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Q.54 塔を登りゆく、帰路の道へ

 前略、いよいよ力を合わせて世界を救うことになった。

 俺の役割は各魔女達の補助、責任は重大だがやると決めたからにはやり遂げないとな。



「それじゃあ移動しよう、私の塔でやるのが一番効率が良い」

「この世界の中心的存在……だったか、確かに」

「やれやれ、移動が多くておばあちゃんの足腰には辛いねぇ」

「ここの誰よりも強靭な足腰しといてよくいう」



「到着っと」

「へぇ、ここが世界の魔女の塔……」

「風が感じられなくテ気持ち悪イ」

「他に生物も居なさそうだし、フールには違和感凄そうな場所だな」

 世界の魔女の力で銀の塔に移動する。フールが露骨に嫌そうな表情を浮かべ、そう言われれば風のようなものを感じられない場所だと気づく。

 世界の裏、なんて概念地球には無いもので、地球がもし平面であればそういった概念もあったのだろうかを思った。


「改めてここを見てどう思う?」

「? どうって……」

 キリエに問われると、辺りを見渡してみる。

 塔としては少し殺風景ではあるが、歯車がかたかたと音を立てて回るデザインの……もしかして……。


「なぁ、ここの上のフロアは確かパステルカラーの配色のフロアだったよな」

「そうだね」

「……もしかしてこの塔、12階まであるのか?」

「その通り」

 キリエが何を言いたいのかわかった。つまりこの塔は各フロアが各魔女に対応しているのだ。

 最下層であるここが12番目の魔女、絡繰の魔女……その次が恋の魔女、そして最上層がキリエの部屋……ということなのだろう。

 ……一応俺も魔女のはずだが、俺の部屋は無いのか……。


「皆には自分の部屋に描かれた魔法陣に魔力を注いでもらう。それもただ魔力を注ぐだけじゃない、魔法を使う時と同じ要領で魔力を注ぎ続けなければならない……言ってしまえば、注いでいる間ずっと魔法を使用しているような感覚で居てもらう必要があるわけなんだ」

「ずっと魔法を使う感覚、というのは……私にはあまり縁の無いものではありますが」

「フール辺りは得意だろうねぇ」

「ン」

「もちろん得手不得手があることはわかってる。だから、彼に調整役を任せるんだ。魔力を注ぐ量や、魔法として形を成しているかどうか、そういった諸々の確認と補佐を行ってもらうから、この世界を救うために頑張ってくれると……嬉しいな」

 そう言ってキリエはぎこちなく頭を下げて見せた。お願い、とまでは言えないのは独断専行で好き勝手していた罪悪感があるからか。


「よし、じゃあいっちょやってやろう! 皆、あんまり俺の事は頼るなよ!」

「そこは俺に任せて安心して臨んでくれ、くらい言えませんの?」

「魔女なりたてに無茶言わんでくれ……精一杯やるつもりだけど、一番若いドールですら俺より遥かに先輩なんだからさ」

「ま、器の方はボクが手塩にかけて造ったけど、中身は拾ってきたばかりの素人だから仕方ないねぇ」

「拉致同然の事しやがった分際でぬけぬけと……はぁ、今更か」

 諦めたようにため息をつき、魔女達は各々階段を登っていく。そしてこのフロアには俺とドールが残された。


「それじゃ、私たちもそろそろ始めましょうか」

「あぁ、そうだな」

 改めてこうして二人きりになり、ドールを眺める。土の魔女と戦い、ぼろぼろになった姿は、多少修復されたとはいえ最初に出会った時のような無傷の人形姿とは違って見えた。

 そうこうしているとドールは部屋の中心に立ち、意識を集中させていく。それに応じて足元から魔法陣が浮かび上がるように、ドールの魔力が辺りに充満していく。


「なるほど……これは確かに、集中が必要な工程ですね」

「大丈夫か?」

「まぁ……はい、永遠となにかを構築しつづけているような感覚、と言いましょうか」

「ふむ……よし、じゃあ役に立てるかはわからないけど手伝うよ」

 そう言って俺はドールの元へゆき、目を閉じて意識を集中する。ドールの魔法、人工物を構築する魔法……世界そのものを再構築するために必要な情報を整理する。

 PCで情報を整理する感覚と似ている気もする、これなら俺にもできそうだ。


「……そう言えば、最初に出会った時は私に怯えを抱いていたと記憶していますが」

「う……っ、い、いやまぁ……ここだけの話、俺人形が苦手だったというかー……」

「えぇ、まぁ、そんな気がしていましたが、ここしばらくは普通に接していただいているなと」

「あー……まぁ、慣れた……のかな。いや、接しててわかったけど、普通に人っぽいから気にならなくなっただけかも」

「人っぽい、ですか」

「普通に話せて、誰かを想う気持ちがあって、人の助けになってくれて、ちゃんと感情のある人間と同じだなって、だから慣れたんじゃないかな」

「……そう、ですか」

 力の調節も次第に安定するようになり、俺の補助が無くても問題がない状態に到達した。

 ここで時間を使っていてもなんだし、後はドールに任せるとするか。


「よし、それじゃあ次の子を手伝ってくる」

「はい、頑張ってきてくださいね」

 階段を一歩一歩踏みしめるように登っていく。終りが近づいていく、なんとなくそんな感覚を覚えた。



「いらっしゃい、次はリルルの番ね!」

「おう、手伝いはいるか?」

「もちろん! なにせ今にも感情がぐっちゃぐちゃになって吐きそ――」

「うわわっ!? ちょ、ちょっと待て!」

 2階、第11の魔女……恋の魔女の間。部屋の中央で魔法陣を光らせている彼女はいつものように天真爛漫な様子を見せてくれると……思ったが。



「はー……ふー……」

「落ち着いたか……?」

「う、ん……ありがとう、ありがとう……はぁ、こんな感覚、遠い昔に経験したっきりだわ!」

「遠い昔?」

「えぇ! 魔女になりたての頃ね、所構わず加減も知らず、片っ端から皆に魔法を使ってみせたの!」

「そらまたなんで?」

 背中を擦りつつ、魔法に介入して調整を行う。なるほど、喜怒哀楽……人々の感情が波のように押し寄せてくる感覚、これを捌いていたからグロッキー状態になっていたのか。


「皆、生きてる中で色々な事を感じて、溜め込んでいく……それは人が人として生きて、成長する上で必要なこと、日々の生活で何も感じなくなってしまっては、それは生きているとは言えないでしょう?」

「死んだように生きてるってやつかな」

「だから、皆が生きているって実感できるように、片っ端からメンタルチェックをしてたの、そしたらキャパオーバーになっちゃって」

「それはまた……」

「だからそれ以降は診療所を開いて、悩んでる人の相談に乗って、定期的に各地を歩いて辻メンタルケアをしてーって、そんな感じ」

「辻メンケアとか初めて聞いたワードだわ」

 精神の健康というものが医学的かつ一般的に認知されたのは、俺の世界でも比較的最近のこと。

 それをこの旧時代の香りが残る世界で率先して取り組もうとする彼女の存在は、間違いなくこの世界が平穏なものであると信じられる要因の1つだと思える。


「……よし、うん、ありがとう。もう大丈夫」

「そうか?」

「昔やってたことの延長だから、ほらほら、次に行ってあげて」

「お、おう……じゃあ、頑張れよ」

「そっちこそ、残り10人頑張ってね~」

 短いようで先はまだまだ長い……



「……どうも」

「お、おう……どうも」

 次は第10の魔女、本の魔女の間……まぁ単純明快、一面が本棚で埋め尽くされたフロアだが、思っていたよりも余裕のある様子に拍子抜けしてしまう。


「手助けは必要か?」

「いえ、問題は無いので、このまま上の階に向かっていただいても構いませんよ」

「……まじか」

 得手不得手というものがあるのだろうか、傍から見ている限り本当に問題はないように思える。


「……どうかなさいましたか?」

「いや、その……これまで手伝いながら少し話をしてたから、こう……ね?」

「なるほど。話、というほどでもありませんが……今回の騒動、あまりお力添えができず申し訳ありません」

「いやいや、そんなことは……クォ・ミルの件だって」

「……私は見ての通り戦闘に向いていません、知識の集積、記録、開示……そういった機能に特化した魔女ですが……根本的にこの世界よりも貴方の元いた世界の方がずっと情報量の多い世界なのでしょう」

「……まぁ、そうだろうな」

「いつかは……私もそちらの世界の事を知りたいと、そう願うことは……罪なのでしょうか」

 表情の変化が分かりづらい彼女だが、そう語る姿はどこか物悲しげな雰囲気をまとっていた。


「いや、良いんじゃないか。知ることが罪だ、なんて言う権利は俺にはないんだし。何より知りたいってのは人として当然の欲求で、本の魔女ともあろうお方ならそれはもう人一倍好奇心旺盛で然るべきだと俺は思うよ」

「――そう、ですか」

「あぁ」

「でしたら……えぇ、いつか。そちらの世界のことを教えて下さいね」

「おう、任せとけ」

 此処から先、待っているのは彼女たちとの別れ。けれどそれが一生の事になるかなんてわからない。

 もしかしたら自由に行き来できる日が来るかもしれない、この約束は、そういった希望に満ちたものであってほしいと、俺は願う。

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