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Q.41 恋の重力

 前略、炎の魔女との戦闘で風の魔女が体調を崩した。

 今後のためにも命の魔女を探しに行こうとした所で、闇の魔女に逆探知されてしまった。



「ふふ、ふふふ……身体だけでも良いかと思ってたけれど……やっぱり中身入りのあなたが欲しいの、ネメア」

「やー……お誘いは嬉しいけど、今はちょっと無理かな?」

「そう、なら周りの邪魔なのを今すぐ潰せば私のモノになってくれ————」

 影より這い出てきたクォ・ミルの様子はまるで俺と初めて出会った時のような狂気を孕んでいた。

 手のひらを掲げ、握りつぶすような仕草をとるクォ・ミル。その拳が握られる直前、俺たちの身体は影に沈むようにしてその場から離れるように移動していた。


「助かった、スカーレット!」

「範囲指定型で助かった。近づかなければって言いたい所だけど、向こうは引き寄せることだってできる」

「ちなみに、本気を出す前ならボクの方が強いけど、本気で戦うとボク、クォ・ミルには勝てないんだよね」

「はっ!? 最強の魔女さん!?」

「いやだって相手は引力を司ってるんだよ? 出力上げれば時間と空間にだって干渉してくるんだから、本気出す前に勝負つけなきゃ勝てないよ」

 まるで「やれやれ、困ったね」と言わんばかりに肩と眉をすくめて見せるネメア。冗談じゃない、出力勝負なんて話になったらいよいよ俺じゃ太刀打ちできないぞ?


「何か対処法は……って、おいおいあいつまさかこんな街中でブラックホール作る気じゃ————」

 俺たちを見失い、影をまるで水辺のようにチャプチャプと揺らしていたクォ・ミルだったが、スカーレットが何か細工をしているのか、影を伝った探知ができずにいたようだ。

 そのまま諦めてくれれば良いものを、あろうことかその場で手を挙げ、あの時フレイアの前でやってみせたようにブラックホールを生成しようとしていた。


「対抗策、ありますよ」

「あるのかロアナ!?」

「はい、と言っても根本的解決ではなく、その場しのぎになりますが」

「その際その場しのぎでも良いから!」

 地面が揺れ、クォ・ミルの周囲の地面が引っぺがされていき、一点に集まっていく。

 そんな状況でロアナが淡々と提案する。


「私の魔法の一つに、特定の対象を本の中に蒐集する魔法があります。端的にいえばこれは私が魔法で作り出した本という檻に閉じ込める魔法でして」

「それでクォ・ミルを無効化できるのか!?」

「一時的に。本の中から出ようとするとそれを抑えるために魔力を消費します。そのため魔女相手では持って30分が限度かと」

「本当にその場しのぎだな……」

 ロアナが手のひらを広げると、薄紫色の光が集まっていくようにして、一冊の本が生成されていく。

 その白紙の本はふわふわと浮かびながらも、どこかロアナの力を纏っているように感じられた。


「なので長時間拘束するためには私の他に、本の中で彼女を抑える役割の人が必要になります。2人がかりで1人を抑え込むという、少々非効率的な策になってはしまいますが」

「2人がかりで……ネメア、行ってこい」

「はは、冗談を」

 これから命の魔女の元へ向かう以上、スカーレットと俺は必要だろう。

 なら消去法で今動けるのは恋の魔女か絡繰の魔女……。


「ならリルルね!」

 そんな俺の考えを察してか、リルルが声を上げる。


「良いのか?」

「ちょーっとあの子とはお話ししてみたいと思ってたし、ちょうど良いって事なの!」

「話……?」

「余計なことを話してる時間はないよ、ロアナ、頼む」

「では……牽制をお願いします」

 顔を見合わせてまずはネメアが外に出る。


「あは、出てきた……このままじゃ誰を吸い込んだかわからないままネメアを殺しちゃう所だったよ」

「可愛いボクは圧縮されても可愛いと思うけど、苦しいのは嫌いだな!」

 ネメアが飛び出れば当然ネメアに執着しているクォ・ミルはそちらに視線を向ける。

 その間に俺とスカーレットはクォ・ミルの死角に移動し————


「“放て”!!」

 クォ・ミル目掛けて攻撃魔術を放つ。加減なんてせずに力一杯放った一撃だが、こうして改めてネメアの身体が宿す膨大な魔力に驚く。


「っ、後ろからなんて卑怯————」

「ちゃんとボクのこと見てないとダメじゃない、クォ・ミル?」

「あっ、ネメ————」

 一瞬気を散らしてさえしまえば、ネメアが指を鳴らす。その瞬間クォ・ミルは口を開いたままその動きを止める。


「ふぅ、このまま停止解除した瞬間に首刎ねた方が確実だけど?」

「物騒なことを言わないでくれるか?」

「冗談だよ冗談。じゃあロアナ、リルル、あとは頼んだ」

「ブレンダも置いていくけど……まぁ、あいつなら手のひらを返して暴れたりとかもしないだろうし……大丈夫かな」

 流石にずっと簀巻きなのは可哀想だと、ブレンダは手錠だけしておいてリルルの診療所に放置している。

 本気で暴れられたらまた鎮圧するのに手間がかかるが、女騎士のような人物だし、そんな見苦しい真似はしないだろう、きっと。


「では、心の準備はよろしいですか、リルル様」

「うん、大丈夫!」

「本の中では私がある程度制限を課すことができます。彼女の魔法魔術は使用不可能にしておきますが、リルル様は使えます」

「りょーかい!」

 ぐるぐると腕を回したり、ぴょんぴょんと跳ねてストレッチを行いながらクォ・ミルへ近づいていくリルル。その様子を眺めながら、ロアナは白紙の本を開き、宙に浮かんだそれは2人の方へ向けられる。


「“蒐集開始、対象————魔女クォ・ミル、並びに魔女リルル・”アルル」

 ロアナがそう唱えると同時に、白紙の本が巨大化する。まるで挟み潰すかのようにバタンと閉じてしまえば、一瞬で元のサイズに戻り、ふわふわとロアナの手元へと戻る。


「ん……やはり魔女2人は負担がすごいですね……」

「大丈夫か?」

「えぇ、リルル様がどれだけ彼女を抑えていられるかにかかっていますが」

 本を手にしたロアナは、少し苦しそうに眉をひそめた。

 魔女すら封印できる魔法なんて凄いものだと思ったが、どうも蒐集する対象によって負担が変わるタイプのようだ。


「じゃあこっちもさっさと目的を済ませよう、スカーレット」

「わかった」

 そう言ってスカーレットは再び影の中に沈んでいく。

 彼女の姉である、命の魔女アクアの居場所を探しに————



ーーーーーーーーーーーー



「ア————……あ? ここどこ……?」

「わぁ、このままずっと動かなかったら楽だったのだけれど!」

「貴女は……恋の魔女?」

「そう、恋の魔女リルル・アルルよ!」

 一面見渡す限り白の世界。本の魔女が創り出した本の中の世界に封印された2人の魔女は向き合っていた。


「私はネメアにしか用がないんだけど?」

「そんなこと言わないで? 恋愛相談から人生のお悩みまで、恋の魔女は悩める老若男女の味方だよ!」

「恋の悩み?」

 リルルの台詞に、自分の抱く執着が指摘されると感じたクォ・ミルは不快感を露わにする。

 ピクピクと耳が揺れ、鋭い目は敵対の意志を宿す。


「私に悩みなんてないよ、ネメアさえ手に入れられれば————」

「そうそれ! そんな一方的な感情の押し付け、恋の魔女として許せないの!」

「————はぁ?」

 ぷくーっと頬を膨らませながら指を立てて、注意するかの如くクォ・ミルの言葉を遮る。


「好きな相手を独り占めしたい……その気持ちはよーくわかるの、でも恋はお互いが幸せになってこそなの! 悲恋や失恋だって、幸せになるために必要なこと……歪で一方的な恋心は決して幸せになれはしないもの!」

「————うっざ、貴女にどうこう言われる筋合いはないんだけど? ……魔法も魔術も使えない……ぁー……ほんと、めんどくさい……っ!!」

 毛を逆立て、鋭い爪を立ててリルルを威嚇するクォ・ミル。

 話を聞くつもりなんて毛頭なく、さっさと邪魔者を排除しようと息巻く様子に、リルルは呆れたように首を振る。


「もう、力づくは良くないの! 気持ちを伝えるには行動することも時には大事だけれど……仕方ないわね、私がちょーっとお仕置き、してあげる!」


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