契約者達と日常
「直幸さん遅いわね直哉達」
「そうだな。だがまだ誤差の範囲内だろ」
「ねえ直幸さんは直哉がシグルトと契約した理由を知っているのよね?」
「ああ知っている。今は全て話す心算はないが・・・・・直哉は過去に決着をつけて前に進む覚悟を決めたと言う事だ。元々いた伯父とは別に事件があったあとに出てきた、祖父が結婚する前にいた恋人との間に生まれていたとされる伯父がいるがその事に付いて考えているみたいだとしか今は言えない」
「事件はまだ終わっていないと言うの?」
深刻な顔をして問う沙耶に俺は苦笑いすると告げた。
「俺達は兎も角直哉と香織は契約者になったから問題ないさ。シグルトとフレイもいるから殺そうと思ったら戦車や戦闘機でも持ってきて初めて怪我ぐらいすると考えていて良いと思う」
「・・・・・其処までの存在になってやろうとしている事を私が知らなくて良いのかしら?」
「不安だろうが時がくれば直哉が説明する。其れまでは変わらない日常を家では過ごさせてやろう。さあもう遅いから先に休んでいろ」
「いえ私も起きて待っていますわ」
「いや先に休んで朝早く起きて朝食に美味しい物を作ってやってくれ」
「・・・・・分かりましたわ。先に休ませてもらいます。でも何かあったらすぐ起こしてくださいね」
「ああ分かったよ」
沙耶を見送ってから一人静かに帰りを待った。
転移が終わって目を開けると何故か父さんが睨んできた。
「何で睨んでいるんだ?俺達が無事に帰って来た事を喜んでくれないのか?」
「いや無事に帰ってきたことは嬉しいに決まっている。ただ大事にしていた秘蔵の酒が朝から見当たらなくて探しているだけだ」
ヤバと思って顔色を変えてしまった俺に父さんはニヤリと笑って告げた。
「如何やらやっと見つかりそうだ。香織はもう遅いから先に寝ると良い。直哉は俺と男同士のお話をしようか。何と言ってもあの酒は万を超える酒だからな。はははは」
香織はお兄ちゃん頑張ってと言いたそうな顔で素早くフレイと共に去っていった。俺とシグルトは椅子に座って父さん向き合った。
「今あの酒は何所に有るんだ?」
「・・・・・・・ファーレノールで仲間になった人の家族の為に使ってしまった」
「・・・・・・・・・・何だと?良く聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
怒りをあらわにする父さんを前に俺はシグルトに手伝って貰いながら説明をして理解を求めた。
「家族の仲を取り持ったのは良くやったと言おう。だがあの酒を使う必要は無かったと思うんだがな」
「いや俺としては上物の珍しい酒を飲めば口が軽くなると思ったんだよ」
理由は理解したが感情が納得していない父さんに俺が酒を持っていた理由を告げる事にした。
「なあ抑々今父さんは禁酒中だったと思うけど何故酒が有るのかな?それと酒を飲まない俺が自分から持って行ったと思ってたりしてないだろうな?」
父さんの眉がピクリと動き動揺が伝わってきた。顔色が色々変わったが最後には諦めの表情をしてため息を吐いていた。
「分かった此の事は不問にする」
そう言って去ろうとする父さんに声を掛けてこの場をシグルトに隔離して貰った。
「香織が口を滑らせたんだがな。俺の使っている金の出所は如何なっている」
俺が厳しい目をして問いかけると父さんは表情を改めて椅子に座り話を始めた。
「覚悟は既に決めているものとして話すが香織が出しているのは直哉の治療費の半分と香織が料理する時の食材費と毎月の小遣いと直哉に対する誕生日などの贈り物だな」
思っていたのと違うのは毎月の小遣いくらいだ。妹から小遣いを貰う兄と考えて情けなく思っていると父さんが厳しい声で告げた。
「何を考えているのかは顔を見れば想像出来るが拒否はするな」
「一応分かっている心算だ。他人から見れば妹のヒモか恥さらしと言ったとこだが香織が抱える気持ちを考えれば受け取る方が良い事はわかる。あの事件から色々あったが一番大事なのは香織の心の重荷が少しでも軽くなる事だ」
「まあそう悲観するな。自由になる金が多いのは良い事だ。知らなかっただろうが沙耶、香織、直哉そして俺の順で俺は香織の半分しかないんだぞ」
凄く色々な感情が感じられる声を父さんが出した。
「ははは、父さん本来俺に渡す分があるから問題ないだろ」
「・・・・・・・お前は何も分かっていないな。沙耶が財布の紐を持っているのにそんな自由がある訳ないだろ。そしていずれ直哉も完全に管理される日がくるぞ。今でさえ食費の四分の一は管理されている事になるんだぞ」
父さんの言葉に戦慄したが母さんではないので酷い事にはならないだろうと思い直して安心していると父さんが憐みの視線を向けて来た。
「香織は血こそ繋がっていないが間違いなく沙耶の娘だ。そしてお前は俺の息子なんだよ」
何故かその一言は深く胸に突き刺さって抜けなかった。顔を引きつらせる俺に父さんは続けて言った。
「大人になったら酒でも飲みながら愚痴や悩みを聞いてやる」
これ以上聞いていたら気づかなくて良い事に気づきそうでヤバいと思った俺は父さんに御休みと言ってシグルトを連れて足早に去った。
翌朝何時もと同じ様に香織に起こされて朝食の席に付くと珍しく父さんがまだ家にいた。
「あれまだ出かけてなかったんだ」
「ああ今日は少し遅く行くんだよ」
「はいどうぞフレイは紅茶でシグルトはコーヒーでいいのよね」
「ええありがとう。香織」
「苦いのが目覚ましに丁度いいんだ」
「あれ母さん新しいイヤリングを付けているんだ?」
「あら直哉よく気づいたわね。これは昨日あなた達がいない時に直幸さんが贈り物として買ってくれたのよ」
「お母さんとっても似合っているわ」
香織に褒められて嬉しそうな母さんを見ながら横目で父さんを見ると見なかった事にしたくなる様な雰囲気を滲ませる父さんがいた。香織もフレイに叩かれて気づいて俺達は即座に話を変えて事無きを得ると、何故か何時もより手の込んだ料理を食べて美味しかったと告げてから何時もの様に香織と手を繋いで学校に向かった。
校門にたどり着くと明人が珍しく妹の明美ちゃんと一緒に登校していた。
「おはよう明人。テストは大丈夫か?」
「嫌な事を言うな。直哉は余裕でも俺は何時も必死なんだぞ」
「そうですよ直哉さん。兄さんが余裕だったら今日は雪が降ってもおかしくないです」
「もう明美ちゃんは何時もそんな事言うけど本当はお兄さんが心配なんだよね」
「香織ちゃん何を言っているの。私が兄さんを心配する訳ないでしょ」
「そんな事ないよ。同じ妹だから分かるよ」
「ないない。香織ちゃんの気のせいだ。明美が俺の心配をしたら本当に雪が降る。だいたい香織ちゃんと同じと言うなら明美はもう少し成長するべきだ」
明人の視線が言葉と同時に何所を見たのか悟った明美ちゃんが明人に怒りの籠った拳を腹に叩き込んだ。
「何所見て言っている馬鹿兄、死にたいの?」
腹を抑えて苦しむ明人に冷たい視線を向けて足音高く去って行った。香織に視線を向けると頷いてあとを追って行った。
「明人ももう少し言い方に気を付ければ良いだろうに」
「俺達にはこれくらいが丁度良いんだ」
そう言って苦笑する明人に俺は真面目な顔をして告げた。
「似た様な事で悩んでいる明人には言っておくが、俺はそう遠くない内に香織との関係を前に進める心算だ」
「・・・・・・それはとうとう妹離れをすると決めたのか?」
「いや逆だ。今更香織を誰かに任せようとは思わない。まあ香織と共に過去と向き合って香織の依存心や罪悪感を薄めてからになると思う」
「本気なのか?離れるのではなく恋人になる方に進むのか?親や周りの視線は厳しいものになるぞ」
「親は多分大丈夫だ。俺達の気持ちがばれて無い訳が無い。祝福してくれると信じられる。周りは堂々と行動して少しずつ変えていく心算だ。まあ手を繋いで学校に行くのを生暖かい目で見ている人もいるからすでに公然の秘密になっているかも知れないが・・・・」
「そうか・・・・・先に行っている」
苦笑いしている俺に鋭い視線を向けたあと明人は足早に去って行った。明人には明人の家庭の事情もあるから一概には言えないが、あちらも上手くいくと良いなと思い何かあったら友人として助けようと心に決めた。
「ふうーー、やっと終わったか」
テストを全て終えて体を伸ばしていると明人が声を掛けてきた。
「直哉、買い物に行かないか?俺は今日明美に貢ぎ物を贈らないといけないんだ。ついて来てくれないか?」
「おいおい、貢ぎ物とか言って何をしたんだよ。ヤバい事はお断りだぞ」
「なに大した事じゃないさ。・・・・・ちょっと明美の服を駄目にして弁償させられるだけだ」
「はあーー、まさかとは思うがそれで今日の朝は一緒だったのか?」
顔を逸らす明人を見ながら気づかれない様にシグルトを見ると頷いて何処か行きたそうな雰囲気をしていた。此方の世界では学校の行きと帰りが殆どだった事に気づいて頷き返すと返事をした。
「分かった行く。そうと決まったら早く香織達を迎えに行くぞ」
香織達と合流して帰ろうとしていると生徒会長の千城沙月に出会った。
「あら直哉君とこんな所で会うなんて運命が私達を結びつけたのかしら。ねえ直哉君いい加減に生徒会に入って私を助けてくれないかしら。今なら私の恋人になれる特典付きよ」
そう言って俺の手を握ってくる沙月に普段なら抗議する香織だが今日は余裕の笑みを浮かべていた。
「無駄な努力はやめた方が良いですよ。ふふふふ」
「あらあら何時も妹なのに兄に執着していた香織さんもようやく理解したようですね。兄妹では無駄な努力だと言う事に気づけて良かったです。本当に心配していたのよ」
「沙月さん残念ですけどもう勝負はついているわよ。ふふふふふふふ」
笑顔の香織の発言に皆で動揺していると沙月さんが目を吊り上げて詰問してきた。
「まさか直哉さん超えてはならない一線を超えて、行ってはならない道に進んだのですか?」
「いやいや俺はまだ何もしていませんよ。冤罪です。香織、おかしな事を言うなよ」
香織を睨んだが香織は笑顔を見せると俺の耳元で囁いた。
「お兄ちゃんは契約者になる事で一線を超えているわよ。もうこの世界で私以外と結ばれる事はないから安心だもの。あと私嬉しかったよ。まだ何もしていないと言う事は今後は期待して良いのよね」
不覚にも俺は香織の言葉に動揺をあらわにしてしまった。聞こえていたシグルトとフレイの同情の視線と他の疑いの視線に晒されて発言出来ない俺に沙月さんが冷たい声をかけてきた。
「如何やら何かがあるようですわね。この場で問いただしたい所ですがこの場は引くとしましょう。急いで対策を練る事にします。またね直哉君」
俺は去って行く沙月さんに声をかける事も出来なかった。
「でさ、直哉まさかとは思うが本当に超えていないよな?」
「朝の話を思い出せ。そんな事があったらあんな話を話さないだろ」
「ああそっか、安心した」
「ほらおかしな事言っていないで買い物に行くぞ。何時もの店で良いのか?」
それで良いと言う皆を連れて店に向かった。
「ねえお兄ちゃんこの服は如何かな」
「駄目スカートが短すぎるからもう少し長いのにしてくれ」
香織の服を却下してから明人達の方を見ると明美ちゃんに明人が怒られていた。
「兄さんはもう少し直哉さんが香織ちゃんにするみたいに私を褒めても良いでしょ」
「直哉のあれは俺には無理だ。だがまあ、そうだなその色は明美に似合っていると思う」
「それだけなの?他にはないの?抑々兄さんの好みはどんなのなの?」
「どれでも変わらないから好きな服を選べば良いだろ」
ムッとしてさらに問い詰めようとする明美ちゃんに後ろから声を掛けた。
「明人に見せるならひらひらした服以外がおすすめだよ。動きやすそうな服が良いと思うよ」
「おい直哉何を言っている」
「そうなんですか?ありがとうございます」
服を選びに戻って行く明美ちゃんを見送った俺に厳しい視線が向けられた。視線に肩を竦めると話を始めた。
「何か間違った事を言ったかな?明人の好みはそんな感じだと思っていたけどな」
「間違ってはいないが何故明美に言う必要があるんだよ」
「お節介だとは思うけど色々考えて自分では言えない友人に此れ位なら許されるかと思ってな。駄目だったか?」
問いかける俺を苦い物を飲まされる様な表情をしながらも、文句を言わない明人を見て苦笑しながら二人が戻ってくるのを待った。
「如何かな兄さん」
「・・・・・・・・」
自分の好みの服装をした明美ちゃんに見とれて呆けている明人にチョップして正気に返した。
「ああとても良く似合っている。かかか、可愛いよ」
「本当。じゃあ此れを買って来るね。お財布を出してよ兄さん」
「ああほらこれ」
財布を受け取ってレジに行く明美ちゃんを目で追っている友人に一言で現実を突き付けてやった。
「明人見とれるのは良いが値段はシッカリと確かめるべきだったな。・・・・・だったからまさに貢ぎ物だな」
「何だと馬鹿な・・・・・・」
驚愕の声を出す友人を見て俺は昔の女の服の値段など知らなかった自分を思いだしていた。幼かった俺は香織に身に着ける物全てを一通り贈ると豪語したが、値段を前に絶望しながら何年もかけて今も贈り続けているのだ。結果分かった事は高いと言う事と毎年母さんに色々贈り物を続けている父さんの凄さだけだ。
「まあ潔く諦めるんだな。ほら帰って来たぞ。笑顔で余裕を持って迎えるのが男のつとめだぞ」
俺の言葉に何を思ったか知らないが引きつった顔をしながら何とか取り繕っていた。
「ねえ、お兄ちゃん今度の服は如何かな?」
「ほう、この頃髪を切っていないから長くなったが、長い髪がその服にはピッタリだな。香織の髪は艶があるから良く映えるし、色も俺の好みで生地も良いな。何より香織のスタイルを際立たせているのがとてもいい。だが美しさと可愛さが目立つから悪い虫が依って来ないか心配になるな」
俺が香織に触れながら褒めていると明人達は距離を取っていた。シグルト達は何も見てない聞いていないと言う態度をしていた。
「如何した?そんな遠くに行って?何かあったのか?」
「何時も思うんだが直哉は周りの視線が気にならないのか?」
「気にはなるが香織が喜ぶ方が優先だな。明人だってそうだろ?」
「本当なの兄さん?」
明美ちゃんの期待の籠った瞳に否定の言葉が言えなくなった明人を横に香織に財布を渡すと強引に買いに行かせた。やはり何も聞かなかった事にするのは難しいみたいだと心の中で言い訳していた。その後は他の店を見て歩いて小物を買って駅で別れて帰宅した。シグルト達も色々見れて満足した様だった。
帰ってすぐに香織が燃えても良い物を持って訓練室に来てと言っていたのでハンカチを行くと香織が待ち構えていた。香織の顔がいやにウキウキしているのを見て、足を止め目を瞑り深呼吸してから覚悟を決めて香織と向かい合った。
「お兄ちゃん待っていたわよ。これからフレイの共感能力を使った新しい魔法を見せるわ」
「共感能力は感覚を共有する能力だよな。ミーミルの遠見の瞳の訓練に使えそうな力だと思っていたが他にも利用出来るのか?」
「ええ出来ますわ。私単独の能力では他人に使うと弱かったり隠そうとする感情までは分からなく、強い感情しか分かりませんでしたが、能力を使って香織の炎に新たな特性を与えて全てに反応させる事に成功しましたわ」
フレイが言い終わって頷くと香織が前に出て来て力を使った。
「嘘を吐いたらお兄ちゃんの持っているハンカチが燃える」
香織の言葉に嫌な予感を感じたが逃げる前に強張った顔で素早く質問が飛んできた。
「お兄ちゃんは香織が大切だよね?」
「勿論だ」
「私のお兄ちゃんになった事を後悔していないよね?」
「していない。嬉しいよ」
「何時も一緒だけど嫌じゃないよね?」
「嫌な訳ないだろ」
此処までの質問に燃えないハンカチを見て表情を安堵に変えるとニッコリと笑って次の質問をしてきた。
「お兄ちゃんは私以外の女性に興味がないよね?」
「・・・・・・・・・」
無言と無表情を保ったが俺の心の中は荒れ狂っていた。ザインさんが笑っていた理由が分かった。あの龍め喋りやがったなと心の中で罵声を飛ばした。如何答えるか必死に考えていると香織が答えを早く言う様に言ってきた。
「如何したのお兄ちゃん。早く答えてよ」
「・・・・・なあ香織別の質問じゃ駄目か?」
「駄目」
簡潔すぎる返答にため息を吐いて答えた。
「俺は普通に女性に興味がある」
俺が持っていたハンカチは一瞬で燃えて無くなった。手が熱かったはずだが決定的な事実を見せられた俺は気にもならなかった。香織は如何やら本当に燃えるとは思っていなかった様で茫然としたあと必死に無表情を保とうとしていたが喜びが滲み出ていた。
「直哉は気にしなくて良いと思うんだ。男に興味がある訳じゃないんだし、ある意味フラフラとする浮気者ではないと証明されたんだ。誠実な人と言う事なんだ」
必死に慰めてくれるシグルトの言葉が心に沁みた。気持ちを立ち直らせると香織の新しい力の使い方を考えてこの力が凄まじい物だと気づいた。嘘を吐く者が分かるのなら情報の真偽が分かるし内通者も簡単に分かるのだ。
「なあ香織この力には制限があるのか?」
「力の最大値が決まっていて対象が増える度に影響力が弱まるみたいなのよ。例えば一本燃やすのなら一分で出来ても六本になったら六分になるのよ。対象全てに均等に力が分散されて変えられないの。声に出して決めるとか対抗魔力の問題とか考えられるわね。あと共感能力を使った方が力の最大値が大幅に減るわね。まあ元々が肉を美味しく焼くための料理魔法の派生だから仕方がないのよ」
「料理魔法だと?他にどんな魔法が有るのか知りたい気もするがまあ良い。武器や兵糧を燃やす事も出来るよな?」
「可能だけど遠くから燃やす事は出来ないわよ。ある程度近づく必要があるわ」
「それでも十分だよ。殺さずに戦う手段は多ければ多い程良いから他にも使えそうな魔法があったら教えてくれるか?」
母さんが食事の時間になって呼びに来るまで皆で話し合った。
食事を食べながらファーレノールにいた時の事を話していると両親が深刻な顔をしてから声を絞り出した。
「そうか本当に戦争になると・・・・・」
「・・・・・・貴方達に危ない事は止めなさいと言っても無駄でしょうね」
「父さん、母さんに心配をかけるのは心苦しいけど俺達が戦わないと死ぬ人間が多くなるから戦うと決めた。ファーレノールで戦った神官はまさに狂信者としか言えない、味方も巻き添えにして殺そうとするヤバい奴だった。そんな奴らが契約石の大きな力に魅せられて暴走して暴れているのが現状だ。仲間と呼べそうな人達も出来たし、ロベルトとアリステアさんには父さんと母さんに自分達もいる事を伝えてほしいとも言われたよ。それに俺と香織は数千年は生きるからこの際に俺達や皆が暮らしやすい世界に出来ないかなと言う考えもあるんだ」
黙って考え込む両親を見ていると香織が頷いてから声を出した。
「成る程お兄ちゃんはそんな事考えていたのね。確かに文明は此方の方が進んでいるわよね。料理一つ取っても皆が美味しいと言っていたから言わなかったけど、もっと今食べている料理の様に調味料を使って工夫すれば美味しくなると思ったのよ。お茶も砂糖が入っていなかったものね」
「それは当然なんだ。此方の様に砂糖は簡単に手に入る物じゃないんだ。貴族でさえ偶に手に入れる事が出来るだけの高級品なんだ。誰でも簡単に使えるなんて僕には驚愕の事実なんだ」
「そうですわ。まして調味料を豊富に使うなんてありえませんわ。種類の豊富さとそれが安価で手に入ると知った時の私の気持ちは二人には分かりませんわよ」
シグルトとフレイの話を聞いて俺は一つの新しい案が浮かんだ。
「なあシグルトとフレイはケーキやクッキーなどを食べた時も凄いと思ったのか?」
「勿論なんだ」
「当然ですわ」
「ならこんな作戦は如何だろう。ケーキとクッキーを作って空間に保存して持って行く。そして味方は勿論戦って捕らえた人間にも試食させてからこう言おうと思う。家族や大切な人にも食べさせたくはないか?クッキーは袋を開けなければ長持ちする様に作ったから持って帰って食べてくれ。ケーキは一度なら食べていない人には此処に連れて来れば試食させよう。俺達の目的はこの様な食べ物を皆が普通に食べれる場所にする事だ」
皆が俺を見る視線が変わった気がしたがが気にしない様にして話を続けた。
「この作戦をする時の問題がある。公爵達の説得と試食させる物の確保だ」
其処まで言ってから一度下を向いてから香織に声を掛け様として声を出す前に嬉しそうな声で香織が答えた。
「良いよ、お兄ちゃんが私を頼ってくれるのは数える程だもの。調達資金は私がだすよ。他はお兄ちゃんの事だからもう方法は考えてあるんでしょう。私はあとは料理をすればいいのかな?」
「公爵達を説得する時に試食して貰う物を作るのと地下に作った食堂などに料理が出来る場所があるから人に教えながら作って欲しい。あと俺達が袋に入れて封をしたクッキーを炎を使って殺菌して欲しい」
了解してくれた香織からシグルト達に視線を移すと自分達は何をすれば良いのか聞きたそうにして待っていた。
「シグルトは此れから毎日俺と一緒に食材調達をしながら移動して行った場所で良さそうな場所を見つけて転移杭を使って貰う心算だ。あとは袋に封をするのを手伝って貰う。フレイは香織と一緒に料理をして他に良さそうな物があったら教えてくれ。あと向こうでは全体の管理を頼む」
シグルト達が頷いてくれたのを見てから明日から忙しくなると考えていると父さん達が声を掛けてきた。
「香織に頼ろうとしなかった直哉が頼る所を見られるとは思わなかったわよ。香織、直哉の力になれてよかったわね」
「あの一人で何でもやろうとする直哉も周りを頼れる様になったのだな。指示する姿も多少は様になっていたしな」
両親の言葉に顔を赤くすると俺達は顔を見合わせてから急いで食事を終わらせ風呂に入って眠りについた。
直幸と沙耶は子供達が寝た後に二人で静かに話していた。
「直幸さん私は戦争に関わらせる何て反対ですよ」
「俺だって否定したいが直哉の言葉を聞いただろ?それに自分で説得出来ないと言っていただろう」
「ええそうです、分かっていますわ。でも親として戦争を体験して変わってしまわないか心配なのです。肉体的に死ぬ事は無いでしょうが、精神的な部分が傷ついて治らなかったら同じでしょう。人が殺される所を見たり考えたくありませんが何かあって殺してしまったら普通でいられるとは思えないわ」
「そうかも知れないが。だからと言って何もしないで人が死んだら一生後悔する事になる可能性が高いだろ。向こうの世界でも親しい人達が出来たみたいだしな」
お互いに答えを出せない言葉に沈黙が生まれるとシグルトとフレイがやってきて話に加わった。
「全てを保障する事はできませんが私は出来る限りの力で二人の成長を歪めない様にしますわ」
「僕も同じ気持ちなんだ。あと殺す必要がある場合は僕達がやると決めているんだ。直哉と香織の力を狙う奴らも必要なら気づかれない様に処分するから安心してほしいんだ」
「・・・・・・・子供達をお願いします」
「任されましたわ。あと此れは伝言ですわ。ロベルトとアリステアさんから自分達も子を持つ親として心配する気持ちは理解出来るから協力するとの事ですわ。まあ此方では任せて欲しいとの意味で良いと思いますわ」
「直哉達が伝えるはずだったんだ。でも先程の直哉達の話では新しい仲間が宜しくと言っていたと言う意味に伝わっている可能性が高いと思ったんだ」
「・・・・・確かにそう聞こえたな」
「はあ、あの子達はもう・・・・。少し安心できましたわ。よろしくお願いしますと伝えてください」
「確かに伝えますわ。では私達は二人に気づかれない様に戻りますわ」
その言葉で皆が二人に気づかれない様に静かにそれぞれの部屋に戻り眠りについた。




