Q.47 引き寄せる力
前略、世界の魔女の居城に向かったところ、土の魔女が立ちふさがってきた。
予定通りドールとクォ・ミルが相手をしてくれているが……。
「ふぅ、本当にやってくれたねぇ。あの子に任せておいてと言って出てきたのにこれじゃあ面目丸つぶれだよ」
「二人がかりで対応してるんだから、それで突破できなきゃ私達の面目がつぶれるよ」
「私達は時間稼ぎだけすればいいので、無理はなさらず」
「やるなら勝ちに行くよ!」
無重力状態で浮かぶ土の魔女。空を掴むような不安定さの中でも余裕を崩さずに、魔術を使って土壁の方まで移動すると、そのままクォ・ミルと距離を取るようにして土を伸ばし、無重力状態を解除する。
「あらゆるモノは朽ちていずれ大地になる。それは天使だって例外じゃない……けれどどうだい、彼女に見せてもらった向こうの世界は大地を穢し、土に還らないものを造っては捨てている。あんなんじゃあいずれ自分たちが住む場所すらなくなってしまうよ」
「……私達はその世界を実際に見たことがないので、何も言えません」
「それはそうだ、お婆ちゃんが嘘を言ってるかもしれないからねぇ」
「私は別に自分のおうちさえあれば外がどうなってもどうでもいい……」
土の魔女が世界の魔女に与する理由。それは現代の世界の現状を憂いているというものであった。
自然分解可能な素材を使うようにという意識が広がり始めている最中ではあるが、同時に自然に還りづらいものや、環境破壊によって荒れた土地が多いというのは事実。
狭く限られた土地を人の住める場所として広げてきた彼女にとって、それは許せない事だったのだろう。
「自分勝手な魔女達だねぇ、ま、魔女なんてものは皆自分勝手なものだけど!」
「さっさとやられてくれたら、私も嬉しいな!」
「援護します!」
クォ・ミルは周囲の岩場を重力で持ち上げ、ドールは投石機を作り出す。質量の投射による破壊ば土の魔女の壁を破壊していく。
「かわいい顔してどっちも荒々しい、もっと丁寧な振る舞いを覚えたほうが良い」
「戦いに丁寧さなんて必要――ない!」
ドカドカと投げつけられる岩の合間を縫うように接近する土の魔女、今度の狙いはクォ・ミルだったが、野生の勘というべきか、接近に気がつけば触れられないように回避しながら反撃を試みる。
「っ、お婆ちゃんを蹴るなんて――」
「歳で言えばネメアの方がおばあちゃんで、しょっ!」
外見上は老婆、しかしその身のこなしや反射神経はとても老人のそれとはかけ離れている。
第五の魔女、土の魔女。基本的に魔女になる前は純粋な人間である事を考えると、年齢で言えばネメアやアクア、スカーレットの方が長生きしている魔女であると言える。
それを本能的に理解しているのか、クォ・ミルは決して見た目で油断することはなく、また分解の魔法に臆すること無く接近戦を仕掛けていく。
「くっ……中々、やるねぇ!」
「殴り合いたいなら付き合う、こっちの方が得意だから!」
素早い身のこなしに、重力を操ることによって実現されている縦横無尽かつ変則的な攻め。
普段は雑に重力を使う方が楽だという理由で大雑把な戦い方をしているが、獣人としての本能だろうか、こうやって身体を動かす戦い方がクォ・ミルの本領を発揮することができる。
何よりも、雑に考えているように思えるが、今この場には味方としてドールの存在がある以上、彼女を巻き込むような戦い方を控えているのだ。
「それで、どうやったら諦めてくれるの? 殺したら文句言われそうだからさっさと降参してほしい」
「勝ってもないのに諦めろだなんて傲慢じゃないかい?」
「……手足くらいもいでも死なないかな」
「ダメですよクォ・ミル様」
血の気の多い会話をする2人を静止するように、土の魔女に向かって大量の鎖が射出され巻き取ろうとするが、その手に触れた鎖は砂のように崩れていく。物理的な拘束手段が通じない様子に、ドールは少し眉をひそめていた。
「ダメって言ったって、諦めと底意地の悪い女だよ、こいつ」
「か弱いお婆ちゃんに対して酷い言い様だねぇ」
「……程々に、時間稼ぎさえできれば――」
ドールがそう言い終わる前に再び土の魔女は攻勢に出る。戦い慣れている2人と違い、ドールは反応速度に一歩遅れている。だからこそ、先に気づいたクォ・ミルはドールを守ろうと魔法を使い、土の魔女を地面に叩き伏せるが……。
「同じ手は通じないと、二度も言わせるのかい?」
重力によって手がドールに届くこと無い、それを予測していた土の魔女は地面に触れ、螺旋状に渦巻く土のトゲを生み出し、ドールとクォ・ミルへと放った。
地面から隆起し、回転しながら突き上げる土のトゲは2人の不意をつき、手傷を負わせる。
「ぐ、ぅ……っ!」
「お婆ちゃんもあんまり傷つけたくはないんだけどねぇ? どうしたら諦めてくれる?」
意趣返しするように、意地の悪い笑みを浮かべて見せる土の魔女。手足や腹をかすめ、負傷した傷を押さえながらよろよろと立ち上がる2人。
生身の肉体ではないドールは完全に破壊されるまでは問題なく動くことはできるだろうが、生身の肉体であるクォ・ミルは一度の負傷が致命的なものになる可能性がある。
「諦め、ません……やると決めたことは最後までやり遂げます、私を創ってくれたあの人のように……!」
そう宣言したドールは土のトゲに触れる。自らの肉体を削り取った凶器に新たな形を与えていく。土塊の人形、ゴーレムとも呼ばれるそれは、ドールの指示を受け忠実に動く僕である。
「がらくたを創り出した所で役に立ちはしないよ」
「……それは、どうでしょうかね!」
すっとろいゴーレムの動きを見て嘲笑を含んだセリフをドールへ向ける。対してドールはなにか策があるように不敵な笑みを浮かべていた。
ゴーレムを突進させるように指示を出すと、ちらりとクォ・ミルへと目配せを行い、続けざまに様々な兵器を創り出しては土の魔女へと放っていく。
「数撃ちゃ当たるとは言うけれどねぇ、そんな遅くてまばらな弾幕じゃあ掠りもしないよ!」
大振りなゴーレムの攻撃は当然、放たれた石や矢は土の魔女を掠めることもなく周囲に飛散するだけ。
ドールが創り出したゴーレムはただの肉盾にしかならず、土の魔女が触れると全身が砂になるどころか、一部分が砂にされた瞬間にごろごろとただの土塊、石つぶてに崩れ去っていく。
「っ、ぐ……っ」
「そろそろ、一人くらいは落としてしまおうかねぇ?」
ゴーレムを1体、2体と破壊し、攻撃の合間にドールへ向かって攻撃を放つ。兵器の生成に集中しているドールは回避行動を取ることができず、脚や腹に鋭い岩片が突き刺さっていく。
痛覚はない、それでも自身の身体が傷ついていく感覚にドールは苦悶の表情と声を漏らし、とうとう膝をついてしまう。
「さぁ、これで終わり――――」
「――――そう、これで終わり」
ドールが膝をついたことで緩まった攻撃の手、土の魔女は眼の前に落ちていた岩片を一つ拾い上げると、まるで圧縮して研磨していくように、鋭い螺旋状のトゲを創り出していく。
殺意のこもったその一撃を放とうとした瞬間、死角から現れたクォ・ミルの姿に慄いた。
(闇の魔女……! 重力操作、ここは距離を取って――――)
「あーあ、離れちゃった」
「何……?」
再び自身の重力を操作されると思い、咄嗟に距離を取る土の魔女。同じ手は食わない――そう自分が宣言していた通りの行動。しかし、それを見たクォ・ミルはにぃ、と底意地の悪い笑みを浮かべ、背に隠していた手のひらから何かを放り投げる。
「黒い――闇……?」
「重力の本質、それは引き寄せる力。さぁ、引力に呑まれろ!」
クォ・ミルが放ったものは空間を穿つ一点の虚空。光をも飲み込むような漆黒……そう、それはブラックホールと呼ばれた。
重力を操る闇の魔女といえど、ブラックホールの生成・取り扱いには最新の注意と集中力が求められる。だからこそ、ドールがその身を挺して土の魔女の意識を引いたことによって、逆転の一手を作り出すことができたのだ。
「ぐっ、ぅああぁぁぁっ!!」
「ふふ、土の魔女らしい姿になったね」
重力の穴は土の魔女の身体を、そして周囲に散らばった土塊や岩片を吸い込んでいく。そしてそれは土の魔女の身体を押しつぶすように集まっていき、強烈な圧迫感と痛みににより、土の魔女は断末魔の叫びをあげ、意識を失う。
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