Q.44 辛い道を往く
前略、姉妹喧嘩が終わった。
彼女たちの葛藤や後悔、それを完全に理解はしていない。
だからといって、何もかも知らない事だとなかったことにして良いとは……思えない。
「姉様、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫……もう、落ち着いたから」
スカーレットに声をかけられ、涙を拭いながら、砕けた笑みを浮かべるアクア。
「君は……えっと」
「橘巡留……です」
「そう、スカーレットが世話になりましたね」
「いや、こちらこそ、彼女には助けられっぱなしで……」
穏やかな様子で語りかけて来るアクア。スカーレットと本気でぶつかったことでこれまで抱えていたものが落ちたのだろう。
「……私の魔法を習得したいと言っていましたが……」
「あ、えっと。一応今の俺は第十三の魔女……らしいです」
「第十三……なるほど」
納得したように頷くと、アクアは目の前で器を作るように手のひらを見せる。
「私の力は生命力の増強、そして魂のない命の創造。このように草木、小さな生物などは作れますが……魂持つ生き物は創れません」
そう言ってアクアは魔法を使って見せると、手のひらから小さな種子が現れ、芽が出て花が開く。
「回復させる力については、直接体感していただいた方が覚えられるでしょう」
「あ、あぁ……頼む」
手のひらを重ねるよう促すアクア。スカーレットと和解したとは言え、それは俺たちとも和解したと言うわけではない。
恐る恐る手のひらを重ねると、アクアに触れた部分から身体中に暖かな熱が広がるような感覚に包まれた。
「身体構造の理解、病気や怪我の症状への理解、そういった知識が必要なのだけれど」
「あー……あんまない、っすねぇ……」
一般的な範囲での医療知識はあるが、そこまで専門的な知識は持ち合わせていない。
「そう、じゃあ最低限の知識は教えてあげましょう。時間は大丈夫?」
「時間————そうだ、クォ・ミルはどうなったか確認しないと!」
「クォ・ミル……闇の魔女か」
「スカーレット、悪い、戻れるか?」
まだ日は登っていない、今ならスカーレットの魔術で移動できるはずだ。
「ん、わかった。なんだか最近は酷使されてる気がする……別に疲れたりするわけじゃないけどね」
「本当に助かってる!」
「ふふ、知ってる。私のこと好きなだけ頼ってね」
「————」
「おや、どうしたんだいアクア。君もついて来るんだろう?」
「え、えぇ……その、あんなスカーレット初めて見たから、ちょっと驚いてしまって」
「君は……まぁ、君にとってはずっと病弱でか弱い妹でしか無かったんだろう。頼ったことなんて無かったのなら、頼られて喜ぶ姿を見たことがないのも仕方ない」
「……えぇ」
「その様子じゃ黒魔術の町に寄ったこともないのかな。昔から、彼女はいろんな人に頼られてきたよ」
「そう……そうだったの……」
「? 姉様、ネメア、2人とも行くよ」
「あぁ、わかってるよ。……ほら、行こうアクア」
「えぇ、そう、ね」
ーーーーーーーーーーーー
「っ、はぁ……えっと、状況は————」
「うわぁぁぁあぁぁっ!」
「何だ!?」
影移動でたどり着き、状況を把握しようとしたところで耳をつん裂くような鳴き声が届く。
声の方向に目をやると、そこにはぺたんと座り込んで大泣きするクォ・ミルの姿があった。
「な、何があったんだ……?」
「あら、お帰りなさい」
「少なくとも2人は無事みたいだけど、まさかクォ・ミルがああも無様……もとい人前で泣き喚くなんて」
ロアナに話しかけると、至って冷静な態度で答えてくれた。
「本の中に封印した後、少しお二人で話をしていたみたいですが……少々、闇の魔女の自分勝手な物言いがリルル様の逆鱗に触れたようで……」
「それで……?」
「能力の方は私が封じていたのですが、体術で闇の魔女を完膚なきまでに叩きのめし、その間もずっとその……正論を叩きつけていまして」
「……論破されて、力でも勝てなくて……泣きじゃくるしかなくなった、と?」
「はい……まさか私もリルル様から真っ当な“善き人としての在り方”や恋愛に対する姿勢などを聞かされるとは思わず」
まさかの正論パンチでクォ・ミルの心が折られてしまった結果、こうなったらしい。
普段の言動からもっとふわふわした子なのかと思ったら、レスバトル強者だった。
「ネ“メ”ア“ぁぁ……!」
「うわこっち来た」
「じゃあ、後は任せたぞネメア。俺たちは急ぐから」
「えっ」
「私はネメアの事好きなのにぃ、あいつがあぁ……!」
人様の恋愛事情には首をつっこまない、それが長生きする秘訣だ。
面倒事は当人に押し付けつつ、俺たちはドールが看病しているフール達の元へ急いだ。
「ただいま、フールの具合はどうだ?」
「お帰りなさい。あまりよろしくは無いかと。指先などの末端はいくつか壊死している部分もあるみたいで……」
「なんだって……!」
「見せて」
「貴女は……命の魔女?」
俺とドールの間に割って入ってきたアクアにドールは少し驚いた様子だったが、俺の顔を見て状況を理解したようで、素直に道を開ける。
「これは……相当無茶をしたのね。タチバナメグルくん、手を出して」
「こうか?」
「そう、そして意識を集中して……魔力を通して彼女の身体の状態を理解するの————」
そうして俺はアクアの手解きを受け、彼女の使う治癒の魔法を身につけることになった。
フールへの治療はアクアと共にこなし、無事に容体は安定した。
次に時間を止めて死を遅らせていたフレイアの身体だが————
「っ!? げほっ! ごほっ! っ、は、ぁ……はぁっ、わたくし……何で、生きて……」
「ふぅ、良かった……!」
時間停止を解除し、俺の手だけでフレイアを治療した。
貫かれた部位を治療して、血流の流れを整える。フールと同じく凍傷になっている部位や、火傷になっている部位もあった。
想像していたよりも全身に傷があり、彼女も戦い続けてきたのだと言うことが理解できた。
治療が終わると、詰まっていた血を吐きながら飛び起きる。自分の身に何が起こったのか理解できていないようで憔悴した表情で辺りを見回していた。
「メグル……なぜ、わたくしを助けたの……? わらくしの力なら、今すぐ此処を焼け野原にする事だって————」
「落ち着けってフレイア、まだ万全じゃないんだから大人しく寝とけ」
「っ……けほっ……」
相変わらず血の気の多いやつだが、流石に一度に完全な治療は行えてはいない。
傷口への処置も完璧じゃないのだから暴れられては傷が開いてしまう。
「……俺はさ、今までほとんど流されてここまで来たんだ。ぶっちゃけただ巻き込まれただけだしな」
「……そうですわね、貴女は本来関係ない人間ですわ」
「けどさ、ここまで流されてきて、流されるままに誰かが犠牲になるのを見過ごすのは、嫌だなって思ったんだ」
「……」
「だから、誰一人犠牲を出さずに解決して見せる。俺も、俺以外の魔女も……この世界に生きてる他の人達も犠牲にしたくはない」
「そんな事ができるのなら、彼女は……」
「俺は彼女じゃないからさ、それに彼女の原動力はこの世界を守りたいって気持ちだけじゃないと思うんだ」
断片的にしか彼女のことは知らない。ただ、この世界を救うため、と言うよりはどこか別の目的を優先している気がする。
この世界のためだと言うのであれば、このように魔女同士が対立するように仕向ける意味はない、最初から全員で協力すればもっと効率的に事を進める事ができたはずだ。
そう、重要なのは彼女が俺の世界にいた人間だという所にある気がする。
「世界の魔女、キリエを止めて全員を救う方法を俺は探す。世界の魔女の力を手に入れたら、この不安定な世界自体をどうにかできるかもしれない」
「辛い道を選ぼうとしてる」
「だろうな、でも現代日本人舐めんなよってな!」
こちとら世界一平和ボケした国のサラリーマンなんだ、殺伐とした展開なんかとは無縁なまま解決してやるさ!
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