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A.9 時空魔法でやり直し!

 前略、身体強化魔術を習いました。

 ……空を飛ぶのはやっぱきつい。


『やっほ』

「……気軽だなぁ」

 あれから無事帰還を果たし、食事と入浴を済まして床につく。

 意識が微睡に沈んだかと思えば、まるでそのまま目を見開いたかのように意識が浮上し、目を開けるとそこにはネメアが居た。


『今日からはそこそこの時間お話できるんだし、いちいち長い前置きもいらないんじゃないかな』

「それはまぁ……っていうか! お前どれだけこの世界で問題残してるんだ? フレイアにクォ・ミル、会う人間と毎回トラブルが生じるんだが!?」

『おー、クォ・ミルと出会ったんだねぇ、エンカウント率低いレアキャラじゃん、ラッキーだね君』

「ラッキーじゃないが?」

 ふわふわと浮かびながら愉快そうに笑うネメア、こいつほんま……。


『これで君は既に1/4の魔女と出会ったことになるわけだが』

「今のところどいつもこいつも性格がアレなんだが」

『魔女なんて大抵アレだよ、長生きしてて人智を超えた力を持ってるんだからさ。真人間な方が異常だね』

「うへぇ」

 もう3人、されど3人。あと9人全員と会う事があるのかはわからないが、もし会うとしたらこれと同じくらい厄介な相手であるという事。

 正直会いたくはない。


『まぁ魔女の話はまた今度にしよう。今日は君に魔法を一つ教えようかな』

「魔法?」

『そう、今日教えるのはこちら! “時間遡行”!!』

「そんな通販番組みたいな」

『突っ込むより驚いて欲しかったな〜』

 確かに言ってる内容はすごいが、だからこそいまいちツッコミづらい。


『まぁ端的に言えば時間を巻き戻す事ができる。やり直し魔法ってところだね』

「何か失敗したり、この先何か悪い事が起きるってなった時に使うのか」

『そゆこと、まぁでも万能じゃない。特に君が使う場合はね』

「? どういうことだ?」

 時間の巻き戻し、それはできるのであれば便利なものだろう。

 それこそ今日あった出来事を思い返してみれば、あの2人の不毛な喧嘩を早期に阻止できるかもしれないという事。

 後は時間を巻き戻せるということはそれだけ長い時間を使えるということでもある。

 もう手遅れかもしれないが、仕事をクビになるまでのチキンレース中の自分にとって時間とは何よりも足りないものだと思うし。


『一つ、魔法の規模というのは練度や時間によって変化する。強力な魔法や、同じ魔法でも影響を及ぼす範囲や時間などは鍛えて使いこなさないとたかがしれているということ』

「つまり、俺じゃ練度不足だって事か」

『そゆこと。ボクであれば世界そのものの時間を巻き戻せるけれど、君じゃ精々できて数メートル範囲だね』

「だいぶ差があるな……」

『当たり前、第二の魔女としてどれだけの年月をかけて鍛え上げてきたと思ってるんだい?』

「第二の————」

『まぁそれはそれとして』

 さらりとネメアが口にした第二の魔女というフレーズ。

 魔女は同時に生まれるわけじゃなく、時間を経て次々と生まれてきた。つまり生まれた順番があるという事。

 ネメアが言ったことが真実であれば、こいつは……世界で二番目に生まれた魔女であるということになる。

 聞きたいことが山のように湧き出したが、それを遮るようにネメアは話を戻した。


『二つ目はパラドックスについて』

「パラドックス……矛盾とかそういう感じの概念だったか」

『そ、君の世界でも良くテーマとして扱われているだろう? タイムパラドックスとかさ』

「それがこの魔法にもあると?」

 タイムパラドックス。確か過去に戻って未来を改変したり、過去の自分と接触したりすることでなんらかの影響が出たり、自分が生まれる前の時代で親を殺したり……といった色々な逆説の事だったはず。


『まぁ簡単に言ってしまえば、全てを無かったことにはできないという事だね』

「ふむ……?」

『スプーンを落とした。という結果を巻き戻すとしよう。この事象には結果と原因が存在するわけだけど、時間遡行の魔法はこのどちらかが必ず残ることになる』

「手を滑らせてスプーンを落としたという原因と、スプーンが落ちたという結果?」

『そういう事だね。ここで手を滑らせた、という原因を変えたとしよう。そしたら手を滑らせてスプーンを落とすという原因はなくなるが別の理由でスプーンは落ちることになる』

「ふむ?」

『スープが熱かった、何かにぶつかった、驚くようなものを見た……何かしら他の理由でスプーンを落とすという結果が再現される』

「結果の収束……」

 原因を変えることでは結果は変えられない……という事か。


『逆に結果の方を変える事で、原因はそのままに結果の内容を変えることはできる。手を滑らせてスプーンを落としたが、地面に着く前にキャッチした。という感じでね』

「なるほど」

『結果を変えたいなら原因ではなく結果そのものにつながる過程を変えるのがコツ。逆に、結果をそのままに原因を変える事で自分の罪を他人に押し付けたりもできるぞ⭐︎』

「早速クソみたいな使い方を紹介しないでくれるか?」

 応用の方はともかくとして、そう万能なものでも無いのか、魔法というやつは。特に俺の場合は規模もまだまだ狭い……使い所は限られそうだ。


『使い方は魔術と同じ。巻き戻したい現象を強く意識して“時間よ戻れ”だ。ちゃんと頭の中で原因と過程と結果をイメージするんだよ〜』

「……要練習だな」

『勤勉でよろしいね。あ、あと————』

 うんうんと頷くネメアが、なにかを思い出したかのような表情を浮かべたが、その瞬間ネメアの声が遠く聞こえたような気がした。


『おっと時間だ。まぁ最後のは今説明しなくても、その時になったらわかると思うから良いかな!』

「まてまて良くない! そういうのって大抵一番大事だったりするから!」

『あっはは! じゃあその分苦労しちゃうかもね? 頑張れよ青年!』

「クソっ! いつかぶん殴ってやる————」

 人の苦労を笑うやつに碌な人間は居ないんだ。なんてことを考えていると次第に目の前は白んでいき、意識が途切れると同時に————


「クソガキ————! っ、朝……?」

「毎朝飛び起きてますね、おはようございます、メグル」

「あ、あぁ……おはよう、ユーラフェン」

 今日も今日とてガバッと飛び起きるようにして目覚めた。




「どうかなさいましたか? じっとスプーンを見つめて」

「ん、あぁいや……」

 夢での出来事を思い返す。時間を巻き戻す魔法……本当に使えるとして、まずは練習してみないことには勝手がわからない。


「ネメアに魔法を一個教わったんだよ」

「どのような魔法でしょう」

「時間を巻き戻すってやつ」

「あぁ、我が師は良く使っていたそうですね。私たちは変わった後と前のことを認識できないので、使ったと言われてもわかりませんでしたが」

「そうなのか?」

 確かに自分ごと結果や原因が改変されているのであれば認識もできないだろうが……範囲を限定すれば対象外の人間には見えるんじゃないのか?


「少なくとも我が師が使っているところを見たのは片手で数えられる程度です。その時は説明のために範囲を絞って居たという話でしたが」

「そういやあいつ、自分なら世界ごと巻き戻せるって————」

 あれ? ならあいつは普段から世界ごと巻き戻してたって事か? なんでそんな無駄に規模が広い使い方を……?


「何か気になることでも?」

「————いや、考えてもわからないから今はいいや。それより、特訓に付き合ってもらえるか?」

「かしこまりました」

 食事を終え、入浴を済まし、いつもの服に着替えて杖を手に取る。

 ……なんだかこの身体にもちょっと慣れてきた気がする。鏡でまじまじと自分の姿を見る機会が無いから、変に意識することが無いからだろうか。



ーーーーーーーーーーー



「よし、っと」

「これを落とせば良いのですね?」

「あぁ、ユーラフェンが手を離して羽根が落ちる。っていう事象を巻き戻す」

「かしこまりました。では————」

 アトリエにあった何かの羽根を一枚外へ持っていき、それをユーラフェンに落としてもらう。

 原因と過程と結果、それをイメージする。

 ユーラフェンが手を離したという原因、羽根がふわふわと揺れながら落ちる過程、そして地面に落ちたという結果————それを脳内に焼き付ける。


(まずは原因を変える————)

「“時よ戻れ”!!」

 唱えた一瞬、世界が停止したような感覚に包まれた。それは刹那的なようで永遠に続いていくような————


『時間に()はなく、進み続ける未来と戻ることができない過去だけがある』

(女の……声————?)

『無限に時が引き伸ばされたとして、停止した時というものは存在しない。君の力は……その存在し得ない刹那よりも短い“今”を創り出す力だ』

 刹那と永遠の狭間で語りかけてくるように想起される女性の声。優しく、それでいて

どこか無機質さを感じる女性の言葉が俺の頭に響くような気がして……俺は目を見開く。


「? どうかなさいましたか、メグル」

「ん……あぁいや、今なんか……あれ、それ————」

 奇妙な感覚に襲われた、と答えるよりも先にユーラフェンの手に目が奪われる。

 先程手を離してお舞い落ちたはずの羽根はユーラフェンの掌の上に乗っていたのだ。

 これはつまり……。


「成功したのか……はは、やった!」

「良く分かりませんが、今メグルは魔法を使ったのだと————はくちゅっ!」

「あっ」

 成功に喜びを覚えた束の間、肌寒い風が肌を撫でるとユーラフェンが小さくくしゃみをしてしまう。

 その勢いでひらりひらりと羽根は舞い落ちると、俺が伸ばした手よりも先に地面に触れてしまう。


「なるほど、結果の収束か……」

「そろそろ冷える季節ですね。失礼しました、メグル」

「いや、どっちかっていうとこれは俺のせいになるのかな? とりあえず次は結果を————」

 ネメアが言っていたことを目の当たりにしてどういったものであるかを実感する。

 羽根が落ちる前に時間を戻し、落とすタイミングでユーラフェンがこちらの異常を察して声をかける……それによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という原因が無くなり、くしゃみをすることで羽根を落とすという別の原因によって羽根を落としたという結果に変わったわけだ。

 果たしてこれに使い所があるのか、頭を使うなぁ。とにかく、次は結果の改変をしようと思い、羽根を拾い上げ————


ピシッ!


まるでガラスにヒビが入るような音が、無音を切り裂くように響き渡った。


ESN大賞7応募作品です。

応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!


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