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皇都剣技大会編

 私は大会が好きだ。

 大会には、路上や夜会で発生する偶発的な戦いとは別の痺れポイントが確実に存在する。


 それは言い訳の余地が一切ないという点だ。


 一般的な戦いというのは、基本はランダムに近い要素を含む。

 例えば魔法杖を持っているときに襲われるのとそうでないときに襲われるのでは、対応が全く違うものになる。


 暗いところの方が私の闇魔法は有利だし、相手よりも高い位置取りが出来ていたらさらに有利だ。もし近くに棒状のものが落ちていたら魔剣に見立てられるし、周囲に人がいるかどうかでも出せる力が変わってくる。

 雨の日に風魔法を相手にするのはかなり嫌だし、森で土魔法を相手にするのも考えることが多くて大変だ。

 そもそもきちんと戦う必要があるかも怪しい。

 大変だったら「逃げる」という選択肢を選べる。

 もちろん圧倒的な力量差があれば諸々気にしないんだろうけれど、それでもやっぱり勝敗に運の要素が出てくる。


 例えば先日戦ったエルフ剣客少年は私よりも強かったけれど、私はいま生きていて彼は死んでいる。なぜなら私は運が良かったから(今戦ったら私が勝つけどね!)。


 対して、大会はどうだろう。

 準備する時間も、場面も、要素もすべてが事前に等しく与えられている。

 常に一対一。負けたとして、「運が悪かった~」は一切通用しない。

 かつてアルスの魔法大会でロス先生が五連覇して殿堂入り(出禁)になったそうだけど、真に強いやつがしっかりと勝つ、それこそが大会の魅力であると私は考える。


「こうやって杖を持って向かい合うのは久しぶりですね、先輩」

「五年前と比べて、私は結構強くなったよ」

「ふふん、私だって毎日パンを焼いていますよ?」


 大会の一回戦、私の相手はメイだった。


 ……メイかー。


 参加者が計十六人いる中で、私が決勝までメイと当たらない確率は53パーセントくらい?

 逆に初戦で当たる確率は6とか7パーセント。

 そっちを引くかー。まあ6パーあったら引くときは引くだろう。

 大会なんて運だよ、運。


 でも正直、燃えている。


 メイ。

 トーレスの魔法大会の決勝で私が破れた相手。

 どこかの貴族に追放され、下町のパン屋で人々に笑顔を届けていた。

 四属性を扱う魔法の天才。

 なぜか私を慕ってくれていて、私よりも聖女っぽい活動をたくさんやっている。

 今の私の魔法陣を多用する戦闘スタイルは彼女の運用をモデルにしたものだ。

 パンが美味しいというだけの理由で王妃に結婚を持ち掛けられ、なぜか私の魔獣(マユナ)にも懐かれている。


 ……勝ちてぇ~。


 仮に私がここで負けたとしても、賞品にされているエルフたちは彼女が優勝してなんとかしてくれるだろう。

 どちらが勝ってもその目的には支障がない。

 だからこそ、この試合はそういう対外的な事情は一切関係なしに、ただ、純粋に、勝ちてぇ~。

 私を慕ってくれる後輩にいいところを見せてぇ~。



 〈大会規定〉

 ・魔法またはあらゆる種類の武具の使用可。ただし生物は除く。

 ・対戦相手の戦闘不能、又はその表明、又は登録刀の破壊によって勝敗が決する。



 最初のルールは、剣聖=刀というロジックを弾くためのものだ。

 この国には「剣聖とは所有する刀」という独特の考え方がある。それを拡大解釈すると三刀流とかいいながら剣客を三人引き連れて参加する人が現れないとも限らないという話らしい。


 そういう意味では二つ目のルールもスレイ的だ。

 生き死に以前に刀を折られるような実力差でぐだぐだ言うな、ということだろう。

 あるいは生粋の魔術師――ここではエルフが想定されているのだろうけれど――に対する嫌がらせとも感じられる。「刀」という文化に敵対している相手に刀を渡して、魔法杖ではなくその刀こそがお前の勝敗を決める(尊厳な)のだと押し付けるわけだから性格が悪い。まあでもこれくらいの譲歩はないとこの国で魔法ありの武闘大会は開けないのだろう。


 当然、私は残雪を登録刀にした。

 今回のこの規定を聞いたときに、私はユリアナがエルフ狩り魔法杖刀をエルミナに渡していたことに思い至った。あれは一応カテゴリーが刀のようだから、登録刀に指定できるはずだ。エルミナを優勝させたかったら、変に登録用の刀を渡すよりもああいう魔法杖の方が絶対に確率が上がる。

 今回エルミナは出場しないから役に立たなかったけれど、きっとこんな風にあらゆる確率に対する備えがばら撒かれているのだろう。


 エルミナもそういうことをよくやっている。

 予め十二面のうち十一面を偶数に書き換えたダイスを用意しておいて、「偶数が出たら勝ち」というルールの下で振る。もちろん、それでもなお奇数が出ることもあるだろうけれど、その確率をできるだけ下げてから勝負に挑む。いわゆる「貴族的」なやり方だ。


 そう考えると、私は彼女たちに振られるダイスの側だ。

「私」という目が正に出ることに期待してダイスを振る。


 私はその期待にできるだけ答えたい。それを叶えるためのなるだけ鋭利な武器でありたい。こいつを握っていてよかったと、そんなふうに思ってもらいたい。

 ……もしかするとこの感覚を突き詰めていくと、〈剣聖〉と呼ばれる皇族の刀の在り方に至るのかな。


「今回は闇魔法を使ってくれるんですか?」

「当然」

「やった! うれしいです」


 メイが掌の上に五層の魔法陣を浮かべている。

 十、二十とその層が増えていく。

 それらの層を立体的に組みかえて、ほとんど球に近いような立体的な魔法陣ができあがる。

 それらが指先サイズに小さく圧縮される。

 同じ工程をさらに三度繰り返し、三つの魔法球ができあがる。

 右手のそれぞれの指の間に、計四つの魔法球が浮かんでいる。

 まるで指先の体操をするみたいに、彼女がそれらの小球を手の中で弄ぶ。


「とんでもないねえ」


 この準備運動みたいなノリで行われている魔法の精密操作をできる人間が王国に他に何人いるだろうか。

 私は一人もいないと思う。

 歴代でもいないんじゃないかな。

 一つの球に二十の魔法陣が使われているとして、合わせて八十。それらの同時精密運動。とんでもない以外になんと言えるだろう。


「単なる魅せ魔法みたいですけど、意外とパンを焼くときに使えるんですよ」


 メイのパンは銅貨数枚で食べることができる。だけど仮にこの魔法の価値を値段に転嫁させたとするなら、一つのパンが白金貨の価値を持つだろう。


「魔法の器用さではメイには勝てないよ。でもこの大会は剣も使えるからね」


 残雪を抜く。

 会場の一部が小さくざわついた。

 もはや妖気は出ていないけれど、それでもいくらかの人々には遠目からでも感じられる〝格〟のようなものがこの刀にはあるのだ。


 一方で、対面のメイは全く気にしていないようだった。


 闇魔法付与。付与、付与、付与、付与。

 残雪に闇魔法を重ねる。

 妖刀であったことが理由かは定かではないけれど、残雪と闇魔法の相性は良い。

 これを持っているというだけで怒られてしまいそうなほどに、笑っちゃうくらいに手の中がぐにゃんと闇々しい。

 自分には光魔法付与。付与、付与、付与、付与。

 身体能力をぎりぎりまで上げる。


「本気でやるよ」

「わわ、めちゃ嬉しいです。一度、その先輩と戦ってみたかった。私も剣を借りてきたんですよ。ルールですからね」


 メイの腰には、左右に二本ずつ、計四本の刀が刺さっている。


「……刺さり過ぎじゃない?」

「じゃーん、ちょっといい木刀ですよ。昨日お土産屋さんで買いました。竜の巻き付いた刀の金細工と並んで人気のお土産なんだそうです。柄のところに『皇都』って彫ってあるんです」

「それ実は私も考えたよ。登録した刀が折れたら負けなら、他に千本くらい刀を持ち込んでその中に隠しちゃえばいいんじゃないかって」

「そんなことを考えるのは先輩くらいですよ。でも先輩ならそう考えるかもとは思ったので、四本とも登録申請しました。ルールを確認してきたんですけど、この場合は四本のうちどれか一本でも折れたら先輩の勝ちになるそうです」


 つまりは四本中一本だけを登録刀とすることで相手に四択を迫る様な、そういう自分が有利になり得る「運」の要素を彼女は自ら排除してきたのだ。


「さすが。アルス魔法大会二連覇は格があるね」

「二回目は先輩の出てなかった大会ですからね。私の二連覇達成は今日この試合です」


 メイが口角を上げる。

 私と戦うことに価値を感じてくれていることが素直に嬉しい。


 余談であるけれど、彼女がユイン領で開発した聖女まんじゅうこと私のシルエットが入ったおまんじゅうは、ユナちゃん監修のもと味のバリエーションを増やし、今では一大名物となっている。この前ユイン領に行ったときに、小さな子供に「おまんじゅうの人だ」って指をさされた。私がおまんじゅうなんじゃなくて、おまんじゅうが私なんだよ。


「というかその刀を使うの? ルール上登録しただけじゃなく?」


 メイが刀を使ってくれるなら、私の勝率はだいぶ上がる気がする。


「今日は魔法大会ではないですからね。やっぱりコンセプトは大切にしなきゃ」


 風魔法で四本の刀がメイの頭上に浮き上がった。


「……なるほど、四刀流は確かに魔法なしではできないね。発想は面白いと思うけど、流石に舐められている気もする」


 正直なところ、メイに剣の技量はない。彼女にとって剣を扱うというのは、鳥が地上を走るのと同じくらい性能を発揮できないことであるだろう。


「ふふん、これでもまだそう思います?」


 手の平に展開していた四つの魔法球が四本の木刀に付与される。

 火、水、風、土。

 四つの魔法を纏った刀がメイの頭上で自在に踊る。


「お試しですよ」


 一本が私目掛けて放たれた。

 カトレア卿みたいな炎の刀だ。

 ステップで躱す。


「……んぇ、……ほんとに?」


 その威力に、思わず変な声が出る。

 太刀筋の延長線上にあった石畳が、その軌跡に従って抉れるように荒々しく熱で捲れていた。


「全部試してみます?」

「――――ッ!」


 風と火の刀が飛んできた。

 左右から、同時に振り下ろされる。

 普通だったら受けられるとして、だけど先ほどの石畳を抉る一撃は、どこかのタイミングで魔法の出力がアップしたはずだ。つまり私は、打ち合いの瞬間だけでなく、その前後すべての間において魔法攻撃をケアしなければならない。


「いくよ、残雪」


 先に風魔法剣を受ける。


「スクリーン」


 その瞬間、闇魔法で面を作る。くるりと反転して、背後からの火魔法剣を処理。放たれる炎を躱しつつ、木刀そのものに闇魔法の斬撃を叩きこむ。火魔法でガードされて、木刀を削り取れなかった。

 二本の木刀がメイの頭上にひゅんと舞い戻る。


「ふむん、それじゃあそろそろ始めていきましょう」


 四つの刀が自在に舞い踊る。

 四魔法の軌跡が美しく宙を彩る。この大会に芸術部門があったなら、文句なしに彼女の優勝だろう。


「――ッ!」


 木刀は頭上のまま、そこから土魔法で生成された土礫が風魔法で加速されて飛んできた。

 残雪が自分で払い落してくれた。


 なるほど、そういうパターンもあるのか。警戒することが多すぎる。

 各属性を持つカトレア卿四人と同時に戦っているみたいな話だ。

 一カトレアが一ステラだとすると、私一人で四人の私と戦わなければならないということになる。両辺をステラで割るなら、1と4の大小比較になってしまう。

 ……なんて無意味な考えが頭をよぎってしまうほどに、メイの完成度が高い。


 えー、どうすればいいんだろう。

 スレイに来る前の私だったら、実力差を感じて早々に正攻法を諦めていたかもしれない。

 でも最近は自分よりも強い相手とやりまくってるんだよな。

 自分が妙に落ち着いているのが分かる。

 剣聖との差に比べたら、これはまだ空に手が伸ばせる距離だ。


「ステラ、ステラ、ステラ、ステラ、ステラ、ステラ」


 七つのステラを頭上に浮かせる。

 もちろん、光魔法でダメージは入らないから、これは相手の魔法打消し要員だ。

 結局のところ、律儀に魔法の剣を受ける必要はない。

 私がやるべきは手に持っているこの長い棒でメイを殴打することだけなのだ。


 行けっ――。


 跳ぶ。

 私が踏み込もうとしたタイミングに合わせてメイの四連撃!

 四つのステラを消費する。

 どのタイミングで魔法が強くなるか分からないから、最初のタイミングで当てにいく。

 木刀の包囲を抜けて、一歩前進。

 眼前に五つ目――メイ本人から放たれる高火力の炎魔法。


 魔法を……斬るっ!


 もちろん、剣聖がやるみたいにスマートにかき消すことはできない。

 だけど私はこの国に来て、剣聖たちの振う美しい太刀筋をたくさん見たのだ。闇魔法付与で魔剣と化した残雪であれば、なんとかそれらしい真似事ができた。


「あはっ」


 メイが笑う。


 行けっ!


 距離を詰める。

 気付けば足元が凍っていてる。


「ディナハト」


 石畳ごと闇魔法で足場を削り取って踏み込みを確保する。


「トーネ」


 左右から飛んでくる石礫を闇棘で打ち消す。


「ステラ!」


 二人の中間地点で光魔法を炸裂。

 ほんの一瞬、メイが判断に迷ってくれたならそれでいい。


 光に包まれる中で、敢えて残雪を鞘に収める。

 姿勢を低く、踏み込みは深く……――最速の抜刀!

 受けるメイの刀を砕き抜いた。

 メイを倒さずとも私は木刀を折りさえすれば勝ちなのだ!


 よっし! 勝っ……た…………?


 メイの頭上には、相変わらず四本の魔法木刀が浮かんでいる。

 あれ、じゃあ私はなにを砕いたの……?

 魔法杖の先端を向けられた気がして、後ろに跳ねる。

 今いた空間を、炎の渦が通過していった。

 砕けた石の破片がポトポトと雨のように落ちてきた。

 この残骸は……四本の登録刀ではない。メイがいま土魔法で創造した第五の刀だ。


「ふふふ、うふふ、すごい! すごいですよ、先輩! あは、死んじゃうかと思いました」

「…………っ、ハァ、ハァ」


 止めていた呼吸が持たなくなって荒く何度も息を吸う。

 今のでいけないかー。

 あのエルフ剣客少年程度だったらとっくに勝ててるんだけどな。


「先輩と向かい合っているだけで、どんどん自分の魔法が良くなっていくのが分かります。ほんとに楽しいです。先輩はインスピレーションの宝庫ですねっ」

「それはどうも」


 ユナちゃん世界の「インスピレーション」という言葉は、精霊(スピリット)宿る(イン)という成り立ちを持っているらしい。

 なんてエルフ的な言葉なのだろう。

 こんな単語が存在するにも関わらず、ユナちゃんの世界には魔法もエルフもなかったというのだからなんとも不思議な話だ。


「こんなのも思いつきましたよ、先輩」


 メイの頭上に六、八、十二……たくさんの魔法陣。

 そこから、魔法で百以上の刀が形成され、飼い主の命令を待つ猛獣のように私に狙いを定めている。


「準備はいいですか?」

「よくな――んあッ!」


 メイのクイッという指の動きに合わせて、刀の雨が降ってくる。

 頭上のそれらを束で薙ぎ払う。


 二射目、さらに装填された百近い刀――。

 来るっ!


「トーネ!」


 出せるだけの魔法陣を展開。

 喰らえ!

 空中戦を迎え撃つ。

 あらん限りの闇棘を撃ち放し、向かい来る刀を削り取る。

 美しく空中で全相殺!……と見せかけて、いくつかの魔法陣に迎撃の役目を捨て去せる。

 代わりにメイまで一直線!

 闇棘と魔法刀が宙ですれ違う。


「抜けろっ」


 メイまで闇魔法が届かっ……ない!

 何かを当ててかき消された。


「うぉんっ」


 逆にメイの魔法を帯びた実刀が飛んでくる。

 私が空中での闇魔法のすり抜けを狙ったのと同じように、メイは地上レベルで同じことを狙っていたのだ。

 残雪で弾く。

 続けて四方から絶え間なく打ち下ろされる四本の木刀を、一振りの刀で対処する。

 対処する……ていうか対処させられる。

 私にはほとんど行動の選択肢がない。

 ()()同時に降りかかる刀たちを、その〝ほぼ〟の僅かな差で間違わないように捌いていくことしかできない。

 手順を間違ったら終わり。足がもつれたら終わり。魔法への警戒を解いても終わり。

 その一刀一刀が敗北性を帯びている。


「あッはっ……!」


 思わず、声が漏れる。

 剣聖だって果たしてこれを捌けるだろうか。

 魔術師が剣聖レベルの剣客と戦おうするとき、私たちはいかに相手の不意を突くかということを考える。

 なぜなら真正面から力押ししたって勝てないから。

 あのレイだって、セイラと戦う時に二度と同じ攻め方はしない。

 足元を抜いたり、大量の水で圧し潰したり、相手が想定していないやり方で攻めることを選ぶ。

 私もそうだ。

 言葉でも光魔法でもなんでも使って、いかに認識の外から闇魔法を当てるかということを考える。かつての剣聖五位を足元から削ったし、現剣聖一位の片目もそうやって潰した。

 それが勝てる魔術師の振る舞いだ。あるいは魔術師の限界だ。


 だけど、

 だけどメイはどうだろう。


 真正面から、ただ真っ直ぐに、私を圧倒する。

 私は剣聖を二人倒しているから、それなりには分かるつもりだ。

 この子はきっと、正面から駆け引きなしで剣聖とやり合える。

 それが一体どれだけすごいことだろう。

 これだけ強い子が、政治に巻き込まれずに毎日パンを楽しく焼いていられる国を作っていけたなら、どんなに素晴らしいことだろう。

 この国に来てから……というかここ最近色々ブレブレだったけれど、自分のやりたいことがちょっと分かった気がする。


 いつだったか、今生の十二歳でジルに出会ったばかりの頃に言った目標があったな。

 意欲もなく、努力もしないような人たちも幸せに生きられるような世界を……みたいなことを言った気がする。


 いま振り返ると目標が若いよね。

 さすがは十二歳って感じ。


 今ここに成人した私がそれに付け加えるならば、力あるものがその力を行使しないことを選べる()()を私は目指したい。


「あのっ、私が聞くのもなんですけど、なんでこれを捌けるんですか?」

「コツはねー、全然別のことを考えること」


 言っていて、自分の腕が勝手に四本の刀を正しく受け続けていることに気が付いた。

 いつの間にか、魔法杖まで握っている。

 今この瞬間も捌きながら魔法を撃っている。

 私がいつの間にか撃っている闇球を嫌がって、メイの刀の扱いが先ほどまでよりもやや雑になっている。

 雑になっているなー、というのが上から見ていて分かる。

 その視野の中には私もいる。

 私が残雪を振り回しながら、隙間隙間で魔法を撃っている。


「…………ああ」


 これは……きっとセイラの見ている景色だ。

 セイラが第三皇子の剣聖としてアルスにやってきた夜会で、彼女が見ていた光景だ。

 彼女は会場全体を見るのと同時に、私も見ていた。

 きっと彼女はこんな風に彼女自身も見ていたに違いない。


 客席もよく見える。

 一番高いところにミヤとイオリがいる。

 少し離れてユリアナたちもいる。

 じゃあ二人の間のあそこが皇妃の部屋だろうか。

 試合前に色々セレモニーをやっていたんだけど、自分が第一試合だったから全然見る余裕がなかったのだ。


 グラウンドに近い席にユナちゃんも見つけた。

 隣にセイラも座っている。

 セイラと目が合った。

 彼女が私に剣を教えるときの表情で、「いいですね」とほほ笑んだ。

 物理的には見えるアングルではないはずなのに、不思議とそれが分かった。

 やっぱり大会に出て本当に良かった。

 これが達人の視――。


「あっ…………」


 自覚して調子に乗った途端に、視点が自分の中に戻ってしまった。

 勝手に動いていた腕のコントロールが私に戻ってくる。


「え、うそっ」


 そんなっ、いきなり渡されてもっ、この腕どう動かせばいいか分からな……っ~~。


 右上から風、火、土、まで見えたところで私の大刀神例祭の記憶はあっけなく終わった。

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