。
「ロベール殿、此の男は斬ります。すぐに治療をして貰えますか?」
何時から俺達がいる事に気づいていたのか知らないが俺は無言で頷いて返事を返した。
「うおおおおおお」
最後の力を込めて敵の男が剣を振り真上から斬りつけた。クローズさんはかわさずに確りと受け止めると男の右側を走りながら右の腹を斬って後ろに駆け抜けた。腹を斬られて血をまき散らしながら倒れる男を見て俺は跳んで傍に行くと治療を始めた。傷は深く内臓も傷ついていたが俺の魔法で完全に治療する事が出来た。
「お兄ちゃん大丈夫だった?」
「ああ問題無い全ての怪我を治しておいた。それと無事で何よりだロベルト。斬られたと聞いて少し心配していたんだが見た所問題無い様だな」
「おいおい少しかよ。大いに心配してくれと言いたいとこだが正直お前に服を貰って無かったらヤバかったぜ。感謝している」
「気にするな。さて其処で俺達を見ているお方はまだ抵抗しますか?」
俺達のやり取りをジッと見ていたメルクラント卿は静かな重みのある声で告げた。
「いや我らの負けだ降伏する。だが尋ねたいお前達は何者だ。其処にいるのは魔狼ではないのか?」
「ええ魔狼ですよ。俺の妹の飼い狼です。俺は此方のシグルトそして妹はあちらのフレイと契約しています」
俺の言葉にメルクラント卿は厳しい視線を向けて来たが動揺が隠せていなかった。俺達が契約者だと言うのにも驚いてはいるのだろうが動揺の原因は魔狼を飼っているという事だろう。視線が俺達と魔狼に行き来していた。
「・・・・危険は無いのか?」
「妹の方が強いので逆らったりしませんよ。妹にお手をしているのを見た事もあります」
香織は当然だと言う顔をして肯定していた。
「・・・・・・馬鹿な・・・・」
言葉を聞いたメルクラント卿の顔を見て俺はメルクラント卿の中にあった魔狼の想像が壊れる音が聞こえた気がした。
「魔狼については戦いが終わった後で色々話があります。でも今は戦いの最中ですから此方の質問に答えてください。逃げた五大神官の行方とべサイル殿下の居場所を知っていますか」
「五大神官が逃げたのは今初めて聞いた。べサイル殿下は帝城に居るはずだ。前に話した時と同じで部屋で光り輝く契約石を眺めているだろう」
聞いた瞬間背筋に冷たい感覚が走った。今まで得た情報が頭に走った。逃げた五大神官、其のままの研究部屋、光り輝く契約石、商連合国の思惑などを考えて行くと一つの可能性が浮かんできた。だが俺は其処までやるとは思いたくなかった。震える声でメルクラント卿に尋ねた。
「前に見た契約石は光っていなかったのですが、全く新しい新型ですか?」
「いや何でも光が段々強くなって限界を超えると契約石を超える物が出来るとべサイル殿下は言っていた。べサイル殿下の持つ契約石とバルクラント卿について行った者達の物は同じ作りだったはずだ。違うのは中に入っている者の方で持つ力が違うから光るのだと聞いていた」
その言葉を聞いた俺は絶望しかかっていた。いきなり顔色が悪くなって震えている俺に傍にいたシグルト、フレイ、ロベルトが心配して話し掛けて来たが俺には何所か遠くから聞こえる様に感じられた。その時香織がそんな状態の俺の手を握って来た。ただ其れだけだったがその温もりを感じた俺は急速に香織を守らなければと考えて思考が整理されていくのが分かった。冷静になると俺は自分が絶望しかかって混乱していた事が認識できた。香織に手を握り返してもう大丈夫だと伝えたあと俺は急いで今やらなければならない事を頭の中で整理し始めた。




