Q.45 出発前、決戦の日
前略、命の魔女の魔法を習得し、フールとフレイアを治療した。
残すは土の魔女と世界の魔女だけだ。
「で、これどうするの」
「どうするって言ったってなぁ」
話は闇の魔女に移る。一通り泣きわめいたあと、まるで幼児のようにネメアのローブにしがみついていた。
「一応フレイアとブレンダは和解で良い……んだよな?」
「負けた以上、私に口を挟む権利はない。君が誰も犠牲を出さずにやり遂げるというのであれば、それを信じる」
「わたくしも、あれほど自信を持って宣言したのなら、疑い続けても詮のない話でしょう」
「……ありがとう、期待に答えられるよう頑張るよ」
どちらも俺の誓いを快く受け入れてくれた、というわけではなかったが、実際にフレイアを殺さずに治療したという点や、ブレンダのことも無力化に留めていたことから最低限信用はしてくれているようだ。
「それじゃあ君たちは今後ボクたちの邪魔をしない……というか、そんな余裕も無いか」
「……あぁ、そういう事だ」
「治療のお礼は……別にいらないでしょう? そもそも傷をつけたのはそっちなんだから」
「あぁ、そうだな」
襲ってきたのを撃退したのだから正当防衛と言いたいが、それはそれとして自分たちでつけた傷を治してお礼をさせるというのは些かマッチポンプじみてると言えるだろう。
そんな事を考えて苦笑していると、二人は立ち上がり、出ていこうとする。
「どこへ行くつもりなんだ?」
「どこって、自分たちの領地ですわ」
「天使達の侵攻が収まったわけではないからな、本来なら君たち反対派を処理してからキリエが目標を達成するまで凌いでいれば良かったのだが……」
そもそもこの世界が直面している危機である天使、俺達がこうして対立してもあいつらにとっては関係のない事といえば、当然のことか。
なら無理に引き止めることはない、といっても治療したばかりのフレイアは体力も十分に回復していないだろう。
「……そうだ、おーいクォ・ミル、お願いしていいかな?」
「……ふぇ?」
「フレイアについていって、天使討伐を手伝ってきてくれるかい? そしたら今度、君と一緒に遊んであげよう」
そう言ってネメアはしゃがみこむと、ローブにしがみついたクォ・ミルの頭を撫でる。
「そういう人の心を利用する話し方は嫌いなの」
「今は黙っていましょうリルル様」
「むぅ」
「……本当?」
「本当、別にキミはキリエが何をしようと興味はないんだろう?」
「うん、ない」
「清々しいくらい断言したな」
敵対する理由もふんわりしていたが、本当に一切興味がないんだな。
「ならボクに協力した方が、お得だと思わない?」
「んー……」
「ちなみに断ったらまたリルルと二人っきりになってもらおうかなって」
「それはやだ!!」
協力の申し込みではなくて脅迫だったか。さすがネメア。
「わかった、フレイアに力を貸せばいいんでしょ、やる。だから約束守ってね、ネメア」
「もちろん、全部うまく行けば一緒に遊んであげるとも」
「よし、早く行こうフレイア」
「色々突っ込みたいところがありますが、まぁ、正直天使相手なら貴女の力のほうが効果的でしょう。力をお借りしますわね、クォ・ミル」
自分を抜きで話を進めるなと言いたそうな顔でため息をもらすフレイアだったが、流石に自分一人でやるとは言わなかった。
おそらく長年天使と戦っているのもあって、領民を守るための戦いにプライドは持ち出さないようにしているのだろう。
「それじゃあ、私達はもう行くよ。……世話になったというべきか」
「はは、どういうべきか俺にもわかんないけど……まぁでも、うん、お互い頑張ろう」
「メグル!」
「ん?」
苦笑しながら言葉に迷うブレンダ、敵対していた相手を見送るというシチュエーションなんて現代社会でそうそう経験するものでもないのだから、俺だってどんな顔してどんな事を言えば良いのかわからない。
そんなやり取りをしていると、フレイアに声をかけられ、キン、と甲高い音と共に何かが投げ渡される。
「おっと……これって」
「大事に持ってなさい。これも雑に投げたりしたら許しませんわよ」
「……あぁ、大事にするよ。フレイアも、頑張って」
「えぇ、まぁ……あなた達に痛めつけられた分クォ・ミルを酷使することにしますわ」
手渡されたのは俺が持っていた紅色のコインとは別の白金と黒紫色の2枚のコインだった。
色合い的にユーラフェンとネメアをイメージしたものだろうか?……つまり、あれから別れたあとに、俺達のために新しく作ってくれていたコイン……ということか。
これは大事にしないといけないな。
ーーーーーーーーーーーーーー
「さてと、これからについて話さないとね」
「残すは土の魔女だけど、彼女はどういう魔女なんだ?その、おばあちゃんって事くらいしかわからないが」
基本的に少女姿が多い魔女の中で一人だけお婆ちゃんの姿をしているというのは逆に目立つ。というか個人的には少女姿より殴りづらいというか戦いづらいというか。お婆ちゃんっ子としてはあまり敵対はしたくなかった相手ではある。
「彼女は……そうだね、この世界の大地を広げた魔女だよ。彼女が生まれるまでのこの世界は円盤みたいな形してたんだ」
「ほう? 確か今は……十字架みたいな形をしていたな」
「そう、土の魔女は物質を分解する力を持つ、それで天使を分解して大地を広げてきたんだ。この世界の資源は限られているからね、天使は外部からやってくる天然資源みたいなものだよ」
「あれが天然資源……」
随分物騒な資源もあったもんだ。しかしそう考えると、天使たちは確かに陶器のような質感があった、なら土として適していたりするのだろうか。
「そんなわけで能力の性質としては厄介ではあるけれど、分解は触れなきゃできないからね。敵対する分には地面を隆起させたり地割れ起こしたりするくらいで、空を飛んでいたらそこまで脅威にはならないよ」
「あんま戦いたくは無いんだけど……」
「無視してキリエの元に直行するのは?」
「できなくは無いね、ただし当然だけど後ろから挟まれる可能性がある事を考慮しないといけないけど」
数的優位を保っている以上、戦略上は全員で土の魔女に対処してから万全の態勢でキリエに臨むべきだろう。不安要素をあえて残す意味も無い、もちろん殺したりなんてのは絶対にNGだが。
「では、私にお任せを」
そう言い出したのはドールだった。
「土の魔女、彼女には私の母がお世話になったので。ご恩返しをさせていただきたく」
「……その言い方だと俺達と敵対することになりそうなんだけど」
「冗談です。土から道具やからくりを創り出せる私であれば、彼女のリソースを奪いながら対処が可能なので、相性がいいと判断いたしました」
「なるほど……それは確かに」
魔女の力を習得するのであれば俺も立ち会ったほうが良いのだろうか。あらゆるものを分解する力、習得すればとても便利に使えそうな気もするが……かといって急いで身につける必要もない、か?
「ここまでキリエが何も干渉してこないというのが不気味だね、急げるなら急ぎたいところだし、ドールに任せようか」
「私もドール様のお手伝いをさせていただきたいのですが」
「ロアナ?」
「一対一よりも二対一の方が確実ですし、何より相手が相手です。全員が集まって行動している所を一網打尽にされてしまっては取り返しがつかないかと」
「戦力分散は愚策とよく言われるけど……いや、むしろかたまって行動してると魔女個人の能力を全力で発揮するのが難しくなる、か」
ある程度コントロールできるとはいえ、魔女の力は出力を上げるとその分影響範囲も広くなる。集団で行動するとその分力の使い所が制限されてしまうかもしれない。
万が一、世界の魔女の手で拘束されてしまったり、倒されてしまった時に動ける要員も居たほうが良いだろう。
「じゃあ土の魔女攻略班はドールとロアナに任せて、医療班はアクアとリルル、世界の魔女攻略班は俺、ネメア、スカーレット、フールって感じでどうだ?」
「病み上がリなんだけド」
「頼むよ、次が最後だ」
不満げなフールに頭を下げつつ、各々自分のやることを理解し、頷いてくれた。医療班はここで待機、攻略班は一緒に行動して、土の魔女か世界の魔女を補足次第、片方が対処。もう片方は居ない方の魔女を探す……というのが大まかな流れだ。
「目指すはキリエの住まう銀の塔! 場所はボクが知ってるから、道案内は任せてね」
「行くぞ皆、キリエに勝って世界の魔女の力を手に入れる。まずはそこからだ!」
拳を掲げ、決意を声に出す。まずは世界の魔女の目論見を阻止する。この世界をどうするかはそれから考えれば良い。
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