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Q.40 恋の魔女の診療所

 前略、魔女2人との戦いに決着がついた。



「っ、はぁ、ぅー……さむっ」

「呑気に凍りやがって……最悪全員凍りついてたぞ」

「……そういう割には平気そうじゃないか、指の一本くらいもげててもおかしくないのにさ」

「————えっ、あ……ほ、ほら、俺は体温上げてたからさ……」

 そういえば、と考える。速攻で凍りついたその他大勢は置いておくとして、風である程度誤魔化していたフールですら出足の末端は凍りついてしまっていたのに、俺は寒いと感じるだけで何も影響を受けていない。

 まさか……。


「フレイア……」

「それで、彼女……殺したのかな?」

「いや、お前が時間を止めて氷像になってたの見てさ、時間を止めておいたからまだ死んでない……はずだ」

「ふぅん? 殺さなかったんだ、なんで?」

 なんで、と言われたら理由なんて一つしかない。


「殺したくなんてないからだ」

 誰が好き好んで殺したりなんてするもんか。死なずに済むなら誰一人死んでなんて欲しくない。

 現代日本人がそんなすぐに割り切れると思うなってんだ。


「そっか。でもまぁガッツリ心臓貫いちゃってるねぇ」

「フーがやったノ」

「だろうね、これじゃあ命の魔女の力でもないと治せないだろうし」

「なら命の魔女に会いに行けばよろしいのでは?」

 良くも悪くも容赦のないフール、この世界の治癒魔術は回復と言っても、どちらかと言えば自然治癒の促進に近く、致命傷を治癒する事はできない。

 そういった理を外れた力は魔法の分野であり、命の魔女が得意とするところだと言う。


「でも命の魔女ってスカーレットの……」

「……関係ないよ。あれを殺せるとしたら私くらいだろうし」

「ボクなら勝てるよ?」

「ネメアは黙ってなさいよ! それより、フールちゃんは大丈夫なの?」

 恋の魔女リルルがフールを心配するように声をかける。

 あれほどの吹雪の中凍てつきながら戦っていたのだ、指先などの末端が凍傷になっていてもおかしくはない。


「ン……大丈夫……じゃ、ない……かモ」

「フール!?」

「ちょっと! 大丈夫!?」

 落ち着いて気が抜けたのか、フールの足取りがふらついていた。慌ててリルルが抱き抱えると、フールは肩で息をするように身体を揺らしていた。


「あつ……熱が出てる……」

「まぁ高熱の後の極低温に晒されたんですし、生物なら身体が壊れて当然かと」

「人形の身体でも割れちゃうんじゃ?」

「そんな事言ってないでどこか寝かせられる場所————!」



ーーーーーーーーーーーー



「まさかこんなところに恋の魔女の家があるとは……」

「家じゃなくて恋愛相談場!」

「恋愛相談場という名のカウンセリング施設だね」

「カウンセリング……えっ、やってることカウンセラーなのか?」

 フールを連れて移動する。訪れたのはこの世界に来て初めて訪れたあの街であった。

 リルルの恋愛相談場……という名のカウンセリング施設というこの場所は、なんというかゆめかわチックな、男の俺からすると大変そわそわする居心地のなんとも言えない内装だった。


「リルルが司るのは人間の感情! 問題! 感情の中で一番強いものはなんでしょう!」

「何だ急に」

「というかこのぐるぐる巻きの剣の魔女どうするんだ?」

「もう、うるさいなぁ! 正解は恋心なの!」

 わいわいがやがやと騒がしい俺たちに怒りつつ、リルルは話を続ける。


「人の感情っていうのは時間を経て風化するものだけど、原動力として一番色濃く残り続けるのは恋心だとリルルは思うの!」

「下心、あるいは性欲とも言う」

「否定はしないけど言い方に夢がないの!」

 恋心……まぁ確かに恋は盲目とも言うが。


「だからリルルは恋心で人を見てるの! 恋をしている人はとても素敵だから!」

「恋をすると女の子は綺麗になるとか何とか」

「私にはわからない感情……」

「私にもわからないから安心して」

「ボクも恋する乙女属性じゃないからわかんなーい」

「私はそもそも興味がありませんので……」

「なんだぁこいつら! リルルやっぱ向こう(キリエ)に寝返っちゃおうかな!?」

 うん、やっぱり魔女の大半は人でなしなんじゃないだろうか?

 ちょっと心配になってきた。


「俺はなんとなくわかるから落ち着いて……」

「本当!? じゃあ恋バナ聞かせて————」

「その前にちゃんと自分の仕事をした方がいいんじゃない?」

「おっとそうだった、それじゃあフールちゃん。心を落ち着かせて————」

 リルルがフールのそばに近寄ると、苦しそうに横たわるフールに手をかざす。


「ふんふん、なるほどなるほど……」

「? 何をしてるんだ?」

「君がその身体に魂を移したときにもやってた事だよ。彼女の魔法は感情や精神の状態を操作する事ができる。ああやって精神状態を落ち着かせて苦しみを取り除いたり、逆に精神を狂わせる事だってできる」

「それは……使い方次第じゃホラーになりそうだな」

 味方側陣営であって良かったと思う能力だ。精神干渉系なんて敵で出てきたら十中八九ホラー展開になる。


「よし、これでフールちゃんも熟睡できるはず! しっかり寝て体調を回復してもらわないとね!」

「ひとまず当面の目標は命の魔女を見つけ出して、メグルに命の魔女の魔法を習得させる事かな」

「スカーレット、場所はわかる?」

 致命傷を受けたフレイア、熱を出したフール。これから他にも魔女との戦闘が控えている今、回復技というのは是非とも獲得しておきたい。


「普段彼女が居るであろう場所はわかるけど、果たしてそこに居るかどうか……世界の魔女の側で待機している可能性もある」

「なるほど……ロアナ、何か策はある?」

「策、ですか……」

 相変わらず一歩離れた場所でマイペースに本を読んでいたロアナ……えっと、なんだこれ、なんかリルルっぽいシルエットが表紙に描かれているが……こいつの著書か何かか?


「夜を待って影移動でスカーレットさんが探し回るのが一番効率的かと」

「あー……」

「だよねぇ」

 実際、影さえ繋がっていれば距離を無視して一瞬で移動できるのは中々に無法な性能をしていると思う。

 俺も使えたら良いのだが、あの全身から体温が抜けていくような感覚が苦手でいまいちイメージがまとまらない。


「まぁ、私はそれで良いけど……」

「ではそれまで確実休憩といたしましょうか。私も少し関節部の調整をしたいので……」

「じゃあそう言う事で一旦解散。リルル、ここを拠点として使っても?」

「良いよ〜、今は患者さんも居ないし、ベッドも余ってるから!」

「カウンセリング施設兼精神病院……?」

 精神病院、というにはあまりにもピンクピンクしてるベッドに頭がくらくらする。

 あれで寝るのかぁ……20歳の成人男性が?あんなピンク色でハートの模様が刺繍されたベッドで?水色のふわふわとした雲の装飾が施されたベッドで?


「じゃあ、ボク達は買い物にでも行こうか、メグル」

「ん、あぁ……そうだな。人数分の食材とか必要か」

 ネメアが俺の服の裾をくいくいと引っ張る。こうしてみると、本当になんと言うかちんまいなこの魔女。


「何か?」

「いえ、なんにも」

 今はユーラフェンから任されてる身だ。仕方ない、我が師のお世話をしてあげるとしましょうか。



ーーーーーーーーーーーー



「よし、日も暮れたしそろそろ頼むよスカーレット」

「わかった。じゃあ行ってくるね、もし帰って来なかったら————っ!?」

 食事も終え、日が沈み切った頃。辺りを静寂と暗闇が染め上げていく。

 スカーレットを俺たちが見送る中からとぷんと足元から沈み始めたところで、スカーレットがいきなり飛び退くようにその場から離れる。


「どうした、スカーレット!?」

「皆、離れて! 闇の魔女が来る————」

 スカーレットの言葉の直後、全身を耐え難い“重み”が襲う。

 膝をつき、体を掌で支えるようにその強大な力に逆らおうとするが、ギシギシと身体中が悲鳴をあげている。


「居た居た……ネメア、会いにきたよ……♪」

「や、やぁ……クォ・ミル、今日も可愛いね?」


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