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討伐士とは



討伐士制度詳説


――死獣と位相領域に対抗する者たち――




 討伐士とは、死獣の排除、位相侵食区域の制圧、魔脈異常の初期対応を職務とする専門職である。一般には「スレイヤー」とも呼ばれ、七大陸のほぼすべての国家、都市、自治領において公的または準公的な存在として認められている。


 討伐士は単なる傭兵ではない。魔獣を倒す戦闘者であると同時に、災害対応員であり、魔素汚染の処理者であり、辺境の治安維持者であり、時には失われた集落の調査員でもある。彼らの仕事は華々しい武勇譚として語られることもあるが、実態は過酷で、危険で、きわめて専門的な現場労働である。


 死獣が現れたとき、人々はまず領主や都市警備隊に助けを求める。だが、通常の兵士は死獣と戦うために訓練されていない。死獣の肉体は通常の獣とは異なり、魔素によって構造が不安定化している。刃が通っても再生する個体がいれば、火を浴びるほど強くなる個体もいる。目に見える姿が本体とは限らず、周囲の地形や魔脈そのものと結びついている場合さえある。


 そのため、死獣討伐には専門知識と専用装備が不可欠となる。討伐士は敵の属性を読み、位相領域の状態を観測し、魔素濃度を測定し、適切な武器と術式を選ばなければならない。力だけでは足りない。勇気だけでも足りない。生き残るためには、経験、観察力、連携、撤退判断、そして運が必要である。




■ 一、討伐士の起源


 討伐士制度の起源は、現在の国際ギルドが成立するはるか以前にさかのぼる。古代の人々は死獣という呼称を持たず、位相領域を体系的に理解してもいなかった。異形化した獣や人を、地方ごとに「呪われたもの」「地鳴りの子」「黒い獣」「崩れ人」などと呼び、村ごとの戦士や祈祷師が対処していた。


 当時の討伐は、ほとんどが犠牲を前提としたものだった。死獣が現れれば村人総出で罠を作り、火を放ち、槍を構え、誰かが囮になる。多くの場合、死獣を倒せたとしても周囲の土地は魔素汚染を受け、数年にわたり作物が育たなくなった。死獣の死骸を適切に処理する技術がなかったため、討伐後に二次変異が発生することも珍しくなかった。


 やがて各地に魔術師、狩人、傭兵、治癒師、祈祷師が集まった専門集団が生まれた。彼らは経験則によって死獣の弱点を探り、属性ごとの対処法を蓄積し、危険な土地へ赴いて報酬を得るようになった。これが討伐士の原型である。


 討伐士が制度化された背景には、交易の発展がある。大陸間航路と街道が整備されるにつれ、死獣被害は一地方の問題では済まなくなった。街道が封鎖されれば物流が止まり、港が位相領域に呑まれれば大陸間交易が麻痺する。国家は死獣対策を軍だけに任せることの限界を知り、専門職の常設化を進めた。


 こうして、各大陸の都市に討伐士組合が置かれ、後にそれらを統合する国際的なギルド制度が成立した。現在の討伐士ギルドは、各国の法律に基づきながらも、大陸間評議会の認可を受ける独立性の高い組織である。




■ 二、討伐士ギルドの構造


 討伐士ギルドは、表向きには依頼仲介組織である。住民、商会、都市、国家、研究機関などから依頼を受け、適切な討伐士やパーティーに割り振る。しかし実際には、それ以上に広い役割を持つ。


 ギルドの主な機能は、依頼管理、討伐士登録、ランク認定、報酬支払い、装備認証、魔素汚染記録、死亡補償、医療支援、違反者処分、災害時の緊急指揮である。辺境の小さな支部では酒場と受付と倉庫を兼ねた簡素な施設しかないことも多いが、大都市の中央支部には訓練場、資料室、医療院、鑑定室、死骸処理場、装備工房、拘束室まで備わっている。


 ギルドの頂点には「国際討伐士本部」が存在する。本部は特定の国家に属さず、大陸間評議会の監督下に置かれている。もっとも、完全な中立組織ではない。資金の多くは各国の拠出金と依頼手数料に依存しており、有力国家や大商会の影響を受けることもある。


 各支部には支部長、受付官、査定官、観測官、医療担当、装備担当、記録官が置かれる。受付官は依頼者と討伐士の窓口となり、査定官は依頼の危険度と報酬を決定する。観測官は魔素濃度や位相異常の記録を扱い、装備担当は討伐士の武器や防具が規格を満たしているか確認する。


 討伐士は登録制である。登録希望者は年齢、健康状態、魔素適性、犯罪歴、戦闘訓練歴を確認され、基礎試験を受ける。試験内容は支部によって異なるが、最低限の武器操作、魔素汚染への理解、救急処置、撤退信号、死獣死骸への接触禁止規定などを学ばなければならない。


 登録されたばかりの者は、正式な討伐士ではなく「見習い」として扱われる。見習いは単独で死獣討伐依頼を受けることができず、採取、護衛、補助調査、低危険度区域の巡回などから経験を積む。一定の実績を満たし、支部の認定を受けて初めて正式な討伐士となる。




■ 三、ランク制度


 討伐士にはランクが存在する。ランクは強さを示す目安ではあるが、それだけではない。任務遂行能力、連携能力、生存率、依頼達成率、違反歴、民間人保護、魔素汚染対応などを総合的に評価した資格である。


 一般的なランクは、銅級、銀級、金級、白金級、黒鋼級、星章級に分けられる。


 銅級は、正式登録されたばかりの討伐士である。低危険度の死獣、街道警備、素材採取、位相領域外縁の監視などを担当する。単独で受けられる依頼は限られ、基本的にはパーティー単位での活動が推奨される。銅級の死亡率は高い。理由は単純で、経験が足りないからである。死獣を甘く見た者、撤退の判断が遅れた者、仲間の忠告を聞かなかった者から順に命を落とす。


 銀級は、実務経験を積んだ一般的な討伐士である。小規模な死獣討伐、商隊護衛、村落防衛、初期位相領域の調査を任される。地方支部では銀級が主力であり、住民から最も身近に見られる討伐士でもある。安定した銀級パーティーは、地方都市にとって非常に貴重な存在である。


 金級は、熟練討伐士である。中規模位相領域、複数個体の死獣、特殊属性個体、危険地帯の調査などを担当する。ギルド支部からの信頼も厚く、緊急任務に招集されることが多い。金級に昇格するには、単に多くの敵を倒すだけでは不十分で、部隊指揮、負傷者救出、依頼者保護、正確な報告書の提出なども評価される。


 白金級は、大陸規模で知られる高位討伐士である。危険度の高い位相領域や、通常兵力では対応困難な死獣の討伐を担当する。白金級になると、個人やパーティーに専属の受付官や整備士が付くこともある。報酬は高いが、任務の危険度も桁違いである。


 黒鋼級は、特別危険任務を許可された討伐士である。ブラックタグ死獣、暴走した魔導施設、封鎖区域、国家機密に関わる位相災害などを扱う。黒鋼級は名誉であると同時に拘束でもある。国家やギルド本部から直接招集されることがあり、依頼拒否には正当な理由が求められる。


 星章級は、ほとんど伝説に近い階級である。国家災害級の位相領域、マテリアコア異常、大陸間危機に対応できる者に与えられる。星章級討伐士は数えるほどしか存在せず、その行動は政治的影響を持つ。彼らがある大陸へ向かうだけで、商会が価格を変え、各国が軍を動かし、噂が広がる。


 ただし、ランクは絶対ではない。低ランクでも特定分野に優れた者はいるし、高ランクでも慢心すれば死ぬ。ギルドではしばしば「ランクは墓標の高さを保証しない」と言われる。現場で生き残るのは、状況を見誤らない者である。




■ 四、依頼の種類


 討伐士の仕事は死獣を倒すことだけではない。依頼は大きく、討伐、調査、護衛、制圧、回収、安定化、救助に分けられる。


 討伐依頼は最も一般的で、確認された死獣を排除する任務である。依頼書には目撃場所、被害状況、推定属性、個体数、報酬、危険度、必要ランクが記される。ただし、依頼書が常に正確とは限らない。村人が狼型死獣一体と報告したものが、実際には群れの斥候だった例は多い。逆に、巨大な死獣と恐れられていたものが、単なる魔素汚染獣であったこともある。


 調査依頼は、位相領域や死獣発生の兆候を確認する任務である。地形の変化、魔素濃度、異音、植物の変質、行方不明者の痕跡などを調べる。調査依頼は一見地味だが、危険度は高い。戦う準備をしていないところで突然死獣に遭遇することがあるからである。


 護衛依頼は、商隊、研究者、巡礼団、移住民、貴族、物資輸送隊などを守る任務である。護衛では敵を倒すことよりも、対象を目的地まで無事に運ぶことが優先される。討伐士としては実力があっても、護衛対象を置き去りにして敵を追うような者は評価されない。


 制圧依頼は、位相侵食区域へ踏み込み、発生源を封鎖または破壊する任務である。死獣討伐よりも難度が高く、エンチャンター、観測士、ヒーラーの同行が推奨される。領域内では通常の感覚が信用できず、方角、時間、距離が狂うことがある。


 回収依頼は、死獣素材、調査機材、遺物、行方不明者の遺品などを回収する任務である。素材回収は討伐士の重要な収入源でもあるが、危険も大きい。死獣の死骸には残留魔素があり、処理を誤ると汚染や再活性化を引き起こす。


 安定化依頼は、位相領域の拡大を抑え、魔脈の乱れを調整する任務である。これは戦闘職だけでは不可能で、エンチャンター、魔脈技師、位相観測官などの専門職が関わる。高位任務では、討伐士が技師を護衛しながら領域中心部へ入り、安定装置を設置することもある。


 救助依頼は、行方不明者や孤立した住民を救出する任務である。最も精神的負担が大きい仕事のひとつである。生存者が死獣化している場合、討伐士は救助対象を討たなければならない。こうした経験は、討伐士の心に深い傷を残す。




■ 五、ジョブと役割


 討伐士には多くのジョブが存在する。ジョブとは生まれつき固定された身分ではなく、魔素適性、訓練、装備、戦闘思想によって形成される職能分類である。


 前衛職には、ガーディアン、バーバリアン、ブレイダー、ランサーなどがある。前衛の役割は、敵の攻撃を受け止め、味方の行動時間を作ることである。強力な前衛がいなければ、後衛は詠唱も観測も治療もできない。


 ガーディアンは防御に特化した職で、盾、防具、結界具を用いる。地核大陸出身者に多く、守りの堅さでは随一である。バーバリアンは破壊力と耐久性に優れ、敵の構造を力ずくで破壊する。連携を軽視すれば危険だが、正しく運用されれば最も頼れる火力となる。ブレイダーは速度と技量を重視し、死獣の急所や魔素核を狙う。ランサーは間合い管理に優れ、大型個体の突進を止める役割を担う。


 後衛職には、アーチャー、ガンナー、メイジ、観測士などがある。アーチャーは遠距離から敵を牽制し、弱点を射抜く。死獣討伐では単に矢を当てるだけでなく、属性矢、拘束矢、信号矢、照明矢を使い分ける必要がある。メイジは攻撃術式を扱うが、位相領域内では術式が乱れるため、安定した実力が求められる。観測士は戦闘力こそ低いことが多いが、魔素流、敵の変質、地形変化を読む重要な役割を持つ。


 支援職には、ヒーラー、エンチャンター、アルケミスト、魔脈技師などがある。ヒーラーは負傷者の治癒、毒の浄化、魔素障害の緩和を行う。討伐士の世界では、ヒーラーを失うことはパーティーの寿命を失うことに等しい。


 エンチャンターは、武器、防具、肉体、空間に一時的な効果を付与する職である。味方の攻撃に属性を乗せ、防御耐性を調整し、魔素の乱れを整える。優秀なエンチャンターは戦場全体を見て、必要な相手に必要な付与を行う。戦闘の派手さでは前衛に譲るが、現代討伐における重要度は非常に高い。


 アルケミストは薬品、爆薬、封印剤、浄化剤を扱う。魔脈技師は安定装置や測定器を運用し、位相領域の制圧に関わる。これらの支援職は戦闘中に狙われやすいため、前衛と後衛が守らなければならない。


 優れたパーティーとは、強い者を集めただけの集団ではない。役割が噛み合い、互いの癖を知り、誰がいつ前に出て、誰がいつ退くかを理解している集団である。




■ 六、パーティー制度


 討伐士は単独でも活動できるが、死獣討伐や位相領域探索ではパーティー行動が基本となる。一般的なパーティーは三人から六人で構成される。


 最低限必要とされる構成は、前衛、後衛、支援の三役である。前衛が敵を止め、後衛が攻撃や観測を行い、支援が回復や付与を担う。四人以上になると、役割の幅が広がり、生存率が上がる。五人から六人規模では、専属の観測士や魔脈技師を加える余裕も生まれる。


 パーティーにはリーダーが必要である。リーダーは最も強い者が務めるとは限らない。むしろ、全体を見る力、撤退判断、依頼者との交渉、報告書作成、報酬分配、仲間同士の調整を行える者が求められる。前衛がリーダーを務める場合もあれば、エンチャンターやアーチャーが務める場合もある。


 パーティーの解散理由で最も多いのは、死亡ではなく人間関係の悪化である。報酬分配への不満、戦利品の所有権、戦闘方針の違い、リスク感覚のズレ、恋愛問題、飲酒癖、借金。死獣より厄介なのは仲間だ、と古参討伐士はよく言う。


 ただし、信頼できるパーティーは家族に近い。命を預け合う関係は、通常の友情より強く、通常の雇用関係より重い。戦場で背中を守ってくれた者への信頼は簡単には消えない。だからこそ、裏切りや無責任な行動は重く扱われる。




■ 七、報酬と経済


 討伐士の報酬は依頼料、素材売却、危険手当、達成報奨、緊急出動手当などから成る。見た目には高収入に見えるが、実際には支出も多い。


 武器は消耗する。防具は傷む。矢、薬品、封印札、魔素測定器、携帯食、宿代、治療費、装備整備費、ギルド手数料が必要になる。高位討伐士ほど稼ぎは大きいが、装備維持費も跳ね上がる。炎核製の高品質武器や地核製の防具、雷核製の位相計測器は安くない。


 報酬分配はパーティーごとに異なる。均等割りを採用する者もいれば、役割や消耗品負担に応じて比率を変える者もいる。ヒーラーやエンチャンターは消耗品負担が大きいため、追加手当を受け取ることが多い。逆に、素材回収で得た副収入をどう分けるかで揉めるパーティーも多い。


 討伐士は借金を抱えやすい。新人は装備を揃えるために借り、負傷者は治療費のために借り、高位者はより危険な依頼に備えて高額装備を買うために借りる。ギルド公認の融資制度もあるが、返済不能になった者は危険依頼を受けざるを得なくなることがある。


 その一方で、成功した討伐士は莫大な富を得る。希少死獣の素材、古代遺物の回収、高位依頼の達成報酬は、一生遊んで暮らせるほどの金額になることもある。だが、そのような成功者は一握りであり、多くの討伐士は稼ぎと支出の間で日々を生きている。




■ 八、装備と管理


 討伐士の装備は命に直結する。武器、防具、補助具、薬品、測定器、通信具、照明具、縄、杭、封印容器。任務内容によって必要な装備は変わる。


 死獣用の武器には、属性付与に耐える加工が施される。通常の鉄剣では、強い火属性や雷属性を付与した際に破損することがある。炎核製の武器は火力に優れ、地核製は耐久性が高く、雷核製は機構武器に強い。命核由来の素材を使った武器は自己修復性を持つこともあるが、扱いを誤ると変質する。


 防具には、物理耐性だけでなく魔素耐性が求められる。位相領域では、皮膚から魔素汚染が進む場合があるため、討伐士は露出を避けるのが基本である。ただし、重すぎる防具は行動を妨げる。前衛は防御重視、後衛は機動力重視、支援職は魔素遮断性重視など、役割によって選択が異なる。


 位相領域へ入る際には、魔素測定器、方位針、帰還標識、浄化薬、緊急信号具が必須とされる。方位針は通常の磁気ではなく、安定魔脈の方向を示す。帰還標識は入り口からの経路を記録する道具であり、これを失うと領域内で迷う危険が高まる。


 ギルドでは一定以上の危険任務に装備検査を義務づけている。装備不良による事故は本人だけでなく仲間を巻き込むためである。検査を拒否した討伐士は依頼を受けられない。




■ 九、死獣討伐の実際


 討伐は、依頼を受けた瞬間から始まる。まず依頼書を読み、被害状況を確認する。次に現地で聞き込みを行い、足跡、死骸、魔素痕、異臭、植物変化、地形異常を調べる。死獣の属性や行動範囲を推定し、戦闘場所を選ぶ。


 優れた討伐士は、不利な場所で戦わない。森の中で視界が悪いなら開けた場所へ誘導する。火属性個体なら水場へ寄せる。再生型なら浄化剤と封印具を用意する。敵を倒す前に、倒せる状況を作るのである。


 戦闘中は、敵の変化を常に観察する。死獣は傷つくことで形態を変えることがある。弱点だと思った部位が囮である場合もある。魔素核を破壊しなければ再生する個体もいれば、核を破壊した瞬間に爆発する個体もいる。


 討伐後も油断はできない。死骸の処理、残留魔素の測定、周辺の浄化、依頼者への報告、素材の鑑定が必要となる。死骸を放置すれば腐敗ではなく変質が進む。討伐士の仕事は、敵が動かなくなった時点ではまだ半分しか終わっていない。




■ 十、違反者とブラックタグ


 討伐士には自由がある。だが、自由には規律が伴う。ギルド規定に違反した者は罰則を受ける。


 主な違反には、依頼放棄、虚偽報告、報酬横領、素材の無断持ち出し、民間人への暴行、無許可の危険区域侵入、禁制装備の使用、仲間への故意の危険行為などがある。軽い違反では罰金や一時停止で済むが、重大違反では登録抹消や拘束命令が出される。


 特に危険視される討伐士には「ブラックタグ」が付与される。ブラックタグとは、実力は認められるが、行動に重大な問題があり、通常パーティーへの参加を制限される者を示す管理記録である。犯罪者と同義ではないが、ギルドから警戒対象として扱われる。


 ブラックタグの理由はさまざまである。命令違反、単独突出による仲間の負傷、過剰破壊、精神不安定、禁制術式への接触、位相汚染の疑い。中には冤罪や政治的な理由で指定される者もいるが、多くの場合、何らかの危険を抱えている。


 ブラックタグ討伐士は依頼を受ける際に制限を受け、監督者や特定パーティーとの同行を義務づけられることがある。だが、彼らの中には極めて高い戦闘能力を持つ者も多い。危険な任務ほど、危険な人材が必要になるという矛盾がギルドには存在する。




■ 十一、社会的立場


 討伐士に対する世間の目は複雑である。死獣から人々を守る英雄として尊敬される一方で、荒くれ者、流れ者、死に近い者として忌避されることもある。


 都市では討伐士向けの酒場、宿、装備店、治療院が集まる一角があり、一般市民はそこを少し遠巻きに見る。討伐士は金払いがよいが、喧嘩も多い。死獣の血や魔素汚染を持ち込む可能性もある。子どもは憧れ、大人は頼りにし、商人は儲け口と見なし、貴族は必要な道具として扱う。


 地方では、討伐士への依存度が高い。村に死獣が出れば、討伐士が来るかどうかで運命が決まる。そのため、無事に村を救った討伐士は歓待される。だが、救えなかった場合や、討伐のために家屋や畑を壊した場合、感謝だけでは済まない。討伐士はしばしば、人々の怒りや悲しみの受け皿にもなる。


 討伐士自身も、自分たちが完全な英雄でないことを知っている。彼らは報酬を得るために戦う。危険な依頼を避けることもある。助けられない命もある。救助対象を死獣として討たなければならない日もある。そうした現実が、討伐士という職業に独特の重さを与えている。




■ 十二、討伐士と国家


 討伐士ギルドは国際組織であるが、国家と無関係ではいられない。国家はギルドに資金を出し、ギルドは国家の治安維持を助ける。国境地帯の死獣討伐、街道保護、災害対応は、軍とギルドが協力して行うことが多い。


 ただし、国家は討伐士を完全には信用していない。高位討伐士は小規模部隊に匹敵する戦力を持ち、時に国境を越えて移動する。特に黒鋼級や星章級の討伐士は、政治的影響力すら持つ。そのため、各国は自国出身の討伐士を優遇したり、他国所属の高位討伐士に監視を付けたりする。


 戦争時に討伐士をどう扱うかは、長く議論されてきた。原則として、国際ギルド所属の討伐士は国家間戦争への直接参加を禁じられている。彼らの役割は死獣と位相災害への対処であり、人間同士の戦争に加担すれば中立性が失われるからである。


 だが、現実には抜け道がある。護衛依頼、補給路確保、戦場跡の死獣処理、民間人救助などの名目で戦争に関与することはある。国家が討伐士を利用し、討伐士が国家の金を利用する関係は、清廉とは言いがたい。




■ 十三、精神的負担と引退


 討伐士の肉体的危険はよく知られているが、精神的負担は軽視されがちである。死獣化した人間を討つこと、救助に間に合わないこと、仲間を置いて撤退すること、帰還後に遺族へ報告すること。これらは討伐士の心を少しずつ削る。


 ギルドには形式上、精神診療や休養制度がある。しかし、十分に機能している支部は多くない。人手不足の地方では、傷が癒えきらないまま次の依頼に向かう討伐士もいる。酒、賭博、喧嘩、浪費に逃げる者も少なくない。


 引退後の生活も簡単ではない。若くして大金を稼いだ者が商売に失敗することもあれば、負傷により働けなくなる者もいる。経験豊富な討伐士は教官、受付官、査定官、護衛指導員になる道があるが、全員がそうなれるわけではない。


 古参討伐士の間では、「五体満足で引退できた者が本当の勝者」と言われる。名声よりも、生きて帰り、仲間と酒を飲み、翌朝目を覚ませること。それが討伐士にとって最も確かな成功である。




■ 十四、討伐士という存在


 討伐士は、世界の矛盾の上に立つ職業である。魔素によって栄えた文明を、魔素によって生まれた災厄から守る。国家に雇われながら国家を越え、英雄と呼ばれながら金で動き、人々を救いながら時に恨まれる。


 彼らがいなければ、多くの街道は閉ざされ、多くの村は消え、多くの都市は位相領域に呑まれる。だが、彼らがいるからといって世界が安全になるわけでもない。討伐士は災厄を根絶する者ではなく、災厄と人間の日常の間に立つ者である。


 死獣は今日もどこかで生まれる。魔脈は乱れ、位相領域は広がり、誰かが助けを求める。ギルドの掲示板には新しい依頼が貼られ、受付官は危険度を査定し、討伐士たちは報酬を見て、装備を確認し、仲間と顔を見合わせる。


 行きたくない任務もある。割に合わない依頼もある。勝てる保証のない敵もいる。それでも、誰かが行かなければならない。


 討伐士とは、その誰かになることを選んだ者たちである。


 彼らは世界を救う聖人ではない。死を恐れない怪物でもない。報酬を求め、名声を求め、仲間を守り、過去を背負い、時に逃げ、時に踏みとどまる人間である。


 だからこそ、討伐士の背中には重みがある。


 彼らが剣を抜くとき、その先にあるのは怪物だけではない。村の明日、街道の灯、仲間の命、そして未完成の世界そのものがある。


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