契約者達と戦いと決意
穏やかな日常を過ごして龍の里に転移すると何故かメルボルクスが睨みつけてきたが、特に情報に変化が無い様なのですぐに皆でリラクトンの部屋に転移した。転移すると外が騒がしいので驚いて部屋から出ると近くに居た人に話を聞いた。少し聞いただけで不味いと思ってロベルト達の居場所を聞いてリグレス公爵の部屋に向かった。扉を叩いて返事があったので入ると皆の視線が注がれロベルトが悔しそうな顔をして話し掛けてきた。
「直哉、戻って来たんだな。忠告を受けていたのに見事にやられた。騎士隊長の一人が数人の騎士を伴って公爵を殺そうとしてそれを庇って騎士団長が殺された。あと牢の中でギルド長と数名のランカーが殺されているのを発見した。殺したのは姿が見えない騎士とバルマーと思われている」
「うわバルマーが逃げたの。嫌だな彼奴みたいなのはしつこいと決まっているのに・・・」
「香織安心しろ。三度目があったら俺が彼奴を愉快な目に遭わせてやる。くくくくくく」
笑う俺に皆が引いているが無視しているとミルベルト卿が真面目な顔をして告げた。
「笑える様な状況ではないぞ。騎士団長が騎士隊長に殺された事はすでにリラクトンの者全員が知っているのだ。その所為で今儂らは疑心暗鬼になっている。情報の伝わり方からしてまだ裏切り者は確実にいるだろう」
「申し訳ありません。ですがまあご安心ください。この状況を如何にかする方法があります」
俺は香織の炎に付いてある程度説明すると動揺を治める為の行動を話し合う事にした。
「質問に嘘を吐くと目の前の布が燃えると決めた」
布が金色の炎に包まれるのを見て俺は皆に質問した。
「皆に質問する。戦いが終わるまで共に歩む気持ちはあるか?」
皆があると答えて布が燃えなかったのを見て安堵していた。
「ロベルト儂の娘を愛しているか?」
突然の言葉にもロベルトは動揺しないで見事に答えていた。
「当然愛している」
布に変化がないのを見てアリステアさんが嬉しそうにしていた。それを見たメイベル様がリグレス公爵に質問したのを始まりにして次々と質問が飛び交った。半クーラ程経つ頃には質問に晒された者達がグッタリしていた。
「兄様、姉様これ燃えませんね」
ミーミルちゃんの声に皆が確かにと頷いて此方を見た。
「皆が正直に話しているだけなのですが此のままでは疑われても仕方がないので燃える所をご覧に入れましょう。ロベルト服を買いに行った時の事を覚えているか?お前は最後に店員と逃げやがったよな?」
俺の言葉に此れから言う事が分かったのか顔色を変えて止めようとしてきたが俺は素早く質問した。
「ロベルトはアリステアさんにおかしな服を贈った事はないよな?」
「・・・・・・・・・」
皆に視線を向けられても沈黙を続けるロベルトにミルベルト卿の顔に怒りが混じり始めた。其れに気づいたロベルトが俺を睨んでくるが俺は笑って言った。
「なあロベルト何で黙っているんだ?俺も香織に服を贈った事はあるが自分の趣味を出してしまって結果的におかしな服を贈ってしまった事はあるぞ?だから簡単に答えられると思ったんだがな?」
愕然とした表情を浮かべてロベルトが固まっているとミルベルト卿が答えを促した。
「むろん無いだろうな?無いに決まっている。そうだろう」
「おお贈った事は無い」
無残にも布は燃え尽きた。其れを見てプルプルと怒りに震えたミルベルト卿がロベルトに殴りかかった。ロベルトが悲鳴を上げながら避けると距離を取った。ミルベルト卿が追撃しようとした時にアリステアさんが口を開いた。
「お父様そうお怒りにならなくても良いではないですか。今問題になっている服に心当たりがありますが似た服がお母様の服の中にあったのを記憶していますわ。お父様が贈られたと聞きましたわ。二人とも服を贈る趣味は似ていると話していましたのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
痛い程の沈黙が訪れた。ロベルトはマジマジとミルベルト卿を見つめ、ミルベルト卿は忌々しそうに所定の位置に戻った。香織が場を和ませようと笑いながら発言した。
「あははは、私の炎は問題なく使える事が分かったので迅速に行動しませんか?」
「うむ、その通りだ。まずは騎士団の者から始めるとしよう。ミリステアは騎士団の者を訓練所に集めてくれ」
「はい。了解しました」
そう言ってミリステアさんがリグレス公爵に敬礼して即座に部屋から出て行った。
「直哉、俺を売ったな」
「何を言うロベルト、先に見捨てたのはお前だ。あの時俺がどんな目にあったか見ただろうが。殴りかかられるくらいなら幸せだろう」
「それは・・・・・・」
言葉を詰まらせたロベルトを放置して皆に話し掛けた。
「此れから安全が確認されるまでは全員で行動しましょう。女性方には見たくない物を見せる事になりますが安全の為なのでご了承ください」
「ええ分かっています。幸いと言って良いか分かりませんがミーミルは目が見えませんから余計な物を見ずにすみます」
メイベル様の言葉に何所か不満そうなミーミルちゃんの頭を撫でて香織が言葉をかけた。
「大人になったら嫌だと言っても見る事になるわ。私は小さい時に見たくない物を見る破目になったけど見なくて良いのなら見たくないし、子供の時に見た物は二度と見る心算はないわ」
香織の言葉に何を思ったのか知らないがミーミルは真面目な顔で返事をしていた。
「では俺達も訓練所に行きましょう。あと俺と香織は姿を変えます。変わっている時はロベールとカリーナと名乗るのでそう呼んでください」
皆の返事を聞いてから訓練所に向かった。
「皆に集まって貰ったのは此度の騒動を治める為だ。皆も知ってのとおり騎士団長が騎士隊長に殺されると言う異常事態が発生した。この所為で不安に思い疑心暗鬼に陥っている事も知っている。だから私はカリーナ殿の魔法の力を借りる事にした。忠誠心を疑われる事は不愉快だろうが私も付き合いの長い騎士団長を殺された怒りがある。皆も犯人の確保に協力して貰いたい」
カリーナがリグレス公爵に呼ばれて前に出て炎に付いて説明を始めた。
「・・・・・・・・・と言う訳でこの真実の炎の前で質問に答えてください。布が燃えたら一度拘束させて貰います。そしてあとで細かく質問させてもらいます」
カリーナの説明が終わって右端から順に答えていった。質問は此の事件に関与しているか?リグレス公爵と共に戦う意思が有るか?情報を不正に扱っていないか?の三つだ。百二十人が布を燃やす事もなく終わった時だった。二人の騎士が移動しようとした。俺は一瞬で二人の前に行くと声を掛けた。
「おい何所に行くんだ?お前達はまだ質問の答えを言っていないぞ」
「いやちょっとトイレに行こうと思ってさ。まだ時間が掛かりそうだからさ」
「カリーナ此奴らはトイレに行きたいそうだ。先に答えさせてくれないかな」
カリーナに話し掛けてわざと二人に無防備な背中を向けると思ったとおりに二人は剣を抜いて逃げるのに邪魔な俺に斬りかかってきた。肉体の強化はしているのでわざと気づかない振りをして剣を肩と背中に受けた。
「痛いじゃないですか。何をするのですか?」
振り向いてニッコリ笑いながら声を掛けると二人は自分の持っている剣と俺を交互に見て混乱していた。
「ななな・・・・何で・・・・・・」
「鈍らだったのでしょう。肩叩きに丁度良さそうな剣ですね」
俺が声を掛けるとハッと我に返って飛び退いて火と風の矢を飛ばしてきた。避けずに当たってやったので今度こそ殺したと思ったのだろうが、俺が無傷で前に出て行くと目を見開いてから一人は腰を抜かし、もう一人は叫びをあげて斬りかかってきた。
「何なんだお前は死ね。死んでくれ。何で死なないんだよ・・・・」
避けない俺に何度も斬りかかってきて傷一つ付けられない現実を見せられて最後は泣きそうになりながら剣を取り落として地面に膝をついた。二人を捕まえてカリーナの元に連れて行くとやはり言うべきか布が燃えた。ただし前二つの時は燃えなかったので詳しく聞くと俺に逆らっても無駄と思ったのか怯えながら喋り始めた。
「俺には姉がいて姉の息子が病弱で治療費の為に警備の情報を商人に売った事が何度かある。イカサの実で少しは回復したが今も危険な状態なんだ。今捕まったら確実に死ぬから逃げようとしたんだ」
「私は此奴の幼馴染で昔好きだった人が夫を亡くして一人で残された子供を助けようとしているのを見て協力してたんだよ」
話を聞いて俺は見捨てる事が出来ずにリグレス公爵と話して騎士団を除隊させたあと新設の部隊に入れる事にした。
「お前達には新設の部隊の一員になって貰う。子供はあとで連れて来い。俺が診察して治る様なら治してやる。だが治ったら等価分は拒否権なしで働いて貰うから覚悟して置け」
頷いて涙を流す二人をロベルトに任して様子を窺っていた者達に話をした。
「・・・・・・と言う事になった。他にもこの様な場合は今明かせば考慮するがこの場を逃れたあとでばれたら厳しく裁くからその積りでいて欲しい。あと先程のを見たなら分かるだろうが逃げるのは無駄だ」
軽く威圧すると殆どの人が後ずさっていた。中には化け物呼ばわりする人もいて軽く落ち込んでいるとロベルトがやってきて俺の頭をペチペチ叩きながら言った。
「こんなガキ一人を化け物と呼ばなければいけない程に弱いのなら騎士団は名乗れないぞ。ほれ見ろ俺に叩かれても反撃一つ出来ないんだぞ」
俺の事を思ってやっているのは分かるが叩かれる度に怒りが込み上げてくる。必死に我慢して終わるのを待つ事になった。結果だけを伝えると十六人が布を燃やしたが事件に関与した者はいなかった。六人が横領などの罪で牢屋に入って八人を新設部隊で引き取った。残った戦う気が無い二名は除隊して去って行った。その後文官や侍女などの身近な者から順にリラクトンにいる全ての人を調べた結果五百五十二人もの逮捕者を出す事になった。その中に財政長官と治安長官の二人と神官二百十三人がいたが奴らがやっていた悪事にリグレス公爵は激怒してメイベル様はショックを受けた様だ。公金横領や孤児への寄付金を掠め取る事が問題にならない犯罪が山の様に出てきた。俺が捕らえたままになっていた神官も含めて全ての処置に一段落ついた時には半日以上が経過していた。
「皆には苦労を掛けたな。まさか此処までの逮捕者を出すとは考えていなかった」
深いため息を吐いたあとにリグレス公爵が表情を変えて話を始めた。
「犯罪者達の事はあとで適正に裁くとして、今は内通者から得た情報から数日以内に攻めて来ると思われる敵の対処を考えよう。何か意見はあるか?」
「その事ですが話しておかなければならない事があります」
俺は龍の里での情報を皆に話して聞かせた。
「商連合国が動いていると言うのか?本当だとしたら儂らが争っている場合ではないぞ。ガルトラントの当主が無事に帰り着いたとしても南西の戦力だけでは勝ち目はあるまい」
「だが援護しようにも此処は北西で隣接していないから無理がある。サザトラントは当主が死んで混乱しているから無理だ。バルクラントは敵だし何より契約石を使っているから降伏して首を差し出した所で龍達の攻撃で滅びるから未来がない。となると戦って勝利したあと援護に向かうのだが戦いで勝利してもメルクラントとバルクラントの戦力がないとまず最終的には負けるであろうな」
重い空気が立ち込める中で俺は自分が考えた作戦を話して聞かせた。
「甘すぎるな儂は反対だ。殺さずに戦うなど不可能だ。まして食べ物を与えて解放するなど論外だ」
「でも親父さん其の為の方法も考えてあるんだぞ。絵空事ではないだろう?何よりこの作戦は内乱では使えると思う。全ての人が降るとは思わないが二割か三割でも降ってくれれば援護に向かう時に助かるだろ」
「ですがお父様、相手の戦力が上で確実に勝てるか分からない戦いでその様な甘い考えでは要らぬ犠牲が出るかも知れません。此処は確実に勝利する為に敵は確実に討つべきです」
「確実に勝つのは簡単なんだ。直哉が龍に参戦する様に命じれば良いんだ。皆は龍と戦った事がないから分かっていないし想像も出来ないんだろうけど、里が襲われた時に戦った龍は近くにいた龍と騒動を知って向かった龍が数十匹なんだ。人間に例えると町の人と一部の警備兵だけで軍隊を追い払う様なものなんだ。そして今待機している龍は皆精鋭の戦闘力を持った三百の龍で僕が知る限り精鋭の龍が集団戦をするのは初めての事なんだ」
「・・・・地形を変える龍の話を聞いた事があるが精鋭の龍は皆変えられると思って良いかな?」
「龍の成体なら誰でも出来るんだ」
「分かった直哉殿の作戦で戦うとしよう」
「リグレス様それは・・・・」
ミルベルト卿が反論しようとしたがリグレス公爵が遮ってから静かな重みのある声で話を始めた。
「まず此れは内乱で同国人を殺したくないのがある。また今回はべサイル殿下の起こした騒動で下に付く兵士の中には訳も分からず従っている者もいるはずだ。其れに私は犯罪者達の行動を聞いて正すのなら今が好機だと思ったよ」
「私も子供達にも犠牲が出ているのを知って心が痛んでいます。このリラクラントは赤帝国で一番治安が良いと言われていました。そこであれだけの犯罪が隠れていたのです。他の場所が如何なっているかなど考えたくもありませんが皇族として捨て置けません。直哉達がどの様な食べ物を食べれる様にするのか、まだ分かりませんが少しでも生活が良くなるのなら協力したいと思います」
リグレス公爵とメイベル様の強い意志を宿した言葉に反対意見が無くなったので香織に視線を向けたら先に俺の考えを読んで行動していた。
「皆様話も一段落付いた事ですしミーミルちゃんもいるので休憩しながら私達が配る食べ物を試食してみませんか?」
そう言って香織はケーキとクッキーと紅茶を出して皆の前に並べていた。俺はその間にミーミルちゃんの目を見える様にした。
「うわーー、兄様に姉様何ですか此れは」
「此れはケーキとクッキーと言うお菓子よ。甘いくて美味しいから食べて見てね」
ミーミルちゃんがケーキを口にして甘い、美味しいと喜ぶ姿を見て他の皆も食べ始めた。女性達は純粋に美味しさに驚いて笑顔を浮かべて話していたが男性達は難しい顔をして考えこんでいた。
「おいおい此れを配るのか?ありえねー・・・・」
「このお茶にも砂糖が入っているのか?直哉殿達が契約者で普通ではない事は知っているがいくら何でも此処まで砂糖を多量に使えるなど契約者といえども不可能ではないのか?やはり二人は契約者としてではなく本質的に違って未知の存在なのだな。ははははは」
「儂が考えても此のお菓子とやらは金貨を出さねば食べられまい。此れを配れば確かに興味は持たれるだろうが確実に破産するに決まっている。まして誰でも食べられる様にするなど嘘にしか聞こえんわ」
「そんな事はありませんよ。配る為の材料は確保していますから問題ありませんし、いずれ地下に大量に生産する空間を作る予定ですから嘘にはなりませんよ」
「砂糖が大量に手に入る様な未来が来ると?その様な未来は契約者だと知っている儂ですら信じられないのに、何も知らない者達が信じると思っているなら考えを改めるが良い」
「私の炎で解放する者は選ぶから大丈夫よ。それにお兄ちゃんが何も考えていない訳がないでしょう」
「お父様、美味しく食べている時にその様な話は無粋ですわ。今は美味しく頂きましょう」
香織とアリステアさんに言われて黙ったミルベルト卿から視線を移すとミーミルちゃんがシグルトとフレイと共にクッキーを食べて微笑んでいた。
「ねえお兄ちゃん、やっぱり良いね子供が微笑んでいられるのは・・・」
「そうだな俺達はあの年頃の時は色々あって大変だったからな。だが今香織と一緒に居られるのは嬉しいよ」
「変えたい過去はあるけど全ては否定出来ないよね。今お兄ちゃんと一緒で私も嬉しいから・・・」
俺達二人はそっと手を繋いでミーミルちゃん達を見つめていた。
部屋に戻ってもうそろそろ寝ようとした時だった。ミリステアさんが慌てて呼びに来た。リグレス公爵の部屋に行くと皆がそろっていた。
「夜分遅くに悪いが緊急事態だ。レクトンの町が襲われた様だ。今逃げて来た住人から話を聞いた所に依ると本隊に付いて来たランカー達が襲った様だ。無差別に襲っていて特に二人が強大な力を振るって町を完全に破壊すると逃げる住人を追って殺しているそうだ」
「強大な力と言う事は契約石を持っている可能性が高いな」
「私もそう思っている。リラクラントに属していないとはいえ公爵として放ってはおけない。騎士団の者を東の村まで派遣して調査と保護をする心算だ。契約石を持っているランカーが気になるので協力して出来ればランカーを倒して貰いたい」
香織、シグルト、フレイと視線を向けたが皆が頷いてくれた。
「分かりました今すぐ向かいます。ですが騎士団の人はあとから来てください。俺達は先行します」
「いくら何でも危険過ぎる。騎士団と一緒に行って貰えればそれ以上は要求しない」
「俺達だけなら早く行く事が出来ます。其れに契約石の持ち主と戦う時に騎士団の人が傍にいると戦いに巻き込む可能性が高いのです。俺達は力は持っていますが戦闘経験が足りませんから人を守りながら戦うのは難しいので逃げている人々には騎士団の人がいる方に逃げて貰います。保護は騎士団に任せたいのです」
「・・・・分かった。ロベルトには騎士団と共に向かってもらう。直哉達との間を取り持ってくれ」
了解したロベルトを見届けてから俺達は前に話し合った地点まで転移した。
レクトンの町が見える所まで走って移動している時に大勢の逃げる人と襲う者に出会った。敵を倒して騎士団の事を伝えて逃げる様に言ってから話を聞くとまだ町に取り残された人がいる様だ。俺達は急いで町に向かったが其処は地獄に変わっていた。がれきと炎そして何より大量の死体が転がっていた。
「・・・・・・何だ此れは・・・・」
「お兄ちゃん・・・・・・・・・・」
死体は見た事があった。泣きじゃくる香織に代わって香織の両親の最後を見ておいた時だ。だが此処には他者に害されて殺された者しか存在していなかった。剣や槍などの武器で殺された者は老若男女の区別はなく皆必死に逃げようとして殺された事が其の表情から理解出来た。
「お兄ちゃん今・・・・・・」
「ああ確かに声が聞こえた」
「此方ですわ。私が先導しますわ」
フレイに付いて行くと赤い髪の男と金髪の女が仲間に命令して二人の子供とその母親らしき人を追い立てていた。子供が転んで斬られそうになったのを咄嗟に抱えてかわして母親らしき人の傍に香織と共に移動した。
「てめえ何者だ?俺様に逆らう馬鹿共は真っ先に皆殺しにしてやったはずなんだがな」
「あらあら生きの良い坊やがまだいたのね。良い声で啼いてくれると嬉しいわ」
男と女が新たな獲物が来たと考えて嬉しそうにニヤニヤ笑いながら話し掛けてきた。
「お前達がレクトンの町を破壊したのか?」
「馬鹿共が大人しく物資を提供していれば良いのに逆らうから見せしめにしただけだぜ」
「な、ふざけないで。此れだけの事をしておいて許されると思っているの」
「お嬢ちゃんは世間知らずだね。弱い奴が反抗したらこうなるのが当たり前でしょう。口だけは威勢が良かったけど一人二人と殺していくうちに大人しくなって最後は命乞いをして、それでも助からないと知ったら絶望の表情をしていたわよ。お嬢ちゃんも今からどんな表情を見せてくれるか楽しみだわ」
俺達は女の言葉に怒りを感じてそれを押し殺しながら質問した。
「・・・べサイル殿下はこの様な事を許すと言うのか」
「会った事もないボンクラの事なんて知らないな。ただ此処は敵の何とかと言う公爵がやった事になるんだよ。くははははは」
「何言ってるの?正気を疑うわね。逃げた者達がいるのにそんな言い訳がとおる訳ないわ」
「いやとおるさ。俺の生まれた村は争いがあった時に味方に襲われて今はもうない。上の奴らが損害の補助金を貰う為にやったそうだぜ。正義だ何だと言っても弱ければ踏みにじられるんだよ。俺は二度と踏みにじられる心算はない。踏みにじる側になる為に力を得た俺はもう誰にも負けない」
力に対する狂気じみた発言を聞きながら白い視線を向け更なる質問をした。
「契約石を手に入れて有頂天になって楽しいか?」
「あらあら、知っているのね。くすくす、ええ楽しいわよ。此の天狐の力の前には人間なんて虫けらの様だわ。五幻種の気持ちが良く分かるわ」
女の発言にシグルトとフレイが激怒して今にも殺しそうな視線を向けていた。
「天狐と言ったわね。貴女は商連合国の者なのね」
香織が厳しい視線で尋ねると二人の表情と雰囲気が変わった。他の奴らは何の事か分かっていない様だ。いきなり変わった雰囲気に戸惑っているのがわかる。
「喋り過ぎたなミネア、不注意だぞ」
「ごめんなさいアライン。でも此処で殺せば問題ないわ」
言葉と同時に雷の魔法が飛んできてアラインが斬りこんできた。咄嗟にかわそうとして後ろに子供達がいる事に気づいて無防備に魔法を受けてしまった。一瞬だったが体がしびれて動けない俺にアラインの雷を纏った剣が振り落された。香織が魔法で牽制してくれたおかげで掠り傷で済んだが、あのまま斬られていたら軽い怪我ぐらいはしただろう。もっとも龍人の俺はすぐに治るので痛い思いをするだけなのだが。
「坊やは頑丈なのね。斬っても暫くは死にそうにないから楽しめそうだわ」
そう言って斬りつけてくるミネアに反撃として顔を殴ろうとしたが不覚にも女の顔を殴るのに忌避感が湧き躊躇してしまってかわされてしまった。それに気づいたミネアがとても嬉しそうに妖艶な笑みを浮かべ告げた。
「あらあらお姉さんの顔が好みだったのかしら。それなら生け捕りにして遊ぼうかな・・・・」
俺に妖艶な視線を向けるミネアにアライン達を風の魔法で近づけない様に牽制していた香織が激怒して冷たい声を出した。
「ねえおばさん。冗談はやめてよね。性格の悪い行き後れがお兄ちゃんに相手にされる訳無いでしょう」
「・・・小娘が良く言ったわね。私の最強の魔法で跡形もなく吹き飛ばしてやるよ」
ミネアが空に雷の力をためるのを見て阻止しようとしたがアラインが前に出て来て剣を振るってきた。忌々しいがアラインの剣技は一流で、今の俺には遠く及ばないので一度離れてから魔法に対抗する障壁を張って防ぐ事にした。障壁の完成と同時に特大の雷が降り注いで目を開けるのも辛い状況になった。無差別に辺り一面に雷が落ちて地面が抉られていった。彼奴らの仲間も巻き添えになっていたが親切にもシグルト達が致命傷だけは防いでいる様だ。もっとも全員重傷で立ち上がれはしないだろうが。
「小娘がでかい口を叩くからこうなる・・・・・・・・・」
「何だと・・・・・・・・」
如何やら今の攻撃で俺達を倒したと思っていた様だが無傷の俺達を見て馬鹿みたいに驚いていた。子供達はショックで気絶していたがそのまま寝かせておく事にして話し掛けた。
「まさかとは思うが今ので倒せると思っていないよな」
「てめえ本当に何者だ。Sランカーの俺達が契約石の力を使っているんだぞ。ボンクラ皇子も忌々しい商人共も神官達も分かっていないが此れからの時代は契約石の力を使いこなす者が上に立つんだ。Sランカーの俺達にはもう五幻種だって狩るべき獲物に過ぎないはずだ。俺達は契約者と同等、いや其れを上回る力を得たはずだ」
俺達は怒りを感じながら質問した。
「契約者や五幻種に会った事はあるのか?」
「馬鹿かお前は契約者は二百年前に無様に逃げ出した臆病者が最後だぞ。何より所詮は一人だ。準備をして大勢で囲めば倒せる事は話として残っている。時が過ぎ契約石を作りだす事が出来る様になった俺達人間が負けるはずがないだろうが。まして五幻種はただの材料だろ」
「全くだね。この町を見てごらん。契約石の力を振るえば簡単に壊滅するんだよ。契約石を持つ者が増えればもう其れを止められる奴なんていないわ。そして一番強い力の持ち主が頂点に立って支配するのよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
町の事を言われて無言になった俺に香織達が声を掛けてきた。
「お兄ちゃんの思ったとおりにして良いんだよ」
「僕も怒っているんだ。危険が振りかかっても皆で対処すれば良いんだ」
「私も此処まで言われて我慢する心算はありませんわ」
皆の言葉に背中を押されて俺はこの世界での立ち位置を決めて名乗る事にした。
「俺が何者かと言っていたな。俺の名はロベール、龍人だ」
「私の名はカリーナ、鳥人だよ」
「笑わせるなよ。契約者を騙るなら契約相手を出すんだな」
「全くね坊や。龍人を名乗るなら龍を見せてごらんなさい。すぐばれる嘘を吐くのはヤッパリ子供ね」
嘲笑う二人を無視して声を出した。
「シグルト、フレイ出て来ていいぞ」
シグルトとフレイが姿を現すと嘲笑っていた二人が笑うのをピタリとやめていた。
「・・・本当に契約者だと言うのか?なら丁度良い此処で倒せば俺達が最強だと証明できる」
「そうね私達二人の魔法を受けて無事にすむかしら」
二人が魔法を同時に放ってきた。同時に放つ連携は凄いと思うが威力の方は上級魔法より上だが古代魔法には到底届かない物だった。障壁を張って防いだ無傷の俺達を見て目を見開くと魔法を寝ている子供に向かって放ち逃げ出していた。魔法を防いでから追おうとする俺達の前で契約石を投げ捨てたので無視する訳にもいかずに止まって拾う事にした。手に取った契約石は光を放って点滅していた。嫌な予感がしたので精密探査魔法で調べるとなんと暴走して爆発しかかっていた。香織と共に必死になって暴走を止めた時には二人は逃げてしまっていた。
「・・・・・・・・力を搾り取る使い捨ての道具だと分かっていたが暴走させて爆弾の様に使うとはふざけるにも程がある。先程の話もだが此処までやるのなら一度、力を手に入れて浮かれている馬鹿共の頭を冷水をかけてでも冷やす必要があるな」
「お兄ちゃん如何する心算なの」
厳しい表情をして押し殺した声を出す俺に香織が不安そうに声を掛けてきたが俺は一言シグルトに告げた。
「一クーラくれないか」
視線を合わせてからシグルトが聞いてきた。
「如何する心算なんだ」
「今俺は怒りを押し殺している。先の暴走の攻撃は香織を含めて全てを巻き込む物だったから俺が抑えるのをやめれば力が上がるのは確実だ。その力を強化して世界の隅々まで届かせて俺と言う存在がいる事を理解させようと思う。そうすれば浮かれていた奴らも頭が冷えるだろ。この町の様に暴力を振るって俺にあったらどうなるか余程の馬鹿でなければ考えるだろ」
「でもそれじゃあ皆に恐怖される事になって過去の契約者と同じになるんだ」
「私の共感能力を強化して使えませんか?その力で思いも伝えられませんか?」
「直哉とフレイでは無理なんだ」
「じゃあ私とお兄ちゃんなら如何かな。フレイは私を通してから力を使えば良いと思うんだけど・・」
「・・・・・・僕には魔力の質が違う二人の事は分からないからやってみる価値はあると思うんだ」
皆で此れからこの様な理不尽な力を振るう者達と戦っていく決意を話し合ってから、俺と香織は手を繋いでその肩にシグルトとフレイが乗って力を合わせて強化してから世界に向けて解き放った。その前代未聞の莫大な力は世界中で感じとる事が出来て世界中の者達の心に一つの事実が刻まれた。神とも思える力の持ち主がいてその人物は理不尽な力を嫌い、自分よりも他者、特に妹を大事にしていて大切な者を絶対に守る意志を持ち、傷つける者には断固とした意志で行動する事、そして妹の兄への思いなどが感覚的に伝わっていた。




