契約者達と帝都攻略戦
「べサイル殿下、リラクラントとバルクラントの軍勢が大帝壁の外に布陣しました」
「何度も言っているが陛下と呼べ。あとバルクラントの裏切り者には必ず自ら裁きをくれてやるから生け捕りにして連れて来い。それと確かめておくがお前は大丈夫だろうな」
「戦いもせずに屈する心算など欠片もありません。疑われるなど我がメルクラントを侮辱するお積りか」
暗い視線を向けてくるべサイル殿下に私は厳しい視線を向けた。不穏な気配が漂う中で私は先程から気になる事を尋ねた。
「べサイル様、五大神官の奴らは何所へ行ったのです。何時もなら此の部屋にいるはずでは?」
私の言葉にべサイル殿下は途端に不機嫌な顔になって荒々しい声を出した。
「五大神官の奴らは戦いの間は大神殿に籠って勝利の為の祈りを神に捧げると言いおったわ。戦いの前は呼びもしないのに傍にいたくせに、いざ戦いが始まったらいなくなるとは信用ならんわ。此の契約石の輝きだけが皇帝の俺に相応しい唯一の信じられる物だ」
薄ら笑いを浮かべて魅入られた様に前に見た時に比べて強く光り輝く契約石を見つめるべサイル殿下に薄ら寒いものを感じながら話し掛けた。
「それでは私は広場に行き全軍の指揮を執らせていただきます」
踵を返して戻ろうとする私の背にべサイル殿下の冷たい声が響いた。
「勝利の報告以外は聞く気はないぞ。失敗したら分かっているな」
べサイル殿下に答える事無く私は足早にその場を去った。
「リグトン、敵の動きは如何なっている」
私が広場に残して後を任せていた闇虎騎士団長に聞くと即座に返答が帰ってきた。
「敵はリラクラントの兵士を前に出して魔法砲で砲撃する準備をしています。此方も大帝壁に備えられた魔法砲で迎撃する予定です」
「敵の動きは他に何もないのか?奴らとて砲撃だけで此の大帝壁を壊せるとは思っていまい。一応帝都大門の警備は厳重にして置け」
「既に指示してあります。ですがガルマスト様、私には敵の思惑が見えてきません。私は昨夜バルクラントの兵士が共にいる事を知ってバルクラントの兵士を前面に出して盾にして攻めてくると考えていました。大帝壁を攻略するには犠牲を覚悟して取り付いて梯子をかけてよじ登るのが短期間で落とす唯一の方法だと考えていたのです。しかし前にいる敵はリラクラントの兵士で砲撃の用意しかしていない様に見えますし、何よりバルクラントの兵士は後ろで待機しているのです」
「敵が長期戦を考えている可能性は考えたか?」
「御冗談をリラクラントだけなら兎も角バルクラント卿の軍は一月以上領地を留守には出来ないでしょう。もしそれ以上留守にしたら国境を破られる可能性が高すぎます。そして帝都には二か月は持つ物資があります」
「確かにそうだな。そして我がメルクラントの軍は五大貴族の中で最大だ。いかに皇妹の騎士団がいるとはいえリラクラントだけになったら負ける事はない。それは敵も分かっているからいずれ何か行動を起こすだろう。それを冷静に対処して潰せば勝利出来る。敵の動きを逃さない様に物見を昼夜問わず二倍にして対応するぞ」
私の言葉に同意したリグトンは兵達に指示する為に去って行った。リグトンにはそう言ったが私の心には複数の不安材料があった。一つは以前に感じた力の事だ。あんな力の持ち主が力を行使したら如何にもならないのだ。二つ目は五大神官達の行動だ。敵になるとは思わないが何をするか分からないのが嫌な感じだ。奴らがべサイル殿下が言った様に本当に大人しく祈りを捧げる様な者ならどれだけ良かったかと考えてため息が出た。最後はべサイル殿下だ。今の殿下は契約石の力の事ばかりで周りを信用しない上に父と兄を殺して皇帝になったと考えて好き勝手に振る舞うので周りの人々の信頼と人望は地に落ちていた。その事を伝えても煩そうに如何にかしておけと言うだけだ。権力を手に入れ契約石の力もあるので最後は力で何とかなると思って暴走しているとしか思えなかった。考えれば考える程味方のはずの者達の方が頭が痛い原因に感じられた。考え込んでいたら大きな音が響いて敵の砲撃が始まった事が分かった。騒がしくなった周りに思考を切り替えて対処を始めた。
朝起きて初めに俺はリラクラントの兵士達に敵に良く見える様に魔法砲の準備を始めさせた。急ぐ必要はないと言ってから作戦を話す大きなテントに入った。其処にはすでに皆がいたので話を始めた。
「今魔法砲の準備を始めています。準備が出来たら攻撃を開始するので其の心算で居てください」
「ロベール殿我がバルクラントに魔法砲だけ提供させて雷の魔剣を持たせたのは大帝壁に突撃させる為ですか」
厳しい視線を向けて来るニルストさんに俺は笑い声を出した後真面目な顔で答えた。
「ははは、正気ですか?そんな事をしたら死者が大勢出る破目になりますよ。バルクラントの兵士は国境で戦っている所為でとても勇敢で強いと聞いています。犬死などさせませんからご安心を」
「ふむ、なら儂らに何をしろと言うのだ?」
「あちらに投石機と球があるのは知っているでしょう。あの球は改良して中に人が入れる様になっています」
ニヤリと笑いながら言うと聞いていた人達が顔色を変えて動揺していた。
「・・ままままさか・・儂らに飛べと・・・・」
「流石バルクラント卿、話が早くて助かります」
「ふざけるな、お前はバルクラントの兵士を何だと思っているのだ。投石機で飛ばされて無事に済む訳がない」
「大丈夫ですよ。お兄ちゃんは自分で入って飛んで確かめています」
香織の言葉に一斉に視線が向けられた俺は真面目な顔で頷いて話を始めた。
「流石に確かめていない物に沢山の命を預ける心算はありませんよ。無責任すぎます。其れに大帝壁に突撃するよりは安全だし球に入っている間の命の保証はします。さて今回の作戦目的は大帝壁を飛び越えて中から帝都大門を開けて魔法砲を使えなくする事と大教会を制圧して五大神官達と共に全ての神官を捕らえる事です。後で選別しますから全員捕らえてください。帝都大門が開いたら騎士団と共に突撃して指揮をしているはずのメルクラント卿をとらえます。その後俺達は契約石を持っているべサイル殿下の元に行き決着をつける予定です。何か質問はありますか」
「儂らは何所を担当するのか聞きたい」
「お二人には大神殿の方を任せたいと思っています。ミルベルト卿達の方は帝都大門です」
「そうか神官達の行いを知った故に心して務めさせて貰おう」
重みの感じられる声を出したニービス卿の返答を聞いているとミルベルト卿が慌てて問い質してきた。
「待て待て儂とロベルトも飛ぶのか?」
「飛ばないでどうやって指揮をするのです?」
真顔で答えるとミルベルト卿は何かを言おうとしたが俺の顔をマジマジと見て結局何も言わずに諦めた表情をして頭を振っていた。
「最後にリグレス公爵は残ったリラクラントの兵士と共におかしな者が介入しないか見張っていてください」
「分かった注意しておこう」
「ではそれぞれの配置についてください」
俺の言葉に皆が移動して行った。
ドーンドーンと質量弾が飛んでいく音が聞こえる中で俺達は投石機を前にしていた。
「では皆さん此の球の中に入ってください」
俺の言葉に不安そうに周りの顔色を窺いながら兵士達が入って行った。
「フレイに空から偵察して貰った情報では広場に敵指揮官がいると思われますが、確定情報では無いので無理はしないでください。いきなり敵が帝都に入って来て敵は混乱するはずだから、混乱を大きくする為に一部の兵士は物資のある場所や帝城を攻める様に動いて攪乱して欲しい」
兵士達が蒼い顔で頷いているのを見てから俺は香織に炎をつける様に言った。炎がつけられると流石に黙っていられなくなったのかニルストさんが声を出した。
「おい本当に大丈夫なんだろうな」
炎に燃える球の中にいるニルストさんに真面目な顔で答えた。
「この炎は対象以外を燃やしたりしません。それに其の球は特別製だから熱くないでしょう。何よりあちらのロベルト達の球も燃えているのが見えるでしょう。仲間を燃やしたりしませんから安心してください。さあベルス早く球を投石機においてください」
「ああ分かった。お前達投石機まで運ぶんだ。しかし何て作戦だお前の部下になったのを後悔しそうだ」
「まあそう言わないでくれ。長い付き合いになる予定なんだし」
話している間に準備が整った様だ。俺は飛んで行く者達に声を掛けた。
「では作戦を開始します。バルクラント兵士は此の戦いで奮戦を期待します。汚名を返上して名誉を回復する事を望みます」
俺の言葉の後に次々と中に入った人達の叫びと共に球が飛ばされて行った。
「おい親父さん無事か?」
「何とかな。しかし儂は二度と飛びたくない・・・」
「何をへたり込んでいるのだニルストよ」
「しかし父上あの落ちる時の感覚は地獄でした。何度呪いの言葉を吐いたか分かりません」
周りの兵士達もニルストの言葉に青い顔で頷いているのを見た俺は直哉が必要以上に恨まれるのは不味いと思い声を出した。
「だが死んだ者はいないから命の保証がされていたのは嘘ではないし、大帝壁に正面から挑むよりはマシなのも事実だろ。砲撃で何人死ぬか分かったもんじゃないしな」
俺の言葉に黙り込む所を見ると皆分かってはいる様だと思って安心していると親父さんが話し掛けてきた。
「だがこうも非常識な作戦ばかりだと付き合う方が大変すぎるわ。今度一度ジックリと普通の常識を教えなければならんな」
「その時は私も協力させてください。さてグズグズしていたら敵が来てしまいます。父上、行動を開始しましょう」
即座に部隊を整えると皆は其々の目的を果たすために迅速に移動を始めた。
「ガルマスト様敵が帝都に侵入しました。現在交戦中です」
伝令の兵士の言葉に私は耳を疑った。
「待て如何言う事だ。帝都大門と大帝壁はどうなったのだ?」
「敵は火の球の様な物の中に入って飛んで来たのです。どちらも役に立ちませんでした」
飛んで来ただと?飛んで来たとは如何言う事だ?混乱する自分に必死に冷静になる様に言い聞かせた。
「帝都に入った敵兵の数は?敵兵は何所に向かっている?」
「敵が確認されたのは大神殿、帝都大通り、備蓄蔵、帝城に向かう小道、貴族の住む地域、そしてそれらに対応する為に移動する道に奇襲する部隊や罠が設置されています。そして敵兵の数はバルクラントの兵士全てがいるのではないかと思われます」
その言葉に叫びそうになった。今も砲撃の音がする以上帝都大門と大帝壁の兵士は移動させられない。其の為此処の予備兵力で対処しなければならないのだが、バルクラント全軍なら二倍以上の敵を相手にしなければならないのだ。私は全てを救う事を諦めて指示を出した。
「良いか備蓄蔵と帝城に向かう敵を優先して止めろ。次は帝都大通りの部隊だ。大神殿と貴族達は今は放っておけ」
伝令が指示を聞いて走り去るのを見届けながらこの場にいる別の伝令に話しかけた。
「リグトンは今何所にいる」
「団長なら帝都大門にいるはずです」
「なら今・・・・」
私が指示を出す前に別の伝令が駆け込んできた。
「申し上げます。敵の半数が帝都大門に攻撃をしています。団長が指揮して戦っていますが此のままでは敵の手に落ちるのは避けられそうにありません。至急援軍を送って貰いたいとの事です」
「・・・・馬鹿な・・・帝都大門の警備は厳重にしていたはずだ戦力も其処にどれだけ割いたと思っている。リグトンは何をやっているのだ」
私の言葉に伝令が慌てて状況を話し始めた。
「親父さんも皆も分かっていると思うが、射出投網で攻撃する為に戦いが始まったら何時でも後退出来る様にしておけよ。それと戦いが始まってから半クーラ経ったら光の魔法を使える者は全員閃光を放つのを忘れるなよ」
皆が俺の言葉に頷いているのを見ていたら親父さんが敵を発見して嬉々として突撃して行った。
「おいおい親父さん勝手に突撃するなよ。仕方ない皆も行くぞ」
親父さんを追って突撃すると敵は背後から襲われるとは思っていなかった様で驚いている者が大半で見事に奇襲が成功した。
「今の内に倒せるだけ倒して置け、良いな」
其処ら中で斬り合いが始まった。俺にも次々と敵兵が向かって来た。流石にメルクラントの兵士は強く中々てこずらされた。
「死ねえーー」
「まだ死ぬ心算はないな」
鬼気迫る表情で斬りかかってくる敵をかわしざまに斬り捨てると血が飛び散った。今度の戦いでは流石に敵を傷つけない様に配慮しろとは直哉も言わなかった。だがバルクラントの兵士も心得ているのか手足を斬るか雷で気絶させるのが大半で致命傷は負わせてはいない様だ。戦いの前に直哉が手足を斬り落とされても持ってくればくっつけるとか言っていたので手足なら安心して攻撃出来ると思っているみたいだ。人が近づく気配を感じて振り向くと一目で強者だと分かる男が近づいて来た。
「お前が指揮官か?」
「一応そうなっているがお前さんは誰だ?俺の名はロベルトであそこで元気に戦っているミルベルト卿の娘婿だ。この様に名乗るのは初めてだがな」
「ほうお前が・・・・。私は闇虎騎士団長のリグトンだ。此処でその首を貰い受けたい」
「悪いがやっと親父さんに認められたばかりなんで首を渡す訳には行かないな」
喋りながら不意をついて跳び込んで斬りかかってみたがアッサリとかわされてしまった。騎士団長を名乗るだけあって手強い様だ。そのまま右や左に回り込んで連続で斬りつけてみたが風切り音と共に剣と剣がぶつかりあっただけだった。一撃事にガキンと音が響き最後に剣が合わさって力比べになったがじわじわと俺が押されていた。如何やら力はリグトンの方が強い上に剣技も贔屓目に見ても互角が良い処だと考えて、其れなら此れで如何だと思いながら剣に魔力を込めて雷で倒そうとした。しかし魔力を込めた瞬間にリグトンは素早く剣を下げて後ろに跳んでかわしていた。バリバリと音をたてて相手の剣に流し込むはずだった雷が空しく散っていった。
「おいおい今のをかわすのかよ」
「此れでも騎士団長なんで此れ位は出来ないと部下に示しがつかないのだよ」
言葉と共に踏み込んできたリグトンの剛剣がブンブンと唸りを上げて俺の目の前を通過した。跳びずさって辛うじてかわしたが髪を数本斬られる破目になった。右から斬りかかったのをリグトンが半歩下がって危なげなくかわすのを見て勝つのは難しいと考えた俺は此方に気づいた親父さんに視線を飛ばして指揮を任せると斬り合いながらジリジリと後退して行った。
敵に無防備な後ろから攻撃をされた所為で部下が動揺して劣勢に立たされているのが感じられた私は、指揮を執って迎撃態勢を整えてから敵の指揮官を倒す事で風向きを変えようとしていた。しかしロベルトと名乗った指揮官は正規の剣技ではないがかなりの強さだった。何度も剣を交えてから勝てない相手ではないが焦れば不覚を取りそうだと考えて、すぐに倒す事は諦めて長期戦も覚悟して確実に倒す為にジリジリと押し込んで行く事にした。息もつかせない連続した斬撃を繰り出してもうそろそろ倒せそうだと思い行動しようとした時に、突然背後に閃光が生まれたのを感じて慌てて背後を振り返ると敵が後退して網を投げているのが見えた。そして網に捕らわれて身動きの取れない部下たちは雷の剣で気絶させられている様だ。次々と倒される部下達の悲鳴が聞こえる中で至近距離からロベルトの声が聞こえた。
「悪く思うなよ。今は戦争で此れも作戦なんだ」
後ろを向いて隙を見せていた私に言葉と共にロベルトが斬りかかってきていた。咄嗟にかわそうとしたが完全にはかわせずに左腕を浅く斬られた。痛みと共に理解させられた。如何やら私は此処に誘い込まれた様だ。
「ぐっ、おのれまだだ、まだ負けた訳ではない。これ以上やらせはしない」
大声を出した私は全力で力を込めて剣をロベルトに叩きつけた。受け止めたロベルトは堪えきれずに吹っ飛んでいった。私は即座に踵を返して走ると次の指示を出そうとしているミルベルト卿に斬りかかった。
「良し敵は閃光で目が見えていないから今の内に後退するぞ」
儂の言葉に兵士が後退し終わると待機していた部隊に命じた。
「網を放て、放ったら一斉に攻めるぞ」
待っていましたとばかりに網が射出機で放たれて敵兵が捕らわれて悲鳴を上げていた。兵士達はこの好機を逃すものかと勢い込んで戦い始めた。仲間の救出をしようとする者、其れを阻止しようとする者、網から出ようとする者、捕らわれた者を倒そうとする者が入り乱れて瞬く間に乱戦になった。消耗戦になりそうになって此のままでは不味いと思い統制を執ろうと指示を出そうとした時だった。
「させるかーー」
「なっ・・」
ロベルトと戦っていた男が右斜め後ろから斬りかかって来た。かわそうとしたがかわせない事を悟ると何故かこんな時なのにロベルトの事が思い浮かんできた。そんな自分に苦笑して覚悟を決めると何故か剣が当たる寸前でそれて足を浅く斬られただけで済んだ。足を斬られて地面に倒れて転がっている剣を見てからロベルトが叫び声を出しているのに気付いた。如何やらロベルトが敵に剣を投げ付けた様だ。足を斬られて倒れている儂に再度剣が振るわれた。しかし儂は無事だった。代わりに間に入ったロベルトが背中を斬られたおかげだ。愕然とする儂にロベルトが話しかけてきた。
「無事か親父さん」
痛そうな顔で言葉を出すロベルトを見て心にどんな感情が生まれたのかも分からないまま、儂は落ちていた剣を手に取って突きだした。突き出した剣はロベルトの体が死角になり斬りかかって来た男の右腕を深く傷つける事に成功した。
「グッ、此処が引き時か。だが帝都大門は渡さんぞ」
腕を斬られて剣を取り落とした男は此方に気づいた周りの兵士に囲まれる前に鮮やかに退いて行った。
「おい、ロベルト背中を見せろ。何所を斬られた」
「見事にバッサリやられたな。背中が凄く痛いし見るのが怖いな」
そんな事を言うロベルトに儂は苛立ちながら背中を見ると鎧などは斬られていたが血は流れていなかった。如何やら下に着ていた服が剣を防いだ様だ。見た目には普通の服にしか見えないのにおかしいと思って尋ねるとロベルトは小さく叫ぶと一人で納得していた。
「そう言えば此の服はロベールに貰った服だったのを忘れていたぜ。鎧を斬る様な斬撃を受けても平気な服とは思わなかったな」
儂はその言葉を聞いて厳しい視線を向けると告げた。
「・・馬鹿者が・・・。儂を庇ってお前が死んだら如何するのだ。お前は儂の後を継ぐのだぞ」
儂の言葉に頭を掻くとロベルトは言い放った。
「悪いが俺は同じ状況になったら同じ事をすると思う。それが駄目なら当主失格かも知れないな。まあミリステアもいるし問題ないだろ」
儂は聞いた瞬間にやり場の無い思いが心に溢れて反射的にロベルトの頭を殴っていた。
「今は戦場だから此処までにしておくが今度時間を作って家族会議を行うぞ」
殴られてもまだ理解していない様な顔をしているロベルトを睨むと駆けつけて来た兵士の魔法で治療を受けてから戦闘の指揮に戻った。
「リグトンが負傷したと言うのか?しかも半数以上が戦闘不能だと?そんな馬鹿な話があるか・・・まだ戦いが始まってから半日も経っていないのだぞ」
必死に動揺と焦りを抑え込んで考えると重たい声で指示を出した。
「今此処にいる私を守る防衛部隊を援軍に送るから何としても帝都大門を守り抜けと伝えてくれ」
私の言葉に傍にいた防衛部隊の指揮官から反対意見が出された。
「お待ちください。我らが此処を離れたらガルマスト様は如何なさるのです。無防備な所を襲われて何かあったらリグトン団長も悔やまれるでしょう」
「私の事を気にする必要はない。どうせ帝都大門が敵の手に落ちたら負けは確定だぞ」
「そうなったとしてもガルマスト様の傍にいて守り脱出させるのが我らの役目です」
視線を向けると厳しい顔をして絶対に意見を変えないと言う意思を態度で示しているのが分かった。説得は無理だと嫌でも理解させられたのでため息と共に告げた。
「此処は部下に任せて私も同行しよう。此れなら問題あるまい」
「・・・・・・・了解しました。すぐに移動の準備をします」
長い沈黙の後今度は私も引かないと思ったのか了解の返事をして準備の為に出て行った。
「私が自ら兵を率いて援軍に向かうから其れまで何としても持ちこたえろと伝えてくれ」
「了解しました。必ず団長に伝えます」
伝令が慌てて走り去るのを見ながら私は何とか間に合えば良いがと考えていた。
「父上、大神殿の制圧は完了いたしましたが肝心の五大神官が一人もいません」
「捕らえた神官は如何言っている?此処ではなく帝城に居るのか?」
「いえそれが・・・・神官達は五大神官達は祈りを捧げていると言っています。しかし居るはずの場所には人が一人もいないのです。其れに神官共が隠していた財宝の一部が無くなっている様です。そして五大神官の姿が最後に確認出来たのは朝の魔法砲の攻撃があった時の事です」
ニルストの言葉に目を細めると儂は忌々しく思って舌打ちしていた。
「ちぃ、奴らは全てを放り出して逃げ出したと言う事か?しかも此の状況で逃げる場所があると言う事は商連合国と繋がっていたのは確定だな」
「今兵に命じて・・・」
「申し上げます。隠し通路を発見しましたが途中で破壊されています。あと他にも隠し部屋があるのですが・・・・・」
「如何したのだ?」
言いよどむ兵士に儂が話しかけると兵士は意を決した様に早口で述べた。
「隠し部屋の一部が実験施設になっていたのだと思われますが、そこに大量の人や魔獣などの実験体と思われるものがいるのです。ただ皆、真面な状態ではありません」
「・・・・・・・・・」
最悪の気分になったが儂はある程度覚悟していた所為かまだ考える事が出来た。五大神官は此処を放棄して逃げ出したのに部屋を処分しなかったのがいやに気になった。儂が拠点を移すなら余程時間がない時以外は重要な物は処分して移動するだろう。財宝を持って行く時間があったのなら処分していないのは明らかにおかしいのだ。
「・・・大神殿に敵は来ない様だからニルストは半数を連れて帝都大門に向かってくれ。如何も五大神官の行動が気になる。ロベール殿に此処での事を報告してくるのだ」
「父上は如何なさるのです?」
「儂は半数と共に大神殿に残り捕らえた神官共と見つかった部屋の方を如何にかする。嫌な予感がするから速やかにロベール殿に報告するのだ」
重ねて言う儂に何かを感じたのかニルストは素早く半数を連れて帝都大門に向かって行った。
「さて悪いが部屋まで案内してくれるか」
儂の言葉に兵士が顔を顰めながら頷いて歩き出したのについて行くと書庫の本棚の裏に扉があり、開けると通路になっていて其処で待機している兵士達の前を通り部屋の中に入るとそこは血のにおいが充満している部屋だった。
「ニービス様此の資料をご覧ください。此処で行われていた事が書いてあります」
近寄ってきた部隊長から受け取って読んで見るとそこには目を覆いたくなる事が書いてあった。薬品を投与しての実験から始まって最後は人間を契約石に入れた時の詳細な報告が書いてあった。特に効率の良い力の抽出方法などと言う題名を見た時は目の前が暗くなった様に感じた。儂は頭を振って何とか声を絞り出した。
「生きている者は全員連れて行くぞ」
「ニービス様生きていると言っても此処にいる者達は・・・・・・」
「・・分かっている。だが儂らでは手遅れで治療出来なくとも彼らなら治療出来るかも知れない」
儂の言葉に納得した部隊長が部下に指示をしてかろうじて生きている人を部下達が部屋の外に連れて行った。
「魔獣の方は如何しますか」
「・・・・・・大型の魔獣はいるのか?」
「いえ最大でも一メーラが良い処です。檻に入れた状態でも持ち運べます」
儂と部隊長は視線を合わせると頷き合って部隊長は行動する為に去って行った。本来魔獣は人にとって危険な生物なので殺すのが当然だ。だが儂は此の血のにおいがする部屋でこれ以上殺したくなかった。さて儂は何時からこんな甘い判断をする様になったのかと考えて苦笑すると神官達のいる別の場所に向かって歩き出した。
「ロベールおかしいですわ。東に移動する人の気配がしますわ」
空を飛んで風の魔法で索敵していたフレイが下りてきて告げた。
「明らかにあやしいが俺達は待機中だから動けないぞ」
「ロベール殿には騎士団と共に来て貰わないと困りますよ。べサイル殿下が契約石を持っているのは確定していますから戦いは出来れば任せたいのですが」
「なら俺達が行ってこようか?」
俺達の会話を聞いていたベルスが声を上げた。
「ベルス達だけでは人数が少なすぎて危険だ」
「なら騎士団から百人程出しましょう。僕もその移動中の人の事が気になります」
騎士団からベルスの指揮に入っても良いと言う人を百人選んで編成した。その時にリグレス公爵の兵士の中からも騎乗出来る者達を集めて更に百人増やして合計二百人ちょっとになった。
「ベルス無理はするなよ。何者か分かるだけでも良いんだからな。深追いして戦力が低下する方が後の戦いを考えると不味い事になる」
「分かった。俺の任務は敵の確認と出来れば捕まえる事と考えておく」
そう言ってベルス達が馬に乗って東に駆けて行くのを、見届けた俺達は味方が戦っている帝都を見て帝都大門が開かれる時を今か今かと待ち続けていた。
何とか投稿出来ましたが次話の投稿は6日の昼ごろになります。
申し訳ありませんがご了承ください。




