契約者達と語られた御門の力と忘れた過去
「まず最初に言って置く。俺が知っている御門の話は和希から聞いた物が大半で確証の無い物も多い。間違っていない保証はないからそう心得てくれ」
「ああ、分かった」
十分以上ジッと黙っていたのでどんな一声が出るかと身構えていた俺は、当たり障りのない前置きに少し拍子抜けしてしまった。しかしそれは父さんの気遣いで、話を最後まで聞いた時にはそれが大きな間違いだったと気づかされる事になった。それほど話は俺にとって厳しいものだったのだ。
「俺が知る限りでは御門の力は大きく分けて三つある。札術、夢見、占術の三つだ。そして俺が辛うじて使えるのは札術のまがい物と夢見だけで、特にこの夢見が最悪の力なんだ」
「最悪?」
「ああ、夢見は夢で自分を中心とした身内の未来を見ると言うものだ。自身の事は十割、親や兄弟、妻や子供は七割の確率で当たるらしい」
「へえーー、でもまあ確率が半分でも便利そうな力だと思うんだけどな」
「ふん、便利なものか。良いか、良く考えろ。不幸な未来が十割の確率で当たったらどうなると思う。どれだけあがいても回避は不可能なんだぞ」
「・・・・・・・・待ってくれ。自分の意思や行動で変更は出来ないのか?」
「一つの例外を除いて出来ない。俺は家を飛び出す前の母の怪我を夢見で知っていて、必死に変えようとしたのに防げなかったし、他の事でも実証済みだ。フッ、俺に失敗の内容は聞くなよ」
暗い自嘲の笑みを浮かべた父さんを見て、俺はかける言葉が思いつかなかった。そしてふと恐ろしい事実に気づいて冷や汗を掻く事になった。
「なな、な、なあ父さん。聖華さんが結婚する夢を見たって言ったのは・・・・・・ははははは、違うよな・・・・ははははははは」
「運命と口にしたんだろ。なら考えるまでも無く夢見だろ」
「・・・・・・・・・じょじょ、冗談だろ・・・・この俺が未来で聖華さんを妻にするとでも?あああ、あり得ないだろ。おおお、俺にそんな意思は・・・・・」
愕然とした俺は震える声を出しながら、自然と脳裏に浮かび上がってきた恐ろしい一人の夜叉の姿を、ブンブンと首を振って追い出した。その時横でシグルトがボソリと「そう言えば寝る前に香織に会った時、夢と言ってブツブツ呟いていたんだ」と言う呟きが聞え、追い詰められた窮鼠の気持ちになった俺の視界は歪み、ドクドクと鼓動する自身の心臓の音が煩く感じた。なんと俺は一瞬で過呼吸になって倒れそうになってしまっていた。
「おいおい、大丈夫か?この程度でそんな風になっていたら持たないぞ。まあ直哉は俺と違って第四世代の男で特殊だから何とかする方法があるはずだ。安心しろ。・・・・・・・・・・・・・・幼いお前の夢見の事もあるしな」
「・・・・・・・・・・其れを早く言ってくれ」
力強く安心しろと言われた俺は安堵に脱力し、その後の小さな呟きを聞き逃してしまっていた。故に横にいたシグルトが聞こえた事にも気づかず、父さんとシグルトの間で目配せがあった事も気づかなかった。
「其れで具体的な方法は?ああそう言えば例外とやらもあるんだよな?」
「ああ、例外はある。だが其れは同じ時間の未来を複数見た時だ。其の時は行動によってどちらかを選べる。俺の経験だと結婚相手が二人いた。一方はどこぞの令嬢とのお見合い結婚で、もう一方は言うまでも無いだろ。ああ、勿論沙耶には言うなよ」
「・・・・・・やっぱり殴ったのは母さんと結婚する為なんだな」
「いや、自分の為だよ。お見合い結婚の方は最悪でな。夢見で分かる部分だけでも政略結婚らしく暖かい家庭と呼べるものは無いみたいなんだ。しかも異父弟と激しく当主の座を争って母さんが心労で倒れるんだ」
「それは・・・・酷いな・・・・・」
「ああ、まあな。如何考えても幸せそうじゃない未来だから回避させてもらった。まあ其れだけでもないんだが・・・・・」
父さんは言いたくない事でもあるのか言葉を濁して肩を竦めた。それから誤魔化す様に胸を張って真顔で宣言した。
「フッ、まあ例え何かあったのが沙耶の方でも、俺は必ずそっちを選んだけどな。後、俺は夢見なんぞではなく自分の意志で未来を選んだんだ。其処は勘違いせずに覚えて置いてくれ」
「おい、なんで俺が覚えて置かないといけないんだよ、父さん。それにいい歳した男が真顔で惚気ないでくれ。自分の親だと痛々しさが倍増して辛い」
「フン、自分だって同類のくせによく言うな。今自分がなんの為に必死に夢見の回避方法を探ろうとしているのかを、ちゃんと自覚しているのか?」
鋭い指摘にグッと言葉が詰まった俺が黙り込むと、父さんは此方を見て何かを窺う様に話しかけてきた。
「・・・・・・・・なあ夢見と聞いて・・・・今話していて何ともないのか?今の気分は如何だ?頭痛や眩暈がしたりしないか?」
ジッと見つめてくる父さんの真剣な顔に真っ先にシグルトが反応して警戒し、俺は高まった緊迫感の意味が分からず困惑したまま首を振って否定した。俺をジッと見て嘘では無いと感じた父さんは「確かに当たり障りのない話題から入ったけど・・・・何も引っかからないとは・・・・俺の杞憂なのか?しかし・・・・・やはり確かめるしかないか・・・・・」と呟いて、安堵と落胆の混じった複雑なため息を吐くと、会社帰りで持っていたカバンをごそごそとあさり始めた。
「おっ、あったあった」
そう言った父さんは紙を取り出してテーブルに置くと、覚悟を決めた厳しい雰囲気でカッターを取り出し、躊躇なくザクリと腕を切った。
「おいおいおいおい、いきなり何をやっている!!すぐに治療を・・・・・・」
「今はいらん。少し黙って見ていろ」
苦痛を押し殺した父さんに重く静かな声で制止された俺は、シグルトと共に息を呑んでボトボトと溢れる血で紙が真っ赤に染まるのを見る破目になった。そしてとうとう血だまりに紙が浮かんでいると表現しても良いような状態になった時、父さんが気の抜ける声で話しかけてきた。
「あーーー、もう良いだろ。悪いんだけど治療してくれるか?痛いしザックリやり過ぎて血が止まらん」
「あのなーー。もう、早く見せろ。見ているだけでこっちも痛くなるんだぞ」
憮然とした俺が眉を顰めて素早く傷口を魔法で治療すると、父さんは感心した様子で何度も頷いて、傷が無くなった腕を頻りにさすっていた。
「魔法を初めて体験して驚くのは分かるが・・・・・」
「・・・・・・初めてじゃないぞ」
「はあ?何時魔法を・・・」
「直哉・・・香織・・・・・・」
シグルトが小声で囁いた名に俺は父さんが香織の時計を壊して連れて行かれた事を思い出した。あの時は逃げられた事の方が気がかりだったのですっかり忘れていたけど、父さんは不幸な事故で肩を負傷していたはずだ。今腕をいやにしみじみと撫でている父さんを見ると、あの後更なる不幸な事故にあったかも知れないとの思いが湧いたが、それは聞かない方が良いだろう。お互いの健全な精神の為に・・・・・。
「んんん・・・・・・で、こんな事をして何がしたかったんだ?」
「まあ見ていろ。・・・・・・・・ふん」
父さんが気合の入った掛け声を出すと、血に染まった紙が浮き上がった。俺は驚きつつも此れから如何なるのかとワクワクしながら注視したのだが、期待に反して其のまま浮かぶだけで何も起こらなかった。
「・・・・・・・なあ父さん、何がしたかったんだ?」
「・・・・・ふん、魔法をバンバン使う息子には不評の様だが、此れは盾で強度も鋼鉄よりはるかに硬いんだよ。一応これで何度か命を救われた事もあるんだぞ」
「へえーー、此れがねぇーーー」
見た目があれな紙を疑いの目で見た俺は、試しにカッターを使って切りつけてみた。するとカキンと音をたててカッターの刃がかけた。
「うお、見た目は唯の紙なのに凄いな・・・・・」
「ふん、少しは感心したか?」
「なんか自慢げな顔で癪だな。よし試してみるか?」
「おい、何を・・・」
父さんの声を無視した俺はカッターを強化して切りつけた。すると今度は唯の紙の様にアッサリと真っ二つになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・所詮俺の力はこんなものだよ、ふん」
呆然とした長い沈黙の後、父さんは顔を背けてふて腐れてしまった。シグルトの大人げないと言いたげな非難の視線も顔に突き刺さり、居た堪れなくなった俺は必死に父さんの機嫌を取る破目になった。ちなみに父さんの機嫌はなかなか直らず、此処に酒を隠して良いと言う事で手を打つ破目になった。これで俺は母さんにばれた時、父さんの共犯者になって一緒に睨まれる事になるだろう・・・・・。
「んん、では話を再開しよう。この紙を触ってみろ。何か感じないか?」
「えーー、触るのかよ・・・・・」
ハッキリ言って親の血で染まった紙など触りたくも無かったけど、俺は先程の事もあって嫌々ながら従った。
「うっ・・・・・・・・。なに・・が・・・・・・」
ネチョっと何とも言えない触感に辟易していると、指先からピリッとしたものを感じ、心臓がドクンと大きく鼓動した。そしてそれから程なくギリギリと締め付けられる様な頭痛を感じ、グニャリと視界が歪む程の激しい眩暈を引き起こした。
「ガッ・・・・・グッ・・・・・・・・・・」
「直哉!!」
「クソッ・・・・ヤッパリ・・・・共鳴している・・・・・・此れは・・・・・・」
シグルトの叫びと父さんの忌々しそうな声が聞えた。しかし今の俺には其れを気にする余裕は無かった。ギリギリと痛む頭痛はますます激しくなり、とうとう耐えきれずに意識を失いそうになる寸前、脳裏に何かが見えそうになった。
「嫌だーーーー、止めろーーーーーー、俺は、俺はーーーーーー」
自分が何を口走っているかも認識せずに限界まで叫んだ俺は、シグルトが必死に魔法を掛けてくれている事にも気づかなかった。
「クッ、やはり・・・まだ直哉は・・・・・・」
「直幸、何か知っているの。なら何とかするんだ。じゃないと僕は直幸でも・・・・・」
「分かっている、シグルト。さっきからそう警戒するな。俺とて息子を意味も無く苦しませたい訳じゃ無い」
この時の俺には認識出来なかったけど、父さんは素早く力を使うのを止めて、ただの紙に戻った紙をシグルトに燃やす様に告げた。すぐさまシグルトがブレスで紙を焼き尽くし、それに伴って時間の経過と共に徐々に俺の異常は回復していった。
「はあ、はあ、はあ、父さん・・・・・・これは・・・如何言う事だ。はあ、はあ、俺はいったい・・・・・・」
「知りたいか?此れから先の話をすると、今の苦痛をまた味遭わなければならないかも知れないぞ」
重々しい父さんの声に、自分の体が意図せずにビクビクと震えた。両手で己が体を抱きしめて耐えていると、シグルトがそっと背中を撫でてくれた。そして耳元で優しく声を掛けてくれた。
「直哉、辛いなら僕が代わりに聞いておくのも一つの手なんだ。僕は共に生きる契約相手、だから遠慮はいらないんだ」
「・・・・・・シグルト、ありがとう。だけど聞かなきゃ先に進めそうにないし、もう今更避けても無駄なんじゃないか?そうだろ、父さん」
「まあな。今ので分かったが既に御門と関わっているのでは逃げても無駄だ。真面に使えないはずの俺の血と力で共鳴するのでは、御門の正規の術者の血と力に晒された時どうなるか考えるまでも無い」
其処まで言った父さんの視線が俺の物と重なり、そこから言葉にできない葛藤が伝わってきた。父さんも怖いのだろう。先程の俺のあり様は見れた物じゃ無かったはずだ。この場に香織や母さんが居ない事を心から感謝したいくらいだ。
「・・・・・・・・さっき何かが見えそうになった。あれは・・・・・」
震えしゃがれた声で話す俺に、眉を顰めた父さんは此方が落ち着くのを待ってくれた。そして父さんは何度も何度も躊躇しながら恐る恐る口を開いた。
「直哉はかつて夢見の能力を持っていた。だが今はその事を覚えていないだろう」
「・・・・・・・・・・・ああ、覚えていない。だが体の震えが止まらない所を見ると・・・本当なんだな」
「ああ、勿論嘘では無い。例えば直哉は襲われて刺された時の事を不思議に思わないか?」
「・・・・・・如何言う意味だ?」
「普段の直哉ならすぐに分かりそうな物なんだが・・・・やはり無意識に避けて・・・・・。まあいい。たとえ話をしよう。普通に考えて大人が小さな子供達を刃物で襲って逃がすと思うか?」
「それは・・・・・・・」
「さてでは当時の直哉達に当てはめてみよう。あの時直哉達を襲ったのは子供を襲う事に躊躇の無い、荒事を何度か経験していた者だ。どう思う?」
「・・・・・・それは・・・」
父さんに指摘されて俺はようやくその異常性を認識した。どこぞの架空の主人公ならいざ知らず、其処ら辺に居るただの子供が突然襲われて、刺されながらも冷静に対処して逃げ、まして犯人を撮影して置くなどあり得ないのだ。
「ようやく気づいたか。そうだ、あり得ないだろ。当時契約者だった訳でもないただの子供の直哉が、体力も場数も勝る大人に不意打ちで襲われ、他人の助けも借りずに如何にか出来るはずが無い。まして香織を庇いながらだぞ。だから実際当時の警察もそこは訝しんで疑っていた」
言葉にできないヒヤリとしたものを感じた俺が当時を思い出して顔を顰めると、心配したシグルトが代わりに口を開いた。
「直幸、でも僕は前に香織から直哉が助けたと聞いたんだ。僕にはあれが嘘とは思えないんだ」
「ああ、違う違う。直哉が一人で香織を助けた事に疑いはない。だが其れにはカラクリがある。夢見の力と言うな」
「夢見、つまり事前に見ていたから助かる事は確定していたって事か?」
「そうだったらまだよかったんだがな。第四世代の直哉の夢見は俺達他の者とは違うんだ」
「違う?」
「ああ、直哉の場合は其れが現実となるまで何度でも見れるんだ。そして見た夢は生々しい実感を感じる程の夢だと当時の直哉が口にしていた。如何だ?何か思い出さないか?」
「・・・・・・いや、体の震えが大きくなっただけで・・・・・・・」
「そうか・・・・・。あの当時の直哉は毎日夢を見て、毎回違う行動をとったそうだ。それで自分だけ助かった時も香織だけ助かった時もあったらしい。無論大半は香織ともども殺されたらしいがな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「直哉・・・・・・・」
実感を伴うそんな夢を毎日見ていたと聞かされて言葉も無い俺に、シグルトが心配そうな声で呼びかけて背中を擦ってくれた。
「何度も失敗しながら必死に二人で助かる方法を模索した直哉は、鬼気迫る執念からかとうとう其れを見つけた。其れが直哉が現実にとった方法だ。それが判明してから直哉は、毎日夢の中で練習したそうだ。毎日毎日刺されて精神をすり減らしながらな。知っていて止める事も出来ずに見ているしか無かったのは今も後悔が残っているよ。例え経験から無駄で、むしろ直哉の邪魔になると分かっていても父親として何か出来たんじゃないかってな」
「父さん・・・・・・・」
顔をぐしゃぐしゃに歪めて語る父さんに、俺はかける言葉を持たなかった。そして代わりに、覚えていない当時の俺は、どんな気持ちでそんな無茶な事をしていたのだろうと思いを馳せた。
「・・・・・何か思い出さないか?」
「いや、全然思い出せない。なあ父さん、俺は毎日夢で刺されていたんだよな。当時の俺はよく耐えられたな。今の俺には良く分からないけど、生々しい実感を感じる夢だったんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・それには理由がある。だが本当に聞くか?俺は此処に来るまでに聞かれれば全てを話す覚悟を決めて来たが、今更変えられない過去で知らないなら知らない方が良い事もあるとも思うんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・教えてくれ。父さんの表情を見ただけで碌な事じゃない事は分かる。だが聖華さんはハッキリと俺の心の話だと口にした。向こうが知っているのに知らないのでは後れを取る可能性が有る。それにずっと忘れていられると決まっている訳でもないんだろう?むしろ先程の事を考えれば・・・・・」
視線を合わせて退く心算は無いと意思を込めると、父さんは深い深いため息を吐いて淡々と告げた。
「当時の直哉は事故前に夢見で和希達の事故を見ていた。死ぬところまでは見ていなかったみたいだが・・・・・事故後死んだことを聞いて酷く取り乱していた。フッ、俺も当時は平静じゃ居られなかったな。直哉が香織を何としても守ろうとするのは、それも影響しているんだろう。そして香織との関係を進められない原因の一つでもあるはずだ・・・・・」
自嘲の笑みを浮かべた父さんの言葉は部屋に寒々しく響いた。俺は初め言われた事が理解出来ずに・・・いや、理解を拒否したのだろうか・・・何度も瞬きしてからようやくじわじわと理解し始めた。そして完全に理解した時には頭をガツンとハンマーで殴られた様な大きな衝撃を受けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘じゃないんだな」
「流石に今こんな嘘はつけないさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・俺は・・・俺は・・・・」
「待って欲しいんだ。先程の説明では夢見は身内・・・・・アッ、そうか・・・・・」
「そうだ。香織がいる。俺は直哉から聞いていないが、未来で和希は義父になる可能性があったんだろう。じゃないと妻や夫もなる前に見える事に説明がつかない」
感情を押し殺した事が丸わかりな父さんの重苦しい声に、俺は一つの嫌な想像が頭に浮かび、顔を強張らせて違っていてくれと思いながら尋ねた。
「・・・・・・和希さん達はその事を・・・・」
「・・・・・言うか言わないか散々悩んだけど、夢で一緒では無かったらしい香織の事を考えて和希には俺から話した。香澄さんは知らないはずだ。始名家須王に残された一人娘の香織が俺達に引き取られて今日まで過ごせたのも、生前の和希が最悪の事態も考えて色々と手を回していたからだ」
「グッ・・・・・やっぱり話していたのか・・・・・和希さんはどんな気持ちで日々を過ごして・・・・・俺は香織に何て言えば・・・・・此れからどんな顔をして会えば・・・・・」
「気にするな。いつも通りで居ろ」
「ナッ、でも・・・・・」
「初めに言ったはずだぞ。此れから話す事の一部は墓場まで持って行けと。沙耶にも香織にも言うなと・・・」
「それは・・・・でも・・・・・・俺なら変えられたんじゃ・・・・・・・香織を助けた様に・・・・・」
「無理だ。あの夢は直哉自身が登場していないから、直接変えられなかったんだ。それに例え変えられたとしても七割の確率だから絶対じゃないし、今の俺は直哉の力を夢見と同じと考えていいのか疑問に思っている。あやふやな力に頼って考えるのは危険だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言わずに背負え。此れは父親から息子への命令だ」
「・・・・・・・・・・・・・・分かった」
厳しく険しい顔になった父さんは反論を許さない断固とした口調で告げ、その後俺の返事を聞いて微かにホッとした表情をした。そしてすぐに何かを思い出した顔をして、ニヤニヤと笑いながら告げてきた。
「夢見の内容を話した時の和希は、今すぐ直哉を殺すべきかと考えてどす黒い殺気を振りまいていたぞ。あれは心底から憎悪されていたな」
「・・・・・・・まあ仕方ないな。自分が事故になる何て言われれば・・・・・」
「違う違う。直哉が和希の夢見を見たのが許せなかったんだ。其れは未来で香織を毒牙にかける男と言う事だろ。当時の香織はまだ子供で目に入れても痛くない程可愛がっていたんだ。この前話した時、直哉はよく無事だったよな。俺は本気で怨霊になった和希に呪い殺されるかもと思っていたよ。ははは、まだ香織との仲が許容範囲でよかったな。・・・・・次は分からないけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言になった俺は、和希さんが厳しく叩き込んできた数々の作法などを思い出していた。俺がちょっとでも失敗すると、この程度で香織の横に立てると思っているのか!!と何度も叱責する姿は、今思うと手を出せ無いから口でいびり殺そうとしていたのかもと思えた。
「ははははは、まさかな・・・・・・・・・」
俺が渇いた笑い声を響かせると、此方の様子を気遣って話題を振った父さんは、一つ頷いてからシグルトを見て次の話を始めた。
「俺は傷付いたシグルトが直哉の部屋に転移したのは偶然じゃ無いと思っている」
「エッ?」
「何だと?如何言う意味だ、父さん」
驚いて目を瞠る俺達に、父さんは忌々しそうに告げた。
「先程から何度か口にしたが、直哉は四世代目だ。此れは御門の男の血族から生まれた第一子が男の子だった時に、二世代、三世代と言うらしい」
「ふーん、それが如何かしたのか?」
「ふん、御門は女系一族だ。男が生まれる可能性は二十人に一人と言って良いらしい。そんな一族が生む二世代が三世代目を生む可能性はどれ位だと思う?まして第四世代目がどれ程奇跡的な存在か分かるだろう?第一子じゃないと駄目なんだ。二人目に男が生まれても其れは第一世代に過ぎないんだよ」
「・・・・・成る程、確かにそう考えると俺は奇跡的な存在だな。でもそれにどんな意味があるんだ?そして其れがシグルトとどう関わるんだ?」
「一世代目の男は碌な力は使えない。二世代目は並み程度、三世代目になると御門の普通の巫女では太刀打ちできなくなる。そうやって先祖返りの様に力が強まっていき、第四世代目ともなると生きた龍脈と言われる程の力を内包するそうだ。俺はシグルトが十中八九その龍脈の力に引かれて転移したと思っている」
「・・・・・俺はそんな力を微塵も感じないんだが?シグルトは如何だ?」
「うーん、僕は言われて見ると微かに・・・・・いやでも此れがそうとは限らないし・・・・・うーん、ヤッパリ良く分からないんだ」
俺がシグルトと首を捻っていると、父さんが暗い表情で告げた。
「其れはたぶん今も直哉が夢見の事を忘れているのが原因だろう。あの時現実に刺された直哉は、治療が終わって初めて目覚めた時、状況を認識した瞬間に絶叫をあげて意識を失った。そして次に起きた時には夢見に関する事は全て忘れていた。たぶん其の時に力も封印したんだろう。俺はその後に相談を受けた事は無いからな。如何だ?何か思い出せそうか?」
「・・・・・いや、思い出せない。理由の分からない冷や汗はダラダラ出るんだけどな」
「そうか・・・・・。まあ仕方ないだろう。俺は和希の死と毎日の夢見、そして現実と夢はやはり違い、本当に刺された痛みと夢が現実になった恐怖が切っ掛けで、当時の直哉の精神は限界を迎えたと思っている。今はもう刃物を克服したとはいえ、まだまだ直哉の心は深く傷付いたままなんだ。シグルト、直哉の事を頼む」
「確と受け賜ったんだ。全力を尽くすんだ」
頭を下げて頼む父さんに、シグルトは真剣な顔で頷いて返事をした。その事に安堵を滲ませた父さんは、打って変わって自嘲と・・・これは憐みだろうか・・・の混じった視線で見つめてきた。
「良いか、良く聞けよ。俺達から生まれてくる子供は強い力を持つらしい。しかも厄介な事に御門は血を継いだ男親から三世代から四世代で血が薄まって女は力を失うらしい」
「へえーー、それが?」
「恍けるな。分かっているだろう。第一子でなくとも、第一世代の男が居なくなったら終わりだ。だから男の血統は厳重に管理されている。そして最低一人は男が生まれるまで頑張らないといけないんだ。ちなみに和希が調べた時点で一番若い男は直哉だった。最近は女ばかりが生まれているそうだ。俺達が管理から逃れていた所為かもしれないがな」
「・・・・・・・・・・それは奥さんも大変だな」
俺が盛大に引きつっているだろう顔を向けて、平淡な声で一部だけに返事を告げると、父さんは恍けるなと鋭い視線を向けて来た。残念ながら聞かなかった事には出来ない様だ。
「・・・・・・・俺が狙われる理由はマジで其れなのか?」
「其れだけじゃない。直哉は御門大社で血文字のお札を見て、さっき俺がやった事も見たな」
「ああ、見た」
「あれの原材料は御門の男の物らしい。しかも厄介な事に俺達の血は質が良いんだと思う。俺が真面な術も知らないのにあんな事が出来るのは其の所為だろうな。ははは、それと一応言って置くが女では駄目らしいぞ」
「・・・・・・・・嘘だろ・・・勘弁してくれよ・・・・・。つまりあれか?俺が御門に捕まると・・・・・」
「ご想像の通り献血地獄に落とされて、ハーレム生活を送れるって事だ。あーー、和希の調べでは娼婦も裸足で逃げる選り取り見取りの美人の巫女さん達が、恭しく傅いて昼夜問わず相手をしてくれるらしい。献血さえしていれば働かなくても良いし、自由に一人で外に出れないって部分があっても一部の人間には楽園かもな」
「ふざけんな!!地獄の園の間違いだろ。何がハーレムだ!!種馬の間違いだろ!!」
「ククククク」
「笑うなよ!!父さんだって狙われているんだろうが!!」
「いや、直哉が生まれているから、その意味では流石に俺は二の次だろう。誰だって子持ちのオッサンより若い男の方が良いだろ?ククククク」
「笑うなって言っているだろ!!例えそれでも母さんに知られたら大変だろうが!!俺は・・・俺は・・・・かか、香織が知ったらどうなると思っている!!マ、マ、マジで何時殺されても不思議じゃないぞ!!クッ、聖華さんの事だけでも頭が痛いのに・・・・・・」
真っ青な顔で震えながら叫んだ俺が心底からウンザリして頭を抱えると、横に居たシグルトが同情を込めて言い放った。
「直哉も大変だね。でも直幸が墓場まで持って行きたい気持ちが良く分かるんだ。未来の話をした時に言った其れだけじゃないと言う言葉は、結婚する二つだけじゃ無くて三つ目もあったんでしょう」
「ナッ、気づかなくて良い事を・・・・・・どうして・・・・・」
笑っていた父さんの顔色が一変し、シグルトはやれやれと言いたげに首を振って答えた。
「直幸、前に見た誤魔化す様な態度とさっきの説明が詳しすぎてピンときたんだ。娼婦も・・・・・とか生々しく言われたら気づいてしまうんだ」
「うわ、父さん、マジかよ・・・・・。和希さんの調べではとか言って置いて、実際は夢とは言え、自分で体験していたのかよ。此れは母さんに・・・・・」
「おい直哉!!香織に言われたいのか!?力が戻れば絶対に直哉も見るぞ。しかも直哉の夢見は・・・」
「それ以上言うな!!」
軽い非難に素早く反応した父さんの低い真剣な声に怯えを感じ、俺は未来の自分の姿を見た気がした。香織も母さんも例え夢だとしてもそんな体験し、しかもそれが未来で起こる可能性があると知れば許してくれるはずが無かった。家の女性なら棘を隠した満面の笑顔でその可能性が消えるまで毎日夢を確認し、お話・・・教育または調教とも言うが・・・をするはずだ。
「なあ、父さんは何時から力を使えたんだ。かつての俺の様に幼い頃からなのか?」
嫌な想像になって話題を変えようとした俺が尋ねると、父さんは渋い顔をして嫌々答えてくれた。
「・・・・・いや、違う。泰雅の爺に水面下で嫌がらせを受けたと言う話を覚えているか?」
「ああ、覚えている」
「あの時は沙耶達も居たからそう言ったけど、実際は何度も殺されかけていたんだよ」
「殺されかけた!?」
「ああ、母さんの護衛の話はしただろ。あれ以外にも泰雅はあの手この手で殺しにきやがった。その一つに倉庫の視察中に事故を装って加工した尖った鉄パイプが落ちてきたことがあったんだ。俺は必死に避けようとしたんだが、真っ先に足の腿をザックリとやってしまってな。床に血だまり作って動けず、落ちてくる他の鉄パイプに覚悟を決めた時だった。知らない内に血だまりに落としていた書類が勝手に動いて盾になったんだ。其の時に初めて力を自覚して混乱し、すぐに見舞いに来てくれた和希に異常事態を一人で抱える不安もあって零したら、似た力を知っていると言われて御門の事を聞いたんだ」
「・・・・・成る程、そこまでやられていたから父さんは泰雅を躊躇なく病院送りにしたんだな。ククク、しかし死に瀕して力に覚醒とかどこぞの主人公の様だな」
「あのな・・・笑うなよ・・・・・。その後も大変だったんだぞ。和希に聞いて力を自覚したものの、制御出来ない夢見の力に振り回される事になったんだ。俺の夢見は大半が人生の岐路の様な大事なんだよ。寝ない事は人には不可能なのに、寝るのが怖くて不眠症になりかけたんだぞ」
心底から忌々しそうに告げる父さんは、俺を見て悲しそうな顔をした。俺はすぐにそれが力を取り戻した時の自分に向けられたものだと感づいた。そしてそれは一つの可能性を浮き彫りにした。
「父さんは俺が力を取り戻すと思っているんだな。だが今俺は此れだけ聞いても思い出さない。本当に思い出す事はあるのか?」
「ある。既に直哉の中の封じられた力が、御門の血や力に共鳴して目覚めかかっている。さっき試した感じでは直哉の心の傷を無視して良いなら、俺の血を媒介にして今すぐにでも取り戻せるだろう。失った記憶がどうなるかは分からないがな・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・今すぐ取り戻さなかった場合は如何なる」
「・・・・・お札に触れて眩暈を起こした時に目覚める事は決まっているとしか言えない。抑々直哉がどうやって記憶と共に力を封印したのかも分かっていないんだ」
「やはりいつ戻るか分からない危険な状況なんだな。戻った時に俺は・・・・・」
「確実に体調を崩して行動不能になるだろうな。それにさっきの様子を鑑みれば、記憶が戻るのなら万全の状態でも精神が持つかは微妙だし、もし危険な状況で取り戻したらと言う不安もある。全ては記憶と共に封印していた間の直哉の心の成長にかかっている。つまり築き上げてきた物がどれだけ重いかが決め手になるだろう」
「・・・・・・やれやれ、父さんは言葉を選んでいるけど、要は気合で何とかしろって事だろ。俺の心の問題は俺以外には解決できないって事だ。誰の助けも借りられない」
「身も蓋も無く言うとその通りだ。だが乱暴だが俺にはそうとしか言えない。具体的な話はしなかったけど沙耶は直哉を信じようと言っていたよ」
俺は父さんと母さんの信頼に答えようと必死に内心の震えを抑え込もうとした。しかし根付いているらしい恐怖は抑えがたく、長い間無言の時を過ごした。このまま長い時間黙ったままでは不味いと思って周囲を見ると、十分以上経った様に感じていたのに一分しか経っていない事に気付いた。俺にとってはそれほどの負担なのだろう。俺はあからさまに顔を強張らせてしまい、其れを見たシグルトは何かを決意した者だけが出来る強い意思の籠った瞳をした。
「直哉、僕も気合で何とかしろと言うのは乱暴だと思うけど、他に方法は無いから仕方ないと思うんだ」
「ああ、それは俺も分かっている。だが・・・・・・」
「まあ、こう考えるんだ。過去を思い出して今の思いと合わされば、何処か引いている香織に対する思いも変わるはずなんだ。そうなれば朝の様な事態に直面しても毅然と対応できるんだ。今のままだと何時香織に押し切られるか分からないんだ」
「・・・・・あのな・・・・シグルト・・・・」
シグルトの場違いな言葉に脱力して力が抜けた俺は、苦笑を浮かべてから自分の震えが収まっている事に気付いた。そしてそんな俺を見たシグルトは良しと頷くと、姿勢を正してキッパリと告げた。
「直哉、不安だろうけど僕もいるから一時的に精神がヤバくなっても持つんだ」
シグルトの真剣な声に確信が籠っている様に感じ、俺と父さんは顔を見合わせてから神妙な態度で次の言葉を待った。
「直哉は僕と契約しているんだ。其の為数千年を生きられる様に精神も強靭になっているし、お互いの中にある相手のバックアップの様な物から自動回復するはずなんだ」
「・・・・・待て、シグルト。その知識は俺にもあるが、あれは本来呆け防止などに使うものだろう?今回の様な事には使えないはずだ。それになぜお互いの話をする?まさか・・・・・・」
「うん、強化で繋がりを強める心算なんだ。そうすればさっき言った事は可能だ・・・・・」
「待て、シグルト!!そんな危険な事をする必要は・・・・・」
「直哉。確かに僕の方にも何かしらの影響があると思うんだ。でも直哉が苦しんでいて出来る事があるのに、僕には見ているだけなんて無理なんだ。直哉だって逆の立場なら僕の為にやると思うんだ。違うのかな?」
「・・・それは・・・・・しかし・・・・・」
「さっき全力を尽くすんだと言ったばかりなんだ。其れに直哉の元に来たのが偶然じゃ無いのなら・・・・・その龍脈の力に引かれて転移したのなら、僕もどんなものか見て見たいんだ」
「・・・・・ふーー、シグルトには迷惑ばかり掛けている気がするな」
「ふふ、否定はしないんだ。でも僕だって此れから迷惑を掛けるかも・・・・・」
そう言ったシグルトが一瞬雰囲気を変えたのに気づいた俺は、何かあるのかもと思いながらその時は支えようと心に決めた。
「じゃあ、よろしく頼むな、シグルト。俺は如何すれば良い?」
「何時も自分にやっている様に僕を強化してくれればいいんだ。後は僕が自分でやる」
「分かった。父さんも用意を頼むな」
「分かった。まあ紙を浸すだけなんだけどな」
父さんが新しい紙を取り出している内に、俺は素早くシグルトに強化を掛けた。すぐにシグルトが頷いて何かをし、俺の心に何かが触れる感じがした。俺は安堵できる暖かな温もりでホッとしていたけど、シグルトはくすぐったく感じているらしく、体を頻りにもぞもぞと動かしていた。
「ねえ、直哉。力を取り戻したら、夢見で未来が知れるんだ。何が知りたい?僕は直哉の未来がどんなものか知りたいんだ。昔の直哉の夢見では香織との結婚を示唆している。でも聖華さんは直哉と自分が結婚する夢見を見ているみたいなんだ。それは直哉が僕と出会った事も関係あるのかな?」
「さあ如何だろうな。だが昔の俺はシグルトと出会う事は知らなかったはずだ。知っていたら記憶や力を封印する事は無かっただろう」
そう言ってシグルトの頭を優しく撫でた俺は、何となく思いまで伝わった事が理解出来ていた。其の時父さんの呼び声が響き、俺とシグルトは表情を引き締めて真っ赤な紙と向き合った。
次話の投稿は22日か23日になると思われます。17日まで執筆出来ないので、どうしてもそうなってしまいます。申し訳ありませんがご了承ください。どうか次話もよろしくお願いします。




