Question.33 これからどうするべきか
前略、キリエの乱入によって魔女が二分された。
キリエの提示した解決策を受け入れて、この世界を存続させようとした5人の魔女。
キリエの提示した犠牲を拒絶して、別の選択を選ぼうとした5人の魔女。
「っ! ここ、は————」
「いきなり……っ、はぁ……でも助かったよ、上出来だ……スカーレット」
キリエの宣言と共に視界が闇に染まった。そして気がつけば、薄寒い感覚と共に見たことのある場所へ移動していた。
会議の会場へと運んだ影移動の魔術だろう。
「ここは……死の魔女の町?」
「うぇ、フーこの感覚嫌イ……」
「リルルも嫌い、背筋がゾワってするぅ」
「そうなんですか? 私にはわからない感覚ですね……」
振り向けば、他にも4人の魔女が移動してきたようだ。
風、本、恋に絡繰……キリエに反対した魔女達か。
「悪いね。世界の魔女のことだから宣言の直後、私たちの首を刎ねて戦争終結、なんてやりかねないと思って」
「その判断は正しいと思うよスカーレット。さて……と、初めまして? それとも今朝ぶり?」
「……俺が目の前にいるってのは、どうも妙な気分だな……」
「それもそうだ。ねぇスカーレット、戻せる?」
「ん、戻して良いの?」
「うん、ボクじゃ一手間介さないと魂の入れ替えはできないからね」
「わかった、それじゃあそこに座って————」
まさか、このタイミングで元の身体に戻ることができるとは。
想像すらしていなかった。
色々なことが起きた、世界の魔女の目的を知り、俺にも無関係じゃ無いということを知った。
……それで? 俺は元の身体に戻る、そしたら俺は魔法の使えない一般人に戻る……つまり、無力な置物になってしまうだけじゃ————
「やっぱ、まっ————」
声が出ない。何も見えない、暑さも寒さも、肌を撫でる風すら感じることのできない完全な無。
不確かで、不安で、不明。自分が自分でなくなるような感覚に包み込まれる————前に、意識が戻る。
「っ! はぁっ……はぁっ」
「ん、んー……っっ、何これ、筋肉痛? うわ、脚ぱんぱんだ」
手を見る、男の手。顔に触れる、固く、少しざらついた髭の感触。
隣を見る、不満げな表情を浮かべた褐色肌の少女……ネメアの姿がそこにあった。
「戻った……」
「念願叶った、って所だろうけど……悪いね、ボクじゃ身体ごと元の世界に戻すのは不可能なんだ」
「……それが出来たら、最初から俺の身体なんて使ってないよな」
わかっていた事だったが、俺はこの世界から帰ることができない。
空間を司るネメアであっても、別の世界と直接移動はできないという。
おそらく夢でネメアと対話したあの空間、あそこは魂だけが行き来することのできる空間なのだろう。
世界の魔女は直通、時空の魔女はフィルター越しといったところだろうか。
「さて、今更だけどボクがなぜ君を選んだか、この際話しておこうか」
「ん、あぁ……そういやそうだ。スカーレット曰く、別の人間に魂を移すと拒絶反応が起きて肉体が腐るとかなんとか」
「そう、じゃあ逆に考えよう、同じ人間の身体なら問題ないってね」
「? それってどういう————」
「なるほど、そういうこと。さっき触れてみてもしかしてと思ったけど」
ネメアの言葉に、納得したように頷くスカーレット。
とうの俺本人と他の魔女達は?を浮かべていた。
「キリエが言ってたでしょ、この世界の生物は君の世界の魂を複写したものだって。つまりボクたちの魂にはオリジナルが居る。そしてボクの魂のオリジナルは君ってこと」
「へ? で、でもお前の歳って————」
「輪廻転生とかいう概念があるでしょ? まぁ厳密には違うけれど、魂のリサイクルみたいなことをそっちの世界でもしてるって考えておけば良いよ」
「なんか投げやりだなぁ……」
「その証拠に、多少なりとボクと似た趣味趣向があったんじゃない?」
そう言われれば、身体が違うからだと思っていたが、ユーラフェンの食事が口に合ったり、俺が良いと思った景色がネメアの好きな景色だったり、確かに趣味趣向が似ているとは思う。
「まぁそれはさておき、これからどうするかを話さないと」
「そウ、フーたちを置いてけボリにしないデ」
「と言っても、結局は暴力なのだわ!! 野蛮!」
「あちらには武闘派の炎と剣、片やこちらは戦闘には向かない私、本の魔女と恋の魔女……それに世界の魔女が居ます」
「パワーバランスに関してはこっちに最強の魔女たるネメアと、死の魔女がいるんだからどっちもどっちだと思うわ!」
俺とネメアの話はさておき、これからのことについて話をする。
正直、俺が力を目の当たりにした魔女の殆どがあちら側に居る上、その底力すら見ていない。
「こちらの勝利条件はシンプル、キリエを倒せば良い」
「それが困難という話なんですけど?」
「とはいえ、実際のところ世界をどうこうすることができるのは彼女だけなんだから、他の魔女が何人いようと彼女さえ止めてしまえば良い」
「言うは易し、行うは難し……」
実際、魔女会議の最後の方でキリエが言っていたように、最初は全部一人で行うつもりだったのだから、世界の魔女陣営と言っても重要なのは世界の魔女、キリエだけなのだから、それを倒せば良いというのはシンプルな話だ。
「なら夜にでも影移動の魔術で————」
「向こうには炎の魔女が居る。その気になれば影一つできないくらいの光がそこらを包み込むよ」
「むぅ……じゃあどうやって近づくか……」
「ン、じゃあフーが倒ス」
「えっ」
意外な人物が真っ先に立候補してきた。
「時空の魔女にやらせておけば良いと思うの!」
「言い方酷くない? まぁボクフレイアには負けないけど、そもそも向こうが一人だけで来るとは限らないんだよ?」
「それはそうですが……」
最強の魔女と称されるネメアでも多数相手には部が悪いのだろうか?
しばらく沈黙が流れるように、考え込む魔女達。そんな沈黙を破るように本の魔女が手を挙げる。
「あの、この場に預言を残した張本人が居るのですから、これからの未来を視ていただければ良いのでは……?」
「預言って、俺が図書館で見つけた預言の事か? 張本人って……まさか————」
本の魔女の言葉を受けて、その場の全員がネメアの方へ視線を向ける。
「そう、ボクだ」
だろうな。
時間を司る魔女、そうだ、預言なんて言ってしまえば未来予知じゃ無いか。
ちょっと考えればわかった事を、なぜ気づかなかったのか……あぁ、胸を張るネメアの姿が腹立たしい。
「未来が視えるのか?」
「んー、そんな都合のいいものじゃないよ? 時間魔法を使ったことのある君ならわかるだろうけど、制限が色々あるのさ」
「行動次第で未来が変わる、とかか?」
「そんな感じ。そしてボクは預言の成就のためにこれまで行動してきた。だから今未来予知して、もしその未来を変えるって事になると預言通りに事が進まなくなる可能性があるから、おすすめはしないよ」
どうやらネメアは未来を視る事には反対のようだ。
預言と言えば、一つ謎が残っていた。預言を残した張本人だというのであれば、ネメアにはわかっているのだろうか?
————13番目の、魔女とやらを。
「なぁネメア。お前は知ってるのか? 13番目の……終焉をもたらす魔女ってやつ」
「当然、そのために君を選んだんだからね」
「? それってどういう————」
どう言う事だ?まるで俺がその魔女に関係があるような言い方だが。
「正直な話、ボクじゃキリエには勝てない。世界の魔女だなんて言ってるけど、彼女はボク達、魔女のオリジナルと言える存在だ。実際、彼女が重力魔法……闇の魔女の力を使ったのを見ただろう?」
「……まさか全ての魔女の力を使えるとか言わないよな?」
「その通り、キリエは全ての魔女の力を使える」
「そんなの……ずるいのだわ!」
「ただ、使える力個々のスペックは魔女本人が使うそれよりも低い。だから闇の魔女に重力魔法は効かないし、ボク相手に時空魔法を使ってもより強力な魔法で塗り替えることができる」
「けど、それを加味しても他の10人の魔女の力が使えるって事になりますよね」
「その通り、だから————」
「ん? わっ、なんだよネメアっ!?」
世界の魔女としての力と、11人の魔女の力を扱うことができるキリエ。間違いなく彼女の存在は最大の障壁となるだろう。
そんな話の最中、ネメアが俺の腕を引いて皆の中心に立つ。
「彼を最強の魔女にする!」
「「えぇ……?」」
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