A.30 魔女会議開催
前略、絡繰の魔女の元で預言について聞いた。
いよいよ残すは魔女会議……そういや、いつになるんだろうか。
「ふぃ、ついた……」
「お疲れ様です」
旅を終えて帰宅する。ここ最近はずっと旅と帰宅を繰り返している気がする。
これが終わって元の世界に帰れても……仕事と帰宅の繰り返しが待ってるんだよな……。
い、いやいや! あっちには美味い料理やネット環境だってあるんだ、友だって居る!
「お風呂に入ろう……」
「かしこまりました」
疲れを洗い流すためにも湯に浸かろう。今日はゆっくり寝て……そうだ、魔女会議についてはネメアに聞けばいいか。スカーレットが話を進めておいてくれているとは思うが、もし何かしらマナーとかあれば知っておきたいしな。
「いい湯じゃった……」
「お食事の用意が出来ております」
「相変わらず仕事のはやい……そうだ、食器洗いくらいは俺が————」
「私の、仕事ですので」
「あっはい」
そして相変わらず、手伝いのての字も許してくれない。ある意味これもワーカーホリックと言えるのだろうか?
年下の女の子にだけ家事をやらせてのんびりというのは、なんとも言い難い罪悪感を感じるものだが、もうこれはネメアのせいだと割り切ることにしよう。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、メグル」
ーーーーーーーーーーー
『やぁ』
「どうも」
『もう慣れたもんだねぇ、褐色美少女との一糸纏わぬ裸のお付き合いなのに』
「一糸どころか肉体すら纏ってねーじゃねーかこの状態」
『元気なようで何よりだ。経過はどんなものかな?』
「熾天使と戦った」
『おぉ、それはそれは』
時間も限られているというのは俺も理解しているので、テンポ良く会話が進んでいく。
『生き残ったということは、逃げ切れたかー……それとも倒しちゃったかな?』
「ブレンダとユーラフェンの協力もあってなんとか倒せたよ。お前の録音にもな」
『ということは空間魔法を身に付けたんだね、名実共に時空の魔女だ』
「録音にも同じこと言われたけど、まだまだだな。お前ならもっと簡単に倒せたんだろうし」
『練度が違うからね、借り物の力を使えるだけ上出来だよ』
「借り物……か」
あの熾天使すら一蹴に伏す最強の魔女。その力の一端を扱えている。けれどこれは俺自身の力でもなければ、俺の実力ですらない。
「そういえば魔女会議なんだけど、こう、開き方とかマナーとか、暗黙の了解的なやつってあったりするのか?」
『ん、開き方はその時々によるよ。例えば新しい魔女が生まれた時なら魔術学院が魔女宛に連絡を取って招集してくれるけど、個人的に開く場合はその魔女が取れる手段で集めることになる』
「……俺の場合はどうすれば?」
『空間魔法を使いこなせるなら、直接会いに行けるわけだけど……無理だね』
「だよな」
『だから別の魔女を頼ると良い、死の魔女と闇の魔女は影を伝って移動できるからおすすめだよ』
「やっぱりスカーレットに頼ることになりそうだな、だから魔女会議についてはこっちで進めておくって言っておいてくれたのか?」
『彼女は頼れるよ〜、一回死んでるからかな、何事に対しても達観した視点で物事を考えてる。きっとこれから先も君の味方でいてくれるだろう』
「何だそれ。まぁいいや、俺はこれからどうすれば良いんだ?」
『死の魔女からの連絡待ちかな。良かったじゃないか、ひさびさにゆっくりできるよ』
「まぁ、確かに最近は忙しかったけど……」
『人には休息も必要だよ。それに、そろそろ休むことすらできなくなるかもしれないし』
「? それってどういう————」
『おっと時間だ! それじゃ、魔女会議頑張ってね!』
「ちょ、待てよ! そういう気になることちらっと言い残すのやめろって————」
ーーーーーーーーーーー
「っ————はぁ、くそ……」
「おはようございますメグル。今回は我が師に何か言われたので?」
「いや、むしろ言われなかったよ」
「そうですか」
いつもの目覚め、いつものやりとり、美味しい朝食。この世界の生活にも慣れてきた気がする。
「でもさ」
「はい?」
「スカーレットから連絡を待つとして、この世界、スマホどころか電話回線すら無いと思うんだけど」
「?」
「いや、どうやって離れた相手と連絡を取るんだろって」
「連絡手段の話でしたか。一般的には手紙や使いの者を出す、直接会いに行ったり伝言などを残す……などになります」
「うーん……それって結構時間がかからないか?」
「それなりに」
「だよなぁ……」
いざ魔女会議が目前に迫る、という状況でありながら肝心のいつ、どこで、どのように開催されるかがわからない。
学院とやらにいけば良いのだろうか?しかし何の連絡もなく勝手に移動しては入れ違いになってしまう可能性もある。
こんなことならもう少しちゃんと相談してから行くべきだったな……。
「そろそろ寝るか……」
「おやすみなさい、メグル」
「ん、ユーラフェンも今日はもう寝るのか?」
「はい、メグルは我が師とは違い、身の回りのことはご自分でなさるので……」
「それは良いこと……だよな?」
何故か物足りなさそうな口調で答えるユーラフェン。単純に性根がお世話好きなのだろうか。
それはそれとして、一日を終えるために灯りを消し————
「じゃあ、おやす————みぃっ!?」
「メグル!!」
とぷんと、まるで足元が水に沈むかのように、身体が落ちていく。こちらへ手を伸ばすユーラフェンの姿を最後に、俺の視界は闇に包まれた。
身体に絡みつき、体温を奪っていくこの感覚、どこかで————
「っう! く、ぅぅ〜……!!」
急速に冷えていく身体、足元から少し温かな空気が触れたと思えば、硬いものに身体をぶつける。
「さて、全員……いや、ひとりいがいは揃ったね」
「この招集の仕方、姉としてどうかと思うわよ、スカーレット」
「これが一番手っ取り早くて確実、既に大半には近々魔女会議を開くと、私やそこの時空の魔女の身体に別の魂が入った子が伝えておいたはずだし」
ぶつけたお尻と頭をさすりながら辺りを見る。そこは部屋の中心に円卓が置かれた……会議室のような部屋であった。
円卓を囲うように配置された椅子には、見知った顔が並んでいる……つまり、ここにいるのが————世界の魔女を除いた全魔女達。
「まぁ、この子がそうなのね? ネメアとは確かに違いそうね、あの子のやらしさを感じないもの!」
「へっ? あ、あぁ……はい、タチバナメグルって言います。ネメアにこの世界に連れて来られたというか、身体を奪われた一般人です……」
「かわいそう! リルル・アルル、恋の魔女よ!」
快活でハキハキとした口調の少女、桃色カールなんていう、ド派手な髪色にキラキラ輝く黄緑色の瞳。
彼女が恋の魔女、確か感情を司っているんだったか。
「おばあちゃんはグライア・ロッドベル、土の魔女よ。みんな若くて可愛い子ばっかりだから、おばあちゃんだけ老けててちょっと恥ずかしいわ」
「これはどうも……いえいえそんな、ネメアなんて2700歳とか2600歳らしいですし、それと比べたらとてもお若いことでしょう」
オレンジ色っぽい癖っ毛の茶髪。行っても20代中盤くらいまでの若い少女や女性の姿をした魔女達の中で、唯一60〜70代くらいのお婆さんの見た目をしている。
いかんせんネメアがずば抜けているだけで、ここにいる魔女達は一番若いドールですら199年生きてることになる。見た目の年齢なんてあてにならない。
「妹……スカーレットから話は聞いているかしら? 私が命の魔女、アクア・ルインよ」
「どうも……その、妹さんには世話になりまして……」
「えぇ、スカーレットが協力したということは悪人ではないようね、よろしく」
そしてスカーレットの姉、アクア。妹とは対照的な20代中盤くらいの大人の女性といった雰囲気の人物だ。
容姿も対象的で、白髪のロングヘアに黒いメッシュ、白色のドレスに柔らかな緑色の差し色は生命力を感じさせる新緑のようだ。
「それであと1人は————ん? んんっ!?」
あと1人出会っていない魔女、本の魔女は誰だろうと視線を巡らせる。おかしい、見覚えのない人はいないと一周したところで、何か違和感を覚え、視線を戻す。
「あれっ、司書さん?」
「? はい、どこかで……お会いいたしましたか?」
「えっ、ほらあの、天使に関する本を借りた————」
俺が身を乗り出して驚いた様子を見せても、きょとんと首を傾げる女性。本の街で知り合ったはずの司書、ロアナであった。
「おや、知り合ってたんだ? けど残念だったね、彼女は人の顔を覚えるのが苦手だから、あまり期待しない方がいいよ」
「あ、あぁ……そう、なんだ」
「申し訳ありません。本の魔女、ロアナ・セファロンです」
「改めてよろしく、タチバナメグルです」
忘れられていたことはショックだったが、まぁ司書という仕事で多くの人と関わっていたり、沢山の本を読んでいたりするのなら仕方ないことかもしれない。多分。
「さて————自己紹介も終わったところで、これよりタチバナメグル、スカーレット・ルインの名において魔女会議を開催する!」
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