A.3 炎の魔女襲来!?
前略、やりすぎました。
……最強の魔女の肉体は……最強だった。
「これで、出力40%くらい……?」
「はい。……そういえば魔法が使えないのでしたら、この破壊の跡も戻せませんね」
「これを元に戻せるのか」
「なんなら一日一回は声の調子を確認するノリで山を消し飛ばしては元に戻していますし、気に入らない相手は一度殺してから時を戻してなかった事にしたりしてます」
「終わってないか、ユーラフェンの師匠」
「終わっていますが魔女は大体そんな物です」
「本当に滅んでないのが奇跡だなこの世界」
「不思議ですね。では次は————」
魔術の授業を続ける流れの中、頬に触れる風が少し暖かくなった気がした————
「見つけたわ! ネメアァァ!!」
「なっ、なんだぁっ!?」
その瞬間、まるで彗星の如く、炎を纏った少女が目の前に降り立った。
地面を抉りながら急停止した少女は、勝ち気な表情でこちらを一点に見つめていた。
「いつもいつも逃げるように棲家を変えて、そんなにこのわたくしが怖いのかしら!?」
「へっ、えっ!? ど、どちら様で!?」
「————は? どちら、様……このわたくしに、炎の魔女たるこのわたくしに対して! あろうことか貴女が名を忘れたと!?」
どうやら、咄嗟に出た俺の言葉は文字通り火に油を注いだようだ。
「お待ちを、炎の魔女」
「何よ! 弟子風情がわたくしたちの間に入らないでくださる!?」
「そうは申されましても、彼は我が師では無いのです」
「はぁ? どっからどう見てもネメアじゃない!」
烈火の如く激昂する少女はこちらへ詰め寄ろうと一歩一歩足を踏み出すが、俺との間に割って入るようにユーラフェンが立ち塞がる。
「身体は我が師のものではありますが、中身は別世界の人間です。話せば長くなりますが、我が師の魂が別世界に旅立っているとお考えください」
「……ふぅん? 本当かしら、このわたくしから逃げるための言い訳だとしたら三流も良いところだけれど」
「本当です……俺も何が何だかわかってないんですよ」
「あら! ネメアが私に敬語? あの時空の魔女が皮肉以外で敬語を使うところなんて初めて見たわ!」
「どれだけ傲岸不遜なんだネメアは……」
俺を疑いの目で睨みつけていたが、少し怯えた俺の態度を見ると目を丸くして驚く。
基本的な振る舞いがあの手紙の文章通りなら、この少女の反応も理解はできる。
「ふぅん……へぇ、確かに良く見てみると魂の熱がネメアよりも薄いような気がしなくも無いわね」
「た、魂の熱の色……?」
顔を覗き込むようにじろじろと俺……いやネメアの身体を眺める少女。
燃えるような赤髪に蒼炎のような青い瞳、炎の魔女の名の通り、燃え盛る炎のような少女という印象を受ける。
「じゃあ————今なら何してもわたくしに勝てないネメアの姿が見られるってことかしら?」
「え————」
「っ!逃げてくださ————!」
ユーラフェンを手で退けるように近づいてきた炎の魔女。別人であると納得して貰えば穏便に解決する……なんてことはなく、きっと俺はこの世界の魔女に対する理解がまだまだ浅いのだろう。
「あつ……!」
「ふふ、ふふふふ!! よくわからないのだけれど、今はネメアの姿をした凡人なのでしょう? どれだけ焼いても叫ぶことしかできない肉人形、日頃の鬱憤を晴らせるというものですわ……!」
「————マジかよ、なんで魔女ってのはこうも性格捻じ曲がってんだ!?」
ユーラフェンと俺たちを隔離するように、そして俺を逃さないようにするために炎がぐるりと囲むようにして広がる。
恍惚とした笑みを浮かべながら炎の魔女は俺を焼くことに興奮を覚えているようで、道徳心のかけらもないことを理解してしまう。
「さぁ、さぁ……どの様に痛ぶって差し上げましょうか? ネメアとしての力は使えるのかしら? あぁ、使えないのでしたらすぐに殺してしまっては勿体ないですわね、迷ってしまいますわ……とりあえず————」
「ちょ、やめ……こっちくんな……!」
「丸裸にしてから衆目に晒して、最強の名を地に貶めて差し上げますわ!」
悪意に満ち満ちた笑みを浮かべながら手を伸ばす炎の魔女。俺は逃げようと考えるが、隔絶する様に立ち上る炎は近づくことすら難しいほどの熱を放ち、肩を掴む様に握られた少女の腕から炎が立ち上り————
「————は?」
「え————」
「なっ————なんですの!?」
炎が俺の身を包んで燃え上がる……そんなイメージを抱いたが、次の瞬間燃え上がったのは彼女の……炎の魔女の————衣服だった。
『あー、てすてす。聞こえるかなぁ?』
「っ!? なんだ!?」
「この声————」
「ネメア……!!」
炎に包まれる魔女を他所に頭上から……俺が被っていた帽子から声が響いた。
『これは録音、万が一に備えて幾つか自己防衛用の魔術を施しておいたんだけど、それが作動した時にこの音声が流れる様にしたんだ』
「くっ……」
『多分ー……フレイアかな? そうでしょ? 君も懲りないねぇ、ボクに勝てるわけ無いのにさ! 帰った時に確認するのが楽しみだよ、炎の魔女フレイア・ティムヴォイドは魂のない時空の魔女にすら勝てないクソザコ魔女だってね!』
「ぐ、ぅう……! ネメアァァ……!」
「天性の煽りカスかな?」
まさか録音音声を残した上で相手を煽り散らかすとは想像だにしていなかった。
炎が収まり、ボロボロになった衣服が地面に落ちない様に身体を隠す炎の魔女は、憎しみたっぷりの涙目で俺と帽子を睨みつけていた。
『まぁボクの予想は置いといて、このボク時空の魔女ネメアは諸事情により異世界に用事があるから、当分の間肉体をその異世界の人間である彼に任せてるんだ。だから余計なことは考えずに仲良くしてやってね、あんまり酷いことしてると帰った時にまとめてお返しするよ?』
「く、うぅぅ……!! お、覚えてなさい! 次こそは私が勝ちますわ!!」
悔しそうに涙を滲ませながらそう吐き捨てると炎の魔女……フレイアと呼ばれていた少女は炎を纏って飛び去っていった。
「なんだったんだ……あれ」
「あれは炎の魔女、フレイア・ティムヴォイドと言います。12名存在する魔女の一人であり、我が師を目の敵にしては何度も勝負を挑み、完敗している方ですね」
「なんというか直情的な子だったけど、あんなのでも魔女になれるんだなぁ」
「魔女になれるかどうかは資質も大事だと我が師は語っていました。彼女には資質があった、それだけでしょう」
「そんなもんなのか」
彗星の如く降ってきて、彗星の如く去っていった烈火の少女を見ながら俺はそう呟いた。
それからいくつか簡単な魔術を教わり、俺の慌ただしい一日は終わりを迎える。
ユーラフェンが作ってくれた夕食はとても美味しく、和食よりは洋食に近い料理であったが、やはりどこか馴染む味付けであった。
「はぁ……疲れた。もう動きたくない……」
身体が違うからだろうか、それも精神的なストレスか、複合的な理由か……ともかく、とてつもない疲労感が身体を襲う。
身長もそうだが、手足が短いというだけでも普段の当たり前の行動に違和感が生じるもので、俺は今朝目覚めた場所に倒れ込む様にして眠りにつく。
ーーーーーーーーーー
『……る、めぐ……』
「なん、だ……」
意識を手放したかと思えば、遠くから声がかすかに聞こえる気がして
目を開く。微かな既視感、水底に沈む様なこの感覚は……確か、俺が目覚める前の————
『やぁ、巡留。今朝ぶり……って言っても、君は覚えてないだろうけどね』
「その、声は……ネメア!?」
聞き覚えのある声は今朝よりも鮮明に聞こえた。水面に浮かぶ様にして光る彼方からは、一つの人影が浮かび上がっていた。
こちらへ手を伸ばす褐色肌の少女、それは間違いのない、手鏡を通して目にしたネメアの姿であった————
ESN大賞7応募作品です。
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