A.7 仲間が増えた!
前略、喧嘩の仲裁をした。
矛先がこちらに向かないことを祈るばかりだ。
「喧嘩はもう終わりだ、それ以上は洒落にならない……と、思うんだけどー……」
光が晴れると、そこには立ち尽くす2人。
いや魔女なら大丈夫かなって思って放ったんだけど、マジで原型保ってるじゃんなんだこいつら。
「邪魔、なさるの?」
「ば、場所考えろって話だよ!」
「ネメアじゃないのに、私たち2人に喧嘩売る気?」
「いやそんなつもりはないんだけど!?」
うーん、これは最悪な結末かな? 死ぬまでの猶予がちょっと伸びただけかもしれない。
「……まぁ、良いですわ。興醒めですもの、それに、今日は争いにきたつもりではなくてよ」
「私も、たまたま外出てきただけなのに……」
「お、あれ……おさまった……?」
すん、とつまらなそうな表情を浮かべた後、ツインテールをふわりと浮かせるように髪を払うフレイア。
クォ・ミルもブツブツと呟いた後、まるであそびに飽きた猫のようにあくびをして興味を失う。
「あなた! メグル!」
「は、はい!」
「このわたくしがあなたのお力になって差し上げますわ!」
「……えっ」
「わたくし考えましたの。今のあなたを倒したところで、ネメアが悔しがる顔は見れない……どころかあの性悪魔女であればあの手この手でわたくしを煽ってくると!」
「まぁ、俺もそんな付き合いあるわけじゃないけど……言わんとしてる事はわかる」
「だからこそ、あなたをさっさと送り返して、直接本物のネメアをぶっ潰してやりますの!」
(……脳筋のケがあるよなぁ)
どこからその自信が湧いてくるのかわからないが、ともかくやる気だけは十分なドヤ顔で協力を申し出る……申し出るというのかこれは。
「まぁ、何も分からないから協力してくれる分にはありがたいけど……何が出来るんだ?」
「……分かりませんわ!」
「いっそ清々しいなお前……」
魔女ってのは魔術を極めた存在……なんだよな?
一応学問の一つだろうに、それを極めた魔女がこうも……馬鹿っぽいというのはどうなんだ。
「私はこのままでいいと思うけど」
「よくありませんわ!」
「だって、こんなに可愛くて弱い……じゃなかった。人の喧嘩を止めてくれるような善性、ネメアにはないよ」
「それはそうですけれど、でも実際問題いつ戻るか分からないというのも困りますわ」
「う……」
「あなたがもしメグルを飼うとして、急にネメアに戻ったら間違いなく殺されますわよ」
「うーん……」
先程殺し合っていたくせに殺されることを忠告する。こいつらの感覚がまったくもって理解できる気がしないが、そもそもこの世界における死が軽い物なのか?
「というわけで、あなたたちは何をしにこの街へ?」
「メグルのための情報収集です。まずはこの世界について知ってもらおうかと」
「まだ何にも分からないからな。しいてわかってることといえば魔女がやたら頑丈なことくらいで」
「魔力を使った身体強化なんて誰もがやってることですわ」
そんなことを言いながらフレイアは手を差し出してくる。
「握ってごらんなさい。思いっきりね」
「ん……!」
元々別に握力が強いというわけではなかったが、それでもこの小さな体と小さい手では握力20前後出てるかどうかだろうか?
「ふ……これがネメアでしたらおそらく手を握りつぶしてちぎり取るくらいのことはしてましたわ」
「ひぇ」
「流石に理由もなくそんな事はしないと思われます」
「まぁ冗談はともかく、身体強化を施せばわたくしのようなか弱い少女であっても————」
「っ……いだだだっ!」
「と、このように、軽く握るだけでもこれ……本気で握ればあなたの小さい手なんてクッキーを握るかのように砕くことができますわ」
澄ました顔で軽く握られるとぎりぎりと押しつぶされるような感触と痛みが身体を襲う。
なるほど、魔力ってすごいんだな……、誰でもこんなゴリラパワーを得られるのか。
「いたた……これ、俺にも出来るのか?」
「できると思う、子供だってできるから」
「誰もが無意識化でやってる事ですわ、と言っても物を持ち上げたりだとか、走ったりといった力を込めた動作をする時に本能的に使っている……というのが正しいですわね」
「我が師は寝ている間も常時身体強化魔術を使えるようになれば魔術師として一人前と仰っていましたが」
「えぇ、そうね。わたくしも師匠に最初に教わったのがそれでしたわ」
「私は生まれた時からできてた」
魔術師トークに花を咲かせている女子3名。こういうのは異世界っぽくて良いと思うが、こいつら殺し合ったりしてるくせに普通に話せるのはなんなんだ、戦国メンタルか?
「まぁこればかりは日常会話と同じで幼い頃から自然と身につける物。大人……で良いんですのよね? 大人に一から教えるなんて経験はありませんわ」
「同じく」
「難しいことではありませんが、おそらくメグルの場合は意識的に使う、という形から入ることになるかと」
「ふむ……でも覚えてみたいな」
身体強化、要するに体が丈夫になったり力も強くなるのだろう。
先日のフレイアに対する防衛魔術であったり、この自然と会話ができる翻訳魔術など、いくつかの魔術はネメアによって仕込まれているようだが、なぜか基本的な魔術は使えないようになっている。
……おそらく自分で覚えろ、ということなのだろう。
ーーーーーーーーーーーー
「ん……ふぅ、では教えて差し上げましょう」
「それ酒だろ。人に教える前に酒入れるなよ」
「酔わないから大丈夫ですわ。喉を潤すだけですの」
「アルコールじゃなくて良いだろ……」
酒場に移動し、部屋の端っこの方の席に座る。
酒を注文したフレイアは木製のジョッキ片手にグイッと一口飲むと、清々しい笑顔を浮かべる。
……いや、見た目通りの年齢じゃないにしても、酒飲んでる子供って絵面はよろしくないな。
「まぁわたくしの事はいいの、これ触ってみなさい」
「これは……コイン?」
「見たことないコインですね」
ちゃりん、と音を立てながら目の前に数枚投げ渡されたのはカラフルな金属製のコインだった。
「わたくしが趣味で作ってるコインですわ。合金精製の練習……その副産物ですの」
「へぇー……合金って事は色々混ざってるのか。綺麗だな」
「綺麗、ですの?」
「あぁ、どんなふうに作ってるのかは知らないけど、丁寧に作ってるんだなって感じるよ」
色とりどりのコインを一枚手に取る。複数の金属を混ぜて作ったのであろうそれはムラなく綺麗なメタリックワインレッドの色で染められており、練習用とは言うが刻印や文字も刻まれていた。
大理石のようなマーブル模様のコインもあったり、コレクション品として欲しがりそうな人も居そうな代物だ。
「丁寧……そ、そうですか、ふふ……ありがとうございます」
「ん、あぁ」
「————メグル、女難の相が出てますよ」
「? なんだユーラフェン、そんなのもうここに来た時から薄々感じてる事だけど」
「いえ、まぁ、そうですね」
じっとこちらを眺めていたユーラフェンが唐突にそんなことを言えば、そもそもここに来てから関わってるのは皆女性であり、来た理由からして女難でしか無いのでは? と思いつつ、俺はフレイアから魔術を教わることにした。
……仲間が増えた、と言う事なのだろうか。
「そういやさっきから静かだなクォ・ミル————って、もしかして……」
「寝ていますね」
「彼女、お酒に弱いの。多分酒場の匂いだけで酔って眠ってしまったんじゃないのかしら」
「マジか」
「んにゃ……ん、ネメア……そこはダメにゃ……んへへぇ」
「なんの夢を見てるんだこいつは」
酒場に入ってから一言も発しないクォ・ミルに目を向けると、がくんと俯いてふらふらと揺れながら眠りについていた。
気を利かせたユーラフェンが机に寝かせて転ばないようにしつつ、俺は呆れたようにため息をつく。
「まぁ、それじゃ……ご指導のほどよろしく、フレイア」
「えぇ、このわたくしがみっちりと、完璧に叩き込んで差し上げますわ!」
ESN大賞7応募作品です。
応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!
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