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Answer.32 魔女の箱庭

 前略、魔女会議にキリエが乱入してきた。

 そして、俺の肉体を使っていたはずのネメアも現れた。



「さてと、まずはどこから話そうかな……んー、まぁこの世界の成り立ちからかな?」

 椅子に深く腰を沈めながら、腕を広げて語り始めるキリエ。


「この世界は私が創ったものというのは周知の事実だろうけど、そもそもこの世界ができる前存在していた私は何者なのか、という話からしていきましょう」

「前置きが長いわね、ぇっ!?」

「はいそこ、黙っててね。語るも涙、聞くも涙のお話なんだから」

 不満げに口を挟んだフレイアが円卓に沈む。こいつ……傍若無人に振る舞うタイプだ……!


「私の出身についてはそこの覗き魔くんが言ってたコトが正解、その子と同じ世界に私は生きていた……けれど、私はその世界に嫌われてしまった……それからなんやかんやあって、この世界を創ったってわけ」

「何やかんやって、そこが気になるところだと思うんだけど……」

「ん? 何か言った?」

「なにも……」

 クォ・ミルが小さく呟くと、圧をかけるかのようにキリエが視線を向け、クォ・ミルはビクッと身体を跳ねさせると目を逸らす。


「世界を追われた魔女は自らの箱庭で細々と過ごしていました……めでたしめでたし、とはいかなかった。最初の100年は平和だった、だけれどその子……じゃない、こっち————ややこしいね? まぁとにかく時空の魔女という、第二の魔女が生まれたことで全てが狂い始めた」

 細く長い指を俺……じゃなくて俺の身体に入ったネメアを指した後、そのまま横にずらすようにネメアの身体を指差す。


「私はただ静かに暮らしたかっただけなのに、この世界が奴らに見つかってしまったんだ」

「奴ら……?」

「天使、忌まわしき神の遣い、いや……掃除屋、んー……調停者? まぁ何でも良いよね、異物を排除するための機構ってだけだから」

 やれやれと首を振って、ため息混じりに話を続ける。


「天使がこの世界に現れるのは、この世界の存在が異物だからに他ならない。目的はただ一つ、この世界に住まう生命体の根絶」

「おやおや、それはまぁ、物騒だねぇ……」

「でしょう? 血の涙もない殺戮機械に目をつけられちゃってるんだよ、私たち」

 同意する土の魔女グライアに、およよとわざとらしく悲しんでみせるキリエ。

 確かに血も涙もない殺戮機械だというのには同意できるが……。


「魔女が生まれる度に天使達は正確にこの世界を捉え、12番目の魔女が生まれた事でもう九割方場所がバレてる。だから天使達の出現頻度が増してるってわけ」

「解決策、解決策はあるのか!?」

「ちょっと……っ! 落ち着きなさい、ブレンダ……!」

 身を乗り出して問う剣の魔女ブレンダに、重力に押し潰されそうになりながらも静止をかけるフレイア。お互い領主同士ということもあって仲がいいのだろうか。


「そう、その解決策を探して私は東奔西走世界中を旅していたというわけ。そして見つけた解決策は————世界を乗っ取ること」

「乗っ取る……?」

「そ、この世界の存在が許されないのなら、許される存在と入れ替われば良い。至極単純で、とっても簡単」

 くす、と微笑むその姿は美しく……そして、とても邪悪なものに見えた。


「その、解決策にはどんな犠牲が生じるのかしら? ネメアは貴女を追って別の世界へ行ったのでしょう? 自分の身体を見知らぬ他人に明け渡してまで……ネメアは何を考えているかわからないけれど、少なくとも無駄なことはしても無意味なことはしないと思うの」

「んー、勘がいいね恋の魔女、そう……犠牲、犠牲……いやいや! 犠牲なんて無いようなものだよ、ちょっと一つの世界が消えてなくなるだけだから」

「な————っ!?」

 にこやかな笑顔で語るキリエ、彼女は驚く魔女達をよそに話を続ける。


「そこの覗き魔くんが住んでた世界、それをテーブルの上に並べられた料理だとしよう、私たちは床に置かれた料理……私たちがやるのはテーブルクロスを引いてテーブルの上の料理を床に落とし、私たちの料理を上に乗せる……それだけの事だよ」

「落とされた料理はどうなるのでしょうか」

「この世界の未来を肩代わりしてくれることになるね。安心して、ちゃんとお掃除してくれるよ、天使がね」

「それは、あまりにも……他の、他の解決策は————」

「ない、なぜなら……この箱庭は、生まれたコトが間違いだって、そう言われているのだから」

「だ、誰に……?」

「カミサマに」

 冷たく張り付いた笑みはいつの間にか消えていて、まるで深く暗い闇の底を見つめるような瞳が俺を見据えていた。

 いや、俺じゃ無い、俺の奥……その先にあるものを。


「さて、ここで魔女諸君に選択肢を用意してあげよう。一つは私の策に乗って世界を守る。もう一つは……見知らぬ世界の誰かさんを犠牲にしたく無いって、滅びを受け入れる」

 ずるい言い方をする。自分が住んでいる世界を守りたく無い奴なんて、世界を呪っている不幸な人間くらいのものだろう。

 ましてや、見ず知らずの世界だなんて、ここにいる殆どの魔女にとっては実感のない話でしか無い。

 そんな選択肢————


「私は乗らない」

「へぇ————」

(スカーレット……?)

「な、にを、貴女、スカーレット? なぜ……」

「なぜも何も、昔から言っているはずですよ姉様。終わりはいつか訪れる、この世界が天使に滅ぼされる事が決まっていて、それを強引な方法で回避しようとしている。その世界にどれだけの命があるかは知らないけれど、彼の魂を見ていればわかる。汚れもなく、健やかな魂……初めて見た時は驚いた……と同時に、私たちの魂の歪さに気づいた」

「……」

「世界の魔女、一つ聞きたいのだけれど。なぜ私たちの魂は色褪せて歪んでいるのか、教えてくれる?」

 スカーレットの言葉にキリエはバツが悪そうに目を泳がせ、しばらく沈黙が流れた後、皆の視線がキリエに集まる。


「はぁ、それはね、向こうの世界から魂を複写して作ったものだからだよ。いくら私でも無から何かを作ることはできない、だからあっちの世界から色濃い魂を幾つか選んで、それを元に作った複製の魂……それがこの世界に生きる生物が持つ魂だよ」

「……つまり、私たちは彼ら、そして君の劣化品ってわけ」

 キリエの説明と、スカーレットの結論。その言葉に魔女達はざわめき立つ。

 魂の複写、俺には見えないが魂の見えるスカーレットから見ると違いがわかるのだろう。


「なら、私の答えは変わらない。死を司り、魂を視る者として、世界の魔女……貴女の歪んだ延命策には同意できない」

「スカーレット、貴女……!」

「まぁまぁ、良いよ? 選択肢を提示するって言ったのは私だから。その調子で他のみんなも決めちゃってよ」

 スカーレットの宣言に、魔女達は顔を見合わせたり、考え込む。しかし、時間を置く間も無くアクアが口を開いた。


「魂が歪であろうと、複製の存在であろうと、命は命。私が司り、守る命はこの世界だけのもの……この世界に数多いる無垢な命を見捨てることはできません」

「姉妹で対立することになっても?」

「……より多くの命を犠牲にする結果になっても」

 アクアの決断を皮切りに、魔女達は決断を下していく。


「おばあちゃんにとって、難しい話が多くて考えるので精一杯。けど……頑張って大地を広げて、人が暮らせる土地を創り上げてきた土の魔女としては……この世界に愛着がある」

「わたくし……は、領民を……守らなく、ては。見捨てることなんてできませんわ」

「私はどっちでも〜、でもネメアと敵対すれば、敗者のネメアを好きにできる……よね?」

「フレイアの言う通りだ。私も民を守ると剣に誓った。その違いを反故にはできない、タチバナメグル……彼に恩義はある、申し訳ないとも思う、しかし……私は私の民を護る」

 キリエ側に立つ魔女、命、土、炎、闇、剣。


「フーは正直どっちでもいいノ。死の魔女の言う通リ、生きてたラみんないつかは死ぬシ、理不尽に死ぬモノ。これがフー達の避けられない終わりナラ、別にそれでいいノ……それニ、あっちの方が色々な生き物居る見たいダシ、ここが滅ぶならあっちに行ってみたイ」

「私も時空の魔女の側に立たせていただきます。知識を司る者として、別世界なる存在を滅ぼすという選択肢を取りたくは無いというのが一つ、最後まで知恵を合わせ、他の解決策を模索した上でようやく他者から奪うという選択肢が生じるものです。最初から力付くで奪うという解決策には賛同できかねます」

「右に同じ〜、リルルも乱暴なのはきらーい! それに、単純にキリエ? 貴女嫌い! 楽しい感情が一つもないもの」

「ドールは生きる目的というものも無ければ、護るべきものというものも持ち合わせていません。私が生まれたという時点で私の母の願いは叶っています……なので、私は大を生かすという選択肢を選びましょう」

 こちら側につくのは死、風、本、恋、絡繰。

 それぞれを代表する世界の魔女と、時空の魔女を合わせて丁度半々に別れてしまった。


「ふふ、こうなっちゃったかぁ、まぁ予想はしていたけれど、意見が割れた時はどうしようか……話し合い? それは話し合う余裕があればこそ出来ること……だよね、ネメア」

「っ! げほっ、キリエ……!」

「本当は私だけで全て終わらせるつもりだったのに、ネメアが追いかけてくるから……」

 ネメアを押しつぶしていた重力が解かれ、咳き込みながら立ち上がるネメア。

 呆れたような様子のキリエは立ち上がると両手を広げ、高らかに宣言する。


「さぁ、相容れぬ者同士、争いましょう? 生きるか滅びるか、魔女同士の大戦争を始めましょう!」


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