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A.29 魔女の預言

 前略、絡繰の魔女の店でユーラフェンが人形を購入した。

 これから彼女に、本の街で目にした預言について教えてもらう。


「————では、預言についてお話しさせていただきます」

「頼む」

「第一の預言、天意により世界より追われた魔女は、初めに世界を創った」

「世界の魔女のことだな」

(やはり……世界を追われたってことは、もともと別世界の人間だったって事だよな)

「第二の預言、時を刻みし魔女は、次に空間を繋ぎ、世界を繋いだ」

「……ネメアだよな、どういう事だろう」

 確か図書館で目にした本には、熾天使と思しき天使と対峙しているイラストが描かれていた。

 もしかしてあれ、相当昔の話だったりするのか?


「第三の預言、生命が赦されぬ地で、命の魔女は死を拒絶した」

「命の魔女……」

「第四の預言、死そのものとなった魔女は、永遠に手に入れられぬ終わりを振りまく」

 命の魔女と死の魔女、スカーレットとその姉の話だ。

 ……これの意味するところは、おそらく命の魔女の力でスカーレットは死の魔女になったということだろうが……“永遠に手に入れられぬ終わり”か、どういう意味だろう。


「第五の預言、生と死の循環が始まり、天の躯より大地は広がる」

(……ん? まるでその言い方だとこの世界の大地は天使でできてるみたいな……うへぇ、桜の木の根元には亡骸が、とかいうレベルじゃないんだけど)

「第六の預言、罪人を戒める雪氷の地にて、光と熱はあらゆる清浄を溶解し、罪を逃れる」

「罪?」

 なんかところどころ不穏じゃないか? なんだ罪って。いやまぁ炎の魔女はちょっとばかし暴力的ではあったが。


「第七の預言、獣の血は歪みの証。流るる風は音を運び、残るは静寂のみ」

「これはフールか」

「第八の預言、引力、それは星の力。この世にありえざる力は闇を生み、あらゆる光を呑む」

「これはクォ・ミル……ん?」

 そういえばこの世界は十字で、海などはないという。

 惑星ではない可能性も考えたが、夜になれば星空が見えるし、太陽もある。

 ならばここは惑星なのだろうか、異世界というものがどう存在するのか、俺なんかが考えたところでわかるはずもないか。


「第九の預言。武器、それは戦う力。華のように咲き誇る鉄の花弁は、血で出来た争いの狼煙」

「ブレンダ……また、一層不穏というか物騒というか……」

「第十の預言。本、それは叡智の集積。蓄積された知識は禁忌の結晶」

「……」

「第十一の預言。感情、それは人が抱く最大の罪。自らの身体を焼く恋情は、やがて何もかもを焼き尽くす」

「感情……恋の魔女か」

「第十二の預言。それは人の業、新たな生命を創り出す神の所業。そして、未だ叶わぬ外の夢」

「? これって絡繰の魔女の事だよな? どういう意味だ?」

 これまでの預言は不穏であってもなんとなくはその魔女のことを指しているということがわかる。

 ただ、この預言に関してはさっぱりだ。


「————第十三の預言。最後の魔女は終焉を告げる。仮初の夢は泡沫に消え、現実のみが残る」

「————最後の魔女」

 何の情報も無かった13番目の魔女、最後の魔女ということは次の魔女以降は魔女という存在が生まれない、ということになるのか?

 いや、それ以上に終焉を告げるというのも不安だ。もしかして世界を終わらせる魔王的な存在だったりして。


「以上が預言の内容です。お役に立ちましたでしょうか?」

「んー、よくわからないところもあったけど、ありがとう」

「どういたしまして」

「ちなみに絡繰の魔女として、自分の預言についてどう思う?」

「私が思うに……これは私に宛てた預言ではないと思われます」

「というと?」

 自分のことではない預言、いやでも他は全て魔女に関係した預言であるはず。


「魔女とは、魔術を極めし者。例外は命の魔女の力によって死の魔女となったスカーレット様と、生まれつき魔女であった私です」

「なるほど? でも魔女ってその、受け継いだりできるのか?」

「いえ、そのような話は聞いたことがありません。私の場合は……おそらく母が絡繰の魔女に選ばれるはずだった、と」

「お母さんが?」

 ドールの母親といえば、彼女を造ったという造形師だろう。

 しかし、だとしたらなぜドールが魔女に?


「どういうことだ?」

「母は優れた造形師であると同時に、不妊の病を患っていました。自らが子を宿せないという悩みを、彼女は生きた人形を創ることで解決しようとしていました」

「なるほど……」

 子を産めない苦しみ。女性でも無ければ伴侶もいない俺には理解できない悩みなのだろう。

 その苦しみの結果、彼女が生まれているのなら、願いは叶ったのだろうか?


「私は生まれた時から母の学んだあらゆる知識が受け継がれています。人形を操る傀儡術、鍛造や彫金、彫像などの作成に関する魔術など」

「ふむ……一つ気になったんだが、その、どういう構造で動いてるんだ? 例えばー……他の人間の魂を宿してる、とか」

「黒魔術にそのような術があると記憶していますが、私は何といえば良いのでしょうか。人工の魂というべきでしょうか? 母が創り出した魂のようなもので動いています」

「人工の魂?」

「この身体は人形としては完璧ではありますが、生命ではありません。仮に人の魂を宿しても、定着することなく、いずれただの抜け殻になってしまうでしょう」

 確かスカーレットの所で聞いた話だ。魂が異なる肉体に宿っても拒絶反応が起きて肉体ごと腐っていくとか。

 無機物の身体だといずれ動かなくなるのだろうか。


「この身体に宿る魂は、母が自らの命を材料に創られたものです。そして私は母の記憶を有しているので……言ってしまえば彼女の生まれ変わりとも言えますね」

「確かに……人形に魂を移したとも言えなくはないか」

「ですが、私は彼女を母と認識しています。私は彼女に産み出された一つの命として生きているのです」

 ……預言を思い出す。新たな生命を生み出す神の所業……確かに、生きた人形というものは言ってしまえば人とは異なる新たな生命であるといえる。

 それを成した者を示しているというのであれば、確かにこれは彼女の母を指した預言と言えるのかもしれない。

 ……未だ叶わぬ外の夢、という部分は何だろう。外、というのが別世界を指しているのであれば、俺の世界の事だろうか?


「聞きたいことはこれで全部でしょうか?」

「ん、あぁ、ありがとう」

 話を終えて、ドールはカウンターの奥へ歩いて行く。

 預言の内容についても大体は把握した。知ったからと言って何か役立ちそうかと言えば……よくわからないが。


「ご来店ありがとうございました」

「次は魔女会議かな。そう遠くないうちに開くことになると思うけど」

「楽しみにしております」

「うん、それじゃあ失礼するよ」

「素敵な人形、ありがとうございました」

 別れの挨拶を終えて店を出る。これで後出会っていないのは……土、本、恋の三魔女か。


「じゃあ、帰るか」

「はい、そうですね」

 目的を達して帰路に着く。今回も長い旅だった。

 いや、たかだか一週間程度の旅なんてちょっとした旅行程度の距離だろう。

 徒歩だったし、野宿も多かったのだから体感時間が長かったというだけの話である。

 しかし、こうして考えると……この世界はとても狭いように思える。

 徒歩で端から端まで半月か、長くても一ヶ月以内には横断できる程度の距離しかないのではないか?


「謎ばっかりだ……そもそもここはどこなのか……」

「? 道には迷っていませんよ?」

「えっ、あっいや、ははは……」

 つい独り言が口に出てしまった。

 この世界について徐々に知っていけている気がするが、根本的な部分はまだ記憶にない。

 なぜ他人の記憶のようなものを夢に見るのだろうか。

 世界の魔女は何をしようとしているのだろうか。

 この謎は……いずれわかるのだろうか。

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