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Q.34 魔女の作り方

 前略、ネメアの気が狂ったらしい。

 俺を魔女にするとか何を言っているんだこいつは……。


「言葉の通りだよ? 橘巡留、彼を魔女に転生させる」

 聞き間違いじゃなかった。


「説明してほしいのだわ! 意味がわからないもの!」

「話長くなるナラ、フーは帰ってイイ?」

「ダメダメ、君たちにも関係ある話なんだから!」

「どういう事でしょうか?」

「説明する前に、スカーレット、ボクのアトリエに運んでくれる?」

「わかった」

 ネメアがそう指示すると、スカーレットは他の魔女達の意志を確認する間もなく、再び俺たちの身体は闇に沈んでいく。

 今日だけで3度もこの感覚を味わう事になるとは……。



「っ!? だ、誰……メグル、ですか?」

「やほ、愛しい我が愛弟子よ、元気だった?」

「も、もしかして————」

「そ、君の大好きなお師匠様だよ、ユーラフェン」

「師匠……っ」

 アトリエに戻ってくると、少し怯えの色が混じった声が聞こえてきた。

 暗いアトリエの中、ランタンの明かりが俺たちを照らすと、不安の色が微かに見えるユーラフェンが顔を覗かせる。

 師匠と弟子の再会、思ってたよりもユーラフェンは嬉しそうにネメアに抱きついていた。

 割と悪態をついてはいたが、大好きな師匠というのは間違っていないのだろう。


「感動の再会トカいいカラ、早く話テ」

「野暮だなぁ君は。まぁ良いや、ユーラフェン。君にも関わるから聞きなさい」

「かしこまりました。その前に————皆様、お茶をお淹れしますね」



「なるほど、そのような事が……」

「そしてここからが本題、預言には13番目の魔女の事を謳っているけれど、何を隠そうその13番目の魔女とは君のことだったのだよ! 橘巡留くん!」

「はぁ? んな事言われても今の俺は無力な一般ピーポーなんだけど? 身体強化とか、使えそうな魔術を試してはみたけど、使えてる気がしないし」

 ユーラフェンがお茶を淹れている間、試しに手に身体強化の魔術を使ってみようとした。

 当然握力自体はネメアの荒さの時よりもあるとはいえ、魔術特有の感覚というものを感じない。


「そのままだとね。だから君には魔術が使える身体に転生してもらう事になる」

「せっかく元の身体に戻ったってのに!?」

「残念だったね? まぁ安心して、全て終わったら元通り、平穏な日常に戻れるよ。協力してくれないって選択肢も選べるけど……ボク達だけじゃキリエには勝てないから、近い将来平穏な日常自体が無くなってしまうかもしれないけれど」

「クソ……っ! やっぱり性格悪いよお前!」

「ありがとう。それじゃあ具体的な方法を説明しよう、ユーラフェン、おいで」

「はい」

 選びようのない選択肢を突きつけて笑みを浮かべる。

 なんというかやはり、いい性格をしていると思う。


「この子はボクは唯一弟子として拾い上げ、今日のために育ててきた子だ」

「? それってどういう————」

「ユーラフェン、針を」

「はい————」

 ネメアがユーラフェンに指示をする。すると薄暗い部屋の中で、ユーラフェンの金色の瞳がぼんやりと光を帯びると、胸元に当てられた手のひらを開くと、金色の針が浮かび上がっていた。


「これはナニ?」

「金の針のようですが……」

「君は見たことあるんじゃないかなメグル?」

「……もしかして、お前の夢で見た……?」

「その通り」

 その金の針には見覚えがあった。一際疲れて眠りについたあの日、ネメアに会う前に見た夢の中で。

 そう……キリエが初めて夢に出てきた時に見た金の時計の針だ。


「これはボクの根源、魔女の力を得るための根源と言えるものだ」

「魔女の力の……根源? そのようなもの、私の知識には————」

「君も持ってるよ、君だけじゃなく……キリエ以外の魔女はみんな持ってるもの」

 魔女の力の根源とやらに思い当たる節がないように、本の魔女は首を傾げる。

 他の魔女達も興味深そうに針を眺めているが、ネメアの言葉にはいまいち納得ができていないようだ。


「そうだねぇ、巡留はこの中の誰かと接した時に、キリエに関する夢を見たことはないかい?」

「んー……あ、その、その時は魔女だってことは知らなかったんだけど、確か図書館で本の魔女、えっと……ロアナの落とした栞を拾った時に見た」

「じゃあその栞がそうだね」

「これが……?」

 本の町で起きたことを思い出し、話す。

 ロアナは半信半疑といった様子であの時拾った栞を取り出して見せる。


「それ、どこで手に入れたか思い出せる?」

「いえ……物心ついた時から手にしていたような記憶が……」

「だよね、いつ手に入れたかも、どうやって手に入れたかもわからない。けれどずっと側にあるもの、それが魔女の力の根源にして————キリエがこの世界に落とした思い出」

 ネメアの言葉を聞いて思い出す。俺が見た夢は一つだけではない。

 剣の魔女の屋敷で触れたアレも……おそらくは同じものなのだろう。部屋の内装に不釣り合いなアレが置かれていたのにも納得がいく。


「話を戻して、コレが魔女の力の根源ということは、コレを持ってたら魔女になれる……というわけじゃない、資質ある人間が共鳴することで魔女になる運命を歩むことになる。長い時間をかけてボクはそれを解き明かし、人工的に魔女を生み出す方法を確立した。最後のピースは君だよ、傀儡の魔女ドール」

「私、ですか?」

 ネメアがドールを指し示し、ドールは少し首を傾げて見せる。


「預言では本来、第12の魔女は彼女を造った女性が成るはずだった。けれど彼女は覚醒前に自身の魔女の証……その片目の宝石を貴女へ埋め込んだことで彼女ではなく貴女が魔女に覚醒した」

「はい、そうです」

「ボクはそれを元に、金の針を人の身体に埋め込むことで魔女を造ることを考えた。けどどうやら魂の質も重要みたいでね、器だけは用意できたけど中身が足りずにいた」

「器……それって————」

 金の針を埋め込まれた器。先程の光景を見ていれば馬鹿でもそれが誰のことを言っているのかがわかるはずだ。


「そこでボクは同じように、魔女になれる魂を用意することにしたんだ。自分の身体を使って、魔法を使わせることで魂に魔法を扱う感覚を覚えさせる……そうして、今ここには魔女になれる器と、魔女になれる魂が揃っているわけだ」

「————お前の倫理観がぶっ飛んでる計画はわかった。今更俺の魂だとか、肉体を使ってどんなことを企んでたかなんてどうだっていい。けど————ユーラフェンの気持ちを無視してるもだけはいただけない」

 魔女になりうる魂。ネメアの想定通りに俺の魂がそんなものに変化しているとしても、俺は俺だ。

 そして、魔女になりうる器————金の針を体内に宿していたユーラフェン、彼女も一人の人間だ。

 俺のことは良い、今更ネメアに俺の人権を尊重しろだなんて言っても無駄なことくらいわかってる。けれど彼女は————


「お前、ユーラフェンがドールに人形を作ってもらった事知ってるのか?」

「……」

「その人間の想いを形にするんだってよ、それで何ができたと思う?」

「さぁ」

「っ……! お前と自分自身の人形だよ!ユーラフェンはそれくらいお前の事を大切に想ってるんだぞ!? この短い異世界ライフで、ユーラフェンが何度お前の事を口に出して————」

「メグル」

 自身の弟子に対して余りにも素っ気ない扱いに思わず声を荒げてしまう。

 俺を見るネメアの瞳は冷たく、歪みのない意志を宿していた。そんな人の心を持っていないかのような反応に、俺は手を伸ばそうとしたが……ユーラフェンに名を呼ばれるとピクっと、動きを止めてしまう。


「私の事でそれだけ感情的になっていただいて、ありがとうございます。ですが……私はこの時が来る事を知っていました。我が師にお仕えする事になったその時から————」


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