A.6 炎の魔女 VS 闇の魔女
前略、闇の魔女と出会った。
そして、炎の魔女もやってきた。
……これから起きることに嫌な予感しかしない。
「あなた……本気ですの? わたくしに楯突いて勝てるとでも?」
「あなたこそ、時空の魔女に全敗の雑魚魔女でしょ」
「————ふふ、あぁ、死にたいんですのね? わかりましたわ、チリ一つ残さずに焼却してあげましょう!」
おっと、逆鱗に触れたな? クォ・ミルの一言にぶわっと熱風の温度がまた一段と高まったように感じた。
ユーラフェンは俺の脇下に手を差し込めばそのまま軽く浮かんでその場を離れようとする。
「っ、暑苦しい! ところ構わず燃やすことしかできないの?」
「普段引きこもってる根暗のクセに言うじゃありませんの! けれど、わかっているでしょう? あなたはわたくしには勝てないって!」
業火がまるでフィールドを形成するように円状に俺たちを囲う……あれ?
「申し訳ありません。逃げ損ねました」
「つまり巻き込まれるってことだな」
「はい、残念ながら」
離脱しようとしていた俺たちを逃すまいと炎の壁が聳え立つ。
なるほど、巻き込まれるやつだな?
「あなたの力は闇や影……中途半端な光であれば影を生みますが、このように自在に光を生み出せるわたくしにとっては最も下しやすい魔女!」
「……ベラベラと、うるさい……!」
「魔女とは人智を超え、世界をもその手の内に統べる者。わたくしのように優雅で、余裕のある者にこそふさわしい称号ですわ! あなたのように陰湿で、内に閉じこもるような方には相応しくありませんの」
(こっちの魔女のイメージって言ったら……どちらかと言えば陰湿な方がそれっぽおんだけどな)
一応あれでもフレイアには魔女としての誇りとやらがありそうだ。
全方位に燃え盛る炎は辺りを照らす。爛々と輝く赤炎の輝きは影一つ存在を許さないかのように光を放ち続けていた。
「フレイア、頭が足りない身で考えるだけ無駄だって教えてあげる」
「……ほう」
クォ・ミルがそう呟くとそっと手のひらを地面に近づける。
そして次の瞬間、炎で囲まれたエリア内の地面が隆起するようにめくり上がり、光を遮るようにして影を作る。
「っ!!」
「影なんて光があれば簡単に作れるの。光源と私の身体があればそれだけでいい」
「くっ……」
手のひらをテント状にして影を作ったのか? そしてそれで地面を……割る、相変わらず魔女ってやつは規模がめちゃくちゃだな!
「なるほど、中々やりますわね? ですが、結局は地を這う小虫、私の敵では————」
地から伸びた影に囚われそうになったフレイアは炎の翼のようなものを生やして飛翔する。
性格はアレだが見ている分にはカッコいいと思うんだけどなぁ。
「“墜ちろ”」
「っ————きゃうっ!」
「!? 今何が……」
飛び上がったかと思えばものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
巻き付いていた影は炎の翼の光で消えたはずだが……。
「フレイア、あなたがネメアに勝てないのは頭が回らないから。発想力だけはあるみたいだけど……魔女相手に魔術と魔法のどちらを使っているかを考えられないのだから、あなたは負けるの」
「なん、ですってぇ……!」
「あれで人の形保ってんのか……身体の頑丈、なのか?」
地面がめり込むほどの勢いで叩きつけられてもなお、起きあがろうとするフレイア。
俺なら、というか普通の人間ならあれで潰れたりしても驚かないくらいの勢いはあったはずだが。
「影を操るなんて、覚えれば誰でも出来る初歩的な魔術。あなたは私の魔法を知らない、司る理を知らない」
「司る理……?」
「その魔女が何を持ってして魔女と認定されているか……固有の能力のようなものです。我が師は“時間”と“空間”であり、フレイアは“熱”、そして————」
クォ・ミルは手を掲げる。周囲の影は隆起した岩壁をスパッと切り裂き、ガラガラと崩れ落ちた岩は浮かび上がるように持ち上げられていく。
「“引力”、それが私の力、闇の魔女クォ・ミルの理」
「引力……ですって……!?」
ふわりと浮かんだ岩がフレイアへ向けて放たれる……いや、引力というのであれば……あれはフレイアに引き寄せられているのか?
だが、這いつくばっていても魔女の名は伊達ではないのか、噴き出すように登った炎の渦がフレイアを包み、岩を溶解させていく。
「引力だかなんだか知らないけれど、所詮はただ引っ張る力でしょう?」
「……何を言いたいの?」
「熱こそ原初の破壊、あらゆる命を、物を燃やすのに……細々とした狙いなんて不要なのですわ!」
そう言って手を掲げたフレイアの遥か上空には、炎が渦巻く球体が生成されていく。
あれは————
「太陽……?」
「まずいですね。炎の魔女はもうすっかり我々の存在を忘れているようです。このままだとこの街ごと————」
中に浮かび熱と光を放つそれはまさに小型の太陽のようで。
膨張するように膨らみ続けるそれは、放たれれば街一つが消えるとユーラフェンは語る。
すると対するクォ・ミルも再び手を掲げる。周囲の岩……だけでなく、あらゆる物が持ち上げられ、一点に集まってゆけば、それぞれが強くぶつかり、まるで無理やり押し込むかのように圧縮されていく。
「本当に、無知は愚か」
「まだ言いますの!?」
「引力はね、光すら絡め取って飲み込むの。だから私は闇の魔女なんだよ」
「何を言ってるのかしら? そんなに集めるのが好きなら、わたくしの炎も集めさせてあげますわ!」
クォ・ミルの言葉を聞き、違和感を抱く。ネメアは時空の魔女、さっきユーラフェンが言っていたように時間と空間を操ることができるらしい。
フレイアは炎の魔女、熱を操り炎や光を生む。
ではクォ・ミルは? 引力を操ることができてなぜ闇の————
「まさか……!」
「どうかしましたか、メグル」
「このままじゃヤバい!」
「えぇ、それはわかっています。なので私の出来る力を持って防御を————」
「それじゃ多分ダメだ!」
引力、闇、そして先程のクォ・ミルの発言から俺は一つの名を思い浮かべる。
光すら飲み込むの闇、それは————
「————ブラックホール!」
ブラックホール。宇宙に発生するあらゆる物を吸い込む巨大な穴。
確か、恒星などが燃え尽きてできた高密度の天体で、とてつもない重力を有していることから光すら逃げられない、“見えない天体”だったはず。
質量が高まれば引力が発生し、質量が増えれば増えるほど重力は大きくなる……もし、ブラックホールが作れるのだとしたら、それがどんな被害を及ぼすかわかったものじゃない……!
「こちらの方が先にできあがってしまいますわね?」
「……目に見えるものでしか物事を考えられないのかな?」
「口を開けば愚弄ばかり、本当に性根から陰湿ですのね!」
「自分の力を誇示しないと気が済まない迷惑な目立ちたがり屋よりはマシかな」
「……」
「……」
「「殺す」」
ユーラフェンが頑張ってバリアのような防御魔術を展開している。
クォ・ミルの周囲の地面はひび割れて砕けていき、地響きと共に一点へと浮き上がって圧縮されていく。
フレイアの火球は周囲の風景が熱で歪むほどの熱量と共に、フレイアの周囲の地面が溶けてコポコポと煮立つかのような音を出す。
なんだこれは、地獄かな?
「ユーラフェン、この壁って内側から魔術使えるのか?」
「発動自体はできますが……まさか」
「このままだと街もヤバそうだし、撃つよ攻撃……というか砲撃魔術」
「……更に怒らせる結果にならないことを願うばかりですが」
「その時はその時だ、いくぞ————」
大気が震え、空間が歪む。確か、ブラックホールの近くでは時空すら歪むのだとか。
時空の魔女に惹かれているのも、もしかしたらそういった原理が関係しているのか、なんて関係のないことを考えつつ、俺は杖を構える。
「「死ね————」」
「“放て”!!」
見えない小さなうろが虚淵が出来上がり、小さな太陽はぎゅっと圧縮され、二つの巨大な破壊の力が放たれようとした時、巨大な光が当たり一帯を包み込む。
初めて使った時の感覚で出力は4割、全身全霊を込めたこれは果たして10割を出し切れているのだろうか?
ともかく、自身の視界すら光に埋もれてしまいそうな魔力の本流は、ユーラフェンのバリアなど紙の如く容易く貫き、ぶつかり合いそうな2人すらも飲み込んでいった。
ESN大賞7応募作品です。
応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!
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