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約束の雨

作者: 長谷川誠
掲載日:2026/03/07

雨の日になると、私は帰り道を思い出す。

梅雨の終わりだった。

放課後、私と真由と由紀は三人で帰っていた。

細い雨が降っていた。

校庭の土は黒く濡れていて、人の姿はなかった。

校庭の横を通るとき、真由が足を止めた。

「……ねえ。」

小さな声だった。

「見える?」

真由の視線の先を、私も見た。

校庭の端に、ぼんやりとした形があった。

雨の中に、何かが立っているようだった。

「誰?」

由紀が言った。

私たちはしばらく黙って見ていた。

でも、もう一度目を向けたとき、そこには何もなかった。

「今、いたよね?」

由紀が笑った。

私は答えなかった。

そのとき真由が言った。

「このこと、誰にも言わない方がいい。」

「どうして?」

私が聞くと、真由は少しだけ考えて言った。

「……なんとなく。」

雨の音だけが聞こえていた。

「まあいいよ。」

由紀が言った。

「約束ってこと?」

私たちは顔を見合わせて、うなずいた。

雨は静かに降り続けていた。

それが、約束の証みたいだった。

数日後の昼休みだった。

窓の外は雨だった。

教室の奥で、由紀の声がした。

「ねえ聞いてよ。この前さ――」

女子たちが集まっていた。

由紀は笑っていた。

「帰り道でさ、変なの見たんだよ。校庭に――」

私は足を止めた。

その先を聞くのが怖かった。

窓の外では、雨が降っていた。

次の日、由紀は学校に来なかった。

先生は体調不良だと言った。

放課後、私は真由と二人で帰っていた。

雨が降っていた。

校庭の横を通るとき、私は立ち止まった。

そこに、由紀が立っていた。

傘もささずに、雨の中に。

「由紀?」

私が呼ぶと、由紀はゆっくりこちらを向いた。

雨粒が頬に落ちるたび、

由紀の輪郭が少しずつ薄くなっていった。

水に触れた紙のように。

由紀は自分の手を見ていた。

指先が透けていた。

「……なんで……」

小さな声だった。

雨が降るたび、形が崩れていく。

私は叫んだ。

「どうして……!」

隣で真由が言った。

「約束、破ったから。」

真由の声は静かだった。

由紀の姿はゆっくりと薄くなり、

やがて見えなくなった。

そこには、ローファーだけが残っていた。

濡れたローファーが二つ並んでいた。

私は動けなかった。

真由は、最初に影を見つけた場所を見ていた。

真由が言った。

「これで二人目。」

雨は、まだ降り続いていた。(終)

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