契約者達と帰還と戦争の始まり
転移した俺達は走って皆と合流してからリラクトンに向かっていた。俺達の保護を求める人間が三倍になっていたのには驚いたが気にしない事にしている。何故なら理由が香織が俺の事を話したのを聞いてだと言うのだが誰も内容を言わないのだ。フレイに聞いても視線を逸らされるだけで答えてくれないのだ。皆の生暖かい視線に晒されながら早く着いてくれと祈って既に二クーラ経っていてロベルトの着いたぞと言う言葉を聞いて心底安堵した。
「ロベール殿待っていたぞ」
そう声を掛けてくるリグレス公爵に駆け寄って今までの事を問題無い所だけ説明すると、難しい顔をしてから許可すると言ってからあとで部屋で話そうと言って指示する為に去って行った。俺達は保護する人達を地下に連れて行くと其処は灯光花が植えられていて光が花から放たれて幻想的な明かりが確保された場所になっていた。
「うわーーーー綺麗だね、お兄ちゃん」
「凄いな、花だけで此処まで明るくなるとは思っていた以上だ。此れなら地下で暮らすのも問題無いな」
「二人とも驚いていないで付いて来た皆さんに説明するのですわ」
フレイの言葉に我に返って二人で顔を見合わせて照れると作っていたら住宅街と呼べる様になった場所に案内して家の説明を始めた。
「此処が基本的な家になりますが、それぞれ違いがあるのは我慢してください。一階は皆で過ごす居間と夫婦の部屋と調理室で地下二階に子供の部屋と風呂と運動する部屋があります。トイレは各階にあります」
移動しながら説明して備わっている道具などの使用法を伝えていくと驚きから始まって最後には無言で付いて来る集団になってしまった。不審に思った香織が話し掛けていた。
「あのクーヤさん何か問題でもあったかな?お兄ちゃんの説明で分からない所があったかな?」
「・・・・いえ説明は分かったのですが・・・・・・」
言葉に詰まるクーヤさんに代わって何故か俺達に付いて来たロベルトが訳知り顔で話しかけてきた。
「こうなると思って付いて来たが実際に見ると呆れるな。良いか世間知らず共、例えば調理室にあった保冷庫は魔道具で使うには当然だが魔石が必要なんだよ。保冷庫の魔石は四半月で取り換える必要があるんだ。魔石は安い時でも銀貨五十枚で高い時は金貨一枚だぞ。そんな魔石を風呂や調理の火や暖房と使っていられるのは貴族と神官と大商人ぐらいだぞ。此処にいる人達がこんな生活をしたら一月で首をくくる破目になるぞ」
無言で頷く人達に肩を竦めて如何やら話す順番を間違えたらしいと思って告げる事にした。
「貸しは返して貰わないと損をするから、返して貰え無い程の事はしません。働けば普通に返せるから安心してくれ。魔石に付いてだが此処だけの話で他言無用だが、此れは強化魔石だ。普通の魔石と違って一年は変えなくても大丈夫な魔石だ。初めに家に付いているのは全部合わせて金貨三枚分にする心算だ。基本的に老人でも灯光花の管理だけで月に最低金貨一枚半は稼げる様にする心算だから払えなくはないだろう」
「其れと今の騒動が落ち着くまでは共同生活をして貰う心算なの。あとで試食して貰うけど、あるお菓子を作るのを手伝って貰うからその積りでいてくれると助かるわ。代わりに一年の税金と家賃は無料にするわ」
ロベルトが強化魔石の話を聞いて愕然として黙る中クーヤさんがオズオズと確かめて来た。
「私達は助かりますが税金の事は公爵様も知っているのですか?」
心配顔で話し掛けてくるクーヤさんに香織が気をきかせて地下の半分の権利と灯光花について話して聞かせていた。クーヤさん達が俺を見て動揺しているのが気になるが今は時間が無いので先に進める事にした。
「兎に角皆さんにはこの家を中心に近くの家に住んでもらいます。家の入口の所に名前が書ける様になっているので書いておいてください。それと名前を書いていない人が住むのは禁止ですから気を付けてください。最後にいないとは思うが、城の様な大きな建物はあとでミーミルちゃんが治った時に贈る事にしたので住んでは駄目だぞ」
今までと違った態度で勢いよく返事をする人々に驚きながら香織と話し合って香織にあとの世話と料理やお菓子の製作を任せてロベルトと共に強化魔石の話をしながらリグレス公爵の部屋に向かった。
リグレス公爵の部屋に行くと皆が揃っていたのでレクトンの町に行ってからの事を詳細に話して聞かせた。
「ぬう、騎士団が保護した人々を合わせても三千人を超えないがあとの人達は皆殺されたと言うのか・・・・」
「バルトラントがその様な命令を出すとは思えないからやはり契約石を持っていたそのランカー達の独断だろうな。直哉の話では商連合国の命令を受けていた可能性が高いが、だとすると厄介だな」
「そうですわね。私もリグレスの話を聞いた時の違和感が分かりましたわ。死んだ貴族がいる地域が偏っているのですわ。明らかにガルトラントの貴族が多すぎるから多分殺した人達の中にも商連合国の手の者がいるのでしょうね」
「そうであれば戦うのではなく講和すれば良かったのではないですか?直哉殿はバルトラント卿と直接話したのでしょう?なら提案出来たのではないですか?」
ミリステアさんの言葉に俺に視線が集まったので俺は言うか迷っていた考えを口にした。
「リグレス公爵、此処の騎士団などに裏切り者がいた様にバルトラントの中にもいると考えています。俺が恐れているのはバルトラント卿達を裏切り者達が私達がやった事にして殺す事です。実際にランカー達はレクトンの町は公爵がやった事になると言っていました」
俺の言葉に顔を顰めるリグレス公爵達を見て話を中断したが覚悟を決めて話を続けた。
「リグレス公爵、俺は今までリラクトンの町に被害が出ない様に勝とうと準備してきました。ですがその考えを捨てさせて貰えませんか」
「・・・・・・如何するのだ」
「町の人を地下に避難させてから地下の入り口を分からない様に細工します。跳ね橋を下しておけば中に入って来るでしょう。全軍入って来たら跳ね橋を上げて出れない様にしてから奇襲をかけて敵を捕縛して地下に連れて来て香織の炎で真の敵か如何かを調べる心算です。勿論一番大事なのはバルトラント卿達を確保してから裏切り者を確保して其れを見せて説得する事です。そうすれば安全な軍が手に入ります」
考え込むリグレス公爵に代わってミルベルト卿が尋ねてきた。
「話した時に裏切り者の事を言わなかったのは何故だ」
「例えばミリステアさんが裏切っていると俺に言われて信じますか?俺は裏切り者は護衛などの信頼されている人物だと思っています。敵からその中に裏切り者がいると言われても信じないし、そのことで裏切り者に行動される方が危険だと考えたのです。あの場には香織はいなかったので証明出来なかったのもあります」
「直哉、町に敵兵を入れたら多大な被害が出る可能性についてどう考えている」
「・・・・人的な被害は地下に避難すれば防げると考えています。物的な被害は公爵に補償して貰う心算です」
「・・・・・馬鹿な事を言っている自覚はあるか?確かに今ある領地の資金をほぼ全て使えば不可能ではないがそんな事をしたら給金も払えなくなって統治は出来なくなるのだぞ」
「分割の補償にして待って貰う人には一割増しで払う事にすればある程度はお金が残るでしょう。その間に物を売ってお金を稼ぎます」
「いや待てあの薬は其れなりに売れると思うが其れでは足りないし、一割と言うがとんでもない金額になるぞ」
そう言うリグレス公爵に俺は強化魔石を机に置いて答えようとした。
「まて直哉其れをしまえ。其れは交渉に使う物じゃない。公爵も親父さんも貴族で統治者でもあるから利益があれば多少の無理は押し通すぞ」
「ロベルト貴様儂が目先の利益に目の色を変えると言うのか」
「親父さんでも確実に聞けば変わるさ。此れは其れだけの価値があるし、此れが世に出回ればとてつもない変化が起きる事になる」
皆が強化魔石を見て押し黙っているとメイベル様が最初に口を開いた。
「話を聞きましょう。皇妹として公爵だろうと直哉殿の意思に反する事はさせません」
何故かシグルトを見て話すメイベル様に皆が驚いていると早く話すように促された。
「この魔石は俺の特殊能力で強化した強化魔石です。普通の魔石は保冷庫だと四半月で交換するそうですが、此れは一年は持ちます」
初めは言われた意味が分からなかった様だが理解するとまずミルベルト卿が椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「本当に一年持つのか?嘘ではないだろうな」
俺に掴みかかりそうな勢いで尋ねるミルベルト卿にロベルトが間に立つと口をはさんだ。
「目の色が変わっているぞ親父さん」
厳しい目で見るロベルトにミルベルト卿は我に返ると俺に謝罪して座った。
「直哉殿此れは使って一年持つことは確認されているのですか?」
「メイベル様の言うとおり使ってはいませんが俺が持つ魔法で調べてありますし、地下で暮らすことになった人達の家の魔道具は此の魔石を使っているので四半月経っても交換しないで使えれば其れなりの証明になると考えています。その強化魔石はメイベル様に差し上げますのでご自分でもお使いになっては如何でしょうか」
「あら宜しいのですか?ではありがたく頂戴しますね」
ミルベルト卿が何か言いたそうにしているのが分かるので尋ね様としたらロベルトが話を始めた。
「親父さんの奥さんは元魔法使いで魔道具を作っていたんだが作りたい魔道具は完成したけど今ある魔石では力が弱くて短時間しか動かなくて落ち込んで作る事をやめてしまったんだ」
「お婆様は今も本当は気にしていると聞いた事があります」
「ええそうよ、お母様は取り繕っている心算だけど隠せていないし、お父様は如何にかしようとしたけど如何にもならなくて一時期落ち込んでいたわ。此の強化魔石が本当なら・・・・ねえ直哉君私に何個か貰え無いかな。悪い様にはしないわよ」
アリステアさんの言葉に俺は新たな強化魔石を数個出して手渡した。
「お父様あとで家族だけで話しましょう」
ミルベルト卿が返事をしてから考えこんでいるリグレス公爵の決断を待っていると突然リグレス公爵が笑い出した。
「ふははははは、直哉殿にあってから常識が役に立たなくなっていくな。まるで不確定領域に挑む様な気分だ。私も若い時の未知の物を見たいと言う冒険心や探究心が戻ってくるとは思わなかったぞ」
「リグレス、今はミーミルもいるのですから昔の様な行動はしないでくださいね。もししたらミーミルに色々話しますからね」
メイベル様の言葉にリグレス公爵は顔を引きつらせてから落ち着いて静かに話を始めた。
「直哉殿の言葉を信じて作戦を許可しよう。必要な事を話してほしい」
「俺達は此れから地下の拡張工事をするので公爵には地下への避難と損害の補償の説明と、あと倉庫を何個か用意して人々に其処に失いたくない物を入れて貰いましょう。俺達が倉庫ごと空間に入れておきます」
「分かった時間がないから急ぐとしよう。ああそう言えば言われた事はやって置いたからミリステアに聞いてくれ。ミルベルト卿は一緒に来て手伝ってほしい」
リグレス公爵達が出て行ってからミリステアさんと話して、設置場所を町の中に変える事にして騎士団の人員で準備をして貰う事になった。
「メイベル様、もしよろしければミーミルちゃんを香織のいる所に連れて行っても良いでしょうか。約束どおりに遠見の瞳の訓練を調理の合間にしようと思うのですが」
「本当ですか兄様、すぐに行きます」
「ミーミル落ち着きなさい。直哉殿今はこんな時ですから無理をしなくても良いのですよ」
「共感能力を使って訓練しようと思うのですが、もし俺の予想通りになるのならミーミルちゃんに手伝ってもらいたいのです。敵の中にいる裏切り者とは別に外から監視している者もいると思うのですが、その者達を見つけるのに協力してほしいのです」
「やります。今まで目が見えなくて人に助けられていたばかりで申し訳ない気持ちでしたけど誰かの役に立てるのならやらせてください」
メイベル様は色々考えたみたいだが最後はミーミルちゃんの気持ちを優先して許可を出した。
「直哉殿ミーミルの事をお願いします」
「はい確りと配慮しますのでご安心ください」
ミーミルちゃんの目を見える様にして手を繋いで香織の元に向かった。
向かった先では香織が出した材料を引きつった顔で必死に調理する人々がいた。香織は料理に手を抜く事はないので教えもスパルタ教育になったのだろうと想像がつくのでクーヤさん達の助けを求める視線が痛かった。
「カリーナ休憩にしてくれないか。リグレス公爵達と話した事の説明とミーミルちゃんの事を話すから」
「分かったわお兄ちゃん。皆さん一時休憩します。今まで教えた事をよく考えてくださいね」
人々が安堵して休んでいる間に香織に今までの事を伝えた。
「成る程お兄ちゃんにした様にミーミルちゃんの力に干渉すればいいのね」
「一度やってコツは掴めていますからそんなに難しくはありませんわ」
香織達がミーミルちゃんと力を合わせて試していたが如何やら不可能では無い様だ。
「この分なら明日一日訓練して私達が手伝えば探す事は可能だと思うわ」
「そうかなら後は頼む。俺達は地下の拡張工事をしてくる」
その後行った拡張工事は町の住人全員を避難させるので最低限の機能の部屋を作る事になって不満が残るものになった。もっとも見ていたロベルトの話では普通よりも上だと言っていたから文句は出ないはずだ。俺達は次の日の夜に敵が外に現れるまでそれぞれの作業を続けて町に設置する罠以外をギリギリでやり遂げて明日からの戦いをする事になった。
「明日は朝から戦いが始まるのだぞ。早く休んでおくのが当然なのに何を話すと言うのだ」
「此の強化魔石についての話をするのよお父様」
「親父さんも分かっていると思うがあいつらは常識がない。此の強化魔石がどれ程の変化を起こすか理解した気になっているだけで本当には分かっていない。此の強化魔石は直哉の力で魔石から作っているが、それはあいつ自身が金のなる木に見える事になるから、どんな事をしても手に入れようとする奴が掃いて捨てる程現れるだろう」
「しかしお父様直哉殿は契約者ですから襲われても返り討ちになるだけなのでは?」
「俺だって命の危険があると思っている訳じゃ無い。だが心の方は無傷とはいかないだろ。ミリステアなら俺の所為で苦労をしたから分かるだろ。まあ甘さが抜けていないのを見て苛立つのも分からなくはないが」
「そうね昔の自分を重ねて見て厳しい態度をとっているのでしょうけど、家の娘は甘さが無くなって隙も無くなったけどきつい性格になってしまって、嫁の貰い手がいるのか心配だわ」
「なななな、余計なお世話です。何時か私にも相手は現れます」
真っ赤な顔をして叫ぶミリステアを放置して親父さんに目を向けると厳しい視線で問うてきた。
「お前の言いたい事は分かる。儂の使える力で守れと言うのだろう。だがあの食べ物でも分かる様にまだ隠し事があるのだろう?儂の考えでは隠し事をする相手をミルベルトの家名をかけてまで守る選択はない」
「・・・・俺とアリステアは聞いている。そして二人の力になりたいと考えている。このとおりだ力を貸してくれ」
頭を下げて頼む俺に親父さんは忌々しそうに舌打ちすると話を始めた。
「お前がアリステア達以外の為に儂に頭を下げるのは初めてだな。儂が認めたお前にとってアリステア達と同じくらい大切だと言うのなら仕方あるまい。力は貸してやるから強化魔石をクリステアに渡して置け、良いな」
「ちゃんとお母様に渡しておきますわ」
部屋を出て去って行く親父さんに感謝しているとミリステアが話しかけてきた。
「お父様とお母様がその様にするのなら私は二人に姉の様に接しますわ」
「そうかそれは良かった。ならこの服を受け取ってくれ。直哉から渡された物で明日からの戦闘中は着ておいて欲しいそうだ」
服を見て驚いてから受け取ってミリステアも去って行った。俺達夫婦は説得出来た事に満足して寝てから明日の戦いに臨んだ。
「父上魔法砲の配置が完了しました。初めは質量弾でよいのですね」
「ああ水堀がいきなり作られていたのは驚いたがまずは基本に沿って攻撃して反応を見よう。攻撃を開始しろ」
最後の言葉に一斉に魔法砲での攻撃が始まった。
「外壁に着弾を確認・・・・・・」
「如何した結果を報告しろ」
「損害はありません」
報告に耳を疑って外壁が見える場所まで前に出ると確かに何も変わっていなかった。
「次の弾を撃て」
今一度攻撃が行われて目の前で外壁に当たったが弾は跳ね返されて水堀に沈んだ。動揺を隠せない私の横で父上が声を出した。
「弾を火炎弾にしろ、そして跳ね橋に向かって集中して放て」
父上の言葉に従って火炎弾が直撃したが木で出来ていると思われる跳ね橋すら破壊出来なかった。さすがに此の結果には父上も顔を顰めていた。その後一クーラ程攻撃を続けたが無駄に終わった。
「父上此のままでは士気が低下して戦えなくなります」
「分かっている。次は爆発弾で攻撃する」
「お待ちください父上。爆発弾を使うと魔法砲も無事ではすまないのですよ」
「むろん分かっている。未だ試験段階の弾頭だからな。だが此のまま砲撃を続けても無駄なのはお前も分かっているだろう」
「・・・・了解しました。しかし父上敵は今何をしているのでしょう?我らが攻撃しても反撃しないのは異常です」
「お前も気づいていると思うが外壁にも兵士がいないのだ。此方を確かめる物見の姿すらないのは確かに気になるが、町に入れない今は気にしても仕方が無かろう」
「すでに誰もいない可能性は考えないのですか?」
「逃げたと言う事か?逃げる場所は無いし、ロベールは準備をしていると言っていたから此処で戦う心算だったはずだ」
「父上の言うとおりの様です。敵に動きがあったようです」
「罠の配置が完了しました」
リグレス公爵に報告する兵士の声を横で聞きいて、砲撃を受けながらやっと待ち望んだ答えが返ってきたと思った。住民を地下に避難させるのに手間取って罠だけは戦いが始まる前に設置出来なかったのだ。
「ではロベール反撃を開始しようか。ずっと砲撃されて何もしなかった所為で敵の部隊が前に近づいているのだろう」
「フレイが音を聞いて位置を確かめたけど水堀から二十メーラくらいしか離れていないわ」
「ではまずはネネビーの実をすり潰して作った特別製造の球を敵の頭上に投げ込んでやるとしようか。カリーナ殿は魔法で球の殻だけを燃やしてくれ」
炎を使って次々と球に炎をつけていた香織が燃え始めてから六半クーラで中身が出ると言ったので、皆炎に包まれた球を恐る恐る触っていたが慌てて投石機に球を置いて開始の指示も無いのに投げ始めた。中身を考えれば分からなくもないが撃てと言おうとしていたリグレス公爵が隣で唖然と飛んでいく球を見送っていた。
「うぎゃーーーーネバネバする」
「ちくちくするぞ」
「かゆい、かゆい、かゆい。誰か助けてくれ・・・・・」
町から飛んで来た球体が破裂すると中に入っていた粘ついた液体が所構わず降り注いだ。私も右腕に掛かって凄まじいかゆみが襲ってきた。
「また飛んで来たぞ、逃げろーーー」
「ひぃーーーくるな、あっちにいけ」
飛んで来た球体から離れようとして其処らで混乱が起きて更なる被害が発生していた。一時撤退を命じ様とした時頭上で破裂した球体から雨の様に液体が降ってきた。叫ぶ間もなくずぶ濡れになった私はあまりのかゆさに恥も外聞もなく叫んでいた。
「かゆい、おのれこんな戦い方が許されて良い・・・かゆい・・・・・」
父上が敵からの攻撃が終わったので即座に無事な兵を使って撤退していた。無事な兵士に連れられて撤退した私は自分の魔法で出した水で体を洗って着替えてから父上の元に向かった。私の顔を見た父上は真っ先に無事を確かめてきたが私は冷たい声を出した。
「私が無事に見えましたか?私の隣にいた父上は何故か無事の様ですが」
あの時父上はちゃっかり自分だけ風の魔法で身を守っていたのだ。ひにくの一つも言いたくはなる。実際洗ってましになったとはいえ今も全身にかゆみがあるのだ。昼を過ぎたとはいえまだ日没までには時間があるので攻撃する様に進言した。
「父上、爆発弾を使って反撃しましょう。此のままやられっぱなしでは私も兵士たちも収まりがつきません」
「・・・・・分かった。許可する」
何時になく強い口調で攻撃する様に進言する私に父上は戸惑っている様だが元々その予定だったので許可したようだ。兵士に準備をさせて自ら指揮を執った。
「攻撃を跳ね橋に集中して叩き込め。先の借りを返すのだ」
魔法砲から次々と爆発弾が飛んで行った。
「直撃を確認しました。跳ね橋に損傷は見られませんが横の外壁が小破しているのを確認しました」
その報告にニヤリと笑うと指示を出した。
「其処に集中して砲撃しろ。砲が全て壊れても構わんから何としても破壊して彼奴らを引きずり出すぞ」
「おい待て、いくら何でも砲を全て壊すのはやり過ぎだぞ」
後ろについて来ていた父上が言葉を掛けてきたが睨みつけると引きつった顔をして黙り込んだ。今の私はかゆさで苛立っているのと必ずやり返してやると言う意思で攻撃しているのだ。目が血走っている兵士達と同じ様な顔をしているだろうし、気持ちも良く分かるのだ。
「撃て、撃って撃って撃ちまくれ。壁を破壊するまで撤退は出来ないと考えておけ。いいな」
「おう、任せてください必ず彼奴らを引きずり出してやります」
私達は砲弾が飛んでいくのを笑いながら見続けていた。
「撤退していた敵が砲撃を再開しました。今度の砲撃では外壁が小破しています」
「壊されたら不味いよお兄ちゃん」
「リグレス公爵頼んでいた物は粉にして用意してあるのですよね」
俺の言葉にシグルトがビクついていた。
「ロベール本気で使う心算なんだ・・・・・」
「・・・・・用意はしたが恨まれそうだな。ミリステア」
「はい私の部隊が管理しています。ロベール如何すればいいの」
如何やらちゃんとロベルトに渡した服を着てくれている様で、その所為か態度や言葉が柔らかくなった様な気がするが今は説明を優先した。
「外壁の上から風の魔法で粉を敵に向かって吹き飛ばしてください。その時は此のお面で顔を隠して粉に触れない様にしてください」
「分かったわ」
騎士団の人たちがお面をかぶって配置に付くと一斉に粉を飛ばした。大量の粉は煙幕の様になってから敵の居る所に到達した。暫くすると絶叫が響き始めた。
「騎士団の奴らが外壁の上に出てきたな。お面などをかぶって何をする心算だ?」
不審に思っていると粉の様な物を飛ばしている様だ。煙幕の様に視界が悪くなったのを見て砲撃の狙いを妨げる心算かと考えていると煙幕の様な物が此方に向かって来るのが見えた。嫌な予感がして魔法兵に吹き飛ばす様に言ったが量があまりにも多くて無駄に終わった。
「目がーー目がーーーー」
「苦いーーー苦いーーーーー」
「ハクション、ハクション、くしゃみが止まらない。ハクション」
「ずるずる、鼻水が止まらない」
「喉がーーーー」
父上が目と口を押えて苦しんでいるのを見て今度は父上も防げなかった様だと思いながら倒れた。そのあと粉が収まってから救助が始まって真っ先に救助された父上と私が指揮に復帰して事態を治めるころには日が沈んでいた。
「父上・・・・・」
「みなまで言うな。明日一番に総攻撃をかけるぞ。此のまま帰ったら笑いものだ」
「ですが父上此のまま砲撃を続けても今日と同じ目に遭うとしか考えられません」
「集合魔法を使おうと思う」
「冗談はやめてください。集合魔法は理論上は可能とされていますが高い制御能力が必須で我が軍に使える者はいません。使う事に成功したのは赤帝国の中で二人だけで後の人は制御に失敗して自爆して死んだのですよ」
その時だった。突然兵士が入ってきて驚く報告をしてきた。
「失礼します。緊急事態で判断を仰ぎに来ました。跳ね橋が下されています」
「・・・・・・・何だとーーーー」
兵士の言った事が理解できると驚愕の叫びが飛び出した。父上が飛び出して行ったのを慌てて追いかけると本当に跳ね橋が下りていた。敵が出撃してくるのかと用心していたがそんな事もなく不気味な程の静寂があった。
「ニルスト町の中に入るぞ」
「お待ちください。此れは罠ですよ」
「分かっているが罠でも行くしかあるまい。其れに兵士達は今か今かと命令を待っているぞ。其れにお前とて本当は行きたいのだろうが」
本音を言われて肩を竦めると兵達に準備をさせて慎重に跳ね橋に向かった。




