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第2話、ショーツ無き戦い。

コチコチと正確に時を刻み続ける壁掛け時計、その短い針は丁度深夜の2時を指していた。

「なぜ、あんな事をしたんだ?」

「大丈夫よお母さん達は怒ったりしないから、ただ本当のことが知りたいだけなのよ」

親父とお袋が何十回目かの口上を繰り返した。


2人が逃走した後、俺は行きそうな場所を手当たり次第に捜した。結局、事件発生から12時間後に隣町にある公園で発見された。何故か2人揃ってブランコに乗っていたから個別に捜す手間が省けたのだった。


「……」

どう答えればいいのか分からない、俺には沈黙を守ることしかできなかった。


何とか落ち着きを取り戻した両親は事の真相を明らかにするべく、俺と妹(衣服着用済み)を正座させて詰問をはじめたのだった。

それから3時間の時が流れた、進展する兆しが見えない現状に彼らは根気良く同じことを訊ね続けた。正直申し訳無い気持ちで一杯だ。

俺だって両親を苦しめたくはないのだ、事のあらましだって言える物ならふた返事で告げ口しているさ。

でも、それを言ってしまえば、アヤジの社会的地位や尊厳は脅かさてしまう。

そんな可哀想な事、血を分けたただ一人の兄貴が言ってやれるかよ。

だから、俺は……くそぉ、この手だけは使いたく無かった。


俺は両親を真っ直ぐに見つめ重たい口を開いた。


「正直ムラムラしてました、すんませんしたッ!!」


すぱぁーーんッと頬をひっぱたく清々しい音が草木も眠る住宅街に響いていった。

幸いにもこの一件は、俺1人が折檻を受けただけで収束したのだった。




***




翌朝。

休み明けの月曜日、俺は学校へ通うための通学路を妹と共に歩いていた。


「兄貴…ごめんなさい」

「いいから気にすんな」

気落ちした様子のアヤジは俺のほっぺたを見つめる度に謝罪の言葉を口にした。

それもそうだろう、悔い改めるまでビンタをされまくった俺の頬は、世紀末のように腫れ上がっている。

それは見る者の同情心を掻き立てるのだ。

「……ごめんなさい」

何度も何度も譫言のように謝罪を繰り返すアヤジ。


「だから気にするなって、昨日みたいな事はもう二度としないって約束してくれたらそれでいいから」

「ごめんなさい……お兄ちゃん……」


聞こえていないのだろうか?

とにかくもう一回言っておこうか、そう思って俺は妹に向き直る。

──その時、一抹の風が吹きわたった。


「私、……今ノーパンなの」


それは視覚と聴覚のダブルで痛感することができた衝撃の事実だった。

な、なんでやねん!


「アヤお前! 反省して悔い改めたんじゃないのか!?」

「……だから“ごめんなさい”って言ってるでしょ」


…あれは俺のほっぺたを労った謝罪じゃなかったのか? 余りにもあんまりな現状に対する謝罪だったってのかよ? ちくしょー!

「このすかたん! 昨日の今日でやる奴があるか!?」

「だってだって、一度やってみたかったんだもんッ!」

俺の台詞に反応してか、またしてもアヤジはむちゃな事を開き直って言い出した。…こいつ開き直れば何をやってもいいと思っているのか?


「とにかく一旦うちに帰って下着を穿こう、な?」

取り返しのつくうちにと俺はアヤジの腕を掴んだ。

「いやッ!」

それはあっさりと振り払らわれてしまった。

歴史は繰り返されてしまうものなのか。

昨日も見かけたような展開に俺は内心気が気じゃない想いだ。


「あ、スッギー! おっは〜」

それは昨日最愛のペットと今生の別れを果たしたはずの男、級友の牧野テツヤ(マキノ哲也)だった。

傷心しているのかと思っていたがあっさり立ち直れたようだ。

彼は穏やかではない様子の我々兄妹の間に割って入り薄ら寒い挨拶とスマイルを振り撒いた。


「じゃあ兄貴、私先に行くから」

「、あ、ちょっ、アヤ!」

その隙にアヤジは俺の包囲網を突破して駆けだしてしまった。何もかもテツヤのせいだ。

くそ、このままでは妹がノーパンで登校してしまう。

「アヤジーーッ!」

俺は叫ぶ。


「とりあえず後ろ隠せー!!」


走りゆく彼女のスカートは流行に迎合していった結果、走ると丸出しになる丈しか無いのだった。


「お、おいスッギー!?」


まずいテツヤのアホがいる事を忘れていた。

まさかばれッ…

「こんな所にネギがはえてるぜ! すげーよ、根性がやべーよ!」

そこには堅いアスファルトを突き破って一本の“ど根性ネギ”が生えていた。


俺はそれを無言で蹴り折った。

「あぁ! ねっぎぃーー!?」




***




1時限目の終わりを告げる終鈴が鳴り渡る。

教室の出入り口からは沢山の生徒が溢れ出した。


妹のクラス付近の柱に身を潜ませた俺は、その人混みに乗じて一学年のクラスを伺いみた。

アヤジは……いた、席に座って級友らしき少女等と談笑している。

その様子からまだなんとか持ちこたえているのだということが分かった。


俺はそう、あられもない状態の妹が心配で心配でたまらずに授業そっちのけで様子を見に来ていたのだ。

因みに俺は御年中学三年生。本年度の末には受験を控える身だが、妹の操と受験を天秤にかけたとき妹に傾いてしまうのだ。

覚悟しておけよアヤジ、お前がどんな露出行為を実行しようともこの俺が必ず阻止してやる。


そんな事を考えている間にアヤジはとんでもない行動に打って出ていた。


な、なんということだろう。

アヤジは談笑している傍らでその両足をとんでもない幅まで広げいたのだ。

……やられた。

このままでは見つかってしまうのも時間の問題だ。

でも、三年生である俺が奴の下まで赴いて足を閉めさせる事なんて不可能だ。

やった瞬間にバレる。

くそ、結婚前の女があんなに足を開いて良いのか?

ちくしょーッ!?


「お、おいあれみろよ」

すぐ近くの男子の声が聞こえた。

俺は全身の血の気が引いていくのを肌で感じた。

「う嘘…だろ」

その隣の奴も声を上げる。

まさかばれt…


「教壇にネギが生えてるぞ!」


ねぎ!?


「なんであんな所に!」

「執念よ、ネギの執念が起こした奇跡なのよ」

「ど根性ネギて名付けようぜ」


あっと言う間にど根性ネギの周りには人集りができた。

見ればアヤジの周りには級友も含めて誰も居なくなっている。

アヤジは悔しそうに下唇を噛んだ。


──助かった、まさか二回もネギに助けられるなんて。さっきは八つ当たりで蹴り折ってしまったけど、感謝するぜ。


そうこうしている間に2時限目の予鈴が鳴った。

アヤジのクラスには数学教師の江藤先生がやってきた。


「おらお前ら授業を始めるぞ席に戻れ!!」

そんな怒声を挙げれば、ネギの人集りも掃けていった。

「ん、なんだ?」

江藤がど根性ネギに気付く。

「誰だこんなところで長ネギの栽培をおこなった阿呆は、これは先生が没収するぞ」

ブチンッと引き抜かれたど根性ネギは江藤の懐に仕舞われていった。

さよならネギ、俺はお前の勇姿を忘れない。


程なくして本鈴が鳴り響く。


「ほら教科書の18ページを開け」

それだけを言うと江藤先生は黒板に向き直って、虎視眈々と何やらを書き出していった。


よし、授業中なら安心だ。アヤジも迂闊な露出行為はできないだろう。──しかしそれは甘い考えだった。


先程の露出でネギに一杯食わされたアヤジは、むしゃくしゃから更にとんでもない行動に出たのだった。


ガタッと立ち上がるアヤジ。

必然的にクラス中の視線が彼女に集まった。

一心不乱に黒板とにらめっこをしている江藤が気づかなかったのがせめてもの救いだろう。

というか、まさか我が家の妹様はこんな衆人環視の状況で何かをするつもりなのか?

よ、よせ、今の俺にはフォローなんて出来るはずがない。


俺の思いとは裏腹にアヤジの手は彼女の下半身を守るスカートのホックへと伸びる。


──終わった。


その時、神風が吹いたのだった。


「おい、みんなあれを見ろ!!」

その言葉と同時にアヤジのスカートが下へと引き落とされた。


「な、なんだと?」


男子生徒の声が挙がる。

駄目だ、無理だ、絶対バレた。

これでばれなきゃ嘘d…


「江藤のカツラが風でとばされた事により頭皮が露出し、その下に生えた力強いネギが露わになったぞ!!」


……。


「どうしてなの? 江藤先生がカツラだった事にも驚きだけど、その下のネギが生えていた事にも驚きだわ!」

「これはもしやど根性ネギを引き抜いた江藤に対する死んでいったネギの呪いじゃないのか!?」

「え! じゃあ江頭先生は近々死ぬの?」


クラス内は騒然としている……1人と俺を残して。

うん、そう、ネギだ、ネギなのだ。

ネギだから仕方ないのだ。



…もう俺っていらないんじゃね?

なんかアヤジにはネギがついてるし。いいよそれで、俺は解雇でいいよ。どうせ役立たずだし。

いっそタイトルも『妹は露出狂、その傾向と対策を考えるネギ』でいいじゃん。

もうやだ。やだやだやだ。帰る!


「あ、いたいた。スッギーこんな所で何やってんだよ、もう授業始まってるぜ」

帰ろうとした矢先、俺を呼びにテツヤがやってきた。

「ん? どうしたんだスッギー、元気ないな」

「ふふふ、笑えよ、どうせ俺は無能だよ、笑え笑ってくれ!」

自暴自棄だ。


見ればアヤジも下半身丸出しで漠然と立ち尽くしている。

なんて滑稽なんだれうか我が兄妹は、もう笑えねーよ。


だが自暴自棄になる俺とは違い、アヤジはまだ諦めてはいないようだった。

なんと──叫んだのだ。


それは耳をつんざくような、甲高い叫びだった。

恐らく、クラスはおろか校舎全域聞こえていただろう。


「な、なんだ!?」

「誰だ!」


クラス内の生徒たちはその発生源を探ろうと、ネギから視線を外しかけていた。

恐らく極限の状態でアドレナリンが分泌されたのだろう、俺にはその一分一秒がゆっくりと流れて見えた。


今回は駄目だ。

ネギではどうしようもない。

俺がなんとか──いやまてよ、今までもど根性ネギが何とかしてくれたんだ。多分奴はこの空間のどこかでスタンバっている筈だ。


「あれ、なんだこのネギ」

テツヤが足下に生えていたネギをむしり取った。

ってうおぃ!?


まずいぞ、ど根性ネギが不発になってしまった!

このままでは──本当に発覚してしまう!?


…ブチッ

俺の中で何かが切れたような気がした。

「うおおおぉぉぉぉぉお!!」

雄叫びを挙げてテツヤの胸倉をつかみあげた。

「え、は、え?」

そのまま渾身の力で持ち上げると…


力一杯窓に叩きつけた。


パリーンッという音、誰かの悲鳴。


「きゃー!」

「なんだ、誰か飛び降りたぞ!?」

「まじかよ、ここ三階だぜ?」

「自殺だ!!」

教室の中は騒然としている。なんとか注目を集めることが出来たようだ。

……ていうか、その。すまんかったテツヤ。


生徒達は続々と廊下に集まっていき、人混みが出来上がった。

その間を縫って教室へと飛び込むと、半裸の妹が立ち尽くしていた。

どうやら泣いているようだ。


俺は彼女に近付くと優しくラリアットをかましたのだった。

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