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契約者達と皇妹達

 朝食を食べて一息つくとロベルトが迎えに来た。俺達はロベルトに案内されてメイベル様のいる部屋に向かい、扉の前に陣取った騎士団長におかしな事はするなよと睨まれながら部屋に入った。

 「あなた方が直哉殿と香織さんね。そこの椅子に座って話しましょう」

 俺達が座るとお茶をミリステアさんが持ってきて、そのまま椅子に座った。

 「ミリステア何故此処にいる」

 「簡単な事です。私も話を聞くからです」

 「出て行けと言っても聞く積りはないな」

 「勿論です。いくらお父様の言葉でも聞けません」

 父と娘の視線がぶつかり険悪な気配が漂った。

 「二人とも今は直哉殿達と話をする時間ですよ。控えなさい」

 「「申し訳ありません」」

 二人の謝る声が重なりお互いにばつが悪そうだ。

 「さて直哉殿話を聞きましょう。ですがまず初めに立場を明らかにしてください。でないと信用する事は出来ません」

 「分かりました。ですがまず此処を隔離させていただきます。やれシグルト」

 シグルトが部屋を隔離してフレイと共に姿を現した。ミリステアさんが立ち上がり剣を抜こうとするのを見てメイベル様が鋭い声をだした。

 「お止めなさい」

 ミリステアさんが座り直したのを見届けてメイベル様が謝罪してきた。

 「ただ驚いただけですから許してくださいね。しかしロベルトがお二人の事を話さない訳が此れで分かりましたわ。お二人は龍と炎鳥の使者と考えてよろしいですか」

 「いえ龍の使者ではありますが魔狼は様子見で炎鳥はある取引をして妹と契約して貰っただけです。ただし此の話の結果、共同戦線を張る可能性はあります」

 「契約・・・。やはりお二人は契約者ですか・・・。新しい契約者が生まれていたとは知りませんでした」

 「私とお兄ちゃんが契約者になってからまだ半月も経っていませんから」

 「契約したのは今回の騒動で僕が人間に襲われて直哉に助けられた時なんだ」

 「本題に入らせていただきます。まずは・・・・・・・・・・」

 俺達が龍、魔狼、炎鳥の里が襲われた事と襲う理由の契約石の事そして龍や魔狼の決断について話を終えると部屋の雰囲気は重苦しいものになった。

 「まずは兄と夫に話して協力を得るしかないでしょう。しかし契約石の力の強さによっては私達だけの力では如何にも出来ないかもしれません。龍の力を借りる事は出来ますか?」

 「俺が断言出来るのは契約石の破棄の為なら即座に三百匹までなら借りる事は出来ますが内乱は覚悟してくださいと言う事です。龍達は契約石を持つ者達に容赦はしないでしょう。それに推測が正しければこの国は確実に内乱が起きると思います」

 「おいそれは如何言う事だ」

 俺は自分が考えた簒奪の可能性について話した。

 「帝都の警備は厳重ですし、いくら何でも大丈夫のはずです」

 「いや常時厳戒態勢な訳じゃないから油断している所に契約石という未知の物が加われば不可能じゃないかもしれない」

 「他国であれば別ですが皇帝と皇太子を殺してしまえば抵抗せずに降る者は確実にいるでしょう。まして契約石の力を見せられれば大人しく従った方が良いと思うでしょう。成る程何故私を話をする相手に選んだのか分かりました。確かにそうなったら生きる為には戦う道しか私には残されていません」

 お茶で渇いた喉を潤し今後の行動について話す事にした。

 「私の権限で協力を約束します。帝都に使者を出すのでその結果が分かるまで待つ様に龍達に伝えてください」

 「分かりました。襲ってきたギルド長達が百人以上いますが処罰をお願いしてもいいでしょうか?あと俺達は如何すればいいですか」

 「問題なければ此処に滞在してください。ギルド長達は牢屋に入れて置いてください」

 「お言葉に甘えさせて貰います。リラクトンの町に買い物に出る許可はいただけますか」

 「全員に大事なお客様と伝えておきますから自由にしてかまいませんわ」

 「よしなら俺が案内してやる。先に牢屋に行ってから出かけようぜ」

 空間隔離を解いて部屋から出たがシグルトがいないので戻ろうとすると先に行くようにフレイに言われた。不審に思いながらも皆で先に行く事にした。


 「如何かなさいましたか?」

 メイベル様の声に僕は再び部屋を隔離して言葉を選びながら話を始めた。

 「言っておきたい事があるんだ。直哉と香織を絶対に戦力に組み込まないでほしいんだ。まして殺人は論外なんだ。直哉が普通に殺せる様になったら不味いんだ」

 「何を言っているのです?此れからの事を考えれば契約者の力を振るうのは当然です。でなければ協力する意味が無いです」

 「横から口を挟むものではありませんわミリステアさん。それに如何して振るうのが当然なのですの?」

 「強い力を持っているのだから弱者を守るのは当然です」

 「既に守られているのにまだこれ以上を求めるのですの?」

 「何を言っている私達は守られた事など無い」

 失望しながら僕達はメイベル様を見つめた。

 「一応理解している心算ですが確かめておきましょう、魔狼の事であっているでしょうか?」

 「うん魔狼が動かないのは直哉のおかげなんだ」

 「如何言う事ですか?」

 「はあ少し考えれば分かるでしょうに。良いですか仲間を取り戻す事をしないで静観しているのですわ。相手が強くて手が出せない訳ではないのはわかるでしょう。本当なら町の一つや二つは壊滅していてもおかしくないのですわ。何より対話は直哉がいなければ選択の中にありませんわ」

 理解して愕然とするミリステアさんを無視して僕達はメイベル様に話しかけた。

 「直哉の力は直哉だけの物だから無理強いは絶対にしないでほしいんだ。その場合僕が排除する心算だし最悪僕が勝てないなら先程言った三百匹の龍を呼ぶ事も考えているんだ。最後に龍は直哉と敵対する考えを放棄した」

 「お父様の炎鳥王も敵対しない方針ですわ。あと此れは最重要の情報として覚えておいてくださいね。政略結婚の様な物で取り込もうとして男や女を送り込んだら確実に暴走しますわよ。破滅したくなければ絶対にしないでくださいね」

 「直哉殿は人間を、いや違いますね生物を殺せないと言う事でしょう。今の話を聞いて私も其のままでいてほしいと思います。ただ頼み事はする事になるでしょう。権力などで強要しないとだけお約束します」

 「正当な対価を払うなら僕は関知しないんだ」

 「此処で私達が話した事は直哉達には秘密と言う事でお願いしますわ」

 了解が得られた僕達は隔離を解いて直哉達の元に向かった。


 ギルド長達を牢屋に入れて門の所でシグルト達と合流した。

 「何所に行きたい?」

 「私は服を買いたいなお兄ちゃん。今着ている服は里で貰った物で時代遅れみたいなのよね」

 「分かった。ロベルト新品の服を売っている店に案内してくれ」

 「新品は高いが金はあるのか?」

 「問題無い」

 「分かったついて来てくれ」

 ロベルト共に入った店は大通りにある隣の店が二つは入る一際大きな店だった。

 「おう、久しぶりだな。繁盛しているか?」

 「何だロベルトかよ。今はアリステアさんの服の注文はないしこの店にお前の金で買える物はないぞ」

 「うるせえよ。今日は此奴らの案内役なんだ」

 「えっと気を悪くするなよ。此の店の服は全部新品で生地も良い物を使っているから安い服でも金貨が必要になるけど大丈夫か?」

 心配そうな顔をして聞いてくる店員に金貨を数枚見せた。

 「すまなかったな。問題無いなら良いんだ」

 「香織好きなのを選んで良いぞ」

 「ありがとうお兄ちゃん」

 香織が服を選びに店の奥に行くのを見届けてから俺も適当に体に合う服を買ってついでにロベルトの服を探した。

 「おいロベルトこの黒い服で良いか?」

 「何がだよ」

 「俺達と一緒に行動する時の服に決まっているだろ」

 「待て俺は服を買う金は持ってない」

 「金は如何でも良いから渡せば我慢してでも着れるかだけ教えてくれ。じゃないとあの赤い服を着せるぞ」

 俺が指を指した服を見てギョッとすると慌てて話しかけてきた。

 「いや待てあれはヤバい。あんな服を着ている所を見られたら生きていけない。だが抑々子供に服を買って貰う心算はないぞ」

 「悪いが支給品だと思ってくれ。俺達と行動する時の仕事着だから行動中は着ていてくれ」

 「・・・・・何か意味があるんだな?」

 「ああ、俺だって女なら兎も角、男に意味もなく服を贈る趣味は無い」

 その時いきなり肩をつかまれた。振り返ると服を持った笑顔の香織がいた。

 「お兄ちゃん誰に服を贈るのかな?」

 対応を誤ると地獄を見るだろうが、俺は何年も香織の兄をやっていたのだ問題無い。

 「香織に決まっているだろう。俺が今まで香織以外の女に服を贈った事がないのは知っているだろう。今も香織がどんな服を着て可愛い姿を見せてくれるか楽しみに待っている所だよ」

 俺の言葉に香織は嬉しそうだが他の皆はポカンと口を開けて凍り付いていた。学校の友人も初めて聞いた時は同じ顔をしていたなと思い出しながら、自分は此れくらいは言えないと平穏には過ごせないのだと心で呟いた。

 「ねえどれが良いと思う?」

 「そうだな白と茶とこの薄い緑が良いと思う」

 「そっかお兄ちゃんは此れが良いのね。じゃあ他のは戻してくるわね」

 「ああ、急がなくて良いぞ」

 香織が去るとロベルトがすぐに話しかけてきた。

 「お前よくあんな言葉が咄嗟に出てくるな。正直侮っていたぜ」

 「昔からの事だしこれくらい普通だよ」

 「だったら此れなんか良いと思いますよお客さん」

 いきなり店員が話しかけてきて俺に何かを渡した。

 「如何ですか此れは魔法生地で出来ていて光の加減で見え方が変わるんですよ。夫婦の方に大人気の商品ですよ。ロベルトも前に・・・・・」

 「だだだ黙りやがれ」

 ロベルトは大人だから良いが俺には無理な物だと思って返そうとしたが何故か店員もロベルトも遠くに行っていた。

 「ねえお兄ちゃんその手に持っている物を如何する心算なの?」

 「ああ香織戻って来たのか。此れは店員に渡されてな」

 「何所に店員がいるの?お兄ちゃんは女の人には、私にしか服は贈らないみたいな事を言ったばかりだけど私に其れを贈る心算なの?」

 「いやそれはない・・・・」

 「じゃあ私以外に・・・・・・」

 「いやそれもない・・・・・」

 「ちょっとお話しようかお兄ちゃん」

 「・・・・・・・・・・・」

 服を買ってから後の半クーラ程の時間の記憶は俺の中には存在しない事になった。ただあの店員と逃げたロベルトに硬く復讐を誓った記憶だけが存在するのだ。


 買い物から帰ってくると何か慌ただしい感じがした。顔を見合わせて事情を知っていそうな人を探している時にミリステアさんが俺達を呼びに来た。

 「帝都に向かった使者が帰って来たのです。それも傷を負った公爵様からの使者と共にです」

 メイベル様の元に歩きながら聞いた言葉に気を引き締めると部屋に入った。

 「メイベル様直哉殿達をお連れしました」

 「ありがとうミリステア。直哉殿、先程帝都に向かった使者が戻りました」

 「何でも公爵様からの使者が一緒だったと聞きました」

 「そのとおりです。使者は警護隊長の手紙を持っていました」

 俺達は公爵本人の手紙ではないのとメイベル様が気丈に振る舞っているが隠せない焦燥に気づいて静かに次の言葉を待った。

 「・・・・・・・・手紙によると夫は今レクトンの町にいるそうです。ですが重症でこれ以上動かせないそうです。そしてバルクラントの兵士に追われているので援軍がほしいとの事です」

 「帝都で何かあったのだと思いますが何も書いていないのですか?」

 「何も書いていません。ですが使者の話によると帝城と帝都で戦闘が起きたと言っていました。それと帝都を脱出する時にガルトラント卿とミルベルト卿と他数名の貴族が合流したそうです」

 「親父殿もいるのですか?」

 「そう聞いていますがミルベルト卿も右腕を怪我している様です」

 「俺達を呼んだのは救援に行けと言う事ですか」

 「命令ではありませんが行っていただけると助かります。今即座に動けるのは騎士団の一部隊五百人が限度です。他は今騎士団長に命じて招集していますが数日かかるでしょう」

 色々考えたが如何見ても今公爵様に死なれるのは不味い。重症との事だが俺なら治せるだろう。さらにロベルトの親父さんがいるのなら仕方ないと結論した時、隣に居る香織がジッと見つめてきてから声を出した。

 「お兄ちゃん私は一緒だよね」

 正直置いて行く事も考えたが香織の目を見てやめた。

 「・・・ああ。一緒にレクトンに行くぞ。ロベルト此の買った服に着替えてすぐに出るから自分の馬の準備をしてくれ。食べ物とかは俺が持っているので問題無いから気にするな」

 「おい馬は俺のだけか?」

 「そうだ。悪いが俺達は馬より走った方が早いんだよ」

 俺の言葉に引きつった顔をしてため息を吐くと服を持って部屋を出て行った。香織にも先に部屋に戻って着替えている様に言って部屋に行かせた。

 「あの私も連れて行ってもらえないでしょうか」

 「悪いが無理だ。ロベルトを連れて行くのは俺達が公爵様達と面識が無いからだ。ロベルトなら親父さんがいるから分かるだろう。それが無ければ二人で行動するのがもっとも早く町に行ける方法なんだけどな」

 俯いて唇を噛み締めているミリステアさんと話を聞いていたメイベル様に告げた。

 「此れから俺達が帰ってくるまで二人は常に一緒にいて身辺を気を付けてください」

 ギョッとする二人に小さな声で話した。

 「此れは内乱です。つまり帝国に忠誠を誓う者達にはどちらが勝っても帝国に仕える事に変わりは無いのです。だから帝国に仕える者と貴方達個人に忠誠を誓う者とを混同してはいけません。何より俺達が勝った方が帝国が良くなるか如何かなど分からないのです。もし向こうの方が良くなると思ったのなら・・・・・・」

 「ふざけるな、そんな馬鹿な話があるか」

 「俺は守りたい人を守る為に常に最悪の事態を考えて動く事にしている。何も考えないで危険な目に遭うのは一度で十分だ」

 「分かった必ずメイベル様は私が守ろう」

 「夫の事はまかせます。私は自分の身辺に気を付けます」

 俺の言葉に何を思ったのか知らないが真面目な顔をして返答する二人を目にして部屋を後にした。


 俺達は昼夜を駆けて移動し続けてレクトンまであと一キーラまで迫っていた。

 「フレイ如何だったの」

 「すでにレクトンの町はバルクラントの兵士に半ば包囲されていますわ。しかも如何やら町の人々は公爵様達に出て行ってほしいみたいですわね。あと気になった事は神官が一人いた事と本隊がランカー達を伴って移動中だと言う話ですわ」

 皆との話し合いで此処に馬を置いて徒歩で近づいて魔法で姿を隠して潜入する事にした。町の中は予想以上に混乱していた。此のレクトンの町は帝領で領主は居らず代官がいるだけだ。代官は住人から事態の収拾を求められているが公爵様に意見出来る立場ではないので板挟みになっている様だ。

 「此れは酷いな。まずはロベルトの親父さんに会おう。何所に居るかな」

 「安心しろ今知っている奴を見つけた。よう、そこの女に振られて一月近く泣き・・・・・・」

 ロベルトの声に道を歩いていた一人の男が振り向いて突撃してきた。

 「なななな何を何時までも昔の事を言ってやがる。妻に聞かれたら誤解されるだろうが・・・・。だいたい何でお前が此処にいるんだ?」

 「娘の所にいたら親父さんが此処にいると聞いたんでな・・・・今何所にいる」

 「案内してやるから昔の事は忘れろ。良いな」

 案内されて向かった先の部屋ではどこぞの軍の将校みたいな目つきの鋭い老人が座っていた。入った瞬間に帰りたくなった程でこの老人に剣を抜いて追われるロベルトには同情してしまいそうだ。

 「ほうロベルトか?この様な所で会うとは大方儂が死んだか確かめに来たと言ったところか。残念だが儂はまだまだ死ぬ心算はないぞ」

 「あのな親父さん、そんな訳無いだろ。助けに来たに決まっているだろが」

 「ふんお前に助けられるなど一生の不覚だが儂だけの問題ではないから感謝してやる。だが此れで屋敷に入れるなどと思うなよ」

 「はいはい、最初から気になっていたんだがその腕は如何してピクリとも動かさないんだよ」

 「逃亡中は満足に治療出来なかったからな手遅れだとさ。だがお前を追い払うくらいはできるさ」

 苛立たしそうにしながらロベルトが小声で話かけてきた。

 「治せるか」

 「出来ると思う」

 「じゃあ頼む」

 「分かったあとで簡単な頼みを聞いてもらうぞ」

 「ああ分かった」

 「何をコソコソ話している。ハッキリ喋らんか」

 「今から腕を治療しますから動かないでください」

 そう言って俺は素早く動いて問答無用で治した。唖然としていたが自分の身に起きた事を理解すると態度を変えて鋭い声を出した。

 「何者だ」

 「俺の名は直哉だ。何所にでもいる普通の子供だ」

 「あちらの女性は?」

 「私はお兄ちゃんの妹です」

 「香織は良く出来た可愛い妹だぞ」

 睨み合う俺達の間に立ってロベルトが言った。

 「今はそんな事をしている時じゃないだろ。重症の公爵様がいるんだ。親父さんなら言ってる意味は分かるよな。安心して良いメイベル様が保障する人物だ」

 難しい顔をしていたが付いて来いと言って部屋を出て歩き出した。行った先の部屋では護衛隊長に警護された公爵が傷を負って眠っていた。公爵の怪我を治して驚愕して固まっている護衛隊長を正気に戻して皆で話していた脱出計画を話した。準備に二クーラ程かかるそうなので俺達はその間に休息をとる事にした。


 脱出の準備が終わる頃に俺はミルベルト卿を見つけ話しかけた。

 「すみませんミルベルト卿、脱出計画に必要なのでその兜と剣を貸して貰えませんか」

 「如何する心算だ」

 「その兜は顔が見えないので都合がいいのです。剣は武器なしで戦うのは嫌だからです」

 「答えになっていない気がするが・・・。まあ良い此れで先程の借りはなしだ」

 「分かりました。ありがとうございます」

 兜と剣を受け取り皆の所へ移動すると見られていたのかロベルトが何か尋ねようとしていたが気づかないふりをして無視した。

 「さて俺は計画の通りに戦ってくるから此方は任せたからな」

 「お兄ちゃん気を付けてね」

 「不覚を取ったら許しませんわよ」

 「僕も一緒だから心配ないんだ」

 シグルト達とも小声で話して最後にロベルトに香織の事を頼んだ。

 「分かった任せておけ」

 「お兄ちゃん私だって強いんだよ」

 「ああ勿論知っている。だけどそれでも俺は兄だから妹を心配するのはやめられない」

 不満そうな顔の香織の頭を撫でてから一人敵に向かって歩いた。


 兜をかぶって顔を隠すとシグルトに風の魔法を使ってもらい声を変えて拡大してもらった。

 「我が名はロベール、此れよりそなた達に戦いを挑ませて貰おう。我が怖くない者は掛かって来るが良い」

 呆気に取られた敵は正気に返ると猛然と突っ込んできた。まず初めは弓だった。百を超える矢が飛んできたが風の魔法で吹き飛ばし、魔法は前に音速の半分ぐらいの速度で走ってかわした。そして敵兵と接触すると剣、槍、斧、大剣、鞭と沢山の武器を持つ兵士に囲まれた。

 「この剣を見るが良い。この剣に斬れない物はない。安心しろ大事な剣に血を付けたくないから手加減してやる。安心して掛かって来るが良い」

 俺の言葉に怒りの叫びを上げて襲ってきたが剣や槍を持った兵士は武器を逆に斬り飛ばしてさらに鎧を斬り刻んでやったら腰を抜かしていた。鞭は掴んで振り回して投げ、斧や大剣は振るのが遅いので左拳を先に叩き込んだ。三百程倒しただろうか?俺を包囲するだけで挑んでくる者がいなくなった時、指揮官だろう男が出てきた。

 「お前は何者だ」

 「名乗っただろ。ロベールだ」

 「ぬう何処かで聞いた様な名だな。待てよその剣の家紋はミルベルト家の家紋だな。そうかお前がミルベルト卿の気づかない内に娘を妊娠させて、結婚したが屋敷にも入れて貰え無い浮浪者ロベルトだな」

 おいおい酷い言われ様だな。此れはロベルトの名誉の為にも言い返しておこうと思い反論した。

 「誰かと間違えている様だな。俺の名はロベールで此の剣は借り物だ。ロベルトの事は知っている。彼は若い時、愛の為だけに生きたのだ。だが彼の溢れる愛に親父さんが耐えられなかったから程々にする為に外にいるそうだ。何より彼は家族の為に戦う男の中の男、彼こそがミルベルト家の影の支配者で真の当主だ」

 「成る程では影の支配者にして真の当主殿に一騎討ちを挑ませて貰おう」

 「相手をしよう。だが先程から言っているが俺はロベルトではなくロベールだ。別人だぞ」

 即座に剣を抜いて斬りかかってくる速度はさすがに兵士とは違い速かったが俺には遅すぎる、勝てないのを分かっていながら挑んで来たことに敬意を表して一撃で倒した時だった。突然大きな魔力が発生して魔法が飛んできた。剣を使って弾き飛ばすと嘲る様な声が聞こえた。

 「おや、よく今の魔法を防げましたね。褒めてあげましょう」

 「何だお前は。仲間ごと殺す心算か?」

 「その無能者なら死んだ所で問題ありませんよ。むしろ無能が世界から消えて我が神もお喜びになるでしょう」

 「その服装と発言を聞くと神官の様だが随分口が悪いな。お前の様な下品な奴が神を語るとは世も末だな」

 俺の言葉で顔を真っ赤にして激怒した神官は何かを掴んで叫んだ。

 「愚昧なる男に神の鉄槌を与えましょう。死んで後悔しなさい」

 俺に向かって大地から槍の様な物が飛んできた。咄嗟に似た様な魔法を使って迎撃したが、なんと強化していなかったとはいえ俺の魔法が打ち負けて神官の魔法を腹と顔を庇った腕に受けてしまった。

 「がはっ」

 一瞬だが息がつまり口に血の味がした。

 「うははははは、いい気味です。私に逆らうからこんな目に遭うのですよ。寛大な私は生きる価値の無い貴男を世界と我らが偉大な神の為に死なせてあげましょう。泣いて感謝するのですよ」

 空に闇の球体を魔法で作りながら神官の男が好き放題に発言しているのを聞き流して質問した。

 「おいその魔法を使ったら此処にいる人間は全員死ぬんじゃないか?」

 「私は神の力が守ってくださいますから問題ありません。死ぬのは死んでも良い無能だけです」

 その言葉に俺を包囲していた兵達が混乱しかけたので少し大きめに魔力を放出して声を出した。

 「動くなお前らの指揮官は一人で俺と戦った。お前らも根性見せろ。動かなければ助かる」

 兵士に呼びかけている間にシグルトが兵士を守る為の魔法を使っていた。心の中でシグルトに感謝していると神官が叫んで魔法を使った。

 「偉大な神の力の前に無能な者に何が出来ると言うのです。愚か者は死なねば神の偉大さを理解出来ないのでしょう。死になさい」

 俺は慌てずに闇の球体が落ちてくるのを見ながら光の光線を飛ばす魔法を寿命を削らない限界まで強化して放った。放った瞬間に不味いと思ったがもう如何にもならない。頭上に光の柱としか言えない魔法が放たれ闇を一瞬で消し飛ばしてさらに雲を吹き飛ばしてまるで太陽に向かう様に進んで行った。しかも光が消えるまで六半クーラ以上あった。まさに神々しい光景と言って良いだろう。

 「さて神の力とやらは如何やら吹き飛んだ様だがまだ何か言いたい事はあるか?」

 全員呆けた様に空を見上げていたが俺の言葉に正気に返ると兵士は武器を捨てて神官は怯えていた。怯える神官の傍に一瞬で移動して手に持っていた物を奪うと思ったとおり契約石だった。

 「返しなさい。それは我らが偉大な神から与えられた力です。お前の様な者が手にして良い物ではありません」

 「神の力だと?ふざけるな。こんな小さな魔狼の子供から無理やり力を搾り取って使うのが神の力だと言うのか。だとしたら邪神の力の間違いだ」

 「貴様・・・、我らが神を邪神と言うのか今貴様は神敵になったぞ。跪いて詫びるのなら今が最後だぞ。詫びれば慈悲を持って楽に死なせてや・・・」

 怯えながらも世迷言を言う神官を蹴り倒して踏みつけて殺気をぶつけながら声を掛けた。

 「寝言は寝てから言え。今この場で死ぬのは俺とお前どちらかも判断出来ない程無能なのか?お前の言い分だと無能が死ぬと神とやらは喜んでくれるそうだな」

 ようやく黙った神官を襟首掴んで立たせてギルド長の時の様に空間に入れる事にした。今回は空間の入り口を足元に作って少しずつ入って行く様にしたので神官は最後まで喚いて恐怖の顔をして入っていった。一部始終を動く事も出来ずに見せられた兵士達は腰を抜かしてへたり込んでいた。

 「指揮官と仲間の治療をすると良い。一人で戦いを挑んできた指揮官に免じてこの場は見逃そう。だが追ってくれば容赦はしない。神官みたいになりたくなければこの場で大人しくしている事だ。そして特にふざけた力を使う者達には容赦しないと伝えておけ」

 兵士達は青い顔をして頷いた。俺とシグルトが香織達と合流する為に歩きだしたが追ってくる者は一人もいなかった。

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