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伯爵家の五男ですが、公爵家に当主になりました。  作者: highvall


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第2話

「ほー。ここがバルティア公爵家の領都か。それにしてもアレでかい城すね」


 俺は幼い頃からの友人であるヴェルナーを伴って都市を散策していた。


 中世ヨーロッパ風の都市に煉瓦や木材で建築された建物が立ち並ぶ。都市の中央には穴だらけの城壁に囲われた城が鎮座している。


 ボロボロの都市を見て、深刻に考えていたのに俺の家臣は呑気に観光気分であった。


「そうじゃな。元々バルティア公爵家はシルリア地方の監督をするため、当時の王弟が入ったのが起源じゃ。そのため、反乱の備えとして城は立派なものとなっておる」


 そう言って解説するのは、俺らからは爺と呼ばれる老騎士ヘルベルト。


 白髪に顎髭を生やしているが、老人と呼ぶにはあまりに体が鍛えられている。本来であれば曲がっていても可笑しくない背筋は一本の芯が入ってるかのように真っすぐだ。


 俺の幼い頃からの教育係だ。伯爵家の所属ではあったが、俺が公爵家入りすることを契機に伯爵家を辞し、俺に仕えることを選んでくれた。

 当人曰く、至らぬ点は多々あり教えることがまだたくさんあるとのこと。正直もう年なので、老後の楽しみを兼ねて俺をしごいてやろうという本音をこの前漏らしていた。

 歩いていると、使用人と思しき人物がこちらに向かって走ってくる。


「公爵閣下! こちらにおられましたか! さぁ城へ向かいましょう」


 どうやら到着してからも、城に向かわず散策していたことで迎えが来たらしい。

 まぁ領内の散策はまた今度にするとしよう。それにこれから嫁さんと初顔合わせだしな。

 そうやって浮かれていた時期が俺にもありました。


「初めまして。アインツィヒと申します。バルティアのレイラ姫とお会いでき、とても感激しております」

「…」


 あれ? 完全スルーなんですけど。

 あぁでもそっか。彼女からしてみたら、俺は親の仇であるもんな……。

 その後、一応結婚相手だから多少のコミュニケーションは必要だと思い、一生懸命話しかけたが何か返ってくることはなかった。

 さすがに、俺自身も耐えられなくなり、また後日お話しましょうと言い、切り上げてきた。


 とりあえず、かつてのバルティア公爵家当主が使用していた執務室で腰を休める。

 城の外装などは荒れていたが、城の内部は奇麗に保たれている。執務室には当主が使うと思われる大きめの机と、ふかふかの椅子。部屋の中央には、四つの机と椅子が置かれている。

 なんか、前世の会社を少し思い出すな……。


「それにしても不愛想な女っすね」

「まぁそう言うな…彼女からしたら俺らは親の仇……いや、一族の仇か」


 だが、彼女の強情な態度もある程度納得するが、一つ気にかかるのは彼女は俺を警戒するんじゃなくて、周りすべてと距離を置いていたことだ。

 俺を嫌うのは分かるが、給仕をしていたメイドにもまったく反応を示さなかった。


「爺。もしかしてバルティア公爵家を攻めた時、使用人も皆殺しにしたのか?」


 爺はにやりと笑った。


「ほぅ。よく観察されましたなアイン様。まぁ、これはわしが聞いた話ですが、使用人は殺さずに追い払ったようですな」

「それでか。彼女が周囲すべてと距離を置いたのは、この城に誰一人として味方がいなかったからか」

「そのようですな。伯爵様もあまり公爵家の色を残したくなかったようで」


 なるほどなぁ~。


 そうだよな。親も殺されて、仲のいい人全員いなくなって、周りは敵だらけ。


 そら、心を閉ざすわな。戦乱で荒れる世の中では、珍しい話ではないが、16歳の少女には酷な話なのは確かだ。


「爺。2人ほどレイラ姫と関係性の深い同性の使用人を探してきてくれないか?」

「構いませんぞ。ですが、伯爵様が何か言いませんかな?」

「何か言われたら、若輩な身としては公爵の城は勝手がわからず詳しいものを少し呼び戻しただけと答えるさ」


 仕方のないことだろ? と両肩を竦める。

「本当のところは?」


「俺には爺やヴェルナーなど、ほかの家臣がいるが、彼女にはいないからな」


 彼女に優しくすることで自己満足に浸りたいのかは俺自身もよくわからない。

 ただ、前世の価値観を持っているからなのかな……。


「アイン様はお優しいですな。ですが戦乱の世では優しさだけでは敵を倒せませんぞ」

「爺ちゃんアイン様はこれでいいんだよ。アイン様の敵は俺らが斬り倒せばいいんだから」

「ありがとうヴェルナー。でも、あまり無茶はするなよ?」


 ヴェルナーは何も言わずに頭をかいていた。この友人は守れない約束は誤魔化すのが癖だ。正直なやつだから微笑ましくもあるのだが。


 コンコン


 ドアがノックされる音が響く。


「エーリッヒです。公爵閣下。領内の情報を集めてまいりました」

「エーリッヒか。入れ」


 失礼しますと入ってきたのは貴公子然としたクールイケメンだった。

 俺が昔、戦火で追われた難民で親がいないものを家臣とするよう引き取って育てた幾人かの一人だ。

 なんか、貴族の俺より貴族オーラが漂っていて悔しいのは俺だけか?


 エーリッヒはいくつかの報告書を机の上に並べる。エーリッヒ含め幾人かが領内調査のため、俺の公爵家入りより先行して領内に入っていた。

 報告書にざーっと目を通す。

 まぁ予想どおり、度重なる重税と徴兵などで領内はひどい有様だった。

 それにしても、この借金の額は……。


「閣下。金羊商会の者が面会を求めています。おそらく借金のことかと」


 エーリッヒの言葉に俺は思わず頭を抱え、天を仰ぐ。


 父上。借金もろとも公爵家は滅ぼしてしまったほうが良かったのでは?




 応接間には、小太りの男と少々痩せ気味の対照的な2人の男がソファに座って待っていた。

 男達は立ち上がり、こちらにお辞儀をする。俺も手を軽くあげることで返礼した。

 俺はソファーに座り足を組む。後ろには家臣たちが控える。

 2人に座るように促し、ソファがギュッと音を立てる。 

 小太りの男は、成金の様に宝石の類をジャラジャラと着けているわけではないが、服の素材からしてそれなりに金をかけているのが見て取れた。


「お会いできて光栄でござります公爵閣下。私は金羊商会の会長をしておりますヤコブと申します。以後お見知りおきを」


 いかにも悪徳商人みたいな風貌の男の挨拶を聞きながら、対応を考える。相手は公爵家に莫大な金を貸した商人だ。


「アインツィヒ・フォン・シル・バルティアだ。領内はこんなありさまでな。早速で悪いが、要件を聞かせてもらえるか?」

「そうですな。では、早速本題に入りましょう。私どもがバルティア公爵家にお貸しした王国金貨1万6千枚。返済していただけますかな?」


 1万6千枚か。報告書に目を通していたが、改めて感じるのは莫大な金額だ。

 本家であるヴァイワール伯爵家も出せなくはないがかなりの出費だ。ここでそんな金はないと突っぱねるのは簡単だが、この領内のありさまでは商人にそっぽを向かれると厳しいものがある。まぁ、手がないわけではない……賭けになるが。


 腕を組み、少し考える素振りをしながら答える。


「そうか。実は私としてもその話をしたいと思っていたところだ」

「おぉ! それでは……」

「あと金貨5百枚ほどの食糧を貸してほしくてな」


 そう言いだした瞬間、商会長のとなりの男が立ち上がった。


「何をおっしゃるのです! まず1万6千枚の返済をしていただかないと!」

「やめんか! ニコライ!」


 商会長に怒鳴られたニコライは顔を真っ赤にしながら、席に座った。

 危なかったね。いくら金を貸してる身とは言え、貴族にその態度は斬り捨てられても文句は言えないところだ。商会長に感謝しろよ? という意味も込めて笑顔を送る。


「公爵閣下。身内が非礼を致したこと深くお詫びいたします。ですが、1万6千枚はかなりの額……せめて返済する目途はあるのでしょうか?」

「返済する目途か……正直に言おう。ない」


 こんな領内の有様では、重税を課したところでとても1万6千枚集めるのは無理だろう。

 ないもんはない。しょうがない。肩を竦めてみせる。


「ふむ……。そうですか」


 俺の返答を受けても、ヤコブは顎に手を当て見ている。

 商人であるヤコブには長年の経験があり、無理と言ったが何処か値踏みしているのだろうか。


「その代わりといってはなんだが、我が領内におけるヤコブ殿の金羊商会の税を免除しようと思っているのだが」


 俺の言葉にヤコブの目が細くなり、真剣味を増す。


「ほぅ……それはそれは……ですが、領内の様子を考えると1万6千の対価としては弱いように思われますが」


 相手が興味を持っていると確信した俺はここが勝負所だと感じた。

 俺は、唾を飲み込む。


「このままではそうだろうな。だが、私は悪くない賭けだと思っている。元々バルティア公爵領はシルリア地方でも随一の穀倉地帯だ。復興した暁には1万6千などあっという間に元が取れるのではないか? それでも不安というならこの城も担保に入れよう」


 アインツィヒ様それは! と家臣が騒ぐが手でそれを制す。

 たとえ反対されようと、この考えは貫き通す。


「なるほど……先の金貨500枚の食糧は復興への足掛かりというわけですな」

「そうだ。戦火で荒れている民心の慰撫のために税を下げるが、それでも金貨500枚程度の税は回収できる見通しだ。なんならヤコブ殿を徴税官に任ずるので直接回収するといい」


 ヤコブは思わず目を見開き驚いているのが見て取れた。

 まぁそうだろうな。貴族が貴族足るは徴税権と軍権などによって成り立っている。

 故に貴族は徴税権を手放さないし、軍権も手放さない。まぁそれ故、内戦は収まらないんだがな。

 まぁ俺にとっては回収したところで商会に渡すのだから、最初から商会に回収までやらせたほうが面倒がないというのが本音だ。


「面白いことを考えますな。ですが、我々がちょろまかすとは思わないので?」


 ヤコブはそう言って騎士たちのほうをちらりと見た。

 この世界の騎士は騎士道というような清廉潔白ではなく、略奪もする。もちろん例外などはいるが。

 給金ももらうが、領地を持たない彼らの臨時収入が徴税官の仕事だ。彼らは税収の一部を懐に収めることが暗黙の了解となっている。

 まぁ俺の家臣は本家から多少多めに支援してもらってるので金の不満はそこまでない。

 話が逸れたが。


「その点については、心配などしていないさ。商人としてこの地を生きるなら信用が必要だと思うが?」

「はっはっは! 確かにその通りです! なるほど、そういうことなら引き受けさせていただきましょう。金貨500枚分の食料も1週間以内に集めてみせましょう」


 ヤコブ達商人は貴族の相手もするが、メインは平民相手の商売がほとんどだ。

 彼らが、もし決められた税より多く徴税すれば平民からは信用されないし、少なく徴税すれば支配階級である貴族からの信用は得られない。彼らは適切に行う必要がある。その適切な姿勢は信用を生む。


「では、これからよろしくお願いしますアインツィヒ公爵閣下」


 ヤコブは立ち上がり、手を差し出した。俺はその手を笑顔で握り返した。


「よろしく頼むよヤコブ殿」





 ヤコブは領主の屋敷を後にし、ニコライと馬車の中で話し合っていた。


「面白い人物だな。バルティアの新当主殿は」

「ですが、父上。あの話も結局復興を成し遂げねば絵空事では?」

「どっちみち我々に選択肢はなかったのだ。あのまま回収できずに滅びるか共存共栄するかを脅されていたのだよ。まぁアインツィヒ殿に可能性を感じた故、乗ったがな。それにしても貴族らしからぬ貴族様であったな。商人の方が向いておられそうだ」


 ニコライも確かにと頷き、苦笑いを浮かべる。

 ヤコブは馬車の窓から修繕中の城を眺める。


「期待しておりまするぞアインツィヒ公爵殿」

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