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Q.42 ただ命の為に

 前略、本の魔女の魔法によって襲撃してきたクォ・ミルを一時的に封じることができた。

 あいつが出てくる前に命の魔女を見つけないと……!



「————見つけた」

「本当か!? 何処だ?」

「白亜の宮殿……普段彼女がいる所」

「自宅待機中って事か……」

 どうやら命の魔女は世界の魔女の元では無く、自らの領地に居るようだ。

 あの3人の魔女のように攻めてくるというわけでも無く……どういう魂胆なのだろうか?


「罠って可能性も……ありますよね?」

「あり得るね、彼女は普段は穏やかだけど手段を選ばないところもあるから」

「とはいえ、四の五の言ってはいられないよ」

「そう、だな……行こう!」

 夜が明けてしまえば影移動で移動できる範囲も限られてしまう。

 闇が世界を覆う今行動しなければ、手遅れになってしまうかもしれない。



ーーーーーーーーーーー



 ————白亜の宮殿。生命は何処から生まれ出るものなのか、そんな問いを何度も繰り返してきた。

 生命は魂と肉体が合わさったものなのだと、私は定義した。

 植物には魂がなく、微生物にも同じことが言える。


「……来たのね」

 肉体だけでは生命とは言えない。意識なきそれはただの肉袋でしかないから。

 魂だけでは生命とは言えない。器なきどれは狂い果ててしまうから。


 じゃあ、あの子は……魂だけになってしまったあの子は生きているとは言えないのではないのだろうか?

 死そのものとなってしまった貴女、死から最も程遠い存在となってしまった貴女。

 私は貴女の為にこの力を使ったというのに。



「ここか……綺麗な所だな」

「明るい時間帯に来るともっと綺麗なんだけどねぇ」

「それは勿体無いな……」

 白亜の名に恥じず、白く綺麗な宮殿建築。色とりどりの花が咲き誇る庭が目を惹く命の魔女の居城。

 甘く優しい香りが鼻腔をくすぐるこの場所で、光の漏れる宮殿を前にして感嘆の息を漏らす。



「いらっしゃい、こんな夜更けに訪ねてくるなんて非常識な子に育ってしまったのね、スカーレット」

「……姉様」

 宮殿の扉が重い音を立てて開いていく。明るい室内の光を背に、白と黄緑色に彩られたドレス姿の魔女がその姿を現した。


「私は戦闘が得意ではないから、あの2人に任せたのだけれど……やはりスカーレットが居るとどれだけ強いかなんて関係ないのかしら」

「お言葉だけど、私は戦ってないよ。剣の魔女と炎の魔女は風の魔女とそこの新米魔女がやった」

「新米魔女————」

 姿を現してからずっとスカーレットだけに向けられていた意識がこちらに初めて向けられる。


「ネメアの弟子……だったかしら」

「……まぁ色々あってな、譲り受けたんだ」

「……あぁ、ネメアの中にいた彼ね? じゃあそっちはちゃんとネメアなの?」

「その通り、久しぶりアクア、随分と顔色が悪いけどちゃんと寝てる?」

 俺の顔を見て一瞬疑問を浮かべていたが、納得したように小さく頷いていた。


「寝不足よ、昨日はあまりよく眠れなかったもの」

「それは良くない、肌に悪いよ?」

「……はぁ、相変わらずねネメア。それで? どんなご要望かしら」

「炎の魔女と戦った風の魔女が倒れた。治す力が欲しい」

 単刀直入に目的を伝える。寝不足で機嫌が悪い時にいつまでも遠回しに話をされても苛立つだけだ。

 そもそも敵相手に交渉なんてしたところで意味がないだろう。


「そう、お断り」

「ですよね〜……」

「そして此処へ来た貴女達を歓迎するつもりもない、只々無為に死んでもらう」

 目的を述べたところでバッサリと切り捨てられてしまう。

 それは想定の範囲内ではあるが、思ったよりも話す余裕はない相手のようだ。


「姉様、一人で私たちに勝つつもり?」

「……えぇ」

 かつん、とヒールが硬い床を鳴らすと俺たちを囲うように植物が急激に生え伸びてくる。しかし、その枝葉は俺たちに届く前にボロボロと朽ちていき、崩れ落ちていく。


「スカーレット……貴女1人でも十分に私を殺しうるでしょう」

「殺し切れないけどね」

「えぇ、実に不毛で醜く、生産性のない戦いが続く事でしょう」

 無限に生えては迫り来る植物、それを朽ちさせ近づけないスカーレットの死の瘴気。

 生命を創る力と、奪う力。相反するそれらはぶつかり合い、消滅していく。

 そこには何も残らない、まさに不毛な争いだ。


「私たちが喧嘩するときはルールを決める、そうだったわよね?」

「そうだね」

 そう言って道を開けるように地面から生えていた植物は傍へと避けていく。

 正面から向かい合うアクアとスカーレット、姉妹同士の話し合いを俺とネメアは静かに見守っていた。


「どちらかが先に首を取った方が勝ち」

「……わかった」

 そう言って2人は手に大鎌を握り、対峙する。

 豊穣を示す命の魔女の鎌と、魂を刈り取り不死をも殺す死の魔女の鎌。

 姉妹でありながら、同じ獲物を握っていながら、互いを否定する力を持ち合わせた姉妹。

 きっとこれは、俺たち部外者が立ち入っていい戦いではないのだろう。


「……行くよ、姉様————」

「来なさい、スカーレット」

 2人の殺し合いが、始まった。


「ッ————!」

 いきなり勢いよく飛びかかるスカーレット。思い切り振り抜かれた鎌はアクアの鎌とぶつかり合い、甲高い音を響かせる。


 体格差か、それとも肉体の有無か、膂力は姉の方があるようで、力任せにスカーレットを振り払う。

 彼女を拘束しようと伸びる蔦を鎌で刈り取り、瘴気を放って消し去る。

 しかしその一瞬の隙を突くように、大きく振りかぶった鎌を振り下ろし、スカーレットは土煙を巻き上げるように地面へと叩き落とされる。


「おいおい……スカーレット、押されてないか?」

「そりゃあねぇ、アクアはどれだけ本気でスカーレットを傷つけようとしても、魂しかない彼女を傷つけることなんてできない。対してスカーレットはアクアを傷つけることができてしまう。殺し切れなくとも、肉を裂き、鮮血を流させる事が」

「でも、スカーレットは魂を見たり触れることしかできないんじゃ————」

 彼女が見ている世界、それはきっと暗闇に閉ざされた孤独な世界なのだろう。

 炎の魔女を前にしても暑さや寒さに反応することはなく、きっとこうして戦っていても何も感じることはないのかもしれない。


「わからないからこそだよ。相手を傷つける感触がわからない、今相手の肉体がどんな状態になっているのかもわからない。彼女の力であれば問答無用であらゆる物を死に至らしめる事ができるが、それは痛みを伴わない物だ」

「痛みを伴わない……」

 あの死の瘴気に触れた事がある。だからこそわかるが、確かにあれがもたらす死の感触には痛みはない。

 まるで身体中から生気が抜けていくような、そんな感覚だ。


「なぜか彼女は痛みに強い忌避感を抱いているようでね、生前の経験からかな? だから相手に痛みを与えることも好まない」

「だから苦戦してるってことか?」

 よくよく見てみれば、確かに彼女の振るう鎌は無用な手傷を負わせないように意識してる気分があった。

 直線的に首を狙う動き、それをアクアに見抜かれているからか、容易くいなされてしまっているようだ。


「どうしたのスカーレット。あの時私と対立すると覚悟したはず、その時の決意はその程度だったの?」

「っ、そんな、こと……」

「————貴女は自分の終わりを探し求めている。そうでしょう?」

 アクアが淡々とした様子でスカーレットの心の内を指摘する。

 死ぬ事ができない存在が死を望む、それはとてもありきたりな願望だと言える。

 しかし、ありきたりであってもそれが全てだと言わんばかりに、スカーレットは動揺を見せる。


「この世界を終わらせて、そしたら自分も死を迎える事ができると、そう信じてるの?」

「————そうだよ」

「もしそれでも死ねなかったら? もし世界がなくなっても死ねなくて、永遠に1人彷徨うことになるかもしれないのよ?」

 アクアの声は次第に心配する声音へと変化していく。この世界を終わらせる。俺の目的とは反するが、スカーレットにとってはそのために世界の魔女や姉と対立することを選んだ。

 けれど、世界がなくなったからと言って魂だけの魔女が死ねるかなんて、そんなことは誰にもわからない事だろう。


「貴女をそうしてしまったのは私。だから、私には貴女を一人ぼっちにさせることなんてできない。だから……私は貴女達を止め、この世界を存続させる! ただ1人の(いもうと)の為に!」

「……姉様……っ」


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