"Relay The Puzzle"(前編)
『パズル=ブロックス(パズルの欠片)』という名前は、明らかに偽名だと思う。
パズルの、左のちゃんとある方の手首を引いて薄暗い路地を走りながら、僕はそう思っていた。
地獄界の空は絶えずろくな色をしていないが、今夜は僕達を探すサーチライトが夜空をめちゃくちゃにしていて、特に最低だと感じた。
「せっかく、君の手を使って自分をまさぐろうとしてたのに、こんなに走る必要はあるの?」
パズルは、左手をがっちり僕に掴まれているのが不服のようだ。
『君の手』というのは言ったままの意味で、僕達『パズルリドル』は四肢を着脱する事が出来る。脱出時の混乱もあり、僕達はいま、左手と右脚を相手のものと交換している状態だ。
しかも、パズルは右手を紛失している。
「むしろ、まさぐる意味はあるのかよ」
呆れながら僕は言ったが、こんな馬鹿でも僕と同じ、最後のパズルリドルだ。死なせたくなかった。
それに───残念な事なんだけど、彼は顔だけは本当に良い。僕はすっかり、この残念な男に恋をする自分を止められなくなっていた。
「言っとくけどな」
なんでこんな事をしてるのか、自分でも解らなくなりそうだったが、僕は走るのを止めると、パズルの顎を乱暴に掴み、自分の方に向けさせた。
「貴族達は娯楽に飢えてる。僕達は捕まったら、体の全部品が壊れるまで、一生あいつらが楽しむ為だけの生体玩具にされるんだぞ」
気付けば、轟音のような足音がすぐそこまで近付いている。多分追手だ。いくらなんでも無駄話が過ぎたみたいだった。
「ねえ、キスしていい?」
パズルが屈託のない顔で僕を見る。
僕は万策尽きた事を感じ、「好きにしろよ」と答える。すぐさま、大型犬のような飛び付き方でパズルは僕を押し倒して覆い被さると、にこにこした顔に似合わない、舌を絡めた執拗な接吻で僕を弄んだ。
その時になって初めて僕は、パズルが僕より身長が高いこと、背中が広くて大きいこと、そして、キスが執拗過ぎるくらいにしつこいのに、とても優しくて柔らかい事を知った。
当然、そんな事をしていたので、僕達は完全に包囲された。
僕はよろよろと立ち上がると、ポケットから折り畳みナイフを取り出して構えた。これで敵が数人だったら、勝てないまでも逃げる算段は付く。問題は、いま知っている範囲の情報だけで言っても敵は数千人はいる、という事だ。
足元がふらつく。
ついさっきまでパズルにひたすら組み敷かれていたため、体力を無駄に失ってしまったようだった。
「キス、ありがとう」
急にパズルがすっくと立ち上がると、僕を庇うように追手達の前に立った。
背中ごしに差し出された手が、僕に何かを要求している。
「やる気が出たから、多分倒せる」
「右手貸してよ」
追手達の包囲が、それまでより少し狭まって僕達を取り囲んだ。




