第63話
サッカー大会を終えた後、一人の人物が近づいてくる。
「お久しぶりです公爵様」
「これはこれはハイネマン司教。ご覧になられましたか?」
「えぇ。とても盛況でしたね」
一つ頷き、近くにあった椅子に座るよう促す。
「どうぞ」
「おっと、ではありがたく」
俺たちは座ると、騎士の一人が机を持ってくる。
使用人がお茶を入れ、それをそれぞれの前に差し出す。
ハイネマン司教は茶を一口だけ啜り、机の上に戻す。
「まずは勝利おめでとうございます。公爵様」
「ありがとうハイネマン司教。これも民を纏めてくれており安心して後方を任せることができました。ハイネマン司教のお力だと思っています」
実際。領民が反乱を起こせば勝利はなかっただろう。
後方の安全を確保するというのはそれほど重要なことなのだ。
「我々としましても、圧制を敷かない公爵様の方がありがたいので」
「もちろん今後も圧制を敷くつもりはありませんよ」
そう伝えると、ハイネマン司教は少しだけ安堵した表情を見せる
圧制を敷き不満が溜まると、民衆は宗教勢力に頼ることになる。
そうなると宗教勢力としては影響力が増すことになる。だが、不満が頂点に達すると宗教勢力を祭り上げて反乱の旗印になる。
だが、この時重要なのは彼らは知識人であり中立階級なのだ。武力を持ち合わせていない。
騎士を擁する貴族との戦いは虐殺になる。
そうなると国力は落ちるし、民の生活基盤は荒廃する。
宗教勢力としても反乱は望むところではないのだ。
ちなみにうちは、徴兵ではなく志願制だ。そのため、領内には数多く戦闘可能な領民がいる。反乱を起こされたらうちの数倍の規模を敵に回す可能性があった。
まぁだからこそ、宗教勢力と関係を構築しといたんだけどね。
「領民の様子はどうです?」
そう尋ねると、ハイネマン司教はカチンと静かに音を鳴らしながらカップを置く。
「概ね良好ですね。戦前は民にも不安視する声はありました。ですが勝利したのと、例の話もあり東部を中心に公爵様を信頼する民衆が増えているようです」
「それはよかった」
そこで一旦区切って茶を一口啜る。
「ところで、今回の戦で多くの負傷者を出しました」
そう切り出すと、ハイネマン司教も悲しい顔を浮かべる。
「えぇ。存じております。必要なことだったとはいえ、戦で犠牲がでるのは悲しいものです」
「そこで、彼らの今後について相談したいのです。もちろん我々でも役人の補佐などを用意します。ですが、これから先も全員を迎えるわけにいかない。良き案はありませんか?」
ハイネマン司教は難しい顔を浮かべ、う~んと唸っている。
「そうですね……彼らの出自は私も聞いております。本の整理などで、うちで迎え入れることもできます。ですが、それも限度がありますので……」
二人して何かいい案はないものかと唸る。
「1つだけ……案と呼べるかも怪しいものですが」
ハイネマン司教の言葉に俺は身を乗り出す。
「聞こう」
「既存の社会に組み込むのは現状難しいかもしれません。ならば、新たに工房やら商会を作ったほうがいいかもしれません」
「新たな工房や商会か……」
商会は金羊商会とずっぷりな関係だ。新たに公爵家から商会を作るとなったら余計な軋轢を生むのは目に見えている。
となると、工房だが……。
1つの考えが頭をよぎる。
「ありがとうハイネマン司教。参考になりました」
「公爵様の助けになれたのなら幸いです」
立ち上がり、ハイネマン司教と握手する。
俺は自身のアイデアを実現するべく領都の街並みへと向かう。




