契約者達と準備
今日は帰る日なので急いで朝食をとって行動を始めた。昨日の内に公爵に幻影の魔道具を用意して貰ったので香織と共に装備して使ったあと強化する事で別人に成りすます事に成功した。変装して急ぎでやるのはリラクトンの改良だ。敵が攻めて来るのは確定なのでまず地の魔法で地面を掘って町の外壁の外から二十メーラ程の距離を縦に十メーラ程掘り下げた。掘った地面を水を通さない様に加工して水で満たして入り口に跳ね橋を架けて完成だ。
「おいおい派手にやったな。住人が驚いて騒いでいるぞ」
「籠城するなら水堀ぐらいあった方が良いだろ。あとで町の外壁も強化して置くから此れで易々と落とされる事も無いだろ。其れより周辺の町や村にした避難の呼びかけは如何なっている?」
「騎士団の方で呼びかけてはいるが大半は他人事扱いだな。東の村と南の村の二つ以外は避難する心算はないようだ。事情を説明しているが逆らわなければ無事でいられると思っている。むしろ俺達に合流した方が危険だと思われているみたいだ」
「香織とフレイの方は如何だ?」
「今の所おかしな会話はないよ。普通に仕事をしているみたいね」
「私の方も何もありませんわ」
「悪いが引き続きたのむ。あとロベルト、俺達がいない間だが身辺には気を付けておいてくれ。如何も昨日公爵の完治を喜んでいない奴らがいた様な気がしてな」
「おいそれは・・・・・」
「ああそう言う事だ。間違いならその方が良いんだがな・・・・」
俺達は視線を交えて頷き合った。その時シグルトが飛んで来た。
「公爵にネネビーの実を渡してきたんだ。準備はやっておいてくれるそうなんだ」
「そうかならあとは地下に避難場所を作っておくかな。食糧はミリステアさんが用意していたけど問題は無いかな」
「今の所順調に集まっている。二か月は持つはずだ」
「ああそうだ。堀の水は飲めるから今の内に確保して置いてくれ。それとギルド長達から何か聞けたか?」
「分かった水の事は親父さんとやっておく。ギルド長達は何も新しい情報はないな。正直捨て駒だった可能性が高い」
話を終えたロベルトがミルベルト卿の元に行ったのを見届け、周囲に俺達以外がいない事を確かめて話を始めた。
「この戦い勝てると思うか?」
「勝つだけなら簡単なんだ。龍や魔狼の力で殲滅出来るのは直哉や香織も知っているんだ・・・」
「だが、それは勝利と呼んで良いのか?」
「そのとおりよ、多数の死者を出しても良いなら交渉した意味がないわよ」
「私やシグルトもそれは分かっていますわ。ですが殺さずに勝利するのは難しいですし必要以上に気負うなと言う事ですわ。まあ私の意見としては香織の炎を使えば良いかも知れませんわね」
「香織の炎?如何言う事だ?」
「此処では説明出来ないから家に帰ったら詳しく説明するわ」
香織の言葉を聞きながら俺は気づくと自分に対する不安を口にしていた。
「・・・・・正直どのくらいまで力を使うかも迷っている。適切な大きさが分からないんだよ。足止めした時も正しく力を使えたのか?過剰な力を振るわなかったとは思えない。あの光の魔法はあそこまでの威力を出す必要はなかった・・・・」
「大丈夫なんだ。直哉には契約相手の僕がいるんだ。本当に不味い時は僕が止めるんだ」
「そうですわね。私もお説教をして差し上げますわ。それに香織がいるから無茶をしたら大変ですわ」
「フレイの言うとおりだよ。お兄ちゃんが相応しくない行動をしたらちゃんと私が教育してあげる事に決まっているんだよ。うふふふふふ」
薄ら寒くなる笑みを浮かべる香織から距離を取ってからそっとさり気無く聞く事にした。
「なあ、そんな事が何時からどうやって決められたんだ?」
「お父さん、お母さんと三人で一日話して決まったの。もう何年も前の事で抑々お兄ちゃんが使っている毎月のお金は誰が出し・・・・・・」
香織はアッと我に返ると喋るのを止めて口を噤んだ。しかし俺はその言葉に嫌な汗が流れる事を止められなかった。俺が使うお金は勿論父さんが出しているに決まっている。今脳裏に浮かんだ考えを心の中で必死に否定してから震える声で尋ねた。
「ととと、父さんが出しているんだよな・・・・・」
「・・・・・・・・あはははは」
「おっといけない地下に避難場所を作らないといけなかった。香織は調査を続けてくれ」
無言で笑顔を取り繕って笑う香織にこれ以上は致命的な事が起きると感じた俺は仕事に逃げる事にして、帰ったら必ず父さんに事の全てを確認しようと決意した。
「うわ、お兄ちゃん何やってるのよ。此れ避難場所には見えないわ」
「俺も正気を疑うな・・・・・」
「ははは、許可はしたが此処までやるとは思わなかったぞ」
「何を考えている?儂には理解不能だ・・・・」
香織、ロベルト、公爵、ミルベルト卿の声が耳に痛かった。無心で地下避難所を作っていたら何時の間にか色々と機能が足りないと考えてしまって我に返った時には出来ていたのだ。まずは部屋と道を沢山作った。此処までは問題無かったのだ。しかし俺はその後、トイレ、風呂、食堂、広場、子供が遊ぶ遊戯所、商店、鍛冶場、城の様な建物など快適に過ごす為の施設を作っていたら気づいた時にはこうなっていたのだ。
「まあ明らかに小さな町に見えるが作ってしまった物は仕方あるまい。だが直哉殿此処の明かりは如何するのだ?今は直哉殿が光の魔法を使っているが他の手段が無いと暗くて何も見えないと思うのだが?此れだけの広い空間を魔道具の明かりで照らすのなら私でも一か月以内に破産だな」
「・・・・・・・・・・・」
嫌な沈黙が訪れた。明かりなど俺はずっと魔法で維持出来るので作っていた時は気づかなかったが普通は公爵の言うとおりなのだ。返答に困っているとシグルト達が姿を現した。
「灯光花と言う光を出す花が有るんだ。其れを植えれば何とかなると思うんだ」
「しかし咲くまで時間がかかるのでは意味がないだろ?」
「灯光花は七日で枯れてしまうけどその分成長が早いんだ。約三日で咲く花なんだ」
「あの花は太陽の光が無くても咲くの?」
「香織灯光花は闇の中で咲く花ですわ。強い光は此の花にとっては害になりますわ」
「儂はこの年まで生きているがそんな花は見た事も聞いた事も無いのだが?」
「この花は本来闇の精霊地に咲く花なんだ。人間が知っているはずがないんだ」
その言葉の意味を理解したシグルトとフレイ以外は凍り付いていた。精霊地の植物の価値は計り知れないのだ。例えば水の精霊地に咲く水聖花と呼ばれる植物は万能薬の材料になるのだ。万能薬は病をどんな物でも治す物で本当に全ての病が治るのだ。また光の精霊地に咲く光輝花の雫は寿命を延ばす事が出来る延命薬の元になるのだ。
「・・・・・・灯光花は龍にとって重要な物のはずだ。何故私達人間にその様な物を渡す?」
「公爵は勘違いをしているんだ。僕は一度も公爵に渡すとは言っていないんだ。直哉に渡して直哉が此処に植えるんだ。所有権は直哉にある。それに此の花の効果は子供が出来やすくなる薬が作れるだけなんだ。子供が出来にくい龍なら兎も角人間にはいらないと思うんだ」
「そうでもないぞ。俺にはミリステアしか子供はいないし、公爵も娘がいるだけだ。本来跡取りは男の方が良いのだが生まれないから仕方なく女性が当主になる事が増えている。跡取りが欲しい者達や子供が欲しいのに生まれない夫婦には喉から手が出る程欲しい薬だぞ」
「・・・・・・・よし決めたぞ。この地下の町の権利は半分は直哉殿に渡そう。かわりに薬の製造と販売をして貰いたい」
「いや俺は製薬方法は知らないぞ?」
「了解しても大丈夫なんだ。製薬は暇な龍がやれば良いんだ。そして販売は店を開いてそこで売れば良いんだ」
「公爵様この返事は戦いが終わってからにさせてください」
「返事は終わってからで構わないが私の事はリグレスと呼んでくれ。長い付き合いになりそうだ」
その言葉に同意してから皆で地上に戻った。
俺達はリラクトンでやるべき事を一通り終わらせると自分達が使っている部屋に探査杭を使ってから龍の里に転移した。里に着いてからまずシグルトに報告を任せると俺達はガレオスの元に向かった。
「何の用だ。長が認めても我ら全員が認めたなどとは思わない事だ。我らの子供を助けたとはいえ人間に対する態度が簡単に変わると思うな。用があるなら早くすませて立ち去るがいい」
忌々しそうな表情を隠そうともせずに言い放つ姿に香織が顔を顰めると怒って発言した。
「何なの?此れが魔狼なの?私はお兄ちゃんに助けられたと聞いていたのに何でこんなに態度が悪いの?卑屈になれとは言わないけど最低限の礼儀は必要よね。私の大事なお兄ちゃんにふざけた態度をとっているとお仕置きするわよ」
「妹の様だが兄が強いからと言って調子に乗るのは止めるのだな。後悔するぞ」
「お兄ちゃん此処を隔離して」
香織の声に反射的に魔法を使うとフレイが声を出した。
「香織、殺さない様に気を付けるのですわ」
「大丈夫丁度良いから私の炎を使うわ。お兄ちゃんもよく見ていてね」
ガレオスが話している間に跳びかかって来たが香織は風の矢を数百本作り迎撃してから移動して距離をひらくと手を前に出して声をあげた。
「私は尻尾の毛を燃やすと決めた」
いきなりおかしな宣言をした香織を訝しく思って見ていると手から金色の炎が薄く一面に広がった。ガレオスが闇の魔法を前面に展開して防ごうとしたが金の炎は何の抵抗も無く通り過ぎてガレオスの体も通っていった。
「ふん何だこの魔法は?何も起きないではないか。警戒してそんをした気分だ」
「おいガレオスあのな・・・・・・」
何も分かっていないガレオスに告げようとしたが言葉にならなかった。
「ふふふふ、貴男自分の尻尾を見れば分かりますわ」
「何を言っている炎鳥の娘よ。我が尻尾が如何したと・・・・・・・・・・・・・・」
自分の尻尾を見て言葉を失ったガレオスがプルプルと震えている。それも其のはずだガレオスの尻尾の毛が全て燃えて無くなっているのだ。正直言って今のガレオスは哀れ過ぎて見て居られない。
「ねえガレオス、お兄ちゃんに対する態度を改めないのなら次は・・・・を燃やすわ」
途中の言葉が魔法を使ったのか聞こえなかったが香織の声を聞いたガレオスは目を限界まで見開くと即座に服従していた。
「お兄ちゃんガレオスの治療をしてくれるよね」
「ああ、分かった」
俺が治療を始めてもピクリとも動かないガレオスを不気味に思いながら毛を半分の長さまで戻してやった。
「直哉殿このとおり感謝する」
「俺の事は直哉で良い。あまりにも変わり過ぎて不気味だぞ」
香織を見てから頷く姿に聞こえなかった言葉が知りたくなったが頭を振ってその考えを捨てた。
「ガレオスに会いに来たのは魔狼の子供が入った契約石を一つ取り戻したからだ」
「本当か」
今にも跳びかかって来そうなガレオスを前に契約石を取り出して魔狼の子供を治療して渡した。
「その子供の対価ではないが長にもう少し時間を貰え無いか交渉して貰え無いだろうか」
「今の期限では駄目なのか?」
人間の町に行ってからの事をガレオスに話してから結論を述べた。
「あまり強引に進ませると犠牲が大きくなるし、まだ確実ではないが少し疑念がある。それを調べる時間がほしい。今から二か月貰えないかな」
「長には頼んでみるが期待はするな。前に聞いたと思うが二番手の奴が煩いからな」
「ねえそいつが大人しければ問題ないの?」
「絶対とは言えないがかなり楽になる」
「一度会う事は出来ないかな?例えばこの龍の里に連れてくるのは如何かな」
「・・・・・・・奴が大人しく言う事を聞くとは思えないが一応話してみよう」
「子供の世話もあるだろうし俺達は此れで失礼する。長には経過を伝えて静観していて欲しいと伝えてくれ」
頷くガレオスを見てからこの場を去った。
「父さん報告は以上なんだ」
「思ったよりは、ましなのだろうが皇帝が殺されるとは・・・・」
「無理をしては行けませんよシグルト」
「大丈夫なんだ。あと父さんはまだ動かないでほしいんだ」
「何時でも動ける様に待機しているが我らは必要ないのか?」
「うん今はまだ必要ないんだ。此れからリラクトンで敵を迎え撃つ心算だけど直哉が色々考えているから今はまだ大丈夫なんだ」
「人を殺す覚悟のない奴に戦争が出来るとは思えないがな」
「僕は直哉はあのままでいて欲しいんだ。僕とフレイはそうなる様に動いているんだ」
「シグルトが其処までする必要があるとは思えないがまあ良い。今度は此方が得た情報を渡そう。炎鳥の使者が来た。内容は天狐の里でも行方不明者がいるそうだ。外に行って帰ってこない善狐と悪狐が五匹いるそうだ」
「・・・・・天狐の森は赤帝国とは接していないんだ。接しているのは炎鳥の森と竜の森そして商連合国だけなんだ。もし行方不明者が契約石にされているのなら商連合国も関与している事になるんだ。早く直哉に知らせないといけないんだ」
慌てて飛んで行こうとしたシグルトにシルフレーナが声を掛けた。
「まだ話は終わっていませんよ。商連合国は大金を使ってランカーや傭兵など戦える者を集めている様です。兵士も分からない様に少しずつ移動させているのでしょうが、まず間違いなく北西に進軍してガルトラントを落とす心算でしょう」
「この時期に動くのは事が起きるのを知っていないと無理だと判断して間違いあるまい。我らは赤帝国が契約石を作ったと考えていたが商連合国が作って赤帝国にそれと知らせずに自分で作ったと思わせている可能性を今疑っている所だ。理由は炎鳥を襲った者が赤帝国ではなく商連合国の兵士の可能性が高くなったからだ」
「・・・・・・・そうか炎鳥の森と接しているのは赤帝国ではサザトラントとガルトラントだがどちらも今回の事で契約石を使ってはいないんだ。サザトラントは当主が殺されているくらいなんだ。襲って契約石を作ろうとするはずがないんだ」
「そうだ。あと残されるのは商連合国だけだ。先に魔狼や我らが襲われているが契約石が本当に作れるか如何かの試験を赤帝国にやらせたと考えればおかしくは無い。天狐の契約石は奴らが持っていて侵攻に使うか、または赤帝国の第二皇子か貴族神官かの手に渡っている可能性もある。商連合国の奴らは何でも金にする金の亡者だからな・・・・」
忌々しそうに語る父さんを見て僕も暗い気持ちになったが直哉に伝えて皆で話すのが先だと思って気持ちをたてなおした。
「父さん、僕は直哉達に話してくるんだ。あと時の倉庫に入る許可が欲しいんだ」
「時の倉庫で何をするのだ?」
「これからの戦いに必要な物を取るんだ。あと灯光花を持って行く心算なんだ」
「灯光花だと・・・・分かった好きにしろ。ただし持って行った物は報告しろ。良いな」
頷いて僕は直哉に報告する為に飛んで行った。
俺達はシグルトと合流して時の倉庫に入って皆で作業をしていた。
「うわ、何此れ、何で魚の骨があるの?」
「ああ、その魚は五千年前の物ですでに絶滅している物なんだ」
「成る程化石の様な物なのね」
「うん今はそうだけど此処だけの話、昔の龍が作業中に食べた骨なんだ」
「・・・・・・・それはゴミと言う事ではありませんの?」
皆で骨を微妙な目で見て忘れる事にして作業を続けた。体感時間で二クーラ程作業をしてから休憩して、それぞれの得た情報をまとめて話をしていた。
「商連合国の奴らが私の弟を殺した可能性が高いのですね・・・」
「うん、まだ絶対とは言えないんだけど今ある情報ではそうなんだ」
「しかし困ったわね。ただでさえ皇帝を殺されて内乱なのに他国が攻めてくるなんてやめて欲しいわ」
「ガルトラントの当主はレクトンの町に敵がくる前に去って行ったそうだから間に合うと良いんだがな」
「そうだねお兄ちゃん。でも抑々商連合国はどんな国なの?」
「商連合国はお金が全ての国ですわ。商人ギルドが元になっていて八商家と呼ばれる大商人が支配していますわ。もっともこの八商家の入れ替わりは激しくて十年経つ家は今は二家だけですわ。隙を見せたら引きずりおろされて売り飛ばされてお金に換えられる様な国ですわ。自分の親や子を破滅させたり売り飛ばしたりする奴が普通に存在するのですわ」
俺と香織は初めは冗談だと思ったがシグルトが頷いているのを見て心底関わりたくないと思った。しかし契約石の事を考えると無理な望みだと分かっていて二人して長いため息を吐く破目になった。
「まあ今はまだ他国の事は頭の隅に留めておけば良いだろ。リラクトンに直接かかわるとは思えないしな・・・・・」
俺の気持ちを察してシグルトは素早く話題を変えた。
「必要な物が全て有って良かったんだ」
「確かにな。流石に裏で闇の倉庫と言われている此処は違うな。途中におかしな物が沢山出てきたぞ」
「噂には聞いていましたわ。何でも兎に角入れて置く倉庫を龍は持っていると言う話でしたわ」
「そうね、温泉のお湯が保存されていたのは驚いたわね」
「あれは温泉好きの龍のコレクションなんだ。三千年程前の各地の温泉のお湯があるんだ。各種効能があって良いお湯何だけど里の皆は使わないから此処に置いてあるんだ」
「勿体無いわよ。美容、成長促進、病予防、体力と魔力の回復まで色々あるわよ」
「欲しければあげるんだ」
「良いの、じゃあ取ってくるわね。フレイも一緒に行こうよ」
香織がフレイと共に楽しそうに話ながら歩いて行くと俺達は静かに話を始めた。
「気を遣わせてしまって悪かったな」
「香織の様子がおかしかったけど大丈夫かな?」
「香織は親の話や家族の話には色々思う所があるからな・・・・」
「軽率だったんだ。ごめん・・・・」
「気にするな。俺が上手くやれれば前に進めるはずなんだ。問題無いさ」
「直哉が香織の事を考えて動いているのは分かってるんだ。でも自分一人で抱える必要はないんだ。僕達は共に歩むんだから・・・・・」
「ありがとなシグルト。頼りにしている」
頭を撫でてお礼を言ってから気持ちを切り替えると香織達と合流して時の倉庫から外に出た。
シグルトの家に行く途中の広場でザインさんに出会った。
「何じゃ直哉達は此処にいたのじゃな。其方の御嬢さんは初めましてじゃな」
「お兄ちゃんの妹で香織と言います。よろしくお願いします」
「ほほう御嬢さんがあの直哉の大事な妹の香織さんじゃと、儂はザインと言うのじゃ。フォフォフォ」
「おい何を笑っている。おかしな事を言うなよ」
「さてのう、儂の記憶では何処かの男に妻におかしな事を言うぞと言われた記憶があるのじゃ」
視線を交わしてぶつけ合うと話を始めた。
「今日は此れから必要になる物を取りにきただけです」
「メルボルクスから聞いているのじゃ。何でも灯光花を取りに来たと聞いたのじゃ。灯光花は儂が薬にしてやるのじゃ。香織さんにも生成した薬を贈るのじゃ。男に飲ますと良いのじゃ」
「待て人の妹に何を言っている」
「ありがとうございますザインさん」
「香織も何でお礼を言っている」
慌てる俺を無視して顔色を変えずにお礼を言った香織を見てザインさんは納得顔で頷いていた。
「何じゃ妹の方はシッカリ自覚して更に覚悟も決めているのじゃな。兄の方だけが悪あがきをしているとは情けないのじゃ」
「そんな事ありませんよ。お兄ちゃんは色々考えていて今はまだ先に進んでも私の為にはならないと思っているだけなの」
ジッと見つめるザインさんに香織は笑いながら視線を交わしていた。
「御嬢さんの気持ちは分かったのじゃ。此処までにしておくのじゃ。お主は御嬢さんを大事にするのじゃぞ。自分を理解しようと努力して支えてくれる存在は貴重じゃぞ」
俺を見て話すザインさんに頷いてから話を変えた。
「龍の魔法の使い方を教えて貰えませんか?」
「お主は普通に魔法を使えると思っていたのじゃが?」
「戦争になる前に長く生きているザインさんの経験談を聞きたいのです。工夫すれば同じ魔法でも違う使い方が出来る事があるのが今回地下に町を作っている時に分かりました。だからザインさんなら俺が使う魔法の別の使い道を知っているかもと思ったのです」
「それなら私の魔法も見てくれませんか」
「分かったのじゃ。まずは今使える魔法の事を教えるのじゃ」
ザインさんの言葉に俺達は自分の力を説明した。
「直哉は威力の調節と時空魔法で空間を作る時に条件を組み込む事から始めるといいのじゃ。香織は炎の魔法の使い方を考えるのじゃ。シグルトは転移魔法を極めるのじゃ。そしてフレイは共感能力を鍛えて香織と感覚を共感させるのじゃ」
そう言ったザインさんは俺達に細かく丁寧に使い方を教授してくれた。
「儂が思いつくのは今言ったとおりじゃ。あとは訓練をして使い熟すのじゃ。あと香織は家に帰ったあとで先程言った使い方を試してみるのじゃな。フォフォフォフォ」
「おい何故俺を見て笑っている?変な事を教えた訳じゃないよな?」
一言お礼を言ってから嬉しそうに笑って頷く香織を連れて何かを企んで笑っているザインさんの声を聞きながら広場を足早に去った。
「それじゃあ行ってくるんだ」
「行ってらっしゃい、気を付けるのですよ」
「早く帰って来るのだぞ」
私達の前でシグルト達が転移して消えた。
「我が行った事もない異世界に送り出すのは二度目だが慣れんな」
「簡単に慣れるものではないでしょうがいずれは慣れますわよ。当分繰り返す事になるのですから」
「はあーーー。異世界は兎も角、此方の世界でも助けになれないとはな・・・・・。正直言ってまだ必要ないと言われた時は堪えたぞ。親なのに待つだけと言うのは苦しいものだな」
「・・・・・まあ直哉殿達と仲良く楽しそうにしているのだから良いではありませんか」
「それも腹が立つのだがな。親の我が一緒に居られず何も出来ない時に一緒に居るだけでなく、シグルトは小僧の事を気にかけて色々やっている様だし灯光花まで持ち出す心算だぞ」
「まあフレイさんも一緒だから大丈夫ですよ」
「うがーーーーそう言う問題ではないわ。シグルトはまだ子供なんだぞ。まだ親と一緒に居るのが当然なんだ。いくら契約したからと言ってもこんなに早く我の元から居なくなるなんて思わなんだわ」
叫ぶ夫を白い眼で見ながら押し殺していた感情を表に出して言葉にした。
「メルボルクス、私が我慢しているのですから大人しくしなさい」
睨みつけて黙らせた夫に告げた。
「あなたも叫んでいないで出来る事をやっておきなさい。シグルトは直哉殿達を信頼して頼りにしています。灯光花を持ち出す事がそれを示しています。叫んでいるだけでは直哉殿に負けてしまいますよ」
最後の言葉に体をビクつかせると夫は顔色を変えて動き始めた。
「小僧に負けるなど許容出来んわ。シグルトに頼られるのは此の父親の我だ」
慌てて家を出て行く夫を見て苦笑して長いため息を吐いた。
次回更新日について活動報告に書いてあります。
申し訳ありませんがご了承ください。




