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Q.50 内なる声

 前略、世界の魔女の生まれ故郷にて彼女の過去を聞いた。

 そして、彼女を魔女へと陥れた村の末路も。



「もし、この場所があの頃より栄えていたのだとしたら。少なくとも私という悪者を作り出すことで私という存在が無為にならなかったという事にはなったのかもしれない。けれど、これが現実。私も、父も、母も、あの子も! 誰一人意味のある死なんてものは無かった」

「これは慈悲だよ、あの頃から少しは人の命の重さを理解できたのかもしれないけれど、あいも変わらず相争う人々がのさばっているより、平和で穏やかな人が生き残った方が良いとは思わないかな? どうせ無為に死ぬのなら、意味のある死を迎えたほうがいいよ」

「それはあんたが決めることじゃないだろう」

「確かにキリエ、キミはボク達の創造主なんだろう。だけど、キミだってただ一人の人間、他人の人生を奪う権利も、ましてや世界を簒奪する権利なんて無い」

「権利なんて必要ない! だってそうでしょう? なんの権利があって君たちは他の生物の命を奪っているの? 人だけが特別な理由は? そんなものは無い、ただの感情論、命を奪うことも奪われることもただただ理不尽がそこにあるだけ! だから……私も理不尽に奪う」

「そんな道理がまかり通るとしても、それじゃああんたもあんたを殺そうとした村人達と同じだろう!?」

 ひとしきり語った後、キリエの周囲に霧のような冷気が漂い始める。自暴自棄に近い彼女を果たして止めることが可能なのだろうか?

 いいや、止めなければならない。ここで命を奪う選択をしてしまえば、結局は己のために他人の命を犠牲にしてしまうということだ。

 そうであってはいけない、否定するのであれば彼女を殺してはいけない。


「っ、行くぞ、2人とも!」

「結局戦うことになるんだねぇ」

「最初からそんな気はしてたけどね」


「さぁ、力付くで止めてみなよ! 出来損ないの魔女達!」

 冷気が形を成し、氷柱となって襲い来る。3人はそれぞれの手段で氷柱を迎撃し、キリエ目掛けて攻撃を放つ。

 土壁を生み出し、炎で逃げ場を奪い、重力を操り変幻自在な動きで翻弄し、拳銃を創り出して射撃する。


「く、そ……! 3対1なのに隙が全く見えない……!」

「ボク達の魔法を使えるというより、彼女の使える魔法を特化させたのがボク達だからね……! 出力で勝っててもそもそもの使い方の練度に差がある」

「私はそもそも加減が難しい……」

 剣の魔女、ブレンダに勝てたのは彼女の武器に対する知識が現代のそれよりも浅かったからというのが理由の一つだ。

 対してキリエはこちらの世界のことを知っていて、今まさに拳銃を創り出してみせた。最悪他の兵器すら彼女は創り出せる可能性がある。

 他の能力に関してもそうだ、魔女の魔法は知識さえあれば活用方法は無限に広がっていく。


「できることは同じはずだ……怯むな、怯むな……!」

 人の魔女……ネメアに、ユーラフェンに与えられた力を完全に引き出せてはいない。けれど、世界の魔女とできることは同じはずだ。力を引き出せばそれ以上に戦えるはずなのだ。

 怯まず見据えろ、見て並べ、相手の一挙手一投足を己の糧にしろ――――


「良い目、それだけに惜しい。キミが最初から私の可愛い魔女だったのなら、ネメアやフレイアに比較する魔女になれたかもしれないのに、ねっ!」

「っ、く……うっ!」

 死の瘴気が襲いかかり、こちらの反撃は周囲の植物がキリエを守るように生えては防ぐ。

 同時に発動するいくつもの魔法をしのぎながら、反撃を試みるも届かない。そして焦燥感を煽るように、頭の中に直接ノイズが響くような、不快な感覚が襲う。

 これはおそらく恋の魔女の魔法だろう、感情をかき乱し、集中力を削いでくる。


「ほぉら、合せ技だよ!」

「……自動人形(オートマタ)か!?」

「響きがあんまり好きじゃないけど……何?」

「見ての通り、自動で考えて動く人形だよ!」

「……知識の魔女と絡繰の魔女の合せ技ということかな」

 鋭く伸びた刃のような腕を生やした人形。しかしドールのような完全な陶器製の人形というよりは、機械の入り混じった歪なマネキンといった風体であり、不気味に蠢くように迫りくる。

 俺達は迎え撃つように剣を、杖を、鎌を構えてその凶刃を受け止めるが、そのパワーはただの人形とは思えないほどであった。


「おやおや、数的優位が逆転してしまったねぇ? まずは厄介な2人を処理してしまおうか!」

「っ、舐められたものだね、ボクがこんな木偶人形程度簡単に破壊できるって――――」

 空間斬撃で斬り捨てようとしたネメアだったが、突如その視界から人形が消える。次に気配を感じ取った瞬間、人形はネメアの背後から斬りかかろうとしていた。


「あっ、ぶな! このっ――――」

 なんとか回避してみせるが、やはり敵を捉えられない。

 ()()()()、あのオートマタがやっているのはそれだけのことだったが、単純にして真理というべきか、当たれば一撃の攻撃を対策するなら、そもそも当たらなければ良いというだけの話。

 シンプルではあるがそれゆえにネメアとは相性が悪い……!


「……っ、なんで、さっきから……!」

「スカーレット!?」

 対してスカーレットの方は、人間相手ではない以上加減する必要が無いとばかりに死の瘴気でオートマタを覆っていた。

 通常ならそのまま朽ち果てていくはずの瘴気を浴びて、なおオートマタはその凶刃を奮い続けていた。


「っ、ぐ……何なの、この再生速度……! ごめ……援護できそうにない!」

 崩れた端から再生する自動人形、よくよく見れば、俺に充てがわれたオートマタは陶器のような質感をしているが、スカーレットが戦っているのは木製のような質感であった気がする。

 今では内側から夥しく再生した木の根のようなもので悍ましい姿をしているが、おそらくあれは命の魔女の力……キリエは俺達に合わせてメタ的な性能のオートマタをぶつけている。


「さて、君たちの相手はそれに任せて、私は私の仕事を終わらせないとね」

「っく、ぅ……行かせる、かぁっ! っあ!」

「残念だったね、力が無ければ理不尽には抗えないんだよ、覗き魔くん」

 そう言ってキリエはあちらの世界へ帰るためのゲートを作り出す。このまま置いていかれてしまえば、いよいよ俺達は詰みだ。

 向こうに残った魔女たちに連絡する術もなければ、俺の力じゃまだ世界の魔女の魔法は使えない。

 このままじゃ――――


『――――メグル』

「っ……この、声は……」

『手を伸ばして、メグル』

「――――あぁ!」

 突如、内側から聞き馴染みのある声が聞こえた気がした。声に言われるがまま、腕を前へ突き出す。すると――――


「”鎖よ”」

「っ!?」

 オートマタの攻撃を複数の剣を生み出すことで受け止める。俺の意識はオートマタに向けられていたが、伸ばした手からは魔術の鎖が伸び、キリエへと放たれていた。


「……器用な事するね、複数の魔法や魔術の同時発動、私のを見て真似でもしたのかな?」

「いや、まさか俺もできるなんて思ってなかったし、多分まだできない。そう、()()()なら、な」

「――なに?」

『行きましょう、メグル』

「あぁ、一人で足りないなら……2人で戦おう、()()()()()()!!」

 身体の内側から声が響く。聞き馴染みのある、そしてもう二度と俺に語りかけてくる事はないはずだった人の声が。

 ユーラフェン、俺に身体を託し消えたはずの彼女の声が、今はっきりと聞こえる。

 きっとこれは幻聴ではない、身体の中に感じるのだ、彼女の存在を……彼女の意思を。


 俺は一人じゃない、この身体は俺だけのものじゃない。

 なら、俺一人じゃ魔女の力を使いこなせないというのなら、俺達二人で使いこなしてみせればいいだけの話だ!


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