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Q.53 世界を救う方法

 前略、ユーラフェンのお陰でキリエを説得することができた。

 あとは世界を救うだけだ。



 空間にヒビが入り、ガラスが砕けるように空間がつながる。白い光の先から現れたのはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべたキリエと、達成感で笑みを浮かべるユーラフェン、もとい巡瑠の二人であった。

「おかえり、二人して無事に帰ってきたということは……上手く行ったという事でいいのかな?」

「役に立てなくてごめんね」

「ああ、ユーラフェンのお陰でなんとかな。スカーレットには今まで世話になりっぱなしだったし、二人が一緒に来てくれなきゃ説得まで漕ぎ着けずにやられてたよ、きっと」

 キリエが俺よりもスカーレットやネメアを警戒していたのは事実だ、だからこそ二人には強力なオートマタをあてがい、対して俺に対しては見くびっていたからかそこまで強いオートマタではなかった。

 ゆえに、彼女たちが一緒に来てくれた意味はあるのだ、何よりスカーレットは最初から最後まで本当に頼りになった。


「えっと、ネメア……その……」

「おやぁ? あのキリエが口ごもるなんて珍しいこともあったものだね」

「っ、その……悪かったなぁって、思って……」

「ふふ、別に良いよ。ボクは最初からこうなるって信じて頑張ってきたんだ、むしろこうならなかった時にこそ謝ってほしいものだよ」

「……ふふ、その、スカーレット……貴女にも、ごめんなさい。貴女と姉を対立させてしまって」

「姉様との喧嘩はいずれ必要な事だったから、むしろ大義名分を得て殴り合えた……って事にしておくよ」

 キリエは二人に謝罪する。ネメアはからかいながらも受け入れ、スカーレットも姉と本音で喧嘩しあえた事を理由にキリエを許した。


「それでこれからどうするんだい?」

「そりゃあまぁ、キリエを止めたとはいえ根本的な問題は解決してないんだから、そっちをどうにかしないとな」

「……まずは魔女を全員、集めてもらえるかな。全員の力が必要だから」

「そうだな、まずは報告がてら戻るか。土の魔女も……まぁ多分殺されてはないだろ、クォ・ミルがちょっと怪しいけど」

 ひとまず向こうの世界に戻ることにした。こっちの世界に帰ってくるのはまだもうちょっと先にお預けだ。



「……っと、帰ってきたな」

「クォ・ミルたちは……」

「……なんだあれ」

 キリエが創り出した世界をつなぐ穴を通って戻ってきた。辺りは静まり返っており、どうやら戦闘は終わっているらしい。

 二人を探して辺りを見渡すと、塔の入口辺りでちょこんと座るクォ・ミルとドール、そして鎖でぐるぐる巻にされ、まるで風船のごとく宙に浮かされた姿の土の魔女の姿があった。


「あ、帰ってきたみたいですよ」

「ほんとだ、おーい! 見てみてネメア、ちゃんと生け捕りにした!」

「う、うん……偉いね……けどご老人にする仕打ちじゃないと思うんだけど……」

「だってこいつ、浮かせておかないと地面に触れて悪さするもん」

 一応無事……と言ってもいいのだろうか、取り敢えず彼女なりに無力化したつもりらしい。


「おやおや、世界の魔女や、そこに居るということは和解したということでいいのかい?」

「……えぇ、貴女の言ったとおりになった、ということ」

「? どういうことだ?」

 浮かんだままの土の魔女がキリエの方へ目を向けると、穏やかな笑みを浮かべて尋ねる。少し不服そうなキリエが頷くと、俺はどういうことかと尋ねた。


「彼女……土の魔女、グライア・ロッドベルは私の側につくと言った時、こう言ったの。”彼女たちは対立する存在であっても、敵対する存在ではない。きっとわかりあえるだろう”ってね」

「ほっほっほ、おばあちゃんは彼女に味方こそしたけれどね、誰も彼女に寄り添ってあげられないとしたらそれはとても寂しい事だと思ってねぇ」

「……なるほど」

 キリエは魔女同士で対立させるような提案をしただけで、誰かを味方に引き入れようとするような事は言ってなかった。

 結果的にキリエの側につかざるを得なくなったというだけであって、キリエのために味方になった、という魔女は土の魔女だけだったのかもしれない。


「取り敢えず降ろしてあげたらどうだい? そして……帰ろう、フレイアとブレンダも呼び戻さないとね」

「じゃあ、それくらいは私がやるよ。この世界に居るならどこに居たってわかるしね」

「……最初から俺達を倒す気で居たら逃げても意味なかったって事か……」

 改めてキリエの力を知り、ため息を漏らす。やはり彼女は本気で俺達を排除しようとしていたわけではないのだろう。



「待たせたな、おっと……私が最後か」

「いらっしゃい、ブレンダ!」

「これで全員揃ったか」

「だね、それじゃあキリエ、皆に言うことがあるんじゃない?」

 恋の魔女の診療所に戻ると、不安げに待っていた命の魔女アクアとリルル、相変わらず表情の変わらないロアナやフールが出迎えてくれた。

 そしてフレイアを呼び、最後にブレンダを呼んで12人の魔女が揃った。


「えっと、その……この度は私のー……独断で大変ご迷惑を……」

「硬いなぁ」

「うぅ、だって……こんな風に自分が悪い子として謝るなんて3000年生きてきて初めてだから……」

 そんなキリエの言葉を聞いて笑いに包まれる。まさか魔女全員が集まってこんな他愛もない笑い声を響かせる光景が見られるとは思わなかったな。



「さて、それじゃあキリエ。俺達はどうすればいい?」

「……理屈で説明するなら、魔女達全員の力を使ってこの世界を再構築する。キミに伝わりやすく言うのなら、PCを初期化するっていうのが近いかな」

「世界を作り直すという事? でもそんな事をしても……天使はまたやってくるんじゃ……」

 キリエの言葉にアクアが疑問を呈する。


「天使がこの世界にやってくるのは、魔女の誕生によってこの世界の存在を知られたから。私はこの世界を創る時に、無意識の内に元の世界に由来する思い入れのあるものを要石として組み込んでしまっていたの。その要石の影響を強く受けた人が私と同じ魔女の力に目覚める……これが魔女という存在の真実」

「まぁ、大体想像はついてたけれどね。ボク達の力の由来がキミにあるって事は」

「逆に言えば、ネメアの予言通り、本来この世界で生まれる魔女は私含めて12人まで、13人目である彼は例外で、もう魔女が生まれることはない。だから、世界を再構築することができれば魔女の誕生によって天使に世界の場所が悟られる事も無い……はず」

 断言できるほど確信できる案ではないということだろうか、少し不安そうな表情を浮かべていた。


「やってみてダメなラ、その時ニ考えればいいノ」

「それもそうだな」

「わたくしも異論はありませんわ、天使が尽きるまで戦い続けるなんて案と比べたらずっとマシな可能性ですもの」

「その天使達を私達の元へ送っている大本を断てばいいのではないか?」

「天使たちに親玉が居るとするのならそれは神様だろうね、でもその肝心の神様の居場所はわからないんだから、私達にはどうすることもできないよ」

 神殺し、なんてだいそれた事を始めてしまってはそれこそ俺も帰れなくなってしまいそうだ。

 でも実際、天使というのはどこにいてどこから来るのだろうか、俺の世界では宇宙に人が手を伸ばしたことで”空の上に神は居なかった”とされたわけだけど……。


「ひとまず、考えてもわからないことは置いておきましょう。具体的な方法を教えていただけますか?」

「うん、それじゃあ説明するね。キミたち魔女はそれぞれ世界そのものと人そのものを司る力を持っている。だから、その力でこの世界の構成要素を制御してもらう。家具の配置をそのままに家をまるごとリフォームしようとしているようなものだからね、私一人の力じゃ中身ごと創り直すことしかできない……つまり、今生きている人々の人生も終わらせることになってしまう」

「……だから、その手段は取らなかった」

「まぁそういう事、魔女達もいなくなっちゃうから、結局また新しく魔女が生まれて天使にバレちゃうからね、問題の先延ばしにしかならない」

「ボク達が力を合わせれば解決ができる。全く、ドールが生まれた辺りに皆集めて言ってくれたら喜んで協力してくれただろうに」

 やれやれと首を振りながらも、からかうような声音のネメアにキリエは苦笑する。説明を受け、魔女は各々覚悟を決める。


「橘巡瑠くん、キミにも力を借りる事になる。この作業は一発勝負、つまり練習ができないという事。そこで全ての魔女の力を使えるキミが、全員の補助をしてもらうことになる」

「……責任重大ってヤツだな」

「本当、この世界の命運を託すことになるなんて思わなかったよ」

「まぁ、でも……任せてくれ、やると決めたんだ、最後までやり遂げるさ」

 そして、俺も決心を固める。

 世界を救うのだ、それが俺のこの世界で最後にやるべきことなのだから。


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